(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964595
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20160721BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20160721BHJP
F01N 3/36 20060101ALI20160721BHJP
B01D 53/34 20060101ALI20160721BHJP
B01J 29/072 20060101ALI20160721BHJP
B01J 29/068 20060101ALI20160721BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
F01N3/08 GZAB
F01N3/24 L
F01N3/24 R
F01N3/36 C
B01D53/34
B01J29/072 A
B01J29/068 M
C01B3/38
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-5805(P2012-5805)
(22)【出願日】2012年1月16日
(65)【公開番号】特開2014-122551(P2014-122551A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】平林 浩
(72)【発明者】
【氏名】細谷 満
(72)【発明者】
【氏名】林崎 圭一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信也
(72)【発明者】
【氏名】川田 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】井上 博史
【審査官】
櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−106338(JP,A)
【文献】
特開2004−251273(JP,A)
【文献】
特開2001−055918(JP,A)
【文献】
実開昭61−116731(JP,U)
【文献】
特開2011−153580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00 − 3/38
F02M 27/02 − 27/04
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(11)の排ガスを浄化する排ガス浄化装置において、
前記エンジン(11)の排気管(17)に設けられ排ガス中のNOxをN2に還元可能な選択還元型触媒(12)と、
密閉した改質ケース(27)内で液体の燃料(13)をヒータ(31)により加熱して気化又は気化及びミスト化し更にこの気化又は気化及びミスト化した燃料を改質触媒(28)で炭化水素系ガスに改質する燃料改質手段(14)と、
前記燃料改質手段(14)に前記燃料(13)を供給する燃料供給手段(16)と、
前記選択還元型触媒(12)より排ガス上流側の排気管(17)に臨み前記改質触媒(28)で改質された炭化水素系ガスを噴射可能な噴射ノズル(18)と、
前記選択還元型触媒(12)に関係する前記排ガス温度を検出する触媒温度センサ(47)と、
前記燃料改質手段(14)の入口圧力を検出する圧力センサ(48)と、
前記触媒温度センサ(47)及び前記圧力センサ(48)の各検出出力に基づいて前記燃料改質手段(14)及び前記燃料供給手段(16)を制御するコントローラ(56)と
を備え、
