(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964197
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ワイヤソー
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20160721BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20160721BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
B24B27/06 Q
H01L21/304 611W
B28D5/04 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-226101(P2012-226101)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-76523(P2014-76523A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】杉原 勉
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−044141(JP,A)
【文献】
特開平04−046759(JP,A)
【文献】
特開2009−196023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の平行な加工用ローラ間にワイヤを巻回し、加工用ローラの回転に伴ってワイヤを周回させて、加工部においてワイヤによりワークを切断するようにしたワイヤソーにおいて、
前記加工部の両側の加工用ローラをワイヤの走行方向と交差する方向に一体的に、かつ周期的に往復動させるための移動機構を設け、
前記移動機構を、圧電素子によって構成し、
前記圧電素子を、加工用ローラの軸線方向に離間した2箇所に設け、それらの圧電素子に異なる極性の電圧を交互に付与するようにしたことを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
前記移動機構を、装置フレームと加工用ローラの軸部との間に設けたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の加工用ローラ間で周回されるワイヤにより、半導体インゴット等のワークをスライス状に切断してウェーハを加工するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池に用いられるウェーハでは、太陽光のエネルギ吸収率を向上させるために、ウェーハの表面を粗状にするための化学的処理によるテクスチャ構造や、機械的処理による凹凸構造を形成することがある。このテクスチャ構造や凹凸構造の形成をワイヤソーによるウェーハの切断工程の後工程で行うと、工程数や作業量が多くなることは避けられない。
【0003】
このような問題に対処するため、例えば特許文献1に開示されるようなワイヤソーによるウェーハの製造方法が提案されている。この従来方法においては、ワイヤソーのワイヤによりワークを切断してウェーハを切り込み形成する際に、ワイヤまたはワークのいずれか一方を、ワークの厚み方向と直交する長手方向へ微小に往復移動させることにより、ウェーハの表面に微細な凹凸を形成している。これにより、ウェーハの切断工程の後工程で、ウェーハの表面にテクスチャ構造や凹凸構造を形成する必要がなくなって、製造工程や作業量の低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−44141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記特許文献1には、ワイヤまたはワークのいずれか一方を、ワークの厚み方向と直交する長手方向へ微小に往復移動させるための具体的構成が何ら開示されていない。このため、ワイヤソーにおいて表面に凹凸を有するウェーハを切り出し形成することは実際上困難である。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、表面に凹凸を有するウェーハを容易に切り出し形成することができるワイヤソーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数の平行な加工用ローラ間にワイヤを巻回し、加工用ローラの回転に伴ってワイヤを周回させて、加工部においてワイヤによりワークを切断するようにしたワイヤソーにおいて、前記加工部の両側の加工用ローラをワイヤの走行方向と交差する方向に一体的に、かつ周期的に往復動させるための移動機構を設け
、前記移動機構を、圧電素子によって構成し、前記圧電素子を、加工用ローラの軸線方向に離間した2箇所に設け、それらの圧電素子に異なる極性の電圧を交互に付与するようにしたことを特徴としている。
【0008】
