特許第5964601号(P5964601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964601
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】インサート
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/18 20060101AFI20160721BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   E04B5/58 A
   E04B1/41 502C
   E04B5/58 S
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-19934(P2012-19934)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-159899(P2013-159899A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 興三
(72)【発明者】
【氏名】西 康夫
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−064937(JP,A)
【文献】 実公昭39−020155(JP,Y1)
【文献】 実開平02−048605(JP,U)
【文献】 実開昭52−094702(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/18
E04B 1/41
F16B 1/00
F16B 45/00
E04G 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内方に球体保持空間を備え、建築構造物の天井部内に固定され、天井部の室内側下面に開口部を有するホルダーと、
前記ホルダーの球体保持空間で回動可能に保持され、前記開口部に露出する取着部が形成された球体とを備え、
前記取着部には前記球体の下方で吊支される吊支対象物を連結する吊支具が取着されるインサートであって、
前記ホルダーに球体の回動を規制する規制手段が設けられ、前記球体に球体を回転させる強大な回転力が加わった時に、前記規制手段により規制されていた前記球体の回動規制を解除する解除手段を備えていることを特徴とするインサート。
【請求項2】
前記規制手段を、前記ホルダーに前記球体を仮止めして回動規制させる仮止め部材で構成し、
前記解除手段を、前記球体に強大な外力が加わった時の外力で前記仮止め部材により仮止めされた部分を破断させて前記球体を回動許容させる構成としたことを特徴とする請求項1に記載のインサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物の天井部に吊りボルトにて吊支される空調設備、配管或いは軽天井等を吊支するインサートに関する。
【背景技術】
【0002】
天井吊下型の室内機のような空調設備や配管或いは軽天井等は、従来、建築構造物の天井部に打ち込まれたアンカーに長尺の吊りボルトの上端の螺子部を螺着し、その下端部の螺子部を空調設備や配管等の取付金具や配管バンドの取付部に螺着し、これらを天井から吊下げていた。このような状態で地震が入力すると、空調設備や配管或いは軽天井などの負荷は大きく揺れる。揺れが大きく且つ長く繰り返して入力した場合には、吊りボルト上端の螺子部のアンカー螺入部分と非螺入部分の境目(図6,7の(P)で示す部分に相当)に大きな繰り返し応力(曲げモーメント)が働き、この部分には雄ネジが刻設されていることもあって応力集中が螺子の谷に発生して急速に疲労し、この部分から疲労破断を生じてこれら負荷が落下するという事故が発生した。
【0003】
そこで、このような対策として、特許文献1のようなスラブ(C)の吊り支持用のインサートナット(8)と吊ボルト(4)間に介設して、吊ボルト(4)の垂直と斜め吊りを自在としたジョイント金具が提案された(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−287615号公報(第7頁、図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このジョイント金具は強度の問題を考慮すれば当然前記負荷(W)の吊り下げ用にも転用できるもので、帯状金属板をプレス加工によって側面開口一体のボックス状にして天壁(1a)を湾曲してその交差方向に長孔(1b)を有する金具本体(1)と、その底壁(1c)に固定した固定ナット(2)と、長孔(1b)の縁部に球面の回転支持部(3a)を対接して金具本体(1)を支持する支持ボルト(3)を備えて、支持ボルト(3)を吊支持用のインサートナット(8)に螺装し、ジョイント金具を介してこのインサートナット(2)に吊ボルト(4)を吊り下げる。