【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1に係る脱硝装置を備えたボイラ装置の概略図である。
図3は、実施例1に係る脱硝装置のアンモニア注入装置の概略構成例を示す系統図である。
図4は、脱硝装置内部における濃度分布測定領域を示す説明図である。
図5は、脱硝装置内部の濃度測定領域の分割領域を示す説明図である。
図1に示すように、実施例1に係る排ガス脱硝システムを備えたボイラ装置100は、ボイラ101からの燃焼排ガス(以下「排ガス」という)102中に還元剤(例えばアンモニア:NH
3)を供給する還元剤供給手段であるアンモニア注入装置104と、還元剤が含まれた排ガス102中のNOxを脱硝する脱硝触媒106を備えた脱硝装置105と、前記脱硝装置105の入口側と出口側とに各々設けられ、前記脱硝装置105のガスの流れに直交する区画された面領域における排ガス中のNOx濃度分布を計測する複数のプローブ手段を有し、レーザ計測手段により測定するNOx濃度分布測定装置110と、前記NOx濃度分布測定装置の計測結果より、NOx濃度分布と脱硝率とを求め、求めたNOx濃度分布と脱硝率より、区画された面領域に対応する脱硝触媒が劣化しているか否かを診断する診断手段30とを具備するものである。
ここで、レーザ計測手段は単分子計測法を用いる場合には、窒素酸化物(NOx)の内、NO(一酸化窒素)、NO
2(二酸化窒素)のいずれかを計測して、判断している。
以下、本実施例では、NOx濃度分布測定装置110を用いてNO(一酸化窒素)を計測して脱硝触媒の劣化度合いを診断するようにしているが、NO
2(二酸化窒素)を計測して、またはNO(一酸化窒素)、NO
2(二酸化窒素)の両方を計測して判断するようにしてもよい。
図1中、符号107は空気予熱器、108は煙突を図示する。
【0024】
脱硝装置105は、煙道103の直管部に設置されてアンモニアを注入するアンモニア注入装置104と、注入したアンモニアを燃焼排ガスと混合させる混合器(不図示)と、窒素酸化物とアンモニアとを反応させた後に水と窒素とに分解する脱硝触媒106と、アンモニア注入量等の制御を行う開度設定部109と、ガス流路に仮想的に設けられた濃度測定領域における脱硝装置の入口側と出口側との前後のNO濃度分布を測定するNOx濃度分布測定装置110、110を備えている。
【0025】
アンモニア注入装置104は、例えば
図3に示すように、アンモニア供給源に接続された流路配管のアンモニア主系統22に総流量制御弁23を備えている。このアンモニア主系統22は、総流量制御弁23の下流において、ヘッダ24から分岐させた複数本(図示の例では6本)のアンモニア供給系統26を備えている。
【0026】
また、
図3に示すように、アンモニア供給系統26は、各々が流量制御元弁25及び複数個(図示の例では3個)の注入ノズル27を備えており、排ガスを流す流路である煙道103の内部に注入ノズル27が格子状の配置となるように設置されている。注入ノズル27は、流路配管のアンモニア主系統22、ヘッダ24及びアンモニア供給系統26を通ってアンモニア供給源から供給されたアンモニアを煙道103の内部に液滴又はガスの状態で流出させ、燃焼排ガス中に還元剤としてのアンモニアを注入するものである。なお、液滴の状態で注入されたアンモニアは、高温の燃焼排ガスから吸熱してガス化する。
【0027】
こうして煙道103の内部に注入されたアンモニアのガスは、混合器を通過することにより燃焼排ガスと撹拌混合される。この結果、アンモニアは窒素酸化物と反応して脱硝装置105内の脱硝触媒106を通過するので、水と窒素とに分解されることで窒素酸化物が燃焼排ガス中から除去される。
【0028】
開度設定部109には、NOx濃度分布測定装置110で測定した一酸化窒素(NO)濃度の測定値が制御装置20を介して入力される。このようなNO濃度の入力を受けた開度設定部109は、NO濃度の平均値に基づいて総流量制御弁23の開度の設定(開度制御)を行うとともに、複数個所のNO濃度に基づいて各流量制御元弁25の開度の設定(開度制御)を行う。すなわち、開度設定部109は、総流量制御弁23及びNO濃度分布に基づく流量制御元弁25の開度制御信号を出力する。
