特許第5964272号(P5964272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964272
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/139 20060101AFI20160721BHJP
   F16F 15/134 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F16F15/139 C
   F16F15/134 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-92980(P2013-92980)
(22)【出願日】2013年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-214819(P2014-214819A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】中垣内 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 智洋
(72)【発明者】
【氏名】江端 勝
(72)【発明者】
【氏名】関根 務
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正隆
(72)【発明者】
【氏名】茨木 隆次
(72)【発明者】
【氏名】木村 弘道
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩章
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−125316(JP,A)
【文献】 特開2012−193773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸方向に互いに離間した位置に設けられ、前記回転軸に対して交差した状態で前記回転軸回りに回転可能に構成された一対の第1プレートと、
前記一対の第1プレートの内側に位置する部分を含み、前記回転軸に対して交差した状態で前記回転軸回りに回転可能に構成された第2プレートと、
前記一対の第1プレートと前記第2プレートとの前記回転軸回りの相対的な回転により前記回転軸の周方向に弾性的に変形する弾性部材と、
前記第2プレートが前記第1プレートに対して初期状態から第1方向に回転する場合に相対的に小さい摩擦トルクを発生させる第1摩擦材と、
前記第2プレートが前記第1プレートに対して初期状態から前記第1方向とは反対の第2方向に回転する場合に相対的に大きい摩擦トルクを発生させる第2摩擦材とを備える、ダンパ装置。
【請求項2】
前記第1摩擦材と前記第2摩擦材との間に設けられ、前記回転軸に対して交差した状態で前記回転軸回りに回転可能に構成された第3プレートをさらに備え、
前記第2プレートが前記第1プレートに対して初期状態から前記第1方向に回転する場合には、前記第2プレートと前記第3プレートとが互いに一体的に回転せず、前記第1摩擦材が擦れることによって相対的に小さい摩擦トルクが発生するとともに、前記第2プレートが前記第1プレートに対して初期状態から前記第2方向に回転する場合には、前記第2プレートと前記第3プレートとが互いに一体的に回転し、前記第2摩擦材が擦れることによって相対的に大きい摩擦トルクが発生するように構成されている、請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記第1摩擦材は、前記第3プレートと前記第2プレートとの間に設けられているとともに、前記第2摩擦材は、前記第3プレートと前記第1プレートとの間に設けられており、
前記第2プレートが前記第1プレートに対して初期状態から前記第1方向に回転する場合には、前記第2プレートと前記第3プレートとが互いに一体的に回転せず、前記第1摩擦材と前記第2プレートとが互いに擦れることによって相対的に小さい摩擦トルクが発生するとともに、前記第2プレートが前記第1プレートに対して初期状態から前記第2方向に回転する場合には、前記第2プレートと前記第3プレートとが互いに一体的に回転し、前記第2摩擦材と前記第3プレートとが互いに擦れることによって相対的に大きい摩擦トルクが発生するように構成されている、請求項2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記第3プレート、前記第1摩擦材および前記第2摩擦材は、前記第2プレートの、前記回転軸の軸方向の両側に一対ずつ設けられている、請求項2または3に記載のダンパ装置。
【請求項5】