金具本体(1)は支持ボルト(3)の回転支持部(3a)に係止されて回転と揺動可能であり、また金具本体(1)と支持ボルト(3)は長孔(1b)の範囲で相対位置可変であるから、吊ボルト(4)の吊り支持を角度自在とすることができ、地震入力時に負荷(W)が自由に揺れ動くようになっていて前述の場合と比べて支持ボルト(3)のスラブ(C)からの露出境界部分(P)に加わる曲げモーメント(M)が小さくなるようにしている。
【0006】
しかしながら、地震が通常の大きさである場合は負荷(W)の揺れはさほど大きくなく、負荷(W)によって吊ボルト(4)に生じる張力(F)の水平方向の分力(Fx)は小さく、前述のように露出境界部分(P)に加わる曲げモーメント(M)は小さい。処が、巨大地震が発生し、負荷(W)が45°を越え水平方向近くまで振られ、且つ、大きな衝撃荷重が加わると、吊ボルト(4)に生じる張力(F)の水平方向の分力(Fx)は衝撃的に急増し、且つ、繰り返して揺さ振られるため前記露出境界部分(P)に過大且つ衝撃的な曲げモーメント(M)が加わることになる。特に、支持ボルト(3)の露出長が大きくなればなるほどこの曲げモーメント(M)は過大且つ衝撃的に大きくなって露出境界部分(P)の螺子の谷部に強烈な金属疲労を生じさせ、該部分(P)の疲労破断を短時間に生じさせる。
【0007】
この対策の1つとして支持ボルト(3)を太くしてその強度を高めることが考えられるが、支持ボルト(3)の強度を高めると支持ボルト(3)の周囲のスラブ(C)が破損してしまうことになり、支持ボルト(3)の強度を高めることにも限界があった。
【0008】
また、支持ボルト(3)に加わる外力を軽減できるように該支持ボルト(3)の下端部に球面の回転支持部(3a)を形成し、その下方の金具本体(1)との間で金具本体(1)がこの球面に揺動且つ回動接触できるように構成しているが、支持ボルト(3)に形成できる球面の大きさにも限界があって球面の接触面積も支持ボルト(3)に応じた大きさにせざるを得ず、該支持ボルト(3)の構造上、接触支持する部分が局部的にならざるを得ず、通常の地震では兎も角、巨大地震から受ける大きな衝撃や揺れ等に対して十分に対処できず、この部分でも破壊されてしまう。
【0009】
そこで本発明は、巨大地震による強大な振動エネルギーによる外力が減震用吊支部分に入力しても、これが曲げモーメントとして働かず、単に張力としてのみ加わるようにして吊支部分のみならずスラブ自体にもダメージを与えない信頼性および安全性の高いインサートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載した発明は、
「内方に球体保持空間(23)を備え、建築構造物の天井部(70)内に固定され、天井部(70)の室内側下面(70a)に開口部(22k)を有するホルダー(20)と、
前記ホルダー(20)の球体保持空間(23)で回動可能に保持され、前記開口部(23k)に露出する取着部(32)が形成された球体(30)とを備え、
前記取着部(32)には前記球体(30)の下方で吊支される吊支対象物(W)を連結する吊支具(50)が取着されるインサート(10)であって、
ホルダー(20)に球体(30)の回動を規制する規制手段(40)が設けられ、前記球体(30)に球体(30)を回転させる強大な回転力が加わった時に、前記規制手段(40)により規制されていた前記球体(30)の回動規制を解除する解除手段(60)を備えている」ことを特徴とするインサート(10)である。
【0011】
この発明では、ホルダー(20)内に回動可能に保持された球体(30)の取着部(32)に吊支対象物(W)を連結して吊り下げる吊支具(50)が取着されるので、巨大地震が入力して吊支対象物(W)が大きく且つ繰り返して揺れたとしても、吊支具(50)を介して吊支対象物(W)がぶら下った状態で球体(30)が球体保持空間(23)内をあらゆる方向に対して自由に回動する。その結果、球体(30)に対しては張力(F)のみが加わる事になり、従来のインサート(10)が受けていて破断の原因となった強大な曲げモーメント(M)を回避することができる。
【0012】
また、解除時にこの解除手段(60)に働く強大な回転力の一部が減殺されて吊支対象物(W)の揺れを小さくする(減震する)ことになる。なお、ホルダー(20)による球体(30)の回動規制によって吊支具(50)を球体(30)に容易に取り付けることもできる。
【0013】
