特許第5964482号(P5964482)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5964482
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】キーシリンダ装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 15/00 20060101AFI20160721BHJP
   E05B 29/02 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   E05B15/00 B
   E05B29/02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-110672(P2015-110672)
(22)【出願日】2015年5月29日
【審査請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏章
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−105498(JP,A)
【文献】 特開2005−207229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 15/00
E05B 27/00〜31/00
E05B 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のロータケースと、
前記ロータケース内に回転可能に挿入収容されるロータと、
前記ロータの外周面に挿入されるとともに、前記ロータケースの内周面に挿入固定されるスリーブと、
メカニカルキーの挿抜によって前記ロータ内を径方向に弾性的に移動するタンブラと、
を備えており、
前記スリーブは、前記メカニカルキーの挿入によって前記タンブラを離脱させるとともに、前記メカニカルキーの抜取によって前記タンブラを係合させる孔を有し、
前記孔の中間部には、前記タンブラを受けるとともに、前記ロータケースの内周面に形成された凹溝に挿通される隔壁が形成されていることを特徴とするキーシリンダ装置。
【請求項2】
前記隔壁は、前記孔の内面にブリッジ状に形成された第1隔壁部分と、前記凹溝に挿入される第2隔壁部分とを有していることを特徴とする請求項1に記載のキーシリンダ装置。
【請求項3】
前記スリーブが所定の位置を越えて前記ロータと一緒に回転することを阻止する不正回転阻止部が、前記隔壁と前記凹溝とにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のキーシリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キーシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のキーシリンダ装置の一例としては、車両のドアに設けられるドアロック機構のロック状態及びアンロック状態を切換えるためのシリンダ錠が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記特許文献1に記載されたシリンダ錠は、メカニカルキーを挿入可能なキー孔を有するインナーシリンダと、相対回動を可能としてインナーシリンダを挿通保持するとともに、固定のハウジングに回動可能に保持されるアウタシリンダとを備えている。
【0004】
インナーシリンダには、アウタシリンダに係合する状態、並びにキー孔へのメカニカルキーの挿入に応じてアウタシリンダとの係合を解除する状態を切換え可能としたハーフタンブラが保持されている。
【0005】
アウタシリンダの内周には、中央の隔壁を挟んで対をなす2組の係合溝が軸方向に延びるようにして設けられており、ハーフタンブラは、2組の係合溝に係合する側にばねで付勢されている。
【0006】
インナーシリンダのキー孔にメカニカルキーが挿入されない状態では、ハーフタンブラがアウタシリンダの係合溝に係合しており、キー孔にメカニカルキーが挿入されると、ハーフタンブラのアウタシリンダへの係合が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−177802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、エンジンの状態を切換えるイグニッションシリンダは、上述のドア用のシリンダ錠とは異なり、アウタシリンダを固定のハウジングに回動不能に保持する構造となっている。その構造上、インナーシリンダを強引に回動させてシリンダ錠を解錠しようとする不正行為が行われる場合は、アウタシリンダの2組の係合溝の間に形成された隔壁にハーフタンブラからの強い力を受けることとなる。
