【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成26年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御信号生成手段は、第1の矩形の変調信号を生成する矩形波変調信号生成回路と、前記第1の矩形の変調信号を90°移相し、利得制御信号を生成する信号発生回路とを有し、
前記変位に対応して前記センサ部から出力される前記2相の直交信号を前記2相の矩形波信号に同期して開閉制御する2組の開閉制御手段はアナログスイッチを有し、
前記2組の開閉制御手段に対応して配設され、前記利得制御信号に同期して前記開閉制御手段からの信号の利得を制御する2組の利得制御手段と、
前記信号合成手段は、前記2組の利得制御手段の出力を電流信号として加算または減算して位相変調信号を生成し、
前記低域通過手段は減衰量の小さなローパスフィルタである、
請求項1〜3のいずれかに記載の位相変調信号生成回路。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
磁気センサとしてMRセンサを例示して、本発明の実施の形態について述べる。
【0024】
第1実施の形態
図3を参照して第1実施の形態の位相変調信号生成回路、および、位相変調信号の生成方法を述べる。
式(2)に示すように、位相変調信号e
pmは直交する2組の平衡変調信号を合成することによって生成することができ、
図3に図解した変調信号生成回路1は、式(2)に示す演算処理によって変調信号を生成する。
【0025】
そのため、
図3に図解した位相変調信号生成回路1は、アナログ乗算回路11、12、キャリア周波数f
c の変調信号を発生する変調信号生成回路13、90°移相回路14、加算回路15を有する。
【0026】
変調信号生成回路13はキャリア周波数f
c の正弦波変調信号sinTを発生する。
90°移相回路14は正弦波変調信号sinTを90°移相して余弦波変調信号cosTを生成する。
以上から、変調信号生成回路13と90°移相回路14とは直交する2相の変調信号を生成する直交する2相変調信号を生成する手段として機能する。
【0027】
アナログ乗算回路11、12はそれぞれ、アナログ乗算回路などで構成された回路であり、MRセンサから出力される直交する2相のcosX信号およびsinX信号と、変調信号発生回路13から出力された正弦波変調信号sinTおよび90°移相回路14から出力された余弦波変調信号cosTとを乗算処理、すなわち、cosT・sinXおよびsinX・cosTの演算を行い、変調処理を行う変調手段として機能する。
【0028】
加算回路15は、2つの乗算結果、cosT・sinXとsinX・cosTの加算処理を行う加算(合成)手段として機能する。
【0029】
このように、
図3に図解した変調信号生成回路1においては、アナログ乗算回路11、12においてMRセンサから出力される2相の直交信号sinXおよびcosXを、キャリア周波数f
c の変調信号を発生する変調信号生成回路13から出力される正弦波の交流信号sinTと、90°移相回路14で得られた交流信号cosTとを乗算し、加算回路15おいて2つの乗算信号を合成して、位相変調信号sin(T+X)を生成する。
なお、正弦波の直交する交流信号cosTとsinTとはキャリア周波数f
c で互いに直交している。
【0030】
ところで、
図3の変調信号生成回路1は、演算増幅回路などを用いてアナログ乗算回路11、12を構成しており、乗算処理に起因するドリフトの影響を受けやすい。
さらに、高精度な位相変調信号が必要な場合は、アナログ乗算回路11、12として高精度で高価なアナログ乗算回路を必要とする。
したがって、位相変調信号の安定度やコストが上昇するという課題の観点から、
図3に図解した生成回路1は改善の余地がある。
【0031】
第2実施の形態
図4〜
図5を参照して第2実施の形態について述べる。
第2実施の形態の変調信号生成回路2は、
図3の変調信号生成回路1においてアナログ乗算回路11、12を用いたことに起因する上記課題を克服する。
