【実施例1】
【0017】
図1及び
図2は実施例1を示し、図中の符号Tは空気入りタイヤを示し、当該空気入りタイヤTは、タイヤトレッド1、サイドウォール2及びビード3を備えている。タイヤトレッド1は、ベルト及びベルト補強1a及びトレッドゴム1bを含む。ビード3は、ビードコア3a及びビードコア3aよりタイヤ半径方向外方に延びる硬質ゴムよりなるビードフィラー3bを含む。
【0018】
符号4は、タイヤ内面に配置されているインナーライナーであり、ビードコア3aの周りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられている。符号5は、カーカスプライであり、当該カーカスプライ5は、タイヤトレッド1、サイドウォール2及びビード3に亘って左右ビードコア3aの間を架け渡すように配置されており、ビードコア3aの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられている。そして、前記インナーライナー4及びカーカスプライ5は、ビードコア3aの周りにおいて、インナーライナー4がカーカスプライ5の内側に配置されている。
【0019】
また、符号6は、ラバーチェーハーであり、当該ラバーチェーハー6は、ビードコア3aの周りにおいて、インナーライナー4及びカーカスプライ5を被覆するように配置されている。したがって、インナーライナー4及びカーカスプライ5は、それらの端部4a、5aを含めてビード3の表面に露出しない。
【0020】
カーカスプライ端部からラバーチェーハー上端までの距離は、少なくともラバーチェーハーがインナーライナーに接触する箇所に配置しておけばラバーチェーハーにおける低モジュラス層とインナーライナーとの接着効果が得られる。
【0021】
なお、ラバーチェーハー上端の位置は、求められる性能に応じて決定するため、特に限定されるわけではないが、重量増加の観点より、ベルト端部からプライ上端部までのペリフェリー長さの55%以下、または/もしくは、プライ上端部から外径方向外側に10mmまでの距離が好適である。
【0022】
前記ラバーチェーハー6は、300%モジュラス値が相違する低モジュラス層6aと高モジュラス層6bとを有している。そして、当該ラバーチェーハー6の低モジュラス層6aは、タイヤ幅方向内側のタイヤ径方向外方からカーカスプライ5の端部5aを終端とするインナーライナー4に接触する部分を全て被覆している。また、ラバーチェーハー6の高モジュラス層6bは、カーカスプライ5の端部5aを始端としてラバーチェーハー6がリムに接触するビードトウ6cを経由してビード3のタイヤ幅方向外方部分を全て被覆している。
【0023】
本実施例においては、低モジュラス層6aの300%モジュラス値は8MPaであり、高モジュラス層6bの300%モジュラス値は14MPaである。ちなみにインナーライナー4の300%モジュラス値は3MPaである。なお、ラバーチェーハー6の低モジュラス層6aの300%モジュラス値は、上記のモジュラス値に限られるものではなく、インナーライナー4の300%モジュラス値よりも高く、ラバーチェーハー6の高モジュラス層6bの300%モジュラス値よりも低ければよく、ラバーチェーハー6の低モジュラス層6aの300%モジュラス値は、好ましくは3.5MPa〜8.0Mpa(JIS K 6253による硬度56度〜65度に相応)の範囲であればよい。
【0024】
上記のように本実施例の空気入りタイヤTを構成したことにより、インナーライナー4に対してラバーチェーハー6の高モジュラス層6bよりも低モジュラス層6aの方が接着性に優れているため、ラバーチェーハー6と、これに接触するインナーライナー4との接着性が良くなって耐久性が向上する。また、ラバーチェーハー6がリムに接触するビードトウ6cからビード3のタイヤ幅方向外方の部分は全てラバーチェーハー6の高モジュラス層6bにより被覆されているので、ビード3におけるリム擦れ防止性能が低下しない。以上の結果から操縦安定性に優れた空気入りタイヤとなる。
【実施例2】
【0025】
図3は実施例2を示し、本実施例における空気入りタイヤのビード23は、上記実施例1と同様に、ビードコア23a及びビードコア23aよりタイヤ半径方向外方に延びる硬質ゴムよりなるビードフィラー23bを含み、タイヤ内面に配置されているインナーライナー24は、ビードコア23aの周りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられている。カーカスプライ25は、タイヤトレッド、サイドウォール22及びビード23に亘って左右のビードコア23aの間を架け渡すように配置されており、ビードコア23aの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられている。そして、前記インナーライナー24及びカーカスプライ25は、ビードコア23aの周りにおいて、インナーライナー24がカーカスプライ25の内側に配置されている。
【0026】
また、ラバーチェーハー26は、ビードコア23aの周りにおいて、インナーライナー24及びカーカスプライ25を被覆するように配置されている。したがって、インナーライナー24及びカーカスプライ25は、それらの端部24a、25aを含めてビード23の表面に露出しない。
【0027】
前記ラバーチェーハー26は、300%モジュラス値が相違する低モジュラス層26aと高モジュラス層26bとを有している。そして、当該ラバーチェーハー26の低モジュラス層26aは、タイヤ幅方向内側のタイヤ径方向外方からビードトウ26cを終端とするタイヤ内面に配置されており、インナーライナー24に接触する部分を全て被覆している。また、ラバーチェーハー26の高モジュラス層26bは、ビードトウ26cを始端としてビード23のタイヤ幅方向外方の部分を全て被覆している。