前記燃料改質手段(14)が、密閉した筒状の前記改質ケース(27)と、この改質ケース(27)に収容された前記改質触媒(28)と、前記改質ケース(27)の内周面と前記改質触媒(28)の外周面との間に螺旋状に設けられた燃料通路(29)と、前記燃料通路(29)を囲むように螺旋状に配索されかつ前記改質ケース(27)の壁に埋設された前記ヒータ(31)とを有することを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記燃料改質手段(14)をバイパスするように前記燃料改質手段(14)の入口部と出口部とを連通接続するバイパス管(43)と、前記バイパス管(43)に設けられ前記バイパス管(43)の開度を調整する開度調整弁(44)とを有する請求項1記載の排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を加熱し改質した炭化水素系ガスを還元剤としてエンジンの排気管に噴射することにより排ガス中のNOxを浄化する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダヘッドの排気ポートから排出された排ガスが通る排気通路中にターボ過給機が上流側に位置しかつ排ガス浄化用触媒が下流側に位置するようにターボ過給機及び排ガス浄化用触媒が設けられ、排ガス浄化用触媒に燃料をガス化して供給可能に構成された内燃機関が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この内燃機関では、排気通路のターボ過給機よりも上流側の部位に燃料を排ガスの熱で加温することによって気化させる気化室が設けられ、この気化室が排気通路のターボ過給機より下流側の部位に接続される。またシリンダヘッドに固定された排気マニホルドの一部に、気化室の内部と排気マニホルドの内部とが隔壁を介して仕切られるように気化室が一体的に設けられ、気化室に排ガスを少量だけ噴出させる連通穴が上記隔壁に設けられる。
【0003】
このように構成された内燃機関では、排ガスの熱を利用して燃料を気化するものでありながら、触媒の還元用燃料がターボ過給機に導入されることを回避できるため、簡単な構造でありながら、ターボ過給機のタービン等が腐食することや、排ガスを気筒に還流させるに際して排ガスの性質が悪化することを防止できる。特に、燃料が排ガスにさらされるため、燃料を迅速かつ確実に気化できるとともに、気化した燃料は排ガスの圧力(正圧)で素早く触媒に送られるため、応答性が高い利点がある。
【0004】
また、排ガス排出流路の脱硝用の触媒部の上流側に、還元剤の気化室と排ガス流れにより還元剤の気化及び燃焼が影響されないようなプロテクタとを一体化した還元剤の気化燃焼室が設けられたディーゼル機関の排ガス浄化装置が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この排ガス浄化装置では、脱硝触媒としてマグネタイト(Fe
3O
4)が用いられ、このマグネタイトは排ガスとの接触面積が大きい形状、例えば粒状物、ペレット、ハニカム形状物等の形状で使用される。また還元剤として用いられる炭化水素としては、軽油、重油、ベンジン、メタン、エタン等を使用できる。更に還元剤の燃焼性を高めるため或いは排ガスの脱硝反応のために、二次空気が排ガス排出流路に導入される。
【0005】
このように構成されたディーゼル機関の排ガス浄化装置では、排ガスに炭化水素又はアルコールからなる還元剤と二次空気(酸素)を加え、これをマグネタイト(Fe
3O
4)に接触させると、排ガス中のNOxが還元されて窒素となる。またディーゼル機関の排ガスが常時流れている箇所で、軽油や重油等の還元剤を高効率で燃焼させると、触媒表面のパティキュレートが除去され、触媒表面を清浄しながら、ディーゼル機関の排ガスの脱硝を効率的に達成できる。このため排ガス排出通路に配置された触媒部の上流側に還元剤の気化燃焼室を設け、この気化燃焼室で還元剤を気化させるとき、ディーゼル機関の排ガスが吐出しても、プロテクタが気化燃焼室における還元剤の気化及び燃焼を阻害しないため、還元剤の気化及び燃焼が気化燃焼室で支障なく行われる。この結果、ディーゼル機関の排ガス流路に排ガスにより燃焼が阻害されない還元剤の気化と還元剤の燃焼を確実に行うことができる気化燃焼室を設置することで、触媒表面のパティキュレートが有効に除去され、触媒表面を清浄しながら、ディーゼル機関の排ガスの脱硝を効率的に達成できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−283604号公報(請求項1及び2、段落[0008]、[0009]、
