特許第5964535号(P5964535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964535ゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5964535
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20160721BHJP
【FI】
   A63B53/10 A
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-515164(P2016-515164)
(86)(22)【出願日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】JP2016050925
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083286
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】若林 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】古川 義仁
【審査官】 槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−204865(JP,A)
【文献】 特開2002−85608(JP,A)
【文献】 特開平10−151690(JP,A)
【文献】 特開2002−347148(JP,A)
【文献】 特開2009−254601(JP,A)
【文献】 特開2007−307169(JP,A)
【文献】 特開2013−27606(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070253(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0119830(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00−53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体を有するゴルフクラブシャフトにおいて、
前記シャフト本体の全長に亘る全長層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向に対して±(25°±3°)をなす全長バイアスプリプレグ対のみが複数対設けられていることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
請求項1記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記複数対の全長バイアスプリプレグ対は、同一仕様であるゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
請求項1または2記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記シャフト本体の長手方向の一部を構成する部分層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向と略平行をなす部分0°プリプレグをさらに有するゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
請求項3記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記シャフト本体の長手方向の一部に位置する重量付加用筒状体をさらに有するゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
請求項4記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記重量付加用筒状体を含んだシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対の重量の割合が82%以上であり、且つ/又は、前記重量付加用筒状体を含まないシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対の重量の割合が90%以上であるゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
請求項1または2記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記シャフト本体の長手方向の一部を構成する部分層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向に対して±(25°±3°)をなす部分バイアスプリプレグをさらに有するゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
請求項6記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記シャフト本体の長手方向の一部に位置する重量付加用筒状体をさらに有するゴルフクラブシャフト。
【請求項8】
請求項7記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記重量付加用筒状体を含んだシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対と前記部分バイアスプリプレグの重量の割合が88%以上であり、且つ/又は、前記重量付加用筒状体を含まないシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対と前記部分バイアスプリプレグの重量の割合が100%であるゴルフクラブシャフト。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載のゴルフクラブシャフトにおいて、
前記複数対の全長バイアスプリプレグ対は、三対または四対が設けられているゴルフクラブシャフト。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項記載のゴルフクラブシャフトにクラブヘッドとグリップを装着したゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体を有するゴルフクラブシャフトが知られている。
【0003】
プリプレグとしては、繊維方向がシャフト本体の長手方向と略平行をなす全長0°プリプレグ(全長0゜層)、繊維方向がシャフト本体の長手方向と略直交する全長90°プリプレグ(全長90゜層)、及び、繊維方向がシャフト本体の長手方向と45°をなす全長バイアスプリプレグ(全長45゜層)が一般的に知られている。
【0004】
全長0°層は、曲げに対する強度を受け持つ曲げ剛性保持層として機能し、全長90°層は、潰れに対する強度を受け持つ潰れ剛性保持層として機能し、全長45゜層は、捩りに対する強度を受け持つ捩り剛性保持層として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−15130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のゴルフクラブシャフトは、これらの繊維方向が異なるプリプレグを如何に組み合わせて、所望の性質を得るかに開発の重点が置かれていた。しかし、本発明者らの鋭意研究によると、上記従来のゴルフクラブシャフトは、全長0°層と全長90°層と全長45゜層がそれぞれ違う方向の剛性に影響するので、これら各層間の境目(界面)に剛性差が生じることが避けられず、これが、打球時のヘッドスピード、ボールスピード、打出し角度、バックスピン、最大高さ、飛距離等の各種パラメータがばらついてしまう原因になることが判明した。
