(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アントラサイクリンは、ストレプトマイセス細菌属に由来する天然生理活性化合物のクラスを表す。ダウノルビシン、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシンおよびカルミノマイシンを含むいくつかのアントラサイクリンは、乳がん、肺がん、ならびに白血病およびリンパ腫などの血液悪性腫瘍を含む広範ながんの治療に使用可能である有効な抗悪性腫瘍薬であることが臨床的に示された。さらに、化合物のこのクラスのメンバーは、骨髄移植および幹細胞移植中に有用であることも示された。
【0003】
エピルビシンは、ドキソルビシンの4-エピマーおよびダウノルビシンの半合成誘導体であり、下記式で表される。
【化1】
【0004】
エピルビシンの細胞毒性の正確な機構はまだ完全には解明されていないが、エピルビシンがヌクレオチド塩基対間にその平面環を挿入することでDNAと複合体を形成し、結果として、トポイソメラーゼIIを経由するDNA開裂の引き金を引くことで核酸(DNAおよびRNA)ならびにタンパク質の合成が阻害されると考えられる。エピルビシンおよびその付加塩、例えばエピルビシン塩酸塩は、乳がんの補助治療の構成要素として使用されている。
【0005】
エピルビシン塩酸塩の生成のための各種方法が当技術分野において現在公知である。しかし、非晶質エピルビシン塩酸塩(例えば特許文献1に記載のように調製)は、保管中のその著しい吸湿性および化学的不安定性とアグリコンであるドキソルビシノンの蓄積とが理由で、薬学用途には好適ではないと一般に考えられている。
【0006】
特定のX線回折パターンを特徴とするエピルビシン塩酸塩の特定の結晶多形は既に利用可能になっており、以下の特許文献に特に記載されている: 特許文献2; 特許文献3; 特許文献4; および特許文献5。各種X線回折パターンは高度の類似性を示すが、対応する生成方法は相当に多様である。特に、最初に言及した2つの文献に記載の合成スキームは後に、結晶生成物を確実には生じさせないこと(特許文献5; 段落[0007]および[0069]参照)、特に、薬学的適用性の重要な側面であると考えるべき均一な粒径分布を有する生成物を生じさせないことが示されている。
【0007】
特許文献2および特許文献3に記載のエピルビシン塩酸塩の結晶多形(「II型」と命名)、ならびに特許文献4に記載のエピルビシン塩酸塩の結晶多形(「A形」〜「D形」と命名)は、最大6ヶ月の保管中に何らかの熱安定性を示すことが示されている。
【0008】
しかし、上記特許文献において使用されるいくつかの生成方法は著しい量の溶媒の使用を包含する。アントラサイクリンが溶媒和物を形成することは当技術分野において確立されている(例えば非特許文献1参照)。そのような溶媒和物は、それぞれの「純粋な」化合物に比べて向上した熱安定性を示すことが知られている。上述の生成スキームは溶媒和物の形成の問題に対処していない。したがって、エピルビシン塩酸塩の上述の多形について観察された熱安定性が、(純粋な)化合物それ自体に実際に起因しうるか、または溶媒和物の形成(すなわち最終生成物中の残留溶媒の存在)の影響によるかは、完全には明らかではない。
【0009】
さらに、溶媒和物が水を吸収する傾向の増大を示すことから、溶媒和物の吸湿性を制御することがより困難であることも明らかである。残留溶媒の存在(少なくとも容易に検出可能な量での)は生成物の安全性にも影響を示すはずである(特にICH[日米EU医薬品規制調和国際会議]ガイドラインQ3C(R5)を参照)。例えば、特許文献4による結晶形A、CおよびDの生成は、アセトニトリルおよびN,N-ジメチル-ホルムアミドなどのクラス2溶媒(ICHの定義による)の使用を包含するものであり、医薬品中でのそれらの使用は固有の毒性があることから制限すべきである。
【0010】
したがって、特に生成物の均一性、生成物の長期安定性および生成物の安全性に関する上記の限界を克服するエピルビシン塩酸塩の結晶形が依然として必要である。
【0011】
特に、吸湿能力の減少(すなわち水に対する安定性)を示しかつ残留溶媒を実質的に有さない一方で、熱安定性の向上および有効期間の長期化を示す、化合物が依然として必要である。
【0012】
したがって、本発明の目的は、エピルビシン塩酸塩のそのような結晶形、およびその生成のための対応する方法を提供することにある。
【発明の概要】
【0015】
一局面では、本発明は、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を生成するための方法であって、(a) 少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒をエピルビシン塩酸塩に加える工程であって、第1の溶媒が直鎖状または分岐状C
4〜C
5アルコールであり、第2の溶媒が直鎖状または分岐状C
2〜C
3アルコールである、工程;(b) 工程(a)において得られた溶液中の含水量を7%〜12%(w/w)の範囲内の量に調整する工程; ならびに(c) 結晶化を可能にするために、工程(b)において得られた溶液を70℃〜90℃の温度に加熱する工程を含み、生成される結晶性一水和物が2.7%〜3.5%(w/w)の範囲内の含水量を有し、残留溶媒を欠いている、方法に関する。
【0016】
好ましい態様では、本方法の工程(b)における含水量は8%〜11%(w/w)の範囲内の量に調整される。
【0017】
さらなる好ましい態様では、第1の溶媒は1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択され、第2の溶媒は1-プロパノール、イソプロパノール、エタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択される。特に好ましくは、第1の溶媒は1-ブタノールであり、第2の溶媒は1-プロパノールである。
【0018】
特定の態様では、第1の溶媒 対 第2の溶媒の容積比は1:1〜2:1(v/v)の範囲内である。
【0019】
さらなる特定の態様では、工程(b)の溶液中のエピルビシン塩酸塩の最終濃度は10g/l〜100g/lの範囲内である。
【0020】
好ましい態様では、工程(c)における溶液は75℃〜85℃の温度に加熱される。
【0021】
特定の態様では、本方法は、結晶化を誘導するために、工程(b)において得られた溶液にシード添加する(seeding)工程をさらに含む。
【0022】
他の特定の態様では、本方法は、工程(c)において得られた結晶を精製する工程をさらに含む。
【0023】