図1、
図2)
【特許文献2】特開平06−101454号公報(請求項1、段落[0012]〜[0014]、[0027]、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の特許文献1に示された内燃機関や、特許文献2に示された排ガス浄化装置では、いずれも還元用燃料及び還元剤をエンジンの排ガスで加熱して気化しているため、エンジン始動直後や排ガス温度が比較的低いときに、還元用燃料等を十分に気化できず、排ガス中のNOxを効率良く低減できない不具合があった。
【0008】
本発明の目的は、排ガス温度が比較的低いときであっても排ガス中のNOxを効率良く低減できる、排ガス浄化装置を提供することにある。本発明の別の目的は、液体の燃料を加熱して気化又は気化及びミストさせ、この気化等した燃料を圧力の高い状態で改質触媒に接触させることにより、燃料の改質触媒での改質反応を促進できる、排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、
図1及び
図2に示すように、エンジン11の排ガスを浄化する排ガス浄化装置において、エンジン11の排気管17に設けられ排ガス中のNOxをN
2に還元可能な選択還元型触媒12と、密閉した改質ケース27内で液体の燃料13をヒータ31により加熱して気化又は気化及びミスト化し更にこの気化又は気化及びミスト化した燃料を改質触媒28で炭化水素系ガスに改質する燃料改質手段14と、燃料改質手段14に燃料13を供給する燃料供給手段16と、選択還元型触媒12より排ガス上流側の排気管17に臨み改質触媒28で改質された炭化水素系ガスを噴射可能な噴射ノズル18と、選択還元型触媒12に関係する排ガス温度を検出する触媒温度センサ47と、燃料改質手段14の入口圧力を検出する圧力センサ48と、触媒温度センサ47及び圧力センサ48の各検出出力に基づいて燃料改質手段14及び燃料供給手段16を制御するコントローラ56とを備え
、燃料改質手段14が、密閉した筒状の上記改質ケース27と、この改質ケース27に収容された上記改質触媒28と、改質ケース27の内周面と改質触媒28の外周面との間に螺旋状に設けられた燃料通路29と、燃料通路29を囲むように螺旋状に配索されかつ改質ケース27の壁に埋設された上記ヒータ31とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の
第2の観点は、第
1の観点に基づく発明であって、更に
図1に示すように、燃料改質手段14をバイパスするように燃料改質手段14の入口部と出口部とを連通接続するバイパス管43と、バイパス管43に設けられバイパス管43の開度を調整する開度調整弁44とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点の排ガス浄化装置では、密閉した改質ケース内で液体の燃料をヒータにより加熱して気化又は気化及びミスト化するので、改質ケース内の圧力が高くなり、この圧力の高い状態で気化等した燃料が改質触媒で炭化水素系ガスや軽質化された炭化水素系ガスに改質される。この結果、気化等した燃料の改質触媒での改質反応を促進できるので、液体の燃料を燃料改質手段で炭化水素系ガスに確実に改質できる。従って、上記改質された炭化水素系ガスを噴射ノズルから排気管内に噴射すると、この炭化水素系ガスが選択還元型触媒上で排ガス中のNOxをN
2に還元する還元剤として機能するので、排ガス温度が比較的低いときであっても排ガス中のNOxを効率良く低減できる。
【0013】
また、液体の燃料が燃料通路を通過している間にヒータにより加熱されて気化等するので、改質ケース内の燃料の体積が膨張し、気化等した燃料はその分圧が高くなった状態で改質触媒に流入してその表面に接触する。この結果、燃料の改質触媒での改質反応を促進できるので、液体の燃料を燃料改質手段で炭化水素系ガスや軽質化された炭化水素系ガスに確実に改質できる。従って、上記と同様に、改質された炭化水素系ガスを噴射ノズルから排気管内に噴射すると、この炭化水素系ガスが選択還元型触媒上で排ガス中のNOxをN
