特許第5964534号(P5964534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5964534
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】半導体装置用ボンディングワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-507915(P2016-507915)
(86)(22)【出願日】2015年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2015086550
【審査請求日】2016年2月15日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2015/071002
(32)【優先日】2015年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595179228
【氏名又は名称】日鉄住金マイクロメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆
(72)【発明者】
【氏名】小田 大造
(72)【発明者】
【氏名】大石 良
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−012776(JP,A)
【文献】 特開昭61−163194(JP,A)
【文献】 特開2013−131654(JP,A)
【文献】 特開2012−36490(JP,A)
【文献】 特開2011−77254(JP,A)
【文献】 特開2006−190763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/60−21/607
C22C9/00−9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1質量%以上3.0質量%以下含有する芯材と、該芯材表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層とを含む半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、ワイヤ最表面におけるCu濃度が1at%以上10at%以下であり、前記元素周期表第10族の金属元素がNiを含むことを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
前記元素周期表第10族の金属元素が、さらにPd、Ptの一方又は両方を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
前記Pdを主成分とする被覆層の厚さが20nm以上90nm以下、前記AuとPdを含む表皮合金層の厚さが0.5nm以上40nm以下、Auの最大濃度が15at%以上75at%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記芯材が、さらにAuを含有し、芯材中のNi、Pd、Pt、Auの総計が0.1質量%を超え3.0質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
前記ボンディングワイヤが、さらにP、B、Be、Fe、Mg、Ti、Zn、Ag、Siの1種以上を含有し、ワイヤ全体に占めるこれら元素濃度の総計が0.0001質量%以上0.01質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項6】
前記芯材を構成する元素および前記表皮合金層を構成する元素が前記被覆層に拡散していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項7】
前記ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直方向の芯材断面に対して結晶方位を測定した結果において、ワイヤ軸方向の結晶方位の内、ワイヤ軸方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率が30%以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と外部接続端子を接続するために使用される半導体装置用ボンディングワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子上の電極と外部接続端子との間は、半導体用ボンディングワイヤ(以下、「ボンディングワイヤ」ともいう。)を用いて接続される。ボンディングワイヤを半導体素子であるシリコンチップ上の電極に接合させるには、超音波併用熱圧着方式のボールボンディングが行われる。一方、ボンディングワイヤをリードやランド等の外部接続端子に接続する場合には、ボール部を形成することなく、ボンディングワイヤを直接電極に接合する、いわゆる2nd接合を行うことが一般的である。
【0003】
ボンディングワイヤとして従来は、線径15−50μm程度で、材質は高純度4N(4−Nine、純度が99.99質量%以上)のAu(金)であるAuボンディングワイヤ(金ボンディングワイヤ)が主として使用されていた。
【0004】
ところで、昨今の資源価格の高騰に伴い、Auボンディングワイヤの原料となる金の価格も急騰しており、Auに代わる低コストのワイヤ素材として、Cu(銅)が検討されている。しかしながら、Auと比べてCuは酸化されやすいことから、単純なCuボンディングワイヤでは長期の保管が難しく、2nd接合特性も良好ではない。また、このような単純なCuボンディングワイヤの先端にボール部を形成する際には、ボール部が酸化しないように、還元雰囲気にしなければならない。
【0005】
そこで、Cuボンディングワイヤの酸化という課題を解決するため、Cuワイヤの表面に貴金属を被覆したCuボンディングワイヤが提案されている。特許文献1では、高純度Cu極細線の表面に、Au、Pd等の貴金属を被覆したCuボンディングワイヤが開示されている。
【0006】
Cuワイヤの表面に貴金属を被覆したCuボンディングワイヤでは、Cuボンディングワイヤの酸化が抑制されるため、ワイヤの長期保管や2nd接合特性に優れる。特に、Cuワイヤの表面にPdを被覆したCuボンディングワイヤでは、ワイヤ先端にボール部を形成する際にボール部が酸化するという懸念が大幅に改善され、危険なガスである水素を使わずに、純窒素ガスを用いてボール部周辺を窒素雰囲気としただけでも、真球のボール部が形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−97360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでのリードフレームの表面は銀めっきされているのが一般的であったのに対して、最近ではPdめっきされたリードフレームの使用が進みつつある。Cuワイヤの表面にPdを被覆したCuボンディングワイヤの場合、これまでの銀めっきリードフレームでは顕在化していなかったが、Pdめっきされたリードフレームに対する2nd接合性が不充分となるケースが多くなるという新たな問題が知見された。Pdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームについても同様である。斯かる問題を解決すべく検討する過程において、本発明者らは、Cuワイヤの表面にPdを被覆し、該Pd被覆層の表面に、AuとPdとを含む合金層を有するボンディングワイヤを用いることにより、この問題を幾分軽減し得ることを見出した。しかし、2nd接合性についてはさらなる改善が求められている。特に、ピーリング、即ち2nd接合された状態のボンディングワイヤの接合部が剥がれる現象の改善が求められている。また、ファインピッチによる細線化に伴い、2nd接合のフィッシュテイル状(魚の尻ビれ)の圧着部対称性のさらなる改善が求められている。本発明は、Pd被覆層を有するCuワイヤにおいて、PdめっきされたリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性、2nd接合のフィッシュテイル状(魚の尻ビれ)の圧着部対称性をさらに改善することを第1の目的とする。
