【実施例1】
【0021】
上記実施形態について更に詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本実施例のボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を示す図であり、
図2は、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmに対する同画素構造の総合吸収率のシート抵抗依存性を示す図である。
【0022】
図1に示す本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10からなる温度検出部(ダイアフラム)14が回路基板2から浮いた状態で支持され(エアギャップ15、
図7のエアギャップd
1)、ボロメータ薄膜7の両端部には電極配線9が接続されている。
【0023】
温度検出部14の上部及び周囲には、該温度検出部14の周縁部から内側と外側に延びる庇12が形成され、温度検出部14及び回路基板2から浮いた状態で支持されており(内側及び外側共に、
図7のエアギャップd
2)、庇12の表面、裏面若しくは内部に吸収膜11が形成されている。更に、温度検出部14上部には、庇12及び吸収膜11を貫通する穴16が形成されている。なお、穴16は、庇12を形成する際の土台となる犠牲層をエッチングする為のエッチングホールであり、
図1では温度検出部14の中央に1つ形成しているが、穴16の数や位置、大きさ、形状等は特に限定されず、各画素に少なくとも1つ備えていればよい。
【0024】
本実施例(
図1)では、画素数320x240、画素ピッチ23.5μmのボロメータ型非冷却アレイセンサを用いた。第2〜4保護膜(6,8,10)に窒化ケイ素を用い厚みを350nmとし、ボロメータ薄膜7に酸化バナジウム薄膜を60nm形成し、電極配線9と吸収膜11にTiAlVを用いた。電極配線9のTiAlVの厚みは70nm、吸収膜11のTiAlVの厚みは、シート抵抗100Ω/squareの場合20nmに、シート抵抗200Ω/squareの場合10nmに設定した。
【0025】
同図の画素構造では、エアギャップd
1=1.5μmの領域 Iの占有率β
1は約0%、一方エアギャップd
2=3.0μmの領域 IIの占有率β
2は約80%である。この場合、同画素構造の総合吸収率のシート抵抗依存性は、前述の計算式を用いると、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmに対して
図2のように表される。同図を見て分るように、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmにおける総合吸収率の最大値は、各々34%、24%、18%および9%となる。これらの値は十分に大きいとは言えないが、従来例の値と比べ、総合吸収率が約1.5倍改善されている。感度は総合吸収率に比例するので、本実施例の画素構造により従来の感度に比べ約1.5倍増加することが分る。
【0026】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について概説する。
【0027】
まず、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、スパッタ法によりAl、Ti等の金属を500nm程度の膜厚で成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、各画素の温度検出部14に入射するTHz波を反射するための反射膜3及び電極配線9と読出回路2aとを接続するためのコンタクト4を形成する。なお、上記金属はTHz波の反射率が高く、電気抵抗が小さい材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0028】
次に、回路基板2全面に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO
2)、シリコン窒化膜(SiN、Si
3N
4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、反射膜3及びコンタクト4を保護する第1保護膜5を形成する。
【0029】
次に、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、コンタクト4及び画素間の領域が露出するように露光・現像を行った後、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、後に形成する第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10の厚みを考慮して、反射膜3と温度検出部14との間隔が赤外線の波長の略1/4程度(本実施例では1.5μm)になるように設定する。
【0030】
次に、犠牲層の上に、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を100〜500nm程度の膜厚で成膜し、第2保護膜6を形成する。
【0031】
次に、第2保護膜6の上に、酸素雰囲気の反応性スパッタにより酸化バナジウム(V
2O
3、VO
Xなど)を60nm程度の膜厚で堆積し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14となる部分にボロメータ薄膜7を形成する。なお、ここではボロメータ薄膜7として酸化バナジウムを用いているが、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の大きい他の材料を用いることもできる。
【0032】
次に、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を50nm程度の膜厚で成膜し、ボロメータ薄膜7を保護する第3保護膜8を形成する。その後、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。
【0033】
