(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末およびガラスビーズから選ばれる少なくとも1種に相当する形態を有する請求項1〜11のいずれか1項に記載のガラスフィラー。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0014】
[ガラス組成物]
本実施形態のガラスフィラーを構成するガラス組成物は、二酸化珪素(SiO
2)、三酸化二ホウ素(B
2O
3)、酸化アルミニウム(アルミナ、Al
2O
3)および酸化ナトリウム(Na
2O)を必須成分として含有する。また、酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の少なくとも一方を必須成分として含有する。各成分の含有率は、それぞれ、質量%で表して、60≦SiO
2≦74、10.99<B
2O
3≦20、5≦Al
2O
3≦15、9<Na
2O<13、0.1≦(MgO+CaO)<1に設定される。
【0015】
以下、このガラス組成物を構成する各成分について説明する。以下において成分の含有率を示す%表示は全て質量%である。
【0016】
(SiO
2)
二酸化珪素(SiO
2)は、ガラスの骨格を形成する主成分である。本明細書において、「主成分」とは含有率が最も高い成分であることを意味する。二酸化珪素は、ガラスの失透温度、粘度および密度を調整する成分である。二酸化珪素は、耐水性を向上させる成分でもある。二酸化珪素は、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。一般に、二酸化珪素の含有率が60%以上であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。さらに、二酸化ケイ素の含有率を60%以上とすることにより、ガラスの密度が低くなり、ガラスフィラーの樹脂に対する分散性を向上させることが可能になる。また、ガラスの耐水性を向上させることも可能になる。また、ガラスの屈折率をアクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することも可能になる。二酸化珪素の含有率が74%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0017】
したがって、二酸化珪素の含有率は、60%以上であり、62%以上が好ましく、64%以上がより好ましく、65%より大きいことが最も好ましい。二酸化珪素の含有率は、74%以下であり、73%以下が好ましく、72%以下がより好ましく、71%未満がさらに好ましく、68%未満が最も好ましい。二酸化珪素の含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、二酸化珪素の含有率は62〜73%が好ましく、64〜72%がより好ましく、64%以上71%未満であることがさらに好ましく、65%より大きく68%未満であることが最も好ましい。
【0018】
(B
2O
3)
三酸化二ホウ素(B
2O
3)は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。三酸化二ホウ素を含有することにより、ガラスの融点を下げる効果が得られるため、ガラス原料を均一に溶融し易くなる。三酸化二ホウ素は、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。三酸化二ホウ素は、ヤング率を低下させる成分でもある。三酸化二ホウ素の含有率が10.99%を超えると、失透温度および粘度の調整が容易になる。また、ガラスの屈折率をアクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することも可能になる。一般に、三酸化二ホウ素の含有率が20%を超えると、ガラスを溶融する際に溶融窯および蓄熱窯の炉壁が浸食され、窯の寿命が著しく低下しうる。また、三酸化二ホウ素の含有率が20%以下であれば、ガラスのヤング率が高くなり、ガラスフィラーとして樹脂組成物の剛性を高めることができる。
【0019】
したがって、三酸化二ホウ素の含有率は、10.99%より大きく、12%より大きいことが好ましく、13%以上がより好ましく、14%以上が最も好ましい。三酸化二ホウ素の含有率は、20%以下であり、18%以下が好ましく、17%未満がより好ましく、16%以下がさらに好ましく、15%未満が特に好ましく、14.9%以下が最も好ましい。三酸化二ホウ素の含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、三酸化二ホウ素の含有率は10.99%より大きく17%未満であることが好ましく、10.99%より大きく16%以下であることが好ましく、10.99%より大きく14.9%以下であることがさらに好ましい。別の例では、三酸化二ホウ素の含有率は、12%より大きく20%以下であることが好ましく、12%より大きく17%未満であることが好ましく、12%より大きく16%以下であることがさらに好ましく、12%より大きく14.9%以下であることが最も好ましい。さらに別の例では、三酸化二ホウ素の含有率は、13〜20%であることが好ましく、13%以上17%未満であることがより好ましく、13〜16%であることがさらに好ましく、13〜14.9%であることが最も好ましい。
【0020】
(Al
2O
3)
酸化アルミニウム(Al
2O
3)は、ガラスの骨格を形成する成分である。酸化アルミニウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化アルミニウムは、耐水性を向上させる成分である。酸化アルミニウムは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。酸化アルミニウムの含有率が5%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。酸化アルミニウムの含有率が15%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0021】
したがって、酸化アルミニウムの含有率は、5%以上であり、6%以上が好ましく、6.5%以上がより好ましく、7%より大きいことが最も好ましい。酸化アルミニウムの含有率は、15%以下であり、13%以下が好ましく、12%未満がより好ましく、10%未満が最も好ましく、場合によっては9%未満、さらには8%未満であってもよい。酸化アルミニウムの含有率の範囲は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、酸化アルミニウムの含有率は5〜15%であることが好ましく、5〜13%であることがより好ましく、6〜13%であることがさらに好ましく、7%より大きく10%未満であることが最も好ましい。