【0009】
また、Cuボンディングワイヤの長期信頼性について、最も多く利用される加熱試験である乾燥雰囲気での高温保管評価では特に問題は発生しない場合であっても、高湿加熱評価を行うと、不良が発生することがある。一般的な高湿加熱評価としてPCT試験(プレッシャークッカーテスト)が知られている。中でも飽和タイプのPCT試験が比較的厳しい評価としてよく用いられており、代表的な試験条件は、温度121℃、相対湿度100%RH(Relative Humidity)、2気圧で行われる。Pd被覆層を有するCuワイヤにおいては、高湿加熱評価における不良を低減し得るものの、高湿加熱評価としてさらに厳しいHAST試験(High Accelerated Temperature and humidity Stress Test)(温度130℃、相対湿度85%RH(Relative Humidity)、5V)を行うと、Auワイヤに比較するとまだ不良の発生率が高いことがわかった。本発明は、Pd被覆層を有するCuワイヤにおいて、高湿加熱評価における不良をさらに低減することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、Cuを主成分とする芯材と、該芯材の表面にPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面にAuとPdとを含む表皮合金層とを有するボンディングワイヤにおいて、Cuを主成分とする芯材中に元素周期表第10族の金属元素を所定量含有させると共に、ワイヤ最表面におけるCu濃度を1at%以上とすることにより、PdめっきされたリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性、2nd接合のフィッシュテイル状(魚の尻ビれ)の圧着部対称性をさらに改善できることを見出した。
【0011】
本発明者らはまた、Cuを主成分とする芯材中に元素周期表第10族の金属元素を所定量含有させることにより、HAST試験のような過酷な高湿加熱評価においても不良発生を低減できることを見出した。
【0012】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1〜3.0質量%含有する芯材と、該芯材表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層とを含む半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、ワイヤ最表面におけるCu濃度が1〜10at%であることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
(2)前記元素周期表第10族の金属元素が、Ni、Pd及びPtからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする(1)に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(3)前記元素周期表第10族の金属元素が、Niを含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(4)前記Pdを主成分とする被覆層の厚さが20〜90nm、前記AuとPdを含む表皮合金層の厚さが0.5〜40nm、Auの最大濃度が15〜75at%であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(5)前記芯材が、さらにAuを含有し、芯材中のNi、Pd、Pt、Auの総計が0.1質量%を超え3.0質量%以下であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(6)前記ボンディングワイヤが、さらにP、B、Be、Fe、Mg、Ti、Zn、Ag、Siの1種以上を含有し、ワイヤ全体に占めるこれら元素濃度の総計が0.0001〜0.01質量%の範囲であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(7)前記芯材と前記被覆層との境界部、および前記被覆層と前記表皮合金層との境界部に拡散領域を有することを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
(8)前記ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直方向の芯材断面(以下「垂直断面」という。)に対して結晶方位を測定した結果において、ワイヤ長手方向の結晶方位の内、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率が30%以上であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、Cuを主成分とする芯材と、該Cu合金芯材の表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層を有する半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、Cuを主成分とする芯材中に元素周期表第10族の金属元素を所定量含有させると共に、ワイヤ最表面におけるCu濃度を1〜10at%とすることにより、PdめっきされたリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性をさらに改善することができる。また、Cuを主成分とする芯材中に元素周期表第10族の金属元素を所定量含有させることにより、ボンディングワイヤと電極との間のボール接合部について、高湿加熱条件においても優れたボール接合性を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。以下において、濃度、厚さ、比率に関連して示す数値は、別途明示のない限り、平均値を表す。
【0015】
本発明の半導体装置用ボンディングワイヤは、Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1〜3.0質量%含有する芯材と、該芯材の表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層とを含み、ワイヤ最表面におけるCu濃度が1〜10at%であることを特徴とする。
【0016】
まず、Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1〜3.0質量%含有する芯材(以下、「Cu合金芯材」ともいう。)について説明する。
【0017】
Cuは酸化されやすいため、Cuからなるボンディングワイヤでは長期保管や2nd接合特性が劣るが、Cu合金芯材の表面にPdを主成分とする被覆層を形成しておけば、Cu合金芯材の酸化が抑制されるため、前述の長期保管や2nd接合特性が優れる。
【0018】
また、表面にPd被覆層を有するCuワイヤを用いてAl電極上にボールボンディングを行う場合、ワイヤ先端にボールを形成した際、溶融したボールの表面にPd濃化層が形成される。このようにボール表面にPd濃化層が形成されるため、Al電極上にボールボンディングした際に、Pd被覆層を有しないCuワイヤと対比し、高湿加熱評価における不良が低減する。