【0029】
この場合、開度設定部109による流量制御元弁25の開度制御は、予め定めたアンモニア濃度と流量制御元弁25毎の開度との相関関係を定めた制御マップに基づいて行われる。すなわち、脱硝装置105は、ボイラ101毎に諸条件(煙道103の流路系統や流路断面積、燃料の種類等)が異なるため、事前に相関関係のデータを実験等により入手して制作した制御マップを開度設定部109に記憶しておく。なお、この制御マップでは、煙道103内のNO濃度を同一流路断面内で測定した複数位置のNO濃度に対して、複数系統のアンモニア供給系統26毎に異なる流量制御元弁25の開度を個別に設定するものである。
【0030】
NOx濃度分布測定装置110は、上述したように、脱硝触媒106の入口側と出口側とにおける煙道の流路断面内に仮想的に設定した濃度測定領域のNO濃度分布を作成し、このNOx濃度分布を開度設定部109に出力する。
この際、脱硝装置105の入口側と出口側とでNO濃度を計測しているので、脱硝率を同時に求めることができる。
【0031】
このような脱硝装置105によれば、NOx濃度分布測定装置110によって、煙道における脱硝触媒106の入口側と出口側におけるNO濃度分布が検出され、この検出結果が開度設定部109に出力される。開度設定部109では、窒素酸化物濃度の平均値に基づいて総流量制御弁23の開度制御が行われ、かつ、NOx濃度分布測定装置110によって得られたNO濃度分布に基づいて流量制御元弁25の開度制御が行われる。これにより、脱硝装置105の運転を継続しながら、時定数の短いNO濃度の測定値に応じ、複数のアンモニア供給系統26毎に分配されるアンモニア注入量を自動的に調整することができる。
【0032】
このとき、流量制御元弁25の開度制御は、予め定めたアンモニア濃度と流量制御元弁25毎の開度とのマップに基づいて行われるので、窒素酸化物濃度により総供給量が規定されたアンモニアは、流量制御元弁25開度に応じてアンモニア供給系統26に対するアンモニア分配量が調整される。
【0033】
NO濃度の検出値が高いことは、すなわち脱硝触媒106の触媒性能が劣化したことを意味するので、NOx濃度分布測定装置110によって測定されたNO濃度分布から、煙道の流路断面位置に対応した脱硝触媒106の劣化状況を把握できる。
【0034】
このように、NO濃度分布が脱硝触媒105の性能劣化と関連しているので、NO濃度分布に基づいてアンモニア注入装置104によるアンモニア注入量の分布制御を実施すれば、脱硝装置105の後流側に余剰に排出されるリークアンモニアの分布をコントロールすることができる。また、リークアンモニアは、空気予熱器107を閉塞させる原因でもあるから、NO濃度検出に基づいてアンモニア注入装置104によるアンモニア注入量の分布制御を実施すれば、空気予熱器107の閉塞頻度低減に寄与することも可能になる。
【0035】
そして、このアンモニア注入装置104の注入によっても、脱硝率が所望のように改善されない場合には、脱硝触媒106が劣化していると診断手段30で診断することができる。
【0036】
この際、脱硝装置のガス流れに直交する区画された面領域における排ガス中のNO濃度分布を計測するので、区画された面領域に対応する脱硝触媒が劣化しているか否かの診断を確実に行うことができる。
【0037】
この排ガス脱硝装置の触媒診断方法の手順の一例について説明する。
図18は、触媒診断方法の運用手順を示す図である。
【0038】
先ず、脱硝装置105の入口側と出口側とで、NOx濃度分布測定装置110により、NOの濃度分布を計測する(ステップS101)。
【0039】
このNO濃度分布より、各区分の脱硝率を求める(ステップS102)。
【0040】
脱硝装置の各区分において、脱硝率が基準を全て満たしているかを判断し、脱硝触媒が適正か否かを判断する(ステップS103)。
【0041】
この判断において、脱硝率が基準を全て満たしている場合(Yes)には、脱硝触媒は適正であると判断し、アンモニア注入量の制御を行わず、同一条件で、脱硝を継続する(ステップS104)。
【0042】
次に、脱硝率が基準を全て満たしていない場合(No)には、脱硝が不適正であると判断し、アンモニア注入量の制御を行う(ステップS105)。