好ましい態様では、生成されるエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物の含水量は2.8%〜3.3%(w/w)の範囲内である。
【0024】
別の局面では、本発明は、本明細書に記載の方法によって生成されるエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物に関する。
【0025】
好ましい態様では、生成される結晶粒子のうち少なくとも60%、特に少なくとも80%の粒径は、平均径±10%によって与えられる範囲内である。
【0026】
さらなる好ましい態様では、生成される結晶粒子の平均径は20μm〜50μmの範囲内である。
【0027】
特定の態様では、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物は、平均回折角(2θ)5.1°、9.1°、13.6°、22.1°、22.5°および24.0°(各±0.2°)でのピークを含む粉末X線回折パターンと、ICHガイドラインによる100℃で1ヶ月間のインキュベーション後に生成されるドキソルビシノンが0.5%(w/w)未満という熱安定性とからなる群の一方または両方をさらに特徴とする。
【0028】
本発明のさらなる局面は、がんの予防および治療において使用するための、本明細書に記載のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物に関する。
【0029】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1]エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を生成するための方法であって、
(a) 少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒をエピルビシン塩酸塩に加える工程であって、第1の溶媒が直鎖状または分岐状C
4〜C
5アルコールであり、第2の溶媒が直鎖状または分岐状C
2〜C
3アルコールである、工程;
(b) 工程(a)において得られた溶液中の含水量を7%〜12%(w/w)の範囲内の量に調整する工程; ならびに
(c) 結晶化を可能にするために、工程(b)において得られた溶液を70℃〜90℃の温度に加熱する工程
を含み、生成される結晶性一水和物が2.7%〜3.5%(w/w)の範囲内の含水量を有し、残留溶媒を欠いている、方法;
[2]工程(b)における含水量が8%〜11%(w/w)の範囲内の量に調整される、[1]記載の方法;
[3]第1の溶媒が1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択され、第2の溶媒が1-プロパノール、イソプロパノール、エタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択される、[1]または[2]記載の方法;
[4]第1の溶媒が1-ブタノールであり、第2の溶媒が1-プロパノールである、[3]記載の方法;
[5]第1の溶媒 対 第2の溶媒の容積比が1:1〜2:1(v/v)の範囲内である、[1]〜[4]のいずれか記載の方法;
[6]工程(b)の溶液中のエピルビシン塩酸塩の最終濃度が10g/l〜100g/lの範囲内である、[1]〜[5]のいずれか記載の方法;
[7]工程(c)における溶液が75℃〜85℃の温度に加熱される、[1]〜[6]のいずれか記載の方法;
[8]結晶化を誘導するために、工程(b)において得られた溶液にシード添加する工程をさらに含む、[1]〜[7]のいずれか記載の方法;
[9]工程(c)において得られた結晶を精製する工程をさらに含む、[1]〜[8]のいずれか記載の方法;
[10]エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物の含水量が2.8%〜3.3%(w/w)の範囲内である、[1]〜[9]のいずれか記載の方法;
[11][1]〜[10]のいずれか記載の方法によって生成される、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物;
[12]生成される結晶粒子のうち少なくとも60%、特に少なくとも80%の粒径が、平均径±10%によって与えられる範囲内である、[11]記載のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物;
[13]生成される結晶粒子の平均径が20μm〜50μmの範囲内である、[11]または[12]記載のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物;
[14]平均回折角(2θ)5.1°、9.1°、13.6°、22.1°、22.5°および24.0°(各±0.2°)でのピークを含む粉末X線回折パターンと、ICHガイドラインによる100℃で1ヶ月間のインキュベーション後に生成されるドキソルビシノンが0.5%(w/w)未満という熱安定性とからなる群の一方または両方をさらに特徴とする、[11]〜[13]のいずれか記載のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物;および
[15]がんの予防および治療において使用するための、[11]〜[14]のいずれか記載のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、2.7%〜3.5%(w/w)の範囲内の含水量を有する一水和物の形態のエピルビシン塩酸塩の提供が、熱安定性の向上および有効期間の長期化と高度に均一な生成物の提供、有利な吸湿性および生成物の優れた安定性(残留溶媒の非存在による)とを組み合わせるという予期しない発見に関する。結晶化前に溶媒混合物の含水量を7%〜12%(w/w)、特に8%〜11%(w/w)の範囲内の量に調整することと比較的高い結晶化温度および特定の溶媒組み合わせとの組み合わせが、結晶性一水和物を得る上で特徴的な技術的特徴であることがわかった。
【0032】
特定の理論によって拘束されることは意図しないが、結晶多形中の特定の量の残留水の存在は、熱または水に対する結晶の安定性に対する著しい有害効果を示すことなしに、結晶構造中での溶媒分子の包含に干渉しかつ/または結晶構造から溶媒分子を移動させると考えられ、後者の効果は特に驚くべきものである。
【0033】
特に、溶媒混合物中に存在する水の量を増大させることで三水和物の形態のエピルビシン塩酸塩を調製する際に、一水和物形態について同定された優れた性質はもはや観察されなかった。特に、三水和物形態は一水和物形態に比べて熱および水に対する安定性が相当に低い。したがって、優れた性質はエピルビシン塩酸塩の一水和物形態に特に関連している。
