(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。本実施形態の熱処理装置1では、レジスト膜などの薄膜が表面に形成された半導体ウェハーWにフラッシュ光照射を行って薄膜を加熱する。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0032】
熱処理装置1は、主たる構成として、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを保持する保持プレート7と、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射するフラッシュ照射部5と、チャンバー6とフラッシュ照射部5との間にフィルタ20を挿脱するフィルタ機構2と、を備えている。また、熱処理装置1は、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部8と、チャンバー6から排気を行う排気部9と、を備えている。さらに、熱処理装置1は、これらの各部を制御してフラッシュ光照射処理を実行させる制御部3を備える。
【0033】
チャンバー6は、フラッシュ照射部5の下方に設けられており、略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63、および、チャンバー側部63の下部を覆うチャンバー底部62によって構成される。また、チャンバー側部63およびチャンバー底部62によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。チャンバー6の上部開口にはチャンバー窓61が装着されて閉塞されている。
【0034】
チャンバー6の天井部を構成するチャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ照射部5から出射されたフラッシュ光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。チャンバー6の本体を構成するチャンバー底部62およびチャンバー側部63は、例えば、ステンレススチール等の強度と耐熱性に優れた金属材料にて形成されている。
【0035】
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、チャンバー窓61とチャンバー側部63とは図示省略のOリングによってシールされている。すなわち、チャンバー窓61の下面周縁部とチャンバー側部63との間にOリングを挟み込み、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。
【0036】
チャンバー側部63には、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66が設けられている。搬送開口部66は、図示を省略するゲートバルブによって開閉可能とされている。搬送開口部66が開放されると、図外の搬送ロボットによってチャンバー6に対する半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能となる。また、搬送開口部66が閉鎖されると、熱処理空間65が外部との通気が遮断された密閉空間となる。
【0037】
保持プレート7は、金属製(例えば、アルミニウム)の略円板形状の部材であり、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを載置して水平姿勢(主面の法線方向が鉛直方向に沿う姿勢)に保持する。
図2は、保持プレート7の構成を示す断面図である。保持プレート7は、ヒータ71および水冷管72を内蔵する。ヒータ71は、ニクロム線などの抵抗加熱線で構成されており、図外の電力供給源からの電力供給を受けて発熱し、保持プレート7を加熱する。水冷管72は、図外の冷却水供給源から供給された冷却水が流れることによって、保持プレート7を冷却する。
【0038】
ヒータ71および水冷管72はともに保持プレート7の内部に周回するように設けられている。ヒータ71および水冷管72は、少なくとも保持プレート7のうちの載置する半導体ウェハーWに対向する領域には均一な配設密度にて設けられている。このためヒータ71および水冷管72は、それぞれ当該領域を均一に加熱および冷却することができる。ヒータ71への電力供給量および水冷管72への冷却水供給量は制御部3によって制御される。
【0039】
また、保持プレート7の内部には熱電対を用いて構成された温度センサ73が配設されている。温度センサ73は保持プレート7の上面近傍の温度を測定する。温度センサ73による測定結果は制御部3に伝達される。なお、温度センサ73は、保持プレート7が載置する半導体ウェハーWに対向する領域に複数設けるようにしても良い。
【0040】
保持プレート7の上面には、アルミナ(Al
2O
3)等の部材から構成された複数個(本実施の形態では3個)のプロキシミティボール75が配設されている。3個のプロキシミティボール75は、その上端が保持プレート7の上面から微少量だけ突出する状態で配設されている。このため、3個のプロキシミティボール75によって半導体ウェハーWを支持したときには、半導体ウェハーWの裏面と保持プレート7の上面との間にいわゆるプロキシミティギャップと称される微小間隔が形成される。なお、保持プレート7の上面にサセプタを設置し、そのサセプタにて半導体ウェハーWを支持するようにしても良い。
【0041】
3個のプロキシミティボール75を介して保持プレート7に載置された半導体ウェハーWは、ヒータ71および水冷管72によって所定温度に温調される。すなわち、ヒータ71は保持プレート7に保持される半導体ウェハーWを加熱し、水冷管72は当該半導体ウェハーWを冷却し、その結果として半導体ウェハーWが所定温度に温調されることとなる。
【0042】
