特許第5964653号(P5964653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964653
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】難燃性電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   H01G9/02 311
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-113735(P2012-113735)
(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公開番号】特開2013-243170(P2013-243170A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591180358
【氏名又は名称】東ソ−・エフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三村 英之
(72)【発明者】
【氏名】江口 久雄
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−021560(JP,A)
【文献】 特開平09−330854(JP,A)
【文献】 特開平06−283206(JP,A)
【文献】 特開2010−073595(JP,A)
【文献】 特開2008−091371(JP,A)
【文献】 特開2012−094491(JP,A)
【文献】 特開2012−164441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G9/02−9/022
9/028−9/035
H01M10/05−10/0587
10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化皮膜を設けた陽極箔と、陰極箔と、セパレータと、溶媒中に溶質を含有する電解液とからなる電解コンデンサであって、150℃以上で融解する樹脂内に下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、Rf〜Rfは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10のアルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも一つは含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルを封入したマイクロカプセル化難燃剤を、該電解コンデンサ素子内に含有し、
前記電解コンデンサ素子中の水分率は3〜7wt%であることを特徴とする難燃性電解コンデンサ。
【請求項2】
含フッ素リン酸エステルが下記一般式(2)
【化2】

(2)
(式中、Rf1’〜Rf3’は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の含フッ素アルキル基または炭素数1〜3のアルキル基を表し、且つRf1’〜Rf3’の少なくとも一つは含フッ素アルキル基である。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の難燃性電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに係り、特に電解液の燃焼が最小限に抑制され、且つ耐電圧特性に優れた難燃性電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、小型、大容量の特徴を有しており、各種電子機器、車両搭載機器等の構成部品の1つとして広く用いられている。電解コンデンサは、表面に酸化皮膜を有する陽極箔、陰極箔及びセパレータとを備え、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させた状態でこれらを巻回して得られる素子を電解液に浸漬してなる構造を有する。ここで電解液としては、エチレングリコール、γ−ブチロラクトン等の可燃性の有機溶媒にホウ酸やカルボン酸、或いはそのアンモニウム塩等を溶解した溶液が使用されている。
【0003】
このため、電解コンデンサに過大な電気ストレスが加えられて安全弁が作動した際、ショートなどで発生した火花によりガス化した電解液に引火し、素子が燃焼するおそれがある。
【0004】
電解コンデンサの用途の拡大に伴い、その安全性の要求が高まっており、電解コンデンサに難燃性を付与する検討が行われている。特許文献1、特許文献2では、難燃性のセパレータを用いる方法が開示されている。しかし、これらの方法は、電解コンデンサ自身の燃焼は抑制されるものの、安全弁から噴出した電解液成分の難燃化が困難である。一方、特許文献3、特許文献4では、電解液にリン酸トリメチルやリン酸トリエチルなどのリン酸エステルを添加して難燃性を付与し、電解液成分の燃焼を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−243089号公報
【特許文献2】特開2011−129773号公報
【特許文献3】特開平1−95512号公報
【特許文献4】特開平3−180014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
難燃剤としてリン酸トリメチルやリン酸トリエチルを使用した場合、十分な難燃効果を得るためには、難燃剤を多量に添加する必要があった。しかしながら、難燃剤は電解液の抵抗成分となってしまうため、多量に添加する場合は電解液の比抵抗を上昇させる問題があった。