【0034】
本発明を特定の態様に関して、また特定の図面を参照して以下に説明するが、本発明は、それらに限定されずに添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとして理解すべきである。記載される図面は単に模式的であり、非限定的であると考えるべきである。
【0035】
「含む」という用語を本明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、それは他の要素または段階を排除しない。本発明において、「からなる」という用語は、「含む」という用語の好ましい態様であると考えられる。以下において、ある群が少なくとも特定の数の態様を含むように定義される場合、これは、これらの態様のみからなることが好ましい群を開示するとも理解すべきである。
【0036】
単数名詞を参照する際に不定冠詞または定冠詞、例えば「ある」、「1つの」または「その」を使用する場合、別途具体的に規定されない限り、これはその名詞の複数形を含む。
【0037】
数値が本発明の文脈において示される場合、当業者は、問題となっている特徴の技術的効果が、所与の数値に対する±10%、好ましくは±5%の偏差を典型的に包含する精度区間内において保証されるということを理解するであろう。
【0038】
さらに、本明細書および添付の特許請求の範囲における第1、第2、第3、(a)、(b)、(c)などの用語は、同様の要素を識別するために使用され、経時順または時系列順を記述するためには必ずしも使用されない。そのように使用される用語が適切な状況下で互換性があること、および本明細書に記載の本発明の態様が本明細書に記載または例示される順序とは別の順序で運用可能であることを理解すべきである。
【0039】
用語のさらなる定義は、用語が使用される文脈において以下に示される。以下の用語または定義は、本発明の理解を助けるためにのみ示される。これらの定義は、当業者が理解するよりも狭い範囲を有すると解釈すべきではない。
【0040】
一局面では、本発明は、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を生成するための方法であって、
(a) 少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒をエピルビシン塩酸塩に加える工程であって、第1の溶媒が直鎖状または分岐状C
4〜C
5アルコールであり、第2の溶媒が直鎖状または分岐状C
2〜C
3アルコールである、工程;
(b) 工程(a)において得られた溶液中の含水量を7%〜12%(w/w)の範囲内の量に調整する工程; ならびに
(c) 結晶化を可能にするために、工程(b)において得られた溶液を70℃〜90℃の温度に加熱する工程
を含み、生成される結晶性一水和物が2.7%〜3.5%(w/w)の範囲内の含水量を有し、残留溶媒を欠いている、方法に関する。
【0041】
エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を生成するために、該化合物と少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒とを混合する。出発化合物であるエピルビシン塩酸塩は固体として、非晶質でまたは任意の結晶形で与えることができる。あるいは、エピルビシン塩酸塩は水溶液などの溶液または懸濁液の形態で与えることもできる。該化合物は化学合成または発酵によって生成可能であり、あるいは各種供給業者から市販されている。
【0042】
典型的には、エピルビシン塩酸塩を固体として与えた後、水に例えば10g/l〜100g/lの範囲の濃度で溶解させる。この溶液のpH値は3.0〜5.0、好ましくは3.5〜4.5の範囲でありうる。特定の態様では次に、溶液のゲル状態が実現されるまで水を除去する。例えば、水の除去は低圧下および30℃〜45℃の温度、好ましくは35℃〜40℃の温度での蒸発(例えばロータリーエバポレーターを使用)によって達成することができる。
【0043】
本明細書において定義される「少なくとも1種の第1の溶媒」とは、直鎖状または分岐状C
4〜C
5アルコール、すなわち4個もしくは5個の炭素原子を有するアルコールのことであり、C
4アルコールである1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノールおよびtert-ブタノール、ならびにC
5アルコールである1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノールおよび2,2-ジメチル-1-プロパノールが特に挙げられる。本明細書において使用される「少なくとも1種の第1の溶媒」という用語は、1つもしくは複数のC
4アルコールの混合物、例えば(1-ブタノールおよびイソブタノール)または(1-ブタノール、イソブタノールおよびtert-ブタノール)、1つもしくは複数のC
5アルコールの混合物、例えば(1-ペンタノールおよび2-ペンタノール)または(1-ペンタノール、2-ペンタノールおよび2-メチル-1-ブタノール)、ならびに1つもしくは複数のC
4およびC
5アルコールの混合物、例えば(1-ブタノールおよび1-ペンタノール)または(1-ブタノール、2-ブタノールおよび1-ペンタノール)も意味する。
【0044】
本明細書において定義される「少なくとも1種の第2の溶媒」とは、直鎖状または分岐状C
2〜C
3アルコール、すなわち2個もしくは3個の炭素原子を有するアルコールのことであり、C
2アルコールであるエタノール、ならびにC
3アルコールである1-プロパノールおよびイソプロパノールが特に挙げられる。本明細書において使用される「少なくとも1種の第2の溶媒」という用語は、1つもしくは複数のC
2および/またはC
3アルコールの混合物、例えば(エタノールおよび1-プロパノール)または(1-プロパノールおよびイソプロパノール)または(エタノール、1-プロパノールおよびイソプロパノール)も意味する。
【0045】
本方法の好ましい態様では、第1の溶媒は1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択され、第2の溶媒は1-プロパノール、イソプロパノール、エタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択される。例えば、少なくとも1種の第1の溶媒は1-ブタノールでありうるものであり、第2の溶媒はエタノールでありうる。あるいは、少なくとも1種の第1の溶媒はtert-ブタノールでありうるものであり、少なくとも1種の第2の溶媒は1-プロパノールおよびエタノールの混合物でありうる。
