特許第5964497号(P5964497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964497
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】内燃機関のピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/22 20060101AFI20160721BHJP
   F01P 3/10 20060101ALI20160721BHJP
   F16J 1/09 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F02F3/22 A
   F01P3/10 A
   F01P3/10 Z
   F16J1/09
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-503787(P2015-503787)
(86)(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公表番号】特表2015-514182(P2015-514182A)
(43)【公表日】2015年5月18日
(86)【国際出願番号】EP2013001406
(87)【国際公開番号】WO2013170947
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2014年10月2日
(31)【優先権主張番号】102012208090.2
(32)【優先日】2012年5月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】タラット・シェール
(72)【発明者】
【氏名】フーベルト・ペルツェル
【審査官】 永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−532831(JP,A)
【文献】 特開昭53−74640(JP,A)
【文献】 米国特許第2241629(US,A)
【文献】 仏国特許発明第1524454(FR,A)
【文献】 独国特許発明第3702694(DE,C1)
【文献】 独国特許出願公開第4018252(DE,A1)
【文献】 特開昭61−272453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/22,
F01P 3/10,
F16J 1/09,
F01M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンであって、該ピストンが、ピストン上部分(10)及びピストン下部分(11)を有し、また、前記ピストン下部分(11)内に取り付けられ、前記ピストンを内燃機関の連接棒(13)に接続するピストンピン(12)を有し、また、前記ピストン上部分(10)と前記ピストン下部分(11)との間に構成された、前記ピストンを冷却するための冷却油のための内側冷却室(15)であって、少なくとも一つの連通孔(17)を介して前記ピストン上部分(10)とピストン下部分(11)との間に構成された外側冷却室(16)に連結されている内側冷却室(15)を有し、また、前記ピストン下部分(11)内に移動可能に取り付けられたワンピースのスライドシュー(19)であって、ばね要素(20)を介して前記連接棒(13)の連接棒ヘッド(14)に押し付けられていて、前記連接棒(13)内のボア(18)を通って案内される冷却油を前記内側冷却室(15)に輸送するスライドシュー(19)を有しており、前記ワンピースのスライドシュー(19)とピストン下部分(11)との間にワンピースのスライドシュー(19)のための案内面(21)が形成されているピストンにおいて、
前記ばね要素(20)が、前記ピストン又はスライドシューの軸方向において、少なくとも部分的に、前記ワンピースのスライドシュー(19)のための前記案内面(21)に並列に延在し、
前記ワンピースのスライドシュー(19)がネック状端部(23)及びろうと状端部(24)を有しており、前記ろうと状端部(24)が前記ばね要素(20)を介して前記連接棒(13)の前記連接棒ヘッド(14)に押し付けられており、また、前記ろうと状端部(24)から出発して少なくとも部分的に、半径方向外側において前記ネック状端部(23)の周りに突出部(25)が、前記ネック状端部(23)から半径方向に離れて延在することを特徴とする、ピストン。
【請求項2】