【0009】
そのため、インナーシリンダの強引な回動につられて回動するハーフタンブラによってアウタシリンダの隔壁を破壊することで、シリンダ錠が不正解錠されてしまうことがある。このことから、アウタシリンダの隔壁に集中する荷重に耐え得る強度が必要となる。
【0010】
アウタシリンダの隔壁の強度を向上させる場合は、アウタシリンダの径方向の肉厚を厚くすることで強度を高めることが考えられる。しかしながら、アウタシリンダの肉厚を厚くする場合は、アウタシリンダの外径が大きくなり、シリンダ錠全体の体積が増大してしまうという問題がある。
【0011】
一方、アウタシリンダの隔壁の周方向における断面積を大きくすることで強度を高めることが考えられる。しかしながら、2組の係合溝に係合される2組のハーフタンブラ間の距離は所定の規格によって決まっているため、アウタシリンダの隔壁の周方向における肉厚を厚くすることはできない。
【0012】
仮に、アウタシリンダの隔壁の周方向における肉厚を厚くすることができたとしても、アウタシリンダの外径が大きくなり、シリンダ錠全体が大型化する点では、従前どおり変わるところはない。
【0013】
従って、本発明の目的は、装置全体の大型化を伴わずに、シリンダ強度を高めることを可能としたキーシリンダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[1]本発明は、筒状のロータケースと、前記ロータケース内に回転可能に挿入収容されるロータと、前記ロータの外周面に挿入されるとともに、前記ロータケースの内周面に挿入固定されるスリーブと、メカニカルキーの挿抜によって前記ロータ内を径方向に弾性的に移動するタンブラと、を備えており、前記スリーブは、前記メカニカルキーの挿入によって前記タンブラを離脱させるとともに、前記メカニカルキーの抜取によって前記タンブラを係合させる孔を有し、前記孔の中間部には、前記タンブラを受けるとともに、前記ロータケースの内周面に形成された凹溝に挿入される隔壁が形成されていることを特徴とするキーシリンダ装置にある。
【0015】
[2]上記[1]記載の前記隔壁は、前記孔の内面にブリッジ状に形成された第1隔壁部分と、前記凹溝に挿通される第2隔壁部分とを有していることを特徴とする。
【0016】
[3]上記[1]又は[2]記載の前記スリーブが所定の位置を越えて前記ロータと一緒に回転することを阻止する不正回転阻止部が、前記隔壁と前記凹溝とにより構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、装置全体の大型化を伴わずに、シリンダ強度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に好適な実施の形態に係るキーシリンダ装置を模式的に示す分解斜視図である。
図2】キーシリンダ装置の内部構造を説明するための要部断面模式図である。
図3図2のIII−III線矢視の要部断面拡大図である。
図4】キーシリンダ装置の変形例を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、以下の説明においては、キーシリンダのキー挿入孔側を前部、キー挿入孔の後側を後部といい、キー挿入孔を正面からみて上下左右という。
【0020】
(キーシリンダ装置の全体構成)
図1において、全体を示す符号1は、本実施の形態における典型的なキーシリンダ装置の一構成例を例示している。このキーシリンダ装置1は、各種の車載機器及びエンジンの状態を切換えるイグニッションシリンダであり、例えば車両のステアリングポストに装着されるステアリングロック装置のロックボディの内部に配置される。
【0021】
キーシリンダ装置1は、図示しないメカニカルキー(以下、単に「キー」という。)と機械的な認証が可能なキーシリンダ2を備えている。キーシリンダ2は、キーの回転操作により、前部からみてLOCK(ロック)位置から時計回りに、ACC位置(アクセサリ)、ON位置(オン)及びSTART(スタート)位置である第1〜第4の位置のいずれかの位置に切換えられるようになっている。
【0022】
