特許第5964245号(P5964245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964245
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】スクリューマシンの潤滑
(51)【国際特許分類】
   F01C 1/16 20060101AFI20160721BHJP
   F01C 21/04 20060101ALI20160721BHJP
   F01C 21/08 20060101ALI20160721BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20160721BHJP
   F16C 17/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F01C1/16 E
   F01C21/04 C
   F01C21/08
   F01C21/04 B
   F16C33/10 Z
   F16C17/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-552480(P2012-552480)
(86)(22)【出願日】2011年2月14日
(65)【公表番号】特表2013-519820(P2013-519820A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】GB2011050275
(87)【国際公開番号】WO2011098835
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2014年1月27日
(31)【優先権主張番号】1002411.5
(32)【優先日】2010年2月12日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512210272
【氏名又は名称】ザ シティ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】THE CITY UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100160772
【弁理士】
【氏名又は名称】大串 賢
(74)【代理人】
【識別番号】100178685
【弁理士】
【氏名又は名称】田浦 弘達
(72)【発明者】
【氏名】イアン ケネス スミス
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ ルディ ストシック
【審査官】 佐藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−250170(JP,A)
【文献】 特表2008−542629(JP,A)
【文献】 欧州特許第00898655(EP,B1)
【文献】 国際公開第97/043550(WO,A1)
【文献】 特開昭58−214601(JP,A)
【文献】 特表2004−502095(JP,A)
【文献】 特開2005−083339(JP,A)
【文献】 特表2007−519825(JP,A)
【文献】 特開2003−097212(JP,A)
【文献】 特開平04−246201(JP,A)
【文献】 特開2007−278176(JP,A)
【文献】 特開2006−234036(JP,A)
【文献】 特表平07−504955(JP,A)
【文献】 特開2002−310079(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013316(WO,A1)
【文献】 特開2008−196312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01C 1/16
F01C 21/04、08
F16C 17/00
F16C 33/10
F04C 18/16
F04C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体として湿った蒸気を使用するスクリューエキスパンダであって、
互いに交わるボアを少なくとも2個有するケーシングであって、ボア軸線が対として同一平面上に存在するケーシングと、
前記ケーシングのボア軸線に一致する軸線を有し、当該軸線の周りに回転するように取り付けられる雄ロータ及び雌ロータと、を備えるエキスパンダにおいて、
前記ロータは、それぞれ螺旋状のランド部を有し、当該ランド部は、当該ランド部のロータとは異なる少なくとも1個の他のロータにおけるランド部間の溝部に対して噛み合い、
横断面において、前記雄ロータは、前記ランド部に対応し、ピッチ円から外方に突出する1組のローブのセットを有し、
横断面において、前記雌ロータは、ピッチ円から内方に凹み、当該雌ロータの前記溝部に対応する1組の窪みのセットを有し、
前記雄ロータの前記ランド部および前記溝部の個数は、前記雌ロータの前記ランド部および前記溝部の個数とは異なり、
横断面において、少なくとも前記雄ロータの前記ピッチ円から外方に突出する前記ローブの部分における輪郭、及び少なくとも前記雌ロータの前記ピッチ円で内方に凹む前記窪みの輪郭は、同一ラック構造によって形成され、
前記ラック構造は、前記雄ロータの軸線の周りに一方向に湾曲され、前記雌ロータの軸線の周りに反対方向に湾曲させ、前記ラックにおける前記ロータのより高い圧力側面を形成する部分は、前記ロータ相互間のロータ共役作用によって生じ、
使用にあたり、ほぼ排他的に、湿った蒸気である作動流体に含まれる水でのみ前記ロータの前記螺旋状ランド部及び前記螺旋状溝部を潤滑し、
使用にあたり、ほぼ排他的に、前記湿った蒸気である作動流体に含まれる水でのみ潤滑する少なくとも1個の軸受によって、前記ロータを支持し、
前記湿った蒸気である作動流体に含まれる、潤滑を行う水は、エキスパンダに流入する、湿った蒸気に由来するものとし、前記湿った蒸気に予め余分な水を加えることをしない、スクリューエキスパンダ。
【請求項2】
請求項1記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記螺旋状ランド部及び前記螺旋状溝部を低摩擦性のコーティングで被覆した、スクリューエキスパンダ。
【請求項3】
請求項2記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記コーティングは炭化物相およびカーボン相を含む、スクリューエキスパンダ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記軸受は、流体力学的な軸受とした、スクリューエキスパンダ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記軸受は、転動素子を有する軸受とした、スクリューエキスパンダ。
【請求項6】