【0046】
特定の態様では、第1の溶媒は1-ブタノールであり、第2の溶媒は1-プロパノール、イソプロパノール、エタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択される。他の特定の態様では、第1の溶媒は1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択され、第2の溶媒は1-プロパノールである。
【0047】
特に好ましい態様では、第1の溶媒は1-ブタノールであり、第2の溶媒は1-プロパノールである。
【0048】
特定の態様では、エピルビシン塩酸塩と、直鎖状または分岐状C
1〜C
10アルコール、特に直鎖状または分岐状C
1〜C
6アルコールより選択される、少なくとも1種の第3の溶媒または少なくとも1種の第4の溶媒とを混合することができる。
【0049】
少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒はエピルビシン塩酸塩に同時に加えても任意の順序で順次加えてもよい。典型的には、少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒を、少なくとも1種の第1の溶媒を手始めに順次加える。
【0050】
特定の態様では、少なくとも1種の第1の溶媒の添加後に、混合物中に存在する水を、固体析出物が形成されるまで除去する(できるだけ完全に)。水の除去は低圧下および30℃〜45℃の温度、好ましくは35℃〜40℃の温度での蒸発(例えばロータリーエバポレーターを使用)によって達成することができる。
【0051】
少なくとも1種の第2の溶媒の添加(同時または順次)後に、典型的には得られた混合物を、溶解完了が達成されるまで、すなわち存在するあらゆる固体析出物が溶解するまで、場合によっては高温でインキュベートする。この目的のために、混合物を40℃〜55℃の温度、好ましくは45℃〜50℃の温度に加熱する(好ましくは攪拌下で)ことができる。
【0052】
さらなる特定の態様では、第1の溶媒 対 第2の溶媒の容積比は1:1〜2:1(v/v)の範囲内である。例示的態様では、この容積比は1:1、1.2:1、1.4:1、1.6:1、1.8:1または2:1(v/v)である。しかし、第1の溶媒 対 第2の溶媒の他の容積比、例えば2:1(v/v)よりも過剰の第1の溶媒(例えば2.5:1、3:1もしくは5:1(v/v))または過剰の第2の溶媒(例えば1:1.2、1:2もしくは1:3(v/v))も同様に可能である。
【0053】
続いて、少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒の添加後に得られた溶液中の含水量を7%〜12%(w/w)の範囲内の量に調整する。この調製は、失われた水の添加、または例えば蒸発(上記参照)による過剰の水の除去によって達成することができる。含水量は、当技術分野において確立された各種方法、例えば電量滴定もしくは容量滴定が行われうるカールフィッシャー滴定(Fischer, K. (1935) Angew. Chem. 48, 394-396)、または熱重量分析(例えばCoats, A.W. and Redfern, J.P. (1963) Analyst 88, 906-924において概説)によって決定することができる。
【0054】
例示的態様では、溶液の含水量は7.2%〜12%(w/w)、7.5%〜12%(w/w)、8%〜11.8%(w/w)、7%〜11.5%(w/w)または7.5%〜11%(w/w)の範囲、例えば7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%または12%(w/w)である。
【0055】
本方法の好ましい態様では、溶液中の含水量は8%〜11%(w/w)または8%〜10%(w/w)または9%〜11%(w/w)または8%〜12%(w/w)の範囲内の量、例えば8.0%、8.2%、8.4%、8.6%、8.8%、9.0%、9.2%、9.4%、9.6%、9.8%、10.0%、10.2%、10.4%、10.6%、10.8%または11.0%(w/w)に調整される。
【0056】
特定の態様では、含水量の調整後に得られた溶液中のエピルビシン塩酸塩の最終濃度は10g/l〜100g/lの範囲、例えば10g/l、20g/l、50g/l、80g/lまたは100g/lである。しかし、より高いエピルビシン塩酸塩濃度、例えば最大120g/l、150g/lまたは200g/lを有する溶液を使用することも可能である。
【0057】
含水量の調整後に得られた溶液のpH値は2.5〜6.0または3.0〜5.5の範囲でありうる。好ましい態様では、pH値は3.5〜4.5の範囲の値、例えば4.0に調整される。
【0058】
次に、得られた溶液を(すなわちエピルビシン塩酸塩への少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒の添加ならびに溶解完了後に)70℃〜90℃の温度に加熱することで結晶化を可能にする。溶液を75℃〜85℃の温度、特に好ましくは78℃〜85℃、または78℃〜82℃の温度、例えば75℃、76℃、77℃、78℃、79℃、80℃、81℃、82℃、83℃、84℃または85℃に加熱することが好ましい。混合物を攪拌下で加熱することが好ましい。
【0059】
固体析出物(すなわちエピルビシン塩酸塩の結晶)が形成されるまで、例えば最大1時間、最大2時間、最大4時間または最大6時間、70℃〜90℃の温度でのインキュベーションを続ける。インキュベーション中に攪拌を続けることができる。
【0060】
特定の一態様では、本発明の方法は、
(a) 少なくとも1種の第1の溶媒および少なくとも1種の第2の溶媒をエピルビシン塩酸塩に加える工程であって、第1の溶媒が1-ブタノールであり、第2の溶媒が1-プロパノールである、工程;
(b) 工程(a)において得られた溶液中の含水量を8%〜11%(w/w)の範囲内の量に調整する工程; ならびに
(c) 結晶化を可能にするために、工程(b)において得られた溶液を75℃〜85℃の温度に加熱する工程
を含み、生成される結晶性一水和物は2.8%〜3.3%(w/w)の範囲内の含水量を有し、残留溶媒を欠いている。特に、本方法は任意の1つもしくは複数の以下の工程をさらに含む:
(i) 第1の溶媒および第2の溶媒を1:1〜2:1(v/v)の範囲の容積比で与える段階;
(ii) 溶解完了が達成されるまで工程(a)の混合物を45℃〜50℃の温度に加熱する段階;
(iii) 工程(b)におけるpH値を3.5〜4.5の範囲の値に調整する工程; ならびに