【0007】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、難燃性に優れ、電解液の比抵抗の上昇が抑制された難燃性電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アルキル鎖にフッ素原子を有する含フッ素リン酸エステルを難燃剤として用いることにより、少量の添加で難燃効果が得られ、電解液の比抵抗の上昇を抑制することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
さらに、含フッ素リン酸エステルを電解液に添加することにより、耐電圧特性が顕著に改善されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の難燃性電解コンデンサは、酸化皮膜を設けた陽極箔と、陰極箔と、セパレータと、溶媒中に溶質を含有する電解液とからなる電解コンデンサであって、150℃以上で融解する樹脂内に下記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルを封入したマイクロカプセル化難燃剤を、該電解コンデンサ素子内に含有し、前記電解コンデンサ素子中の水分率は3〜7wt%であることを特徴とする。
【化1】
(1)
(式中、Rf〜Rfは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10のアルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも一つは含フッ素アルキル基である。)
【0011】
また、本発明の難燃性電解コンデンサは、電解液中の電解コンデンサ素子内に下記一般式(2)で表される含フッ素リン酸エステルを含有してもよい
【化2】
(2)
(式中、Rf1’ 〜Rf3’は、それぞれ独立に、炭素数1〜3の含フッ素アルキル基または炭素数1〜10のアルキル基を表し、且つRf1’〜Rf3’の少なくとも一つは含フッ素アルキル基である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、難燃性に優れ、耐電圧特性が改善され、かつ電解液の比抵抗の上昇が抑制された難燃性電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の実施形態の電解コンデンサは、電解液中に、前記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルを含有する。一般式(1)の含フッ素リン酸エステルは、分子中にフッ素原子とリン原子を有しているため、燃焼時に熱分解により発生する含フッ素化合物及びリン化合物によるラジカルトラップ効果や酸素遮蔽効果により優れた難燃性を示すと考えられる。
【0015】
また、機構は不明であるが、分子中にフッ素原子を有する含フッ素リン酸エステルを電解コンデンサ中に存在させることにより、電解コンデンサの耐電圧特性が顕著に向上する効果が付与される。電解コンデンサの耐電圧は、主として陽極箔の酸化皮膜の厚さにより調整される。陽極箔に酸化皮膜を形成した後、電解コンデンサを作製するが、その際、陽極箔に形成した酸化皮膜にクラック等が生じることにより、酸化皮膜欠損部が発生してしまう。この酸化皮膜欠損部を修復するために、電解液は定格電圧以上の酸化皮膜厚さを形成する能力が必要である。しかしながら、一般的に、電解液の比抵抗の対数と耐電圧は比例関係にあるため、損失を低減させる低い比抵抗と、高温負荷試験に耐えうるための高い耐電圧は相反する特性であり、その性能を低下させることなく耐電圧が改善されることは大きな利点である。
【0016】
(含フッ素リン酸エステル)
一般式(1)の含フッ素リン酸エステルの例としては、例えば、リン酸トリス(トリフルオロメチル)、リン酸トリス(2−モノフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,2,3,3,4,4,5,5−ノナフルオロペンチル)、リン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロノニル)、リン酸トリス(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル等を挙げることができる。これらのうち、前記一般式(2)で表されるエステル側鎖の炭素数が1〜3である含フッ素リン酸エステルが電解液の比抵抗の面で好ましく、なかでも、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)及びリン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)が難燃効果、電解液の比抵抗及び入手性の面から好適である。
【0017】
(フッ素原子を含有していないリン酸エステルまたはその縮合体)
また、必要に応じて、フッ素原子を含有していないリン酸エステルまたはその縮合体を難燃剤として併用しても良い。フッ素原子を含有していないリン酸エステルまたはその縮合体としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリヘキシル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリエチル、ポリリン酸メチル、ポリリン酸−n−ブチル、ポリリン酸エチル、リン酸トリトリル、リン酸クレジルジフェニル、エチレンメチルホスフェート、エチレンエチルホスフェート、メチルトリメチレンホスフェート、トリメチロールエタンホスフェート、メチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2,6,7−トリオキサ−1−ホスファビシクロ[2,2,2]オクタン1−オキシド、3,9−ジメトキシ−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、または下記一般式(3)〜(5)の式で表される化合物などが挙げられる。