【0022】
(Na
2O)
酸化ナトリウム(Na
2O)は、ガラスの失透温度、粘度、密度、ヤング率、屈折率および耐水性を調整する成分である。酸化ナトリウムの含有率が9%より大きければ、失透温度および粘度の調整が容易になる。また、ガラスのヤング率が高くなり、ガラスフィラーとして樹脂組成物の剛性を高めることができる。酸化ナトリウムの含有率が13%未満であれば、ガラスの屈折率をアクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することも可能になる。また、ガラスの密度が低くなり、ガラスフィラーの樹脂に対する分散性が良くなる。さらに、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上するとともに、ガラスの耐水性も向上する。
【0023】
したがって、酸化ナトリウムの含有率は、9%より大きく、9.5%以上が好ましく、10%より大きいことがより好ましい。酸化ナトリウムの含有率は、13%未満であり、12.5%以下が好ましく、12%以下がより好ましい。酸化ナトリウムの含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、酸化ナトリウムの含有率は9.5〜12.5%が好ましく、9.5〜12%がより好ましい。別例では、酸化ナトリウムの含有率は10%より大きく13%未満であることが好ましく、10%より大きく12%以下であることがより好ましい。
【0024】
(SiO
2+Al
2O
3)
ガラスの屈折率の調整し易さを重視する場合、ガラスの骨格を形成する成分である二酸化珪素および酸化アルミニウムの含有率の和(SiO
2+Al
2O
3)が重要である。二酸化珪素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO
2+Al
2O
3)が67%以上であれば、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に容易に調整することができる。二酸化珪素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO
2+Al
2O
3)が79%未満であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
【0025】
したがって、二酸化珪素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO
2+Al
2O
3)は、例えば67%以上であり、69%以上が好ましく、70%より大きいことがより好ましく、71%以上がさらに好ましく、72%より大きいことが最も好ましい。二酸化珪素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO
2+Al
2O
3)は、79%未満が好ましく、78%未満がより好ましく、77%未満がさらに好ましく、76%未満が最も好ましい。二酸化珪素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO
2+Al
2O
3)は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。
【0026】
(MgO+CaO)
ガラスフィラーの成形し易さを重視する場合、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の含有率の和(MgO+CaO)が重要である。したがって、酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の含有率の和(MgO+CaO)は、0.1%以上とする。一方、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)が1%未満であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができるとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することが容易になる。
【0027】
したがって、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)は、0.1%以上であり、0.15%以上がより好ましく、場合によっては0.2%以上であってもよく、さらに0.25%以上とすることもできる。また、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)は、1%未満であり、0.7%未満が好ましく、0.5%未満がより好ましく、0.3%未満が最も好ましい。酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)の好ましい範囲は、例えば0.1%以上0.7%未満、さらには0.1%以上0.5%未満である。
【0028】
(MgO)
酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率は0.1%以上1%未満に調整されるが、酸化マグネシウム(MgO)自体は任意成分である。酸化マグネシウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化マグネシウムは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。酸化マグネシウムの含有率が1%未満であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができるとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。
【0029】
したがって、酸化マグネシウムの含有率は、0.1%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましく、場合によっては0.2%以上であってもよい。酸化マグネシウムの含有率は、1%未満であり、0.7%未満がより好ましく、0.5%未満が特に好ましく、0.3%未満が最も好ましく、場合によっては0.25%未満であってもよい。酸化マグネシウムの好ましい含有率は、例えば0%以上1%未満、さらには0.1%以上0.5%未満、特に0.1%以上0.3%未満である。
【0030】
(CaO)
酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率は0.1%以上1%未満に調整されるが、酸化カルシウム(CaO)自体は任意成分である。酸化カルシウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化カルシウムは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。酸化カルシウムの含有率が1%未満であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができるとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。
【0031】
酸化カルシウムの添加と酸化マグネシウムの添加とは同様の効果を奏しうるが、屈折率をより低下させるという観点からは、酸化カルシウムの添加よりも酸化マグネシウムの添加が有利である。酸化カルシウムの含有率は酸化マグネシウムの含有率よりも低く抑えることが好ましい。
【0032】
したがって、酸化カルシウムの含有率は、1%未満であり、0.5%未満が好ましく、0.3%未満がより好ましく、0.1%未満がさらに好ましい。ただし、酸化カルシウムの含有率は0.03%以上、さらには0.05%以上であってもよい。酸化カルシウムの好ましい含有率は、例えば0%以上0.5%未満、さらには0%以上0.1%未満である。
【0033】
(Li
2O)
酸化リチウム(Li
2O)は任意成分である。酸化リチウムは、ガラスの失透温度、粘度、密度、ヤング率および耐水性を調整する成分である。酸化リチウムは、ガラスの屈折率を高める成分である。酸化リチウムの含有率が5%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。酸化リチウムの含有率が5%以下であれば、ガラスの耐水性も向上するとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。
【0034】
したがって、酸化リチウムの含有率は、0〜5%が好ましく、2%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.75%未満が最も好ましい。
【0035】
(K
2O)
酸化カリウム(K
2O)は任意成分である。酸化カリウムは、ガラスの失透温度、粘度、密度、ヤング率および耐水性を調整する成分である。酸化カリウムは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。酸化カリウムの含有率が5%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。酸化カリウムの含有率が5%以下であれば、ガラスの耐水性も向上するとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。
【0036】
したがって、酸化カリウムの含有率は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%未満が最も好ましい。酸化カリウムの含有率は、0.1%以上が好ましく、0.5%より大きいことがより好ましい。酸化カリウムの好ましい含有率は、例えば0〜5%、さらには0.1〜3%である。
【0037】
(Li
2O+Na
2O+K
2O)
ガラスフィラーの成形し易さを重視する場合、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分であるアルカリ金属酸化物〔酸化リチウム(Li
2O)、酸化ナトリウム(Na
2O)、酸化カリウム(K
2O)〕の含有率の和(Li
2O+Na
2O+K
2O)が重要である。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O)が9%より大きければ、失透温度および粘度の調整が容易になる。また、ガラスのヤング率が高くなり、ガラスフィラーとして樹脂組成物の剛性を高めることができる。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O)が20%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上するとともに、ガラスの耐水性も向上する。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O)が15%未満であれば、ガラスの密度が低くなり、ガラスフィラーの樹脂に対する分散性が良くなる。
【0038】
したがって、酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、9%より大きく、9.5%以上が好ましく、10%より大きいことがより好ましく、10.5%以上がさらに好ましく、11%より大きいことが最も好ましい。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O)は、20%以下であることが好ましく、18%以下がより好ましく、15%未満がさらに好ましく、13%未満が最も好ましい。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O)の好ましい範囲は、例えば9.5〜20%であり、さらには9.5〜18%、特に9.5%以上15%未満である。
【0039】
(P
2O
5)
五酸化二リン(P
2O
5)は任意成分である。ガラス組成物は、五酸化二リンをさらに含んでいてもよい。五酸化二リンは、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。五酸化二リンは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。一般に、五酸化二リンの含有率が2%を超えると、ガラスを溶融する際に溶融窯および蓄熱窯の炉壁が浸食され、窯の寿命が著しく低下しうる。
【0040】
したがって、五酸化二リンの含有率は、2%以下が好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0041】
(TiO
2)
酸化チタン(TiO
2)は任意成分である。酸化チタンは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化チタンは、ガラスの屈折率を高める成分である。酸化チタンの含有率が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇し過ぎ、ガラスを製造することが難しくなるとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することが難しくなる。
【0042】
したがって、酸化チタンの含有率は、0〜5%が好ましく、2%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0043】