次に、スパッタ法によりTiAlVを70nm程度の膜厚で成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、電極配線9を形成する。この電極配線9はコンタクト4を介してボロメータ薄膜7と回路基板2内の読出回路2aとを電気的に接続すると共に、ボロメータ薄膜7を中空に保持する支持部13としての役割を果たす。なお、電極配線9の材料はTiAlVに限らず、Al、Cu、Au、Ti、W、Moなどの金属を用いることもができる。
【0034】
次に、プラズマCVD法によりシリコン窒化膜を100〜500nm程度の膜厚で成膜し、電極配線9を保護する第4保護膜10を形成する。
【0035】
次に、四フッ化メタン、六フッ化エタン、トリフルオロメタンなどのフッ素系ガス、もしくはこれらのガスと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層上の所定の領域にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させる。
【0036】
次に、回路基板2全面に感光性ポリイミドを塗布し、温度検出部14の周縁部が露出するように露光・現像を行った後、熱処理を施して、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層を形成する。犠牲層の厚さは、例えば、3μm程度である。
【0037】
次に、シリコン窒化膜を200〜600nm程度の膜厚で形成して庇12を形成した後、スパッタ法によりTiAlVを成膜して庇12上に吸収膜11を形成する。その際、庇12及び吸収膜11のシート抵抗が所望の値となるように膜厚を設定する。この吸収膜11はTHz波を効率的に吸収する役割を果たす。なお、吸収膜11の材料はTiAlVに限らず、シート抵抗を所望の値に設定可能な材料であればよい。また、吸収膜11は反射膜3と対向するように配置されていればよく、庇12の表面、裏面あるいは内部にあってもよい。
【0038】
その後、温度検出部14上部及び隣接する画素間に庇12及び吸収膜11を貫通するスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、O
2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層及び第2犠牲層を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0039】
なお、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10の材料はシリコン窒化膜に限定されず、シリコン酸化膜やシリコン酸窒化膜などを用いることができ、その膜厚も適宜設定可能である。
【0040】
また、犠牲層をポリシリコンやAlで構成することもできる。ポリシリコンを用いる場合は、例えば、ヒドラジンやテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いたウェットエッチング、XeF
2プラズマを用いたドライエッチング等により犠牲層を除去することができる。また、Alを用いる場合は、例えば、塩酸やホットリン酸を用いたウェットエッチングにより犠牲層を除去することができる。
【0041】
また、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。シリコン窒化膜を犠牲層とする場合は、例えば、ホットリン酸を用いたウェットエッチングで除去することができ、シリコン酸化膜を犠牲層とする場合は、例えば、弗酸を用いたウェットエッチングで除去することができる。
【実施例2】
【0042】
次に、本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、
図3乃至
図5を参照して説明する。
図3は、本実施例のボロメータ型テラヘルツ波検出器の画素構造を示す図であり、
図4は、波長70μm、100μm、150μmおよび300μmに対する同画素構造の総合吸収率のシート抵抗依存性を示す図である。また、
図5は、波長30μm(周波数10THz)から300μm(1THz)までの各波長における、総合吸収率のエアギャップd
2依存性を示す図である。
【0043】
図3に示す本実施例のボロメータ型テラヘルツ波検出器は、第1の実施例(
図1)のエアギャップd
1を変えずにエアギャップd
2をより広くした構造である。エアギャップd
1を大きくする事は、読出回路と温度検出部とを接続する電極配線がエアギャップd
1に相当する大きな段差を跨いで形成される必要があり、一般に大きな段差に電極配線を形成する事は断線などが生じやすくなる。
図3の構造はエアギャップd
1を第1の実施例と同じにしており、即ち温度検知部を形成するまでの製造工程について全く変更する必要が無く、電極配線の断線の心配がない。
【0044】
計算例として、領域 IIの占有率β
2=80%、エアギャップd
2=10μmとした場合の、総合吸収率のシート抵抗依存を
図4に示す。
図4より、波長70μm、100μm、150μm及び300μmにおける総合吸収率の最大値は、各々65%、62%、55%および34%となる。波長にも依るが、例えば300μmの場合、従来例と比べ総合吸収率が約5.5倍改善されている。
【0045】
次にエアギャップd
2について考察する。
図5に波長30μm(周波数10THz)から300μm(1THz)までの各波長における、総合吸収率のエアギャップd
2依存性を示す。同図より、波長30μmの場合、エアギャップ15μmで大きく吸収率が低下している。実際には、
図9に示したように窒化ケイ素の吸収率が大きいため、
図5の様に極端に吸収率が低下する事はないが、エアギャップd
2の上限は15μmとなる。
【0046】
なお、上記各実施例では、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する場合について述べたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、他の波長帯の電磁波に対しても適用可能である。