前記ワンピースのスライドシュー(19)のための前記案内面(21)が、ばね要素(20)を半径方向外側において少なくとも部分的に囲んでいることを特徴とする、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ばね要素(20)が、前記ピストン又はスライドシューの半径方向において前記ワンピースのスライドシュー(19)のための前記案内面(21)の半径方向内側に位置することを特徴とする、請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記ばね要素(20)が、一方では前記ワンピースのスライドシュー(19)に、他方では前記ピストン下部分(11)に支持されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項5】
前記スライドシュー(19)のための前記案内面(21)が、前記突出部(25)と前記ピストン下部分(11)との間に形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項6】
前記ばね要素(20)が、前記突出部(25)と前記ネック状端部(23)との間に形成された空間(26)内に延在することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項7】
内燃機関の油冷却式ピストンのためのスライドシューであって、該スライドシューは、ばね要素(20)を介して連接棒(13)の連接棒ヘッド(14)に押し付け可能であり、ワンピースとして実施された前記スライドシューと前記ピストンの下部分との間に、前記ワンピースのスライドシューのための案内面(21)が形成されているスライドシューにおいて、前記ばね要素(20)が、前記スライドシューの軸方向において少なくとも部分的に、前記ワンピースのスライドシューの前記案内面(21)に並列に延在し、
前記ワンピースのスライドシューがネック状端部(23)及びろうと状端部(24)を有しており、前記ろうと状端部(24)が前記ばね要素(20)を介して前記連接棒(13)の前記連接棒ヘッド(14)に押し付けられており、また、前記ろうと状端部(24)から出発して少なくとも部分的に、半径方向外側において前記ネック状端部(23)の周りに突出部(25)が、前記ネック状端部(23)から半径方向に離れて延在することを特徴とする、スライドシュー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の、内燃機関のピストンに関する。本発明はまた、そのような内燃機関のピストンのための、請求項8に記載のスライドシューに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1より、望ましくは互いにねじで結合されたピストン上部分及びピストン下部分を有する内燃機関のピストンが知られている。ピストン下部分にはピストンピンが取り付けられており、このピストンピンによりピストンが内燃機関の連接棒に結合されている。特許文献1に記載のピストンは油冷却式であり、ピストン上部分とピストン下部分との間には一方では冷却油用の内側冷却室が、他方では冷却油用の外側冷却室が形成されており、内側冷却室と外側冷却室とは少なくとも一つの連通孔を介して連結されている。この従来技術においては、冷却油を内側冷却室に導くために冷却油用の供給孔が連接棒内に設けられており、冷却油は連接棒から、2部式の冷却油案内スリーブにより内側冷却室内に輸送可能である。特許文献1に記載された2部式冷却油案内スリーブのネック状の第1の部分は移動しないようにピストンのピストン下部分に固定されている。2部式冷却油案内スリーブの固定されたネック状部分と、冷却油案内スリーブの可動のろうと状部分とは、2部式冷却油案内スリーブの両方の部分の間で作用するばね要素により、冷却油案内スリーブのろうと状部分がすべり接触で連接棒の連接棒ヘッドに弾性的に押し付けられるように協働する。複数部分から成るこのような冷却油案内スリーブを用いて冷却油を連接棒内の孔から内側冷却室へと輸送することには、このような複数部分から成る冷却油案内スリーブの取り付けに多大な手間がかかるという短所がある。
【0003】
実用においてはすでに、特許文献1より知られる複数部分から成る冷却油案内スリーブではなく、ワンピースのスライドシューを用いることが知られている。図1には、ピストン上部分1とピストン下部分2との間に形成された内側冷却室3の領域における内燃機関のピストンの部分が図示されており、ピストン下部分2には、ワンピースのスライドシュー4が移動可能に取り付けられている。このスライドシュー4はネック状端部5及びろうと状端部6を有しており、スライドシュー4は、図1には図示されない連接棒から内側冷却室3へと冷却油を輸送する。そのためにスライドシュー4内にはボア7が設けられており、このボア7は、スライドシュー7のネック状端部5及びろうと状端部6を貫通し、ろうと状端部6内でろうと状に広がっている。図1からはさらに、スライドシュー4とピストン下部分2との間、つまり、スライドシュー4のネック状端部5の領域においてスライドシュー4のろうと状端部6に隣接して、スライドシュー4のための案内面8が形成されていることがわかる。図1に図示されない連接棒にスライドシュー4を押し付けることができるばね要素9は、一方ではスライドシュー4に、他方ではピストン下部分2に支持されており、このばね要素9は、ピストン又はスライドシュー4の軸方向において案内面8と一列になるよう配置されている。