(iv) 固体析出物が形成されるまで工程(c)における溶液のインキュベーションを75℃〜85℃の温度で続ける工程。
【0061】
特定の態様では、本方法は、結晶化を誘導するために、含水量の調整後に得られた溶液にシード添加する工程をさらに含む。すなわち、1個もしくは複数の小さなエピルビシン結晶を溶液に加え、そこからより大きな結晶が成長する。
【0062】
他の特定の態様では、本方法は、結晶化中に得られた結晶を精製する工程をさらに含む。典型的には、そのような精製は混合物の他の成分からの結晶の分離を包含し、この分離は通常、濾過または蒸留によって達成される。さらに、精製プロセスはアルコールまたはケトンなどの好適な洗浄液による洗浄工程を包含しうる。
【0063】
本方法の特定の態様では、任意的な精製プロセスは、超臨界流体、すなわち、明瞭な液相および気相が存在しない、臨界点を超えた温度および圧力での物質を使用する、流体抽出プロセスを含む。本明細書において使用される超臨界流体としては亜酸化窒素、プロパン、エチレン、フルオロカーボンおよび二酸化炭素が特に挙げられ、後者の1つが好ましい。流体抽出プロセスは200〜2000ml/分(例えば500〜1000ml/分)の範囲の流量にて25〜55℃(例えば40〜45℃)の温度および10〜60MPa(例えば40〜55MPa)の圧力で2〜4時間(例えば3時間)行うことができる。
【0064】
最後に、確立されたプロトコールに従って結晶を場合によっては減圧下で乾燥させることができる。例えば、得られた結晶を30℃〜40℃の温度で風乾させることができる。
【0065】
得られた結晶の機能的特性決定は、該結晶が、2.7%〜3.5%(w/w)の範囲内の含水量を有するエピルビシン塩酸塩の一水和物形態(すなわち1個のエピルビシン塩酸塩分子当たり1個の水分子)に相当することを明らかにした。含水量は上記のように、例えばカールフィッシャー滴定または熱重量分析によって決定することができる。
【0066】
本方法の好ましい態様では、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物の含水量は2.8%〜3.3%(w/w)の範囲、例えば2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%または3.3%(w/w)である。
【0067】
さらに、生成されたエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物の機能的特性決定は、該化合物が残留溶媒を欠いていることを示した。本明細書において使用される「〜を有さない」という用語は、結晶中の残留溶媒の量が0.5%(w/w)未満、好ましくは0.3%(w/w)未満、特に好ましくは0.25%(w/w)未満であることを意味する。結晶中に存在する残留溶媒の量は、ガスクロマトグラフィーなどの確立された各種方法を使用して決定することができる。
【0068】
別の局面では、本発明は、本明細書に記載の方法によって生成されるエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物に関する。
【0069】
本発明によって生成されるエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物は、結晶粒子の均一な粒径分布を特徴とし、すなわち、調製物中に存在する大多数の個々の結晶粒子の粒径は、平均粒径(典型的には容積加重平均値として計算)から著しく逸脱してはいない。例えば、粒径分布は、当技術分野において確立されたレーザー回折分析(例えばEuropean Pharmacopeia, 7th Edition (2010), 20931に記載)によって決定することができる。本発明のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を使用する代表的分析を
図13に示す。
【0070】
典型的には、本発明のエピルビシン塩酸塩の一水和物の結晶粒子の平均径は10μmよりも大きく、または15μmよりも大きく、または18μmよりも大きい。好ましい態様では、本発明の方法によって生成される結晶粒子の平均径は20μm〜50μmの範囲、例えば22μm、25μm、28μm、30μm、35μm、40μmまたは45μmである。
【0071】
特定の態様では、生成される結晶粒子のうち少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、特に少なくとも80%または少なくとも90%の粒径は、平均径±30%によって与えられる範囲内である。例えば、生成される結晶粒子の平均径が25μmである場合、所与の調製物中に存在する各パーセンテージの結晶粒子は17.5μm〜32.5μmの範囲の粒径を有する。特定の態様では、生成される結晶粒子のうち少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、特に少なくとも80%または少なくとも90%の粒径は、平均径±20%によって与えられる範囲内である。例えば、生成される結晶粒子の平均径が25μmである場合、所与の調製物中に存在する各パーセンテージの結晶粒子は20μm〜30μmの範囲の粒径を有する。好ましい態様では、生成される結晶粒子のうち少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、特に少なくとも80%または少なくとも90%の粒径は、平均径±10%によって与えられる範囲内である。例えば、生成される結晶粒子の平均径が25μmである場合、所与の調製物中に存在する各パーセンテージの結晶粒子は22.5μm〜27.5μmの範囲の粒径を有する。
【0072】
さらなる特定の態様では、本発明は、2.7%〜3.5%(w/w)の範囲内の含水量を有し、かつ残留溶媒を欠いている、すなわち0.5%(w/w)未満の量の残留溶媒を含む(上記参照)、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物に関する。結晶性一水和物の含水量は2.8%〜3.3%(w/w)の範囲内であることが好ましい(上記、ならびに
図2、
図5および
図8の例示的熱重量分析を参照)。
【0073】
特定の態様では、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物は、平均回折角(2θ)5.1°、9.1°、13.6°、22.1°、22.5°および24.0°(各±0.2°)での特徴的ピークを含む、
図3、
図6および
図9に示す分析で例示される特定の粉末X線回折パターンをさらに特徴とする。
【0074】
