【実施例1】
【0020】
本発明の第1の実施の形態に係る配電用工具について、
図1乃至
図3を用いて詳細に説明する。
図1(a)は本発明の第1の実施例に係る配電用工具の側面図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA方向矢視図である。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、本発明の第1の実施例に係る配電用工具1は、間接活線工具50の先端50aに取付具51を介して装着される配電用工具であって、電線52に対して係止可能な屈曲部3を有する係止部材2と、この係止部材2を端面4aにおいて支持するとともに、この端面4aと端面4bに開口する軸孔5が穿設される筒状体4と、端部6aが屈曲部3の内周側3aへ対向し、端部6bが取付具51に連結されるとともに、軸孔5の内部へ挿入され、この軸孔5の長手方向に沿ってスライドする軸体6と、を備える。
軸孔5は、筒状体4の端面4a及び端面4b寄りに、それぞれ雌ねじ部7,8が形成される。雌ねじ部7,8のピッチは、それぞれP
3,P
4であり、ピッチP
3はピッチP
4よりも長い。さらに、ねじ山の高さについては雌ねじ部8の方が雌ねじ部7よりも高く、ねじ山の角度については雌ねじ部8の方が雌ねじ部7よりも小さい。
そして、軸体6は、端部6a及び端部6b寄りに、雌ねじ部7,8にそれぞれ螺合する雄ねじ部9,10が形成される。さらに、端部6aには、電線52を押圧する押圧部11が取り付けられる。この押圧部11は軸体6と共回りする構成である。
また、軸孔5の長さL
1は、雄ねじ部9の末端から雄ねじ部10の先端までの長さL
2と等しい。
なお、間接活線工具50と軸体6は、いずれも同一の長手方向に沿った中心軸Cを有する。
【0021】
次に、本実施例の配電用工具を構成する軸体について、
図2を用いて詳細に説明する。
図2は、本発明の第1の実施例に係る配電用工具を構成する軸体の拡大図である。なお、
図1で示した構成要素については、
図2においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図2に示すように、軸体6に形成された雄ねじ部9のピッチP
1は、雄ねじ部10のピッチP
2よりも長い。そのため、雄ねじ部9が雌ねじ部7に螺合すると同時に、雄ねじ部10が雌ねじ部8に螺合すると、軸体6の中心軸Cを中心とする回動が不可能となることから、雄ねじ部9が雌ねじ部7に螺合する場合は、雄ねじ部10が雌ねじ部8に螺合しないように構成されることが必要となる。この構成については、
図3において詳細に説明する。
また、ねじ山の高さについては雄ねじ部10の方が雄ねじ部9よりも高く、ねじ山の角度については雄ねじ部10の方が雄ねじ部9よりも小さく、また雄ねじ部9の長さと雄ねじ部10の長さはほぼ等しい。
さらに、雄ねじ部10のリード角θ
2は、雄ねじ部9のリード角θ
1よりも小である。具体的には、リード角θ
2は5度であり、リード角θ
1は25度である。
なお、雄ねじ部9の有効径d
1の長さと雄ねじ部10の有効径d
2の長さの関係は、(d
1/d
2)=2/3である。なお、有効径とは、ねじ溝の幅がねじ山の幅に等しくなるような仮想的な円筒の直径である。したがって、雄ねじ部10のピッチP
2に対する雄ねじ部9のピッチP
1の比率Kは、約3.6となる。ただし、比率K=(P
1/P
2)=(d
1/d
2)・[(tanθ
1)/(tanθ
2)]によって算出される。したがって、雄ねじ部9,10がそれぞれ螺合する雌ねじ部7,8におけるピッチの比率(P
3/P
4)も、約3.6である。
【0022】
次に、本実施例の配電用工具の作用について、
図3を用いながら詳細に説明する。
図3(a)乃至
図3(c)は、それぞれ本発明の第1の実施例に係る配電用工具を構成する軸体の作用を説明するための側断面図である。なお、
図1及び
図2で示した構成要素については、
図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3(a)乃至
図3(c)は、いずれも電線52に係止部材2の屈曲部3が係止され、筒状体4の軸孔5の内部に軸体6が挿入された状態を示している。
このうち、