一対の前記第3プレートは、前記軸方向に延びる部分を有する結合具によって前記軸方向に互いに離間した状態で結合されており、
前記第2プレートの前記結合具に対応する部分には、前記結合具の前記軸方向に延びる部分と当接可能な端面を内側に有する開口部が設けられている、請求項4に記載のダンパ装置。
【請求項6】
前記一対の第1プレートと一体的に前記回転軸回りに回転するように構成され、前記弾性部材に対して前記回転軸の半径方向の外側に位置する部分が外部に接続された第4プレートと、
前記第2プレートの、前記弾性部材に対して前記半径方向の外側に位置する部分に接続されたトルクリミッタ部とをさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転軸回りに回転する一対の第1プレートと、一対の第1プレートの間に位置する部分を含む第2プレートと、一対の第1プレートと第2プレートとが回転軸回りに互いに相対的に回転する際に摩擦トルク(抵抗トルク)を発生させる摩擦材を備えたダンパ装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−193773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のダンパ装置を備えた車両では、エンジンの始動時において相対的に大きい振動や騒音などが発生する一方、エンジンの始動後の通常動作時(通常走行時)において相対的に小さい振動や騒音などが発生する場合がある。このため、状況に応じて大きさの異なる摩擦トルクを発生させることができれば、有意義である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によるダンパ装置は、一例として、回転軸の軸方向に互いに離間した位置に設けられ、回転軸に対して交差した状態で回転軸回りに回転可能に構成された一対の第1プレートと、一対の第1プレートの内側に位置する部分を含み、回転軸に対して交差した状態で回転軸回りに回転可能に構成された第2プレートと、一対の第1プレートと第2プレートとの回転軸回りの相対的な回転により回転軸の周方向に弾性的に変形する弾性部材と、第2プレートが第1プレートに対して初期状態から第1方向に回転する場合に相対的に小さい摩擦トルクを発生させる第1摩擦材と、第2プレートが第1プレートに対して初期状態から第1方向とは反対の第2方向に回転する場合に相対的に大きい摩擦トルクを発生させる第2摩擦材とを備える。これにより、一例として、状況に応じて大きさの異なる摩擦トルクを発生させることができる。
【0006】
上記ダンパ装置では、一例として、第1摩擦材と第2摩擦材との間に設けられ、回転軸に対して交差した状態で回転軸回りに回転可能に構成された第3プレートをさらに備え、第2プレートが第1プレートに対して初期状態から第1方向に回転する場合には、第2プレートと第3プレートとが互いに一体的に回転せず、第1摩擦材が擦れることによって相対的に小さい摩擦トルクが発生するとともに、第2プレートが第1プレートに対して初期状態から第2方向に回転する場合には、第2プレートと第3プレートとが互いに一体的に回転し、第2摩擦材が擦れることによって相対的に大きい摩擦トルクが発生するように構成されている。これにより、一例として、第1摩擦材と第2摩擦材との間の第3プレートを用いて、状況に応じて大きさの異なる摩擦トルクを発生させることができる。
【0007】
上記ダンパ装置では、一例として、第1摩擦材は、第3プレートと第2プレートとの間に設けられているとともに、第2摩擦材は、第3プレートと第1プレートとの間に設けられており、第2プレートが第1プレートに対して初期状態から第1方向に回転する場合には、第2プレートと第3プレートとが互いに一体的に回転せず、第1摩擦材と第2プレートとが互いに擦れることによって相対的に小さい摩擦トルクが発生するとともに、第2プレートが第1プレートに対して初期状態から第2方向に回転する場合には、第2プレートと第3プレートとが互いに一体的に回転し、第2摩擦材と第3プレートとが互いに擦れることによって相対的に大きい摩擦トルクが発生するように構成されている。これにより、一例として、第1摩擦材と第2プレート(第2摩擦材と第3プレート)とが状況に応じて互いに擦れることによって、状況に応じて大きさの異なる摩擦トルクを発生させることができる。
【0008】
上記ダンパ装置では、一例として、第3プレート、第1摩擦材および第2摩擦材は、第2プレートの、回転軸の軸方向の両側に一対ずつ設けられている。これにより、一例として、回転軸の軸方向の両側に一対ずつ設けられた第3プレート、第1摩擦材および第2摩擦材によって、状況に応じて大きさの異なる摩擦トルクを発生させることができる。