【0004】
内燃機関用のそのようなピストンにおいていわゆるコンプレッションハイトは特性値であり、コンプレッションハイトは、ピストンピンの軸とピストンの上エッジとの間の距離に相当する。内燃機関の取付け高さはとりわけ、内燃機関の当該ピストン又は各ピストンのこのコンプレッションハイトにより決定される。内燃機関の取付け高さに影響する、内燃機関のピストンのさらなる特性値としては、ピストン上部分の領域に構成されたピストンボウルのいわゆるピストンボウル深さが挙げられる。それぞれのピストンが使用される、それぞれの内燃機関のシリンダ内の燃焼は、比較的深いピストンボウルを介して改善され得る。しかしながらピストンボウルの深さが深いほど、コンプレッションハイト及びそれにより内燃機関の取付け高さは高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに鑑みて本発明の課題は、内燃機関の新規のピストン及びそのようなピストンのための新規のスライドシューを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は請求項1に記載のピストンにより解決される。本発明によるとばね要素は、ピストン又はスライドシューの軸方向において少なくとも部分的に、ワンピースのスライドシューの案内面に対して平行に延在している。
【0007】
本発明により、ピストンのコンプレッションハイトが同じ場合にピストンボウルをより深く実施すること、又は、ピストンボウル深さが同じ場合にそれぞれのピストンのコンプレッションハイトを減少させることが可能となる。
【0008】
本発明の好適な発展形によるとワンピースのスライドシューのための案内面は、ばね要素を半径方向外側で少なくとも部分的に囲んでいる。そのような構成によりワンピースのスライドシューが特に好適に実施され、それにより、ピストンのコンプレッションハイト及び/又はピストンボウル深さの特に好適な影響が得られる。
【0009】
望ましくはワンピースのスライドシューにはネック状端部及びろうと状端部が設けられており、ろうと状端部はばね要素を介して連接棒の連接棒ヘッドに押し付けられており、また、ろうと状端部から出発して少なくとも部分的に半径方向外側においてネック状端部の周りに突出部が、ネック状端部から半径方向に離れて延在している。スライドシューのための案内面は、突出部とピストン下部分との間に形成されている。ばね要素は、突出部とネック状端部との間に形成された空間内に延在している。ピストンのワンピースのスライドシューのこの実施形態は特に望ましい。
【0010】
本発明のスライドシューは請求項8に定義されている。
【0011】
本発明の望ましい発展形は従属請求項及び以下の詳細な説明から理解できる。本発明の実施例を図を用いて詳述するが、これに限定されるわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来技術より知られている、ピストンのワンピースのスライドシューの領域の部分図である。
図2】本発明のピストンの、ワンピースのスライドシューの領域の第1の部分図である。
図3】本発明のピストンの、ワンピースのスライドシューの領域の第2の部分図である。
図4図2のスライドシューのみを図示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、内燃機関、とりわけディーゼルエンジン又はガスエンジン又はディーゼル・ガスエンジンとして実施された内燃機関、たとえば船舶ディーゼル内燃機関の油冷却式ピストンに関する。そのようなピストンはプランジャピストンとも呼ばれる。
【0014】
図2及び図3はそれぞれ、本発明の内燃機関ピストンの部分図を示しており、ピストンはピストン上部分10及びピストン下部分11を有している。ピストン上部分10及びピストン下部分11は望ましくは軽金属、スチール、又はダクタイル鋳鉄で製造されている。ピストン上部分10及びピストン下部分11は互いに支持し合っており、望ましくは伸長ねじとして実施された固定手段を介して互いに固定されている。
【0015】