【0028】
本実施例においては、低モジュラス層26aの300%モジュラス値は5MPaであり、高モジュラス層26bの300%モジュラス値は14MPaである。ちなみにインナーライナー24の300%モジュラス値は3MPaである。なお、ラバーチェーハー26の低モジュラス層26aの300%モジュラス値は、上記のモジュラス値に限られるものではなく、インナーライナー24の300%モジュラス値よりも高く、ラバーチェーハー26の高モジュラス層26bの300%モジュラス値よりも低ければよく、ラバーチェーハー26の低モジュラス層26aの300%モジュラス値は、好ましくは3.5MPa〜8.0Mpaの範囲であればよい。
【0029】
上記のように本実施例の空気入りタイヤを構成したことにより、インナーライナー24に対してラバーチェーハー26の高モジュラス層26bよりも低モジュラス層26aの方が接着性に優れているため、ラバーチェーハー26と、これに接触するインナーライナー24との接着性が良くなって耐久性が向上する。また、ラバーチェーハー26がリムに接触するビードトウ26cからタイヤ幅方向外方のビード部分は全てラバーチェーハー26の高モジュラス層26bにより被覆されているので、リム擦れ防止性能が低下しない。以上の結果から操縦安定性に優れた空気入りタイヤとなる。
【実施例3】
【0030】
図4は実施例3を示し、本実施例における空気入りタイヤのビード33は、上記実施例1と同様に、ビードコア33a及びビードコア33aよりタイヤ半径方向外方に延びる硬質ゴムよりなるビードフィラー33bを含み、タイヤ内面に配置されているインナーライナー34は、ビードコア33aの周りにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられている。カーカスプライ35は、タイヤトレッド、サイドウォール32及びビード33に亘って左右のビードコア33aの間を架け渡すように配置されており、ビードコア33aの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられている。そして、前記インナーライナー34及びカーカスプライ35は、ビードコア33aの周りにおいて、インナーライナー34がカーカスプライ35の内側に配置されている。
【0031】
また、ラバーチェーハー36は、ビードコア33aの周りにおいて、インナーライナー34及びカーカスプライ35を被覆するように配置されている。したがって、インナーライナー34及びカーカスプライ35は、それらの端部34a、35aを含めてビード33の表面に露出しない。
【0032】
前記ラバーチェーハー36は、300%モジュラス値が相違する低モジュラス層36aと高モジュラス層36bとを有している。そして、当該ラバーチェーハー36の低モジュラス層36aは、ラバーチェーハー36の厚さ方向内側のみに配されている。すなわち、タイヤ幅方向内側からビードトウ36cを経由してタイヤ幅方向外側を被覆するラバーチェーハー36は、低モジュラス層36aがインナーライナー34及びカーカスプライ35に接触しており、ラバーチェーハー36の外面はラバーチェーハー36の高モジュラス層36bが露出している。
【0033】
本実施例においては、低モジュラス層36aの300%モジュラス値は3.5MPaであり、高モジュラス層36bの300%モジュラス値は14MPaである。ちなみにインナーライナー34の300%モジュラス値は3MPaである。なお、ラバーチェーハー36の低モジュラス層36aの300%モジュラス値は、上記のモジュラス値に限られるものではなく、インナーライナー34の300%モジュラス値よりも高く、ラバーチェーハー36の高モジュラス層36bの300%モジュラス値よりも低ければよく、ラバーチェーハー36の低モジュラス層36aの300%モジュラス値は、好ましくは3.5MPa〜8.0Mpaの範囲であればよい。
【0034】
上記のように本実施例の空気入りタイヤを構成したことにより、インナーライナー34に対してラバーチェーハー36の高モジュラス層36bよりも低モジュラス層36aの方が接着性に優れているため、ラバーチェーハー36と、これに接触するインナーライナー34との接着性が良くなって耐久性が向上する。また、ラバーチェーハー36がリムに接触するビードトウ36cからビード36のタイヤ幅方向外方の部分は全てラバーチェーハー36の高モジュラス層36bにより被覆されているので、リム擦れ防止性能が低下しない。以上の結果から操縦安定性に優れた空気入りタイヤとなる。
【0035】
[比較テスト]
次に本発明に係る空気入りタイヤについて、以下の条件の下に、下記の従来例、上記の実施例1〜3及び下記の比較例1〜3について比較試験を行った。
【0036】
テスト項目
テストタイヤ:195/65R15 91H
試験車両: 国産1.8Lクラス セダン
リム擦れ防止性能を評価するために、ドラム耐久試験機により空気圧180kPa、荷重6kN、速度80km/hでの条件で、内部構造が露出するまでの時間を測定した。従来例の結果を100として指数で評価し、当該指数が大きいほどリム擦れ防止性能に優れていることを示す。
【0037】
耐久性を評価するために、FMVSS139に準拠した試験方法により、タイヤが故障するまでの走行距離を測定した。従来例の結果を100として指数で評価し、当該指数が大きいほど耐久性に優れていることを示す。
【0038】
操縦安定性を評価するために、テスト車両を速度100km/hでの実車走行により、運転者が乾燥路にて、操縦安定性の官能評価を行なった。従来例の評価を100として指数で示し、数値が大きいほど操縦安定性が良好であることを示す。
【0039】
[従来例の構成]