【0043】
アンモニア注入後、再度、脱硝装置105の入口側と出口側とで、NOx濃度分布測定装置110により、NOの濃度分布を計測する(ステップS106)。
【0044】
このNO濃度分布より、各区分の脱硝率を求める(ステップS107)。
脱硝装置の各区分において、脱硝率が基準を全て満たしているかを判断し、脱硝触媒が適正か否かを判断する(ステップS108)。
【0045】
この判断において、脱硝率が基準を全て満たしている場合(Yes)には、脱硝触媒は適正であると判断し、アンモニア注入量の制御を行わず、同一条件で、脱硝を継続する(ステップS104)。
【0046】
この判断において、アンモニアを注入しても、脱硝率が基準を超えた場合(No)には、脱硝触媒は劣化していると判断し、劣化している脱硝触媒であることを通報(表示装置に警告)する(ステップS109)。
【0047】
その後、結果を出力し(ステップS110)、終了する。
【0048】
脱硝を継続した際には、所定の待ち時間の経過(例えば1〜2時間後)後(ステップS111)、スタートに戻り、NO濃度分布を計測し、再度診断を開始する。
【0049】
この診断の結果、劣化した脱硝触媒の区分が特定された場合には、この区分にアンモニアの供給が行われないようにその注入量を制御することもできる。
【0050】
このように、脱硝触媒106が複数のユニットから構成される場合、このユニットに対応する区画した領域でのNO濃度分布を計測することで、どのユニットが劣化しているかを事前に判断できる。
よって、従来では、定期点検の際に、触媒ユニットの全てを交換していたが、本発明によれば、全てのユニットの交換することとならず、触媒交換の手間及びコストの低減を図ることができる。
すなわち、劣化していない触媒ユニットにおいては、次の定期点検まで延長して触媒を使用することができ。触媒交換のランニングコストの大幅な低減を図ることができる。
また、劣化した区画に対応する還元剤供給手段からの還元剤供給量を調節する際、アンモニアの供給と共に、又はアンモニアの供給とは別に溶剤(水溶液)を噴霧し、劣化した区画に対応する脱硝触媒の再生を行うことができる。
【0051】
本実施形態に係る脱硝装置105によれば、脱硝装置105の運転を継続しながら、時定数の短いNO濃度の測定値に応じて、複数の還元剤供給系統毎に分配される還元剤注入量を自動的に調整することが可能になる。これにより、還元剤注入の分配最適化による脱硝触媒106の寿命延長や脱硝触媒106の更新の効率化を達成することができる。
また、表示部31を備えた触媒診断手段30により、脱硝触媒の劣化の度合いを判断することができるので、脱硝触媒106の更新に伴うコストの低減やアンモニア消費量の最適化を実現できる。
【0052】
次に、NOx濃度分布測定装置110を用いた濃度分布の計測について詳細に説明する。
【0053】
図4は、本実施例におけるNO濃度分布測定領域について説明するための図であり、
図4に示すように、計測対象の機器である脱硝装置105の煙道の内部空間には測定対象を含む排ガス102が流通している。なお、脱硝触媒106は省略している。
この脱硝装置105の内部空間には、濃度測定領域Sが仮想的に設定されている。濃度測定領域Sは内部空間内に任意に設定される領域である。本実施例では、
図5に示すように、脱硝装置105の煙道の壁面の面内方向に対して平行方向に5列に分割され、第1壁部103aから第2壁部103bにわたって3行に分割される場合、濃度測定領域Sには、仮想的に15個の区画された分割領域が形成される。この区画された分割領域ごとに、測定対象の平均濃度を測定することで、濃度測定領域Sにおける測定対象の濃度分布を得ることができる。
【0054】
図6は、脱硝装置に設置するNOx濃度分布測定装置の全体構成を示す概略図である。
図6に示すように、NOx濃度分布測定装置110Aは、区画された分割領域を計測する複数の送光筒112A(112B、112C)を有するプローブ手段が設けられている。
【0055】
また、
図6に示すように、前記複数のプローブ手段の送光筒112A(112B、112C)の一端側の各々に、計測場の外部からレーザ光を出射させるレーザ送光器11と、他端側の各々に計測場の外部で計測領域を通過したレーザ光を受光し、前記レーザ光の光強度を検出するレーザ受光器12とを設けている。
