特許第5964607号(P5964607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964607剥離層付き支持体、基板構造、および電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964607
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】剥離層付き支持体、基板構造、および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20160721BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
   H01L21/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-29814(P2012-29814)
(22)【出願日】2012年2月14日
(65)【公開番号】特開2013-168445(P2013-168445A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】堀井 越生
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−013127(JP,A)
【文献】 特開2013−080857(JP,A)
【文献】 特開2013−026546(JP,A)
【文献】 特開平08−086993(JP,A)
【文献】 特開2007−251080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に形成された剥離層と、
前記支持体および前記剥離層上に形成される樹脂材料からなるフレキシブル基板とを備え、
前記支持体と前記剥離層との密着力が、前記フレキシブル基板と前記剥離層との密着力よりも高く、
前記剥離層の材料は、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Si(窒化ケイ素)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記剥離層と前記樹脂材料との密着力は、90°ピール強度が0.1N/cm以下であり、
前記90°ピール強度は、ASTM D1876−01規格に準拠して、23℃55%RH条件下、引張速度20mm/minにて20mm引き剥がした場合のピール強度の平均値であることを特徴とする基板構造。
【請求項2】
前記フレキシブル基板となる樹脂材料は、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の基板構造。
【請求項3】
支持体と、
前記支持体上に形成された剥離層とを備え、
前記剥離層の材料は、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、樹脂材料からなるフレキシブル基板を剥離層上に形成するための剥離層付き支持体:
前記樹脂材料からなるフレキシブル基板は、前記剥離層との密着力が、90°ピール強度が0.1N/cm以下であり、
前記90°ピール強度は、ASTM D1876−01規格に準拠して、23℃55%RH条件下、引張速度20mm/minにて20mm引き剥がした場合のピール強度の平均値である。
【請求項4】
支持体上に剥離層を形成する剥離層形成工程と、
前記支持体および前記剥離層の上に樹脂材料からなるフレキシブル基板を形成するフレキシブル基板形成工程と、
前記剥離層を前記支持体に保持させたまま、物理的な力を加えることによって前記フレキシブル基板を前記剥離層から分離する分離工程とを含み、
前記支持体と前記剥離層との密着力が、前記フレキシブル基板と前記剥離層との密着力よりも高く、
前記剥離層の材料は、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Si(窒化ケイ素)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記剥離層と前記樹脂材料との密着力は、90°ピール強度が0.1N/cm以下であり、
前記90°ピール強度は、ASTM D1876−01規格に準拠して、23℃55%RH条件下、引張速度20mm/minにて20mm引き剥がした場合のピール強度の平均値であることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記フレキシブル基板形成工程では、前記フレキシブル基板の面積を前記剥離層の面積より大きく形成し、
