特許第5964543号(P5964543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964543
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ボロメータ型テラヘルツ波検出器
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   G01J1/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-136499(P2010-136499)
(22)【出願日】2010年6月15日
(65)【公開番号】特開2012-2603(P2012-2603A)
(43)【公開日】2012年1月5日
【審査請求日】2013年5月15日
【審判番号】不服2015-10099(P2015-10099/J1)
【審判請求日】2015年6月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/ICTによる安全・安心を実現するためのテラヘルツ波技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】倉科 晴次
(72)【発明者】
【氏名】小田 直樹
【合議体】
【審判長】 郡山 順
【審判官】 ▲高▼橋 祐介
【審判官】 藤田 年彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−241438(JP,A)
【文献】 特開2002−340684(JP,A)
【文献】 特開2005−116856(JP,A)
【文献】 特開2009−216558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/02 - 1/04 , G01J 1/42 , G01J 5/02 , G01J 5/20 - 5/26 , G01J 5/48 , G01N 21/35 , G01R 29/08 , H01C 7/02 - 7/22 , H01L 27/14 - 27/148 , H01L 31/00 - 31/0232 , H01L 31/08 - 31/09 , H01L 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、前記電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部および該温度検出部の周縁部から内側と外側に延びて形成された庇が、前記基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
該庇のうち該温度検出部の周縁部から内側に延びて形成された庇の一部に1個または複数の穴を有し、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、
前記内側及び外側に延びて形成された庇の表面が略同一平面上に位置し、前記内側及び外側に延びて形成された庇の表面、裏面あるいは内部のみに前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、
前記反射膜と前記吸収膜とで光学的共振構造が形成されることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項2】
基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、前記電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部および該温度検出部の周縁部から内側と外側に延びて形成された庇が、前記基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
該庇のうち該温度検出部の周縁部から内側に延びて形成された庇の一部に複数の穴を有し、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、
前記内側及び外側に延びて形成された庇の表面が略同一平面上に位置し、前記内側及び外側に延びて形成された庇の表面、裏面あるいは内部に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、
前記反射膜と前記吸収膜とで光学的共振構造が形成されることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項3】
前記温度検出部の周縁部から内側に延びて形成された庇と外側に延びて形成された庇とは、前記基板からの距離が等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項4】
前記反射膜と前記吸収膜との間隔は、15μmを上限とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のボロメータ型THz波検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、THz周波数帯の電磁波(THz波)を検出する検出器に関し、特に、ボロメータ型THz波検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光と電波の狭間にあるテラヘルツ周波数帯の電磁波(すなわち、周波数が1012Hz、波長が略30μm〜1mmの電磁波、以下、THz波と呼ぶ。)が、物質の情報を直接反映する電磁波として注目されている。THz波の検出のため、熱分離構造を有するボロメータ型赤外線検出器の技術が応用されている。その従来例として、ボロメータ型THz波検出器があり、特開2008−241438号公報やSPIEの論文(小田等、Proceedings of SPIE,Vol.6940 (2008年)頁69402Y-1から69402Y-12)に記載されている。