【0007】
本発明は、以上の問題意識に基づいて完成されたものであり、シャフト本体の層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑えることができるゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、シャフト本体の全長に亘る全長層として、従来のように、0゜層、90゜層及び45゜層を組み合わせて用いる代わりに、特定角度の対をなすバイアス層だけを用いれば、層間の剛性差が小さく、しかも、曲げ剛性、潰れ剛性及び捩り剛性をバランス良く最適設定することができるという着眼に基づいて本発明を完成した。
【0009】
本発明のゴルフクラブシャフトは、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体を有するゴルフクラブシャフトにおいて、前記シャフト本体の全長に亘る全長層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向に対して±(25°±3°)をなす全長バイアスプリプレグ対のみが複数対設けられていることを特徴としている。
【0010】
前記複数対の全長バイアスプリプレグ対は、同一仕様とすることができる。
【0011】
本発明のゴルフクラブシャフトは、前記シャフト本体の長手方向の一部を構成する部分層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向と略平行をなす部分0°プリプレグをさらに有することができる。
【0012】
本発明のゴルフクラブシャフトは、前記シャフト本体の長手方向の一部に位置する重量付加用筒状体をさらに有することができる。
【0013】
前記重量付加用筒状体を含んだシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対の重量の割合を82%以上とし、且つ/又は、前記重量付加用筒状体を含まないシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対の重量の割合を90%以上とすることができる。
【0014】
本発明のゴルフクラブシャフトは、前記シャフト本体の長手方向の一部を構成する部分層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向に対して±(25°±3°)をなす部分バイアスプリプレグをさらに有することができる。
【0015】
本発明のゴルフクラブシャフトは、前記シャフト本体の長手方向の一部に位置する重量付加用筒状体をさらに有することができる。
【0016】
前記重量付加用筒状体を含んだシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対と前記部分バイアスプリプレグの重量の割合を88%以上とし、且つ/又は、前記重量付加用筒状体を含まないシャフト総重量に占める前記複数対の全長バイアスプリプレグ対と前記部分バイアスプリプレグの重量の割合を100%とすることができる。
【0017】
前記複数対の全長バイアスプリプレグ対は、三対または四対を設けることができる。
【0018】
本発明のゴルフクラブは、上述したいずれかのゴルフクラブシャフトにクラブヘッドとグリップを装着してなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シャフト本体の層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑えることができるゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。
図2】第2実施形態によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。
図3】第3実施形態によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。
図4】第4実施形態によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。
図5】比較例1によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。
図6】比較例2によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。
図7図7(A)、(B)は第2実施形態のゴルフクラブシャフトと比較例2のゴルフクラブシャフトをテスターが試打した際の各種パラメータの平均値とばらつきを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態によるゴルフクラブシャフト10を示している。ゴルフクラブシャフト10は、その先端小径側(チップ側)から基端大径側(バット側)に向かって漸次外径を大きくしたテーパ筒状に形成されている。ゴルフクラブシャフト10は、小径側先端部にクラブヘッド(図示せず)が装着され、大径側基端部にグリップ(図示せず)が装着されてゴルフクラブとされる。
【0022】
ゴルフクラブシャフト10は、強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体10Sを有している。より具体的に、シャフト本体10Sは、テーパ状のマンドレル(図示せず)に、内層(下層)から外層(上層)に向かって順に、プリプレグ10A〜10Hを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体10Sの最内層(最下層)には、シャフト本体10Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。
【0023】
内層側のプリプレグ10Aと外層側のプリプレグ10Hは、繊維方向がシャフト本体10Sの長手方向(シャフト長手方向)と略平行をなす部分0°プリプレグである。内層側の部分0°プリプレグ10Aは、シャフト本体10Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり、外層側の部分0°プリプレグ10Hは、シャフト本体10Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。
【0024】
プリプレグ10B〜10Gは、シャフト本体10Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ10B〜10Gは、マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように、大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。
【0025】