(ZrO
2)
酸化ジルコニウム(ZrO
2)は任意成分である。酸化ジルコニウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化ジルコニウムは、ガラスの屈折率を高める成分である。酸化ジルコニウムの含有率が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇し過ぎ、ガラスを製造することが難しくなるとともに、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することが難しくなる。
【0044】
したがって、酸化ジルコニウムの含有率は、0〜5%が好ましく、2%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0045】
(Fe)
鉄(Fe)は任意成分である。ガラス中に含まれる鉄(Fe)は、通常、Fe
3+またはFe
2+の状態で存在する。Fe
3+はガラスの紫外線吸収特性を向上させる成分であり、Fe
2+はガラスの熱線吸収特性を向上させる成分である。鉄は、意図的に含ませなくとも、他の工業用原料から不可避的にガラス組成物に混入する場合がある。鉄の含有量が少なければ、ガラスの着色を防止することができる。透明性の高いアクリル樹脂にガラスフィラーを配合してアクリル樹脂成形体を得る場合、ガラスフィラー中の鉄の含有量が少なければ、アクリル樹脂成形体の透明性を損なうことがない。
【0046】
したがって、鉄の含有率は小さいほうが好ましく、三酸化二鉄(Fe
2O
3)に換算して0〜0.5%が好ましく、0.2%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0047】
(SO
3)
三酸化硫黄(SO
3)は任意成分であるが、清澄剤として使用してもよい。硫酸塩の原料を使用すると、ガラス組成物中に三酸化硫黄が0.5%以下の含有率で含まれることがある。
【0048】
(SrO)
酸化ストロンチウム(SrO)は、ガラスの屈折率を高める成分である。酸化ストロンチウムは、ガラスの密度を高める成分である。酸化ストロンチウムは、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。したがって、酸化ストロンチウムは実質的に含有しないことが好ましい。
【0049】
(BaO)
酸化バリウム(BaO)は、ガラスの屈折率を高める成分である。酸化バリウムは、ガラスの密度を高める成分である。酸化バリウムは、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。したがって、酸化バリウムは実質的に含有しないことが好ましい。
【0050】
(ZnO)
酸化亜鉛(ZnO)は、ガラスの屈折率を高める成分である。酸化亜鉛は、ガラスの密度を高める成分である。酸化亜鉛は、揮発しやすいため、ガラスの溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、酸化亜鉛は実質的に含有しないことが好ましい。
【0051】
(SrO+BaO+ZnO)
以上の理由から、ガラス組成物は、SrO、BaOおよびZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0052】
(F、Cl、Br、I)
フッ素(F)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、フッ素は実質的に含有しないことが好ましい。
【0053】
塩素(Cl)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、塩素は実質的に含有しないことが好ましい。
【0054】
臭素(Br)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、臭素は実質的に含有しないことが好ましい。
【0055】
ヨウ素(I)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、ヨウ素は実質的に含有しないことが好ましい。
【0056】
フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の含有率の合計(F+Cl+Br+I)は、0.01%未満であることが好ましい。
【0057】
(PbO)
酸化鉛(PbO)は、その原料の取扱いに配慮を要するため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0058】
(Sn)
ガラス中に含まれる錫(Sn)は、通常、Sn
2+またはSn
4+の状態で存在する。錫は、その原料の取扱いに配慮を要するため、実質的に含有しないことが好ましい。錫(Sn)の含有率は、二酸化錫(SnO
2)に換算して0.01%未満であることが好ましい。
【0059】
(As、Sb)
ガラス中に含まれるヒ素(As)は、通常、As
3+またはAs
5+の状態で存在する。ヒ素は、その原料の取扱いに配慮を要するため、実質的に含有しないことが好ましい。ヒ素の含有率は、三酸化二ヒ素(As
2O
3)に換算して0.01%未満であることが好ましい。
【0060】
ガラス中に含まれるアンチモン(Sb)は、通常、Sb
3+またはSb
5+の状態で存在する。アンチモンは、その原料の取扱いに配慮を要するため、実質的に含有しないことが好ましい。アンチモンの含有率は、三酸化二アンチモン(Sb
2O
3)に換算して0.01%未満であることが好ましい。
【0061】
ヒ素を三酸化二ヒ素に換算したときの含有率と、アンチモンを三酸化二アンチモンに換算したときの含有率との合計(As
2O
3+Sb
2O
3)は、0.01%未満であることが好ましい。
【0062】
なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、例えば工業用原料から不可避的に混入する場合を除き、意図的に含ませないことを意味する。実質的に含有しないとは、具体的には、含有率が0.1%未満、好ましくは0.05%未満、より好ましくは0.03%未満、最も好ましくは0.01%未満であることを意味する。
【0063】
[ガラス組成物の物性]
次に、ガラスフィラーを構成するガラス組成物の物性について、以下詳細に説明する。
【0064】
(溶融特性)
溶融ガラスの粘度が1000dPa・sec(1000poise)となるときの温度は、当該ガラスの作業温度と呼ばれ、ガラスの成形に最も適する温度である。ガラスフィラーとして鱗片状ガラスまたはガラス繊維を製造する場合、ガラスの作業温度が1100℃以上であれば、鱗片状ガラスの厚みまたはガラス繊維径のばらつきを小さくできる。作業温度が1350℃以下であれば、ガラスを溶融する際の燃料費を低減でき、ガラス製造装置が熱による腐食を受け難くなり、装置寿命が延びる。