保持プレート7に保持した半導体ウェハーWを温調する際には、温度センサ73により計測される保持プレート7の温度が予め設定された所定の温度となるように、ヒータ71への電力供給量および水冷管72への冷却水供給量が制御部3によって制御される。すなわち、制御部3による保持プレート7の温度制御はフィードバック制御であり、より具体的にはPID(Proportional,Integral,Derivative)制御により行われる。
【0043】
本実施形態においては、加熱手段たるヒータ71および冷却手段たる水冷管72の双方を保持プレート7に設けているため、これらの協働によって保持プレート7に保持する半導体ウェハーWを室温から500℃程度までの広い範囲の温度に温調することができる。
【0044】
図1に戻り、保持プレート7には、その上面に出没する複数本(本実施の形態では3本)のリフトピン77が設けられている。3本のリフトピン77の上端高さ位置は同一水平面内に含まれる。3本のリフトピン77はエアシリンダ78によって一括して鉛直方向に沿って昇降される。各リフトピン77は、保持プレート7に上下に貫通して設けられた挿通孔の内側に沿って昇降する。エアシリンダ78が3本のリフトピン77を上昇させると、各リフトピン77の先端が保持プレート7の上面から突出する。また、エアシリンダ78が3本のリフトピン77を下降させると、各リフトピン77の先端が保持プレート7の挿通孔の内部に埋入する。
【0045】
熱処理空間65の上部であって、チャンバー窓61の直下には、吹き出しプレート68が設けられている。
図3は、吹き出しプレート68の平面図である。吹き出しプレート68は、石英にて形成された円板形状部材であり、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面に対向するように水平姿勢に設置されている。
図3に示すように、吹き出しプレート68には、多数の吐出孔69が穿設されている。具体的には、少なくとも保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面に対向する吹き出しプレート68の領域には均一な密度にて複数の吐出孔69が穿設されている。
【0046】
ガス供給部8は、チャンバー窓61と吹き出しプレート68との間に形成されたガス溜め空間67に処理ガスを供給する。本実施形態のガス供給部8は、不活性ガス供給部81および反応性ガス供給部84を有する。不活性ガス供給部81は、不活性ガス供給源82とバルブ83とを備えており、バルブ83を開放することによってガス溜め空間67に不活性ガスを供給する。また、反応性ガス供給部84は、反応性ガス供給源85とバルブ86とを備えており、バルブ86を開放することによってガス溜め空間67に反応性ガスを供給する。なお、不活性ガス供給源82および反応性ガス供給源85としては、熱処理装置1内に設けられた気体タンクと送給ポンプとで構成するようにしても良いし、熱処理装置1が設置される工場の用力を用い
るようにしても良い。
【0047】
ここで、「不活性ガス」は、半導体ウェハーWの材質およびその表面に形成された薄膜との反応性に乏しいガスであり、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などである。「反応性ガス」は、半導体ウェハーWの材質および表面に形成された薄膜との反応性に富むガスであり、酸素(O
2)、水素(H
2)、塩素(Cl
2)、水蒸気(H
2O)、塩化水素(HCl)、オゾン(O
3)、アンモニア(NH
3)などの他に臭素(Br)系化合物ガスやフッ素(F)系化合物ガスが該当する。また、処理の目的によっては、窒素は反応性ガスにもなり得る。さらに、反応性ガス供給部84からは、温度と湿度とが調節され、かつ、アンモニア成分が除去された加湿空気を供給するようにしても良い。本明細書においては、これら不活性ガスおよび反応性ガスを総称して処理のための「処理ガス」とする。
【0048】
ガス供給部8からガス溜め空間67に供給された処理ガスは吹き出しプレート68に穿設された複数の吐出孔69から下方に向けて吐出される。このときに、ガス溜め空間67における流体の通過抵抗は吐出孔69の通過抵抗よりも小さいため、ガス供給部8から供給された処理ガスは一旦ガス溜め空間67内を拡がるように流れてから複数の吐出孔69から均一に吐出されることとなる。また、複数の吐出孔69は、保持プレート7に保持された半導体ウェハーWに対向する領域には均一な密度にて設けられている。従って、吹き出しプレート68からは保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面全面に均等に処理ガスが吹き付けられることとなる。
【0049】
排気部9は、排気装置91およびバルブ92を備えており、バルブ92を開放することによって排気口93からチャンバー6内の雰囲気を排気する。排気口93は、保持プレート7を囲繞するようにチャンバー側部63に形成されたスリットである。排気口93が形成される高さ位置は、保持プレート7に保持される半導体ウェハーWと同じ高さ位置以下であり、半導体ウェハーWよりもやや下方が好ましい。保持プレート7を取り囲むように形成されたスリット状の排気口93から排気部9が排気を行うことによって、保持プレート7に保持される半導体ウェハーWの周囲から均等に気体の排出が行われることとなる。
【0050】
排気装置91としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気装置91として真空ポンプを採用し、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を真空雰囲気にまで減圧することができる。また、排気装置91として真空ポンプを用いていない場合であっても、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく排気を行うことにより、チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧することができる。
【0051】
フラッシュ照射部5は、チャンバー6の上方に設けられている。フラッシュ照射部5は、複数本(本実施形態では30本であるが、
図1では図示の便宜上8本のみ記載)のフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。フラッシュ照射部5は、チャンバー6内にて保持プレート7に保持される半導体ウェハーWに石英のチャンバー窓61および吹き出しプレート68を介してフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。
【0052】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持プレート7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0053】
本実施形態では、フラッシュランプFLとしてキセノンフラッシュランプを用いている。キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気が両端電極間の放電によってガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
【0054】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を保持プレート7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。
【0055】
フィルタ機構2は、チャンバー6およびフラッシュ照射部5の側方に設けられている。フィルタ機構2は、複数枚(本実施形態では5枚)のフィルタ20と、それら複数のフィルタ20を個別に進退移動させる進退機構部21と、進退機構部21を昇降させる昇降機構部22と、を備える。フィルタ機構2は、5枚のフィルタ20のうちのいずれかをチャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間に挿入する。
【0056】
複数枚のフィルタ20のそれぞれは、チャンバー窓61を覆う板状の光学フィルタである。各フィルタ20は、石英ガラスにバリウム(Ba)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、カドミウム(Cd)などの金属を溶解させて形成されるものであり、透過光から所定の波長域の光を反射または吸収することによってカットする。より詳細には、石英ガラスにバリウム、ヒ素、アンチモン、カドミウムからなる群より選択された少なくとも1以上の金属を溶解させて含有させる。溶解させる金属の種類に応じて、複数枚のフィルタ20は異なる波長域の光を遮光する。例えば、本実施形態の5枚のフィルタ20のそれぞれは300nm以下、350nm以下、400nm以下、450nm以下、500nm以下の波長域の光をカットする。
【0057】
一般に、紫外光とは波長が400nm以下となる電磁波であり、本実施形態の5枚のフィルタ20は主として紫外光をカットする。すなわち、300nm以下、350nm以下、400nm以下の波長域をカットするフィルタ20は、それぞれ300nm以下、350nm以下、400nm以下の波長域の紫外光をカットする。また、450nm以下、500nm以下の波長域をカットするフィルタ20は、それぞれ紫外光に加えて可視光の一部(紫から青)をもカットする。
【0058】
5枚のフィルタ20は個別に水平姿勢にて進退機構部21に連結されている。進退機構部21は、図示を省略する駆動機構を内蔵しており、その駆動機構によって5枚のフィルタ20を個別に水平方向に沿って進退移動させる。このような駆動機構としては、伸縮機構またはスライド駆動機構など、一方向に沿って進退移動させる公知の種々の機構を採用することができる。
【0059】
進退機構部21は昇降機構部22に連結されている。昇降機構部22は、図示を省略する昇降機構を内蔵しており、その昇降機構によって進退機構部21および5枚のフィルタ20を一括して昇降移動させる。このような昇降機構としては、送りネジまたはベルトを使用したスライド駆動機構など、鉛直方向に沿って昇降移動させる公知の種々の機構を採用することができる。
【0060】
進退機構部21および昇降機構部22によってフィルタ20をチャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間に挿入するフィルタ挿入機構が構成される。フィルタ機構2は、昇降機構部22によって5枚のフィルタ20を昇降し、それらのうちのいずれかをチャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間と等しい高さ位置に移動させる。そして、フィルタ機構2は、進退機構部21によって当該フィルタ20を前進させてチャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間に挿入する。
【0061】
また、チャンバー6およびフラッシュ照射部5の側方には、温調機構40が設けられている。温調機構40は、チャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間に挿入されたフィルタ20に温調用ガスを吹き付ける。温調用ガスとしては、例えば所定温度に温調された空気を用いれば良いが、冷却能に優れたヘリウム、アルゴンなどを用いるようにしても良い。
【0062】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0063】
次に、上記構成を有する熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。