さらなる特定の態様では、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物は、表5にさらに示す、ICHガイドライン(特にICHガイドラインQ1A(R2)参照)による100℃で1ヶ月間のインキュベーション後に生成されるドキソルビシノン(すなわちエピルビシンのアグリコン分解生成物)が0.5%(w/w)未満という特定の熱安定性をさらに特徴とする。
【0075】
特定の態様では、本発明のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物は、195℃〜205℃の温度範囲内の最大強度を201℃〜204℃の平均ピーク(すなわち融点)と共に含む、
図1、
図4および
図7に示す分析で例示される特定の示差走査熱量測定(DSC)図をさらに特徴とする。
【0076】
最後に、本発明のさらなる局面は、がんの予防および治療において使用するための、本明細書に記載のエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物に関する。特に、エピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物は乳がんの治療に使用される。
【0077】
図面および以下の実施例により本発明をさらに説明する。これらは単に本発明の特定の態様を示すためであり、本発明の範囲を限定するものと決して解釈すべきではない。
【実施例】
【0078】
材料および方法
示差走査熱量測定(DSC; 融点決定用)を、較正済み超微量天秤を使用してアルミナるつぼ(70μl、アルミナ蓋で密閉)中に試料を正確に秤量することで行った。測定: DSC 30モジュールまたはMettler DSC 25を銀オーブンおよびセラミックセンサ結晶と共に備えたMettler TC11-TAプロセッサ、ならびにMettler TC15A-TAコントローラ(25℃〜250℃、10℃/分)。掃流ガス: N
2、80ml/分、流量制御。較正: 超高純度インジウム(In)を標準物質として試料測定前に直接行った(温度スケール、熱流スケール)。
【0079】
カールフィッシャー電量滴定(KFT; 含水量決定用)を外部乾燥オーブン(Metrohm 707 KF; N
2掃流下140℃で操作)によって行った。試料を化学天秤上で正確に秤量した(10
-5g)。
【0080】
熱重量分析(TG分析; 含水量決定用)を、較正済み超微量天秤を使用してアルミナるつぼ(100μl、レーザー穿孔50μm孔を有するアルミナ蓋で封止)中に試料を正確に秤量することで行った。測定: Mettler TGA/DSC1、大型オーブン; ガス制御ボックス(掃流ガス: N
2、80ml/分、流量制御)。
【0081】
HPLCおよびGC分析を標準的プロトコールに従って行った。
【0082】
X線粉末回折分析を、以下の設定でSTOE-STADI P透過回折計を使用して行った: nCu-Kα
1線(λ=1.54056Å)、U=40kV、I=35mA、一次ビームモノクロメーター(湾曲Ge(111))、線形位置感受性検出器、スリット: 1mm、d=8mm、角度領域: 2θ=3〜90°、ステップ幅Δ2θ=0.02°、25秒/0.2°ステップ。粉末を最初に2つのマイラー箔の間に充填した後、d=8mmマスクを有する試料ホルダーに充填する。
【0083】
実施例1
(1) 非晶質エピルビシン塩酸塩(91.0%(w/w)、HPLC分析によって決定)500.0gを水10lに溶解させた。溶液のゲル状態が実現されるまで、水をロータリーエバポレーター上にて低圧下40℃の温度で蒸発させた。
(2) 10lの量の1-ブタノールを溶液に加え、固体析出物が形成されるまで蒸発を続けた。
(3) 5lの量の無水エタノールを1-ブタノール溶液に加えた。固体析出物が再溶解するまで混合物を加熱した。1-ブタノール/エタノール溶液の含水量を蒸発によって8%〜10%(w/w)(カールフィッシャー滴定によって決定)に調整した。続いて、蒸発を停止させ、固体析出物が形成されるまで溶液を75℃の温度で攪拌した。
(4) エピルビシン塩酸塩の結晶を濾取し、アセトン500ml中で洗浄し、30℃〜35℃の温度で風乾させた。結晶性エピルビシン塩酸塩423gを得た(全収率: 92.9%)。
【0084】
得られた化合物の機能的特性決定:
融点(DSC分析): 201.4℃(
図1参照)
含水量: 3.11%(w/w)(KFT)
3.22%(w/w)(TG分析;
図2参照)
一水和物の計算値: 3.01%(w/w)
エピルビシンHCl含有量(HPLC分析): 96.4%(w/w)
残留溶媒含有量(GC分析): 0.26%(w/w)
X線粉末回折分析(
図3参照): 回折角(2θ)5.1°、9.1°、13.6°、22.1°、22.5°および24.0°での特徴的ピーク
【0085】
実験データは、得られた化合物が、エピルビシン塩酸塩であって(HPLC)、具体的に規定された結晶構造を有し(X線)、一水和物形態を示す含水量を有し(KFTおよびTG)、残留溶媒を欠いている(GC)ことを明らかにする。
【0086】
実施例2
(1) 非晶質エピルビシン塩酸塩(含有量: 91.0%(w/w)、HPLC分析によって決定)500.0gを水10lに溶解させた。溶液のゲル状態が実現されるまで、水をロータリーエバポレーター上にて低圧下40℃の温度で蒸発させた。
(2) 10lの量の1-ブタノールを溶液に加え、固体析出物が形成されるまで蒸発を続けた。
(3) 5lの量の1-プロパノールを1-ブタノール溶液に加えた。固体析出物が再溶解するまで混合物を加熱した。n-ブタノール/1-プロパノール溶液の含水量を蒸発によって9%〜10%(w/w)(カールフィッシャー滴定によって決定)に調整した。続いて、蒸発を停止させ、固体析出物が形成されるまで溶液を78℃の温度で攪拌した。
(4) エピルビシン塩酸塩の結晶を濾取し、アセトン500ml中で洗浄し、30℃〜35℃の温度で風乾させた。結晶性エピルビシン塩酸塩435gを得た(全収率: 95.6%)。
【0087】
得られた化合物の機能的特性決定:
融点(DSC分析): 203.9℃(
図4参照)
含水量: 3.11%(w/w)(KFT)
3.17%(w/w)(TG分析;
図5参照)
一水和物の計算値: 3.01%(w/w)
エピルビシンHCl含有量(HPLC分析): 96.1%(w/w)
溶媒含有量(GC分析): 0.23%(w/w)
X線粉末回折分析(
図6参照): 回折角(2θ)5.1°、9.1°、13.6°、22.1°、22.5°および24.0°での特徴的ピーク
【0088】
実験データは、得られた化合物が、エピルビシン塩酸塩であって(HPLC)、具体的に規定された結晶構造を有し(X線)、一水和物形態を示す含水量を有し(KFTおよびTG)、残留溶媒を欠いている(GC)ことを明らかにする。