より具体的に、プリプレグ10B、10Cは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第1の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ10D、10Eは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第2の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ10F、10Gは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第3の全長バイアスプリプレグ対を構成する。
【0026】
ゴルフクラブシャフト10(シャフト本体10S)を構成する全長プリプレグは、第1の全長バイアスプリプレグ対(10B、10C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(10D、10E)、及び、第3の全長バイアスプリプレグ対(10F、10G)の三対のみであり、これら三対の全長バイアスプリプレグ対は、全て、同一仕様となっている(製造誤差等の要因で多少のずれが生じることはあり得るが同じ繊維角度をターゲットとしている)。
【0027】
第1の全長バイアスプリプレグ対(10B、10C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(10D、10E)、第3の全長バイアスプリプレグ対(10F、10G)は、この順番でシート重量が大きくなっている。これは、内層側のプリプレグシートであるほど巻回量が小さく、外層側のプリプレグシートであるほど巻回量が大きいためである(シート重量の違いは仕様の違いに起因するものではない)。
【0028】
金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約86.0g)に占める三対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G)の重量(約72.0g)の割合は約83.7%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約80.0g)に占める三対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G)の重量(約72.0g)の割合は約90.1%である。
【0029】
≪第2実施形態≫
図2は、第2実施形態によるゴルフクラブシャフト20を示している。このゴルフクラブシャフト20は、強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体20Sを有している。より具体的に、シャフト本体20Sは、テーパ状のマンドレル(図示せず)に、内層(下層)から外層(上層)に向かって順に、プリプレグ20A〜20Jを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体20Sの最内層(最下層)には、シャフト本体20Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。
【0030】
内層側のプリプレグ20Aと外層側のプリプレグ20Jは、繊維方向がシャフト本体20Sの長手方向(シャフト長手方向)と略平行をなす部分0°プリプレグである。内層側の部分0°プリプレグ20Aは、シャフト本体20Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり、外層側の部分0°プリプレグ20Jは、シャフト本体20Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。
【0031】
プリプレグ20B〜20Iは、シャフト本体20Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ20B〜20Iは、マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように、大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。
【0032】
より具体的に、プリプレグ20B、20Cは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第1の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ20D、20Eは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第2の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ20F、20Gは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第3の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ20H、20Iは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第4の全長バイアスプリプレグ対を構成する。
【0033】
ゴルフクラブシャフト20(シャフト本体20S)を構成する全長プリプレグは、第1の全長バイアスプリプレグ対(20B、20C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(20D、20E)、第3の全長バイアスプリプレグ対(20F、20G)、及び、第4の全長バイアスプリプレグ対(20H、20I)の四対のみであり、これら四対の全長バイアスプリプレグ対は、全て、同一仕様となっている(製造誤差等の要因で多少のずれが生じることはあり得るが同じ繊維角度をターゲットとしている)。
【0034】
第1の全長バイアスプリプレグ対(20B、20C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(20D、20E)、第3の全長バイアスプリプレグ対(20F、20G)または第4の全長バイアスプリプレグ対(20H、20I)は、この順番でシート重量が大きくなっている。これは、内層側のプリプレグシートであるほど巻回量が小さく、外層側のプリプレグシートであるほど巻回量が大きいためである(シート重量の違いは仕様の違いに起因するものではない)。また、第3の全長バイアスプリプレグ対(20F、20G)と第4の全長バイアスプリプレグ対(20H、20I)のシート重量は同一となっている。
【0035】
金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約120.5g)に占める四対の全長バイアスプリプレグ対(20B〜20I)の重量(約99.8g)の割合は約82.8%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約107.3g)に占める四対の全長バイアスプリプレグ対(20B〜20I)の重量(約99.8g)の割合は約93.0%である。
【0036】
≪第3実施形態≫