【0019】
しかし、Cu芯材にPd被覆層を設けたCuボンディングワイヤの長期信頼性について、高湿加熱評価としてHAST試験(High Accelerated Temperature and humidity Stress Test)(温度130℃、相対湿度85%RH(Relative Humidity)、5V)を行うと、Auワイヤに比較するとまだ不良の発生率が高い。
【0020】
ボールボンディング時に形成されるボール表面のPd濃化層については、常にボール表面全体にPd濃化層が形成されるのではなく、Pd濃化層はボールの側面のみに形成され、ボールの先端部にはPd濃化層が形成されない場合がある。そして、ボール先端部にPd濃化層が形成されない場合に、高湿加熱評価における不良発生頻度が増大することを本発明者らは見出した。これは、Cuボンディングワイヤに含まれるPd量が十分でないことが原因である。そこでPd量を増加させる手段としてPdを主成分とする被覆層を厚くすることが考えられるが、後述するようにチップダメージ低減等の観点からPd被覆層の厚さには好適な上限があり、該被覆層を厚くしてPd量を増加させることには限度がある。
【0021】
ボール先端部にPd濃化層が形成されない状況でAl電極上にボールボンディングを行うと、Cuを主成分とする芯材がボール先端部の表面に露出しており、この部分がAl電極と直接接触して接合部が形成される。この場合、高湿加熱評価試験において、Cu/Al接合界面(CuボンディングワイヤとAl電極との接合界面)にCu−Al系の金属間化合物が成長し、このCu−Al系の金属間化合物が、封止樹脂に含まれる塩素などのガス成分又はイオン等と腐食反応を起こす。その結果として、高湿加熱評価試験での不良の原因となる。
【0022】
それに対し、本発明においては、Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を所定量含有するCu合金芯材を使用する。これにより、Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素がボールボンディング時に接合界面まで拡散又は濃化して、CuとAlとの相互拡散に影響を及ぼすことで、腐食反応を遅らせると考えられる。接合界面近傍の元素周期表第10族の金属元素の役割は、腐食反応物の移動を阻害するバリア機能、Cu、Alの相互拡散及び金属間化合物の成長等を制御する機能等が考えられる。本発明において、Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素は、Ni、Pd及びPtからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。好適な一実施形態において、Cu合金芯材は、元素周期表第10族の金属元素としてNiを含む。例えば、Cu合金芯材は、元素周期表第10族の金属元素として、Niを単独で含有してもよく、Niと、Pd、Ptの一方又は両方とを組み合わせて含有してもよい。他の好適な一実施形態において、Cu合金芯材は、元素周期表第10族の金属元素としてPd、Ptの一方又は両方を含む。
【0023】
Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素の濃度が総計で0.1質量%以上であれば、接合界面におけるCu、Alの相互拡散を十分に制御することができ、過酷な高湿加熱評価試験であるHAST試験においても接合部の寿命が380時間以上まで向上する。ここでの接合部の評価としては、HAST試験後に樹脂を開封して除去し、その後にプル試験により接合部の破断状況を評価する。上記のHAST試験信頼性の改善効果を十分に得る観点から、Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素の濃度は総計で、0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、又は0.6質量%以上である。また、低温接合でのAl電極との初期の接合強度が良好であり、HAST試験での長期信頼性や、BGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)等の基板、テープ等への接合の量産マージンに優れるボンディングワイヤを得る観点、チップダメージを低減する観点から、Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素の濃度は総計で、3.0質量%以下であり、好ましくは2.5質量%以下、又は2.0質量%以下である。Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素の濃度が総計で3.0質量%を超えると、チップダメージを発生させないように低荷重でボールボンディングを行う必要があり、電極との初期の接合強度が低下し、結果としてHAST試験信頼性が悪化する場合がある。本発明のボンディングワイヤでは、Cu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素の濃度の総計を上記好適な範囲とすることにより、HAST試験での信頼性がさらに向上する。例えば、HAST試験の不良発生までの寿命が450時間を超えるボンディングワイヤを実現することが可能である。これは、従来のCuボンディングワイヤの1.5倍以上の長寿命化に相当する場合もあり、過酷な環境での使用にも対応可能となる。なお、ボンディングワイヤ製品からCu合金芯材に含まれる前記元素の濃度を求める方法としては、例えば、ボンディングワイヤの断面を露出させて、Cu合金芯材の領域について濃度分析する方法、ボンディングワイヤの表面から深さ方向に向かってスパッタ等で削りながら、Cu合金芯材の領域について濃度分析する方法が挙げられる。例えば、Cu合金芯材がPdの濃度勾配を有する領域を含む場合には、ボンディングワイヤの断面をライン分析し、Pdの濃度勾配を有しない領域(例えば、深さ方向へのPdの濃度変化の程度が0.1μm当たり10mol%未満の領域、Cu合金芯材の軸心部)について濃度分析すればよい。濃度分析の手法については後述する。
【0024】
本発明において、Cu合金芯材にさらにAuを含有させてもよい。Cu合金芯材にさらにAuを含有させると、再結晶温度が上がって、伸線加工中の動的再結晶を防ぐため加工組織が均一になり、調質後の結晶粒サイズが比較的均一になる。それによりワイヤの破断伸びが向上し、ボンディングした際に安定的なワイヤループを形成することができる。Auをさらに含有させる場合、芯材中のNi、Pd、Pt、Auの総計が0.1質量%を超え3.0質量%以下となるように含有量を定めることが好適である。芯材中のNi、Pd、Pt、Auの総計の下限は、より好ましくは0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、又は0.6質量%以上であり、該総計の上限は、より好ましくは2.5質量%以下、又は2.0質量%以下である。
【0025】
本発明のボンディングワイヤはさらにP、B、Be、Fe、Mg、Ti、Zn、Ag、Siから選ばれる1種以上の元素を含有し、ワイヤ全体に占めるこれら元素濃度の総計が0.0001〜0.01質量%の範囲であると好ましい。これにより、より良好なボール形状を実現することができる。これらの元素濃度の総計の下限は、より好ましくは0.0003質量%以上、0.0005質量%以上、又は0.001質量%以上であり、これらの元素濃度の上限は、より好ましくは0.009質量%以下、又は0.008質量%以下である。本発明のボンディングワイヤがこれらの元素を含有する場合、これらの元素はCu合金芯材中に含まれていてもよく、後述する被覆層、表皮合金層に含まれていてもよい。