【0056】
図6に示すように、本実施例では、
図5に示した15区画に対応するように、3種類の異なる計測領域Lを有する送光筒112A、112B、112Cからなるプローブ手段を用意している。そして、送光筒112A〜112Cのプローブ手段を1セットとし、これが列方向に5セット(I〜V)配置されている。
【0057】
図7は、この基本の1セットを構成するプローブ手段の斜視図である。
図7に示すように、基本の1セットを構成する3種類の異なる計測領域Lを形成するプローブ手段は、レーザ光を通過する中空の送光筒112A(112B、112C)と、該送光筒112A(112B、112C)の一部が所定距離112a、112bの間区切られ、計測場に晒される計測領域Lを有している。
この区切られた計測領域Lに排ガス102が通過することとなるので、排ガス中のNOを計測することができる。
この計測領域Lは、1mの間途切れており、レーザ光路長を1mとしている。
【0058】
このように、NO濃度を測定する所定の分割領域である計測領域Lには、送光筒112の一部が所定距離112a、112bの間にわたって区切れている。したがって、レーザ経路上では、送光筒11の切れている計測領域Lにのみ排ガス102が存在することになり、該計測領域Lにおける排ガス102中のNOの濃度をレーザ光の吸収により測定できる。
【0059】
本実施例では、
図6に示すように、送光筒112Aは、第1列I、第2列II、第3列III、第4列IV、第5列Vの受光器12側の分割領域(P
1、P
4、P
7、P
10、P
13)に対応するように、所定距離112a、112b間区切られた計測場に晒される計測領域Lが設けられている。
また、送光筒112Bは、第1列I、第2列II、第3列III、第4列IV、第5列Vの分割領域(P
2、P
5、P
8、P
11、P
14)に対応するように、所定距離112a、112bの間区切られた計測場に晒される計測領域Lが設けられている。
また、送光筒112Cは、第1列I、第2列II、第3列III、第4列IV、第5列Vの分割領域(P
3、P
6、P
9、P
12、P
15)に対応するように、所定距離112a、112bの間区切られた計測場に晒される計測領域Lが設けられている。
なお、
図6では、計測領域Lの図示は省略している。
【0060】
よって、一つの分割領域のみの濃度を測定するため、濃度を測定しない分割領域のレーザ経路には中空の送光筒112A〜112Cの筒部分が設置されることとなる。
【0061】
図8及び
図9は、レーザビーム窓15と送光筒112A(112B、112C)を概略的に示した図である。レーザビーム窓15は、
図7及び8に示すように、中空部材であり、フランジ16により脱硝装置105の外壁103a、103b面にそれぞれ固定されている。レーザビーム窓15の内部には、内部と外部との間のガスの出入りを遮断するシール用光学ガラス17が設けられる。シール用光学ガラス17の受光面は、レーザ光の反射を防止するため、レーザ光に対して垂直ではなく斜めに形成されてもよい。
【0062】
レーザビーム窓15のシール用光学ガラス17の両面側には、それぞれ給気口18が設けられる。給気口18からシールエア19が吹き出すことによって、シール用光学ガラス17への物質の付着を防止できる。なお、シールエア19は、シール用光学ガラス17に対して両面側ではなく、濃度測定領域S側のみに吹き出されるとしてもよい。
【0063】
また、送光筒112A〜112C内に供給されるシールエア19が充満されることで、開口された計測領域Lからの排ガス102の流入(逆流)を防止している。
【0064】
送光筒112A(112B、112C)を内壁面に設置する場合は、
図8及び
図9に示すように、例えばフランジ16の端部に送光筒112A(112B、112C)の端部が接続される。送光筒112A(112B、112C)の径は、レーザビーム窓15の径よりも大きく、レーザビーム窓15に供給されたシールエア19は、送光筒の内部に供給される。
【0065】