【0003】
図6に従来の2次元ボロメータ型THz検出器の画素構造を示す。ボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部(ダイアフラム)14が中空に保持され(エアギャップ15)、ボロメータ薄膜7の両端部には電極配線9が接続されている。温度検出部14の周囲には、温度検出部14の周囲に入射するTHz波を吸収できるようにするための庇12が形成されている。同庇にも吸収膜11が形成されている。
【0004】
この従来技術の画素構造の特徴は、反射膜と温度検出部の間隔(エアギャップ)並びに反射膜と庇の間隔が赤外線の波長を基準にして設定されていること、且つ、温度検出部のシート抵抗が10〜100Ω/squareに設定されていることである。このことにより、ボロメータ型赤外線検出器アレイセンサの構造をほぼ保った状態で、吸収膜を追加することだけでTHz波の感度、例えば3THz(波長100μm)において約6倍の感度向上を達成することができた(小田等、Proceedings of SPIE, Vol.6940 (2008年)頁69402Y-1から69402Y-12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241438号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】小田等、Proceedings of SPIE,Vol.6940 (2008年)頁69402Y-1から69402Y-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来技術(特開2008−241438号公報)の画素構造において、赤外線の波長を基準にして、反射膜と温度検出部上の吸収膜の間隔(エアギャップ)並びに反射膜と庇上の吸収膜の間隔を各々1.5μm(占有率%)と3.0μm(占有率%)に設定した場合、テラヘルツ波に対する同画素構造の吸収率は、前述のように、同吸収膜がない場合に比べて非常に向上したが、まだ小さい。モデル計算を用いて、このことを次に説明する。
【0008】
同画素構造の感度は、温度検出部と庇の総合吸収率に比例する。図6の画素構造を、図7に示すように、簡略的に温度検出部(ダイアフラム)(領域 I)と庇(領域 II)に分け、反射膜とのエアギャップを各々d1、d2、各領域の占有率を各々β1,β2とする。温度検出部(ダイアフラム)と庇の上に成膜する吸収膜のシート抵抗をσ、反射膜のシート抵抗をσとすると、P. A. Silberg(Journal of Optical Society of America, vol.47 (1957) pp.575-578)の式を用いて、画素構造の総合吸収率(η)は、次のように表わされる。
【0009】
【数1】
【0010】
図8に、波長λ=70,100,150,300μmでの総合吸収率と吸収膜のシート抵抗の関係を示す。同図の場合、領域 Iと領域 IIの占有率は、各々50%と30%である。同図を見て分かるように、従来技術の場合、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmにおける総合吸収率の最大値は、各々22%、17%、12%および6%と小さい。
【0011】
なお、窒化ケイ素の吸収率については、Q.Hu等の講演資料(”Real-time THz Imaging Using Quantum-cascade Lasers and Focal-plane Array Cameras”, 2nd International Workshop on Quantum Cascade Lasers, September 6-9 (2006))に記載されており、それを図9に示す。同図を見て分かるように、窒化ケイ素は、波長50μm以上でほぼ透明になる。従って、この波長領域では、SPIEの論文(小田等、Proceedings of SPIE, Vol.6940 (2008年)頁69402Y-1から69402Y-12)の式を用いて(干渉効果による吸収)、ボロメータ型テラヘルツ波検出器が有する熱分離構造の吸収率を計算することができる。但し、波長50μm以下では窒化ケイ素自身の吸収が大きくなるため、干渉効果による吸収ではなく温度検出部の主な構造材料である窒化ケイ素自身による吸収が寄与することを念頭に置く必要がある。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、主たる目的は高感度ボロメータ型THz波検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、前記電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部および該温度検出部の周縁部から内側と外側に延びて形成された庇が、前記基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、該庇のうち該温度検出部の周縁部から内側に延びて形成された庇の一部に1個または複数の穴を有し、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記庇の表面、裏面あるいは内部に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記吸収膜とで光学的共振構造が形成されることを特徴とする。
【0014】