【0089】
実施例3
(1) 非晶質エピルビシン塩酸塩(含有量: 91.0%(w/w)、HPLC分析によって決定)500.0gを水10lに溶解させた。溶液のゲル状態が実現されるまで、水をロータリーエバポレーター上にて低圧下40℃の温度で蒸発させた。
(2) 10lの量の1-ブタノールを溶液に加え、固体析出物が形成されるまで蒸発を続けた。
(3) 5lの量のエタノールおよび1-プロパノールの混合物(1:1(v/v))を1-ブタノール溶液に加えた。固体析出物が再溶解するまで混合物を加熱した。得られた溶液の含水量を蒸発によって8%〜10%(w/w)(カールフィッシャー滴定によって決定)に調整した。続いて、蒸発を停止させ、固体析出物が形成されるまで溶液を75℃の温度で攪拌した。
(4) エピルビシン塩酸塩の結晶を濾取し、アセトン500ml中で洗浄し、30℃〜35℃の温度で風乾させた。結晶性エピルビシン塩酸塩431gを得た(全収率: 94.7%)。
【0090】
得られた化合物の機能的特性決定:
融点(DSC分析): 201.6℃(
図7参照)
含水量: 3.11%(w/w)(KFT)
3.16%(w/w)(TG分析;
図8参照)
一水和物の計算値: 3.01%(w/w)
エピルビシンHCl含有量(HPLC分析): 97.0%(w/w)
溶媒含有量(GC分析): 0.21%(w/w)
X線粉末回折分析(
図9参照): 回折角(2θ)5.1°、9.1°、13.6°、22.1°、22.5°および24.0°での特徴的ピーク
【0091】
実験データは、得られた化合物が、エピルビシン塩酸塩であって(HPLC)、具体的に規定された結晶構造を有し(X線)、一水和物形態を示す含水量を有し(KFTおよびTG)、残留溶媒を欠いている(GC)ことを明らかにする。
【0092】
実施例1〜3において得られた機能的データは、同じ化合物の生成を示す非常に高度の一致を示す。
【0093】
実施例4(比較例)
(1) 結晶性エピルビシン塩酸塩500.0gを水5lに溶解させた。溶液のゲル状態が実現されるまで、水をロータリーエバポレーター上にて低圧下40℃の温度で蒸発させた。
(2) エピルビシン塩酸塩のゲル溶液をアセトン9lに注いだ。
(3) エピルビシン塩酸塩の析出結晶を濾取し、アセトン500ml中で洗浄し、30℃〜35℃の温度で風乾させた。析出結晶512gを得た。HPLC分析によってエピルビシン塩酸塩の存在を確認した。
(4) 含水量の決定(三水和物の計算値: 9.03%(w/w))
【0094】
分析: 9.81%(w/w)(KFT)
9.85%(w/w)(TG分析;
図10参照)
【0095】
実験データは、得られた結晶性エピルビシン塩酸塩が、三水和物形態を示す含水量を有することを明らかにする。
【0096】
実施例5
実施例1に従って調製したエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を指定の期間(月)、それぞれ25℃、40℃および100℃の温度に露出させた。試験をICHガイドライン(特にICHガイドラインQ1A(R2)を参照)に記載のように行った。生成された分解生成物(すなわちドキソルビシノン)の量および未変化エピルビシン塩酸塩の量(いずれも%(w/w))をHPCL分析によって決定した(「LT」=未満)。結果を表1に要約する。
【0097】
結果は、生成された結晶性一水和物の、全有効期間に関する例外的に高い安定性(25℃の温度での(少なくとも)5年間にわたる安定性)だけでなく、熱安定性に関する例外的に高い安定性(40℃の温度での(少なくとも)6ヶ月間にわたる安定性)も示す。
【0098】
【表1】
* 試験はICHガイドラインに従って6ヶ月以内に終了した。
** 試験は決定的な観察結果なしに1ヶ月以内に終了した。
【0099】
実施例2および実施例3にそれぞれ従って調製したエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を使用するさらなる分析はほぼ同一の結果を明らかにした(表示せず)。
【0100】
実施例4に従って調製したエピルビシン塩酸塩の結晶性三水和物について同じ分析を行った。結果を表2に要約する。
【0101】
【表2】
* 試験はICHガイドラインに従って6ヶ月以内に終了した。
** 試験は決定的な観察結果なしに1ヶ月以内に終了した。
【0102】
データは、25℃の温度で6ヶ月以内の保存であっても三水和物形態が著しく分解することを示す。ドキソルビシノンアグリコンの蓄積は高温で劇的に増大する。したがって、本発明の結晶性エピルビシン塩酸塩の優れた性質は、得られた一水和物形態に固有の特徴である。
【0103】
実施例6
実施例1に従って調製したエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を指定の期間(日)、それぞれ25℃または40℃の温度および40〜90%の相対湿度に露出させた。試験をICHガイドラインに記載のように行った。試料の各含水量(%(w/w))をカールフィッシャー滴定によって測定した。結果を表3に要約する。
【0104】
【表3】
【0105】
実験データは、生成されたエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物が著しい吸湿能力を示さないことを示す。相対湿度90%および40℃に15日間露出させた場合でさえ、吸水量は驚くほど少なかった。
【0106】
実施例2および実施例3にそれぞれ従って調製したエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物を使用するさらなる分析はほぼ同一の結果を明らかにした(表示せず)。
【0107】
実施例4に従って調製したエピルビシン塩酸塩の結晶性三水和物について同じ分析を行った。結果を表4に要約する。
【0108】
【表4】
【0109】
データは、3日間の露出後に既に相当な程度の吸水量があったことを示す。したがって、本発明の結晶性エピルビシン塩酸塩の優れた性質はやはり、得られた一水和物形態に固有の特徴である。
【0110】
実施例7(比較例)
異なる方法に従って生成した結晶性エピルビシン塩酸塩の3つの試料を、それぞれの粒径分布に関してレーザー回折分析によって分析した。
【0111】
試料1を特許文献WO 2012/163508 A1号の実施例1に従って調製した。
【0112】
手短に言えば、水12ml、2-プロパノール258mlおよび1-ブタノール30mlの混合物に非晶質エピルビシン塩酸塩9.0gを懸濁させた。この懸濁液を攪拌下で65℃に加熱し、この温度で4時間放置した。次に懸濁液を22℃の温度に段階的に冷却した。懸濁液に含まれる溶媒の濾去後、結晶をアセトンで洗浄し、アセトンの除去後に24時間減圧乾燥させた。
