特許第5964182号(P5964182)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964182
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】クラスタによる加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/302 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   H01L21/302 201A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-189770(P2012-189770)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-49530(P2014-49530A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年3月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:公益社団法人 応用物理学会、刊行物名:第59回 応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 13−149、発行日:平成24年2月29日 〔刊行物等〕 研究集会名:第59回 応用物理学関係連合講演会 17p−A6−12、開催日:平成24年3月15日〜18日(発明の公開日:平成24年3月17日)
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】吉野 裕
(72)【発明者】
【氏名】小池 国彦
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 武彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 二郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬木 利夫
【審査官】 小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/021265(WO,A1)
【文献】 特開2012−061585(JP,A)
【文献】 特開平03−163825(JP,A)
【文献】 特開平05−214566(JP,A)
【文献】 吉野裕、小池国彦、妹尾武彦、松尾二郎、瀬木利夫、井上吾一、青木学聡,SiエッチングにおけるCIF3クラスターの添加ガス効果 ,第59回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,日本,公益社団法人 応用物理学会,2012年 2月29日,13-149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三フッ化塩素からなる反応性ガスと、アルゴンからなる第一の不活性ガスと、キセノンからなる第二の不活性ガスとの3種の混合ガスを、ノズルから断熱膨張させながら真空処理室内に噴出させて生成した反応性クラスタにより試料表面を加工する方法であって、
前記ノズル入口における前記混合ガスは、圧力を0.4MPa(abs)以上とし、前記反応性ガスの混合割合を3容積%以上10容積%以下とし、前記第一の不活性ガスの混合割合を40容積%以上94容積%以下とし、前記第二の不活性ガスの混合割合を3容積%以上50容積%以下としたことを特徴とするクラスタによる加工方法。
【請求項2】
前記ノズル入口における前記混合ガスは、圧力を0.6MPa(abs)以上とし、前記反応性ガスの混合割合を5容積%以上7容積%以下とし、前記第一の不活性ガスの混合割合を43容積%以上89容積%以下とし、前記第二の不活性ガスの混合割合を6容積%以上50容積%以下としたことを特徴とする請求項1に記載のクラスタによる加工方法。
【請求項3】
前記ノズル入口における前記混合ガスの圧力が、0.4MPa(abs)以上0.95MPa(abs)以下である、請求項1に記載のクラスタによる加工方法。
【請求項4】