【0009】
上記ダンパ装置では、一例として、一対の第3プレートは、軸方向に延びる部分を有する結合具によって軸方向に互いに離間した状態で結合されており、第2プレートの結合具に対応する部分には、結合具の軸方向に延びる部分と当接可能な端面を内側に有する開口部が設けられている。これにより、一例として、結合具の軸方向に延びる部分と開口部の内側の端面とが互いに当接する場合に、第2プレートと第3プレートとを容易に互いに一体的に回転させることができる。
【0010】
上記ダンパ装置では、一例として、一対の第1プレートと一体的に回転軸回りに回転するように構成され、弾性部材に対して回転軸の半径方向の外側に位置する部分が外部に接続された第4プレートと、第2プレートの、弾性部材に対して半径方向の外側に位置する部分に接続されたトルクリミッタ部とをさらに備える。これにより、一例として、第2プレートが外部に接続され、かつ、第4プレートにトルクリミッタ部が接続された構成において、状況に応じて大きさの異なる摩擦トルクを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態によるダンパ装置の一例の全体構成を示した図である。
図2図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
図3図3は、図2に示したヒステリシス機構部の一例を拡大して示した拡大断面図である。
図4図4は、実施形態によるダンパ装置の第2プレートの一例の全体構成を示した図である。
図5図5は、実施形態によるダンパ装置の第3プレートの一例の全体構成を示した図である。
図6図6は、実施形態によるダンパ装置の初期状態の一例を示した概略図である。
図7図7は、実施形態によるダンパ装置において相対的に小さいヒステリシストルクが発生している状態の一例を示した概略図である。
図8図8は、実施形態によるダンパ装置において相対的に大きいヒステリシストルクが発生している状態の一例を示した概略図である。
図9図9は、実施形態によるダンパ装置のヒステリシス機構部により生じるヒステリシストルクと捩れ角度との関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
まず、図1図9を参照して、実施形態によるダンパ装置100の構成について説明する。このダンパ装置100は、エンジン(動力装置:図示せず)とトランスミッション(変速装置:図示せず)との間に配置され、駆動力の変動(トルク差)を緩和する(小さくする)機能を有する。
【0014】
図1および図2に示すように、ダンパ装置100は、回転軸Axに対して交差した状態で回転軸Ax回りに回転(回動)可能に構成された複数の板状部材(第1プレート10や、第2プレート20や、第3プレート30や、第4プレート40や、第5プレート50や、第6プレート60など)を備える。これら複数の板状部材は、金属などにより構成されている。以下では、回転軸Axの延びる方向(X方向)を軸方向とし、回転軸Axと直交する方向(R方向)を半径方向とし、回転軸Ax回りの回転方向を周方向(C方向)として説明する。なお、図1では、後述する結合具C1〜C5などの図示を省略している。また、図1は、図2に示したダンパ装置100を軸方向の一方側(図2の右側)から見た図(破断図)である。
【0015】
図1および図2に示すように、ダンパ装置100は、周方向に弾性的に変形(伸縮)することによってトルク差を吸収する(一時的に蓄える)弾性部材70を備える。この弾性部材70は、コイルスプリングなどにより構成されている。また、弾性部材70は、周方向に沿って間隔を隔てて(略等間隔で)4個設けられている。なお、図1に示すように、各弾性部材70は、樹脂などからなる一対の支持部材71によって周方向の両側から支持されている。また、弾性部材70および支持部材71は、第1プレート10と第2プレート20との間(一対の第1プレート10の間で、かつ、第2プレート20の後述する開口部26の内側)に設けられている。
【0016】
図2および図3に示すように、第1プレート10は、弾性部材70の軸方向の両側に一対設けられている。これら一対の第1プレート10は、軸方向に互いに離間した位置に設けられている。また、一対の第1プレート10は、それぞれ、軸方向から見て、内周部11および外周部12を含む円環形状を有する。なお、図2に示すように、一対の第1プレート10の弾性部材70に対応する部分には、それぞれ、開口部13が形成されている。開口部13の内側の端面は、支持部材71の周方向の端部に当接可能に構成されている。
【0017】