【0113】
レーザー回折分析をアセトン中湿式レーザー回折の形態、すなわち1750rpm、サイクル時間3x20秒、バックグラウンド時間60秒、超音波処理なし、攪拌時間5分で、Mastersizer 2000粒径分析器(英国Malvern、Malvern Instruments Ltd.)を製造業者の説明書に従って使用することで行った。
【0114】
図11は、代表的分析の結果、ならびにそれぞれ倍率40倍および100倍の例示的湿式分散顕微鏡画像を示す。
【0115】
結果は、1μm〜80μmの範囲の粒径の変動を、約5μmでの1つのピークおよび約50mmでの第2のピークと共に示す。粒子の容積に基づく平均径(「D(v/0.5)」とも呼ぶ)は4.62μmと計算することができる。また、粒子の粒径の変動は顕微鏡下で直接目に見える。さらに、粒子は結晶性ではないようである。
【0116】
試料2を特許文献WO 2012/163508 A1号の実施例2に従って調製した。
【0117】
手短に言えば、水13mlおよび2-プロパノール13mlの混合物に非晶質エピルビシン塩酸塩10.0gを溶解させることで、エピルビシン塩酸塩を含む溶液を調製した。次にこの溶液と1-ブタノール33mlおよび2-プロパノール274mlとを混合した。生成された混合物を65℃に加熱し、この温度で4時間放置することで、エピルビシン塩酸塩の結晶を形成した。次に得られた懸濁液を22℃の温度に段階的に冷却した。懸濁液に含まれる溶媒を濾去し、濾過残渣として残留する結晶をアセトンで洗浄した。アセトンを除去後、結晶を24時間減圧乾燥させた。
【0118】
レーザー回折分析を上記のように行った。
【0119】
図12は、代表的分析の結果、ならびにそれぞれ倍率40倍および100倍の例示的湿式分散顕微鏡画像を示す。
【0120】
結果はやはり1μm〜80μmの範囲の粒径の相当な変動を、顕著な単一の最大ピークを伴わずに示す。D(v/0.5)値は9.04μmと計算することができる。また、粒子の不均一な粒径分布は顕微鏡下で直接目に見える。さらに、粒子はやはり結晶性ではないようである。
【0121】
試料3を本発明に従って上記実施例3に記載のように調製した。
【0122】
レーザー回折分析を上記のように行った。
【0123】
図13は、代表的分析の結果、ならびにそれぞれ倍率40倍および100倍の例示的湿式分散顕微鏡画像を示す。
【0124】
結果は、粒径の高度に均一な分布をD(v/0.5)値での単一の最大ピークと共に明らかに示す。D(v/0.5)値は25.25μmと計算することができる。調製物中に存在する結晶粒子の大多数は、平均粒径±10%によって与えられる範囲内の粒径を有する。顕微鏡下で粒子は実際に結晶性であるようである。
【0125】
これらのデータは、本発明の方法が、高度に均一な粒径分布を有するエピルビシン塩酸塩の結晶性一水和物の生成を提供することを示す。
【0126】
実施例8(比較例)
異なる方法に従って生成した結晶性エピルビシン塩酸塩の3つの試料を、ストレス条件下(すなわち100℃で1ヶ月間の保存中)の熱安定性に関して分析した。
【0127】
試料Sを本発明に従って上記実施例3に記載のように調製した。試料M1をWO 2012/163508 A1号の実施例1に従って上記実施例7に記載のように調製した。最後に、試料M2をWO 2012/163508 A1号の実施例2に従って上記実施例7に記載のように調製した。
【0128】
【表5】
* 不明な不純物の総量: Sにおいて0.48; M1において1.36; M2において1.1
略語: RRT、相対保持時間; NMT、以下
【0129】
試料を指定の期間(週)、100℃の温度に露出させた。試験をICHガイドラインQ1A(R2)(上記参照)に記載のように行った。生成された分解生成物(すなわちドキソルビシノン)の量ならびに各種不純物(すなわちドキソルビシンおよび独自性が未だ不明の4つの異なる不純物; いずれも%(w/w)で示す; 「n.d.」=未決定)の量をHPCL分析によって決定した(「LT」=未満)。結果を表5に要約する。
【0130】
上記で示した熱安定性データと類似して、ストレス条件下で得られたさらなるデータは、本発明に従って調製されたエピルビシン塩酸塩(「S」)の分解が、特許文献WO 2012/163508 A1号に従って調製された試料(「M1」および「M2」)に比べて顕著でないことを示す。後者の試料の安定性の減少は、非晶質材料の分子接近性が結晶状態(実施例7も参照)に比べて高いことに基づく、より大きな比表面積に起因しうると強く推測される。さらに、本発明に従って調製されるエピルビシン塩酸塩(「S」)はまた、試料中に存在する不純物の量の著しい減少を示し(データは太字で示す)、したがって、例えば生成物の安全性に関する本発明のエピルビシン塩酸塩の優れた性質のさらなる証拠が提供される。
【0131】
本明細書に例示的に記載されている本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の1つまたは複数の要素、1つまたは複数の限定の非存在下で好適に実施することができる。したがって例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する」などの用語は、包括的かつ非限定的に読まれるものとする。さらに、本明細書で使用する用語および表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語および表現の使用において、示されかつ記載される特徴の任意の等価物またはその一部を排除するという意図はなく、特許請求される本発明の範囲内で各種の改変が可能であることが認識される。したがって、本発明は態様および任意的な特徴によって具体的に開示されているが、当業者がそこに具現化された発明を改変および変形できること、および、そのような改変および変形が本発明の範囲内であると考えられることを理解すべきである。
【0132】
本明細書において、本発明を広範かつ包括的に説明してきた。包括的開示の範囲内にあるそれぞれの比較的狭義の種類および下位の分類も本発明の一部を形成する。これは、任意の素材を部類から削除することを、その削除された材料が本明細書に具体的に列挙されているか否かにかかわらず行うという条件または否定的限定を伴う、本発明の包括的記述を含む。
【0133】
他の態様は添付の特許請求の範囲内である。さらに、本発明の特徴または局面をマーカッシュ群に関して記述する場合、当業者は、本発明が、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーの部分群に関してもそれによって記載されることを認識するであろう。