前記ノズル入口における前記混合ガスの圧力が、0.8MPa(abs)以上0.95MPa(abs)以下である、請求項1に記載のクラスタによる加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ガスから生成した反応性クラスタにより試料表面のエッチングやクリーニングなどを行う加工方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
本出願人らは、試料のエッチングやクリーニングを行うに当たり、クラスタイオンを用いた場合の課題を解決する方法として、中性の反応性クラスタを用いる方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO/2010/021265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来の技術は、反応性ガスと、前記反応性ガスと不活性であってそれよりも低沸点の添加ガスとを用いて中性の反応性クラスタを生成することにより、反応性クラスタが試料に衝突し、試料表面と反応することにより、試料表面を異方性加工することができ、イオン化していない電気的中性のクラスタであるため、試料への電気的な損傷を与えない利点を有する。
しかしながら、この加工方法は、例えばエッチングレートなどの加工性能が低いという課題がある。
【0005】
一般的に、クラスタの加工性能を高くするには、クラスタ生成前の反応性ガスの濃度を高めたり、供給圧力を高めたりすることが考えられるが、沸点の高い反応性ガスの場合、ノズルまでの供給路内で液化分離してノズルでの断熱膨張によるクラスタの生成が妨げられるので、このような方法には限界があった。
また、大面積を処理する場合、複数本のノズルを用いることが考えられるが、ノズルの本数を増やせば、その分だけガス供給量が多くなる。そうすると、真空処理室内の真空状態を維持するために多量のガスを排気しなければならないが、排気能力の制約から限界があるし、ノズル1本当たりの加工能力が低下することにもなる。このように、加工の目的によっては、少ないガス供給量で所望の加工性能を確保することが求められる場合もある。
【0006】
本発明は、中性のクラスタによる異方性エッチングにおいて、特許文献1に記載の従来例では、中性のクラスタによる試料の加工性能が低いという課題を解決しようとするものであり、少ない流量で優れた加工性能を発揮し得る試料の加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明のクラスタによる加工方法は、三フッ化塩素からなる反応性ガスと、アルゴンからなる第一の不活性ガスと、キセノンからなる第二の不活性ガスとの3種の混合ガスを、ノズルから断熱膨張させながら真空処理室内に噴出させて生成した反応性クラスタにより試料表面を加工する方法であって、前記ノズル入口における前記混合ガスは、圧力を0.4MPa(abs)(絶対圧基準)以上とし、前記反応性ガスの混合割合を3容積%以上10容積%以下とし、前記第一の不活性ガスの混合割合を40容積%以上94容積%以下とし、前記第二の不活性ガスの混合割合を3容積%以上50容積%以下としたものである。
【0008】
請求項2に係る本発明のクラスタによる加工方法は、請求項1に係る本発明の構成に加え、前記ノズル入口における前記混合ガスについて、圧力を0.6MPa(abs)以上とし、前記反応性ガスの混合割合を5容積%以上7容積%以下とし、前記第一の不活性ガスの混合割合を43容積%以上89容積%以下とし、前記第二の不活性ガスの混合割合を6容積%以上50容積%以下としたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る本発明のクラスタによる加工方法は、ノズル入口における混合ガスの圧力及び反応性ガスの濃度を一定範囲とし、かつ、不活性ガスとしてアルゴンとキセノンの2種を用いるようにしたから、少ない流量で優れた加工性能を発揮させることができるのである。
【0010】
請求項2に係る本発明のクラスタによる加工方法は、請求項1に係る本発明の効果に加え、特に深さ方向での加工性能に優れているため、微細加工など、高いアスペクト比が要求される用途に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のクラスタによる加工方法の概略を示す概略説明図である。
図2】本発明のクラスタによる加工方法におけるキセノン混合割合と試料表面のエッチングレート(重量基準)との関係を表わした図である。
図3】本発明のクラスタによる加工方法におけるキセノン混合割合と試料表面のエッチングレート(深さ基準)との関係を表わした図である。