そのため、変調信号生成回路2は、矩形波変調信号生成回路21と、90°デジタル移相回路22と、第1、第2アナログスイッチ23、24、第1、第2差動アンプ25、26、加算回路27、および、ローパスフィルタ(LPF)28を有する。
【0032】
矩形波変調信号生成回路21は、
図3に図解した正弦波(sinT)変調信号発生回路13とは異なり、矩形波(パルス状)の変調信号RsinTを生成する。
90°デジタル移相回路22は、矩形波変調信号生成回路21からの変調信号RsinTを90°位相した変調信号RcosTを生成する。
第1矩形波の変調信号RsinTと第2矩形波の変調信号RcosTとは互いに直交している。矩形波の変調信号RsinTは、sinTと同一周期で同一位相である。矩形波の変調信号RcosTは、cosTと同一周期で同一位相である。
以上から、矩形波変調信号生成回路21と90°デジタル移相回路22とは、直交する2相の矩形波変調信号を生成する2相変調信号を生成する手段として機能する。
【0033】
図5は
図4に図解した変調信号生成回路2における、センサ信号cosXを変調する第1アナログスイッチ23と第1差動アンプ25の詳細回路を示す。
図5は第1チャンネルCH1のセンサ信号cosXの変調について述べるが、第2チャンネルCH2のセンサ信号sinXについても同様である。
アナログスイッチ23は、たとえば、スイッチング素子としてのトランジスタをオン・オフすることによってアナログスイッチに入力された信号を、通過させるまたは通過させない(阻止する)回路である。
図5に図解したアナログスイッチ23は、矩形波の変調信号RsinTのオン・オフに応じて相補的に開閉されて、入力されるセンサ信号cosXを、差動アンプ25の反転入力端子または反転入力端子に出力する、相補的に動作する1対のアナログスイッチを有する。また、アナログスイッチ23は、矩形波の変調信号RsinTのオン・オフに応じて相補的に開閉されて、GND電位の信号を、差動アンプ25の反転入力端子または反転入力端子に出力する、相補的に動作する1対のアナログスイッチを有する。
これにより、差動アンプ25には、矩形波の変調信号RsinTのオン・オフに応じて、センサ信号cosXまたはGND電位の信号が入力される。
【0034】
アナログスイッチ23と差動アンプ25との直列回路とで、信号cosXについて平衡変調を行う。すなわち、MRセンサから出力されるセンサ信号cosXを、アナログスイッチ23において変調信号RsinTでスイッチングする。すなわち、変調信号RsinTがハイレベルのとき、センサ信号cosXを差動アンプ25に出力し、差動アンプ25で増幅して、第2の平衡変調信号Bc(T)として出力する。
【0035】
詳細な回路の図解を省略した、第2アナログスイッチ24と第2差動アンプ26の回路も、
図5に図解したものと同様の動作となり、MRセンサから出力される信号sinXに平衡変調を行い、第1の平衡変調信号Bs(T)として出力する。
【0036】
加算回路27において増幅した2つの信号を、好ましくは、電流として加算して位相変調信号e
pmを得る。
なお、電流として加算する利点は、複数の信号、たとえば、2つの信号の1つの点に接続して合成(加算)するだけでよく、加算回路27として、必ずしも、増幅回路を用いる必要はなく単に、接続点として構成することができるという利点がある。
この例については、
図11の電流加算点SPn 、SPp を参照して後述する。
【0037】
LPF28は、加算回路27から出力される位相変調信号に含まれる高調波成分に対して減衰量の大きなLPFであり、位相変調信号に含まれる不要な高調波成分を減衰させた位相変調信号を出力する。
【0038】
図4および
図5を参照して述べた変調信号生成回路2においては、(1)変調信号生成回路21と90°デジタル移相回路22により矩形波変調信号を生成し、(2)その矩形波変調信号を用いてアナログスイッチ23、24を駆動し、アナログスイッチ23と差動増幅器25の直列回路およびアナログスイッチ24と差動増幅器26の直列回路を用いて第1、第2の平衡変調信号Bs(T)、Bc(T)を得たのち、(3)加算回路27においてこれらの平衡変調信号を合成して(好ましくは、電流加算により)位相変調信号を生成した後、LPF28によって不要な高調波成分を除去している。