2に還元する還元剤として機能するので、排ガス温度が比較的低いときであっても排ガス中のNOxを効率良く低減できる。
【0014】
本発明の
第2の観点の排ガス浄化装置では、排ガス温度が比較的高くなると、開度調整弁によりバイパス管を所定の開度で開いて、液体の燃料を燃料改質手段で改質せずにそのままバイパス管を通って噴射ノズルから排気管に噴射する。この噴射された液体の燃料は比較的高温の排ガスにより炭化水素系ガスに速やかに改質されるので、この炭化水素系ガスは選択還元型触媒上で排ガス中のNOxをN
2に還元する還元剤として機能し、排ガス中のNOxは効率良く低減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明実施形態の排ガス浄化装置を示す構成図である。
【
図2】その排ガス浄化装置の燃料改質手段の縦断面図である。
【
図4】その排ガス浄化装置の噴射ノズルを含む要部断面図である。
【
図5】実施例1及び比較例1の排ガス浄化装置を用いたときの排ガス温度の変化に伴うNOx低減率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、排ガス浄化装置は、ディーゼルエンジン11から排出された排ガス中のNOxをN
2に還元可能な選択還元型触媒12と、液体の燃料13を炭化水素系ガスに改質する燃料改質手段14と、燃料改質手段14に燃料13を供給する燃料供給手段16と、選択還元型触媒12より排ガス上流側の排気管17に臨み炭化水素系ガスを噴射可能な噴射ノズル18とを備える。ここで、燃料供給手段16により燃料改質手段14に供給される燃料はディーゼルエンジン11に供給される燃料と同一である。ディーゼルエンジン11の吸気ポートには吸気マニホルド19を介して吸気管21が接続され、排気ポートには排気マニホルド22を介して排気管17が接続される。吸気管21には、ターボ過給機23のコンプレッサハウジング23aと、ターボ過給機23により圧縮された吸気を冷却するインタクーラ24とがそれぞれ設けられ、排気管17にはターボ過給機23のタービンハウジング23bが設けられる。コンプレッサハウジング23aにはコンプレッサ回転翼(図示せず)が回転可能に収容され、タービンハウジング23bにはタービン回転翼(図示せず)が回転可能に収容される。コンプレッサ回転翼とタービン回転翼とはシャフト(図示せず)により連結され、エンジン11から排出される排ガスのエネルギによりタービン回転翼及びシャフトを介してコンプレッサ回転翼が回転し、このコンプレッサ回転翼の回転により吸気管内の吸入空気が圧縮されるように構成される。
【0017】
選択還元型触媒12は排気管17に設けられる。具体的には、排気管17の途中に排気管17より大径の触媒ケース26が設けられ、この触媒ケース26に選択還元型触媒12が収容される。選択還元型触媒12はモノリス触媒であって、コージェライト製のハニカム担体に、ゼオライト又はアルミナをコーティングして構成される。ゼオライトとしては、銀−ゼオライト、銅−ゼオライト、鉄−ゼオライト等が挙げられる。銀−ゼオライト、銅−ゼオライト又は鉄−ゼオライトからなる選択還元型触媒12は、銀、銅又は鉄をイオン交換したゼオライト粉末を含むスラリーをハニカム担体にコーティングして構成される。また銀−アルミナ、銅−アルミナ又は鉄−アルミナからなる選択還元型触媒12は、銀、銅又は鉄を担持させたγ−アルミナ粉末又はθ−アルミナ粉末を含むスラリーをハニカム担体にコーティングして構成される。この選択還元型触媒12に炭化水素系ガスが供給されると、炭化水素系ガスが選択還元型触媒12上でNOxをN
2に還元する還元剤として機能するようになっている。
【0018】
一方、
図2及び