【0026】
Cu合金芯材に含有する成分は、元素周期表第10族の金属元素をはじめとする上記の成分の他、残部Cuおよび不可避不純物である。好適な一実施形態において、Cu合金芯材のCuの純度は3N以下(好ましくは2N以下)である。従来のPd被覆Cuボンディングワイヤでは、ボンダビリティの観点から、高純度(4N以上)のCu芯材が使用され、低純度のCu芯材の使用は避けられる傾向にあった。これに対し、Cu合金芯材と、該Cu合金芯材の表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層を有し、ワイヤ最表面におけるCu濃度が1〜10at%である本発明のボンディングワイヤでは、上記のようにCuの純度が比較的低いCu合金芯材を使用した場合に特に好適に、PdめっきされたリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性の更なる改善と、HAST試験のような過酷な高湿加熱評価における優れたボール接合性とを実現するに至ったものである。
【0027】
次にPdを主成分とする被覆層について説明する。
前述のようにCu合金芯材の酸化を抑制するため、Cu合金芯材の表面に形成するPdを主成分とする被覆層の厚みは20〜90nmが好ましい。被覆層の厚みが20nm以上であれば酸化抑制効果が充分となり、2nd接合性とFAB形状が良好となるため好ましい。なお、FAB形状とは、真球性、偏芯の有無、および引け巣の有無を意味する。被覆層の厚みは、より好ましくは25nm以上、又は30nm以上である。また、被覆層の厚みが90nm以下であれば、チップダメージが低減すると共にFAB形状が良好となり、さらにボール部の表面に直径数μmの大きさの気泡が生じることが少なく、好ましい。被覆層の厚みは、より好ましくは85nm以下、又は80nm以下である。
【0028】
ここで、Pdを主成分とする被覆層におけるPd以外に含まれる元素は、Pdの不可避不純物と、被覆層の内側の芯材を構成する成分、被覆層の表面側の表皮合金層を構成する元素である。これは、後述する熱処理により、芯材と被覆層との間、表皮合金層と被覆層との間で各層の構成元素の相互拡散が生じる場合があるためである。すなわち、被覆層に着目すると、芯材を構成する元素および表皮合金層を構成する元素が被覆層へ拡散している場合があるためである。したがって一実施形態において、本発明のボンディングワイヤは、芯材と被覆層との境界部、および被覆層と表皮合金層との境界部に拡散領域を有する。そこで、本発明では芯材と被覆層との境界はPd濃度が50at%の位置とし、被覆層と表皮合金層との境界はAuが10at%の位置とし、これらの境界の間を被覆層の厚さとする。
【0029】
Pdを主成分とする被覆層におけるPdの最大濃度は、本発明の効果をより享受し得る観点から、好ましくは60at%以上、より好ましくは70at%以上、80at%以上、又は90at%以上である。被覆層におけるPdの最大濃度は100at%であることが好ましいが、元素周期表第10族の金属元素を所定量含むCu合金芯材を使用すると共にワイヤ最表面におけるCu濃度が1〜10at%である本発明のボンディングワイヤでは、被覆層におけるPdの最大濃度が100at.%未満、例えば、99.9at.%以下、99.8at.%以下、99.7at.%以下、99.6at.%以下、99.5at.%以下、99.0at.%以下、98.5at.%以下、98at.%以下、97at.%以下、96at.%以下、又は95at.%以下の場合でも、所期の効果を達成することができる。
【0030】
本発明のボンディングワイヤにおいて、Pd被覆層中のPd濃度が99.0at.%以上である領域の厚さは、40nm以下であってよく、例えば、35nm以下、30nm以下、25nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下、又は5nm以下であってもよい。
【0031】
次にAuとPdを含む表皮合金層について説明する。
前述のとおり、Cu合金芯材の表面にPdを主成分とする被覆層を有する構成のみでは、Pdめっきリードフレーム上で良好な2nd接合性を確保することはできない。本発明においては、Pdを主成分とする被覆層の表面に更にAuとPdを含む表皮合金層を形成する。AuとPdを含む表皮合金層の厚さは0.5〜40nmが好ましい。ワイヤの最表面の領域がAuとPdとの合金層であれば、Pdめっきリードフレーム上にワイヤを2nd接合させる際、ワイヤの最表面を構成する表皮合金層中のAuがPdめっきリードフレーム上のPdに向けて優先的に拡散し、ボンディングワイヤとPdめっきリードフレームの両者の間に合金層を形成しやすくする。そのため、Pdめっきリードフレームとの2nd接合性が向上する。また、AuフラッシュめっきされたPdめっきリードフレーム上でも同様に2nd接合性が向上することを確認しており、この場合はリードフレーム上の極薄フラッシュメッキのAuと表皮合金層中のAuのお互いの密着性促進効果によると考えられる。PdめっきリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性を改善する観点から、表皮合金層の厚みは好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上、2nm以上、又は3nm以上である。一方、表皮合金層の厚みが厚すぎると、FAB形状が悪化する場合があり、また、高価なAuの使用量が増えてコストアップとなることから、表皮合金層の厚みは好ましくは40nm以下、より好ましくは35nm以下、又は30nm以下である。
【0032】
また、前記被覆層および前記表皮合金層を有するワイヤのCu合金芯材中に元素周期表第10族の金属元素を含有させることで、Pd被覆されていないベアCu中に元素周期表第10族の金属元素を含有する場合に比べて、上記の接合信頼性向上に加え、HAST評価結果がさらに向上する。これは、ボール表面に形成されるPd濃化層において、ワイヤ表面の被覆層のPdと、Cu合金芯材中に含有させた元素周期表第10族の金属元素の両者が組み合わさることでPd濃化層中の元素周期表第10族の金属元素の合計濃度が上昇して、接合界面でのCu、Alの相互拡散及び金属間化合物の成長等を制御する機能を促進するためと考えられる。
【0033】
従来のPd被覆CuワイヤではPd層とキャピラリー内壁の摺動抵抗が高く、ボンディング動作の際にPdが削れることがあった。ボンディングを繰り返していくうちにキャピラリーに削りクズ等の異物が付着し、その量が多くなるとキャピラリーを交換しなければならない。これに対し、さらにAuとPdを含む表皮合金層を有することにより、ワイヤ最表面の摩擦抵抗が低くなる。また、前述の通り、芯材に元素周期表第10族の金属元素を添加することにより適度な強度が保たれる。これらの効果でキャピラリー内壁とワイヤの摺動抵抗が下がってスムーズなボンディング動作が行われ、ボンディングを繰り返してもキャピラリーへの異物付着による汚染を少なく抑えることができ、キャピラリー寿命が向上する。また、キャピラリー内壁とワイヤの摺動抵抗が下がった結果として、ループ安定性やリーニング特性が向上する。
【0034】
さらに、表皮合金層に含まれるAu元素は、ワイヤ表面の被覆層のPdとCu合金芯材中の元素周期表第10族の金属元素の両者で形成されるPd濃化層がボール表面に安定形成する作用を高めること、また、電極のAlが接合界面からボール方向に拡散する現象を促進して、元素周期表第10族の金属元素だけでは遅くなる接合界面での相互拡散速度を促進させて、腐食への耐性の高い金属間化合物の成長を促進していると考えられる。