図3は、第3実施形態によるゴルフクラブシャフト30を示している。このゴルフクラブシャフト30は、強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体30Sを有している。より具体的に、シャフト本体30Sは、テーパ状のマンドレル(図示せず)に、内層(下層)から外層(上層)に向かって順に、プリプレグ30A〜30Hを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体30Sの最内層(最下層)には、シャフト本体30Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。
【0037】
内層側のプリプレグ30Aと外層側のプリプレグ30Hは、繊維方向がシャフト本体30Sの長手方向(シャフト長手方向)に対して25°をなす部分バイアスプリプレグである。内層側の部分バイアスプリプレグ30Aは、シャフト本体30Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり、外層側の部分バイアスプリプレグ30Hは、シャフト本体30Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。
【0038】
プリプレグ30B〜30Gは、シャフト本体30Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ30B〜30Gは、マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように、大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。
【0039】
より具体的に、プリプレグ30B、30Cは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第1の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ30D、30Eは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第2の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ30F、30Gは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第3の全長バイアスプリプレグ対を構成する。
【0040】
ゴルフクラブシャフト30(シャフト本体30S)を構成する全長プリプレグは、第1の全長バイアスプリプレグ対(30B、30C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(30D、30E)、及び、第3の全長バイアスプリプレグ対(30F、30G)の三対のみであり、これら三対の全長バイアスプリプレグ対は、全て、同一仕様となっている(製造誤差等の要因で多少のずれが生じることはあり得るが同じ繊維角度をターゲットとしている)。一方、部分バイアスプリプレグ(30A、30H)と三対の全長バイアスプリプレグ対(30B〜30G)は、その厚さやカーボンの種類が異なるプリプレグを使用することができる。
【0041】
第1の全長バイアスプリプレグ対(30B、30C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(30D、30E)、第3の全長バイアスプリプレグ対(30F、30G)は、この順番でシート重量が大きくなっている。これは、内層側のプリプレグシートであるほど巻回量が小さく、外層側のプリプレグシートであるほど巻回量が大きいためである(シート重量の違いは仕様の違いに起因するものではない)。
【0042】
金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約86.0g)に占める部分バイアスプリプレグ(30A、30H)と三対の全長バイアスプリプレグ対(30B〜30G)の重量(約80.0g)の割合は約93.0%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約80.0g)に占める部分バイアスプリプレグ(30A、30H)と三対の全長バイアスプリプレグ対(30B〜30G)の重量(約80.0g)の割合は100%である(バイアスプリプレグのみを使用してその他のプリプレグを使用していない)。
【0043】
≪第4実施形態≫
図4は、第4実施形態によるゴルフクラブシャフト40を示している。このゴルフクラブシャフト40は、強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体40Sを有している。より具体的に、シャフト本体40Sは、テーパ状のマンドレル(図示せず)に、内層(下層)から外層(上層)に向かって順に、プリプレグ40A〜40Jを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体40Sの最内層(最下層)には、シャフト本体40Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。
【0044】
内層側のプリプレグ40Aと外層側のプリプレグ40Jは、繊維方向がシャフト本体40Sの長手方向(シャフト長手方向)に対して25°をなす部分バイアスプリプレグである。内層側の部分バイアスプリプレグ40Aは、シャフト本体40Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり、外層側の部分バイアスプリプレグ40Jは、シャフト本体40Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。
【0045】
プリプレグ40B〜40Iは、シャフト本体40Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ40B〜40Iは、マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように、大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。
【0046】
より具体的に、プリプレグ40B、40Cは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第1の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ40D、40Eは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第2の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ40F、40Gは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第3の全長バイアスプリプレグ対を構成し、プリプレグ40H、40Iは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす第4の全長バイアスプリプレグ対を構成する。
【0047】
ゴルフクラブシャフト40(シャフト本体40S)を構成する全長プリプレグは、第1の全長バイアスプリプレグ対(40B、40C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(40D、40E)、第3の全長バイアスプリプレグ対(40F、40G)、及び、第4の全長バイアスプリプレグ対(40H、40I)の四対のみであり、これら四対の全長バイアスプリプレグ対は、全て、同一仕様となっている(製造誤差等の要因で多少のずれが生じることはあり得るが同じ繊維角度をターゲットとしている)。一方、部分バイアスプリプレグ(40A、40J)と四対の全長バイアスプリプレグ対(40B〜40I)は、その厚さやカーボンの種類が異なるプリプレグを使用することができる。