請求項1〜のうちいずれか一項に記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記ロータは、互いに噛み合う螺旋状ランド部及び螺旋状溝部を介して一方のロータから他方のロータに伝達される同期トルクによって同期回転する、スクリューエキスパンダ。
【請求項7】
請求項記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記ロータ間で作用する調時ギアを持たない、スクリューエキスパンダ。
【請求項8】
請求項1〜のうちいずれか一項に記載のスクリューエキスパンダにおいて、さらに、前記ロータに加わる軸線方向荷重に抗して作用するスラストピストンを備える、スクリューエキスパンダ。
【請求項9】
請求項記載のスクリューエキスパンダにおいて、前記スラストピストンは、湿った蒸気である作動流体の圧力によって動作する、スクリューエキスパンダ。
【請求項10】
作動流体として湿った蒸気を使用するスクリューエキスパンダであって、
互いに交わるボアを少なくとも2個有するケーシングであって、ボア軸線が対として同一平面上に存在するケーシングと、
前記ケーシングのボア軸線に一致する軸線を有し、当該軸線の周りに回転するように取り付けられる雄ロータ及び雌ロータと、を備え、
前記ロータは、それぞれ螺旋状のランド部を有し、当該ランド部は、当該ランド部のロータとは異なる少なくとも1個の他のロータにおけるランド部間の溝部に対して噛み合い、
横断面において、前記雄ロータは、前記ランド部に対応し、ピッチ円から外方に突出する1組のローブのセットを有し、
横断面において、前記雌ロータは、ピッチ円から内方に凹み、当該雌ロータの前記溝部に対応する1組の窪みのセットを有し、
前記雄ロータの前記ランド部および前記溝部の個数は、前記雌ロータの前記ランド部および前記溝部の個数とは異なり、
横断面において、少なくとも前記雄ロータの前記ピッチ円から外方に突出する前記ローブの部分における輪郭、及び少なくとも前記雌ロータの前記ピッチ円で内方に凹む前記窪みの輪郭は、同一ラック構造によって形成され、
前記ラック構造は、前記雄ロータの軸線の周りに一方向に湾曲され、前記雌ロータの軸線の周りに反対方向に湾曲させ、前記ラックにおける前記ロータのより高い圧力側面を形成する部分は、前記ロータ相互間のロータ共役作用によって生じるものとした、該スクリューエキスパングを潤滑する方法において、
ほぼ排他的に、湿った蒸気である作動流体に含まれる水でのみ前記ロータの前記螺旋状ランド部及び前記螺旋状溝部を潤滑し、
前記ロータを支持する軸受を潤滑するのに、ほぼ排他的に前記湿った蒸気である作動流体に含まれる水を使用し、
前記湿った蒸気である作動流体に含まれる、潤滑を行う水は、エキスパンダに流入する、湿った蒸気に由来するものとし、前記湿った蒸気に予め余分な水を加えることをしない、方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、互いに噛み合う螺旋状ランド部及び螺旋状溝部を介して一方のロータから他方のロータに伝達される同期トルクによって前記ロータを同期回転させる、方法。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか一項に記載のスクリューエキスパンダを備える、又は請求項10又は11に記載の方法により作動するスクリューエキスパンダを備えた、発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクリューエキスパンダのようなスクリューマシンの潤滑に関し、スクリューエキスパンダは、例えば、作動流体として蒸気を使用する発電機に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
容積式エキスパンダは、発電に使用することが、ますます普及してきている。最も成功した容積式マシンのうちの1つとして、多軸スクリューマシン(最も一般的には2軸スクリューマシン)がある。このようなマシンは、スヴェンスカ・ローター・マスキナー氏(SRM)による、特許文献1(英国特許第1197432号)、特許文献2(英国特許第1503488号)、特許文献3(英国特許第2092676号)に開示されている。
【0003】
スクリューマシンは、コンプレッサ(圧縮機)又はエキスパンダ(膨張機)として使用することができる。本発明で最も広い概念は両タイプのスクリューマシンに関するが、本発明はエキスパンダとの関連で特別な恩典を有する。本明細書は、従って、主にエキスパンダとしてスクリューマシンを使用することに関連して本発明を説明する。エキスパンダとして使用するスクリューマシンは、本明細書において、単にスクリューエキスパンダと称して説明する。
【0004】
タービンエキスパンダに対するスクリューエキスパンダの重要な利点は、ダメージを受けるリスクがほとんどない湿式作動流体(すなわち、ガス相及び液体相の双方を含む流体)を取り扱うことができる点である。この理由は、スクリューマシン内での流体速度が概してタービンマシンにおいて遭遇される流体速度よりも低いオーダーの大きさであるからである。したがって、スクリューエキスパンダは純粋な液体から乾燥した蒸気まで任意な組成の流体を許容することができるとともに、様相間の熱力学的平衡を維持する。これに比べて、タービンエキスパンダは、作動流体に液相が多く含まれる場合、ブレード腐食を受け易い。
【0005】
スクリューエキスパンダは、互いに交わるボアを少なくとも2個有するケーシングを有する。ボアは、それぞれ互いに噛み合う螺旋ローブ付きのロータを収容し、これらロータは、固定したケーシング内で互いに対向する方向に回転する。ケーシングは、ロータ全体を極めて密接した嵌合関係となるよう包囲する。ボアの長手方向中心軸線は、対として同一平面上に存在し、通常互いに平行である。雄(又は「メイン」)ロータ及び雌(又は「ゲート」)ロータをそれぞれに対応する軸線の周りに回転するよう軸受を介してケーシングに取り付け、各軸線はケーシングにおける対応のボア軸線に一致する。
【0006】
ロータは、通常軟鋼のような金属で形成するが、高速度鋼で形成することもできる。さらに、ロータをセラミック材料で形成することもできる。通常、金属の場合、それらは機械加工するが、代案として研磨又は鋳造することができる。
【0007】
ロータはそれぞれ螺旋状のランド部を有し、これらランド部は少なくとも1個の他の方ロータにおけるランド間の螺旋状の溝部に噛み合う。互いに噛み合うロータは、歯として作用するローブで、効果的にも、1対又はそれ以上の対の螺旋ギアホイールを形成する。横断面で見ると、各雄ロータは、ランド部に対応し、またピッチ円から外方に突出する1組のローブのセットを有する。同様に、横断面で見ると、各雌ロータは、そのピッチ円から内方に凹み、また雌ロータの溝に対応する1組の窪みのセットを有する。雄ロータのランド部および溝部の個数は、雌ロータのランド部及び溝部の個数とは異なる。
【0008】