従って、この発明のワイヤソーにおいては、複数の加工用ローラ間で周回されるワイヤにより、ワークが切断されてウェーハが切り出し加工される際に、移動機構により加工部の両側の加工用ローラがワイヤの走行方向と交差する方向へ一体的に、かつ周期的に往復動される。これにより、ウェーハの表面に凹凸が形成されて、表面に凹凸を有するウェーハを得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、この発明のワイヤソーによれば、表面に凹凸を有するウェーハを簡単に切り出し形成することができるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態のワイヤソーを示す概略正面図。
【
図5】第2実施形態のワイヤソーを示す部分断面図。
【
図6】ワイヤソーによりワークを切断した状態を示す斜視図。
【
図7】切断加工されたウェーハを拡大して示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下に、この発明を具体化したワイヤソーの第1実施形態を
図1〜
図4に従って説明する。
【0012】
図1〜
図3に示すように、装置フレーム11には、各一対の軸受部12,13が平行な2本の軸線上において設けられている。各軸受部12,13には、軸部アッセンブリ14が嵌合支持されている。各軸部アッセンブリ14は、軸受部12,13に嵌合固定された軸支筒15と、その軸支筒15内に複数のボールベアリングよるなる軸受16,17を介して回転可能に支持された軸部としてのスピンドル18,19と、軸支筒15の内端面を覆う端板20とより構成されている。軸受16,17は、スピンドル18,19の両端部と対応する位置に複数個ずつに分けて配置されている。各スピンドル18,19の内端部には、台形状の係合凸部181,191が形成されている。一方のスピンドル18の内端部の中心には、ネジ孔182が形成されている。他方のスピンドル19の中心には、ネジ挿通孔192が形成されている。
【0013】
図1〜
図3に示すように、前記両軸受部12,13における軸部アッセンブリ14のスピンドル18,19間には、それぞれ加工用ローラ21がその両端面に形成した係合凹部211をスピンドル18,19の係合凸部181,191に係合させた状態で、スピンドル18,19と一体回転可能に挟着支持されている。一方のスピンドル18のネジ孔182には、他方のスピンドル19のネジ挿通孔192から加工用ローラ21の中心を通してネジ棒22が螺合されている。ネジ棒22の基端外周のネジ部221には、ナット23が螺合されている。そして、このナット23の締め付けにより、加工用ローラ21が両スピンドル18,19間に挟着固定されている。
【0014】
各加工用ローラ21の外周面には、複数の環状溝212が相互間隔をおいて形成されている。両加工用ローラ21の環状溝212間には、1本のワイヤ24が架設されるように多数回巻回されている。このワイヤ24の両端部は図示しない巻取り側のリールあるいは繰り出し側のリールに巻き取られている。そして、加工用ローラ21が図示しないモータによって回転されることにより、ワイヤ24が加工用ローラ21間を周回されるように走行される。
【0015】
図1及び
図2に示すように、前記両加工用ローラ21間における加工部25の上方位置には、半導体インゴット等のワーク41が支持台26に支持した状態で、図示しない昇降機構により昇降可能に配置されている。そして、加工用ローラ21の回転に伴ってワイヤ24が周回走行されながら、ワーク41が
図1に実線で示す上方位置から鎖線で示す下方位置に下降されて、加工部25においてワイヤ24によりワーク41がスライス状に切断加工される。これにより、
図6及び
図7に示すように、ウェーハ42が切り出し形成される。
【0016】
図3及び
図4に示すように、前記加工部25の両側に位置する一対の加工用ローラ21の各軸受部12,13内において、装置フレーム11の軸受16,17側と加工用ローラ21の軸部としてのスピンドル18,19側との間には、加工用ローラ21をワイヤ24の走行方向と交差する方向に一体的に、かつ周期的に往復動させるための移動機構27が設けられている。
【0017】
この移動機構27は、加工用ローラ21の軸線方向に離間する2箇所に配置されたリング状をなす一対の円環状の圧電素子28,29によって構成されている。そして、これらの圧電素子28,29に対して、図示しない駆動回路から異なる極性の電圧が交互に付与される。
【0018】
次に、前記のように構成されたワイヤソーの作用を説明する。
このワイヤソーの運転時には、一対の加工用ローラ21が図示しないモータにより回転されて、ワイヤ24が加工用ローラ21間で周回走行される。それとともに、ワーク41が図示しない昇降機構により加工部25のワイヤ24に向かって下降される。これにより、ワーク41がワイヤ24でスライス状に切断加工されて、ウェーハ42が切り出し形成される。
【0019】
このとき、両加工用ローラ21の各軸受部12,13において、移動機構27の両圧電素子28,29に対して図示しない駆動回路から異なる極性の電圧が交互に付与されて、両圧電素子28,29が交互に膨張及び収縮される。すなわち、