【0048】
第1の全長バイアスプリプレグ対(40B、40C)、第2の全長バイアスプリプレグ対(40D、40E)、第3の全長バイアスプリプレグ対(40F、40G)または第4の全長バイアスプリプレグ対(40H、40I)は、この順番でシート重量が大きくなっている。これは、内層側のプリプレグシートであるほど巻回量が小さく、外層側のプリプレグシートであるほど巻回量が大きいためである(シート重量の違いは仕様の違いに起因するものではない)。また、第3の全長バイアスプリプレグ対(40F、40G)と第4の全長バイアスプリプレグ対(40H、40I)のシート重量は同一となっている。
【0049】
金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約120.5g)に占める部分バイアスプリプレグ(40A、40J)と四対の全長バイアスプリプレグ対(40B〜40I)の重量(約107.3g)の割合は約89.0%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約107.3g)に占める部分バイアスプリプレグ(40A、40J)と四対の全長バイアスプリプレグ対(40B〜40I)の重量(約107.3g)の割合は100%である(バイアスプリプレグのみを使用してその他のプリプレグを使用していない)。
【0050】
≪第1実施形態〜第4実施形態のまとめ≫
第1実施形態〜第4実施形態のゴルフクラブシャフト10〜40は、シャフト本体10S〜40Sの全長に亘る全長層として、繊維方向がシャフト長手方向に対して±25°をなす三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G、20B〜20I、30B〜30G、40B〜40I)のみが設けられている。
【0051】
これにより、三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G、20B〜20I、30B〜30G、40B〜40I)の各層間の境目(界面)が滑らかに連続するので、シャフト本体10S〜40Sの層間の剛性差(曲げ剛性、潰れ剛性、捩れ剛性)を小さくして、打球時のヘッドスピード、ボールスピード、打出し角度、バックスピン、最大高さ、飛距離等の各種パラメータのばらつきを抑えることが可能になる。
【0052】
ここで、全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G、20B〜20I、30B〜30G、40B〜40I)は、繊維方向がシャフト長手方向に対して±(25°±3°)をなしていればよい(±3°のずれは許容される)。この条件を満足することにより、シャフト本体10S〜40Sの層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑える効果を一定程度まで得ることができる。
【0053】
仮に、全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G、20B〜20I、30B〜30G、40B〜40I)の繊維方向の角度の絶対値が上限である28°を上回ると、曲げ剛性が不十分となり所望のシャフト性能が得られなくなってしまう。また、全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G、20B〜20I、30B〜30G、40B〜40I)の繊維方向の角度の絶対値が下限である22°を下回ると、捩り剛性が不十分となり所望のシャフト性能が得られなくなってしまう。
【0054】
第1実施形態と第2実施形態のような部分0°プリプレグ(10Aと10Hまたは20Aと20J)を設ける態様では、金属円筒Mを含んだシャフト総重量に占める三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10Gまたは20B〜20I)の重量の割合が82%以上であり、且つ/又は、金属円筒Mを含まないシャフト総重量に占める三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10Gまたは20B〜20I)の重量の割合が90%以上であることが好ましい。
【0055】
第3実施形態と第4実施形態のような部分バイアスプリプレグ(30Aと30Hまたは40Aと40J)を設ける態様では、金属円筒Mを含んだシャフト総重量に占める部分バイアスプリプレグ(30Aと30Hまたは40Aと40J)と三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(30B〜30Gまたは40B〜40I)の重量の割合が88%以上であり、且つ/又は、金属円筒Mを含まないシャフト総重量に占める部分バイアスプリプレグ(30Aと30Hまたは40Aと40J)と三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(30B〜30Gまたは40B〜40I)の重量の割合が100%であることが好ましい。
【0056】
このように、シャフト総重量に占める繊維方向がシャフト長手方向に対して±(25°±3°)をなすバイアスプリプレグの重量の割合を高く設定することで、シャフト本体10S〜40Sの層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑える効果をより顕著に発揮することができる。
【0057】
≪変形例≫
以上の第1実施形態〜第4実施形態では、三対または四対の全長バイアスプリプレグ対(10B〜10G、20B〜20I、30B〜30G、40B〜40I)を設けた場合を例示して説明したが、全長バイアスプリプレグ対は複数対あればよく、例えば、二対または五対以上の全長バイアスプリプレグ対を設ける態様も可能である。
【0058】
≪比較例1≫
図5は、比較例1によるゴルフクラブシャフト50を示している。このゴルフクラブシャフト50は、強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体50Sを有している。より具体的に、シャフト本体50Sは、テーパ状のマンドレル(図示せず)に、内層(下層)から外層(上層)に向かって順に、プリプレグ50A〜50Fを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体50Sの最内層(最下層)には、シャフト本体50Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。
【0059】
内層側のプリプレグ50Aと外層側のプリプレグ50Fは、繊維方向がシャフト本体50Sの長手方向(シャフト長手方向)と略平行をなす部分0°プリプレグである。内層側の部分0°プリプレグ50Aは、シャフト本体50Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり、外層側の部分0°プリプレグ50Fは、シャフト本体50Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。
【0060】