請求項に記載した発明は、「前記規制手段(40)を、前記ホルダー(20)に前記球体(30)を仮止めして回動規制させる仮止め部材で構成し、
前記解除手段(60)を、前記球体(30)に強大な外力が加わった時の外力で前記仮止め部材により仮止めされた部分(61)を破断させて前記球体(30)を回動許容させる構成とした」ことを特徴とする。


【0014】
この発明では、規制手段(40)として用いられる仮止め部材に、例えばホルダー(20)と球体(30)とを連結する連結ピン(41)で構成することができる。また、解除手段(60)としては仮止め用の連結ピン(41)を外力発生時にその外力によって切断させ、ホルダー(20)と球体(30)との連結部間を破断させればよい。このような破断可能な構造を持たせることにより、球体(30)に強大な外力が加わった時は、それまで連結していた仮止め力を解除させてホルダー(20)と球体(30)とが連結されていた状態を解除し、球体(30)を自由に回動許容させることができる。この仮止め力の解除、換言すれば連結ピン(41)の破断が前述の減震効果を生じる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、球体(30)に巨大地震のような外部から強い振動や衝撃荷重などの過大な外力が加わっても、その外力が加わった方向に対応して球体(30)が回動して球体(30)には張力(F)のみが加わる事になり、このインサート(10)やインサート(10)を埋設している天井部(70)にダメージを与えない。このため、大地震が発生しても空調設備、配管、軽天井等の様々な吊支構造物を確実に保持して落下するおそれがなくなり、安全性を確保した信頼性の高いインサートとして広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明のインサートを示す平面図である。
図2】この発明のコンクリートパネルに取り付けられたインサートを示す正面図である。
図3図1のA-A線矢視断面でのインサートを分解して示す縦断面図である。
図4】この発明のインサートを示す底面図である。
図5】この発明のインサートの使用状態を示す要部縦断面図である。
図6】従来のインサートの使用状態を示す一部を断面した正面図である。
図7図6の直角方向の要部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に従って説明する。図1乃至図5は本発明にかかる一実施例のインサート(10)を示している。このインサート(10)は、ホルダー(20)と、球体(30)と、必要に応じて設けられる規制手段(40)並びにその解除手段(60)とを備えて構成される。
【0018】
前記ホルダー(20)は、球体(30)を収納可能な二つ割の金属又は硬質の樹脂材で構成することができる。その構成は、図3に示すように上下に分割した上ホルダー(21)と下ホルダー(22)を上下一対に組み合わせて構成される。そして、これらのホルダー(21)(22)を組み合わせることで内方に球体保持空間(23)が備えられる。
【0019】
上ホルダー(21)は、球体保持空間(23)の上半球を形成する半球形状を有し、この半球形状で囲まれる内方に上半球空間(23a)が形成されている。さらに、上ホルダー(21)の外周面下部には、図1に示すように周方向を3等分して径方向に突出する3方向の取付ベース(21a)を有している。これらの取付ベース(21a)は平面視で長方形状を有し、その中央部には上下方向に貫通するビス孔(21b)を有している。また、上ホルダー(21)の下部には上ホルダー(21)の合わせ面(21d)及び上半球空間(23a)に開口する、後述する規制手段(40)用の溝状の連結部(21c)を有している。
【0020】
下ホルダー(22)は、上ホルダー(21)の上半球空間(23a)に対応して開口された下半球空間(22a)と、吊支具(50)との接続用に開口された円錐台形の回動許容空間(22b)とを上下に連通して開口されている。回動許容空間(22b)は吊支部(50)の一部である例えば吊ボルト(51)の上部(本実施例では雄ネジ部)が連結される連結部分の振れ幅に対応する接触回避空間として円錐台形の空間となっている。そして、回動許容空間(22b)に繋がる下半球空間(22a)の開口が吊支部(50)の一部である例えば吊ボルト(51)の上部が挿入される開口部(22k)である。
【0021】