図3(a)に示すように、係止部材2と押圧部11による電線52の挟持を開始する際には、筒状体4の雌ねじ部7と軸体6の雄ねじ部9が螺合し、押圧部11と電線52との間隔Hが最大となっている。このとき、間接活線工具50の中心軸Cを中心としてこれをα方向へ回動させると、軸体6が屈曲部3の内周側3aの方向に向かって上昇する。
【0023】
さらに、間接活線工具50のα方向への回動を継続すると、
図3(b)に示すように、雄ねじ部9が端面4aを通過して雌ねじ部7から完全に抜け出す。なお、軸孔5の長さL
1は、雄ねじ部9の末端から雄ねじ部10の先端までの長さL
2と等しい(
図1参照)ため、これと同時に、雄ねじ部10が端面4bを通過して雌ねじ部8への螺合を開始し始める。すなわち、雄ねじ部9の雌ねじ部7に対する螺合と、雄ねじ部10の雌ねじ部8に対する螺合が同時に起こることが回避される。
【0024】
以降、間接活線工具50のα方向への回動によって、
図3(c)に示すように、押圧部11が電線52に当接するとともに、雄ねじ部10のほぼ全長が雌ねじ部8へ螺合した状態となる。ここで、間接活線工具50のα方向への回動を停止すると、係止部材2と押圧部11による電線52の挟持が完了する。
また、間接活線工具50をβ方向へ回動させることで、軸体6が電線52から離隔する方向へ下降し、係止部材2と押圧部11による電線52の挟持が解除される。さらに、間接活線工具50のβ方向への回動を継続することによって、軸体6は
図3(a)に示される配置に戻る。
【0025】
続いて、雌ねじ部7に対する雄ねじ部9の作用とを雌ねじ部8に対する雄ねじ部10の作用を比較しながら説明すると、前述したように、雄ねじ部10のピッチP
2に対する雄ねじ部9のピッチP
1の比率Kは、約3.6となることから、1回の間接活線工具50の回動当たりに、軸体6が中心軸Cに沿って移動する長さは、雄ねじ部9の方が雄ねじ部10の約3.6倍となる。したがって、雄ねじ部9と雌ねじ部7の組み合わせによって軸体6が粗動し、雄ねじ部10と雌ねじ部8の組み合わせによって軸体6が微動することとなる。
また、雄ねじ部10のリード角θ
2は、雄ねじ部9のリード角θ
1よりも小である(
図2参照)ために、雄ねじ部9を締め付ける力の方が雄ねじ部10を締め付ける力よりも強い力が必要となるが、雄ねじ部10の方が雄ねじ部9よりもそれぞれ雌ねじ部8及び雌ねじ部7に対して緩み難い。よって、
図3(c)に示すように、押圧部11が電線52に当接した場合に、軸体6が電線52から離隔する方向へ下降することが防止される。
一方で、
図3(c)から
図3(a)の配置に戻る際には、雄ねじ部9を緩める力の方が雄ねじ部10を緩める力よりも弱い力で足りる。すなわち、雄ねじ部9の方が雄ねじ部10よりもそれぞれ雌ねじ部7及び雌ねじ部8に対して緩み易い。
さらに、有効径d
1,d
2の長さについては雄ねじ部10の有効径d
2の方が雄ねじ部9の有効径d
1よりも長く、ねじ山の高さについても雄ねじ部10の方が雄ねじ部9よりも高い。加えて、雄ねじ部9の長さと雄ねじ部10の長さはほぼ等しいことから、雄ねじ部9のねじ山にかかるせん断応力は、雄ねじ部10のねじ山にかかるせん断応力よりも大きくなる傾向にあると考えられる。
なぜなら、[せん断応力]=[中心軸C方向に沿った荷重/(π・おねじの山の径・ねじの全長)],[おねじの山の径]≒[有効径+ねじ山の高さ]で表わされるからである。したがって、雄ねじ部10の方が、雄ねじ部9よりも、中心軸C方向に沿った荷重に対する強度が高いものと考えられる。なお、電線52を締め付ける最終段階では、雄ねじ部10が雌ねじ部8に対して螺合しているので、雄ねじ部10の方が、雄ねじ部9よりも、中心軸C方向に沿った荷重に対する強度が高いことは、配電用工具1の破損防止という点で、特に有効である。
【0026】
以上説明したように、本実施例に係る配電用工具1によれば、雄ねじ部9と雌ねじ部7、及び雄ねじ部10と雌ねじ部8を備えることと、軸孔5の長さL
1が軸体6の長さL
2と等しいことにより、軸体6の粗動と微動とが交互に可能となる。より詳細には、電線52の挟持を開始する際には、粗動によって押圧部11を電線52に接近させ、押圧部11が電線52に当接する直前には、ゆっくりと精密な動きによって電線52に押圧部11を当接させることが可能となる。よって、配電用工具1を使用することで、電線52を損傷させることなく迅速かつ正確に把持することができる。