その結果、
図3に例示した変調信号生成回路1におけるアナログ乗算回路11、12を用いて平衡変調信号を生成する場合に遭遇したドリフトの問題を改善し、高価なアナログ乗算器を用いずに高精度な回路を用いずにすみ、システムコスト(装置価格)の上昇を抑えることができた。
【0039】
しかしながら、
図4に図解した変調信号生成回路2において、変調信号に正弦波と同一の位相と周期を持つ矩形波を用いるため、依然として、位相変調信号に不要な成分を含むという課題に遭遇する。以下、その意味を述べる。
【0040】
矩形波変調信号生成回路21からの矩形波変調信号RsinTおよび90°デジタル移相回路22からの矩形波変調信号RcosTは、基本波の振幅を1として正規化すると、式(3)で表すことができる。
【0041】
【数3】
【0042】
第1チャンネルCH1側のセンサ信号cosX(CH1)の平衡変調信号Bc(T)、および、第2チャンネルCH2側のセンサ信号sinX(CH2)の平衡変調信号Bs(T)は、式(4)に示すものとなる。
【0043】
【数4】
【0044】
この式(4)には、奇数次高調波で平衡変調された不要な平衡変調信号が重畳されている。したがって、
図4に図解した変調信号生成回路2の加算回路27から出力される位相変調信号e
pm(T) は、式(5)に示すように、たとえば、3次、5次、7次などの奇数次の高調波で変調された不要な位相変調信号が重畳される。
【0045】
【数5】
【0046】
第3実施の形態
第3実施の形態は、第2実施の形態おける上記課題を克服する。
上述した奇数次の高調波で変調された不要な位相変調信号が重畳することを改善するため、第3実施の形態においては、(1)矩形波変調信号を用いてアナログスイッチを制御して平衡変調信号Bs(T)、Bc(T)を得ると共に、(2)さらに、変調信号の周期Tを複数の区間に分割し、その区間毎の正弦波の振幅と等価になるように差動アンプの利得を制御する手段を設けて、平衡変調回路(たとえば、
図4のアナログスイッチ23、差動アンプ25の直列回路)に重畳する基本波に隣接した奇数次高調波成分を大きく減衰させるように構成する。それにより、減衰量の少ないLPFで高品質で不要な位相回転が少ない位相変調信号を得ることができる。
さらに好ましくは、(3)各チャンネルの平衡変調信号Bc(T)、Bs(T)を電流的に加算する手段を設けることにより、チャンネル毎に必要であった差動アンプと、各チャンネルから出力される平衡変調信号を合成して位相変調信号に変換するための回路を、1回路の差動アンプに置き変えることが可能となる。それにより、一層、システムの小型化と低コスト化に効果を発揮する。
【0047】
以下、
図6〜
図9を参照して第3実施の形態について詳述する。
図6は第3実施の形態にかかる変調信号生成回路3の全体構成を示す。
図7は
図6における可変利得差動アンプの詳細構成を示す。
図8は
図7に図解した可変利得差動アンプの動作タイミングを示す図である。
図9は多値の変調波を示す図である。
【0048】
図6に図解した変調信号生成回路3は、矩形波変調信号生成回路31と、信号発生回路32と、第1、第2アナログスイッチ33、35、第1、第2可変利得型差動アンプ(GA)34、36、加算回路37、および、ローパスフィルタ(LPF)38を有する。
【0049】
矩形波変調信号生成回路31は、
図4を参照して述べた矩形波変調信号生成回路21と同様、矩形波(パルス)の変調信号RsinTを出力する。
信号発生回路32は、
図4を参照して述べた90°デジタル移相回路22と同様、矩形波変調信号生成回路31からの変調信号RsinTを90°位相した矩形波の変調信号RcosTを生成する他、第1および第2の利得制御信号GSTLおよびGCTLを生成する。
なお、矩形波の変調信号RsinTと変調信号RcosTとは互いに直交している。矩形波の変調信号RsinTは、信号sinTと同一周期で同一位相である。矩形波の変調信号RcosTは、信号cosTと同一周期で同一位相である。