図3に示すように、燃料改質手段14は、密閉された筒状の改質ケース27と、この改質ケース27に収容された改質触媒28と、改質ケース27の内周面と改質触媒28の外周面との間に螺旋状に設けられた燃料通路29と、燃料通路29を囲むように螺旋状に配索されかつ改質ケース27の壁に埋設されたヒータ31とを有する。改質ケース27は、上端が開放されかつ下端が閉止された四角筒状のケース本体32と、ケース本体32の開放端に取外し可能に取付けられケース本体32の開放端を開放可能に閉止する四角板状の蓋体33と、ケース本体32の上部外周面に取付けられ改質ケース27に流入する液体の燃料13を一時的に溜める燃料溜まり部34とからなる。ケース本体32の内部には、改質触媒28が収容される触媒収容部32aが形成され、この触媒収容部32aの底面には、触媒収容部32aの内径より小径の比較的浅いロア凹部32bが形成される。また改質ケース27の内周面には、改質ケース27の上部から下部に向って螺旋状に延びる凹溝32cが形成される。触媒収容部32aに改質触媒28を収容した状態で、ケース本体32の凹溝32と改質触媒28の外周面により、上記燃料通路29が形成される。上記凹溝32cの上端はケース本体32の上部外周面に形成された入口孔32dに接続され、凹溝32cの下端は上記ロア凹部32bに臨む出口溝32eに接続される。更に燃料溜まり部34は、その内部が入口孔32dに連通するようにケース本体32の上部外周面に取付けられ、燃料溜まり部34の外側面には、液体の燃料13を燃料溜まり部34及び入口孔32dを通って燃料通路29に流入させるための供給用短管36が接続される。
【0019】
一方、改質触媒28はモノリス触媒であって、コージェライト製のハニカム担体に、ゼオライト又はアルミナをコーティングして構成される。ゼオライトとしては、ロジウム−ゼオライト、白金−ゼオライト、パラジウム−ゼオライト等が挙げられる。ロジウム−ゼオライト、白金−ゼオライト又はパラジウム−ゼオライトからなる改質触媒28は、ロジウム、白金又はパラジウムをイオン交換したゼオライト粉末を含むスラリーをハニカム担体にコーティングして構成される。またロジウム−アルミナ、白金−アルミナ又はパラジウム−アルミナからなる改質触媒28は、ロジウム、白金又はパラジウムを担持させたγ−アルミナ粉末又はθ−アルミナ粉末を含むスラリーをハニカム担体にコーティングして構成される。この改質触媒28に気化又は気化及びミスト化した燃料が供給されると、この気化等した燃料が改質触媒28上で炭化水素系ガスに分解されて改質されるようになっている。また蓋体33の下面には、触媒収容部32aの内径より小径の比較的浅いアッパ凹部33aが形成され、蓋体33の側面にはアッパ凹部33aに連通する出口孔33bが形成される。この出口孔33bには改質触媒28で改質された炭化水素系ガスを排出するための排出用短管37が接続される。
【0020】
上記改質ケース27は、SUS316、SUS304、インコネル(ハンティントン アロイズ カナダ リミテッド社製の登録商標)等の熱伝導率が15〜17W/(m・K)と比較的高い金属により形成される。またヒータ31としては、金属シース(金属製極細管)の中にニクロム線等の発熱体を遊挿し、金属シースと発熱体との隙間に、高純度の無機絶縁物の粉末を充填して構成された、いわゆるシーズヒータを用いることが好ましい。更に改質ケース27のケース本体32及び蓋体33は断熱材38が充填された断熱ケース39により覆われる。これによりヒータ31の発生した熱の放散を抑制できる。なお、
図2及び
図3中の符号31a,31bはヒータ31の端子である。
【0021】
図1に戻って、燃料供給手段16は、液体の燃料13が貯留されたタンク16aと、このタンク16aを上記燃料改質手段14の供給用短管36に接続する第1供給管16bと、第1供給管16bに設けられタンク16a内の燃料13を燃料改質手段14に圧送するポンプ16cと、一端がポンプ16c及び供給用短管36間の第1供給管16bに接続された他端がタンク16aに接続された戻り管16dと、この戻り管16dに設けられたポンプ流量調整弁16eとを有する。上記ポンプ16cは、図示しないポンプ駆動モータにより駆動される。このポンプ駆動モータの回転速度を連続的又は段階的に変化させるとともに、ポンプ流量調整弁16eの開度を調整することによりポンプ16cから吐出される燃料13の圧力を調整できるように構成される。また燃料改質手段14の排出用短管37は第2供給管42を介して噴射ノズル18に接続され、第2供給管42には、この第2供給管42を開閉することにより噴射ノズル18から噴射される炭化水素系ガスの流量を調整する流量調整弁41が設けられる。この流量調整弁41は、単位時間当たりの開閉回数、開時間、閉時間を制御することにより、噴射ノズル18から噴射される炭化水素系ガスの流量を調整できるようになっている。更に燃料改質手段14をバイパスするように燃料改質手段14の入口部と出口部とがバイパス管43により連通接続され、このバイパス管43にはバイパス管43の開度を調整してバイパス管43を流れる燃料の流量を調整する開度調整弁44が設けられる。具体的には、バイパス管43の一端は第1供給管16bに接続され、バイパス管43の他端は第2供給管42に接続される。なお、