なお、濃度測定領域Sにおける分割領域の形成方法は、上述した5列×3行の15個に限定されるものではない。列数や行数、分割領域の数は、他の数でもよい。濃度測定領域SがM列×N行でP個の分割領域が形成される場合、P本のプローブ手段のレーザ経路が設定される。
【0066】
次に、本実施形態に係る濃度分布測定の原理について、図を参照して説明する。ここで、
図15は、吸収分光計測の概念図である。
図16は、吸収分光計測の吸収チャート図である。
レーザ光の光強度と測定対象の濃度との関係を示す関係式として、ランベルト・ベール(Lambert−Beer)の法則が知られている。
【0067】
ランベルト・ベールの法則は、
図15に示すように、送光点と受光点との間の、レーザ経路の距離である計測領域をLとし、レーザ光の照射強度をI
0、レーザ光の受光強度をI(L)、距離L中に存在する測定対象(NO)の濃度をC
0とした場合、以下の(1)式の関係が成立するというものである。
I(L)=I
0exp(−kC
0L) ……(1)
ここで、kは測定対象の吸光度に応じて設定される比例係数である。
【0068】
測定対象の濃度を測定する分割領域の濃度平均値をC
1、分割領域におけるレーザ経路の距離(送光筒の区切れた場所である計測領域L)をL
1とすると、上記(1)式は、以下の(2)式のように表すことができる。
I(L)=I
0exp(−kC
1L
1) ……(2)
【0069】
予め設定されたレーザ経路ごとにレーザ光を照射する際、分割領域におけるレーザ経路の距離(送光筒の区切れた場所である計測領域)L
1、レーザ光の照射強度I
0及びレーザ光の受光強度I(L)は、既知であるから、上記(2)式によって、未知数である分割領域の濃度平均値C
1を算出できる。
【0070】
そして、上記構成を備えるNOx濃度分布測定装置110においては、以下のような手順により、濃度測定領域SのNOの濃度分布が取得される。
【0071】
また、ボイラ101からの排ガス102には、煤塵が含まれているので、計測領域Lであるレーザ光の光路長さを長くすると、煤塵の影響により光透過率が減衰することとなる。
図17は、排ガス中の煤塵濃度とレーザ光透過率との関係を示す図である。
図17では、波長が1.5μmの場合、煤塵濃度が6g/Nm
3程度の石炭灰中に2mの光路長で計測が可能であることを確認している。
よって、煤塵濃度がそれ以上の場合には、1.5m、より好適には1m前後の光路長で計測することが良好である。
【0072】
ここで、排ガス中のNOを計測するには量子カスケードレーザ(半導体素子:InGaAs/InAlAsを例示することができる。波長:5〜6μm、出力:1mW)を用いている。
【0073】
本実施例では、
図6に示すように、量子カスケードレーザを制御するための制御装置20が設置されている。この制御装置は、例えば、コンピュータであり、CPU、CPUが実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)、通信ネットワークに接続するための通信インターフェース、及び外部記憶装置が装着されるアクセス部などを備えている。これら各部は、バスを介して接続されている。更に、制御装置20は、キーボードやマウス等からなる入力部及びデータを表示する液晶表示装置等からなる表示部31などと接続されていてもよい。
【0074】
上記CPUが実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROMに限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。なお、本実施形態では、制御装置を一つのコンピュータによって実現する構成としているが、複数のコンピュータによって実現してもよい。
【0075】
まず、測定を行うレーザ経路に対応するように、制御装置20によって量子カスケードレーザの送光器11が起動され、更に、レーザ光の出力が安定した後に、レーザ経路における測定が行われる。
【0076】
このレーザ経路における測定が終了した後、次のレーザ経路における測定を開始する。このようにして、レーザ経路ごとの測定を順次行う。その後、送光器11からレーザ光が照射され、レーザ光が所定のレーザ経路を通過することで測定対象により吸光されたレーザ光が受光器12によって受光される。