前記分離工程では、前記剥離層の周縁部に沿って、または前記剥離層の周縁部の内側で前記フレキシブル基板を切断し、前記フレキシブル基板を前記剥離層から分離することを特徴とする、請求項4に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造方法に関し、より詳細には電子デバイスの製造に適用される剥離層付き支持体、基板構造、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには曲げるという機能付与や薄型化および軽量化といった性能が求められていることから、電子デバイス基板としてはガラス基板に代わり樹脂フィルムを利用する市場ニーズがある。そこで、樹脂フィルムを基板とした電子デバイスの製造方法が各種検討され始めており、既存のTFT設備を転用可能なバッチタイプのプロセスでの製造検討が主に進められている。バッチタイプでの製造プロセスでは、ガラス基板上にアモルファスシリコン薄膜層を形成し、その薄膜層上にプラスチック基板を形成した後に、ガラス面側からレーザーを照射して、アモルファスシリコンの結晶化に伴い発生する水素ガスによりプラスチック基板をガラス基板から剥離する方法(特許文献1)、ガラス基板上に有機化合物を含む剥離層を形成し、その剥離層面上にプラスチック基板を形成した後にガラス基板を剥離する方法(特許文献2)、ガラス基板上にモリブデン膜、及び酸化モリブデン膜を形成した後、さらに非金属無機膜を形成し、プラスチック基板を形成した後にガラス基板から剥離する方法(特許文献3)、ガラス基板上に窒化物層及び酸化物層からなる被剥離層を形成し、窒化物層と酸化物層の界面において、剥離を実施する方法(特許文献4)、基板上に剥離層を形成し、エッチングガスの雰囲気下、力を加えて剥離層上に設けられた被剥離層を基板から剥離する方法(特許文献5)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005/050754号パンフレット
【特許文献2】特開2010−067957号公報
【特許文献3】特開2008−211191号公報
【特許文献4】特開2003−174153号公報
【特許文献5】特開2006−279031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1におけるレーザー照射を用いる手法では、設備の大型化への対応やレーザー処理に長時間を要するという問題がある。また、特許文献2における剥離層を用いた引き剥がしの手法ではTFTの性能発現及び信頼性を確保するために必要な高温プロセスへの適用ができないことや、剥離層の材料がガラス基板上に残存しないため、ガラス基板を連続使用する場合に剥離層を再形成する必要があり、製造プロセスが煩雑になるという問題がある。更に、特許文献3、4においては、2種の材料からなる剥離層の界面で剥離するため、特許文献2同様、ガラス基板を連続使用する場合に剥離層を再形成する必要ならびにプラスチック基板上に剥離層が残存するためTFT回路を形成した後の製品異物の原因となるという問題を有している。特許文献5は、エッチングガスを用いていることからTFT回路を形成している材料自体が反応することにより性能低下を招く恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑みて、本発明の目的は、レーザー照射工程が不要であり、かつ樹脂フィルム側に不要な剥離層が残らず、高温プロセスへの適用が可能な電子デバイスに適用される基板構造、剥離層付き支持体、および、電子デバイスの製造方法を提供することにある。即ち、本発明は、以下に関する。
1.支持体と、支持体上に形成された剥離層と、支持体および剥離層上に形成される樹脂材料からなるフレキシブル基板とを備え、支持体とフレキシブル基板との密着力が、フレキシブル基板と剥離層との密着力よりも高い密着力を有することを特徴とする基板構造。ここでいう密着力とは、ASTM D1876−01規格に準拠して、23℃55%RH条件下、引張速度20mm/minにて20mm引き剥がした場合のピール強度の平均値をいう。
2.剥離層がMo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Si(窒化ケイ素)から選ばれる少なくとも1種の材料であることを特徴とする上記1に記載の基板構造。
3.フレキシブル基板となる樹脂材料がポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする上記1または2に記載の基板構造。
4.支持体と、支持体上に形成された剥離層とを備え、剥離層の材料は、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Si(窒化ケイ素)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする剥離層付き支持体。
5.支持体上に剥離層を形成する剥離層形成工程と、支持体および剥離層の上に樹脂材料からなるフレキシブル基板を形成するフレキシブル基板形成工程と、剥離層を支持体に保持させたまま、物理的な力を加えることによってフレキシブル基板を支持体および剥離層から分離する分離工程とを含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
6.フレキシブル基板形成工程では、フレキシブル基板の面積を剥離層の面積より大きく形成し、分離工程では、剥離層の周縁部に沿って、または剥離層の周縁部の内側でフレキシブル基板を切断し、フレキシブル基板を支持体および剥離層から分離することを特徴とする、上記5に記載の電子デバイスの製造方法。