図1中の符号46は逆止弁である。この逆止弁46は、燃料13の第1供給管16bから第2供給管42への流れを許容し、燃料又は炭化水素系ガスの第2供給管42から第1供給管16bへの流れを阻止する機能を有する。
【0022】
噴射ノズルは、
図4に詳しく示すように、排気管17のうち略90度に湾曲した湾曲管部17aに挿入される。具体的には、排気管17は、上記湾曲管部17aと、この湾曲管部17aの排ガス入口に取外し可能に取付けられ一直線状に延びる上流側直管部17bと、湾曲管部17aの排ガス出口に取外し可能に取付けられ一直線上に延びる下流側直管部17cとを有する。湾曲管部17aには、筒状のノズル取付部17dが湾曲管部17aの外面に突出するように湾曲管部17aと一体的に設けられる。ノズル取付部17dの向きは、このノズル取付部17dに噴射ノズル18を取付けたときに、噴射ノズル18の噴射口の中心線が下流側直管部17cの孔心に一致するように設定される、即ち噴射ノズル18の噴射した炭化水素系ガス又は液体の燃料が下流側直管部17c内の中央に向うように設定される。また湾曲管部17a内には、ノズル取付部17dと同心状に下流側直管部17cに向う案内管17eが湾曲管部17aと一体的に設けられる。この案内管17eの長さ及び内径は、噴射ノズル18から噴射された炭化水素系ガス又は液体の燃料が案内管17eの内壁に接触するのを少なくして、炭化水素系ガス又は液体の燃料を排ガスに有効に混合できるようにそれぞれ設定される。
【0023】
一方、触媒ケース26のうち選択還元型触媒12より排ガス入口側には、選択還元型触媒12に関係する排ガス温度を検出する触媒温度センサ47が設けられる。また燃料改質手段14の燃料溜まり部34には、燃料改質手段14の入口圧力及び入口温度、即ち燃料通路29に流入する直前の燃料の圧力及び温度をそれぞれ検出する圧力センサ48及び第1温度センサ51が設けられる。また燃料改質手段14の改質ケース27のロア凹部32bには、燃料通路29から排出された燃料、即ちヒータ31により加熱されて気化又は気化及びミスト化された燃料の温度を検出する第2温度センサ52が設けられる。更にエンジン11には、エンジン11の回転速度を検出する回転センサ53と、エンジン11の負荷を検出する負荷センサ54とが設けられる。触媒温度センサ47、圧力センサ48、第1温度センサ51、第2温度センサ52、回転センサ53及び負荷センサ54の各検出出力はコントローラ56の制御入力に接続され、コントローラ56の制御出力はヒータ31、ポンプ駆動モータ、ポンプ流量調整弁16e、流量調整弁41及び開度調整弁44にそれぞれ接続される。
【0024】
コントローラ56にはメモリ57が設けられる。このメモリ57には、エンジン回転速度、エンジン負荷、選択還元型触媒12の入口側の排ガス温度に応じた、ポンプ駆動モータの回転速度、ポンプ流量調整弁16eの開度、流量調整弁41の単位時間当たりの開閉回数、開時間及び閉時間が予め記憶される。またメモリ57には、エンジン回転速度及びエンジン負荷の変化に応じた、排ガス中のNOx流量の変化がマップとして記憶される。更にメモリ57には、燃料改質手段14の入口圧力、燃料通路29内の温度、改質触媒28から排出される炭化水素系ガスの流量に応じた、炭化水素系ガスの生成率の変化がマップとして記憶される。ヒータ31により加熱されて気化等した燃料の分圧が高い方が改質触媒28での燃料の改質反応を促進できるため、燃料改質手段14の入口圧力は30〜100kPaと比較的高く設定される。このため、改質ケース27は耐圧性を有するように作製される。なお、第1及び第2温度センサ51,52の各検出出力の温度差により、ヒータ31による燃料の加熱効率を検出できる。