【0077】
受光器12は、受光した光によって光強度を検出する。レーザ光の検出値は、制御装置20に出力される。このとき、制御装置20は、受光器12による検出値とその検出値に対応するレーザ経路の識別情報(P
1〜P
15)とを関連付けることができる。
【0078】
制御装置20に入力された検出値とレーザ経路の情報は、互いに関連付けられて制御装置20にて記憶される。更に、上記レーザ照射の際の送光器11からのレーザ光の照射強度も制御装置20にて記憶される。そして、制御装置20では、記憶されたデータに基づいてNO濃度分布が作成される。
【0079】
具体的には、各レーザ経路上の分割領域の距離や、入力された検出値及びレーザ光の照射強度が読み出されて、上記(2)式で表わされる濃度演算式を用いることにより分割領域ごとの測定対象の濃度が算出される。そして、各分割領域の濃度が補間されることにより、濃度測定領域Sの濃度分布が作成される。これにより、濃度測定領域Sにおける測定対象の濃度分布が得られることとなる。
このようにして得られた濃度測定領域Sの濃度分布は、例えば、制御装置20と接続された表示装置(図示略)に表示されることによって、ユーザに提示される。
【0080】
そして、NO濃度分布の全てが所定値以下であれば、そのままの条件で運転を継続する。この場合、アンモニア注入装置104の注入量の調整は行わない。
【0081】
これに対し、NO濃度分布の一部に濃度が高い場所があると、制御装置20で判断された場合には、開度設定部109のその情報信号を送る。そして開度設定部109において、その特定されたNO濃度分布の高い場所に対応するアンモニア注入装置104からのアンモニアが注入できるように、流量制御元弁25の開度制御が行われる。これにより、脱硝装置105の運転を継続しながら、NO濃度の測定値に応じ、複数のアンモニア供給系統26毎に分配されるアンモニア注入量を自動的に調整することができる。
【0082】
この結果、脱硝装置の入口側と出口側とで、NOx濃度分布測定装置110によりNO濃度分布を各々計測することで、リアルタイムにおいて、一様に脱硝されているかを確認することができる。
【0083】
ここで、脱硝装置の運転を脱硝装置の出口側のリークアンモニア濃度を計測して、脱硝が適切になされているかを判断する場合がある。このような場合において、以下のような問題がある。すなわち、排ガス102にアンモニアをアンモニア注入装置104から注入しても、排ガス中に煤塵が多量にある場合、アンモニアがガス化せずに、煤塵に付着してしまい、脱硝に寄与しない場合がある。
よって、脱硝装置の出口側において、例えばリークアンモニアを計測する場合には、この脱硝に寄与しないアンモニアを計測することとなり、適切な脱硝がなされたかの否かの判断の指標とはならない。
これに対して、本発明のように、脱硝装置105の入口側と出口側とでNO濃度を、NOx濃度分布測定装置110により直接計測することにより、確実に脱硝がなされていることを確認することができる。
【0084】
図2は、実施例1の他の脱硝システムの概略図である
図1に示す脱硝装置105においては、その入口側と出口側とにNOx濃度分布測定装置110を各々設置しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、脱硝装置105の脱硝触媒が層状に複数段(2段以上)設置される場合には、この層の間にNOx濃度分布測定装置110を設置するようにしてもよい。
【0085】
図2は、脱硝触媒が2層の上流側脱硝触媒層106Aと下流側脱硝触媒層106Bとからなる場合について説明するが、本発明は2層に限定されるものではない。
本実施例では、上流側脱硝触媒層106Aの入口側にNOx濃度分布測定装置(入口)110を設置し、上流側脱硝触媒層106Aと下流側脱硝触媒層106Bとの間にNOx濃度分布測定装置(中間)110を設置し、下流側脱硝触媒層106Bの出口側にNOx濃度分布測定装置(出口)110を設置し、それぞれの層の間における空間のNOの濃度分布を計測し、このNOの濃度分布の計測結果に基づき、アンモニア注入を調整するようにしている。
【0086】