【0065】
したがって、作業温度は、1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。作業温度は、1300℃以下が好ましく、1290℃以下がより好ましく、1280℃未満がさらに好ましく、1270℃以下が最も好ましい。作業温度は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。好ましい作業温度は、例えば1100〜1300℃、さらには1150〜1300℃である。
【0066】
作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが大きいほど、ガラス成形時に失透が生じ難く、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。したがって、ΔTは0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、150℃以上が特に好ましく、200℃以上が最も好ましい。ΔTが500℃以下であれば、ガラス組成の調整が容易になる。したがって、ΔTは500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましく、400℃以下がさらに好ましい。例えば、ΔTは50〜500℃が好ましく、100〜500℃がより好ましく、100〜450℃がさらに好ましい。
【0067】
なお、失透とは、溶融ガラス素地中に生成して成長した結晶により、白濁を生じることをいう。このような溶融ガラス素地から製造されたガラスフィラーの中には、結晶化した塊が存在することがある。このようなガラスフィラーはアクリル樹脂に配合されるフィラーとして好ましくない。
【0068】
(密度)
ガラスフィラーは、ガラスフィラーを構成するガラスの密度が低いほど樹脂に対する分散性が良くなる。ガラスフィラーを構成するガラス組成物の密度が2.41g/cm
3以下であれば、ガラスフィラーを樹脂中へ均一に分散させることができる。
【0069】
したがって、密度の上限は好ましくは2.41g/cm
3以下であり、より好ましくは2.40g/cm
3以下である。本実施形態により実現できる密度は、例えば2.20〜2.41g/cm
3、さらには2.25〜2.41g/cm
3、特に2.30〜2.40g/cm
3である。
【0070】
(ヤング率)
ガラスフィラーは、ガラスフィラーを構成するガラスのヤング率が高いほど弾力性が良く、配合された樹脂組成物の剛性を高めることができる。ガラスフィラーを構成するヤング率が65GPa以上であれば、ガラスフィラーは樹脂組成物の剛性を高める充填材として有効に機能する。ここで、ヤング率(GPa)は、通常の超音波法により、ガラス中を伝播する弾性波の縦波速度と横波速度とを測定し、別にアルキメデス法により測定したガラスの密度とから求めることができる。
【0071】
したがって、ヤング率の下限は好ましくは65GPa以上であり、より好ましくは68GPa以上であり、さらに好ましくは70GPa以上であり、特に好ましくは72GPaより大きいことである。本実施形態により実現できるヤング率は、例えば65〜90GPa、さらには65〜85GPa、特に65〜80GPaである。
【0072】
(光学特性)
ガラスフィラーおよびアクリル樹脂の屈折率が互いに等しければ、ガラスフィラーとアクリル樹脂との間の界面における光の散乱がないため、アクリル樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物の屈折率は、アクリル樹脂の屈折率に近いことが好ましい。アクリル樹脂は、通常、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)で測定したときの屈折率n
dが、1.490〜1.495程度である。ガラス組成物の屈折率n
dは、1.480〜1.501が好ましく、1.480〜1.500がより好ましく、1.485〜1.500がさらに好ましく、1.487〜1.500が最も好ましい。
【0073】
ガラス組成物およびアクリル樹脂の屈折率の差は、0.010以下が好ましく、0.007以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0074】
厳密に言えば、バルク(塊)としてのガラス組成物の屈折率よりもむしろガラスフィラーの屈折率について言及することが適切である。すなわち、ガラスフィラーの屈折率は、アクリル樹脂の屈折率に近いことが好ましい。アクリル樹脂は、通常、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)で測定したときの屈折率n
Dが、1.490〜1.495程度である。したがって、ガラスフィラーの屈折率n
Dは、1.480〜1.501が好ましく、1.480〜1.500がより好ましく、1.480〜1.498がさらに好ましい。
【0075】
ガラスフィラーおよびアクリル樹脂の屈折率の差は、0.010以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.003以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
【0076】
(化学的耐久性)
ガラスフィラーの特性としては、耐水性などの化学的耐久性が重要である。
【0077】
耐水性の指標としては、後述するアルカリ溶出量が採用され、このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。
【0078】
ガラスフィラーをアクリル樹脂に分散させる場合、ガラスフィラーを構成するガラス組成物のアルカリ溶出量が0.2mg以下であれば、アクリル樹脂組成物の強度低下が引き起こされることがない。したがって、ガラス組成物のアルカリ溶出量は、0.2mg以下が好ましく、0.15mg以下がより好ましく、0.1mg以下がさらに好ましく、0.05mg未満が特に好ましく、0.04mg未満が最も好ましい。本実施形態により実現できるアルカリ溶出量は、例えば、0.001〜0.20mgである。
【0079】
[ガラスフィラー]
ガラス組成物の溶融物を所定の形状に成形することにより、ガラスフィラーを製造することができる。ガラス組成物は、例えば、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズなど、所定の形状を有するガラスフィラーに成形される。本実施形態のガラスフィラーは、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末およびガラスビーズから選ばれる少なくとも1つに相当する形態を有することが好ましい。ただし、これらの形態は、互いに厳密に区別されるものではない。また、互いに異なる形態を有する2種以上のガラスフィラーを組み合わせてフィラーとして用いてもよい。