このように本発明では、該温度検出部の周縁部から内側と外側に延びる庇を形成すると共に、内側に延びて形成された庇の一部に1個または複数の穴を形成し、その庇の表面、裏面あるいは内部に吸収膜を形成することにより、後述するように、従来技術より感度向上を実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のボロメータ型テラヘルツ波検出器を用いると、従来技術の問題点(例えば、波長70μmでの熱分離構造の総合吸収率は22%程度、波長300μmでの総合吸収率は6%程度と低い。)を解決することができる。
【0016】
つまり、本発明の適用により、波長70μmでの総合吸収率を34%に、波長300μmでの総合吸収率を9%に増やすことができる。これを感度に換算すると、約1.5倍の向上に対応する。このように、本発明の適用により、従来技術で得られる感度に比べ約1.5倍の感度向上が達成される。
【0017】
また、仮にエアギャップd2を10μmとすると、波長70μmでの総合吸収率を65%に、波長300μmでの総合吸収率を34%に増やす事ができる。これを感度換算すると従来例に比べ、波長70μmで約3倍、波長300μmで約5.5倍とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型テラヘルツ波検出器の総合吸収率のシート抵抗依存性(エアギャップd1=1.5μm(領域 I:占有率β1=0%)とd2=3.0μm(領域 II:占有率β2=80%)の場合):波長70μm、100μm、150μmおよび300μm)を示す図である。
図3】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型テラヘルツ波検出器の総合吸収率のシート抵抗依存性(エアギャップd1=1.5μm(領域 I:占有率β1=0%)とd2=10μm(領域 II:占有率β2=80%)の場合):波長70μm、100μm、150μmおよび300μm)を示す図である。
図5】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型テラヘルツ波検出器の総合吸収率のエアギャップd2依存性(シート抵抗:100Ω/□、エアギャップd1=1.5μm(領域 I:占有率β1=0%)とd2=3〜25μm(領域 II:占有率β2=80%)の場合):波長70μm、100μm、150μmおよび300μm)を示す図である。
図6】従来例のボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を模式的に示す断面図である。
図7】従来例の図6を簡略化したモデルを示す図である。
図8】従来例のボロメータ型テラヘルツ波検出器の総合吸収率のシート抵抗依存性(エアギャップd1=1.5μm(領域 I:占有率β1=50%)とd2=3.0μm(領域 II:占有率β2=30%)が混在する場合):波長70μm、100μm、150μmおよび300μm)を示す図である。
図9】窒化ケイ素の吸収特性)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
背景技術で示したように、ボロメータ型赤外線検出器の構造を基本として、温度検出部の周縁部から外側に延びる庇を形成し、温度検出部上及び庇上に吸収膜を形成して感度を向上させたボロメータ型THz検出器が提案されているが、この構造では、基板上の反射膜と温度検出部の間隔(エアギャップd1)と、基板上の反射膜と庇の間隔(エアギャップd2)とが異なるため、画素全体で均一な光学的共振構造を形成することができず、感度を十分に向上させることができない。そこで、本発明の一実施の形態では、更なる感度の向上を図った構造を提案する。
【0020】
すなわち、基板に形成された読出回路に接続される電気配線を含む支持部により、電気配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、基板から浮いた状態で支持される熱分離構造を有し、基板上の温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成されたボロメータ型THz波検出器において、温度検出部の周縁部から内側と外側に延びる庇を形成すると共に周縁部から内側に延びる庇に少なくとも1つの穴を設け、更に、庇の表面、裏面あるいは内部にTHz波を吸収する吸収膜を形成し、基板上の反射膜と庇上の吸収膜とで光学的共振構造が形成されるようにする。以下、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
上記実施形態について更に詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本実施例のボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を示す図であり、図2は、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmに対する同画素構造の総合吸収率のシート抵抗依存性を示す図である。
【0022】
図1に示す本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10からなる温度検出部(ダイアフラム)14が回路基板2から浮いた状態で支持され(エアギャップ15、図7のエアギャップd1)、ボロメータ薄膜7の両端部には電極配線9が接続されている。
【0023】
温度検出部14の上部及び周囲には、該温度検出部14の周縁部から内側と外側に延びる庇12が形成され、温度検出部14及び回路基板2から浮いた状態で支持されており(内側及び外側共に、図7のエアギャップd2)、庇12の表面、裏面若しくは内部に吸収膜11が形成されている。更に、温度検出部14上部には、庇12及び吸収膜11を貫通する穴16が形成されている。なお、穴16は、庇12を形成する際の土台となる犠牲層をエッチングする為のエッチングホールであり、図1では温度検出部14の中央に1つ形成しているが、穴16の数や位置、大きさ、形状等は特に限定されず、各画素に少なくとも1つ備えていればよい。