図4は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。また、
図5は、半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0064】
まず、図示省略のゲートバルブが開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される(ステップS1)。ここで処理対象となる半導体ウェハーWは、表面にフォトレジストの薄膜(レジスト膜)が形成されてパターン露光処理が行われた直後の半導体基板である。
【0065】
レジスト膜の形成は、例えば半導体ウェハーWを回転させつつ、その回転中心にフォトレジストの塗布液を吐出し、遠心力によって塗布液を拡布することによって半導体ウェハーWの表面にフォトレジストの薄膜を形成するいわゆるスピンコート法によって行えば良い。なお、本実施形態では、フォトレジストとしては化学増幅型レジストを用いる。
【0066】
表面にレジスト膜が形成された半導体ウェハーWに加熱処理(塗布後ベーク処理)を行うことによってレジスト膜が焼成される。さらに、その半導体ウェハーWに対してパターン露光処理が行われる。本実施形態では、化学増幅型レジストを使用しているため、半導体ウェハーW上に形成されたレジスト膜のうち露光された部分では光化学反応によって酸が生成する。これらのレジスト塗布処理、塗布後ベーク処理およびパターン露光処理は、いずれも本発明に係る熱処理装置1とは別の装置にて行われる。そして、パターン露光処理が終了した直後の半導体ウェハーWが熱処理装置1のチャンバー6に搬入される。
【0067】
表面にレジスト膜が形成されてパターン露光処理が終了した半導体ウェハーWを保持した搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入し、保持プレート7の直上にて停止する。続いて、3本のリフトピン77が上昇してハンドから半導体ウェハーWを受け取る。
図5に示す時刻t1は、リフトピン77が半導体ウェハーWを受け取った時刻である。その後、搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出するとともに、搬送開口部66が閉鎖されることによりチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0068】
次に、フィルタ機構2が有する複数枚のフィルタ20のうちから適切なフィルタ20を選択してチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置する(ステップS2)。設置すべき適切なフィルタ20は、処理対象となる半導体ウェハーWの種類および熱処理の目的に基づいて規定される。なお、半導体ウェハーWの種類には、その表面に形成されている膜の相違をも含む。本実施形態では、半導体ウェハーWの表面に化学増幅型のレジスト膜が形成され、熱処理装置1にて露光後ベーク処理が行われる。化学増幅型レジストは、露光強度が比較的弱いKrFエキシマレーザ(波長248nm)またはArFエキシマレーザ(波長193nm)を用いたパターン露光処理に対応したフォトレジストである。従って、熱処理装置1における露光後ベーク処理時に、フラッシュランプFLから波長300nm以下の紫外域を含むフラッシュ光が照射されると、レジスト膜がフラッシュ光によって感光され、パターン形成を阻害するおそれがある。
【0069】
図6は、キセノンフラッシュランプFLの放射分光分布を示す図である。同図に示すように、キセノンフラッシュランプFLから出射されるフラッシュ光には、波長300nm以下の紫外光も含まれる。従って、フラッシュ光をそのまま半導体ウェハーWに照射するとレジスト膜が感光されるため、フラッシュ光から波長300nm以下の紫外域の光をカットするのが望ましい。
【0070】
一方、
図6の放射分光分布において、強度が比較的高いのは波長300nm以上の波長域であり、特に400nm〜500nmの波長域が最も高い帯域である。従って、フラッシュ光照射による加熱処理効率の観点からは、波長400nm以上の波長域の光を利用するのが望ましく、可能であれば300nm以上の波長域の光を利用するのが好ましい。
【0071】
本実施形態においては、これらの点を総合的に考慮し、フィルタ機構2が有する5枚のフィルタ20のうちから300nm以下の波長域の紫外光をカットするフィルタ20を選択する。具体的には、熱処理装置1における処理のフローおよび条件を記述したレシピに300nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を予め指定しておく。この指定は、例えば制御部3に設けられた入力部を介して熱処理装置1のオペレータが行えば良い。
【0072】
制御部3は、レシピの記述に基づいて、指定された300nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20がチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置されるようにフィルタ機構2を制御する。フィルタ機構2は、制御部3の制御下にて、昇降機構部22によって5枚のフィルタ20を一括して昇降し、300nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20をチャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間と等しい高さ位置に移動させる。そして、フィルタ機構2は、進退機構部21によって当該フィルタ20を前進させてチャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間に挿入する。これにより、チャンバー6内の保持プレート7とフラッシュ照射部5のフラッシュランプFLとの間に、300nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20が設置される。