7.上記5または6に記載の電子デバイスの製造方法により製造される電子デバイス。
【発明の効果】
【0006】
本発明による電子デバイスは、既存のTFT製造設備を用いて簡便に製造することが可能となる。また、剥離層が支持体上に残存するため、剥離層および支持体の連続使用を含めたプロセスの簡略化、ならびに製品への剥離層由来の異物混入を防ぎ、TFT基板構造の軽量化を実現することができる。更には、フレキシブル基板の面積を剥離層の面積より大きく形成し、樹脂材料と支持体とを接触させることにより、TFT製造工程中に確実にフレキシブル基板が剥がれず、分離工程では、剥離層の周縁部に沿って、または剥離層の周縁部の内側でフレキシブル基板を切断することにより、容易にフレキシブル基板を剥離層から引き剥がし、電子デバイスを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の断面図である。
図2】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の製造方法を説明する断面図である。
図3】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の製造方法を説明する俯瞰図である。
図4】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の製造方法を説明する断面図である。
図5】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の製造方法を説明する俯瞰図である。
図6】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の製造方法を説明する断面図である。
図7】本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造の製造方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明を詳しく説明する。
【0009】
本発明の1実施形態による電子デバイスに適用される基板構造を図1に示す。基板構造1は支持体10、剥離層11およびフレキシブル基板12を含む。なお、フレキシブル基板12を含まず、支持体10および剥離層11を含むものを剥離層付き支持体2という(図2参照)。
【0010】
剥離層11は、支持体10上に面積A1で形成される(図3参照)。フレキシブル基板12は、剥離層11および支持体10上に面積A2で形成される(図5参照)。ここで、面積A2が面積A1よりも大きく、かつ、フレキシブル基板12が支持体10に直接接触している箇所が必要となる。
【0011】
また、剥離層11と支持体10との密着力は、フレキシブル基板12の剥離層11に対する密着力より高い。ここでいう密着力とは、ASTM D1876−01規格に準拠した90°ピール強度測定方法により測定したピール強度値(以下、「90°ピール強度」という)をいう。
【0012】
支持体10として、特に限定されないが、例えば、ガラス、シリコンウェハー、金属板が挙げられ、既存のTFT製造設備への適用性ならびにTFTの性能発現の観点から、ガラス基板が好ましく、その中でも無アルカリガラス基板がより好ましい。
【0013】
剥離層11の材料としては、剥離層11と支持体10との密着力が、後述するフレキシブル基板12と剥離層11との密着力より高いものであれば、どのような材料でもよい。特に、剥離層11の材料としては、高温プロセスへの適用性の観点から、高耐熱性、および支持体10と同等の低線膨張係数を有する材料が好ましい。支持体10として無アルカリガラスを用いた場合、その線膨張係数は一般的には3ppm/K〜10ppm/Kであり、線膨張係数ならびに密着力の観点から、Mo(モリブデン)、Ni(ニッケル)、Si(窒化ケイ素)から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましく、大気中での保存安定性や繰り返し利用性の観点から、特にSiがより好ましい。
【0014】
また、剥離層11とフレキシブル基板12との密着力は、剥離時のカールを軽減する観点から90°ピール強度が0.1N/cm以下であることが好ましい。また、剥離層11と支持体10との密着力は、後述する連続使用の観点から90°ピール強度が0.3N/cm以上であることが好ましく、0.4N/cm以上であることが更に好ましい。90°ピール強度が0.1N/cm以下の場合、引き剥がした後のフレキシブル基板12がカールしにくい。なお、ここで記述した90°ピール強度は、ASTM D1876−01規格に準拠して、23℃55%RH条件下、引張速度20mm/minにて20mm引き剥がした場合のピール強度の平均値を指す。
【0015】
剥離層11は、公知の技術によって形成可能であり、例えば、スパッタリング法、蒸着法、CVD法やナノ粒子のインク塗布による手法によって形成することができる。
【0016】