【化3】
(3)
【化4】
(4)
【化5】
(5)
【0018】
(添加量)
一般式(1)の含フッ素リン酸エステルの添加量は、特に限定されるものではないが、電解液全体に対して5〜30wt%の範囲が好ましい。電解液に対する難燃剤の添加量が30wt%を超えると、電解液の比抵抗を上昇させるおそれがある。また、難燃剤の添加量が5wt%未満であると、十分な難燃効果が得られない。
【0019】
(溶媒)
本発明の電解コンデンサの電解液に用いる溶媒として、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、及びこれらの混合物を用いることができる。プロトン性極性溶媒としては、一価アルコール類(エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等)等が挙げられる。
【0020】
また、非プロトン性の極性溶媒としては、アミド系(N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等)、ラクトン類(γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン等)、スルホラン系(スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等)、環状アミド系(N−メチル−2−ピロリドン等)、カーボネイト類(エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、イソブチレンカーボネイト等)、ニトリル系(アセトニトリル等)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシド等)、2−イミダゾリジノン系〔1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチルー2−イミダゾリジノン、1,3−ジ(n−プロピル)−2−イミダゾリジノン等)、1,3,4−トリアルキル−2−イミダゾリジノン(1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン等)〕等が挙げられる。なかでも、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホランを用いると、電解コンデンサの特性が良好なため、好適である。また、水を含んでいても良い。
【0021】
(溶質)
溶質としては、有機酸もしくは無機酸またはその塩を単独または組み合わせて用いることができる。
【0022】
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、エナント酸等の脂肪族モノカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、メチルマロン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,6−デカンジカルボン酸、ウンデカン二酸、トリデカン二酸、マレイン酸、シトラコン酸、並びにイタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、トルイル酸、並びにピロメリト酸等の芳香族カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、ホウ酸、リン酸、ケイ酸等を用いることができる。
【0023】
上述した有機酸、無機酸の塩としてはアンモニウム塩、4級アンモニウム塩、アミン塩、4級イミダゾリウム塩、4級アミジニウム塩などが挙げられる。4級アンモニウム塩の4級アンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミンなどが挙げられる。4級イミダゾリウム塩の4級イミダゾリウムイオンとしては、エチルジメチルイミダゾリウム、テトラメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。4級アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。これら溶質の溶媒に対する濃度は、飽和濃度以下であれば良い。
【0024】
(添加剤)
また、電解コンデンサの寿命特性を安定化する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコール、2−(ニトロフェノキシ)エタノール、ニトロアニソール、ニトロフェネトール、ニトロトルエン、ジニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物を添加することができる。
【0025】
また、電解コンデンサの更なる耐電圧向上を目的として、非イオン性界面活性剤、多価アルコールと酸化エチレン及び/または酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシアルキレン多価アルコールエーテル化合物、ポリビニルアルコール、多糖類(マンニット、ソルビット、ペンタエリスリトールなど)、ホウ酸と多糖類との錯化合物、コロイダルシリカ等を添加してもよい。