図4】本発明のクラスタによる加工方法における混合ガス流量と試料表面のエッチングレート(深さ基準)との関係を表わした図である。
図5】本発明のクラスタによる加工方法における混合ガス流量と試料表面のエッチングレート(重量基準)との関係を表わした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付した図面を参照して詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係るクラスタによる加工方法を図1の概略説明図を参照しながら説明する。
【0013】
図1において、1は混合ガス供給路、2はノズル、3は真空処理室、4は試料である。
混合ガス供給路1に、ガスシリンダー11が、減圧機能を有する圧力調整弁12、流量計13及び圧力計14を介して接続されている。
【0014】
ガスシリンダー11としては、反応性ガスと、第一の不活性ガスと、第二の不活性ガスとを予め定めた割合で混合した混合ガス15を所定の圧力で容器に収納して供給する場合や、反応性ガスと、第一の不活性ガスと、第二の不活性ガスとを別個の容器に収容して、予め定めた混合比率となるよう調整しながら混合ガス15を供給する場合がある。
反応性ガスは三フッ化塩素である。この三フッ化塩素は珪素との反応性が高いので、試料表面41が珪素単結晶である場合に特に有効である。
そして、反応性クラスタを生成するためには、所定の圧力が必要であるが、上記反応性ガスは沸点が高く、圧力を高くすると凝縮(液化)してノズルでの断熱膨張ができないため、反応性ガスのみから反応性クラスタを生成するための必要な圧力を得ることができなかったのである。
【0015】
そこで、反応性ガスに対して、不活性ガスを添加して混合することにより、上記反応性ガスの分圧を低下させ、反応性ガスの液化を防止しながら、反応性クラスタを生成するのに充分な一次圧力を得ることができるようにするのである。
本発明では、不活性ガスとして、アルゴンからなる第一の不活性ガスと、キセノンからなる第二の不活性ガスを用いる。
これらの第一の不活性ガス、第二の不活性ガスは、いずれも、ガスシリンダー11内及び混合ガス供給路1内で、反応性ガスと不活性なものである。従って、これらの第一の不活性ガス、第二の不活性ガスは、ガスシリンダー11内や混合ガス供給路1内で反応性ガスと反応せず、反応性クラスタの安定的な生成が可能であり、試料表面41の加工を阻害しない。
【0016】
ここで、加工処理は、反応性クラスタと試料表面との反応によるものであるから、加工処理の実質的な主体は反応性クラスタであって、不活性ガスは、上述のごとく、反応性ガスの分圧を低下させ、反応性ガスの液化を防止しながら、反応性クラスタを生成するのに充分な一次圧力を得るためのものに過ぎないとの理解に立てば、不活性ガスについて重要なのはその分圧のみであって、如何なる不活性ガスを用いるべきかは重要でないはずである。
しかし、本発明者の実験的検証によれば、アルゴンからなる第一の不活性ガスとともにキセノンからなる第二の不活性ガスを併用することにより、加工性能が向上することが分かったのである(後述する実施例も参照)。
【0017】
本発明では、混合ガス15中の反応性ガスの混合割合を3容積%以上10容積%以下とし、混合ガス15中の第一の不活性ガスの混合割合を40容積%以上94容積%以下とし、混合ガス15中の第二の不活性ガスの混合割合を3容積%以上50容積%以下としている。
反応性ガスの混合割合が3容積%未満では、反応性ガスと試料との反応が不十分となり、10容積%を超えると、反応性ガスの液化が生じるおそれがある。好ましくは、5容積%以上7容積%以下である。
第一の不活性ガスの混合割合が40容積%未満では、相対的に反応性ガス及び第二の不活性ガスの各混合割合が多くなり、また、94容積%を超えると、相対的に反応性ガス及び第二の不活性ガスの各混合割合が少なくなるので、いずれの場合も反応性ガス及び第二の不活性ガスの各混合割合を所定の範囲内に設定することが困難となる。好ましくは、43容積%以上89容積%以下である。
第二の不活性ガスの混合割合が3容積%未満では、第二の不活性ガスを添加した効果が十分に得られず、反応性ガスと試料との反応が不十分となり、50容積%を超えると、キセノンが比較的高価であるため、コスト高となり、実用性が損なわれる。好ましくは、6容積%以上50容積%以下であり、この範囲では、特に深さ方向での加工性能に優れたものとなる。
【0018】