フレキシブル基板12は、可とう性を有する樹脂材料からなるものであればどのようなものでもよいが、高温プロセスへの適用性の観点から、高耐熱性、および支持体10と同等の低線膨張係数を有する材料からなるものが好ましい。支持体10として無アルカリガラスを用いた場合、フレキシブル基板12を形成する樹脂材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールから選ばれる少なくとも1種を含む材料が好ましい。特に、耐熱性や線膨張係数の点から、ガラス転移温度が300℃以上であり、0℃から樹脂組成物のガラス転移温度以下の領域において線膨張係数が20ppm/K以下であるポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールから選ばれる少なくとも1種を含む材料が好ましい。このような材料としては、例えば、特開2010−202729号公報の明細書に記載のポリイミド、WO2011/065131号の明細書に記載のポリアミドイミド、特開2006−35628号公報明細書に記載のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール等が挙げられる。
【0017】
フレキシブル基板12は公知の技術によって形成可能であり、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等により流延して塗工し、引き続いて乾燥することにより形成することが可能である。更に、樹脂材料を溶媒に溶解して流延塗工する以外に、樹脂材料の前駆体となる樹脂材料溶液を流延塗工し、乾燥工程中に反応を完結させることによりフレキシブル基板12を形成しても良い。
【0018】
本発明のフレキシブル基板12の厚みは、特に限定されないが、基板フィルムとして必要な機械強度の確保する観点、および、支持体10との密着性を安定的に確保し、電子デバイスを形成する前に自然剥離することを抑止する観点から、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0019】
フレキシブル基板12を形成する樹脂材料には、支持体10および剥離層11との密着力を調整するために必要に応じてシラン系カップリングやチタン系カップリン剤等を添加しても良いし、線膨張係数の低減を図るために無機化合物や有機化合物からなるフィラー等を添加しても良く、更には樹脂材料の前駆体となる材料を用いる場合にあっては、反応を促進させるための触媒を添加しても良い。その他、必要に応じて、フレキシブル基板12を形成する樹脂材料には、レベリング剤や熱安定剤を添加しても良い。
【0020】
1実施形態による本発明の電子デバイスの製造方法に適用される基板構造1の製造方法を図2〜7に示す。
【0021】
図2図3を参照されたい。支持体10上に剥離層11が面積A1で形成される(剥離層形成工程)。剥離層11は、例えば、スパッタリング、蒸着、CVDまたは金属インクの塗布により支持体10上に形成可能である。面積A1で形成するには、スパッタリング時に不要となる部分をマスクしておくか、必要に応じてフォトリソ−エッチングにより剥離層11の形状を調整することが可能である。
【0022】
次に、図4図5を参照されたい。例えば塗布により、剥離層11および支持体10上に面積A2でフレキシブル基板12を形成する(フレキシブル基板形成工程)。注目すべきは、剥離層11と支持体10との密着力は、フレキシブル基板12と剥離層11との密着力より高い点である 。
【0023】
更に、フレキシブル基板12上に用途に応じた電子デバイスを積層する。例えば、フレキシブル基板12上にTFT素子を形成し、さらに表示素子を積層又は貼り合わせることにより液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の表示デバイスを形成することも可能であり、更にはフレキシブル基板12上に太陽電池やCMOS等の受光デバイス形成することも可能である。表示デバイスや受光デバイスなどを総称して、本出願では電子デバイスと定義する。
【0024】
次に、図6を参照されたい。なお、図6において、フレキシブル基板12上の電子デバイスは省略している。フレキシブル基板12を剥離層11の周縁部に沿ってカットし(図6中の一点鎖線)、図7に示すようにして、剥離層11を支持体10に保持させたまま、フレキシブル基板12を剥離層11から分離させる(分離工程)。なお、フレキシブル基板12を、剥離層11の周縁部の内部でカットしてもよい。
【0025】
物理的な力を加えてフレキシブル基板12を剥離層11から引き剥がすことで、フレキシブル基板12を剥離層11から分離させることができる。フレキシブル基板12を剥離層11から分離させる方法は、物理的な力を加える方法であれば特に限定されないが、例えば、駆動ロールによる巻き取りや引き剥がす方法、粘着シートや吸着パッドを利用した引き剥がす方法、端面からエアを噴きつけながらの引き剥がす方法、人の手によって引き剥がす方法などが挙げられる。
【0026】