【0050】
アナログスイッチ33、35は、
図5を参照して述べた第1、第2アナログスイッチ23、24と同様であり、第1チャンネルCH1のセンサ信号cosXと第2チャンネルCH2のセンサ信号sinXを矩形波の変調信号RsinTと変調信号RcosTとで変調して、それぞれ、第1、第2可変利得型差動アンプ(GA)34、36に出力する。
【0051】
アナログスイッチ33と可変利得型差動アンプ(GA)34の直列回路、および、アナログスイッチ35と可変利得型差動アンプ(GA)36の直列回路とは、それぞれ、平衡変調信号Bc(T)、Bs(T)を生成する。
なお、本実施の形態においては、第1、第2の利得制御信号GSTLおよびGCTLにより第1、第2可変利得型差動アンプ(GA)35、36の利得が制御される。
【0052】
図7に図解した可変利得差動アンプ、たとえば、代表して、第1可変利得型差動アンプ(GA)34について述べると、GA34は、差動アンプ341と、信号発生回路32から出力される利得制御信号GSTLによって、差動アンプ341の入力側に設けられたアナログスイッチ342をオン・オフすることにより差動アンプ341の入力側の抵抗素子を、抵抗素子R1か抵抗素子Rpかのいずれかを選択可能としている。
差動アンプ341の増幅率(利得)は、負帰還抵抗素子R2の抵抗値と入力抵抗素子の抵抗値の比率で規定(決定)されるから、信号発生回路32から出力される利得制御信号GSTLによって差動アンプ341の入力抵抗素子を、抵抗素子R1か抵抗素子Rpかのいずれかに選択することにより可変利得型差動アンプ(GA)34の利得を制御することができる。
利得制御信号GSTLによりスイッチ342がオフにされたときの第1利得G1は、G1=R2/R1であり、利得制御信号GSTLによりスイッチ342がオンにされたときの第1利得G2は、G2=R2/(R1/Rp)である。
なお、上記R1、R2、Rpは、抵抗素子R1、R2、Rpの抵抗値を示す。
このように、第3実施の形態においては、信号発生回路32から出力される第1、第2の利得制御信号GSTL、GCTLによって、それぞれ、2通りの利得(増幅率)G1およびG2を選択(制御)可能となっている。
【0053】
利得制御のタイミングと利得の変化は、期間t0 〜t7 を1単位周期T(1/f
c )として、
図8に例示したものとなる。
図8は、cosX側のセンサ信号について、第1チャンネルCH1側の変調信号RsinTと利得制御信号GSTLのタイミングチャートと各々のタイミングにおいて選択される利得の関係を示したものである。
本実施の形態においては、矩形波変調信号RsinTが”H(ハイ)”および”L(ロー)”となる中央部分で、信号発生回路32からハイレベルの利得制御信号GSTLが出力され、利得の絶対値が大きくなるように制御される。その理由は
図9を参照して述べる。
【0054】
図9は、周期時間Tc に対して変調信号RsinTと利得制御信号GSTLとの組合せによって8分割される時刻t0 〜t7 の中間位置における利得G1およびG2と、正弦波信号sinTの値との関係を示したものである。
単位周期Tc (=1/f
c )が、複数に分割、たとえば、8分割された時刻t0 〜t7
の中間値における利得が該位置における正弦波信号sinTの値と同一の比率になるようにすることが好ましい。たとえば、利得比G2/G1の絶対値の絶対値G2/G1(abs)=sin67.5°/sin22.5°=2.414となるように設定するのが好都合である。
これにより、
図9において、実線が示した多値の矩形波の励磁信号(変調信号)RsinTおよびRcosTは、利得制御信号GSTLとの組合わせより、
図9に波線で例示したように、正弦波の変調信号sinTの信号波形に近似された多値の変調信号と等価に機能する。
【0055】
これらの等価な信号をRsinTeqおよびRcosTeqとすると(記号eqは、等価を示す)、式(6)で表すことができる。
【0056】
【数6】
【0057】
したがって、加算回路37から出力される位相変調信号e
pmは、式(7)で表すものとなる。
【0058】
【数7】
【0059】