【0025】
このように構成された排ガス浄化装置の動作を説明する。エンジン11の始動直後やエンジン11の軽負荷運転時には、排ガス温度が100〜180℃と低い。この温度範囲の排ガス温度を触媒温度センサ47が検出し、回転センサ53及び負荷センサ54がエンジン11の無負荷運転又は軽負荷運転を検出すると、コントローラ56は触媒温度センサ47、回転センサ53及び負荷センサ54の各検出出力に基づいて、ヒータ31をオンするとともに、ポンプ駆動モータの回転速度を徐々に上昇させる。但し、コントローラ56は開度調整弁44を制御して、バイパス管43を閉じた状態に保つ。そして燃料改質手段14の入口圧力が所定の圧力(例えば、30kPa)になったことを圧力センサ48が検出すると、このときの回転速度でポンプ駆動モータを回転させるとともに、ポンプ流量調整弁16eの開度を調整して、燃料改質手段14の入口圧力を上記所定の圧力に維持する。この状態で第1及び第2温度センサ51,52が燃料通路29内の燃料の温度が所定の温度になったことを検出すると、コントローラ56は流量調整弁41を所定の単位時間当たりの開閉回数、所定の開時間及び所定の閉時間で開閉する。
【0026】
これにより燃料通路29に流入した液体の燃料がヒータ31により加熱されて速やかに気化又はミスト化し、この気化等した燃料が改質触媒28で分解されて、ガス状のHC、軽質化されたHC(例えば、部分酸化された炭化水素、クラッキングされた炭化水素等)等の炭化水素系ガスや、一酸化炭素や、水素等に改質される。具体的には、液体の燃料13が密閉した改質ケース27の燃料通路29でヒータ31により加熱されて気化等するので、改質ケース27内の圧力が高くなり、この圧力の高い状態で気化等した燃料が改質触媒28で炭化水素系ガスに改質される。即ち、液体の燃料13が燃料通路29を通過している間にヒータ31により加熱されて気化等するので、改質ケース27内の燃料の体積が膨張し、気化等した燃料はその分圧が高くなった状態で改質触媒28に流入してその表面に接触する。この結果、気化等した燃料の改質触媒28での改質反応を促進できるので、液体の燃料13を燃料改質手段14で炭化水素系ガスに確実に改質できる。
【0027】
噴射ノズル18から排気管17内に噴射された炭化水素系ガスは、排ガスとともに選択還元型触媒12に流入する。この排ガスとともに選択還元型触媒12に流入した炭化水素系ガスは排ガス中のNOx(NO、NO
2)を還元するための還元剤として機能する。即ち、選択還元型触媒12で排ガス中のNOxが速やかにN
2に還元される。この結果、排ガス温度が比較的低いときであっても排ガス中のNOxを効率良く低減できる。
【0028】
一方、排ガス温度が180℃を越えると、コントローラ56は、触媒温度センサ47の検出出力に基づいて、ヒータ31をオフするとともに、開度調整弁44を制御してバイパス管43を所定の開度で開く。但し、コントローラ56は、ポンプ駆動モータを所定の回転速度で回転させ、流量調整弁41を所定の開閉回数(単位時間当たり)、所定の開時間及び所定の閉時間で開閉するとともに、ポンプ流量調整弁16eの開度を調整して、燃料改質手段14の入口圧力を上記所定の圧力に維持する。これにより液体の燃料13は燃料改質手段14を通らずにバイパス管44を通って、そのまま噴射ノズル18から排気管17に噴射される。この噴射された液体の燃料は比較的高温の排ガスにより炭化水素系ガスに改質されるので、この炭化水素系ガスは選択還元型触媒12上で排ガス中のNOxをN
2に還元する還元剤として機能し、排ガス中のNOxが効率良く低減される。
【0029】