キーシリンダ2がLOCK位置にある場合は、ステアリングロック装置がロック状態となり、キーシリンダ2がACC位置からSTART位置のいずれかの位置にある場合は、ステアリングロック装置がアンロック状態となる。
【0023】
キーシリンダ2には、ステアリングロック装置の構成部品である図示しないイグニッションスイッチを操作するカムシャフトが連結される。キーシリンダ2がLOCK位置からACC位置を経てON位置又はSTART位置に回転操作されると、カムシャフトを介してイグニッションスイッチの接点の接続が切換えられる。この切換え操作によるイグニッションスイッチの接続状態に基づいて、各種の車載機器及びエンジンの状態が切換えられるようになっている。
【0024】
(キーシリンダの構成)
キーシリンダ2は、図1及び図2に示すように、キー挿入方向とは反対側の後部が開口する筒状のロータケース3と、ロータケース3の内部に回転可能に収容される円柱状のロータ4と、ロータ4の外周面に挿入してロータケース3の内周面に挿入固定される筒状のスリーブ5とを備えている。
【0025】
キーシリンダ2には、ロータケース3、ロータ4及びスリーブ5によって多重筒壁構造が形成される。ロータケース3に対してロータ4をキー挿入方向とは反対の方向から組み付けており、ロータ4のロータケース3に対する引抜強度が高められている。
【0026】
(ロータケースの構成)
ロータケース3は、円形フランジ状のケース付筒部材からなり、ケース付筒部材のフランジ部3aにキー操作孔3bを有している。ロータケース3の構成材料としては、例えば亜鉛ダイキャストなどの金属材あるいはガラス繊維入りポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂などの樹脂材が用いられる。
【0027】
ロータケース3は、亜鉛ダイカスト等の金属材料により一体に加工成形された被取付部材である筒状のロックボディの内部にガタつき防止用のパッキン部材6を介して収容固定される。ロータケース3のロックボディ対向面には、パッキン部材6を挿入固定する図示しないパッキン挿入部が突出して形成されている。
【0028】
ロータケース3の上部外周部には、キー挿入方向に沿った凹状の支持壁部31が形成されており、支持壁部31の凹部内には、ロッキングレバー32が揺動可能に支持される。ロッキングレバー32は、キーが差し込まれているか否かを検出するキー挿入検出機能やコラムシャフトの回転操作を可能及び不能とするロックバーやロックストッパ等のロック部材を保持するロック機能等を有している。
【0029】
ロッキングレバー32には、左右一対の脚部33aを有するカバープレート33に覆われた状態でコイルばね34が取り付けられる。カバープレート33の左右一対の脚部33aに形成された孔33bと、ロータケース3の支持壁部31の左右両側の外面に突出して形成された突部31aとがスナップフィット固定され、コイルばね34のばね力によりロッキングレバー32がロータ4側に付勢される。
【0030】
ロータケース3の下部外周部には、図示しないロックボディにキーシリンダ2を取り付けるためのストッパピン35がロータ径方向に移動可能に貫通される。ストッパピン35は、左右一対の脚部36aを有するストッパカバー36に取り付けられ、左右一対の脚部36aがロータケース3の外周側面に起立して形成された凹状の縦壁部38にスナップフィット固定される。
【0031】
ストッパピン35は、一端がロータケース3に固定されたレバー37の弾力によりロックボディ側に付勢されている。レバー37は、取付孔37aを介してロータケース3の縦壁部38の凹部内に突出して形成された取付ピン3cに固定されている。
【0032】
(ロータの構成)
ロータケース3の内部に回転可能に収容されるロータ4は、キー挿入検出機能を有する大径ロータ部41と、キーを機械的に照合するキー照合機能を有する小径ロータ部42とが段差部を介して一体に連結された段部形状を有している。大径ロータ部41及び小径ロータ部42には、キー挿入孔4aがロータ回転軸線方向に沿って形成されている。
【0033】
大径ロータ部41の前部開口部には、キー挿入口を有して挿入口の破壊防止を目的とするブロック43が収容固定されている。大径ロータ部41の外周部には、スライドピース44がキーの挿脱によりロータ径方向に移動可能に収容されており、ロッキングレバー32の前端に屈曲形成された屈曲片32aが、スライドピース44の外面に対向して配置される。
【0034】