図3において、軸受部12,13の右側の圧電素子28にプラスまたはマイナスの極性の電圧が付与されたときには、左側の圧電素子29には逆の特性の電圧が付与される。そして、この電圧の付与が所定周期で交互に入れ換えられる。これにより、
図2及び
図3に矢印で示すように、軸受16を介してスピンドル18,19に軸線方向への往復移動力が付与されて、一対の加工用ローラ21が回転しながら、すなわちワイヤ24が走行しながら、ワイヤ24がその走行方向と交差する方向に一体的に、かつ周期的に微小ストローク(5〜20μm程度)で往復動される。その結果、
図6及び
図7に示すように、ワーク41から切り出されるウェーハ42の表面に微細な凹凸421が形成される。なお、凹凸421の高低差を大きくするために、加工用ローラ21の往復動ストロークを大きくする場合は、圧電素子29として積層型を用いればよい。
【0020】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) このワイヤソーにおいては、加工用ローラ21をワイヤ24の走行方向と交差する方向に一体的に、かつ周期的に往復動させるための移動機構27が設けられている。
【0021】
このため、このワイヤソーにおいては、複数の加工用ローラ21間で周回されるワイヤ24により、ワーク41が切断されてウェーハ42が切り出し加工される際に、移動機構27により加工部25の両側の加工用ローラ21がワイヤ24の走行方向と交差する方向へ一体的に、かつ周期的に往復動される。これにより、ウェーハ42の表面に凹凸421が形成されて、表面に凹凸421を有するウェーハ42を得ることができる。
【0022】
(2) このワイヤソーにおいては、前記移動機構27が、装置フレーム11と加工用ローラ21の軸部としてのスピンドル18,19との間に設けられている。このため、移動機構27を装置フレーム11内に嵩張ることなく組み込むことができて、構造を簡略化することができる。
【0023】
(3) このワイヤソーにおいては、前記移動機構27が、圧電素子28,29によって構成されている。このため、移動機構27を簡単な簡単で小型化することができるとともに、圧電素子28,29の収縮作用により、加工用ローラ21を微小に往復動させることができる。しかも、移動機構27には可動部分が存在しないため、故障のおそれはほとんどない。
【0024】
(4) このワイヤソーにおいては、前記圧電素子28,29が、加工用ローラ21の軸線方向に離間した2箇所に設けられている。このため、加工用ローラ21を強いトルクで、しかも安定して往復動させることができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、この発明を具体化したワイヤソーの第2実施形態を前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0026】
この第2実施形態では、
図5に示すように、一対の加工用ローラ21の一端部を支持する装置フレーム11の一方の軸受部12において、軸受部12の端面と軸部アッセンブリ14の端板20との間に、移動機構27を構成する1つの円環状の圧電素子31が挟着配置されている。そして、ワーク41の切断加工時には、圧電素子31に対して異なる極性の電圧が周期的に繰返し付与される。
【0027】
よって、ワイヤソーの運転時には、移動機構27を構成する圧電素子31が繰返し膨張及び収縮されて、一対の加工用ローラ21がワイヤ24の走行方向と交差する方向に一体的に、かつ周期的に微小ストロークで往復動される。これにより、前記第1実施形態の場合と同様に、ワーク41から切り出されるウェーハ42の表面に微細な凹凸421が形成される。
【0028】
従って、この第2実施形態によれば、前記第1実施形態における(1)〜(3)に記載の効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(5) この実施形態のワイヤソーにおいては、移動機構27が1つの圧電素子31により構成されているため、移動機構27の構造を一層簡略化することができる。
【0029】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 本発明を加工用ローラ21が3本以上のワイヤソーにおいて具体化すること。
【0030】
・ 前記移動機構27を構成する圧電素子28,29,31を、各実施形態の構成とは異なった箇所に配置すること。例えば、軸支筒15の外側の軸受17の両側に設けること。
【0031】
・ 前記移動機構27の圧電素子を各軸受部12,13にひとつずつ設けること。
・ 前記移動機構27を圧電素子以外のもの、例えば電気駆動のバイブレータを用いること。
【符号の説明】
【0032】
11…装置フレーム、12,13…軸受部、14…軸部アッセンブリ、15…軸支筒、16,17…軸受、18,19…軸部としてのスピンドル、20…端板、21…加工用ローラ、24…ワイヤ、25…加工部、27…移動機構、28,29,31…圧電素子、41…ワーク、42…ウェーハ、421…凹凸。