ロータ輪郭(プロファイル)の従来技術実施例を添付図面の図1(a)〜1(d)及び図2(a)〜2(d)に示し、これを以下により詳細に説明する。
【0009】
スクリューエキスパンダの動作原理は、三次元の容積変化に基づく。各ロータにおける順次の任意な2個のローブと周囲のケーシングとの間における空間は、個別の作動チャンバを形成する。このチャンバの容積は、回転が進行するにつれ、2個のロータ間における接触ラインの変位に起因して変化する。チャンバの容積は、ローブ間の全体長さがロータ間の噛み合い接触によって妨害されていない位置で最大となる。逆に、チャンバの容積は、ロータ間の噛み合い接触が端面でフル接触する位置で、ほぼゼロの値の最小となる。
【0010】
膨張されるべき流体は、主にケーシングの前面に位置する高圧ポートまたは流入ポートを形成する開口を経てスクリューエキスパンダに流入する。このように流入した流体は、ローブ間で規定されるチャンバを満たす。回転が進行し、またロータ間における接触ラインは遠ざかるにつれて、各チャンバの閉じ込められた(トラップされた)容積は増加する。流入ポートが遮断されるポイントで、充填または流入プロセスは終了し、またそれ以上の回転によりスクリューエキスパンダを経て下流に移動するにつれて、流体は膨張する。
【0011】
雄ロータ及び雌ロータのローブ相互が再係合し始めるポイントにおけるさらなる下流で、ケーシングにおける低圧ポート又は排出ポートが露出する。更なる回転がローブとケーシングとの間で閉じ込められた流体量を減らすにつれて、そのポートは更に開く。このことは、ほぼ一定圧力で排出ポートから流体を排出させる。トラップした容積がほぼゼロになるまで減少し、また、ローブ間に閉じ込められた流体の全てが駆出されるまで、このプロセスは継続する。
【0012】
このプロセスは、それから各チャンバに関して繰り返される。このようにして、各回転で得られる順次の充填、膨張および排出のプロセスは、雄ロータ及び雌ロータにおけるローブの個数、及びしたがって、ローブ間のチャンバの個数に依存する。
【0013】
ロータが回転するにつれて、ローブ間の噛み合い動作は基本的にヘリカルギア(はす歯歯車)のそれと同様である。さらに、しかしながら、ローブの形状は、いかなる接触位置でも、封止ラインがロータ間及びロータとケーシングとの間に形成され、順次のチャンバ間で内部漏出を防止できるものでなければならない。更なる必要条件は、ローブ間のチャンバをできるだけ大きくして、1回転あたりの流体移送(排出)量を最大にしなければならないということである。また、ロータ間の接触力は小さくして、内部摩擦損を最小にし、また摩耗を最小にできるようにしなければならない。
【0014】
ロータ相互間及びロータとケーシングとの間に小さいクリアランスが存在するという製造限界があるので、ロータ輪郭は、スクリューエキスパンダの流速及び効率を決定する上で最も重要な特徴である。いくつかのロータ輪郭が、長年にわたって試みられ、成功の度合いに変動があった。
【0015】
最も初期のスクリューエキスパンダは、図1(a)に示すように、極めて単純な対称ロータ輪郭を使用した。横断面で見られるように、雄ロータ10は、ピッチ円(半径中心がピッチ円14上に位置する)の周りに等角度間隔で離れて位置する、部分円ローブ12を有する。雌ロータ16の輪郭は単にこれを反映して、部分円窪み18の等価な1組のセットを有する。このような対称形状のロータ輪郭は、大きな内部漏洩を引き起こす、極めて大きなブローホール面積を有する。このことは、対称形状のロータ輪郭を高圧力比又は適度な圧力比でさえも含むいかなる用途からも排除する。
【0016】
この問題を解決するために、SRMは、図1(b)に示したような、また上述の特許文献1〜3に記載された、種々の形式の「A」輪郭を導いた。「A」輪郭は、内部漏出を大幅に減らし、またこのことによりスクリューコンプレッサが往復動マシンと同じオーダーの効率を得ることができた。図1(c)に示したサイクロン輪郭は、雌ロータ16のローブが脆弱化するという犠牲を払うものの、漏出を一層減らした。このことは、高い差圧で雌ロータ16が歪むというリスクがあり、それらの製造を困難にする。図1(d)に示したハイパー輪郭により、雌ロータ16を強化することによってこの弱点克服を試みた。
【0017】
上述した従来技術のロータ輪郭の全てにおいて、噛み合うロータ相互間の相対運動は、回転及び摺動の組合せである。
【0018】
この背景に対して、本出願人は、特許文献4(国際公開第97/43550号)として発行された国際特許出願第PCT/GB97/01333号に記載したような、「N」ロータ輪郭を開発した。特許文献4の内容は、参照することにより本明細書に組み込まれるものとする。「N」ロータ輪郭に対する本明細書の参照は、本明細書に記載され、また特許文献4に定義された本発明の輪郭に言及する。
【0019】
「N」ロータ輪郭は、断面から分かるように、少なくとも雄ロータのピッチ円から外方に突出するローブの部分における輪郭、及び少なくとも雌ロータのピッチ円で内方に凹む窪みの輪郭は、同一ラック構造によって形成されるという特徴がある。ラック構造は、雄ロータの軸線の周りに一方向に湾曲させ、また、雌ロータの軸線の周りに反対方向に湾曲させ、ラックにおけるロータのより高い圧力側面を形成する部分は、ロータ相互間のロータ共役作用によって生ずる。
【0020】
有利には、ラックの一部分、好ましくはロータローブのより高い圧力側面を形成する部分は、サイクロイド形状を有するものとする。代案として、この部分は、一般化した放物線例えば、式:ax+by =1で表される放物線として形成する。
【0021】
通常、雄ロータの溝の底部は「歯元」部分としてピッチ円より内側に位置し、また雌ロータのランド部の先端は「歯先」部分としてそのピッチ円から外方に突出する。望ましくは、これら歯元部分及び歯先部分は、やはり、ラック構造によって形成する。
【0022】
図2(a)の2軸式スクリューマシンの断面で示したメイン又は雄ロータ1及びゲート又は雌ロータ2は、それぞれに対応する中心O及びOの周りにおけるピッチ円P,P に沿って、それぞれに対応する角度Ψ及びτ = Z/ZΨ= Ψ/iにわたり転動する。
【0023】
ピッチ円Pは、それぞれロータにおけるランド部及び溝部の個数に比例した半径を有する。
【0024】
弧(アーク)が角度パラメータφの任意の関数としてメインロータまたはゲートロータで規定され、以下のように下付き添え字dで示される場合、

xd = xd (φ) (1)

yd = yd (φ) (2)

【0025】
他のロータにおける対応する弧は、φ及びΨ双方の関数であり、以下のようになる。

x = x (φ,Ψ) = -acos(Ψ/i) + xd coskΨ + ydsinkΨ (3)

y = y (φ,Ψ) = asin(Ψ/i) - xd sinkΨ + ydcoskΨ (4)
【0026】
Ψは、メインロータの回転角度であり、これに対し、一次の弧及び二次の弧が接触ポイントを有する。この角度は、Vintovie kompressori、Mashgizレニングラード、1960のサクウン氏によって記載された、以下の共役条件に合致する:

(δxd/δφ)(δyd/δΨ) - (δxd/δΨ)(δyd/δφ) = 0 (5)
【0027】
式(5)は全ての「d」曲線のエンベロープの微分方程式であり、その拡張形式は、以下の通りである。

(δyd/δ xd)((a/i)sinΨ-kyd) - (-(a/i)cosΨ+kxd) = 0 (6)
【0028】
式(6)は、sinΨの二次方程式として表わすことができる。式(6)は解析的に解くことができるが、その数値解はその混合根のために推奨される。決定した後、Ψを式(3)及び(4)に代入し、対向するロータにおける共役曲線を得る。この手順は、ある1個の弧だけの定義を必要とする。他の弧は、一般的な手順によって常に見つかる。
【0029】
それらの座標系がロータとは独立して定義される場合であっても、これらの方程式は有効である。このように、ロータに関係なく全ての「d」曲線を特定できる。このような構成は、幾つかの曲線を、より単純な数学的形式で表わすことができ、また、さらに曲線生成手順を簡素化することができる。
【0030】
このタイプの特別な座標系は、ラック(無限半径のロータ)座標系であり、図2(b)のRで示され、このRは図2(a)に示されるロータ輪郭を生成するためのラックにおける1単位(ユニット)を示す。この場合、ラックにおける弧は、以下のパラメータの任意な関数として定義される。
xd = xd (φ) (7)
yd = yd (φ) (8)
【0031】
ロータにおける二次の弧は、φ及びΨの関数として、これら式(7),(8)から以下のように導かれる。
x = x (φ,Ψ) = xd cosΨ -(yd-r)sinΨ (9)
y = y (φ,Ψ)+xd sinΨ+(yd-rw Ψ)cosΨ (10)
【0032】
Ψは、所与の弧が投影されるロータの回転角度を表し、接触ポイントを規定する。この角度は、条件式(5)を満たし、以下のとおりとなる。
(dyd/dxd)(r-yd)-(rw-xd) = 0 (11)
【0033】
明確な解Ψを式(9)及び(10)に代入し、ロータにおける共役円弧を見出す。
【0034】
図2(c)は、図2(a)に示されるロータにおける図2(b)のラック形状の関係を示し、またラック及びラックによって形成されるロータを示す。図2(d)は、図2(c)に示したロータの輪郭に、比較として従来技術のロータ対を重ね合わせて示す。
【0035】
どの曲線がどこにあっても、その簡便な数式は以下の通りとすることができる。すなわち、
axpd + byqd = 1 (12)
【0036】
式(12)は「一般円」曲線である。p=q=2そしてa=b=1/rでは円である。a及びbが等しくない場合、楕円となる。また、a,bが互いに正負逆符号であると、双曲線となる。そして、p=1及びq=2では、放物線となる。
【0037】
1つの座標系を有する全ての所定曲線を規定する便宜に加えて、ラック生成は、ロータ座標系と比較して2つの利点をもたらす。すなわち、a)ラック輪郭は他のロータに比較して最短の接触経路を表す(このことは、ラックからのポイントを、何らのオーバーラップ又は他の欠陥もなくロータに投影できることを意味する)、b)ラックにおける直線ラインはロータにインボリュート曲線として投影される。
【0038】
ロータ輪郭の高圧側におけるブローホール域を最小化するために、この輪郭は通常双方のロータの共役動作によってでき、この輪郭は双方のロータの高圧側をアンダーカットする。この作業は、広く使われている。特許文献1では、メインロータおよびゲートロータにおける特異点を使用する;特許文献3及び特許文献5(英国特許第2112460号)では円使用した;特許文献6(英国特許第2106186号)では楕円を使用した;そして、特許文献7(欧州特許第0166531号)では放物線を使用した。適切なアンダーカットは、前もってラックから直接に得ることはできなかった。ロータの共役動作を正確に置換できるのは、ラックに対する単に1つの解析的曲線が存在するだけということが判明した。これは、好適にはサイクロイドであり、このサイクロイドをメインロータにおけるエピサイクロイドとして、またゲートロータにおける内サイクロイドとしてアンダーカットする。これは、双方のロータにおけるエピサイクロイドを生じる特異点によって生ずるアンダーカットとは対照的である。このことによる不都合さは、通常そのピッチ円内側にゲートロータの外径を相当減少によって軽減される。これは、ブローホール域を減らすが、スループット(処理能力)も減らす。
【0039】
共役動作は、回転中における1個のロータにおける1ポイント(又は曲線上の複数個のポイント)が他のロータにおける経路を横切るときのプロセスである。2つ以上の共通接触ポイントが同時に存在する場合、ロータ輪郭に「ポケット」を生じて、アンダーカットが生ずる。小さい曲線部分(又はポイント)が長い曲線部分を生成する場合、相当な滑り(摺動)が生ずるとき、それは通常起こる。
【0040】
ラックの高い耐圧部分がラックにおける適切な曲線をアンダーカットするロータ共役動作によって生ずるので、「N」ロータ輪郭はこの欠陥を克服する。このラックを後で使用して、通常のラック生成手順によって、メイン及びゲート双方のロータ輪郭を形成する。
【0041】
以下は、空気、一般的冷媒および多くの処理ガスに対する、組み合わされた手順によって得られた効果的な圧縮用に設計されたラック形成輪郭ファミリ(系統)の簡単なロータローブ形状に関する詳細な説明である。この輪郭は、公開された文献において挙げられた最近のスクリューロータ輪郭のほとんどすべての要素を含む、が、その特徴は、付加的な改善化および最適化をするためのしっかりとした基礎を提供する。
【0042】
ラックにおける全ての主要弧(アーク)の座標は、ラック座標系と関連して集約される。
【0043】
この輪郭のローブは、いくつかの弧(アーク)に分割される。
輪郭弧間における分割は、大文字アルファベットで示し、また、各弧は図2(c)に示すように、個別に規定する。
【0044】
セグメントA−Bは、上述の式(12)のタイプであり、p=0.43及びq=1としたラックにおける一般弧である。
セグメントB−Cは、p=q=1としたラック上の直線ラインである。
セグメントC−Dは、p=q=2,a=bとしたラックにおける円弧である。
セグメントD−Eは、ラック上の直線ラインである。
セグメントE−Fは、p=q=2,a=bとしたラックにおける円弧である。
セグメントF−Gは、直線ラインである。
セグメントG−Hは、上述の式(12)のタイプであり、p=1,q=0.75としたメインロータにおけるの一般弧である弧G−Hのアンダーカットである。
ラックにおけるセグメントH−Aは、上述の式(12)のタイプであり、p=1,q=0.25としたゲートロータにおける一般弧である弧A−Hのアンダーカットである。
各接合ポイントA,…,…H、隣接するセグメントは、共通接線を有する。