一方、小径ロータ部42の内部には、長い板状をなす複数のタンブラ45,…,45と、カムシャフトの回転を阻止するロックピース46とが弾力的に出没可能に収容されている。ロータ4の後部には、カムシャフトを係合するための矩形状をなす連結部47がロータ回転軸線上に沿って突設されている。
【0035】
小径ロータ部42のキー挿入孔4aには、図2及び図3に示すように、ロータ径方向に所定の間隔をもって、ロータ回転軸線方向に沿って延びる上下一対の仕切壁4bが連通して形成されており、仕切壁4bを挟んで複数のタンブラ収容孔42a,…,42aが並べられている。左右一対のタンブラ収容孔42aが一組の収容室として構成されており、この一組の収容室がロータ回転軸線方向に所定の間隔をもって複数の収容室に区分されている。
【0036】
小径ロータ部42のキー挿入孔4aには、径方向に向けて左右両側から突出するとともに、ロータ回転軸線方向に沿って延びる一対のガイド突起42bが突出しており、ガイド突起42bを介してキーがキー挿入孔4a内に案内されるようになっている。
【0037】
小径ロータ部42のタンブラ収容孔42aに収容されたタンブラ45は、図3に示すように、左右分割形のハーフタンブラからなる。タンブラ45の対向端面には、キーの挿入・抜脱により、ロータ径方向に作動させるためのタンブラ突起45aと、小径ロータ部42のタンブラ収容孔42aから出没可能な突出端部45bとが突出して形成されている。
【0038】
タンブラ45は、タンブラ突起45aがキーの表裏両面に形成されたキー溝と係合することで、キーを機械的に照合するキー照合位置となる小径ロータ部42のタンブラ収容孔42a内の所定の位置にコイルばね46を介して弾性的に保持されている。
【0039】
タンブラ45の突出端部45bは、キーがキー挿入孔4a内に差し込まれていない状態においては、小径ロータ部42のタンブラ収容孔42aの開口端から突出しており、この突出端部45bがスリーブ5に係合することでロータ4の回転が規制される。
【0040】
キーがキー挿入孔4aに差し込まれた状態では、全てのタンブラ45は、キーのキー溝に係合することでロータ4のタンブラ収容孔42aの開口端から内方側へ退避する。これにより、全てのタンブラ45がスリーブ5に干渉することなく、ロータ4が回転操作可能な状態となる。
【0041】
(スリーブの構成)
この種のキーシリンダ2にあっては、キー形状の違いによってタンブラ45の形状や枚数が決定されるものであり、タンブラ45の形状や枚数に応じてロータ4を変更する必要がある。一方、ロッキングレバー32のキー挿入検出機能及びロック機能は、ロータケース3の形状によって成り立つことから、ロータ4の変更によってロータケース3の形状変更をも伴う。
【0042】
そこで、本実施の形態においては、キー形状の違いによりロータ4を変更する場合であっても、ロータケース3を共有化することを可能とした円筒状金属性のスリーブ5が用いられる。スリーブ5によって、キーの形状違いに対応してロータ4の回転を規制する位置が設定される。
【0043】
図1図3において、スリーブ5の外周面には、挿入方向に向けて先細り形状に延びる案内リブ51がスリーブ5の全長にわたって突出している。案内リブ51は、ロータケース3の内周面に形成された案内凹部3dにロータ回転軸線方向に沿って挿入される。かかる構成により、ロータケース3に対するスリーブ5の誤挿入操作を防止することが図られている。
【0044】
スリーブ5の外周部両側には、ロータ回転軸線方向に長い複数のタンブラ保持孔52,…,52が貫通して形成されている。このタンブラ保持孔52は、ブリッジ状に形成された隔壁53を介して二列に区画されており、隔壁53がタンブラ45の突出端部45bを受けている。タンブラ保持孔52は、キーの挿入によりタンブラ45の突出端部45bを離脱させるとともに、キーの抜取によってタンブラ45の突出端部45bを係合させる孔を構成している。
【0045】
変更されるキー形状やタンブラ45の種類や個数等に合わせた大きさ(外径)及び厚さ寸法となるスリーブ5を作製し、変更されるキー形状やタンブラ45の種類や個数等に合わせて適宜の大きさ、位置及び個数を有するタンブラ保持孔52が適宜選択使用される。従って、タンブラ保持孔52の位置や個数等については、図示例に限定されるものではないことは勿論である。
【0046】
ロータ4の外周面に挿入してロータケース3の内周面に挿入固定されたスリーブ5を備えることで、キー形状やタンブラ45の種類や個数等を変更する場合のキー挿入検出機能及びロック機能を有する構成部品の部品精度の緩和が可能となり、コストアップを抑えることができる。