【0035】
PdめっきリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性を改善する観点から、AuとPdを含む表皮合金層中のAuの最大濃度は15at%以上であることが好ましい。表皮合金層の残部はPd及び不可避不純物である。なお、表皮合金層の最表面には、後述のようにCuが濃化している。Pdめっきリードフレーム等に対する2nd接合性を改善する観点から、表皮合金層中のAuの最大濃度はより好ましくは20at%以上、さらに好ましくは25at%以上、30at%以上、35at%以上、又は40at%以上である。PdめっきリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性を特に改善する観点から、Auの最大濃度は40at%以上であることが好ましい。他方、Auの最大濃度が75at%を超えると、ワイヤ先端にボール部を形成する際にAuとPdとを含む表皮合金層中のAuが優先的に溶融することで、いびつなボール部が形成される危険性が増し、FAB形状が不良となる場合がある。それに対し、表皮合金層中のAuの最大濃度が75at%以下であれば、ワイヤ先端にボール部を形成する際に、Auだけ優先的に溶融していびつなボール部が形成される危険性はなく、ボール部の真球性や寸法精度を損なうことがないため好ましい。ボール部の真球性や寸法精度を向上させる観点から、表皮合金層中のAuの最大濃度は、好ましくは75at%以下、より好ましくは70at%以下、さらに好ましくは65at%以下、60at%以下、又は55at%以下である。ボール部の真球性や寸法精度を向上させ、特に良好なFAB形状を実現する観点から、Auの最大濃度は55at%以下であることが好ましい。
【0036】
本発明のボンディングワイヤは、ワイヤ最表面におけるCu濃度が1〜10at%であることを特徴とする。ワイヤ最表面とは、AuとPdを含む表皮合金層の表面を意味する。ワイヤ最表面におけるCu濃度が高くなっている領域(以下、「Cu濃化部」という。)は、その厚みが2〜9nmであると好ましい。Cu濃化部の厚みは、ワイヤ最表面から、Cu濃度がワイヤ最表面の半分になる位置までの厚みとする。
【0037】
前述の通り、Cuを主成分とする芯材と、該芯材の表面に、Pdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面に、AuとPdとを含む合金層とを有するボンディングワイヤにおいて、Cuを主成分とする芯材中に元素周期表第10族の金属元素を所定量含有させると共に、ワイヤ最表面におけるCu濃度を所定の範囲とすることにより、PdめっきされたリードフレームあるいはPdめっきの上にAuめっきを施したリードフレームに対する2nd接合性のさらなる改善と、2nd接合のフィッシュテイル状(魚の尻ビレ)の圧着部の対称性の向上を両立させることができた。この作用について、上記特定のCu合金芯材と、ワイヤ最表面のCu濃化部/AuとPdとを含む表皮合金層/Pdを主成分とする被覆層による被覆構造とを組み合わせて用いることにより、顕著な改善効果が得られる。これは、上記特定のCu合金芯材と、表皮合金層と、Cu濃化部との組み合わせによる相乗作用が働くことで、2nd接合性がさらに改善され、2nd接合でのワイヤ変形の対称性が向上したものと考えられる。
【0038】
Cuは、他の金属中に含まれる場合、高温において粒内拡散、粒界拡散等によって拡散しやすい性質を有している。Cu合金芯材と、その表面にPdを主成分とする被覆層とさらにその表面にAuとPdを含む表皮合金層を有する本発明において、後述するように拡散熱処理や焼鈍熱処理を行うと、芯材のCuが被覆層や表皮合金層中を拡散し、表皮合金層の最表面にCuを到達させることができる。ワイヤ最表面における上記Cuの状態は、表面濃化または表面偏析していると考えられるが、一部のCuが酸化していたり、表皮合金層のAuとPdを含む合金に上記濃度範囲のCuが一部固溶していても構わない。
【0039】
Cu芯材の表面にPdを主成分とする被覆層のみを有する従来のPd被覆Cuボンディングワイヤにおいては、先述のとおり、高純度(4N以上)のCu芯材が使用され、低純度のCu芯材の使用は避けられる傾向にあった。このような従来のPd被覆Cuボンディングワイヤにおいては、ワイヤ最表面にCuが濃化すると、FAB形状が不良となる現象が見られた。FAB形状とは、真球性、偏芯の有無、および引け巣の有無を意味する。また、2nd接合性についても、不十分であった性能がさらに低下する現象が見られた。それに対し、本発明が対象とする、Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を所定量含有する特定のCu合金芯材と、該Cu合金芯材の表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層と含む半導体装置用ボンディングワイヤにおいては、ワイヤ最表面にCuが濃化することによる性能の低下は現出せず、逆に、ワイヤ最表面にCuを1at%以上含有することにより、Pdめっきされたリードフレームに対する2nd接合性、特にピーリング性を大幅に改善できることをはじめて見出したのである。2nd接合性をより一層改善し得る観点から、本発明のボンディングワイヤにおいて、ワイヤ最表面におけるCu濃度は、好ましくは1.5at%以上、より好ましくは2at%以上、2.5at%以上、又は3at%以上である。
【0040】
ただし、表皮合金層の表面、即ちワイヤ最表面のCu濃度が高すぎると、2nd接合性とFAB形状が不良となり、さらにワイヤ表面が酸化しやすくなり、経時的に品質が低下するという問題が発生する場合がある。良好な2nd接合性とFAB形状を実現する観点、ワイヤ表面の酸化を抑えて品質の経時劣化を抑制する観点から、本発明のボンディングワイヤにおいて、ワイヤ最表面におけるCu濃度は、10at%以下であり、好ましくは9.5at%以下、又は9at%以下である。
【0041】
AuとPdを含む表皮合金層の形成方法として、好ましくは、Cu合金芯材の表面にPdを被覆し、さらにその表面にAuを被着し、その後ワイヤを熱処理してPdとAuを相互拡散させ、AuとPdを含む表皮合金層を形成する。被覆層のPdが表皮合金層の表面まで到達するように拡散させ、表面におけるPd濃度が25at%以上となるように拡散を行うことにより、表皮合金層表面のAu濃度が75at%以下となる。例えば、Cu合金芯材の表面にPdを被覆し、Auめっきを施した後に伸線してワイヤ直径200μmおよび100μmで、合わせて2回適切な熱処理を行うことで、最終線径での表面におけるPd濃度が25at%以上になる。このとき、表皮合金層の最表面からワイヤの中心に向けて、Pd濃度が順次増大する濃度勾配を構成する。これにより、表皮合金層におけるAuの最大濃度を15at%〜75at%とすることができる。ここで、Au濃度が10at%となる位置を表皮合金層とPdを主成分とする被覆層との境界と定義する。
【0042】
なお、表皮合金層中にPdを拡散させる上記熱処理により、Cu合金芯材とPdを主成分とする被覆層との間も相互拡散が起きる。その結果、Cu合金芯材と被覆層との境界付近には、表面側から中心に向けて順次Pd濃度が減少するとともにCu濃度が増大する領域が形成される場合、または前記境界部に、20nm厚以下のPdCu金属間化合物層が形成される場合があるが、本発明においてはいずれの場合も拡散領域という。
【0043】
本発明のワイヤの成分組成の評価方法について説明する。
【0044】