本発明では、また、一定の加工性能を確保するために、混合ガス15のノズル入口21での圧力を0.4MPa(abs)以上としている。0.4MPa(abs)未満では、反応性クラスタの生成が困難となる。好ましくは、0.6MPa(abs)以上であり、さらに好ましくは0.8MPa(abs)以上である。混合ガス15のノズル入口21での圧力の上限としては、特に限定されないが、装置への過大な負荷や反応性ガスの液化を防止する観点から、例えば、1MPa(abs)以下とするのが好ましい。
【0019】
次に、上記混合ガス15をノズル2から断熱膨張させながら真空処理室3内に噴出する点について説明する。
まず、真空処理室3には、開閉弁31、ターボ分子ポンプ32及びドライポンプ33を介設した排気路35を接続しており、ターボ分子ポンプ32及びドライポンプ33により真空処理室3内を約10Pa(abs)の二次圧力としている。排気路35には、さらに除害部34が接続しており、排気ガスを無害化して放出するようにしている。
真空処理室3内の圧力は、圧力計36によって測定される。
【0020】
ノズル2は、ノズル入口21での一次圧力、例えば0.68MPa(abs)と真空処理室3内の二次圧力、例えば10Pa(abs)との差圧で、混合ガス15の断熱膨張により反応性クラスタ37を生成できる開口とするのである。
そして、本発明は、反応性クラスタ37の加工性能を高くするために、反応性ガスと、第一の不活性ガスと、第二の不活性ガスとの3種の混合ガス15を、ノズル出口22から断熱膨張させながら真空処理室3内に噴出させて、中性の反応性クラスタ37を生成するのである。
【0021】
このようにして生成した中性の反応性クラスタ37を真空処理室3内の試料表面41に噴射して試料表面41を高速で異方性加工するのである。
なお、42は試料4を所定位置に固定する試料台である。
【0022】
ここで、下記の実施例により、不活性ガスとして、アルゴンからなる第一の不活性ガスとキセノンからなる第二の不活性ガスを併用した場合に、加工性能が向上することを確認した。
なお、下記実施例において、エッチングレート(重量基準)は、電子天秤「ER−182A」(A&D社製)を用いて、1分間の加工処理前後における試料の重量を測定して、その差として算出した。また、エッチングレート(深さ基準)は、1分間の加工処理において最も深くエッチングされた部分の深さを表したものであり、60μm未満の場合には接触式段差計「DekTak3」(Veeco社製)を用いて測定し、60μm以上の場合には走査型電子顕微鏡「JSM−7505FS」(JEOL社製)を用いて測定した。
また、混合ガスの流量(sccm)は、流量計13で測定された質量流量の値を、混合ガス中の各ガスの容積割合及び分子量から容積流量に換算して得た値であり、1分間当たりの混合ガスの容積流量である。
【0023】
(実施例)
真空処理室3内で、反応性クラスタ37で加工される試料表面41を珪素単結晶とし、混合ガス15を三フッ化塩素(ClF3)からなる反応性ガスと、アルゴン(Ar)からなる第一の不活性ガスと、キセノン(Xe)からなる第二の不活性ガスとの3種の混合ガスとした。
【0024】
混合ガス供給路1における混合ガス15の供給圧力(一次圧力)を圧力調整弁12で制御するとともに、真空処理室3内の圧力をターボ分子ポンプ31及びドライポンプ32により約10Pa(abs)の真空とした。
ノズル出口22と試料表面41との距離を13mmとし、反応性クラスタ37を試料表面41に照射する時間を1minとした。
上記操作を、ノズル入口21での混合ガス15の一次圧力、混合ガス15の混合割合を、様々に変えて実施した。
【0025】
すなわち、ノズル入口21での混合ガス15の一次圧力を0.40MPa(abs)、0.60MPa(abs)、0.80MPa(abs)又は0.95MPa(abs)とした。また、混合ガス15の混合割合は、三フッ化塩素を6容積%とし、キセノンを0容積%、3容積%、6容積%、50容積%又は94容積%とし、残部をアルゴンとした(3者合計で100容積%)。
【0026】
混合ガスの組成が同じでノズル入口21での混合ガス15の圧力のみ代える場合には、まず、ガスシリンダー11内に所定の組成で混合ガスを調製し、ガスシリンダー11内の混合ガスの圧力を、最高実験圧力(0.95MPa(abs))よりも高くしておき、圧力調整弁12によって減圧することにより所定の圧力(0.40MPa(abs)、0.60MPa(abs)、0.80MPa(abs)又は0.95MPa(abs))に調整するようにした。