【0073】
また、熱処理空間65が密閉空間とされた後、チャンバー6内の雰囲気が調整される(ステップS3)。本実施形態においては、ガス供給部8からチャンバー6内に加湿された空気を供給するとともに、排気部9がチャンバー6からの排気を行う。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65が加湿空気雰囲気となる。なお、ステップS1からステップS3の順序は必ずしも
図4の例に限定されるものではなく、例えば、半導体ウェハーWの搬入前にフィルタ20を設置するようにしても良いし、先行してチャンバー6内を加湿空気雰囲気としても良い。
【0074】
次に、半導体ウェハーWを支持する3本のリフトピン77が下降して保持プレート7の挿通孔の内部に埋入する。リフトピン77が下降する過程において、
図5の時刻t2にて半導体ウェハーWはリフトピン77から保持プレート7の上面に渡され、その上面に載置・保持される。
【0075】
保持プレート7は、ヒータ71および水冷管72によって予め所定温度に温調されている。保持プレート7の温調温度T1は、半導体ウェハーWの種類および熱処理の目的に応じて適宜の温度とすることができる。温調温度T1は、常温であっても良い。制御部3は、温度センサ73の測定結果に基づいて、保持プレート7の温度がその温調温度T1となるようにヒータ71への電力供給量および水冷管72への冷却水供給量を制御する。これにより、保持プレート7の上面の温度も当該温調温度T1に維持されることとなる。
【0076】
リフトピン77が下降して半導体ウェハーWが所定温度に温調された保持プレート7に載置されることにより、時刻t2からその半導体ウェハーWに対する保持プレート7(厳密にはヒータ71および水冷管72)による温調が開始される(ステップS4)。これにより、半導体ウェハーWの温度が所定の温調温度T1に正確に温調されて維持されることとなる。なお、
図5では、温調温度T1を常温(RT)とは異なる温度として記載しているが、本実施形態のように露光後ベーク処理を行うときには温調温度T1を常温とし、半導体ウェハーWを常温に正確に維持するようにしても良い。
【0077】
半導体ウェハーWが保持プレート7に載置・保持されてから所定時間待機する(ステップS5)。この間に表面に形成されたレジスト膜を含む半導体ウェハーWの全体が温度T1に正確に温調される。そして、時刻t2にリフトピン77が下降して半導体ウェハーWの温調が開始されてから所定時間が経過した時刻t3に、制御部3の制御によりフラッシュ照射部5のフラッシュランプFLから保持プレート7に保持された半導体ウェハーWへ向けてフラッシュ光が照射される(ステップS6)。
【0078】
フラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光(リフレクタ52によって反射されたフラッシュ光を含む)は、チャンバー6とフラッシュ照射部5との間の空間に挿入されたフィルタ20を透過した後にチャンバー6内に入射する。本実施形態では、300nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20がチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置されているため、フラッシュ光がフィルタ20を透過するときに300nm以下の波長域の光がカットされる。その結果、チャンバー6内の熱処理空間65には、300nm以下の波長域の紫外光がカットされたフラッシュ光が入射されることとなる。そして、このフラッシュ光が保持プレート7に保持された半導体ウェハーWの表面に照射され、当該表面に形成されたレジスト膜が加熱される。
【0079】
フラッシュランプFLから出射されるフラッシュ光は、予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。フラッシュランプFLからフラッシュ光が照射された半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に処理温度T2にまで上昇し、その後急速に温調温度T1にまで下降する。このようなフラッシュ加熱によって、パターン露光時の光化学反応によって化学増幅型レジストの膜中に生じた活性種を酸触媒としてレジスト樹脂の架橋・重合等の連鎖反応を進行させる。これにより、レジスト膜の現像液に対する溶解度を露光部分のみ局所的に変化させる露光後ベーク処理が行われる。すなわち、本実施形態においては、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度を瞬間的に昇温して露光後ベーク処理を行っている。なお、フラッシュ光が照射されて半導体ウェハーWの表面温度が昇温を開始した時刻t3から温調温度T1にまで降温した時刻t4までの時間は1秒以下である。
【0080】
また、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光からは300nm以下の波長域の光がカットされている。このため、フラッシュ光照射に起因した化学増幅型レジスト膜の感光を防止することができる。その一方、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光には強度が比較的高い波長300nmよりも長波長側の光はそのまま含まれている。従って、露光後ベーク処理に必要なエネルギーは確保することができ、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2にまで昇温することができる。
【0081】