このように、第3実施の形態では、
図1を参照して述べた正弦波の変調信号sinTと等価の多値の矩形波の励磁信号(変調信号)RsinTを用いて、アナログスイッチ33、35のスイッチ制御(オン・オフ制御)、および、第1、第2の利得制御信号GSTL、GCTLを用いて可変利得型差動アンプ(GA)34、36の利得制御を行って平衡変調信号Bc(T)、Bs(T)を生成している。
その結果、たとえば、式3と式8とを対比すると、式3における奇数高調波成分、たとえば、3次高調波成分は0.33、5次高調波成分は0.2、7次高調波成分は0.14であったが、式7における奇数高調波成分は、たとえば、3次高調波成分は0.025、5次高調波成分は0.016と、それぞれ約1/10に減少している。
このことは、高調波成分が減少することに加えて
図6に図解した生成回路3におけるローパスフィルタ(LPF)38が簡単な回路構成ですむという利点がある。
すなわち、第3実施の形態の生成回路3は、ドリフトの影響を受けにくく、かつ歪みと位相回転量の少ない位相変調信号を生成可能である。
【0060】
変形態様(1)
図6に図解した生成回路3における加算回路37において、第1チャンネルCH1の平衡変調信号Bc(T)と第2チャンネルCH2の平衡変調信号Bs(T)とを加算して、位相変調信号e
pmを得ているが、加算回路37を減算回路に代えても位相変調信号e
pmを得ることができる。そのときの位相変調信号e
pmは式(8)となる。
なお、この場合は、変位xに対して位相変調信号e
pmの位相の変化する方向が、進み位相、遅れ位相が変わる。
【0061】
【数8】
【0062】
変形態様(2)
上述した実施の形態において、センサ信号cosXについての利得制御信号GSTL、センサ信号sinXについての利得制御信号GCTLは、周期期間Tc 内で、第1、第2可変利得型差動アンプ(GA)35、36の利得の絶対値が大きくなる期間、ハイレベルとなる、オン・オフ信号である。
第1、第2可変利得型差動アンプ(GA)35、36の利得を3以上の多段階に切り換える場合は、たとえば、
図7に図解した回路において、抵抗素子Rpを複数設けて、複数の抵抗素子Rpを選択するスイッチも多数設けて、複数のスイッチを切り換える利得制御信号GSTL(GCTL)もスイッチに応じて多数設け、利得制御信号GSTL(GCTL)をタイミングに応じてオン・オフするように構成する。
【0063】
変形態様(3)
上記変形態様(2)に関連して、
図9に例示した、多値の励磁信号(変調信号)RsinTおよびRcosTを、多段階に制御される利得に応じて、正弦波変調信号sinTに一層近似する階段状に変換する変調信号とすることできる。
このように、本発明において、利得の制御は、上記例示した2段階には限定されず、3以上の多段階とすることができる。
【0064】
第4実施の形態
図10〜
図13を参照して本発明の第4実施の形態について述べる。
第4実施の形態は、第3実施の形態の回構成をさらに改良したものである。
図10に図解した変調信号生成回路4は、
図6に図解の変調信号生成回路3における、矩形波変調信号生成回路31と同様の矩形波変調信号生成回路41、信号発生回路32に類似する信号発生回路42、アナログスイッチ33、34と同様のアナログスイッチ43、45、ローパスフィルタ(LPF)38と同様のLPF48を有する。
図10に図解した変調信号生成回路4において、
図6に図解した第1、第2可変利得型差動アンプ(GA)34、36に代えて1つの加算・利得制御回路44を設けている。
【0065】
図11は加算・利得制御回路44の回路構成を示す。
加算・利得制御回路44は、演算増幅回路441と、負帰還抵抗素子R2と、信号発生回路42からの利得制御信号GSTLによってオン・オフ制御されるアナログスイッチ回路442、443と、複数の第1入力抵抗素子R1と、複数の第2入力抵抗素子Rp、第1、第2の電流加算点(ノード)SPn、SPpを有する。
加算・利得制御回路44において、利得制御信号GSTL(またはGCTL)により、演算増幅回路441の入力抵抗素子を切り替え、演算増幅回路441の利得を変化させることは、