なお、上記実施の形態では、本発明の排ガス浄化装置をディーゼルエンジンに適用したが、本発明の排ガス浄化装置をガソリンエンジンに適用してもよい。また、上記実施の形態では、本発明の排ガス浄化装置をターボ過給機付ディーゼルエンジンに適用したが、本発明の排ガス浄化装置を自然吸気型ディーゼルエンジン又は自然吸気型ガソリンエンジンに適用してもよい。また、上記実施の形態では、改質ケースのケース本体の内周面に螺旋状の凹溝を形成しケース本体の触媒収容部に改質触媒を収容することにより燃料通路を形成したが、改質触媒の外周面に凹溝を形成しケース本体の触媒収容部に改質触媒を収容することにより燃料通路を形成してもよい。更に、上記実施の形態では、触媒温度センサを触媒ケースのうち選択還元型触媒より排ガス入口側に設けたが、選択還元型触媒に関係する温度を検出できれば、触媒温度センサを触媒ケースのうち選択還元型触媒より排ガス出口側に設けたり、或いは触媒温度センサを触媒ケースのうち選択還元型触媒より排ガス入口側及び排ガス出口側の双方に設けてもよい。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0031】
<実施例1>
図1に示すように、排気量が8000ccである直列6気筒のターボ過給機23付ディーゼルエンジン11の排気管17に選択還元型触媒12を設けた。この選択還元型触媒12は、銅をイオン交換したゼオライト粉末を含むスラリーをハニカム担体にコーティングして作製した銅系の触媒であった。また液体の燃料13を炭化水素系ガスに改質する燃料改質手段14を用意した。この燃料改質手段14は、
図2及び
図3に示すように、密閉した筒状の改質ケース27と、この改質ケース27に収容された改質触媒28と、改質ケース27の内周面と改質触媒28の外周面との間に螺旋状に設けられた燃料通路29と、燃料通路29を囲むように螺旋状に配索されかつ改質ケース27の壁に埋設されたヒータ31とを有する。改質ケース27をSUS316により形成し、ヒータ31としてシーズヒータを用いた。また改質触媒28は、ロジウムをイオン交換したゼオライト粉末を含むスラリーをハニカム担体にコーティングして作製したロジウム系の触媒であった。
【0032】
上記燃料改質手段14の入口端を第1供給管16bを介してタンク16aに接続し、燃料改質手段14の出口端を第2供給管42を介して噴射ノズル18に接続し、噴射ノズル18を選択還元型触媒12より排ガス上流側の排気管17に臨むように設けた。また第1供給管16bにポンプ駆動モータにより駆動されるポンプ16cを設け、第2供給管42にこの第2供給管42を開閉する流量調整弁41を設けた。更に触媒ケース26のうち選択還元型触媒12より排ガス入口側に触媒温度センサ47を設けた。この排ガス浄化装置を実施例1とした。
【0033】
<比較例1>
燃料改質手段を用いなかったこと以外は実施例1と同一に構成した。この排ガス浄化装置を比較例1とした。
【0034】
<比較試験1及び評価>
エンジンの回転速度及び負荷を変化させて、実施例1及び比較例1のエンジンの排気管から排出される排ガスの温度を100℃から550℃まで徐々に上昇させたときのNOx低減率をそれぞれ測定した。その結果を
図5に示す。なお、実施例1の排ガス浄化装置では、排ガス温度が100〜180℃であるとき、ヒータをオンして噴射ノズルから炭化水素系ガスを排気管に供給し、排ガス温度が180℃を越えたときに、ヒータをオフして噴射ノズルから液体の燃料を排気管に供給した。また、比較例1の排ガス浄化装置では、排ガス温度が100〜550℃であるとき、燃料供給手段を駆動して噴射ノズルから液体の燃料を排気管に供給した。
【0035】
図5から明らかなように、比較例1の排ガス浄化装置では排ガス温度が100〜180℃と比較的低いとき排ガス中のNOxを殆ど浄化できなかったのに対し、実施例1の排ガス浄化装置では排ガス温度が100〜180℃と比較的低いとき温度の上昇に伴って排ガス中のNOxの浄化率が急激に上昇することが分かった。なお、排ガス温度が200℃を越えると、比較例1の排ガス浄化装置によるNOxの浄化率と、実施例1の排ガス浄化装置によるNOxの浄化率とは略同一であることが分かった。
【符号の説明】
【0036】
11 ディーゼルエンジン(エンジン)
12 選択還元型触媒
13 燃料
14 燃料改質手段
16 燃料供給手段
17 排気管
18 噴射ノズル
27 改質ケース
28 改質触媒
29 燃料通路
31 ヒータ
43 バイパス管
44 開度調整弁
47 触媒温度センサ
48 圧力センサ
56 コントローラ