本発明ではフレキシブル基板12の分離後、フレキシブル基板12の一部であった不要部13が支持体10に密着したままの状態となる(図7参照)。このとき、例えば、上記と同様に、エアの噴きつけや人の手などによる物理的な力を加えることで、不要部13を支持体10から引き剥がすことができる。なお、不要部13を水中に浸漬して膨潤させ、不要部13と支持体10との密着力を低減させてから、不要部13を支持体10から引き剥がしてもよい。
【0027】
不要部13が支持体10から引き剥がされた後、剥離層付き支持体2は、剥離層11が支持体10に積層したままである。そのため、この剥離層付き支持体2は、剥離層11を再度積層することなく、フレキシブル基板12の形成および分離に繰り返し用いられることができる。すなわち、この剥離層付き支持体2は連続使用することができる。
【0028】
次に、剥離層付き支持体2の連続使用について詳しく説明する。不要部13が支持体10から引き剥がされた後の剥離層付き支持体2を連続使用する場合、まず、異物の要因となるパーティクル除去のために、水による洗浄(水洗工程)が必要となる。水洗工程としては、例えば、純水による超音波洗浄などが行われる。剥離層付き支持体2は、剥離層11と支持体10との密着力が従来品よりも高いため、水洗工程を繰り返しても剥離層11が支持体10から剥離しにくい。水洗工程後、フレキシブル基板形成工程を行ってフレキシブル基板12を形成する。そして、分離工程を行って、フレキシブル基板12を剥離層付き支持体2から分離する。これら3つの工程である、水洗工程、フレキシブル基板形成工程、分離工程を順番に繰り返し行うことで、剥離層付き支持体2が連続使用されることになる。
【0029】
また、剥離層付き支持体2を連続使用したときの剥離層11とフレキシブル基板12との密着力は、連続使用を行う前の値に比べて殆ど変化しない。そのため、密着力が変化しない点からも、この剥離層付き支持体2は、連続使用に適している。
【0030】
水洗工程において剥離層11が支持体10から剥離することを抑制するという観点から、剥離層11としてSi(窒化ケイ素)を用い、支持体10としてガラスを用いることが好ましい。水洗工程や、空気中での保存において、Siを用いた剥離層11の表面状態は変化しにくい。そのため、この剥離層付き支持体2を連続使用するとき、剥離層11は支持体10から剥離しにくい。
【0031】
本発明による電子デバイスでは、既存のTFT製造設備を用いて簡便に製造することが可能となり、剥離層11が支持体10上に残存する。そのため、剥離層11および支持体10(剥離層付き支持体2)の連続使用を含めたプロセスの簡略化、ならびに製品(フレキシブル基板12)への剥離層11由来の異物混入を防ぎ、TFT基板構造の軽量化を実現することができる。更には、フレキシブル基板12の面積を剥離層11の面積より大きく形成し、フレキシブル基板12の樹脂材料と支持体10とを接触させることにより、TFT製造工程中にフレキシブル基板12が支持体10から剥がれることを防ぎ、分離工程では、剥離層11の両端又は内側の部分に沿ってフレキシブル基板12を切断することにより、容易にフレキシブル基板12のみを引き剥がし、電子デバイスを得ることが可能となる。
【0032】
本発明による基板構造1では、フレキシブル基板12と剥離層11との界面で、フレキシブル基板12を剥離することができる。そのため、フレキシブル基板12には、製品異物の原因となる剥離層11が残存しない。また、フレキシブル基板12を剥離後の支持体10上には、剥離層11が残った状態となる。この剥離層11が残った支持体10(剥離層付き支持体2)は、連続使用することができる。
【0033】
本発明における電子デバイスは、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池やCMOS等の受光デバイスとして好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
【0035】
(合成例)
<ポリイミド前駆体溶液の製造>
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、攪拌翼、窒素導入管を備えた容積2Lのガラス製セパラブルフラスコに、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミドを680g入れ、パラフェニレンジアミン(PDA)32.5gを加え、15分間攪拌した。溶液を水浴で25.0℃に冷却しながら、3,3’,4,4’―ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)43.9gを加え、原料が完全に溶解するまで10分間攪拌した。さらに溶液にBPDA43.4gを加え、2時間撹拌し、粘稠なポリアミド酸溶液PAA−1を得た。なお、この反応溶液におけるジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して15重量%となっていた。以下の条件で重量平均分子量(Mw)を測定したところ、Mwは72,000であった。
【0036】
【表1】
【0037】
(実施例1)