図7を参照して述べた方法と同様である。
【0066】
図6に図解した生成回路3においては、
図7に図解した可変利得型差動アンプ(GA)35を2系統用いているが、加算・利得制御回路44においては
図11に図解した1系統の回路ですみ、回路構成が一層簡単である。
【0067】
加算・利得制御回路44の動作を述べる。
アナログスイッチ43によって平衡変調された第1チャンネルCH1側の出力電圧E1−およびE1+は、抵抗素子R1およびRpを介して差動アンプ441の反転端子(−)および非反転端子(+)に、また、第2チャンネルCH2側の出力電圧E2−およびE2も抵抗素子R1およびRpを介して差動アンプ441の反転端子(−)および非反転端子(+)に入力されている。
【0068】
ここで、差動アンプ441が、誤差、ドリフトなどがない理想アンプであると仮定すると、反転入力端子(−)および非反転入力端子(+)は仮想接地と考えて良く、第1チャンネルCH1側の出力電圧E1−およびE1+は、抵抗素子R1およびRpによって、入力電圧に対応する電流I1nおよびI1pに、第2チャンネルCH2側の出力電圧E2−およびE2+も抵抗素子R1およびRpによって、入力電圧に対応する電流I2nおよびI2pに変換される。
第1チャンネルCH1側の電流I1nおよび第2チャンネルCH2側の電流I2nは電流加算点SPnで、第1チャンネルCH1側の電流I2nおよび第2チャンネルCH2側の電流I2pは電流加算点SPpで加算され(結合され)、それぞれ、差動アンプ441の反転端子(−)および非反転端子(+)に接続されている。
【0069】
ここで、差動アンプ441の入力端子には電流が流れないので、合成された電流(I1n+I2n)および電流(I1p+I2p)はそれぞれ反転端子(−)と出力端子間に接続されて抵抗素子R2および非反転端子(+)とGND間に接続されて抵抗素子R2に流れ、結果として第2チャンネルCH2側の出力電圧と第1チャンネルCH1側の出力電圧の差動演算が行われ、差動アンプの出力端子には上述した式(8)に示す位相変調信号が得られる。
このように、第4実施の形態は第3実施の形態と同様に動作し、第3実施の形態より回路構成が簡単になっている。
【0070】
変形態様
第3実施の形態および第4実施の形態においては、2チャンネルのセンサからはシングルエンドの出力信号cosxまたはsinxが得られるものとして説明しているが、MRセンサを含め多くの磁気センサは相補 (差動) 型の出力cosx、−cosx、または、sinx、−sinxを出力する端子を備えている。
そのため、実質的な平衡変調処理を担うアナログスイッチ部は、好ましくは、
図12に示すように、相補(差動)型の出力端子を持つセンサにも対応可能なこと、また、利得制御部は、好ましくは、
図13に示すように、直列に接続された利得制御抵抗素子R1、Rsとスイッチで実現可能なことは言うまでもない。
【0071】
基本原理
好ましくは実施の形態として、第3実施の形態および第4実施の形態に関連して、その基本原理を整理して述べる。
【0072】
第1の手法
本発明においては、センサ信号と変調信号の乗算処理を行う「アナログ乗算器」を、デジタル信号で駆動されるアナログスイッチと差動アンプ(演算増幅回路)に置き換える。それにより、磁気センサのコストの問題とドリフトの問題とを解決する。
【0073】
第2の手法
第1の手法と共に、デジタル信号を用いて平衡変調処理を行うことによって発生するキャリア周波数f
c の高次成分(理論的には奇数次信号成分)とセンサ信号との乗算によって生成する不要な高次の平衡変調信号の重畳に伴う信号品質の悪化(低下)を抑制するため、変調信号の1周期区間を複数の区間に分割し(たとえば、
図9)、これら区間における差動アンプの利得をデジタル的に制御可能な手段を設け、変調信号の各期間毎の信号振幅を等価的に正弦波信号の振幅に近似させる。
その結果、キャリア周波数f
c に隣接する高次の変調信号の発生を大幅に低減し(たとえば、式(7))、減衰量の小さな低域フイルタ(LPF)(たとえば、
図6、LPF38、
図10、LPF48)を用いて位相変調信号を生成可能とし、信号遅延が少なく高品質な位相変調信号を生成を実現している。