図1図4に示すように、第2プレート20は、軸方向から見て、内周部21および外周部22を含む円環形状を有する。この第2プレート20は、一対の第1プレート10の内側に位置する第1部分23と、一対の第1プレート10の外側に位置する第2部分(外周部22を有する部分)24と、第1部分23の半径方向の内側の端部から軸方向の他方側(図2の左側)に延びる第3部分(内周部21を有する部分)25とを含む。
【0018】
図2および図4に示すように、第2プレート20の半径方向の中間部分には、開口部26が設けられている。この開口部26は、第2プレート20の第1部分23と第2部分24とに跨って形成されている。また、開口部26は、第4プレート40の後述する第1部分43が入る第1開口部26aと、弾性部材70および支持部材71が入る第2開口部26aとを含む。なお、第2プレート20の開口部26よりも外周部22側の部分には、後述するトルクリミッタ部90の板状部材92が入る開口部27が設けられている。
【0019】
ここで、本実施形態では、図2および図3に示すように、ダンパ装置100は、第1プレート10と第2プレート20とが回転軸Ax回りに相対的に回転する際にヒステリシストルク(摩擦トルク、抵抗トルク)を発生させることによって振動や騒音などを低減するヒステリシス機構部(摩擦トルク発生機構部、抵抗トルク発生機構部)80を備える。図3に示すように、ヒステリシス機構部80は、第1プレート10と第2プレート20との間で、かつ、弾性部材70よりも半径方向の内側に設けられている。また、ヒステリシス機構部80は、摩擦材81および82と、板状部材83と、皿ばね84および85と、第3プレート30とを含む。なお、摩擦材81および82は、それぞれ、「第1摩擦材」および「第2摩擦材」の一例である。
【0020】
摩擦材81および82は、第1プレート10と、第2プレート20の後述する第1部分23との間に設けられている。また、摩擦材81および82は、それぞれ、第2プレート20の第1部分23の軸方向の両側に1個ずつ設けられている。具体的には、摩擦材81は、第2プレート20の後述する第1部分23の軸方向の外側の表面に面接触するとともに、板状部材83の軸方向の内側の表面に面接触するように設けられている。また、摩擦材82は、第3プレート30の軸方向の外側の表面に面接触するように設けられている。
【0021】
また、本実施形態では、摩擦材81および82は、互いに異なる大きさのヒステリシストルクを発生させるように構成されている。たとえば、摩擦材81および82は、互いに異なる摩擦係数を有する材料により構成されている。すなわち、本実施形態では、一例として、摩擦材81は、摩擦材82よりも小さい摩擦係数を有する材料により構成されている。これにより、摩擦材81と第2プレート20の第1部分23の軸方向の外側の表面とが互いに擦れる場合(後述する図7の場合)に発生するヒステリシストルクは、摩擦材82と第3プレート30の軸方向の外側の表面とが互いに擦れる場合(後述する図8の場合)に発生するヒステリシストルクよりも小さい。
【0022】
なお、図3に示すように、板状部材83は、第2プレート20に対して軸方向の一方側(図3の右側)に設けられた摩擦材81と第3プレート30との間に設けられている。また、皿ばね84は、板状部材83と第3プレート30との間に設けられていることによって、板状部材83を摩擦材81側に付勢するように構成されている。また、皿ばね85は、第2プレート20に対して軸方向の一方側に設けられた摩擦材82と第1プレート10との間に設けられていることによって、摩擦材82を第3プレート30側に付勢するように構成されている。
【0023】
図5に示すように、第3プレート30は、軸方向から見て、内周部31および外周部32を含む略円環形状を有する。また、図3に示すように、第3プレート30は、第2プレート20の第1部分23の軸方向の両側に1個ずつ、合計2個設けられている。これら2個の第3プレート30は、それぞれ、摩擦材81および82の間に設けられている。また、2個の第3プレート30は、軸方向に延びる部分Pを有する結合具C1(図3では、一例として、リベット)によって軸方向に互いに離間した状態で結合されている。なお、2個の第3プレート30には、それぞれ、結合具C1の軸方向に延びる部分Pが挿入される貫通穴30aが形成されている。これにより、2個の第3プレート30は、回転軸Axに対して交差した状態で回転軸Ax回りに互いに一体的に回転可能に構成されている。
【0024】