ただし、雄ねじ部9を締め付ける力の方が雄ねじ部10を締め付ける力よりも強い力が必要となる。しかし、このような場合は、間接活線工具50の回動を開始した直後であるため、作業者の疲労がなく、作業者の負担はそれほど重いものではないものと考えられる。また、
図3(c)に示すように、電線52に押圧部11が当接する直前に、リード角θ
2の小さい雄ねじ部10が雌ねじ部8に螺合しているので、小さい力で雄ねじ部10を締め付けることができる。このように、配電用工具1によれば、電線52の把持作業が完了する間際において、作業者の疲労を抑制することが可能である。
また、本実施例に係る配電用工具1は、係止部材2と、筒状体4と、軸体6と、からなる簡易な構成である。このうち、軸体6にはそれぞれピッチの異なる雄ねじ部9,10を形成し、筒状体4にはこれらがそれぞれ螺合する雌ねじ部7,8を形成することが必要であるが、このような雄ねじ部9,10や雌ねじ部7,8は、例えばダイスやタップといった金属加工用工具を使用した従来技術により形成される。したがって、配電用工具1を、比較的容易に、かつ安価に製造することができる。
【0027】
なお、本実施例に係る配電用工具1は本実施例に示すものに限定されない。例えば、雄ねじ部9,10や雌ねじ部7,8のピッチ、リード角及び有効径は、前述したものに限定されない。より詳細には、軸孔5の長さL
1は、雄ねじ部9の末端から雄ねじ部10の先端までの長さL
2より短くても良い。さらに、雄ねじ部9の有効径の長さは、押圧部11が雌ねじ部7を通過して落下しない程度に、雄ねじ部10の有効径の長さ以上であっても良い。このほか、押圧部11が軸体6と共回りしない構成であっても良い。
【実施例2】
【0028】
本発明の第2の実施の形態に係る配電用工具について、
図4乃至
図6を用いて詳細に説明する。
図4は、本発明の第2の実施例に係る配電用工具を構成する可動部材の側断面図である。なお、
図1乃至
図3で示した構成要素については、
図4においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図4に示すように、本発明の第2の実施例に係る配電用工具12は、筒状体13は、雌ねじ部7と雌ねじ部8との境界付近において、軸孔5の表面に開口部14aが開口するとともに、この開口部14aの反対側に奥部14bが設けられる複数の孔部14と、この複数の孔部14にそれぞれ収容される可動部材15と、を備える。
可動部材15は、開口部14aを通過して軸体6に接近又は軸体6から離隔する球形状の可動端部16と、一端17aがこの可動端部16に連結されるとともに他端17bが奥部14bの付近に固着され、この可動端部16を軸体に接近させる方向に付勢する弾性体17と、からなる。配電用工具12におけるこれ以外の構成については、実施例1に係る配電用工具1と同様である。
【0029】
続いて、孔部14及び可動部材15の配置について、より詳細に説明する。
図5(a)は本発明の第2の実施例に係る配電用工具を構成する可動部材の
図4におけるB−B線断面図であり、
図5(b)はその第1の変形例に係る配電用工具を構成する可動部材の同位置における断面図である。なお、
図1乃至
図4で示した構成要素については、
図5においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図5(a)に示すように、実施例2に係る配電用工具12においては、複数の孔部14は、軸孔5の長軸Dを中心として180度毎に配置される。なお、軸孔5の長軸Dと、軸体6の中心軸C(
図1参照)は、同一軸である。
図5(b)に示すように、実施例2の第1の変形例に係る配電用工具12aにおいては、複数の孔部14は、軸孔5の長軸Dを中心として120度毎に配置される。配電用工具12aにおけるこれ以外の構成については、実施例2に係る配電用工具12と同様である。
【0030】
また、軸体6、孔部14及び可動部材15について、
図6を用いてより詳細に説明する。
図6(a)は本発明の第2の実施例に係る配電用工具を構成する筒状体及び軸体の側断面図であり、
図6(b)はその第2の変形例に係る配電用工具を構成する筒状体及び軸体の側断面図である。なお、
図1乃至
図5で示した構成要素については、