また、異なる組成の混合ガスについて実験を行う際には、別途、組成の異なる混合ガスをガスシリンダー11内に調製して実験を行った。
なお、キセノンが0容積%の場合はアルゴンが94容積%であり、キセノンが94容積%の場合はアルゴンが0容積%であって、いずれも不活性ガスを1種のみ用いるものであるから、これらは本発明の対象ではない。
【0027】
図2に、横軸にキセノンの混合割合、縦軸に試料表面41のエッチングレート(重量基準:mg/min)を表したグラフを示す。
図3に、横軸にキセノンの混合割合、縦軸に試料表面41のエッチングレート(深さ基準:μm/min)を表したグラフを示す。
図4に、横軸に混合ガスの流量、縦軸に試料表面41のエッチングレート(深さ基準:μm/min)を表したグラフを示す。
図5に、横軸に混合ガスの流量、縦軸に試料表面41のエッチングレート(重量基準:mg/min)を表したグラフを示す。
【0028】
図2及び図3によれば、キセノンを添加することにより、加工性能が向上することが分かる。ノズル入口21での混合ガスの圧力が高い方が、加工性能が高くなる傾向が見られる。
【0029】
また、図4及び図5によれば、キセノンの添加により、図2及び図3に示す如き優れた加工性能を、少ない流量で発揮させることができることが分かる。
少ない流量で優れた加工性能が得られるということは、反応効率(投入された反応性ガスのうち、試料の加工に寄与する割合)が高いものであることを示している。
そして、ノズル一本当たりの混合ガスの流量が少なくてすむので、真空処理室3内を真空状態に維持するための排気能力上の制約が軽減され、ノズル本数を増やして混合ガスの流量を増やすことができ、大面積加工などの更なる用途への応用を可能とするものであると言える。
【0030】
図2図5に示す結果についてより詳細に検討すると、圧力が0.6MPa(abs)以上であってキセノンの混合割合が6〜50容積%の場合では、特に、深さ基準での加工性能が優れていることが分かり、高いアスペクト比が要求される用途に極めて有用であるといえる。
【0031】
圧力(ノズル入口における混合ガスの圧力)が0.6MPa(abs)以上であってキセノンの混合割合が6〜50容積%の場合における深さ方向での優れた効果をより明確化するため、図3に示すグラフの基礎とした具体的数値データについて、下表に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記表1に示すとおり、0.6MPa(abs)以上の各圧力下において、キセノンの混合割合が0容積%の場合と、キセノンの混合割合が6容積%もしくは50容積%の場合とを対比すると、キセノン混合割合6〜50容積%において、エッチングレート(深さ基準)が大幅に向上していることが分かる。この効果は0.8MPa(abs)以上で特に顕著であることも分かった。
【0034】
ところで、キセノン混合割合が3容積%の場合は、深さ基準での加工性能が格別高いわけではないが、この点は必ずしも加工方法として劣っていることを意味するものではなく、広い範囲で浅く加工を行いたい場合など、むしろ好ましい場合もある。すなわち、本発明の加工方法は、アルゴンとキセノンの2種の不活性ガスを用いることによって反応性クラスタの加工性能が変化することを見出した点に技術的価値があると見ることもできるのである。
【0035】
キセノンを94容積%添加した場合には、重量基準でのエッチングレートは高いが、キセノンが高価であるため、実用上有利とはいえない。また、深さ基準でのエッチングレートについてみれば、アルゴンとキセノンとを併用した本発明の加工方法よりも性能が低いことが分かる。
【0036】
なお、本発明において、三フッ化塩素からなる反応性ガスの混合割合は、液化を起こすことなく一定の加工性能を得る観点から調整されるものである。そして、三フッ化塩素からなる反応性ガスの混合割合が6容積%である上記実施例の結果と、三フッ化塩素の沸点や試料との反応性から、経験上、3容積%以上10容積%以下の混合割合でも、液化を起こすことなく一定の加工性能を確保しつつ、アルゴンとキセノンの併用による加工性能向上の効果が得られることが推察される。
【符号の説明】
【0037】
1 混合ガス供給路
2 ノズル
3 真空処理室
4 試料
15 混合ガス
21 ノズル入口
22 ノズル出口
37 反応性クラスタ
41 試料表面
図1
図2
図3
図4
図5