【0080】
図1Aは、鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図であり、
図1Bはその鱗片状ガラスを示す平面図である。鱗片状ガラス10は、例えば、平均厚さtが0.1〜15μm、平均粒子径aが0.2〜15000μm、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子である。なお、
図1B中のSは、鱗片状ガラス10を平面視したときの面積である。
【0081】
なお、鱗片状ガラスの平均厚さとは、少なくとも100枚の鱗片状ガラスを抜き取り、それらの鱗片状ガラスについて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて厚さを測定し、その厚さの合計を、測定した鱗片状ガラスの枚数で割った値のことである。鱗片状ガラスの平均粒子径とは、レーザ回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、累積体積百分率が50%に相当する粒子径(D50)のことである。
【0082】
この鱗片状ガラス10は、例えば、
図2に示す製造装置を用いて製造できる。
図2に示すように、耐火窯槽12において溶融された、所定の組成を有するガラス素地11は、ブローノズル13に送り込まれたガスにより風船状に膨らみ、中空状ガラス膜14となる。この中空状ガラス膜14を一対の押圧ロール15で粉砕することにより、鱗片状ガラス10が得られる。
【0083】
ガラスフィラーとして用いられるチョップドストランドは、繊維径1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜1000の寸法を有するガラス繊維である。チョップドストランドは、例えば、
図3および
図4に示す装置を用いて製造できる。
【0084】
図3に示すように、耐火窯槽内で溶融され、所定の組成を有するガラス素地は、底部に多数(例えば2400本)のノズルを有するブッシング20から引き出され、多数のガラスフィラメント21を形成する。ガラスフィラメント21には、冷却水が吹きかけられた後、バインダアプリケータ22の塗布ローラ23によりバインダ(集束剤)24が塗布される。バインダ24が塗布された多数のガラスフィラメント21は、補強パッド25により、各々が例えば800本程度のガラスフィラメント21からなる3本のストランド26として集束される。各ストランド26は、トラバースフィンガ27で綾振りされつつコレット28に嵌められた円筒チューブ29に巻き取られる。そして、ストランド26が巻き取られた円筒チューブ29をコレット28から外して、ケーキ(ストランド巻体)30が得られる。
【0085】
次に、
図4に示すように、クリル31にケーキ30を収容し、そのケーキ30からストランド26を引き出して、集束ガイド32によりストランド束33として束ねる。このストランド束33に、噴霧装置34より水または処理液を噴霧する。さらに、このストランド束33を切断装置35の回転刃36で切断して、チョップドストランド37が得られる。
【0086】
ガラスフィラーとして用いられるミルドファイバーは、繊維径が1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜500の寸法を有するガラス繊維である。このようなミルドファイバーは、公知の方法に従って製造できる。
【0087】
ガラス粉末は、ガラスを粉砕することによって製造される。ガラスフィラーとして用いるためには、ガラス粉末の平均粒子径が1〜500μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径は、ガラス粉末粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラス粉末は、公知の方法に従って製造できる。
【0088】
ガラスビーズは、ガラス組成物を球形またはそれに近い形となるように成形することによって製造される。ガラスフィラーとして用いるためには、ガラスビーズの粒子径が1〜500μmであることが好ましい。ここで、粒子径は、ガラスビーズ粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラスビーズは、公知の方法に従って製造できる。
【0089】
[アクリル樹脂組成物]
ガラス組成物から得られたガラスフィラーをアクリル樹脂に配合することにより、優れた性能を有するアクリル樹脂組成物が得られる。本実施形態のガラスフィラーは、アクリル樹脂との屈折率の差が小さく、アルカリ成分の溶出が少なく、化学的耐久性に優れている。したがって、アクリル樹脂と本実施形態のガラスフィラーとを含有するアクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂と同等の透明性と、アクリル樹脂よりも優れた機械的強度および耐熱性とを兼ね備えている。
【0090】
アクリル樹脂組成物は、公知の方法に従って製造できる。具体的には、混合機などを用いて加熱しながらアクリル樹脂とガラスフィラーとを溶融混練すればよい。アクリル樹脂としては、公知のものを使用できる。上述したように、アクリル樹脂に配合されるガラスフィラーとして、1種類の形態のガラスフィラーに限らず、複数種の形態のガラスフィラーを組み合わせて用いてもよい。アクリル樹脂組成物の性能を向上させるために、必要に応じて、各種のカップリング剤および添加剤を配合してもよい。溶融混練の温度は、アクリル樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
【0091】
このようなアクリル樹脂組成物を成形して得られた成形品は、光学材料、電気機器、自動車部品、建築材料などに好適に使用できる。成形は公知の方法に従って行えばよく、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形によるシート成形法などが採用される。なお、成形時の加熱温度は、アクリル樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。
【0093】
(実施例1〜28および比較例1〜8)