被覆層、表皮合金層の濃度分析、Cu合金芯材におけるNi、Pd、Pt、Auの濃度分析には、ボンディングワイヤの表面から深さ方向に向かってスパッタ等で削りながら分析を行う方法、あるいはワイヤ断面を露出させてライン分析、点分析等を行う方法が有効である。前者は、表皮合金層、被覆層が薄い場合に有効であるが、厚くなると測定時間がかかりすぎる。後者の断面での分析は、表皮合金層、被覆層が厚い場合に有効であり、また、断面全体での濃度分布や、数箇所での再現性の確認等が比較的容易であることが利点であるが、表皮合金層、被覆層が薄い場合には精度が低下する。ボンディングワイヤを斜め研磨して、表皮合金層、被覆層、芯材及びそれらの境界部における拡散領域の厚さを拡大させて測定することも可能である。
【0045】
断面では、ライン分析が比較的簡便であるが、分析の精度を向上したいときには、ライン分析の分析間隔を狭くするとか、界面近傍の観察したい領域に絞っての点分析を行うことも有効である。
【0046】
これらの濃度分析に用いる解析装置は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)に備え付けたオージェ電子分光分析(AES)装置、エネルギー分散型X線分析(EDX)装置、電子線マイクロアナライザ(EPMA)等を利用することができる。ワイヤ断面を露出させる方法としては、機械研磨、イオンエッチング法等を利用することができる。特にAES装置を用いた方法は、空間分解能が高いことから、最表面の薄い領域の濃度分析に有効である。
【0047】
ボンディングワイヤ中のP、B、Be、Fe、Mg、Ti、Zn、Ag、Siの分析については、ボンディングワイヤを強酸で溶解した液をICP発光分光分析装置やICP質量分析装置を利用して分析し、ボンディングワイヤ全体に含まれる元素の濃度として検出することができる。また、平均的な組成の調査等には、表面部から段階的に酸等で溶解していき、その溶液中に含まれる濃度から溶解部位の組成を求めること等も可能である。
【0048】
被覆層と芯材との境界に形成されるPdCu化合物については、EPMA、EDX装置、AES装置、TEMなどを利用し、ワイヤの研磨断面において芯材と被覆層との界面を挟んでのライン分析を行うことにより、拡散領域の厚さ、組成などを知ることができる。
【0049】
ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直方向の芯材断面を、以下「垂直断面」という。垂直断面において結晶方位を測定することにより、ワイヤ長手方向の結晶方位の内、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率を評価することができる。本発明において好ましくは、芯材の垂直断面において、ワイヤ長手方向の結晶方位の内、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率が30%以上とする。芯材がこのような結晶組織を有していることにより、リーニング不良を抑制することができると共に、ボールボンディング時に形成されるボール部が軟質化し、ボールボンディングにおけるチップダメージが低減する。また、ワイヤが軟質化するので、2nd接合性を改善することができる。リーニング不良を抑制する観点、チップダメージを低減する観点、2nd接合性をより一層改善する観点から、上記結晶方位<100>の方位比率は、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上、45%以上、50%以上、又は55%以上である。
【0050】
上記芯材の垂直断面で観察される結晶方位は、TEM観察装置中に設置した微小領域X線法あるいは後方散乱電子線回折法(EBSD、Electron Backscattered Diffraction)等で測定できるものである。中でも、EBSD法は観察面の結晶方位を観察し、隣り合う測定点間での結晶方位の角度差を図示できるという特徴を有し、ボンディングワイヤのような細線であっても、比較的簡便ながら精度良く結晶方位を観察できるのでより好ましい。また、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率は、微小領域X線法ではそれぞれの結晶方位のX線強度をもとに結晶方位の体積比率として求めることができ、またEBSD法では、前記で観察した結晶方位から直接算出可能である。垂直断面の方位比率を算出するため、ボンディングワイヤの伸線方向と垂直な方向においてボンディングワイヤの断面全域を観察した。結晶方位比率の算出方法については、結晶方位が測定できない部位、あるいは測定できても方位解析の信頼度が低い部位等を除外して計算するために、測定領域内で、専用ソフトに設定された信頼度を基準に同定できた結晶方位だけの面積を母集団とした。上記いずれか1つの方法で得られる厚さや組成が本発明の範囲内であれば、本発明の作用効果が得られるものである。
【0051】
本発明の半導体装置用ボンディングワイヤの線径は、半導体装置の所期の設計にもよるが、10〜80μmの範囲であってよく、通常、10〜50μmの範囲である。
【0052】
次に、本発明の半導体装置用ボンディングワイヤの製造方法について説明する。
【0053】
まず、Cu合金芯材の組成にあわせ、高純度のCu(純度99.99%以上)と添加元素原料を出発原料として秤量した後、これを高真空下もしくは窒素やAr等の不活性雰囲気下で加熱して溶解することで、所定の成分を含有し、残部がCu及び不可避不純物である直径約2〜10mmのインゴットを得る。本発明のボンディングワイヤの製造に供されるインゴットは、Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1〜3.0質量%含有する、直径約2〜10mmの銅合金インゴットである。該銅合金インゴットが含有し得る他の成分は、本発明のボンディングワイヤにおける銅合金芯材について説明したとおりであり、それら成分の含有量の好適な範囲も先述のとおりである。この銅合金インゴットを鍛造、圧延、伸線を行なって被覆層を形成する直径約0.3〜1.5mmの銅合金ワイヤを作製する。本発明は、このような半導体装置用ボンディングワイヤに供する銅合金インゴット及び銅合金ワイヤも提供する。
【0054】
Cu合金芯材の表面にPdを主成分とする被覆層を形成する手法としては、電解めっき、無電解めっき、蒸着法等が利用できるが、膜厚を安定的に制御できる電解めっきを利用するのが工業的には最も好ましい。これらの手法でCu合金芯材表面にPdを主成分とする被覆層を形成した後、前記被覆層の表面にAuとPdを含む表皮合金層を形成する。表皮合金層を形成する方法はどのような方法でもよいが、前記被覆層を形成した後、更にその表面に表皮層としてAu膜を形成し、被着したAuをAuとPdを含む合金層にするため、Auの表面までPdが到達するように熱処理によりPdを拡散させるとよい。その方法としては一定の炉内温度で電気炉中、ワイヤを一定の速度の下で連続的に掃引することで合金化を促す方法が、確実に合金の組成と厚みを制御できるので好ましい。尚、前記被覆層の表面にAu膜を形成する手法としては、電解めっき、無電解めっき、蒸着法等が利用できるが、上記の理由から電解めっきを利用するのが工業的には最も好ましい。Cu合金芯材の表面に被覆層及び表皮合金層を被着する段階については、最終的なCu合金芯材の直径まで伸線した後に行うと最も好ましいが、Cu合金芯材の伸線途中段階で所定の線径まで伸線した時点で被着し、そのあとに最終線径まで伸線することとしても良い。斯かる場合、Cuを主成分とし、元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1〜3.0質量%含有する芯材と、該芯材表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と、該被覆層表面に設けられたAuを主成分とする表皮層(好ましくはAuとPdを含む表皮合金層)とを含む、直径約100〜700μmの複層ワイヤを中間製品として得る。被覆層及び表皮合金層はまた、インゴットの段階で被着することとしても良い。