さらにこの下ホルダー(22)にも、図4に示すように上述の上ホルダー(21)の取付ベース(21a)の下方に同形状を有して対応し、周方向を三等分して径方向に突出する3方向の取付ベース(22c)と、これらの取付ベース(22c)の中央部を上下方向に貫通するビス孔(22d)とを有している。また、上ホルダー(21)の取付ベース(21a)と下ホルダー(22)の取付ベース(22c)の外周囲は上部から下部にかけて先細となる(換言すれば、回動許容空間(22b)の下面開口方向に行くに従って次第に横断面の面積が小さくなる)ように傾斜させた勾配面(K)を有している。この勾配面(K)により、インサート(10)をコンクリートスラブ(C)で覆って固定した際に、図5に示すようにホルダー(20)の勾配面(K)がコンクリートスラブ(C)によって下方に対する抜け止め抵抗となり、埋設されたインサート(10)の設置性および埋設後の安定性が高められる。
【0022】
球体(30)は、ホルダー(20)の球体保持空間(23)に収納されて回動可能な球形を有している。さらに、球体(30)と吊支具(50)との接続性を考慮して該球体(30)は、下部を水平に除去した水平切欠部(31)を形成し、この水平切欠部(31)の下面中央に例えば雌ねじ部が形成された取着部(32)を穿設している。この取着部(32)に吊支具(50)の一部として利用される吊ボルト(51)の例えば雄ねじ部が形成された上部を螺着させて連結するようにしている。なお、この球体(30)は樹脂材あるいは金属材により構成することができる。さらに、この球体(30)に吊りボルト(51)を螺着する際に、球体(30)を回動規制をさせるための規制手段(40)が球体(30)に対して後述するように必要に応じて備えられている。そのために、水平切欠部(31)に平行で球体(30)の赤道ライン(換言すれば、もっとも直径の大である周面)上の対向位置に盲穴状の連結部(30a)が必要に応じて設けられる。
【0023】
上述の規制手段(40)は、本実施例では連結部(21c)(30a)とこれらに挿入される連結ピン(41)とで構成される。勿論、球体(30)の仮固定が出来るようなものであればこれらに限られることはない。連結部(21c)(30a)は図5にも示すように、インサート(10)を組み立てた際にホルダー(20)と球体(30)とが水平軸線上で重なる部分をそれぞれ略同径に穿設したものである。
【0024】
連結ピン(41)は上述の連続する連結部(21c)(30a)に水平に圧入可能な外径を有し、この連結ピン(41)を外方から水平に球体(30)の連結部(30a)に圧入し、この状態で上ホルダー(21)の合わせ面(21d)に開口している開口から挿入し、続いて上ホルダー(21)に下ホルダー(22)を合わせるようにして球体保持空間(23)に球体(30)を保持させ、上ホルダー(21)と下ホルダー(22)とを例えば接着のような手段で一体化する。連結部(21c)(30a)は球体(30)を両側に備えられており、連結ピン(41)にて球体(30)を両側で均一に支持且つ球体(30)の回動を規制するように構成している。
【0025】
吊支具(50)は上方の球体(30)とその下方で吊支される配管や図示しない空調設備等の吊支対象物(W)との上下間を連結するものであり、上部には球体(30)との連結部となる例えば長尺の吊ボルト(51)が備えられている。そして、この吊ボルト(51)の上部雄ネジ部が球体(30)の下面に形成されている取着部(32)に螺着されて連結される。また、吊支具(50)の下部には連結金具(52)を介して配管、その他の空調設備、消火機器設備、軽天井等の様々な吊支対象物(W)に連結される。
【0026】
解除手段(60)は、一例として上述の連結ピン(41)の外周の一部に切断促進用の断面V字形の切欠溝(61)を形成すれば、解除機能を持たせて構成することができる。切欠溝(61)を形成する位置は連結ピン(41)を球体(30)に圧入した際に、この連結ピン(41)の切欠溝(61)が上ホルダ(21)と球体(30)との間に設定する。この連結ピン(41)の切断に対しては地震入力時の強大な外力にて連結ピン(41)を切断させるため、小径の連結ピン(41)で構成するのが好ましく、このほか切断され易い形状の部材あるいは切断に適した材質(硬質樹脂棒やアルミニウム棒など)で構成するとよい。なお、規制手段(40)は連結ピン(41)のようなものに限られず、吊支具(50)の装着時に球体(30)が回動しないようなものであれば良く、また、解除手段(60)は切欠溝(61)に限られず、地震による振動が入力した際にその振動エネルギーにより規制が解除されるようなものであればよい。更には、球体(30)への吊支具(50)の取り付けに例えば取着部(32)に挿入するだけで嵌め殺しのように装着できるような構造のものであれば、必ずしも規制手段(40)は必要としない。
【0027】