フラッシュ光照射による露光後ベーク処理が終了した後、半導体ウェハーWが保持プレート7に保持されたまま所定時間待機する(ステップS7)。この間、ベーク処理後のレジスト膜を含む半導体ウェハーWの全体が温調温度T1に維持されている。すなわち、フラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する前後双方において、半導体ウェハーWを所定の温調温度T1に維持するように制御部3が保持プレート7のヒータ71への電力供給量および水冷管72への冷却水供給量を制御する。これにより、半導体ウェハーWが温調温度T1に正確に維持されつつフラッシュ光照射が行われるため、異なる複数の半導体ウェハーW間での温度履歴を均一にすることができる。また、フラッシュ光を照射する前後にわたって、チャンバー6内は加湿空気雰囲気とされている。
【0082】
やがて、所定時間が経過して時刻t5に到達した時点にて、3本のリフトピン77が上昇し、保持プレート7に載置されていた半導体ウェハーWを突き上げて保持プレート7から離間させる(ステップS8)。半導体ウェハーWが保持プレート7から離間することによって、保持プレート7による半導体ウェハーWの温調が終了する。なお、半導体ウェハーWに対する温調が開始された時刻t2から温調が終了する時刻t5までの時間(温調時間)は数十秒程度である。
【0083】
その後、搬送開口部66が再び開放され、搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入して半導体ウェハーWの直下で停止する。続いて、リフトピン77が下降することによって、時刻t6にて半導体ウェハーWがリフトピン77から搬送ロボットに渡される。そして、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより、半導体ウェハーWがチャンバー6から搬出され、熱処理装置1における露光後ベーク処理が完了する(ステップS9)。
【0084】
熱処理装置1から搬出された半導体ウェハーWの表面には現像液が供給されて現像処理が行われる。現像処理は、例えば静止状態の半導体ウェハーWの表面に現像液を一定時間留めるいわゆるパドル現像によって行えば良い。このような現像処理も熱処理装置1とは別の装置にて行われる。
【0085】
本実施形態においては、チャンバー6内の保持プレート7とフラッシュ照射部5のフラッシュランプFLとの間に、300nm以下の波長域の紫外光をカットするフィルタ20を設置してフラッシュ光照射を行っている。このため、フラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光がフィルタ20を透過するときに300nm以下の波長域の光がカットされる。よって、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光からは300nm以下の波長域の光がカットされており、フラッシュ光によるレジスト膜の感光を防止することができる。
【0086】
一方、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光には強度が比較的高い波長300nmよりも長波長側の光はそのまま含まれているため、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度を必要な処理温度T2にまで昇温することができる。すなわち、300nm以下の波長域の紫外光をカットするフィルタ20を設置することによって、半導体ウェハーWには300nm以下の波長域の光は照射されずに残余(300nmよりも長波長)の波長域の光が選択的に照射され、レジスト膜の不要な感光を防止しつつ必要な処理温度にまでフラッシュ加熱処理を行うことができる。なお、本実施形態では、フラッシュ加熱によって露光後ベーク処理を行う場合を例示して説明したが、塗布後ベーク処理を行う場合であっても同様にしてレジスト膜の不要な感光を防止しつつフラッシュ加熱処理を行うことができる。
【0087】
ところで、上記の例ではエキシマレーザに対応した典型的な化学増幅型レジストの薄膜を半導体ウェハーWの表面に形成していたが、フォトリソグラフィに用いるレジスト膜にも多様な種類が存在しており、その種類によって感光する波長域が異なる。従って、種類の異なるレジスト膜を形成した半導体ウェハーWに対して熱処理装置1にてフラッシュ加熱処理を行う場合には、フィルタ20も変更する必要がある。例えば、350nm前後の波長域で感光するレジスト膜を使用している場合には、400nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を予め指定しておく。制御部3は、指定された400nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20がチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置されるようにフィルタ機構2を制御する。同様に、450nm前後の波長域で感光するレジスト膜を使用している場合には、500nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を予め指定しておく。制御部3は、その500nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を設置するようにフィルタ機構2を制御する。
【0088】
このように、フィルタ機構2に異なる波長域の光をカットする複数のフィルタ20を設け、それら複数のフィルタ20のうち半導体ウェハーWの種類に応じた最適なフィルタ20を選択してチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置する。これによって、レジスト膜の種類に関わらず、不要な感光を防止することができる。なお、レジスト膜の種類に関わらず、一律に例えば500nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を設置するようにしてもレジスト膜の不要な感光を防止することはできる。しかし、このようにすると、フラッシュランプFLの放射分光分布において比較的強度の高い300nm〜500nmの波長域の光を使用できなくなるため、十分な加熱処理効率が得られなくなるおそれがある。従って、本実施形態のように、レジスト膜の種類に応じた最適なフィルタ20を選択して設置するのが好ましい。