【0024】
本実施例(図1)では、画素数320x240、画素ピッチ23.5μmのボロメータ型非冷却アレイセンサを用いた。第2〜4保護膜(6,8,10)に窒化ケイ素を用い厚みを350nmとし、ボロメータ薄膜7に酸化バナジウム薄膜を60nm形成し、電極配線9と吸収膜11にTiAlVを用いた。電極配線9のTiAlVの厚みは70nm、吸収膜11のTiAlVの厚みは、シート抵抗100Ω/squareの場合20nmに、シート抵抗200Ω/squareの場合10nmに設定した。
【0025】
同図の画素構造では、エアギャップd1=1.5μmの領域 Iの占有率β1は約0%、一方エアギャップd2=3.0μmの領域 IIの占有率β2は約80%である。この場合、同画素構造の総合吸収率のシート抵抗依存性は、前述の計算式を用いると、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmに対して図2のように表される。同図を見て分るように、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmにおける総合吸収率の最大値は、各々34%、24%、18%および9%となる。これらの値は十分に大きいとは言えないが、従来例の値と比べ、総合吸収率が約1.5倍改善されている。感度は総合吸収率に比例するので、本実施例の画素構造により従来の感度に比べ約1.5倍増加することが分る。
【0026】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について概説する。
【0027】
まず、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、スパッタ法によりAl、Ti等の金属を500nm程度の膜厚で成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、各画素の温度検出部14に入射するTHz波を反射するための反射膜3及び電極配線9と読出回路2aとを接続するためのコンタクト4を形成する。なお、上記金属はTHz波の反射率が高く、電気抵抗が小さい材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0028】
次に、回路基板2全面に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO)、シリコン窒化膜(SiN、Si)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、反射膜3及びコンタクト4を保護する第1保護膜5を形成する。
【0029】
次に、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、コンタクト4及び画素間の領域が露出するように露光・現像を行った後、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、後に形成する第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10の厚みを考慮して、反射膜3と温度検出部14との間隔が赤外線の波長の略1/4程度(本実施例では1.5μm)になるように設定する。
【0030】
次に、犠牲層の上に、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を100〜500nm程度の膜厚で成膜し、第2保護膜6を形成する。
【0031】
次に、第2保護膜6の上に、酸素雰囲気の反応性スパッタにより酸化バナジウム(V、VOなど)を60nm程度の膜厚で堆積し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14となる部分にボロメータ薄膜7を形成する。なお、ここではボロメータ薄膜7として酸化バナジウムを用いているが、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の大きい他の材料を用いることもできる。
【0032】
次に、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を50nm程度の膜厚で成膜し、ボロメータ薄膜7を保護する第3保護膜8を形成する。その後、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。
【0033】
次に、スパッタ法によりTiAlVを70nm程度の膜厚で成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、電極配線9を形成する。この電極配線9はコンタクト4を介してボロメータ薄膜7と回路基板2内の読出回路2aとを電気的に接続すると共に、ボロメータ薄膜7を中空に保持する支持部13としての役割を果たす。なお、電極配線9の材料はTiAlVに限らず、Al、Cu、Au、Ti、W、Moなどの金属を用いることもができる。
【0034】
次に、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を100〜500nm程度の膜厚で成膜し、電極配線9を保護する第4保護膜10を形成する。
【0035】
次に、四フッ化メタン、六フッ化エタン、トリフルオロメタンなどのフッ素系ガス、もしくはこれらのガスと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層上の所定の領域にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させる。