【0074】
第3の手法
さらに好ましくは、アナログスイッチと差動アンプ(差動増幅回路)で構成されていた2組の平衡変調信号生成手段と、これらの出力を合成して位相変調信号に変換していた位相変調信号合成手段とを、2組のアナログスイッチと、各アナログスイッチからの出力を電流的に加算する手段と1組の差動アンプで置き変える(たとえば、
図10における、加算・利得制御回路44)。
それにより、磁気センサの回路の規模を削減し、さらなる小型化を実現し、かつ低コストで位相変調信号を生成可能とする。
【0075】
以下、上記による利点を詳述する。
スケールとセンサ相対変位xに対応して出力される2相の直交信号をcosX、sinX、変調信号の周期時間をTc (=1/f
c )、変調信号の角変位をT(= 2πt/Tc
[s] )とし、cosX信号を出力する側を第1チャンネルCH1、sinX信号を出力する側を第2チャンネルCH2として、本発明による利点を述べる。
【0076】
第1の利点
たとえば、磁気ヘッドを用いた変位量検出装置においては、専用の励磁巻線にcos(T/2)、または、sin(T/2)なる励磁信号を加えることにより、第1チャンネルCH1の信号巻線からはスケール部と磁気ヘッドとの相対変位xに応じて上記励磁信号の2倍のキャリア周波数で平衡変調されたcosT・sinXの平衡変調信号が出力され、第2チャンネルCH2の信号巻線からはsinT・cosXなる平衡変調信号が出力される。これらの平衡変調信号を合成することにより式(2)に示す位相変調信号e
pmを取り出すことができる。
【0077】
また、磁気式エンコーダに用いられるホール素子やスケール目盛に対して素子がすだれ状に配置された、所謂、すだれ型MRセンサにおいては、電源供給端子と信号出力端子とがそれぞれのチャンネル毎に独立して出力されているので、電源供給用のVcc端子とGND端子に励磁信号を供給するように構成すれば、磁気ヘッドと同様に、信号端子から直接平衡変調信号を取り出すことができ、これら2組の平衡変調信号を合成することにより位相変調信号を取り出すことができる。
しかしながら、市販されているMRセンサの多くは電源端子にDC電圧を供給して使用することを想定しているため、たとえば、
図1および
図2に例示したように、等価回路ではチャンネル毎のVcc端子やGND端子が独立した構造になっていないことも多く、励磁方式によって位相変調信号を取り出すことが困難であった。
【0078】
本発明は、変調方式によって位相変調信号を取り出すように構成されているため、電源供給用のVcc端子とGND端子がチャンネル毎に独立していない市販のMRセンサにおいても位相変調信号を用いた変位量検出装置を実現することができる。
【0079】
以上の記述において、磁気センサとして、主として、MRセンサを例示して述べたが、本発明の磁気センサは、MRセンサにかぎらず、GMRセンサ、磁気ヘッド、その他の上記例示した検出センサに適用できることは言うまでもない。
本発明は、磁気センサに限らず、ホール素子、TMRセンサなどを用いて位相変調信号を作成する生成回路にも適用可能である。
【0080】
変位量検出装置
勿論、上記した位相変調信号を生成する生成回路を、たとえば、変位量検出装置に適用すれば、変調信号生成回路から出力される位相変調信号を用いて変位量検出装置から、検出した変位量、たとえば、変位x、回転角θなどを得ることができる。
【0081】
本発明の実施に際しては、上記例示には限定されず、本発明の技術思想を範囲で種々の変形態様をとることができる。
【解決手段】位相変調信号生成回路3は、矩形波の変調信号RsinTを生成する変調信号生成回路31、変調信号RsinTを90°移相し利得制御信号GSTL、GCTLを生成する信号発生回路32、平衡変調信号Bc(T)を生成するアナログスイッチ33と差動増幅アンプ34との直列回路、平衡変調信号Bs(T)を生成するアナログスイッチ35と差動増幅アンプ36との直列回路、2つの平衡変調信号Bc(T)とBs(T)を、好ましくは、電流加算する加算回路37、および、減衰量の小さなローパスフィルタ(LPF)38を有する。