そして、このように組み立てられたインサート(10)をコンクリートパネル(26)上に載せ、その状態で上方からビス孔(21b)(22d)にビスや釘或いは樹脂釘等の取着部材(27)を打ち込んでコンクリートパネル(26)上に所定間隔で取着するものである。さらに、コンクリートパネル(26)上に取着した後は、このコンクリートパネル(26)を用いて躯体の天井部分の枠組みを行い、配筋後、コンクリートを打設してコンクリートパネル(26)の上面およびインサート(10)の全部をコンクリートで覆って固定するものである。コンクリートが固まるとコンクリートパネル(26)を取り除き、取着部材(27)のコンクリートスラブ(C)から突出している突出部分を切断する。
【0028】
そして、連結ピン(41)を破断させないような力で吊ボルト(51)の上部雄ねじ部を螺着し、続いて下端に設けられた連結金具(52)を介して配管、その他の空調設備、消火機器設備、軽天井等の様々な吊支対象物(W)を連結してぶら下げる。
【0029】
この状態で巨大地震に見舞われると、地震の入力と共に吊支対象物(W)が左右に大きく揺れ且つ衝撃力がインサート(10)に強大な外力として加わる。この時、固定された上ホルダー(21)と回動しようとする球体(30)との連結部分に大きな剪断力が生じて連結ピン(41)は切欠溝(61)が形成された境界位置で切断されて、地震エネルギーの一部を熱に変換し、減震効果を発揮する。そして回動規制が解除された球体(30)は強大な外力を受けてそのまま自由に回動するようになる。この回動は球体(30)を中心にして行われるため、球体(30)には張力(F)しか掛からず、破損の原因となる曲げモーメント(M)が発生することはない。その結果、地震の破壊エネルギーによる張力(F)がインサート(10)の取付部分の強度(コンクリートスラブ(C)も含めて)を越えない限りインサート(10)の破損はない。
【0030】
なお、インサート(10)の他例として、図3の仮想線で示すように、上下ホルダー(21)(22)と球体(30)との間に半球状の例えば樹脂製の滑りベアリング(24)(25)を設けるようにしてもよい。上ベアリング(24)は、上ホルダー(21)の半球空間形状より一回り小さい上半球殻形状を有して上ホルダー(21)の上半球空間(23a)の内周面に沿って配設される。そして、下部の対向両端に孔状の連結部(24a)が形成されている。この上ベアリング(24)は、その内周面で球体(30)の上半球部分を包み込むように球面接触して保持する。また、下ベアリング(25)は、下ホルダー(22)の下半球空間(22a)の内周面に沿う断面円弧の殻形でその上面と下面が水平方向に平行して輪切り状に切除され上下両面が開口している。この下ベアリング(25)の内周面で球体(30)の下半球部分を包み込むように球面接触して保持する。
【0031】
そして、上ホルダー(21)に上ベアリング(24)を収納し、下ホルダー(22)に下ベアリング(25)を収納させて上下のベアリング(24)(25)が対向して形成される球形の空間に球体(30)を収納させる。この際、球体(30)はこれらの上下のベアリング(24)(25)により略全周面が接触して保持された状態となる。そして、上ベアリング(24)と球体(30)の孔状の連結部(24a)(30a)を水平方向に位置合わせした後、ここに共通する1本の連結ピン(41)を圧入して両部材を一体化する。然る後、前述のように上ホルダー(21)の溝状の連結部(21c)に連結ピン(41)の突出部分を嵌め込む。
【0032】
このように球体(30)を保持した上ホルダー(21)の合わせ面(21d)に下ホルダー(22)を合わせて例えば接着して一体化する。なお、ベアリング(24)(25)を摩擦係数の高い材料(例えば硬質エラストマ)で構成しておけば、回動時に球体(30)の表面やホルダー(20)の内面との間である程度の摩擦が生じて地震の振動エネルギーの一部を消費し、減震効果を発揮する。この点はベアリング(24)(25)を用いない場合でも同様で、球体(30)又はホルダー(20)のいずれかに摩擦係数の高い材料(例えば硬質エラストマ)を使用することで、球体(30)とホルダー(20)との接触部分にある程度の摩擦を生じさせることが出来る。使用法は前述と同様である。なお、この発明の構成と、上述の実施例の構成との対応において、この発明の構成は請求項に記載される技術思想に基づいて構成することができ、実施例の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
10…インサート
20…ホルダー
23…球体保持空間
30…球体
40…規制手段
50…吊支具
60…解除手段
70…天井部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7