具体的には、第2プレート20の開口部26の結合具C1に対応する部分には、切欠き部26cが形成されている。そして、切欠き部26cの内側の端面と、結合具C1の軸方向に延びる部分Pの外周面とは、互いに当接可能に(周方向に対向するように)構成されている。これにより、切欠き部26cの内側の端面と、結合具C1の軸方向に延びる部分Pの外周面とが互いに当接した状態で、第2プレート20が第1プレート10(第4プレート40)に対して回転軸Ax回りに回転した場合(後述する図8の場合)には、結合具C1により結合された一対の第3プレート30は、第2プレート20と共に回転軸Ax回りに回転する。なお、切欠き部26cは、「開口部」の一例である。また、図4に示すように、切欠き部26cは、第2開口部26aの内周部21側の部分に連続して設けられている。
【0025】
ここで、図6に示すように、結合具C1の軸方向に延びる部分Pは、第2プレート20が第1プレート10(第4プレート40)に対して回転軸Ax回りに回転していない初期状態において、切欠き部26cの周方向の一方側(図6の反時計回り方向側)の端面から離間した位置で、かつ、切欠き部26cの周方向の他方側(図6の時計回り方向側)の端面近傍の位置に設けられている。これにより、図7に示すように、第2プレート20が第1プレート10(第4プレート40)に対して初期状態(図6参照)から回転軸Ax回りに所定の第1方向(図7の時計回り方向)に回転する場合には、切欠き部26cの内側の端面と結合具C1の軸方向に延びる部分Pとが互いに当接することなく、第2プレート20と第3プレート30とが一体的に回転しない(第2プレート20が第3プレート30に対して相対的に回転する)ように構成されている。また、図8に示すように、第2プレート20が第1プレート10(第4プレート40)に対して初期状態(図6参照)から回転軸Ax回りに第1方向とは反対の第2方向(図8の反時計回り方向)に回転する場合には、切欠き部26cの内側の端面と結合具C1の軸方向に延びる部分Pとが互いに当接し、第2プレート20と第3プレート30とが一体的に回転するように構成されている。なお、第2プレート20が第1プレート10に対して第1方向に回転する場合とは、たとえばエンジン(図示せず)の始動後の通常動作時(加速時などの通常走行時)であり、第2プレート20が第1プレート10に対して第2方向に回転する場合とは、たとえばエンジンの始動時である。
【0026】
以上のような構成により、本実施形態では、図9に示すように、第2プレート20が第1プレート10に対して初期状態(図6参照)から第1方向に回転する場合(たとえば、エンジン(図示せず)の始動後の通常動作時:図7参照)には、第2プレート20と第3プレート30とが一体的に回転せず、摩擦材81と第2プレート20の第1部分23とが互いに擦れることによって相対的に小さいヒステリシストルクが発生する。また、第2プレート20が第1プレート10に対して初期状態(図6参照)から第2方向に回転する場合(たとえば、エンジンの始動時:図8参照)には、第2プレート20と第3プレート30とが一体的に回転し、摩擦材82と第3プレート30とが互いに擦れることによって相対的に大きいヒステリシストルクが発生する。なお、図9では、第2プレート20が第1プレート10に対して第1方向に回転する場合における第2プレート20の回転角度(捩れ角度)を横軸の正側にとり、第2プレート20が第1プレート10に対して第2方向に回転する場合における第2プレート20の回転角度(捩れ角度)を横軸の負側にとっている。
【0027】
なお、本実施形態では、図1および図2に示すように、第4プレート40は、軸方向から見て、内周部41および外周部42を含む円環形状を有する。この第4プレート40は、第2プレート20の開口部26の内側に位置する第1部分43と、第2プレート20の開口部26の外側(弾性部材70に対して半径方向の外側)に位置する第2部分44とを含む。
【0028】
図1に示すように、第1部分43は、周方向に所定の幅を有して半径方向に延びるように形成されている。また、図2に示すように、第1部分43は、一対の第1プレート10に軸方向の両側から挟みこまれた状態で、結合具C2(図2では、一例として、リベット)によって一対の第1プレート10に結合されている。また、第2部分44の弾性部材70に対して半径方向の外側の部分は、結合具C3(図2では、一例として、ねじ部材)によって外部(エンジン(図示せず)の出力側のシャフトS1に取り付けられたフライホイールFW)に取り付けられている。
【0029】
ここで、第1部分43は、第2プレート20の開口部26の内側の端面に当接可能に構成されている。具体的には、図7および図8に示すように、第1部分43の周方向の端面と、開口部26の第1開口部26aの周方向の内側の端面とは、第1プレート10および第4プレート40と第2プレート20とが回転軸Ax回りに相対的に回転した場合に、互いに当接するように構成されている。これにより、第1部分43は、第1プレート10および第4プレート40と第2プレート20との回転軸Ax回りの相対的な回転の範囲を制限するストッパ部として機能するように構成されている。