【0036】
次に、回路基板2全面に感光性ポリイミドを塗布し、温度検出部14の周縁部が露出するように露光・現像を行った後、熱処理を施して、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層を形成する。犠牲層の厚さは、例えば、3μm程度である。
【0037】
次に、シリコン窒化膜を200〜600nm程度の膜厚で形成して庇12を形成した後、スパッタ法によりTiAlVを成膜して庇12上に吸収膜11を形成する。その際、庇12及び吸収膜11のシート抵抗が所望の値となるように膜厚を設定する。この吸収膜11はTHz波を効率的に吸収する役割を果たす。なお、吸収膜11の材料はTiAlVに限らず、シート抵抗を所望の値に設定可能な材料であればよい。また、吸収膜11は反射膜3と対向するように配置されていればよく、庇12の表面、裏面あるいは内部にあってもよい。
【0038】
その後、温度検出部14上部及び隣接する画素間に庇12及び吸収膜11を貫通するスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、Oガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層及び第2犠牲層を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0039】
なお、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10の材料はシリコン窒化膜に限定されず、シリコン酸化膜やシリコン酸窒化膜などを用いることができ、その膜厚も適宜設定可能である。
【0040】
また、犠牲層をポリシリコンやAlで構成することもできる。ポリシリコンを用いる場合は、例えば、ヒドラジンやテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いたウェットエッチング、XeFプラズマを用いたドライエッチング等により犠牲層を除去することができる。また、Alを用いる場合は、例えば、塩酸やホットリン酸を用いたウェットエッチングにより犠牲層を除去することができる。
【0041】
また、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。シリコン窒化膜を犠牲層とする場合は、例えば、ホットリン酸を用いたウェットエッチングで除去することができ、シリコン酸化膜を犠牲層とする場合は、例えば、弗酸を用いたウェットエッチングで除去することができる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図3乃至図5を参照して説明する。図3は、本実施例のボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を示す図であり、図4は、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmに対する同画素構造の総合吸収率のシート抵抗依存性を示す図である。また、図5は、波長30μm(周波数10THz)から300μm(1THz)までの各波長における、総合吸収率のエアギャップd2依存性を示す図である。
【0043】
図3に示す本実施例のボロメータ型テラヘルツ波検出器は、第1の実施例(図1)のエアギャップd1を変えずにエアギャップd2をより広くした構造である。エアギャップd1を大きくする事は、読出回路と温度検出部とを接続する電極配線がエアギャップd1に相当する大きな段差を跨いで形成される必要があり、一般に大きな段差に電極配線を形成する事は断線などが生じやすくなる。図3の構造はエアギャップd1を第1の実施例と同じにしており、即ち温度検知部を形成するまでの製造工程について全く変更する必要が無く、電極配線の断線の心配がない。
【0044】
計算例として、領域 IIの占有率β2=80%、エアギャップd2=10μmとした場合の、総合吸収率のシート抵抗依存を図4に示す。図4より、波長70μm、100μm、150μm及び300μmにおける総合吸収率の最大値は、各々65%、62%、55%および34%となる。波長にも依るが、例えば300μmの場合、従来例と比べ総合吸収率が約5.5倍改善されている。
【0045】
次にエアギャップd2について考察する。図5に波長30μm(周波数10THz)から300μm(1THz)までの各波長における、総合吸収率のエアギャップd2依存性を示す。同図より、波長30μmの場合、エアギャップ15μmで大きく吸収率が低下している。実際には、図9に示したように窒化ケイ素の吸収率が大きいため、図5の様に極端に吸収率が低下する事はないが、エアギャップd2の上限は15μmとなる。
【0046】
なお、上記各実施例では、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する場合について述べたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、他の波長帯の電磁波に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、THz波を検出する検出器に利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ボロメータ型テラヘルツ(THz)波検出器
2 回路基板
2a 読出回路
3 反射膜
4 コンタクト
5 第1保護膜
6 第2保護膜
7 ボロメータ薄膜
8 第3保護膜
9 電極配線
10 第4保護膜
11 吸収膜
12 庇
13 支持部
14 温度検出部(ダイアフラム)
15 エアギャップ
16 穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9