ラック座標は、式(7)〜(11)に対して逆算する手順で得られる。
その結果、ラック曲線E−H−Aが得られ、図2(c)に示されるようになる。
【0045】
図2(d)は、特許文献3の図5〜7に示される構成に従って形成した対応ロータの周知の輪郭5,6に重ね合わせた本発明ラック手順によって形成したメインロータ3及びゲートロータ4の輪郭を示す。
【0046】
中心間距離が同一及びロータ直径が同一である場合、ラックで形成した輪郭は、2.7%の移送量増加が得られるとともに、雌ロータのローブがより厚く、したがって、より強度が強くなる。
【0047】
図2(c)に示したラックの変更において、セグメントGH及びHAは、以下の式によるサイクロイドの連続セグメントGHAによって形成される。即ち、
y=Rcosτ−R,y=Rsinτ−Rτ
ここで、R はメインロータ(したがって、メインロータのボア)の外側半径であり、Rはメインロータのピッチ円半径である)。
【0048】
セグメントAB,BC,CD,DE,EF及びFGは、すべて上述の式(12)によって生ずる。セグメントABに関しては、a=b,p=0.43,q=1とする。他の部分に関しては、a=b=1/r,及びp=q=2とする。p及びqの値は、±10%変動することができる。セグメントBC,DE,FGに関しては、rは、メインロータのピッチ円半径より大きくし、また好適には、無限大にしてこのようなセグメントそれぞれが直線ラインとなるようにする。曲率a=bにおいてp=q=2のとき、セグメントCD及びEFは円弧となる。
【0049】
上述の「N」ロータ輪郭は、ギア装置の数学的理論に基づく。したがって、図1(a)〜1(d)につき上述したいかなるロータ輪郭とも異なり、ロータ間の相対運動は、純粋転動に極めて近似する。ロータ間の接触帯域は、それらのピッチ円に極めて近接した状態にある。
【0050】
「N」ロータ輪郭は、他のロータ輪郭よりも多くの付加的な利点があり、これら利点としては、低トルク伝達、及びひいてはロータ間の小さい接触力、強度の高い雌ロータ、多くの移送量、及び低い漏出度の結果となる短い封止ラインが得られる。全体として、「N」ロータ輪郭の使用によれば、とくに、より低速の先端速度で、スクリューエキスパンダ・マシンの断熱効率を向上し、現行の他のロータ輪郭より10%もの利得向上が記録された。
【0051】
従来技術で容認された英知は、ロータ螺旋形状部は潤滑すべきではなく、外部で噛み合う「調時(タイミング)」ギアを設けてロータの相対的運動を制御し、また同期させなければならないというものである。ロータ間における同期トルクの伝達は調時ギアを介して行い、したがって、ロータの噛み合う螺旋形状部間の直接接触を回避する。このようにして、調時ギアによって、ロータの螺旋形状部を潤滑フリーにすることができる。
【0052】
代案として、外部の調時ギアを省略することができ、これにより、ロータの同期化は単にそれらの噛み合い関係によってのみ決定される。このことは、必然的に、互いに噛み合う螺旋形状部を介して一方のロータから他方のロータに対して何らかの同期トルク伝達を行わなければならないことを意味する。この場合、ロータの螺旋形状部は潤滑してロータ間の強い接触を回避しなければならず、さもないと、その後に摩耗を生じ、障害を招くであろう。
【0053】
ロータの同期化及びそれらの異なる潤滑必要性に関するこれら代替的アプローチを反映して、主な2タイプのスクリューエキスパンダが存在する。すなわち、「オイルフラッド(オイル横溢)」型及び「オイルフリー(オイルなし)」型である。
【0054】
オイルフラッド型マシンは、ロータの螺旋形状部及びそれらの軸受を潤滑し、またロータ間のギャップ、及びロータと周囲のケーシングとの間のギャップを封止する作動流体に含まれるオイルに依存する。このことは、外部の軸封装置を必要とするが、内部封止は不要であり、機械的設計が簡単である。したがって、それは製造安価であり、コンパクトかつ極めて効率的である。
【0055】
これとは対照的に、オイルフリー型マシンは、作動流体をオイルに混合しない。したがって、調時ギアを設け、ロータの螺旋形状部間の接触を回避する。各調時ギアホイールは、対応する各ロータと一緒に回転し、またこれら調時ギアホイールがケーシングの外側で噛み合い、それら調時ギアホイールが外部でオイルにより潤滑される。このように、「オイルフリー」の概念は、マシン全体としてよりもむしろケーシング内部に関連するものである。オイルがケーシングに侵入して、作動流体に含まれようになるのを妨止するには、ケーシングとギアホイールとの間における各軸において内部軸封装置を必要とし、並びに外部軸封装置を必要とする。オイルフリー型マシンは相当大形になり、オイルフラッド型マシンより製造が相当高価になる。しかし、オイルフリー型のマシンにおけるロータは、過剰な粘性ドラッグがなく、より高速度で回転することができる。したがって、オイルフリー型マシンの容積当たりの流動能力は、オイルフラッド型マシンよりも高い。
【0056】
オイルフラッド型及びオイルフリー型の双方のマシンは、潤滑オイルがマシンに再導入される前に潤滑オイル用の外部熱交換器を必要とする。エキスパンダとしての用途において、熱交換器の目的は、オイルフラッド型マシンとオイルフリー型マシンとの間で異なる。
【0057】
オイルフリー型マシンは、熱交換器を使用してオイルを冷却する。そのための流体回路を完成させるため、オイルタンク、オイルフィルタおよび循環ポンプを必要とし、これにより、軸受及び調時ギアにオイルを戻す。逆に、オイルフラッド型マシンは、エキスパンダの下流側に、セパレータを必要とし、このセパレータにより、排出された作動流体からオイルを除去する。この後、分離したオイルはポンプ内で再加圧しなければならず、また熱交換器によりオイルを加熱してからオイルをケーシングの高圧側端部に帰還させなければならない。このことは、ケーシングに含まれる作動流体の冷却を回避することであり、このようにしないとエキスパンダの効率を低下させる。
【0058】
これら潤滑システムは両方のタイプのエキスパンダにおける総コストを増大させるが、付加コストはオイルフリー型エキスパンダにとっては相当大きくなる。実際、オイルフリー型エキスパンダの総コストは、一般的に等しい容量のオイルフラッド型エキスパンダにおけるコストより大きいオーダーとなる。
コストの他に、オイルフリー型及びオイルフラッド型の双方のマシンにおける潤滑システムは、他の欠点がある。
【0059】
オイルフリー型エキスパンダを生産しようとする試みは、内部軸封装置が作動流体と、調時ギアを潤滑するオイルとを完全に分離することができないという困難に突き当たった。この問題は、作動流体が冷媒または炭化水素であって、潤滑オイルに高い可溶性を示す場合、特に深刻である。
【0060】