【0047】
キーの形状違いによりロータ4を変更する場合であっても、ロータケース3を共有化する機能をスリーブ5に持たせることができるようになり、構成部品の種類数を削減することができる。
【0048】
構成部品の種類数を削減することができるため、構成部品の組立の段替え数を削減することができるようになり、構成部品の組立工数を削減することが可能となる。
【0049】
(キーシリンダの不正回転阻止構造)
キーがロータ4のキー挿入孔4a内に差し込まれていない施錠状態においては、タンブラ45の突出端部45bが、スリーブ5のタンブラ保持孔52を区画する隔壁53に係合することで、ロータ4の回転が規制されている。しかしながら、タンブラ保持孔52の隔壁53がタンブラ保持孔52内にブリッジ状に形成されているため、隔壁53の周方向における断面積が小さくなり、強度が比較的に弱い。
【0050】
その構造上、例えばロータ4の強引な回転につられて回転するタンブラ45を介してスリーブ5の隔壁53に強い力を加えることで、キーシリンダ2を解錠しようとする不正行為が行われる場合は、タンブラ45の突出端部45bがスリーブ5の隔壁53を破壊してタンブラ保持孔52から強引に離脱され、ロータ4を不正回転することでキーシリンダ2が不正に解錠されてしまうことがある。
【0051】
本実施の形態の主要なところは、ロータ4を強引に回転させることでタンブラ45を介してスリーブ5の隔壁53に強い力が加わっても、スリーブ5が所定の係止位置を越えてロータ4と一緒に回転することを阻止する不正回転阻止部をロータケース3及びスリーブ5の非回転部材に備えた点にある。
【0052】
図示例によれば、スリーブ5は、タンブラ保持孔52の中間部にブリッジ状に形成された第1隔壁部分である隔壁53と、この隔壁53のロータケース3側の端部に形成された第2隔壁部分である係止壁53aとを有している。係止壁53aは、タンブラ保持孔52の開口端から突出しており、タンブラ保持孔52の全長にわたって配されている。係止壁53aの突出寸法は、例えば約0.7mm程度に設定されている。
【0053】
この係止壁53aは、スリーブ5の隔壁53の強度を確保するための補強リブとして機能するものであり、ロータケース3の内周面のロータ回転軸線方向に沿って形成された凹溝3eに挿通固定されている。この凹溝3eは、ロータケース3の後部開口端から大径ロータ部41及び小径ロータ部42の間に形成された環状の段差面4cにわたって延びている。凹溝3eの深さ寸法は、例えば約0.9mm程度に設定されている。
【0054】
ロータケース3の凹溝3eに隔壁53の係止壁53aを介してスリーブ5を挿通固定することで、スリーブ5だけでなく、ロータケース3にも、強い力を受けさせることが可能となる。この係止壁53aと凹溝3eとの係止位置等によって、隔壁53の強度が決まる。
【0055】
スリーブ5の係止壁53aとロータケース3の凹溝3eとは、不正行為によるロータ4の回転を阻止する不正回転阻止部として構成されており、不正行為によるロータ4の回転力に耐える耐アタック性の低下を防止している。ロータ4の不正回転を阻止することができるようになり、スリーブ5の破壊を確実に防止することができる。
【0056】
また、図3に示すように、スリーブ5の案内リブ51は、ロータケース3の案内凹部3dに対して円周方向にすきま嵌めとされており、すきま嵌めの隙間の範囲で案内凹部3d内を周方向に移動可能になっている。これにより、案内リブ51と案内凹部3dとの当接が回避され、スリーブ5の隔壁53に作用する回転力をロータケース3の凹溝3eで確実に受けることができ、スリーブ5の破壊を確実に防止することができる。
【0057】
一方、スリーブ5の後部開口端部には、ロータケース3の下部外周部に貫通されたストッパピン35に嵌め込み固定するための係止孔5bが貫通して形成されている。係止孔5bは、ロータケース3の下部外周部に貫通されたストッパピン35を嵌め込むことでスリーブ5の引き抜きを阻止している。
【0058】
スリーブ5の前部開口端面5aは、ロータ4の段差面4cと、ロータケース3のフランジ部3aの奥側にある内周面に形成された環状段部3fとに当接することで、ロータ4の引き抜きを阻止する阻止面として構成されている。
【0059】
スリーブ5の前部開口端面5a、ロータケース3の環状段部3f、ロータ4の段差面4c及びストッパピン35が、ロータ4及びスリーブ5の引抜きに耐える耐アタック性の低下を防止している。ロータケース3のフランジ部3aが破壊された場合でも、ロータ4及びスリーブ5の引抜きに耐える耐アタック性の向上が図られている。