【0030】
すなわち、図6に示すように、弾性部材70が縮んでいない初期状態(第1プレート10および第3プレート30と第2プレート20との間にトルク差が生じていない状態)において、第1部分43の周方向の端面と、開口部26(第1開口部26a)の内側の端面とは、互いに離間した位置に設けられている。また、図7および図8に示すように、弾性部材70が最大限に縮んだ状態(第1プレート10および第3プレート30と第2プレート20との間に大きいトルク差が発生した状態)において、第1部分43の周方向の端面と、開口部26(第1開口部26a)の内側の端面とは、互いに当接するように構成されている。なお、図6図8では、簡略化のため、第2プレート20、第3プレート30、結合具C1、第4プレート40、弾性部材70および支持部材71のみを概略的に図示し、他の部材の図示を省略している。
【0031】
なお、図2に示すように、一対の第1プレート10のうち、軸方向の他方側(図2の左側)に配置された第1プレート10の内周部11は、ベアリング(転がり軸受)B1を介して第2プレート20の第3部分25に接続されている。これにより、第1プレート10と第2プレート20とは、回転軸Ax回りに互いに相対的に回転するように構成されている。また、図2に示すように、一対の第1プレート10は、第4プレート40の第1部分43に結合具C2によって結合されている。これにより、第1プレート10と第4プレート40とは、回転軸Ax回りに互いに一体的に回転するように構成されている。
【0032】
また、第2プレート20の第3部分25は、樹脂製のブッシュなどからなる滑り軸受B2を介して第6プレート60の内周部61を有する部分に接続されているとともに、第2プレート20の第2部分24は、第5プレート50および後述するトルクリミッタ部90(接続プレート95)を介して第6プレート60の外周部62を有する部分に接続されている。これにより、トルクリミッタ部90に滑りが生じた場合には、第2プレート20と第5プレート50とは、回転軸Ax回りに互いに相対的に回転するとともに、トルクリミッタ部90に滑りが生じていない場合には、第2プレート20と第5プレート50とは、回転軸Ax回りに互いに一体的に回転するように構成されている。
【0033】
なお、本実施形態では、図2に示すように、ダンパ装置100は、所定値以上の大きいトルク差が発生した場合に滑りを生じてトルク差を吸収する(小さくする)トルクリミッタ部90を備える。このトルクリミッタ部90は、半径方向から見て弾性部材70とオーバーラップするように、弾性部材70よりも半径方向の外側に設けられている。具体的には、弾性部材70およびトルクリミッタ部90は、それぞれ、第4プレート40の第1部分43に対して半径方向の内側および外側に設けられている。
【0034】
トルクリミッタ部90は、皿ばね91と、板状部材92と、2個の摩擦材93および94と、接続プレート95とを含む。これらの皿ばね91、板状部材92、摩擦材93、94および接続プレート95は、結合具C4(図2では、一例として、リベット)によって互いに結合された第2プレート20および第5プレート50の間に挟まれるように配置されている。なお、第5プレート50は、軸方向から見て、内周部51および外周部52を含む円環形状を有する。
【0035】
皿ばね91は、板状部材92を摩擦材93側に付勢するように構成されている。また、接続プレート95は、2個の摩擦材93および94の間に挟まれるように配置されている。なお、接続プレート95の半径方向の内側の部分は、結合具C5(図2では、一例として、リベット)によって第6プレート60に結合されている。この第6プレート60は、軸方向から見て、内周部61および外周部62を含む円環形状を有する。また、第6プレート60の内周部61の内側には、トランスミッション(図示せず)の入力側に設けられるシャフトS2が挿入されている。具体的には、第6プレート60の内周部61およびシャフトS2の外周面には、それぞれ、スプラインなどの係合構造が設けられており、これらの係合構造を介して、第6プレート60の内周部61とシャフトS2とが互いに固定されている。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によるダンパ装置100(ヒステリシス機構部80)は、一例として、第2プレート20が第1プレート10に対して初期状態から第1方向に回転する場合(たとえば、エンジン(図示せず)の始動後の通常動作時)には、摩擦材81が擦れることによって相対的に小さいヒステリシストルク(図9の横軸の正側の領域参照)が発生するように構成されている。