オイルフラッド型エキスパンダの場合、実際的には、膨張後、オイルを作動流体から完全に分離し、かつ除去することは不可能である。このことにより、システムの他の部分にオイルが徐々に蓄積することになり、それは動作上の問題点を引き起こす。もちろん、同じ問題は、封止構造によりオイルを作動流体と完全に分離することができないオイルフリー型エキスパンダにもある。しかし、オイルフリー型エキスパンダは、概して、この点に関して、オイルフラッド型エキスパンダより良好である。したがって、特にオイル汚染の影響を受け易い用途では、大形であり、構造が複雑かつコストが相当高いにもかかわらず、オイルフリー型エキスパンダの採用を必要とする場合がある。
上述したように、スクリューエキスパンダのロータはそれらロータの軸線周りに回転するよう軸受においてケーシングに取り付ける。様々なタイプの軸受を使用できる。潤滑は、もちろんこの軸受でも問題となる。
【0061】
大多数のスクリューマシンは、ロータを支持するために、転動素子を有する軸受を使用する。この軸受は、軸受公差を極めて小さくし、ひいては、ロータ相互間及びロータとケーシングとの間で維持されなければならないクリアランスを最小にする。したがって、この軸受は、内部漏出を最小にし、それ故効率を最大にする。
【0062】
転動素子を有する軸受としては、玉軸受及びころ軸受がある。それら軸受は、2つの表面を分離する、球状ボール又は円筒状若しくは円錐台形状のローラからなる1組のセットにより転動接触を維持することによって機能する。適切に配列した場合、転動素子を有する軸受は半径方向及び軸線方向の荷重を支持することができる。転動素子とこれら転動素子が走行するトラックとの間における主たる転動運動にもかかわらず、オイルの境界薄膜をこれら部分間に維持し、摩耗及び摩擦熱を最小にしなければならない。
【0063】
本願人による特許文献8(国際公開第2006/131759号として発行された国際特許出願PCT/GB2006/02148号)は、作動流体の液体成分が溶解したオイルを低い濃度でしか含まないとしてもスクリューエキスパンダにおける転動素子を有する軸受を潤滑できることを記載している。その液体成分を軸受に供給する場合、作動流体は摩擦熱によって蒸発し、また十分なオイルを軸受ハウジングに残留させ、軸受動作を効果的に維持するのに必要な境界薄膜を供給する。しかし、特許文献8の潤滑原理は、スクリューエキスパンダを使用して、蒸気のような流体、又はオイルがその液相のまま溶解できない場合、若しくは作動流体内に潤滑オイルが少量でも存在することが許されない場合の他の任意な流体を膨張させるときには、適用できない。
【0064】
特許文献9(ショー氏に対する米国特許第6217304号)は、冷凍装置用のスクリューコンプレッサについて記載しており、この場合、理論的には、ガス状相の冷媒に含まれる液状冷媒の液滴を使用してロータを封止、冷却及び潤滑する。所要に応じて、複雑になる犠牲の下に、冷媒流内に液状冷媒の液滴を注入する装置を設ける。しかし、特許文献9は、このようなコンプレッサを作動流体内にオイルがない状態でどのように稼働させるかについての実現可能な開示がない。特許文献9は、単にロータ間の小さいクリアランスを可能にする雄ロータのための熱可塑性又は他の適切な複合材料の使用に言及しているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】英国特許第1197432号明細書
【特許文献2】英国特許第1503488号明細書
【特許文献3】英国特許第2092676号明細書
【特許文献4】国際公開第97/43550号パンフレット
【特許文献5】英国特許第2112460号明細書
【特許文献6】英国特許第2106186号明細書
【特許文献7】欧州特許第0166531号明細書
【特許文献8】国際公開第2006/131759号パンフレット
【特許文献9】米国特許第6217304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0066】
特許文献9が開示されているにも関わらず、本願人の知見では、これまで多量のオイルが冷媒に溶解したり、含まれたりすることなしに、うまく動作する冷凍コンプレッサは存在しなかった。この特許文献9は、閉回路コンプレッサに対して開回路エキスパンダにおいて作動流体として蒸気を使用する場合の選択肢ではない。さらに、コンプレッサを潤滑するのに液状冷媒を使用することは、冷媒の不完全な蒸発、及びそれ故、極めて貧弱な性能係数(すなわち冷凍効率)となることを意味する。したがって、特許文献9で提案された設計選択は、実用的マシンにおいて正当化するのが困難である。
本発明は、この背景に対してなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0067】
本発明の一態様によれば、本発明は、液相を含有する作動流体を使用するスクリューマシンであり、このマシンは、互いに噛み合いかつ潤滑される螺旋形状部を有する2個又はそれ以上のロータを備え、前記ロータは本明細書で定義された「N」輪郭を有し、使用にあたり、前記ロータの螺旋形状部の潤滑は、排他的に又は少なくとも大部分、作動流体の液相部分で行うものとする。
【0068】
さらに、本発明は、液相を含有する作動流体を使用するスクリューマシンであり、このマシンは、互いに噛み合いかつ潤滑される螺旋形状部を有する2個又はそれ以上のロータを備え、前記ロータは本明細書で定義された「N」輪郭を有する、該スクリューマシンを潤滑する方法を提供し、この方法は、前記ロータの螺旋形状部の潤滑を、ほぼ排他的に、作動流体の液相部分で行う。
【0069】
本明細書における「ほぼ排他的に」との言及は、種々の僅かな又は微量の他の流体が、意図的に添加するものでなくても、作動流体に含まれることがあり、また若干の極めて僅かな潤滑効果を有する場合があることを反映させることを意図する。しかし、効果的な潤滑は、依然として全体的に又は主に、特定作動流体における液相部分の存在に依存するものであり、液相部分が存在しないと潤滑が有効でなくなる。
【0070】
基本的に、潤滑の全責務は、したがって、特定作動流体の液相部分によって行われる。さらに、作動流体に含まれる潤滑液体は、エキスパンダに流入する作動流体に由来するようにするのが好適であり、作動流体に余分な液体は予め添加しないでおく。このことは、有利で簡単な構成である。しかし、余分な液体を予め添加することは、必要に応じて可能であり、最も広義には本発明から排除しない。
【0071】
螺旋形状部用の潤滑剤として作動流体における液相部分を使用することは、オイル状潤滑剤を螺旋形状部に配給する高価な潤滑システムを不要にする。この液相使用によれば、作動流体のオイル汚染、及び作動流体がマシンを通過した後にオイルを作動流体から分離する必要性を回避する。
【0072】
ロータは、任意の適切な材料で製造することができる。生ずるいかなる摩耗をも最小にするため、ロータの螺旋形状部を、低摩擦性のコーティング、例えばエリコン・バルザーズ(Oerlikon Balzers)によって市販されているBalinit C2(商標)で被覆することができる。Balinit C2は、物理的蒸着(PVD)によって堆積し、炭化物相及びカーボン相を含む「WC/C」コーティングである。ロータにおける少なくとも螺旋形状部に低摩擦性のコーティングを使用することは、摩耗特性がこのようなコーティングを望ましくする場合に、好適である。しかし、コスト上の理由で、できれば、ロータにおける螺旋形状部をコーティングしないでおくのが、好ましい。「N」輪郭のロータを使用することによって低摩耗を可能にするのが、本発明の潜在的利点であるからである。