表1〜表4に示した組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合し、実施例および比較例毎にガラス原料のバッチを作製した。電気炉を用いて、各バッチを1400〜1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラス(ガラス溶融物)を鉄板上に流し出し、電気炉中で室温まで徐冷し、バルクとしてのガラス組成物(板状物)を得た。
【0094】
得られたガラス組成物について、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度との関係を調べ、その結果から作業温度を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に白金球を浸し、その白金球を等速運動で引き上げる際の負荷荷重(抵抗)と、白金球に働く重力および浮力などとの関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度との関係を示したストークス(Stokes)の法則にあてはめることにより、粘度を測定する方法である。
【0095】
粒子径1.0〜2.8mmの大きさに粉砕したガラス組成物を白金ボートに入れ、温度勾配(800〜1400℃)を設けた電気炉中で2時間保持し、結晶の出現した位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。ここで、粒子径は、ふるい分け法により測定された値である。なお、電気炉内の場所に応じて異なる温度(電気炉内の温度分布)は、予め測定されており、電気炉内の所定の場所に置かれたガラスは、予め測定された、当該所定の場所の温度で加熱される。ΔTは、作業温度から失透温度を差し引いた温度差である。
【0096】
ガラス組成物について、プルフリッヒ屈折率計を用いることにより、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)の屈折率n
dを測定した。
【0097】
密度は、アルキメデス法により測定した。ヤング率は、超音波法によりガラス中を伝播する弾性波の縦波速度および横波速度と、密度とから求めた。
【0098】
アルカリ溶出量の測定は、日本工業規格(JIS)の「化学分析用ガラス器具の試験方法 R 3502‐1995」に準拠した方法により行った。ガラス試料を粉砕して得たガラス粉末をJIS Z 8801に規定の標準網ふるいにかけ、目開き420μmの標準網ふるいを通過し、目開き250μmの標準網ふるいにとどまったガラス粉末を、ガラスの比重と同じグラム数量秤り取った。このガラス粉末を100℃の蒸留水50mLに1時間浸漬した後、この水溶液中のアルカリ成分を0.01Nの硫酸で滴定した。滴定に要した0.01Nの硫酸のミリリットル数に0.31を乗じることにより、Na
2Oに換算したアルカリ成分のミリグラム数を求め、このミリグラム数をアルカリ溶出量とした。このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。
【0099】
これらの測定結果を表1〜表4に示した。なお、表中のガラス組成は、すべて質量%で表示した値である。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
実施例1〜28で得られたガラス組成物の作業温度は、1210℃〜1272℃であった。これは、ガラスフィラーを成形する場合に好適な温度である。実施例1〜28で得られたガラス組成物のΔT(作業温度−失透温度)は、275℃〜356℃であった。これは、ガラスフィラーの製造工程において、ガラスの失透が生じない温度差である。実施例1〜28で得られたガラス組成物の密度は、2.30〜2.39g/cm
3であった。実施例1〜28で得られたガラス組成物のヤング率は、65〜75GPaであった。実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dは、1.488〜1.500であった。実施例1〜28で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量は、0.01〜0.16mgであった。
【0105】
他方、比較例1で得られたガラス組成物は、従来の板ガラスの組成を有し、B
2O
3、Al
2O
3、Na
2Oおよび(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例1で得られたガラス組成物の密度は2.49g/cm
3であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の密度に比べて大きかった。さらに、比較例1で得られたガラス組成物の屈折率n
dは1.517であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dに比べて高かった。そして、比較例1で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量は0.43mgであり、実施例1〜28で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量に比べて大きかった。
【0106】
比較例2で得られたガラス組成物は、従来のCガラスの組成を有し、B
2O
3、Al
2O
3および(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例2で得られたガラス組成物の密度は2.53g/cm
3であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の密度に比べて大きかった。さらに、比較例2で得られたガラス組成物の屈折率n
dは1.523であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dに比べて高かった。
【0107】
比較例3で得られたガラス組成物は、従来のEガラスの組成を有し、SiO
2、B
2O
3、Na
2Oおよび(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例3で得られたガラス組成物の密度は2.63g/cm
3であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の密度に比べて大きかった。さらに、比較例3で得られたガラス組成物の屈折率n
dは1.561であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dに比べて高かった。そして、比較例3で得られたガラス組成物のΔTは115℃であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物のΔTに比べて顕著に小さくなった。
【0108】
