特許第5964463号(P5964463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5964463-アノード端の燃料セルの燃料欠乏の回避 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964463
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】アノード端の燃料セルの燃料欠乏の回避
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20160721BHJP
   H01M 8/24 20160101ALI20160721BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160721BHJP
【FI】
   H01M8/02 R
   H01M8/24 E
   H01M8/24 Z
   H01M8/02 C
   !H01M8/10
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-558721(P2014-558721)
(86)(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公表番号】特表2015-511390(P2015-511390A)
(43)【公表日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】US2012026553
(87)【国際公開番号】WO2013126075
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】591006586
【氏名又は名称】アウディ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】AUDI AG
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】パターソン,ティモシー,ダブリュー.ジュニアー
(72)【発明者】
【氏名】ダーリング,ロバート エム.
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−536287(JP,A)
【文献】 特開平05−190186(JP,A)
【文献】 特開2004−179061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組の端板(3)の間に圧縮された複数の連続した燃料セル(9)を含んだ燃料セルスタッを備えた装置であって、
前記燃料セルの各々が、一方の面にアノード触媒層(13)を有するとともに第2の面にカソード触媒層(14)を有する電解質(10)と、前記アノード触媒層に隣接したアノードガス拡散層(16)と、前記カソード触媒層に隣接したカソードガス拡散層(17)と、前記アノードガス拡散層に隣接する燃料流れ場を有するアノード水輸送板(21)と、前記カソードガス拡散層に隣接する酸化剤流れ場を有するカソード水輸送板(28)と、を備え、前記スタックが、アノード端(34)を有するものにおいて、
前記スタックにおける前記アノード端の燃料セルの前記燃料流れ場における燃料流れ場流路の深さが、a)前記スタックにおける残りの燃料セルの前記燃料流れ場における燃料流れ場流路に比べて35%〜65%深い、または、b)前記スタックにおける残りの燃料セルの前記燃料流れ場における燃料流れ場流路に比べて0.15mm〜1.5mm深いことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記スタックにおける前記残りの燃料セルの前記燃料流れ場における前記燃料流れ場流路が、0.3mm〜0.5mmの深さであり、前記スタックにおける前記アノード端の前記燃料セルの前記燃料流れ場流路の深さが、前記スタックにおける前記残りの燃料セルの前記燃料流れ場における前記燃料流れ場流路に比べて0.15mm〜0.25mm深いことをさらに特徴とする請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
燃料セルスタックにおけるアノード端の燃料セルのアノードが、スタックにおけるその他の燃料セルの燃料流れ場流路に比べて著しく深い、燃料流れ場流路を備える。それにより、低温ブートストラップ起動時の、アノード端のセルにおける燃料の欠乏を防ぐように、十分な燃料流れがもたらされる。
【背景技術】
【0002】
氷点下温度における燃料セルスタックの起動手順が、反応物流れ場内の氷の存在によって妨げられることが以前から指摘されている。その氷により、電極の触媒層表面の特定の部位または全体にまでの反応物ガスの到達が妨げられる。こうした状況を回避すべく、回復運転時に氷が存在する可能性がないようにするために、スタックのシャットダウン時にスタックから全ての水および水蒸気を除去するための多くの提案がなされている。このような装置は、高価かつ不便であり、多大な時間を必要とし、現時点では、乗物で使用される燃料電池発電装置には間違いなく適していない。優れた低温起動性能に必要なセルスタックアセンブリのドライアウトは、厳しい膜ストレスの原因となり、時宜を得ない膜の破損を招くおそれがある。
【0003】
触媒/氷の問題に対するその他のアプローチはあらゆる加熱方法論を含むが、それらもまた、高価、不便、かつ多大な時間を必要とし、乗物用途には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この態様(modality)は、a)氷点下温度でのブートストラップ起動時の、およびそれに後続する、燃料セルスタックアセンブリの不十分な端セル性能、および、b)凍結/解凍サイクルに起因する燃料セルスタックアセンブリの不十分な端セル性能が、フラッディングに起因するという認識に基づいている。凍結温度からの起動時、スタックのカソード端およびアノード端の両方の端セルは、最大限までフラッディングする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで、「スタックのアノード端」および「アノード端」は、スタックの端部であって、端部に最も近い燃料セルのアノードのほうが、その端部に最も近い燃料セルのカソードよりもその端部に近い、スタックの端部として定義される。ここで、「ブートストラップ起動」とは、スタックまたは反応物を最初に加熱することなく反応物を通流させることにより、燃料セルスタック内で負荷を用いて電気の生成を開始することを意味する。