支持体10である無アルカリガラス(コーニング社製EagleXG、8cm角、0.7mm厚)の周囲を1cm幅のテープによりマスキングし、中央部(6cm角)のガラス表面を剥き出しにした。そして、マスキングした支持体10をスパッタリング装置(大阪真空機器製作所製MSR303S)内に入れた。スパッタリングターゲットとしてSiを用い、支持体10の温度を100℃とし、Ar及びNの流量をそれぞれ4ml/min、2ml/minとして、RF電源にて透過電力200W、反射電力2W、セルフバイアス(VDC)−0.51Vとなるように調整し、Siを製膜速度11.5nm/minにて反応性スパッタリングすることにより、支持体10上にSiからなる剥離層11を積層し、剥離層付き支持体2を得た。マスキングしたテープを全て剥がし取り、レーザー顕微鏡により膜厚を計測した結果、支持体10上に形成された剥離層11の膜厚は100nmであった。また、剥離層11と支持体10との密着力を評価するために、剥離層11上に電気テープ(ニチバン製No.690、粘着力2.37N/cm)を貼り付けた後に、電気テープを引き剥がしたが、剥離層11は支持体10に貼り付いたまま剥がれることはなかった。
【0038】
その後、合成例にて製造したポリイミド前駆体溶液をバーコーターにより乾燥厚みが20μmとなるように剥離層付き支持体2に流延塗工し、熱風オーブン内で125℃にて1時間乾燥し、次いで150℃にて30分間乾燥した。この剥離層付き支持体2とポリイミド前駆体との積層体を、さらに5℃/分で450℃まで徐々に昇温し、さらに10分間加熱して熱イミド化することで、Siの剥離層11が形成された支持体10上に、厚み20μmのポリイミドフィルムであるフレキシブル基板12を形成した積層体である基板構造1を得た。その後、剥離層11の周縁部に沿ってフレキシブル基板12をカットし、剥離層11からフレキシブル基板12が剥離することを確認した。フレキシブル基板12の剥離強度は、ASTM D1876−01規格に準拠して、フレキシブル基板12をカッターナイフにて10mm幅に切断し、東洋精機製引張試験機(ストログラフVES1D)を用いて、23℃55%RH条件下、引張速度20mm/minにてフレキシブル基板12を20mm引き剥がした場合の90°ピール強度(平均値)によって評価した。評価結果を表2に記載した。
【0039】
上記の様にして得られた本発明の積層体のフレキシブル基板12の線膨張係数ならびにガラス転移温度をエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製TMA/SS120CUを用い、引張荷重法による熱機械分析で評価した。試験片の大きさは10mm×3mmとし、長辺に3.0gの荷重を加え、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定したときの100℃〜300℃における単位温度あたりの試料の歪の変化量から線膨張係数を求めた結果、7ppm/Kであった。ガラス転移温度については明確なピークは存在せず、300℃以上と推定される。
【0040】
フレキシブル基板12の耐熱性は、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製TG/DTA220を用い、JIS7120に準じた熱重量分析で評価した。実施例のフレキシブル基板12を吸湿水分の影響を取り除いた後、窒素雰囲気下、5℃/分の昇温速度で測定したときの350℃時の重量減少率を読み取った結果、0.1wt%以下しか重量減少を観測することができず、十分な耐熱性を有していることが明らかとなった。
【0041】
また、剥離層付き支持体2の連続使用(再利用性)の評価を、次の手順にて行った。まず、上記の様にフレキシブル基板12を剥離したのちに、支持体10に付着したままとなっているフレキシブル基板12の一部であった不要部13を、水に浸漬して膨潤させた後に、手で引き剥がし、更に純水にて超音波洗浄を行った。なお、膨潤させて引き上げる際に、不要部13が自然に支持体10から剥がれる場合があった。引き続き、120℃の熱風乾燥機にて1時間乾燥して室温まで冷却した後に、再度、上記同手順にてポリイミド前駆体溶液をバーコーターにより乾燥厚みが20μmとなるように流延塗工し、熱イミド化を行うことによりポリイミドフィルムであるフレキシブル基板12を形成した積層体である基板構造1を得た。この基板構造1を上記同手順にて90°ピールを測定した。この操作を複数回繰り返し、連続使用(再利用)について評価した。評価結果を表3に示した。
【0042】
なお、既知の方法に従い、フレキシブル基板12上にTFT素子を形成し、さらに表示素子ならびにカバーフィルムを形成したのちに、剥離層11の周縁部に沿ってフレキシブル基板12をカットし、剥離層付き支持体2からフレキシブル基板12上に形成した電子デバイスを剥離した結果、電子デバイスがカールすることなく、良好に作動することを確認した。
【0043】
(実施例2)