【0089】
また、半導体ウェハーWの表面にはレジスト膜以外にも、種々の薄膜が形成され得る。例えば、反射防止膜、層間絶縁膜、強誘電体膜などが半導体ウェハーWの表面には形成される。さらに、金属系の膜が半導体ウェハーWの表面に形成されることもある。これらの膜種によっては、紫外光を吸収して損傷を受けることもある。このような紫外光によって損傷を受ける薄膜が半導体ウェハーWの表面に形成されている場合であっても、本発明に係る技術を適用することができる。すなわち、上記実施形態と同様に、半導体ウェハーWの表面に形成された膜種に応じた最適なフィルタ20を選択してチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置してフラッシュ光照射を行うことにより、フラッシュ光から紫外光をカットして薄膜の損傷を防止することができる。
【0090】
また、半導体ウェハーWの表面に複数種の薄膜が形成されることも多い。例えば、上記実施形態のレジスト膜は、典型的には反射防止膜の一種であるBARC(Bottom Anti-Reflection Coating)の上に形成されることが多い。このように複数種の薄膜が形成された半導体ウェハーWにおいては、一部の薄膜のみを加熱して耐熱性の低い他の薄膜については加熱しないようにする処理が望まれることもある。このような場合にも本発明に係る技術を適用してフラッシュ光から特定の波長域の光をカットし、当該一部の薄膜のみを加熱することができる。例えば、半導体ウェハーWの表面に二種類の薄膜Aおよび薄膜Bが形成されており、薄膜Aは400nm以上の波長域の光を吸収し、薄膜Bは400nm未満の光しか吸収しないという光吸収特性を有する場合において、薄膜Aのみを加熱するためには400nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を設置する。これにより、半導体ウェハーWの表面には400nm以下の波長域の光がカットされたフラッシュ光が照射され、薄膜Aのみがフラッシュ光を吸収して選択的に加熱されることとなる。
【0091】
さらに、薄膜が形成されずにシリコンの基材が露出している半導体ウェハーWをフラッシュ加熱する場合にも本発明に係る技術を適用することができる。半導体ウェハーWの基材を構成するシリコンの結晶に強い紫外光が照射されると、そのシリコンの基材自体に損傷を与えるおそれがある。このため、例えば400nm以下の波長域の光をカットするフィルタ20を選択して設置する。これにより、フラッシュ光照射時にも半導体ウェハーWの表面には400nm以下の波長域の紫外光はほとんど照射されなくなるため、シリコンの基材に損傷を与えるのを防止することができる。
【0092】
上述した内容を集約すると、本発明に係る技術では、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光をそのまま照射すると半導体ウェハーWに悪影響(例えば、レジスト膜の感光、シリコン基材の損傷など)を及ぼす波長域の光をカットするフィルタ20を選択してチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置する。この状態にてフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射し、フィルタ20によって当該波長域の光をフラッシュ光からカットして半導体ウェハーWに照射する。これにより、半導体ウェハーWに与える悪影響を抑制しつつフラッシュ加熱処理を行うことができる。
【0093】
半導体ウェハーWに悪影響を及ぼす波長域は半導体ウェハーWの種類によって異なる。このため、熱処理装置1には異なる波長域の光をカットする複数のフィルタ20を準備しておき、処理対象となる半導体ウェハーWの種類に適合するフィルタ20を選択してチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置するのが望ましい。
【0094】
また、所定の波長域の光をカットするフィルタ20は、当該波長域の光を吸収することもある。フラッシュ光照射にフィルタ20が当該波長域の光を吸収すると、フィルタ20自体の温度が上昇する。そうすると、フィルタ20の光学特性が変化して、カットする波長域が変化するおそれもある。このため、熱処理装置1に温調機構40を設け、チャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置されたフィルタ20に温調機構40から常温に温調された温調用ガスを吹き付けている。これにより、フィルタ20の温度を常温近傍に維持して光学特性の変化を防止することができる。なお、温調機構40による温調用ガスの吹き付けは、フィルタ20がチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に位置しているときに常時行うようにしても良いし、フラッシュ光照射の直後に行うようにしても良い。
【0095】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、フィルタ機構2が制御部3の制御下にてレシピに指定されたフィルタ20をチャンバー6とフラッシュ照射部5との間に設置するようにしていたが、これに代えて熱処理装置1のオペレータが手動にてフィルタ20を設置するようにしても良い。半導体ウェハーWに悪影響を及ぼす波長域および加熱処理効率を総合的に考慮して使用するフィルタ20を決定するのはオペレータである。そのオペレータが選択したフィルタ20をチャンバー6のチャンバー窓61の上に手動で載置するようにしても良い。このようにしても、上記実施形態と同様に、フラッシュ光から半導体ウェハーWに悪影響を及ぼす波長域の光をカットしてフラッシュ加熱処理を行うことができる。