図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6(a)に示すように、実施例2に係る配電用工具12においては、後述する体部6cは、表面に凹凸部分等が形成されない円柱形状をなしている。
これに対し、
図6(b)に示すように、実施例2の第2の変形例に係る配電用工具12bにおいては、軸体6は、雄ねじ部9の末端と雄ねじ部10の先端の間に体部6cが形成される。この体部6cは、可動端部16が係合可能な複数の係合溝18が、中心軸Cに沿って並列して形成される。配電用工具12bにおけるこれ以外の構成については、実施例2に係る配電用工具12と同様である。
【0031】
次に、本実施例の配電用工具12,12a,12bの作用について、詳細に説明する。
本実施例の配電用工具12,12a,12bにおいては、可動端部16を軸体に接近させる方向に付勢する弾性体17によって、可動端部16は、軸体6の表面に側方から接触する。なお、
図4に示すように、可動端部16が雄ねじ部9のねじ山に接触する際、弾性体17が収縮するので、可動端部16は、軸体6のスライドに伴い移動するねじ山を乗り越えることが可能である。すなわち、軸体6の形状や軸体6が軸孔5に対しスライドしている最中か否かに関わらず、可動端部16の軸体6に対する接触が継続される。
また、
図5に示すように、複数の可動部材15は、軸孔5の長軸Dを中心として一定角度毎に配置される複数の孔部14にそれぞれ収容されるため、それぞれの可動端部16が軸体6に側方から接触すると、軸体6の中心軸Cと軸孔5の長軸Dとが一致した状態が保持されつつ、軸体6の表面が複数の可動部材15によって均等に押圧される。したがって、軸孔5に対して軸体6が傾斜することが防止される。ただし、軸体6に対する可動端部16の押圧は、軸体6のスライドや回動を阻害する程度に強いものではない。配電用工具12,12a,12bにおけるこれ以外の作用については、実施例1に係る配電用工具1と同様である。
【0032】
さらに、本実施例の配電用工具12bにおいては、軸体6の屈曲部3方向へのスライドに伴い、可動端部16が順次係合溝18へ係合する。したがって、雄ねじ部10の雌ねじ部8に対する螺合が緩むことが防止され、軸体6が屈曲部3から離隔する方向へ下降することが防止される。なお、このような作用は、そもそも雄ねじ部9のリード角θ
2が5度と小さいことによって発揮されるものであるが、係合溝18が設けられることによって、さらにこの作用が補強されるものである。また、前述したように、弾性体17が収縮するので、可動端部16は、軸体6のスライドに伴い移動する係合溝18を乗り越えることが可能である。
【0033】
以上説明したように、本実施例の配電用工具12,12a,12bによれば、軸孔5に対して軸体6が傾斜することが防止されることから、雌ねじ部7から雄ねじ部9が屈曲部3へ向かって抜け出した直後に、雌ねじ部8に対し雄ねじ部10を確実に螺合させることが可能である。したがって、雌ねじ部7に対する雄ねじ部9の螺合と、雌ねじ部8に対する雄ねじ部10の螺合の切り替えを滑らかに行うことができる。
【0034】
さらに、本実施例の配電用工具12bによれば、係合溝18が設けられることによって、雄ねじ部10の緩み防止効果が補強されるので、電線52を把持する場合の作業効率が良好となるとともに、電線52を締め付けた後に軸体6が自然に降下し電線52が落下する事態を回避することができる。なお、このような落下防止効果は、電線52の締め付け過程の最終時点で発揮されるため、作業者の疲労軽減という点で、極めて有効である。配電用工具12,12a,12bにおけるこれ以外の効果については、実施例1に係る配電用工具1と同様である。
【0035】
なお、本実施例に係る配電用工具12,12a,12bは本実施例に示すものに限定されない。例えば、孔部14及び可動部材15は、軸孔5の長軸Dを中心として180度や120度以外の角度ごとに配置されてもよい。また、係合溝18は、雄ねじ部9寄りの体部6cに設けられても良い。この場合、雄ねじ部9の雌ねじ部7に対する螺合が緩むことが防止される。さらに、体部6cの全長に亘って設けられても良い。この場合には、体部6cの長さが軸孔5の長さよりも長い場合において、軸孔5に対して軸体6が傾斜することが強く防止される。