【0060】
(実施の形態の効果)
以上のように構成されたキーシリンダ装置1によれば、上記効果に加えて以下の効果が得られる。
【0061】
不正行為によるロータ4の回転を阻止するための簡易な構造をもって、道路運送車両の保安基準、装置型式指定規則や道路運送車両の保安基準の細目を定める公示等の内突法規に効果的に対応することができる。
【0062】
スリーブ5の一部を径方向に厚くするだけで強度を高めることができるようになり、スリーブ5全体の径や肉厚を大きくすることで強度を高める必要がないので、キーシリンダ2の大型化を回避することが可能となる。
【0063】
スリーブ5の隔壁53とロータケース3の凹溝3eとをロータ回転軸線方向に挿通固定する簡単な構成により、所要の強度を満足することができることに加えて、キーシリンダ2の小型化を図ることが可能となる。
【0064】
[変形例]
上記実施の形態及び図示例では、スリーブ5のタンブラ保持孔52の全長にわたって形成されたリブ状の係止壁53aを例示したが、これに限定されるものではない。この係止壁53aの他の一例としては、図4に示すように、スリーブ5の隔壁53の強度を補強する係止壁53aをスリーブ5の長手方向の全長にわたり延設させる構成がある。
【0065】
図4において、スリーブ5の係止壁53aがスリーブ5の長手方向の全長にわたって延設している点で上記実施の形態とは異なるが、その他の構造は、実質的に変わるところはない。
【0066】
この変形例に係る構成を採用することにより、隔壁53の係止壁53aがスリーブ5の長手方向の全長にわたって形成されていることと相まって、その係止壁53aを挿通するロータケース3の凹溝3eの長さを確保することでスリーブ5の隔壁53の強度を補強することができる。
【0067】
なお、本発明におけるキーシリンダ装置1の代表的な構成例では、自動車に適用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば建設機械や農業機械などの各種の車両に効果的に適用することができることは勿論である。
【0068】
以上の説明からも明らかなように、本発明に係る代表的な実施の形態、変形例及び図示例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。従って、上記実施の形態、変形例及び図示例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0069】
1…キーシリンダ装置、2…キーシリンダ、3…ロータケース、3a…フランジ部、3b…キー操作孔、3c…取付ピン、3d…案内凹部、3e…凹溝、3f…環状段部、4…ロータ、4a…キー挿入孔、4b…仕切壁、4c…段差面、5…スリーブ、5a…前部開口端面、5b…係止孔、6…パッキン部材、31…支持壁部、31a…突部、32…ロッキングレバー、32a…屈曲片、33…カバープレート、33a,36a…脚部、33b…孔、34,46…コイルばね、35…ストッパピン、36…ストッパカバー、37…レバー、37a…取付孔、38…縦壁部、41…大径ロータ部、42…小径ロータ部、42a…タンブラ収容孔、42b…ガイド突起、43…ブロック、44…スライドピース、45…タンブラ、45a…タンブラ突起、45b…突出端部、46…ロックピース、47…連結部、51…案内リブ、52…タンブラ保持孔、53…隔壁、53a…係止壁
【要約】
【課題】装置全体の大型化を伴わずに、シリンダ強度を高めることを可能としたキーシリンダ装置を提供する。
【解決手段】キーシリンダ装置1は、筒状のロータケース3と、ロータケース3内に回転可能に挿入収容されるロータ4と、ロータ4の外周面に挿入されるとともに、ロータケース3の内周面に挿入固定されるスリーブ5と、メカニカルキーの挿抜によってロータ4内を径方向に弾性的に移動するタンブラ45とを備えている。スリーブ5は、メカニカルキーの挿入によってタンブラ45を離脱させるとともに、メカニカルキーの抜取によってタンブラ45を係合させるタンブラ保持孔52を有している。タンブラ保持孔52の中間部には、タンブラ45を受けるとともに、ロータケース3の内周面に形成された凹溝3eに挿通される隔壁53が形成されている。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4