【0055】
表皮合金層の合金化のための加熱時は、原料の汚染を考慮して、炉内の雰囲気を窒素やAr等の不活性雰囲気とし、更に、従来のボンディングワイヤの加熱法とは異なり、雰囲気中に含有される酸素濃度を5000ppm以下とする。より好ましくは、不活性ガス中に水素等の還元性ガスを少なくとも500ppm混入させると、ワイヤの原料の汚染を防止する効果が更に高まるので良い。また、炉内の適切な温度やワイヤを掃引する速度は、ワイヤの組成によっても異なるが、炉内温度をおおむね210℃〜700℃の範囲とし、ワイヤを掃引する速度を例えば20〜40m/min程度とすると安定した操業ができ、安定した品質のボンディングワイヤが得られるので好ましい。表皮合金層の合金化のための加熱は、最終的な芯材の直径まで伸線した後に行うと、伸線後のワイヤの焼鈍を兼ねることができるので好ましい。もちろん、表皮合金層の合金化のための加熱を、中間段階の直径まで伸線したところで行うこととしても良い。以上のようにして加熱を行うことにより、Cu合金芯材のCuが被覆層や表皮合金層中を拡散し、表皮合金層の最表面にCuを到達させることができる。加熱温度と時間を上記好適な範囲内で適切に選択することにより、ワイヤ最表面におけるCu濃度を1〜10at%の範囲とすることができる。
【0056】
表皮合金層の厚みと、前記被覆層の厚みを個々に制御するには、単純な一度の熱処理よりも、Cu合金芯材の表面にPdを被覆した後に熱処理を実施し、更にAuを被着した後に熱処理を実施することが有効である。その場合、それぞれの熱処理条件に対する炉内温度、ワイヤの掃引速度は個々に設定できるという利点がある。
【0057】
表皮合金層、被覆層を形成した後の加工工程では、ロール圧延、スエージング、ダイス伸線などを目的により選択、使い分ける。加工速度、圧下率またはダイス減面率などにより、加工組織、転位、結晶粒界の欠陥などを制御することは、表皮合金層、被覆層の構造、密着性などにも影響を及ぼす。
【0058】
加工後の熱処理工程は、最終的なワイヤ直径で行うことが要求されるが、それだけでは所望の合金層、被覆層の厚み、Auの最大濃度、表面のCu濃度を得ることは難しい。その場合は、加工の途中で熱処理工程を2乃至3回実施することが有効である。
【0059】
特にAuとPdは融点も加工され易さ(強度)も違うため、加工度が低い段階で熱処理を行って、AuPdの合金層をワイヤ全周に渡って形成しておくことが重要である。また表面にCuを濃化させるためには、単純に熱処理温度を上げるのではなく、不活性ガスで充填される熱処理炉中の酸素濃度を、敢えて高めにしておくことが有効である。しかし酸素濃度が高すぎるとCu合金芯材中のCuの酸化が懸念されるため、酸素濃度は0.2%〜0.7%にすることが望ましく、それ以外の熱処理は酸素濃度をppmオーダーに下げておくことが良い。
【0060】
所望する組成および膜厚の被覆層、表皮合金層、最表面へのCu濃化部を形成するためには、初期形成の膜厚、複数の熱処理条件などから、Fickの法則など通常の相互拡散の知識を利用して見積もることが有効である。さらに精度を上げるには、上記見積もりをもとにワイヤを1回程度試作し、表面解析により実際の拡散現象を求めて熱処理装置などの条件を調製することで、異なる膜厚、組成でも対応が容易となる。
【0061】
Cu合金芯材の垂直断面におけるワイヤ長手方向の結晶方位の内、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率については、最終伸線の後に行う熱処理の条件によって制御することができる。即ち、熱処理温度を比較的低い温度、例えば350〜550℃にすると加工歪を除去するための再結晶(1次再結晶)は起こるが、粗大な結晶粒の成長(2次再結晶)は少なく抑えられる。1次再結晶粒は<100>結晶方位の割合が多いが2次再結晶粒は<100>結晶方位の割合が少ない。これにより、Cu合金芯材の垂直断面における、ワイヤ長手方向の結晶方位の内、ワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率が30%以上とすることができる。
【実施例】
【0062】
ボンディングワイヤの原材料として、Cu合金芯材を製造するために純度が99.99質量%以上のCu、添加元素としてNi、Pd、Pt、Au、P、B、Be、Fe、Mg、Ti、Zn、Ag、Siを用意し、被覆層形成用に純度が99.99質量%以上のPdを用意し、表皮合金層形成用に純度が99.99質量%以上のAuをそれぞれ用意した。Cuと添加元素原料を出発原料として秤量した後、これを高真空下で加熱して溶解することで直径10mm程度の銅合金インゴットを得た。その後、該インゴットを鍛造、圧延、伸線して直径500μmのCu合金ワイヤを作製した。次にCu合金ワイヤ表面にPd被覆層を1〜3μm厚、被覆層の表面にAu表皮層を0.05〜0.2μm厚になるように電解めっきで施し、複層ワイヤを得た。Pd被覆層、AuPd表皮合金層の最終的な厚みを表1、表2に記載した。ここで、芯材と被覆層との境界はPd濃度が50at%の位置とし、被覆層と表皮合金層との境界はAu濃度が10at%の位置とした。その後、伸線速度が100〜700m/min、ダイス減面率が8〜30%で連続伸線加工を行い表1、表2に記載した最終線径とした。表皮合金層の厚み、Au最大濃度、表面Cu濃度、被覆層の厚みは、伸線加工の間に熱処理を2回乃至3回実施することにより制御した。その時の条件は、ワイヤ直径が200〜250μmにおいて温度500〜700℃、速度10〜70m/min、ワイヤ直径が70〜100μmにおいて温度450〜650℃、速度20〜90m/min、最終線径が細い場合には、更にワイヤ直径が40〜70μmにおいて温度300〜500℃、速度30〜100m/minであった。その後、最終線径で、表1、表2の温度、速度30〜120m/minで熱処理を実施した。また、表面までCuを拡散させるために1回の熱処理だけは、熱処理炉中の酸素濃度を0.2〜0.7%と通常より高めに設定した。この熱処理はできれば最後の方に行ったほうが良く、その理由はCuが表面に出てから伸線加工を繰り返すとCuの酸化が起こり易くなるからである。それ以外の熱処理では、熱処理炉中の酸素濃度を0.2%未満にすることで、表皮合金層の過剰な酸化を抑えつつ、安定した厚さ、組成などを制御した。このようにして直径が15〜25μmのボンディングワイヤを得た。
【0063】
被覆層、表皮合金層の濃度分析、Cu合金芯材におけるNi、Pd、Pt、Auの濃度分析は、ボンディングワイヤの表面から深さ方向に向かってArイオンでスパッタしながらAES装置を用いて分析した。被覆層及び表皮合金層の厚みは、得られた深さ方向の濃度プロファイル(深さの単位はSiO2換算)から求めた。元素分布の観察には、EPMA、EDX装置などによる分析も行った。Pdの濃度が50at%以上で、かつ、Auの濃度が10at%未満であった領域を被覆層とし、被覆層の表面にあるAu濃度が10at%以上の範囲であった領域を表皮合金層とした。被覆層及び表皮合金層の厚み及び組成を表1、表2に記載した。ボンディングワイヤ中のP、B、Be、Fe、Mg、Ti、Zn、Ag、Siの濃度は、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置等により測定した。
【0064】
ボンディングワイヤの接続には、市販の自動ワイヤボンダーを使用した。ボンディングの直前にアーク放電によりボンディングワイヤの先端にボール部を作製したが、その直径はボンディングワイヤの直径の1.7倍となるように選択した。ボール部作製時の雰囲気は窒素とした。