【0096】
また、上記実施形態においては、複数枚のフィルタ20のうちから1枚のフィルタ20を選択して設置するようにしていたが、これに限定されるものではなく、2枚以上のフィルタ20を組み合わせて設置するようにしても良い。
図7は、複数枚のフィルタ20を重ねて設置した例を示す図である。
【0097】
図7の例では、チャンバー6のチャンバー窓61の上に2枚のフィルタ20を積層して設置している。2枚のフィルタ20がカットする波長域は同じであっても良いし、異なっていても良いし、或いは一部が重なっていても良い。例えば、特定の波長域の光を完全に遮光したい場合には、その波長域の光をカットする2枚のフィルタ20を積層して使用する。また、例えば、400nm以下および800nm以上の波長域の光を遮光したい場合には、400nm以下の波長域をカットするフィルタ20および800nm以上の波長域をカットするフィルタ20を積層して使用する。また、例えば400nm以下の波長域において段階的に遮光率を変化させたい場合には、400nm以下の波長域をカットするフィルタ20および300nm以下の波長域をカットするフィルタ20を積層して使用する。このように複数枚のフィルタ20を重ねて設置すれば、フラッシュ光からカットする光の波長域のバリエーションを広げることができる。
【0098】
また、上記実施形態においては、フラッシュ光からフィルタ20によって主として紫外光をカットしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの放射分光分布のうち可視光および/または赤外光をカットするようにしても良い。例えば、ディスプレイ用途などで樹脂膜上にパターンを形成する場合、耐熱性に乏しい樹脂膜の加熱を避けるために赤外光をカットしたフラッシュ光を照射する。また、例えば、ALD(Atomic Layer Deposition)などによって堆積したhigh-k材料(高誘電率材料)に酸素またはオゾンの酸化雰囲気中にて、フラッシュ光から可視光および赤外光をカットした紫外光のみを照射する。この紫外光のみのフラッシュ加熱処理によって、high-k材料を酸化させて結晶性を持たせることができる。この場合では、フィルタ20によってフラッシュ光から半導体ウェハーWの処理に有効な波長域の光を選択して照射している。また、フラッシュ光から紫外光および赤外光の双方をカットして、可視光のみを選択的に透過するようにしても良い。すなわち、フィルタ20によってフラッシュ光からカットする波長域は、処理対象となる半導体ウェハーWの種類および加熱処理の目的に応じて適宜に選択することができる。なお、一般的には、レジスト膜などの炭素系化合物を含む薄膜は紫外域から500nm程度までの波長域の光を吸収する。
【0099】
また、上記実施形態においては、石英ガラスにバリウムなどの金属を溶解させてフィルタ20を形成していたが、石英ガラスの表面に金属または金属酸化物の薄膜を成膜することによってフィルタ20を形成するようにしても良い。もっともこのような薄膜は、フラッシュ光照射時の急速な昇温によって剥離するおそれがあるため、石英ガラスに金属を溶解させる方が好ましい。
【0100】
また、熱処理装置1において処理対象となる半導体ウェハーWの種類が限定されている場合には、カットすべき波長域も特定されるため、チャンバー6のチャンバー窓61自体をその波長域の光をカットするフィルタとしても良い。
【0101】
また、上記実施形態においては、フラッシュ光からフィルタ20によって所定の波長域の光をカットするようにしていたが、フラッシュランプFL自体の構成を異なるものとすることによって所定の波長域の光をカットするようにしても良い。具体的には、フラッシュランプFLのガラス管内部に封入されているキセノンガスのガス圧を低くすると、
図6の放射分光分布が長波長側にシフトする。その結果、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光自体から短波長側の紫外光をカットすることができる。逆に、フラッシュ光から長波長側の赤外光をカットする場合には、封入されているキセノンガスのガス圧を高くすれば良い。もっとも、キセノンガスのガス圧を変化させると、フラッシュ光の強度が低くなったり、或いはフラッシュランプFLにダメージを与えることがあるため、上記実施形態のようにフィルタ20によって所定の波長域の光をカットするのが望ましい。
【0102】
また、上記実施形態においては、保持プレート7に加熱手段たるヒータ71および冷却手段たる水冷管72の双方を設けるようにしていたが、ヒータ71または水冷管72のいずれか一方のみを保持プレート7に設けるようにしても良い。もっとも、ヒータ71および水冷管72の双方を設けた方が、広い温度範囲に渡って適切な半導体ウェハーWの温調が可能となる。
【0103】
また、上記実施形態においては、加熱手段たるヒータ71を抵抗発熱体にて構成していたが、これ代えてハロゲンランプなどによる光照射加熱、誘導加熱、高温ガスの吹き付けなどによって半導体ウェハーWを温調するようにしても良い。
【0104】
また、保持プレート7を水平面内にて回転させる回転機構を設け、処理中に保持プレート7を回転させるようにしても良い。これにより、吹き出しプレート68から流下される処理ガス流をより均一に半導体ウェハーWの表面に吹き付けることができる。
【0105】
また、上記実施形態においては、フラッシュ照射部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。
【0106】
また、本発明に係る熱処理技術によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。