下記以外は、実施例1と同様にして、基板構造1を得た。支持体10である無アルカリガラス(8cm角、0.7mm厚)の周囲を1cm幅のテープによりマスキングし、中央(6cm角)のガラス表面を剥き出しにした後、スパッタリング装置(大阪真空機器製作所製MSR303S)内に支持体10を入れた。スパッタリングターゲットとしてMoを用い、支持体10の温度を100℃とし、Arの流量を6ml/minとして、DC電源にて200Wの印加電力にて、Moを製膜速度33nm/minにてスパッタリングすることにより、支持体10上に剥離層11を積層した。マスキングしたテープを全て剥がし取り、レーザー顕微鏡により膜厚を計測した結果、支持体10上に形成されたMoからなる剥離層11の膜厚は100nmであった。また、剥離層11と支持体10との密着力を評価するために、剥離層11上に電気テープ(ニチバン製No.690、粘着力2.37N/cm)を貼り付けた後に、電気テープを引き剥がしたが、剥離層11は支持体10に貼り付いたまま剥がれることはなかった。
【0044】
剥離層付き支持体2上にフレキシブル基板12を形成し、基板構造1を得た。そして、剥離層付き支持体2からフレキシブル基板12のみが剥離することを確認した。フレキシブル基板12の剥離強度は90°ピール強度によって評価した。評価結果を表2に記載した。
【0045】
(実施例3)
下記以外は、実施例1と同様にして、基板構造1を得た。支持体10である無アルカリガラス(8cm角、0.7mm厚)の周囲を1cm幅のテープによりマスキングし、中央(6cm角)のガラス表面を剥き出しにした後、スパッタリング装置(昭和真空製NSP−6)内に支持体10を入れた。スパッタリングターゲットとしてNiを用い、支持体10の温度を50℃とし、Arの流量を17sccm、DC電源にて900Wの印加電力にて、Niを製膜速度28nm/minにてスパッタリングすることにより、支持体10上に剥離層11を積層した。マスキングしたテープを全て剥がし取り、レーザー顕微鏡により膜厚を計測した結果、支持体10上に形成されたNiからなる剥離層11の膜厚は100nmであった。また、剥離層11と支持体10との密着力を評価するために、剥離層11上に電気テープ(ニチバン製No.690、粘着力2.37N/cm)を貼り付けた後に、電気テープを引き剥がしたが、剥離層11は支持体10に貼り付いたまま剥がれることはなかった。
【0046】
剥離層付き支持体2上にフレキシブル基板12を形成し、基板構造1を得た。そして、剥離層付き支持体2からフレキシブル基板12のみが剥離することを確認した。フレキシブル基板12の剥離強度は90°ピール強度によって評価した。評価結果を表2に記載した。
【0047】
(比較例1)
下記以外は、実施例3と同様にして、基板構造を得た。スパッタリングターゲットがCuであり、スパッタリングの条件は、支持体10の温度を50℃とし、Arの流量を17sccm、DC電源にて400Wの印加電力、Cu製膜速度は24nm/minであり、Cuの積層膜厚は100nmであった。剥離層11と支持体10との密着力を評価するために、剥離層11上に電気テープ(ニチバン製No.690、粘着力2.37N/cm)を貼り付けた後に、電気テープを引き剥がしたところ、剥離層11は支持体10から剥がれる結果となった。実施例1と同様の手順にてフレキシブル基板12の剥離を試みたところ、剥離層11がフレキシブル基板12に張り付いた状態で、フレキシブル基板12は剥離層11と支持体10との界面で剥離した。
【0048】
(比較例2)
下記以外は、実施例3と同様にして、基板構造を得た。スパッタリングターゲットがCrであり、スパッタリングの条件は、支持体10の温度を50℃とし、Arの流量を17sccm、DC電源にて800Wの印加電力、Cr製膜速度は18nm/minであり、Crの積層膜厚は100nmであった。剥離層11と支持体10との密着力を評価するために、剥離層11上に電気テープ(ニチバン製No.690、粘着力2.37N/cm)を貼り付けた後に、電気テープを引き剥がしたが、剥離層11は支持体10に貼り付いたままであった。実施例1と同様の手順にてフレキシブル基板12のみを剥離することは可能であったが、剥離層11との密着力が非常に高く、剥離後のフレキシブル基板12はカールした。フレキシブル基板12の剥離強度は90°ピール強度によって評価した。評価結果を表2に記載した。
【0049】
【表2】
【0050】
実施例1〜3に係る基板構造1では、フレキシブル基板12を引き剥がしたときの90°ピール強度が0.1N/cm以下であり、フレキシブル基板12にカールが発生しなかった。これに対して、比較例1に係る基板構造では、剥離層11とフレキシブル基板12との間ではなく、支持体10と剥離層11との間で剥離した。また、比較例2に係る基板構造では、90°ピール強度が0.36N/cmであり、フレキシブル基板12にカールが発生した。
【0051】
【表3】
【0052】
実施例1に係る剥離層付き支持体2を3回連続使用(再利用)したが、いずれの場合もフレキシブル基板12を引き剥がしたときの90°ピール強度が0.1N/cm以下であり、フレキシブル基板12にカールが発生しなかった。
【符号の説明】
【0053】
1 基板構造
2 剥離層付き支持体
10 支持体
11 剥離層
12 フレキシブル基板
13 不要部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7