プリプレグ50B〜50Eは、シャフト本体50Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ50B〜50Eは、マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように、大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。
【0061】
プリプレグ50B、50Cは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対の全長バイアスプリプレグである。プリプレグ50D、50Eは、繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす全長0°プリプレグである。
【0062】
金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約87.5g)に占める一対の全長バイアスプリプレグ50B、50Cの重量(約54.7g)の割合は約62.4%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約81.5g)に占める一対の全長バイアスプリプレグ50B、50Cの重量(約54.7g)の割合は約67.1%である。
【0063】
≪比較例2≫
図6は、比較例2によるゴルフクラブシャフト60を示している。このゴルフクラブシャフト60は、強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体60Sを有している。より具体的に、シャフト本体60Sは、テーパ状のマンドレル(図示せず)に、内層(下層)から外層(上層)に向かって順に、プリプレグ60A〜60Iを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体60Sの最内層(最下層)には、シャフト本体60Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。
【0064】
内層側のプリプレグ60Aと外層側のプリプレグ60Iは、繊維方向がシャフト本体60Sの長手方向(シャフト長手方向)と略平行をなす部分0°プリプレグである。内層側の部分0°プリプレグ60Aは、シャフト本体60Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり、外層側の部分0°プリプレグ60Iは、シャフト本体60Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。
【0065】
プリプレグ60B〜60Hは、シャフト本体60Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ60B〜60Hは、マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように、大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。
【0066】
プリプレグ60B、60Cは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対の全長バイアスプリプレグである。プリプレグ60D、60Eは、繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対の全長バイアスプリプレグである。プリプレグ60F、60G、60Hは、繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす全長0°プリプレグである。
【0067】
金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約122.5g)に占める一対の全長バイアスプリプレグ60B、60Cと一対の全長バイアスプリプレグ60D、60Eの重量(約78.0g)の割合は約63.7%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約109.2g)に占める一対の全長バイアスプリプレグ60B、60Cと一対の全長バイアスプリプレグ60D、60Eの重量(約78.0g)の割合は約71.4%である。
【0068】
≪テスターによる試打結果≫
本発明者らは、第2実施形態のゴルフクラブシャフト20と比較例2のゴルフクラブシャフト60を実際に作製し、ゴルフ上級者である5名のテスターA、B、C、D、Eによる各10球(1本のゴルフクラブシャフトで各10球)の試打試験を実行した。その結果を図7(A)、(B)に示す。図7(A)、(B)は、打球時のヘッドスピード[m/s]、ボールスピード[m/s]、打出し角度[deg]、バックスピン[rpm]、最大高さ[yds]、飛距離[yds]の平均値とばらつきを示している。図7(B)のばらつきは、10球の試打試験における各種パラメータの最大値から最小値を減じた値である。
【0069】
図7(A)に示すように、打球時の各種パラメータの平均値については、第2実施形態のゴルフクラブシャフト20と比較例2のゴルフクラブシャフト60で大きな差は見られない。図7(B)に示すように、比較例2のゴルフクラブシャフト60よりも第2実施形態のゴルフクラブシャフト20の方が、打球時の各種パラメータのばらつきが小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブは、ゴルフの産業分野に用いて好適である。
【符号の説明】
【0071】
10 20 30 40 ゴルフクラブシャフト
10S 20S 30S 40S シャフト本体
10A 10H 部分0°プリプレグ
10B 10C 第1の全長バイアスプリプレグ対
10D 10E 第2の全長バイアスプリプレグ対
10F 10G 第3の全長バイアスプリプレグ対
20A 20J 部分0°プリプレグ
20B 20C 第1の全長バイアスプリプレグ対
20D 20E 第2の全長バイアスプリプレグ対
20F 20G 第3の全長バイアスプリプレグ対
20H 20I 第4の全長バイアスプリプレグ対
30A 30H 部分バイアスプリプレグ
30B 30C 第1の全長バイアスプリプレグ対
30D 30E 第2の全長バイアスプリプレグ対
30F 30G 第3の全長バイアスプリプレグ対
40A 40J 部分バイアスプリプレグ
40B 40C 第1の全長バイアスプリプレグ対
40D 40E 第2の全長バイアスプリプレグ対
40F 40G 第3の全長バイアスプリプレグ対
40H 40I 第4の全長バイアスプリプレグ対
M 金属円筒(重量付加用筒状体)
【要約】
シャフト本体の層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑えることができるゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブを得る。
強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体を有するゴルフクラブシャフトにおいて、前記シャフト本体の全長に亘る全長層として、繊維方向が前記シャフト本体の長手方向に対して±(25°±3°)をなす全長バイアスプリプレグ対のみが複数対設けられていることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7