ピストン下部分11のボア内にはピストンピン12が取り付けられており、ピストンピン12により、ピストンは内燃機関の連接棒13に結合される。図2には、連接棒13のうちいわゆる連接棒ヘッド14が図示されている。
【0016】
ピストン上部分10とピストン下部分11との間には、冷却油のために一方では内側冷却室15が、他方では外側冷却室16が設けられており、図2に示すように内側冷却室15は外側冷却室16に連通孔17を介して連結されている。冷却油は、連接棒13及び連接棒ヘッド14を通って延在するボア18を介して内側冷却室に供給可能であり、冷却油は連接棒13から、ピストン下部分11内に移動可能に取り付けられているスライドシュー19により内側冷却室15内へ供給可能である。ピストン下部分11内に移動可能に取り付けられたスライドシュー19はワンピースのスライドシュー19として実施されており、密閉するためにばね要素20を介して連接棒13の連接棒ヘッド14に押し付けられている。ワンピースのスライドシュー19とピストン下部分11との間には案内面21が形成されており、この案内面21により、ピストン下部分11内に移動可能に取り付けられたワンピースのスライドシュー19が案内される。
【0017】
本発明においてばね要素20は、ピストン及びスライドシュー19の軸方向において少なくとも部分的に、ワンピースのスライドシュー19のための案内面21に並行に延在している。それにより従来技術と比較してワンピースのスライドシューの取付け高さを小さくすることができる。スライドシュー19の取付け高さがより低いことは、ピストンのいわゆるコンプレッションハイト、つまりピストンピン12の軸とピストンの上エッジとの間の距離を減少させるのに利用することができる。それによりさらに、コンプレッションハイトが同じ場合には、内燃機関の燃焼に良い影響を与えるために、ピストン上部分10により提供されるピストンボウル22の深さを大きくすることができる。
【0018】
ワンピースのスライドシュー19のための案内面21は、ばね要素20の周りを半径方向外側において少なくとも部分的に囲んでいる。そのためばね要素20は、ピストン又はスライドシュー19の半径方向においてスライドシュー19のための案内面21の半径方向内側に位置している。
【0019】
先述のようにスライドシュー19は、連接棒13から内側冷却室15内へと冷却油を輸送し、そのためにボア22がスライドシュー19を軸方向に貫通している。
【0020】
ワンピースのスライドシュー19は、ネック状である第1の端部23、及び、ろうと状である第2の端部24を有しており、スライドシュー19のろうと状端部24は、ばね要素20により、密閉するように連接棒13の連接棒ヘッド14に押し付けられている。ろうと状の第2の端部24から出発して、ネック状端部23の周りを半径方向外側において少なくとも部分的に囲むように突出部25が延在しており、この突出部25はネック状端部23から半径方向に離れており、それにより、半径方向内側にあるネック状端部23と半径方向外側にある突出部との間に空間26が形成される。一方ではワンピースのスライドシュー19に、他方ではピストン下部分11に支持されているばね要素20は、この空間26内に延在している。スライドシュー19のための案内面21は、突出部25とピストン下部分11との間に形成されている。
【0021】
本発明はさらに、図4に単独で図示されている、内燃機関のピストン用のスライドシュー19に関する。不必要な繰り返しを避けるため、ワンピースのスライドシュー19の詳細に関しては上述の実施形態を参照のこと。
【0022】
図3からよく分かるように、ワンピースのスライドシュー19のネック状端部23には保持リング27が係合しており、この保持リング27により、ピストンの取付け又は取外しの際に連接棒13が取外されるときでもスライドシュー19がピストン下部分11に保持される。
【0023】
本発明により、ピストンのコンプレッションハイトが同じ場合、ピストンボウル22の深さをより深く実施することができる。また、ピストンボウル22の深さが同じ場合は、ピストンのコンプレッションハイトを小さくできる。さらに、この2つの効果を組み合わせて使用すること、つまり、一方ではピストンボウル深さをより深く、他方ではピストンのコンプレッションハイトをより小さくすることもできる。
【符号の説明】
【0024】
1 ピストン上部分
2 ピストン下部分
3 冷却室
4 スライドシュー
5 端部
6 端部
7 ボア
8 案内面
9 ばね要素
10 ピストン上部分
11 ピストン下部分
12 ピストンピン
13 連接棒
14 連接棒ヘッド
15 冷却室
16 冷却室
17 連通孔
18 ボア
19 スライドシュー
20 ばね要素
21 案内面
22 ボア
23 端部
24 端部
25 突出部
26 空間
27 保持リング
図1
図2
図3
図4