【0006】
ここでの態様はまた、アノード端セルの燃料の欠乏が起動時の性能を大幅に低下させ、アノード端セルの炭素腐食を助長するという発見に基づいている。
【0007】
意外にも、ここでの態様は、アノード端セルの燃料反応物流れ場流路の深さを、スタックにおけるその他のセル全ての燃料反応物流れ場流路の深さよりも著しく深くなるように設けることを含む。一例として、端セルの燃料流れ場流路の深さを約55%増加させることにより、アノード端セルの燃料欠乏が回避される。この態様は様々な方法によって実現されてもよく、深さの増加は、通常の燃料流れ場流路の深さに関しての、(上記のような)割合に関する範囲で述べられてもよく、または距離の観点から述べられてもよい。例えば、アノード端セルの燃料流れ場流路の深さがスタックにおける残りの燃料セルの燃料流れ場流路の深さに比べて約35%〜約65%深い場合、アノード端セルの燃料欠乏が回避される。アノード端セルの燃料流路の深さは、その他のセルにおけるその他の燃料流路の深さよりも2倍以上深い。燃料セル全体の燃料流れ場流路の深さが約0.4mmの燃料セルスタックでは、アノード端の燃料セルの燃料流れ場流路の深さを約0.15mm〜約1.5mm、好ましくは約0.15mm〜約0.5mm、より好ましくは約0.15mm〜約0.25mm増加することにより、アノード端の燃料セルの燃料欠乏が実質的に回避される。
【0008】
添付の図面に図示の実施例の以下の詳細な説明を考慮して、その他の変型例がより明確に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の配置を利用した、一組の隣接する燃料セルの一実施形態の部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図を参照すると、本発明の配置が有利に利用された一形態の一組の燃料セル9,9aが、それぞれプロトン交換膜(PEM)10を含む。PEM10の一方の表面にはアノード触媒層13が存在し、PEM10の反対側の表面にはカソード触媒層14が存在する。アノード触媒層に隣接して多孔質アノードガス拡散層(GDL)16が存在し、カソード触媒層に隣接して多孔質カソードガス拡散層(GDL)17が存在する。アノード水輸送板(WTP)21,21a内の燃料反応物ガス流れ場流路20,20aにより、燃料がアノードへと供給され、WTPは、時には燃料反応物流れ場板とも称される。水輸送板21,21aは多孔性であり、水流路24と燃料流路20,20aとの間に液体伝達を提供するように、少なくとも幾分、親水性である。水輸送板における燃料流路20,20aと反対側の表面に水流路24が形成される。
【0011】
同様に、空気が酸化剤反応物ガス流れ場流路27を通して提供され、これらの流路は、ここでは燃料流路20,20aに対して直交するものとして図示される。空気流路27がカソード水輸送板28の一方の表面に形成され、これらの空気流路は、アノード水輸送板21,21aの流路と同様の特徴を有する。
【0012】
触媒は、通常、ペルフルオロポリマと混合された一般的なPEM支持の貴金属コーティングであり、ペルフルオロポリマは、例えばNAFION(登録商標)の商品名で販売されるものであり、これはTeflon(登録商標)を含有する場合も含有しない場合もある。PEM10は、プロトン伝導性材料、通常は、例えばNAFION(登録商標)の商品名で販売されるペルフルオロポリマから構成される。水流路24から多孔質、親水性の水輸送板21,21aおよびアノードガス拡散層16を通して水が輸送され、プロトン交換膜を湿潤する。
【0013】
触媒層では、2つの二原子分子の水素が触媒作用により、4つの陽イオン水素(プロトン)と、4つの電子とに変換される反応が生じる。プロトンがPEMを通してカソード触媒へと移動する。電子が、燃料セルスタックを通して電気的接続の外へと流れ、外部負荷を通流して実質的な仕事を行う。カソードに到達した電子は、2つの酸素原子および4つの水素イオンと結合して、2つの水分子を形成する。アノードにおける反応は、アノード触媒への水の注入が必要であるが、カソードにおける反応は、生成水の除去が必要であり、この生成水は、移動するプロトンにより、そして浸透によりPEMを通してアノードから引き込まれた水だけでなく、電気化学的プロセスによっても生じる。
【0014】
カソード触媒層14は同様に多孔質であり、ガス拡散層17は、流路27からの空気をカソード触媒に到達させ、かつ、生成水およびプロトンによって引き込まれた水をカソード水輸送板へと移動させるように多孔質であり、そのカソード水輸送板において水が最終的に水流路24に到達する。外部水管理システムを有する発電装置では、水は、可能な冷却用にスタックを出て、貯蔵され、必要に応じてスタックへと戻る。
【0015】
端部34では、通常のある種の端板35(縮尺なし)が、スタックのアノード端における冷却液流路24の提供を容易にする。アノード水輸送板21aは、残りのアノード水輸送板21の厚さとほぼ同じものとして図示される。一方、一般的な場合では、より深い流路20aとの安定性を維持するように水輸送板21aはより厚手に形成される。
【0016】
本発明の態様によれば、アノード端34の燃料セル9aの燃料流れ場板21aが、燃料セルスタックの残りの燃料セル9の燃料流れ場流路20に比べて著しく深い燃料流れ場流路20aを備える。この流路20aは、燃料流路20よりも約0.15mm〜約1.5mm、好ましくは約0.15mm〜約0.5mm、より好ましくは約0.15mm〜約0.25mm深い。あるいは、燃料流路20aは、スタックにおける残りの燃料セル9の燃料流れ場流路20よりも約45%〜約65%、または100%を上回るほど深い。それにより、氷点下起動時のアノードおよび燃料セルにおける燃料欠乏が回避される。
【0017】
深さを増加しても同じ程度の氷で塞がれ、それにより起動時の燃料の流れがブロックされて、各流路内の氷がほぼ同じ量だけ残ることが見て取れるが、それにより増加した深さが、実質的に燃料反応物ガスの通流する体積に充てられることは驚くべきことである。
【0018】
性能の向上は、寒冷時の起動の結果としてのアノード端セルにおける炭素腐食の低減、または本質的な回避を伴う。
【0019】
開示の実施例の変更および変型例は本発明の概念の趣旨を逸脱することなくなされるため、付記の特許請求の範囲によって定められるもの以外の開示に限定することを意図するものではない。
図1