【0065】
ボンディングワイヤの接合の相手としては、Siチップ上に形成された厚さ1μmのAl電極と、表面がPdめっきリードフレームのリードをそれぞれ用いた。作製したボール部を260℃に加熱した前記電極とボール接合した後、ボンディングワイヤの母線部を260℃に加熱した前記リードと2nd接合し、再びボール部を作製することで、連続的にボンディングを繰り返した。ループ長は3mmと5mmの2種類とし、ループ高さは0.3mmと0.5mmの2種類とした。
【0066】
ボンディングワイヤの2nd接合性については、マージン、ピーリング、強度、フィッシュテイル対称性について評価を行った。マージンについては、2nd接合時の荷重を20gfから10gf刻みで90gfまで、超音波を60mAから10mA刻みで120mAまでの56条件で連続ボンディング100本を実施し、連続ボンディングできた条件をカウントした。連続ボンディングができた条件が40以上を◎、30以上40未満を○、30未満を×とした。ピーリングについては、2nd接合された状態のボンディングワイヤの接合部を100本観察し、接合部が剥がれているものをNGとカウントした。フィッシュテイル対称性については、2nd接合された状態のボンディングワイヤの接合部を100本観察し、その対称性を評価した。フィッシュテイル状圧着部の中央から左端までの長さ、右端まで長さを計測し、その差が10%以上のものをNGとカウントした。ピーリングとフィッシュテイル対称性は、NGが0個を◎、1〜10個を○、11個以上を×とした。強度については、2nd接合された状態のボンディングワイヤを2nd接合部直上でつまみ、切断するまで上方に持ち上げ、その切断時に得られる破断荷重を読み取った。強度は線径に左右されるため、強度/ワイヤ引張強度の比率を利用した。その比率が85%以上なら良好であるため◎、70〜85%は問題ないと判断し○、55〜70%は不具合が発生する場合があると判断し△、55%以下は不良と判断し×とし、表3、表4の「2nd接合 強度」の欄に表記した。
【0067】
ボンディングワイヤの1st接合性(ボールボンディング性)に関しては、HAST試験、ボール形状、FAB形状、チップダメージについて評価を行った。HAST試験におけるボールボンディング部の健全性を評価するため、ボンディングを行った半導体装置について、温度130℃、相対湿度85%RH(Relative Humidity)、5Vという高温高湿炉中に放置し、48時間おきに取り出して評価した。評価方法として、電気抵抗を測定し、抵抗が上昇したものをNGとした。NGとなるまでの時間が480時間以上を◎、384時間以上480時間未満を○、384時間未満を×とした。
【0068】
ボール形状については、ボールボンディング部を光学顕微鏡で100個観察し、真円に近いものをOK、花びら状になっているものをNGとし、その数をカウントした。FAB形状については、リードフレームにFABを100本作製し、SEMで観察した。真球状のものをOK、偏芯、引け巣をNGとし、その数をカウントした。ボール形状とFAB形状は、NGが0個を◎、1〜5個を○、6〜10個を△、11個以上を×とした。◎と○は合格であり、△は合格であるがやや品質不良である。
【0069】
チップダメージの評価では、ボール接合部20個を断面研磨し、電極に亀裂が生じていれば不良と判断し、不良が4個以上の場合は×印で、3個以下の場合は△印で、1〜2個の場合は○、亀裂が観察されなければ良好として◎印とし、表3、表4の「チップダメージ」欄に表記した。○と◎は合格であり、△は合格であるがやや品質不良である。
【0070】
リーニング評価については、ループ長:3mmと5mm、ループ高さ:0.3mmと0.5mmのそれぞれについて、ボンディングをした後に各試料とも100本のループを光学顕微鏡で観察し、0〜2本のループのみにリーニング不良が観察された場合は良好で◎印で、3〜4本のループのみにリーニング不良が観察された場合は実用上問題の無いレベルで○印で、5〜7本の場合は△印で、8本以上のループにリーニング不良が観察されれば劣悪で×印で、表3、表4の「リーニング」欄に表記した。△、○、◎は合格である。
【0071】
芯材の垂直断面で観察されるワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率は、EBSD法で観察面の結晶方位を観察した上で算出した。EBSD測定データの解析には専用ソフト(TSL製 OIM analysis等)を利用した。算出にあたって、ボンディングワイヤの全域を選択し、各試料とも3視野ずつ観察した。芯材の垂直断面におけるワイヤ長手方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<100>の方位比率を、表3、表4の「垂直断面」の「結晶方位<100>」の欄に記入している。
【0072】
表2において、本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
本発明例1〜35については、評価したすべての品質指標において合格レベルの品質実績を実現することができた。
【0078】
比較例1はワイヤ最表面のCu濃度が下限未満であるため、2nd接合のピーリング及びフィッシュテイル対称性が不良であり、被覆層の厚みが好ましい範囲の上限を超えているため、チップダメージとFAB形状については合格だがやや品質不良であった。比較例2はワイヤ最表面のCu濃度が下限未満であるため、2nd接合のピーリング及びフィッシュテイル対称性が不良であり、被覆層の厚みが好ましい範囲の下限未満であるため、FAB形状については合格だがやや品質不良であった。比較例3及び7は必須元素である添加元素1の添加量が下限未満であるため、高湿加熱条件におけるボール接合性(HAST評価)が不良であり、さらに2nd接合のマージン及び強度が不良であり、被覆層の厚みが好ましい範囲の下限未満であるため、FAB形状は合格だがやや品質不良であった。比較例4はワイヤ最表面のCu濃度が下限未満であるため、2nd接合のピーリング及びフィッシュテイル対称性が不良であり、表皮合金層の厚さ及びAuの最大濃度が好ましい範囲の上限を超えているため、FAB形状は合格だがやや品質不良であった。
【0079】
比較例5はワイヤ最表面におけるCu濃度が本発明の上限を超えており、2nd接合のマージン及び強度とFAB形状が不良であった。
【0080】
なお、比較例5については、<100>結晶方位が本発明の好適範囲から外れているため、リーニングが△の結果であり、合格の範囲ではあるがやや性能が低かった。
【0081】
高純度(4N以上)のCu芯材を使用し、必須元素である添加元素1の添加量が下限未満である比較例6は、2nd接合のピーリング及びフィッシュテイル対称性が不良であった。
【要約】
Cu合金芯材の表面にPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面にAuとPdを含む表皮合金層を有する半導体装置用ボンディングワイヤであって、Pdめっきリードフレームでの2nd接合性をさらに改善するとともに、高湿加熱条件においても優れたボール接合性を実現することのできるボンディングワイヤを提供する。
Cu合金芯材の表面にPdを主成分とする被覆層と、該被覆層の表面にAuとPdを含む表皮合金層を有する半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、ワイヤ最表面におけるCu濃度を1〜10at%とし、芯材中に元素周期表第10族の金属元素を総計で0.1〜3.0質量%の範囲で含有することにより、2nd接合性の改善と、高湿加熱条件における優れたボール接合性を実現することができる。さらに、表皮合金層のAuの最大濃度が15at%〜75at%であると好ましい。