この結果、複数層に脱硝触媒が配設される場合、どの脱硝触媒の層のどの区画の脱硝率が低下しているかを判断することができ、診断精度の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0087】
図10は、実施例2に係る脱硝装置に設置するNOx濃度分布測定装置の全体構成を示す概略図である。
実施例1のNOx濃度分布測定装置の構成と同一部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図6に示す実施例1に係る脱硝装置に設置するNOx濃度分布測定装置100では、プローブ手段の各々に送光器11と受光器12とを設置しているが、本実施例では、全てのプローブ手段に窓部15A(15B)を設け、この窓部に対応する反射部である反射ミラー13A(13B)を設け、一台の送光器11と受光器12とでレーザ光の送光及び受光を行うようにしている。
【0088】
図10に示すように、本実施例のNOx濃度分布測定装置100Bは、レーザ光を前記プローブ手段内に出射させる一台のレーザ送光器11と、前記プローブ手段の計測領域Lを通過したレーザ光を受光し、前記レーザ光の光強度を検出する一台のレーザ受光器12と、前記レーザ送光器11からのレーザ光を反射する第1の反射ミラー13Aと、前記プローブ手段内の計測領域Lを通過したレーザ光を反射する第2の反射ミラー13Bと、前記複数のプローブ手段の一端側の各々に設けられ、計測場の外部からレーザ光が通過する送光用窓部15Aと、前記複数のプローブ手段他端側の各々に設けられ、計測場の外部で計測領域Lを通過したレーザ光が通過する受光用窓部15Bと、前記第1の反射ミラー13Aが載置され、計測場の外部において前記第1の反射ミラー13Aを移動する第1の移動部14aと、前記第2の反射ミラー13Bが載置され、計測場の外部において前記第2の反射ミラー13Bを移動する第2の移動部14bと、前記プローブ手段の内部におけるレーザ経路に基づいて、前記第1及び第2の複数の窓部15A、15Bから二つの窓部が選択され、選択された一の前記第1の窓部15Aから他の前記第2の窓部15Bに向けて前記レーザ光が照射されて前記レーザ光がプローブ手段を通過するように、前記第1及び第2の移動部14a、14bによって前記第1及び第2の反射ミラー13A、13Bを移動させる制御部20と、を具備している。
【0089】
本実施例に係る送光器11及び受光器12は、それぞれ1箇所に固定されており、送光器11のレーザ光の照射方向や受光器12のレーザ光の受光方向は、一定である。
図10に示す例では、送光器11は、脱硝装置の煙道の外側の隅に設置され、長辺側の壁面103aに対して平行に第1の反射ミラー13Aに向けてレーザ光を照射する。受光器12は、送光器11とは対称の位置に設置され、長辺側の壁面103bに対して平行な第2の反射ミラー13Bで反射されたレーザ光を受光する。ガイドレール14は、煙道の外部にてその壁面に対して平行に設置されており、移動部である可動台14a、14b上に載置された第1及び第2の反射ミラー13A、13Bは、煙道の外部にその壁面に対して平行に移動する。
【0090】
送光筒112A〜112Cを有するプローブ手段の構成は実施例1と同様であるので説明は省略する。
【0091】
送光器11は、制御ケーブル21で結ばれた制御装置20によって制御される。送光器11が照射するレーザ光としては、測定対象の吸光度の特性に応じた適切な波長を出力する光が採用される。制御装置20によって起動・停止の信号が出力されることにより、送光器11の起動・停止が制御される。
【0092】
ガイドレール14や反射ミラー13は、制御ケーブル21で結ばれた制御装置20によって制御される。制御装置20によってガイドレール14に設けられた可動台14aが移動し、反射ミラー13の角度が調整されることにより、送光器11から照射されたレーザ光が送光器11側の反射ミラー13で反射し、濃度測定領域Sに向けて照射される。また、濃度測定領域Sを通過したレーザ光は、受光器12側の反射ミラー13で反射し、受光器12によって受光される。
【0093】
送光器11から照射されるレーザ光の照射強度や、受光器12によって検出された受光強度は、制御装置20に通知される。受光器12は、入力された光の情報を電気信号に変換して制御装置20に出力する。