従来例の空気入りタイヤの概要は、図示を省略するが、一般的なタイヤ構造である。すなわち、ビードコアの周りにカーカスプライをタイヤ幅方向内側から外側へ巻き上げ、カーカスプライの外側に重ねてインナーライナーをタイヤ幅方向内側から外側へ巻き上げた構造であり、ラバーチェーハーは低モジュラス層を有しておらず、300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層のみが配置されている構成である。
【0040】
[比較例1の構成]
比較例1の空気入りタイヤの概要は、
図5に示すように、ビード103において、カーカスプライ105がビードコア103aの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられ、インナーライナー104がビードコア103aの周りに、その両端部がビード103及びカーカスプライ105の間に延在するようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられ、ビードコア103aの周りにラバーチェーハー106が配置された空気入りタイヤにおいて、ラバーチェーハー106は、低モジュラス層を有しておらず、300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層106bのみが配置されている構成である。すなわち、インナーライナー104には300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層106bが接触している構成である。
【0041】
[比較例2の構成]
比較例2の空気入りタイヤの概要は、
図6に示すように、ビード203において、カーカスプライ205がビードコア203aの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられ、インナーライナー204がビードコア203aの周りに、その両端部がビード203及びカーカスプライ205の間に延在するようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられ、ビードコア203aの周りにラバーチェーハー206が配置された空気入りタイヤにおいて、ラバーチェーハー206は300%モジュラス値が5MPaの低モジュラス層206aをカーカスプライ205の底面に接するようにビード下部中央部付近のみに配置されており、カーカスプライ205のビード下部中央部以外は、ビードの全表面を含めて300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層206bが配置されている構成である。すなわち、インナーライナー204には300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層206bが接触している構成である。
【0042】
[比較例3の構成]
比較例3の空気入りタイヤの概要は、
図7に示すように、ビード303において、カーカスプライ305がビードコア303aの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられ、インナーライナー304がビードコア303aの周りに、その両端部がビード303及びカーカスプライ305の間に延在するようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられ、ビードコア303aの周りにラバーチェーハー306が配置された空気入りタイヤにおいて、ラバーチェーハー306は300%モジュラス値が5MPaの低モジュラス層306aをカーカスプライ305の底面中央部のビード下部中央部付近からタイヤ幅方向外側に配置されており、カーカスプライ305の底面中央部のビード下部中央部付近からタイヤ幅方向内側には300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層306bが配置されている構成である。すなわち、インナーライナー304には300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層306bが接触している構成である。
【0043】
【表1】
【0044】
[比較試験の結果]
比較例1〜3については、インナーライナーには300%モジュラス値が14MPaの高モジュラス層が接触している構成であるため、従来例の一般構造の空気入りタイヤに比較して、耐久性が低下していた。
【0045】
また、比較例3においては、リムに接触するカーカスプライ305の底面中央部のビード下部中央部付近からタイヤ幅方向外側に300%モジュラス値が5MPaの低モジュラス層306aを配置する構成であるため、リム擦れ防止性能が大きく低下していた。
【0046】
なお、操縦安定性については、実施例1〜3及び比較例1〜3のいずれも、ビードにおいて、カーカスプライがビードコアの周りをタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側へ巻き上げられ、インナーライナーがビードコアの周りに、その両端部がビード及びカーカスプライの間に延在するようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側へ巻き上げられ、ビードコアの周りにラバーチェーハーが配置された構成であるため、全て好結果であった。
【0047】
以上の試験結果から、本発明に係る空気入りタイヤは、インナーライナーがラバーチェーハの低モジュラス層に接触して接着性を高めた構成であるため、耐久性に優れ、かつ、リム擦れ防止性能も良好であり、操縦安定性に優れていることが判明した。
【0048】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。