比較例4〜6で得られたガラス組成物は、それぞれ特開2008−255002号公報(特許文献1)の実施例7、実施例8および実施例10に記載されている、SrO、BaOおよびZnOを含まないガラスと同様の組成を有する。
【0109】
比較例4で得られたガラス組成物は、Al
2O
3、Na
2Oおよび(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。それゆえ、比較例4では、ガラスの失透のために、均質なガラス組成物が得られなかった。比較例4で得られたガラス組成物は、特開2008−255002号公報(特許文献1)の実施例7に開示されたガラスと同様の組成を有する。特許文献1の実施例7には、ガラスの屈折率およびアッベ数が測定され、失透による糸切れを生じることなくガラス繊維化できたと記載されている。しかし、本発明者が追試したところ、失透が生じて紡糸することができなかった。比較例4のガラス組成は、失透性が高く、厳しく限定された条件の下でしか紡糸することができない組成であると考えられる。比較例4で得られたガラス組成物の屈折率n
dは1.505であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dに比べて高かった。また、比較例4で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量は0.25mgであり、実施例1〜28で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量に比べて大きかった。
【0110】
比較例5で得られたガラス組成物は、B
2O
3、Na
2Oおよび(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。このため、比較例5で得られたガラス組成物の作業温度は1350℃であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の作業温度に比べて高かった。また、比較例5で得られたガラス組成物の屈折率n
dは1.512であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dに比べて高かった。
【0111】
比較例6で得られたガラス組成物は、Al
2O
3、Na
2Oおよび(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。このため、比較例6で得られたガラス組成物の作業温度は1305℃であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の作業温度に比べて高かった。
【0112】
比較例7で得られたガラス組成物は、国際公開第2011/125316号公報(特許文献2)の実施例2に記載されている組成を有する。
【0113】
比較例7で得られたガラス組成物は、B
2O
3およびNa
2Oの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。このため、比較例7で得られたガラス組成物の密度は2.45g/cm
3であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の密度に比べて高かった。また、比較例7で得られたガラス組成物の屈折率n
dは1.504であり、実施例1〜28で得られたガラス組成物の屈折率n
dに比べて高かった。
【0114】
比較例8で得られたガラス組成物は、国際公開第2012/017694号公報(特許文献3)の実施例15に記載されている組成を有する。
【0115】
比較例8で得られたガラス組成物は、SiO
2、B
2O
3、Na
2Oおよび(MgO+CaO)の含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。このため、比較例8で得られたガラス組成物のヤング率は61GPaであり、実施例1〜28で得られたガラス組成物のヤング率に比べて低かった。また、比較例8で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量は0.38mgであり、実施例1〜28で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量に比べて大きかった。
【0116】
以上のように、実施例1〜28に示す本発明のガラス組成物は、ガラスフィラーの成形に適した溶融特性を有するとともに、フィラーとしてアクリル樹脂へ配合するために適した密度、ヤング率、屈折率および耐水性を有することが分かる。
【0117】
(実施例29〜56)
実施例29〜56では、それぞれ実施例1〜28で得られたガラス組成物を用いて鱗片状ガラスを作製した。すなわち、ガラス組成物(バルク)を電気炉で再溶融した後、冷却しながらペレットに成形した。このペレットを
図2に示す製造装置に投入し、平均厚さが0.5〜1μmおよび平均粒子径が100〜500μmである鱗片状ガラスを作製した。鱗片状ガラスの平均厚さは、電子顕微鏡((株)キーエンス、リアルサーフェスビュー顕微鏡、VE−7800)を用い、100枚の鱗片状ガラスの断面から鱗片状ガラスの厚さを測定し、それらの厚さを平均することにより求めた値である。鱗片状ガラスの平均粒子径は、レーザ回折粒度分布測定装置(日機装(株)、粒度分析計、マイクロトラックHRA)によって測定した。
【0118】
実施例29〜56で得られた鱗片状ガラスの屈折率(n
D)を測定した。鱗片状ガラスについて、浸液法により、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)の屈折率n
Dを測定した。この測定結果を表5〜表7に示す。
【0119】
【表5】
【0120】
【表6】
【0121】
【表7】
【0122】
表5〜表7に示すように、実施例29〜56で得られた鱗片状ガラスの屈折率(n
D)は1.481〜1.497の範囲であり、アクリル樹脂の屈折率(n
Dが1.490〜1.495)に近い値であった。
【0123】
実施例29〜56で得られた鱗片状ガラス(ガラスフィラー)を各々アクリル樹脂に配合することにより、種々のアクリル樹脂組成物が得られた。
【0124】
(実施例57〜84)
実施例57〜84では、それぞれ実施例1〜28で得られたガラス組成物を用いて、ガラスフィラーとして用いることのできるチョップドストランドを作製した。すなわち、ガラス組成物(バルク)を電気炉で再溶融した後、冷却しながらペレットに成形した。このペレットを
図3および
図4に示す製造装置に投入し、平均繊維径が10〜20μm、長さが3mmであるチョップドストランドを作製した。
【0125】
実施例57〜84で得られたチョップドストランドを各々アクリル樹脂に配合することにより、種々のアクリル樹脂組成物が得られた。