【0094】
なお、ガイドレール14は、設置場所の影響で必ずしも直線上に配置できない場合があるが、反射ミラー13の角度をレーザ経路ごとに細かく調整できるようにしておけば、ガイドレール14の設置場所の影響を受けないで、送光器11から受光器12までレーザ光を到達させることができる。これは、制御装置20が反射ミラー13の角度をレーザ経路ごとに記憶しておくことによって実現可能である。
【0095】
そして、上記構成を備える濃度分布測定装置110においては、以下のような手順により、濃度測定領域Sの濃度分布が取得される。
まず、測定を行うレーザ経路に対応するように、ガイドレール14上にて反射ミラー13が載置された可動台14aを移動させ、反射ミラー13の角度を調整する。そして、制御装置20によって送光器11が起動され、更に、レーザ光の出力が安定した後に、レーザ経路における測定が行われる。
【0096】
このレーザ経路における測定が終了した後、次のレーザ経路における測定を開始する。このようにして、レーザ経路ごとの測定を順次行う。例えば、可動台14aが予め設定された所定の順番に従って順次移動し、レーザ経路に応じて反射ミラー13の角度が調整される。その後、送光器11からレーザ光が照射され、レーザ光が所定のレーザ経路を通過することで測定対象により吸光されたレーザ光が受光器12によって受光される。
煙道の外壁回りにおける複数のレーザビーム窓15A、15Bや、プローブ手段における送光筒112の配置位置は、上述した実施例と同様である。また、濃度分布測定方法も上述した実施例と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0097】
本実施例によれば、実施例1のようにプローブ手段ごとに送光器11と受光器12とを設置する必要がないので、レーザ装置を一台とすることができる。
【0098】
次に、本実施例に係るNOx濃度分布測定装置の変形例について説明する。
図11は、実施例2係る他の脱硝装置に設置するNOx濃度分布測定装置の全体構成を示す概略図である。
図10を用いて説明した濃度分布測定装置100Bは、送光器11及び受光器12が固定されており、第1及び第2の反射ミラー13A、13Bが、第1及び第2の可動台14a、14bに各々載置され、第1及び第2の反射ミラー13A、13Bがガイドレール14上を移動するとしたが、本発明はこの例に限定されない。例えば、
図11に示す濃度分布測定装置100Cのように、送光器11及び受光器12が第1及び第2の可動台14a、14bに載置され、送光器11及び受光器12がガイドレール14上を移動するとしてもよい。
【0099】
すなわち、変形例に係るNOx濃度分布測定装置100は、レーザ光源を有しレーザ光を照射する送光器11と、光検出部を有しレーザ光を受光する受光器12と、第1及び第2の可動台14a、14bが移動可能に載置されるガイドレール14と、煙道の壁面に設置されるレーザビーム窓15A、15Bとを有している。ガイドレール14は、煙道の外部にて煙道の壁面に対して平行に設置される。
【0100】
送光器11及び受光器12は、それぞれ異なる第1及び第2の可動台14a、14bに載置され、煙道の外部にて沿道の壁面に対して平行に移動する。送光器11及び受光器12は、第1及び第2の可動台14a、14b上で回動可能であり、送光方向又は受光方向を調整できる。したがって、送光器11は、レーザ経路に応じて、煙道の外壁面に設けられたレーザビーム窓15Aにレーザ光を照射でき、受光器12は、レーザ経路に応じて、レーザビーム窓15Bを通過したレーザ光を受光できる。
【0101】
煙道の外壁回りにおける複数のレーザビーム窓15A、15Bや、プローブ手段における送光筒112の配置位置は、上述した実施例と同様である。また、濃度分布測定方法も上述した実施例と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0102】
本実施例によれば、
図10に示すNOx濃度分布測定装置100Bのように第1及び第2の反射ミラー13A、13Bを設置する必要がないので、レーザ装置構成の更なる簡略化を図ることができる。