【0073】
ロータを十分に潤滑するのを確実にするために、コーティングしない「N」輪郭ロータを使用するのが最も安全である。しかし、本出願人の試験では、低摩擦性のコーティング(例えばBalinit C2)で被覆する場合、他の輪郭を有するロータを若干の用途で用いることができることも示唆する。したがって、本発明の他の態様によれば、液相を含有する作動流体を使用するスクリューマシンであり、このマシンは、互いに噛み合いかつ潤滑される、低摩擦性のコーティングで被覆された螺旋形状部を有する2個又はそれ以上のロータを備え、使用にあたり、前記ロータの螺旋形状部の潤滑は、ほぼ排他的作動流体の液相部分で行うものとする。本発明のこの態様では、液相を含有する作動流体を使用するスクリューマシンであって、互いに噛み合いかつ潤滑される、低摩耗性のコーティングで被覆された螺旋形状部を有する2個又はそれ以上のロータを備えた、該スクリューマシンを潤滑する方法において、ほぼ排他的に、作動流体における液相部分でのみ前記ロータの螺旋形状部を潤滑する方法と表現できる。
【0074】
本発明の全ての態様において、好適には、ロータは、使用にあたり、ほぼ排他的に、作動流体における液相部分によってのみ潤滑される軸受によって支持する。軸受を潤滑する液相の使用は、オイル状潤滑剤を軸受に配給する高価な潤滑システムを不要にする。さらに、この液相使用によれば、作動流体のオイル汚染、及び作動流体がマシンを通過した後にオイルを作動流体から分離する必要性を回避する。
【0075】
作動流体における液相部分によって潤滑される軸受は、構造を簡単にするため、好ましくは流体力学的な軸受とするが、それらは静水力学的な軸受でもよい。流体力学的乃至軸受に必要とされるより大きいクリアランス及びこれ故に軸受に生ずるシャフトの振れ回りは、転動素子を有する軸受を使用する等価なマシンよりも若干マシンの効率を悪くするが、スクリュー蒸気エキスパンダは、軸受潤滑剤として液相における水を使用するよう製造することができる。
【0076】
流体力学的な軸受は、回転又は摺動する部分と固定ケーシングとの間に潤滑剤の薄膜を維持することによって動作し、これにより、始動及びシャットダウン時以外は、両者間に接触は存在しない。動作の基本原理は、薄膜は、均一な厚さでないということである。ジャーナル軸受の場合、このことは、シャフトの回転の中心が周囲のケーシングの半径中心から変位する場合に生ずる。このことは、シャフトの周りに潤滑剤の不均一薄膜を作成し、この結果、薄膜が最も薄い領域で潤滑剤の圧力が大幅に上昇する。薄膜の周りにおける差圧は周囲のケーシングに整列するよう、シャフトを押圧するのに十分であり、これにより、シャフトとケーシングとが接触するのを阻止する。
【0077】
潤滑剤の薄膜で生ずる圧力は、潤滑剤の粘性及び潤滑剤薄膜で得られる厚さ減少に依存する。通常、このような軸受は、オイルで潤滑する。しかし、若干の専門会社、例えば米国ウィスコンシン州のワウケシャ・ベアリング(Waukesha Bearings)社は、極めて粘性の低い液体、例えば水、及び軽量な炭化水素を使用する流体力学的軸受を開発した。これら軸受の成功の鍵は、極めて微細な最小限の薄膜厚さで動作できること、及び始動及びシャットダウン時に容易にまったり、摩耗したりしない軸受材料を使用することである。
【0078】
静水力学的な軸受も、本発明の広い概念内で可能であるが、その実現のために外部ポンプおよび循環システムを必要とする点でそれほど好適はない。とくに、このような軸受は、ロータ軸をケーシング内の一連のパッドを介して周囲のケーシングに接触しないよう維持するものであり、これら一連のパッドを経て、高圧ガスまたは高圧液体が流入する。ロータ軸とパッドとの間における圧力からの力の均衡は、両者間で接触するのを予防し、またロータ軸の回転中、ロータ軸を流体で支持する。
【0079】
転動素子を有する軸受、例えば、ボール又はローラタイプの軸受は、最適に設計されるときに、ロータ支持するのに用いることができる。
【0080】
それは、軸受を潤滑する液体は、個別に作動流体から供給することができる。しかし、作動流体に由来する液相によって、ロータの螺旋形状部等を潤滑するのは、エレガントであり、したがって好ましい。
【0081】
エキスパンダの用途では作動流体は、最も有利には、水または湿った蒸気であり、螺旋形状部、及び随意に軸受をも潤滑するのに使用される液相は、蒸気の流れに含まれる液状の水である。しかし、スクリューマシンは、任意の作動流体、例えば、炭化水素又は冷媒を使用するよう設計することもでき、これは、同一の作動流体における液相がロータの螺旋形状部及び随意的に軸受を潤滑するのに容易に利用可能であると仮定して、である。
【0082】
ロータの螺旋形状部を潤滑する水のような低粘性液体を使用することは、さらに、このような潤滑剤はオイルにおけるよりも粘性ドラッグ力が小さいという利点もある。これにより、ロータは、等価なオイルフラッド型マシンにおけるよりも高速度で回転することができ、流動能力で優る。
【0083】
構造簡単、小型性および低コストの点で、またとくに、不必要なオイル潤滑を回避するために、ロータを個別の調時ギアに連結しないことが、極めて好ましい。したがって、オイルフラッド型マインのように、単に互いに噛み合う螺旋形状部の協働動作に依存してロータの同期が得られることは、有利である。このことは、同期トルクが互いに噛み合う螺旋形状部を介して、ほぼ排他的に、一方のロータから他方のロータに伝達されることを意味する。
【0084】
蒸気スクリューエキスパンダは、過去に形成され、若干の事例で試験されたが、いずれもプロセス流体で潤滑されたとの、また、うまく動作したとの、記録がない。
【0085】
本発明によれば、オイルフリー型又はオイルフラッド型の双方マシンのいずれにも必要なオイル潤滑システム及び付加的なコンポーネントは排除することができ、この場合、作動流体を使用して軸受を潤滑するものとする。
【0086】
試験1
「N」ロータ輪郭を有するスクリューマシンの試験において、本出願人は、オイルフラッド型のエアコンプレッサで、調時ギアを使用することなく実験した。それ故、コンプレッサは、ロータを同期させるロータの螺旋形状部間における潤滑した接触に依存した。
【0087】
直観を排除して、本出願人は、オイルの代わりに作動流体に注入した水だけでロータの螺旋形状部に潤滑して実験を行った。その場合、ロータをケーシングに取り付ける軸受は、転動素子タイプとし、グリースを詰めたものであった。ロータは、Balinit C2コーティングで被覆したスチールであった。
【0088】