また、ダンパ装置100は、一例として、第2プレート20が第1プレート10に対して初期状態から第2方向に回転する場合(たとえば、エンジンの始動時)には、摩擦材82が擦れることによって相対的に大きいヒステリシストルク(図9の横軸の負側の領域参照)が発生するように構成されている。より具体的には、ダンパ装置100は、一例として、第2プレート20が第1プレート10に対して第1方向に回転する場合には、第2プレート20と第3プレート30とが互いに一体的に回転せず、摩擦材81と第2プレート20の第1部分23とが互いに擦れることによって相対的に小さいヒステリシストルクが発生するように構成されている。また、ダンパ装置100は、一例として、第2プレート20が第1プレート10に対して第2方向に回転する場合には、第2プレート20と第3プレート30とが互いに一体的に回転し、摩擦材82と第3プレート30とが互いに擦れることによって相対的に大きいヒステリシストルクが発生するように構成されている。
【0037】
ここで、弾性部材70の前後(弾性部材70に対して入力側および出力側)にそれぞれ質量の比較的大きい部材(フライホイールFWおよびトルクリミッタ部90)が接続された本実施形態のような構成では、エンジン(図示せず)の始動時に発生する共振(振動や騒音など)が相対的に大きくなりやすい。このため、エンジンの始動時においては、相対的に大きい振動や騒音などを適切に低減するために、相対的に大きいヒステリシストルクを発生させることが望まれている。しかしながら、相対的に大きいヒステリシストルクを発生させるだけでは、エンジンの始動後の通常動作時(通常走行時)に発生する相対的に小さい振動を適切に低減できない場合がある。この場合において、本実施形態では、上記のように、一例として、互いに異なる摩擦係数を有する摩擦材81および82と、摩擦材81および82の間に設けられた第3プレート30とによって、エンジンの始動時とエンジンの始動後の通常動作時とのそれぞれの状況に応じて適切な大きさのヒステリシストルクを発生させることができるので、振動や騒音などを適切に低減することができる。
【0038】
また、本実施形態では、一例として、第3プレート30、摩擦材81および82は、第2プレート20の軸方向の両側に一対ずつ設けられている。これにより、一例として、第2プレート20の軸方向の両側に一対ずつ設けられた第3プレート30、摩擦材81および82によって、振動や騒音などをより低減することができる。
【0039】
また、本実施形態では、一例として、一対の第3プレート30は、軸方向に延びる部分Pを有する結合具C1によって軸方向に互いに離間した状態で結合されており、第2プレート20の開口部26の結合具C1に対応する部分には、結合具C1の軸方向に延びる部分Pと当接可能な端面を内側に有する切欠き部26cが設けられている。これにより、一例として、第2プレート20が第2方向に回転する場合(図8参照)に、結合具C1の軸方向に延びる部分Pと切欠き部26cの内側の端面とを互いに当接させることによって、第2プレート20と第3プレート30とを容易に互いに一体的に回転させることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明と、その均等の範囲とに含まれる。また、上記実施形態の各構成要素のスペック(構造、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚み、高さ、数、配置、位置および材質など)は、適宜に変更して実施することが可能である。
【0041】
たとえば、上記実施形態では、エンジンとトランスミッションとの間にダンパ装置を設ける例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明によるダンパ装置は、上記以外の2個の回転要素の間(たとえば、エンジンと回転電機(モータジェネレータ)との間)に設けることが可能である。また、本発明によるダンパ装置は、種々の車両(たとえば、ハイブリッド自動車)や、回転要素を有する一般的な機械などに設けることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10…第1プレート、20…第2プレート、23…第1部分、24…第2部分、26c…切欠き部(開口部)、30…第3プレート、40…第4プレート、70…弾性部材、81…摩擦材(第1摩擦材)、82…摩擦材(第2摩擦材)、90…トルクリミッタ部、100…ダンパ装置、Ax…回転軸、C1…結合具、FW…フライホイール(外部)、P…軸方向に延びる部分。
図1
図2
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図7
図8
図9