コンプレッサは、ロータ螺旋形状部間の接触部分に、オイルの代わりとして作動流体に注入した水のみにより潤滑して150時間稼働させた。その期間終了時に、ロータを検査したが、接触帯域における明るい光沢以外、は、摩耗又は損傷の徴候がなかった。
【0089】
試験2
試験1のコーティングしたロータに代えて、コーティングしてないスチール製の1対の「N」型輪郭ロータを使用し、さらに5時間稼働させた。その期間終了時に、コーティングしてないロータを検査したが、それらはやはり、摩耗の大きな徴候はなかった。
【0090】
試験3
つぎに、コーティングしてない「N」輪郭ロータを有するコンプレッサを、作動流体に何ら水を注入せずに、誤って、2時間しか稼働させなかった。ロータには依然として損傷がなかったが、ロータの螺旋形状部に対する潤滑なしに、大幅により長い期間にわたって稼働させた場合には、若干の損傷が予想されることは否めなかった。
【0091】
本出願人は、「N」輪郭ロータを有するスクリューマシンに対しては、潤滑システムの主要な機能は、軸受に対する潤滑であると結論付けた。若干の液体がロータの螺旋形状部に存在する限り(その液体が、例えば水のような低い粘性の液体であってとしても)直接的なロータ接触を回避するために調時(タイミング)ギアを必要としない。本発明は、この発見を利用して、この原理を具現化する。
本発明がより容易に理解できるように、添付図面につき本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0092】
図1】(a)〜(d)は、従来技術における若干のロータ輪郭を示す。
図2a】2軸式スクリューマシンの断面図である。
図2b図2aに示すロータ間にラック座標系を付記した説明図である。
図2c図2aに示されるロータにおける図2bのラック形状の関係を示す関係図である。
図2d】特許文献3の図5〜7に示される構成に従って形成した対応ロータの周知の輪郭5,6に重ね合わせた本発明ラック手順によって形成したメインロータ3及びゲートロータ4の輪郭を示す。
図3】本発明の第1実施形態による蒸気エキスパンダの模式的な断面図である。
図4】本発明の第2実施形態による蒸気エキスパンダにおける模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0093】
まず、図面の図3につき説明すると、スクリューエキスパンダ20は、2個の互いに噛み合う螺旋ローブを有するロータ10,16を収容する固定のケーシング22を備え、これらロータ10,16は互いに平行な軸の周りにケーシング内で互いに対向する方向に回転する。ロータ10,16はスチールのような任意の適切な材料で形成し、随意的に低摩擦コーティング、例えば上述したバリニット(Balinit C2)で被覆する。これらロータは、本願人による特許文献4に開示した「N」ロータ輪郭を有する。
【0094】
各ロータ10,16は、それぞれに対応するロータ軸24,26取り付け、これらロータ軸はそれぞれ各端部を流体力学的な軸受28によってケーシング22に取り付ける。一方のロータ軸26は、ケーシング22から突出させ、電気を発生するための発電機(図示せず)を駆動する。
【0095】
膨張させるべき作動流体(この実施形態では、湿ったウェット蒸気)は、流入ポート30から高圧でケーシング22に流入する。蒸気はケーシング22の内部に流動して膨張し、ロータ10,16を高速で回転させ、排出ポート32を経て低圧力でケーシング22から流出する。
【0096】
ロータ10,16を同期回転させる調時(タイミング)ギアは設けない。その代わり、ロータ10,16は、これらロータにおける螺旋形状部の互いに噛み合う構成によって同期する。これには、螺旋形状部を潤滑することが必要となり、この潤滑は供給されるウェット蒸気に含まれる水の液相によって確実にされる。
【0097】
図示の実施形態では、軸受28もまた、供給されるウェット蒸気に由来する水で潤滑される。リザーバ34は流入ポート30に連通し、各軸受28に供給ライン36を経て加圧した水を供給する。
【0098】
図面の図4に示す随意的な改良した実施形態においては、各ロータ軸24,26の端部に設けたバランスピストン38が作動流体の圧力を使用してロータ軸における軸線方向荷重に対抗するようにし、これにより、ロータ軸を支持する軸28が受ける軸線方向荷重を軽減する。したがって、圧力ライン40により、バランスピストン38を流入ポート30に接続する。
【0099】
膨張のための作動流体は様々なソースから得ることができ、例えばそれは地熱源からの蒸気(スチーム)を得る。この点に関して、スクリューエキスパンダのタービンエキスパンダに優る重要な利点は、ダメージを受けるリスクがほとんどない湿った作動流体(すなわち、ガス相及びで液体相の双方を含む流体)を扱う能力であることを思い起こされたい。スクリューエキスパンダは、さらに、汚染された又は汚い流体、例えば地熱源からの砂の微粒子若しくは腐食した配管からの錆を含む、湿った蒸気を取り扱いう点でタービンエキスパンダよりも極めて良好である。他の利点は、スクリューエキスパンダは、比較的小さい電力出力用のタービンエキスパンダよりも潜在的に費用効果が高い点にある。
【0100】
上述の説明は、本発明が、調時ギア、内部軸封装置、潤滑剤貯留、潤滑剤用ポンプ、潤滑剤フィルタ若しくは熱交換器(これらは、オイルフリー型マシンで必要とされる)、又は潤滑剤ポンプ、熱交換器及びオイル分離機(これらはオイルフラッド型マインで必要とされる)を必要としないスチームエキスパンダを設計及び製造することができることを示す。さらに、作動流体を汚染する潤滑オイルの問題点(従来技術におけるオイルフリー型及びオイルフラッド型双方のマシンに共通である)は、本発明によって完全に解決することができる。
【0101】
工業用スチームシステムは、本発明によるスクリューエキスパンダの主要な潜在的用途である。多くの工業用プロセスは蒸気供給を必要とし、適用例としては、食品調製プロセス、製紙プロセスおよび化学プロセスがある。概して、中心ボイラーは適度に高い圧力で蒸気を生成し、その蒸気は配管系を経て工場、プラントまたは他の工業用設備に分配する。蒸気は、必要とされる各場所で分岐管により引き込む。
【0102】
工業用設備における異なるプロセスが異なる蒸気圧を必要とするため、各分岐管は、概して、当該プロセスにどんな低い圧力が必要となる場合でも対処できるよう、蒸気を絞る制御弁を有する。しかし、蒸気圧を低下させるために絞り弁の代わりにスクリューエキスパンダを使用することができる。このことは、必要とされる低い圧力で蒸気を供給しながらも、膨張プロセスから電力を回収することを可能にする。本発明によって可能となるコスト、堅牢さ、コンパクト性、信頼性、効率およびオイル汚染回避に関する利点は、このような用途のためにスチームエキスパンダを採用することは、特に工業設備における多数の絞り弁に代替できるので、重要である。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図2(d)】
図3
図4