【0026】
(陽極箔、陰極箔、セパレータ)
本発明の電解コンデンサの陽極箔としては、アルミニウム、タンタル等の弁金属等の表面に酸化皮膜を設けたものを用い、一方、陰極箔にはアルミニウム等を用いることができる。なお、これら電極箔は、電解液との接触面積を増大させるために、エッチング処理等を行ってもよい。陽極箔及び陰極箔の間には、セパレータを設ける。ここで、セパレータとしては、マニラ紙、クラフト紙等の紙製セパレータ、あるいは、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン製セパレータ等を用いることができる。
【0027】
(電解コンデンサの製造方法)
本発明の電解コンデンサの製造方法としては、公知の方法を用いることができる。一例として、陽極箔と、陰極箔と、セパレータとからなる素子に前述の電解液を含浸させ、これを外装ケース内に密封する方法等を挙げることができる。
【0028】
(マイクロカプセル化難燃剤)
次に、本発明の第2の実施形態である、含フッ素リン酸エステルを封入したマイクロカプセル化難燃剤を素子内に含有させた電解コンデンサについて説明する。難燃剤をマイクロカプセル化した場合、マイクロカプセル化難燃剤を含有させた素子が燃焼した際にマイクロカプセルが融解することにより含フッ素リン酸エステルの難燃効果を発現させることができる。
【0029】
マイクロカプセル化難燃剤を含有させることが特に有効な場合として、電解液中に水を多く含む場合が挙げられる。水を多く含む電解液中に含フッ素リン酸エステルを添加した場合、高温下で含フッ素リン酸エステルが加水分解し長時間経過後には十分な難燃効果を得られない場合があるが、含フッ素リン酸エステルをマイクロカプセル化することにより、加水分解を防止することができ、高温下、長時間経過後においても難燃効果を発揮させることができる。更には、含フッ素リン酸エステルからフッ素イオンが遊離した場合、フッ素イオンが電極箔を腐食するおそれがあるが、含フッ素リン酸エステルをマイクロカプセル化することによって、電極箔の腐食を防止することができる。
【0030】
(シェルを構成する樹脂)
マイクロカプセルのシェルを構成する樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアラミド、メラミン樹脂、ポリウレアまたはポリウレタン等が挙げられる。シェルを構成する樹脂としては、融点が150℃以上の材料を用いる。マイクロカプセルのシェル物質の融点が150℃未満の場合には,電解コンデンサの通常使用状態において、マイクロカプセルの融解が起こるおそれがある。また、マイクロカプセルのシェル物質の融点が素子の燃焼温度を越える場合には、電解コンデンサが異常な高温状態に達したときに、マイクロカプセルの融解が起こらずに、難燃剤を電解液へ放出することができないおそれがある。
【0031】
(マイクロカプセルの大きさ)
マイクロカプセルの大きさは、0.02〜100μmであり、好ましくは0.02〜0.05μmである。0.02μm未満の場合には、耐熱性を有するマイクロカプセルを作製することが困難であり、100μmを超えると、電解コンデンサの特性、特に高周波領域のインピーダンス特性に影響を与える。
【0032】
(マイクロカプセル封入方法)
前記一般式(1)または一般式(2)の含フッ素リン酸エステルをマイクロカプセルに封入させる方法としては、以下のような公知の方法を用いることができる。
(1)界面重合法、in−situ重合法などの化学的方法
(2)液中乾燥法、コアセルベーション法などの物理化学的方法
(3)乾式混合法、噴霧乾燥法などの機械的方法
【0033】
(分散、含浸方法)
マイクロカプセル化難燃剤を素子内に含有させる方法としては、電解液に添加して分散させ、該分散液を電極箔とセパレータからなる素子に含浸させる方法、または、セパレータや電極箔等にあらかじめ付着させておく方法等が挙げられる。
【0034】
マイクロカプセルを電解液に分散させる場合、マイクロカプセルの大きさを0.02〜0.05μmにすると、電解液に分散させやすくなるため好適である。また、セパレータや電極箔に付着させる場合は、0.05μm以上の大きさであっても良い。マイクロカプセル化難燃剤をセパレータや電極箔等にあらかじめ付着させておくと、素子内でマイクロカプセルが電解液に分散した状態になる。また、セパレータや電極箔の電解コンデンサの安全弁付近に配置される箇所に、マイクロカプセル化難燃剤を多量に付着させておくと、素子着火時に素子の燃焼を抑制しやすくなる。このように、マイクロカプセル化難燃剤をセパレータや電極箔等にあらかじめ付着させておくことで、素子内におけるマイクロカプセル化難燃剤の配置状態を制御することができる。さらに、マイクロカプセル化難燃剤はセパレータや電極箔等に付着させているため、素子内における配置状態を長期間にわたり維持することができる。また、マイクロカプセル化難燃剤を外装ケースにあらかじめ付着させ、電解コンデンサ内に含有させておいても本発明の効果が得られる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。表1に、実施例、比較例および従来例で用いた電解コンデンサ用電解液の組成を示す。これらの電解液を常法により作製し、電解液Cにはアンモニアガスを注入してpHを調整した。作製した電解液に難燃剤を添加し、混合した。
【表1】
【0036】
エッチング処理及び化成処理を施した陽極箔と、エッチング処理のみを施した陰極箔に電極引き出し手段を接続して、セパレータを介して巻回し、素子を形成した。本実施例では、電解液A、BおよびDを用いる場合は、径10mm、長さ20mmで、35V−680μFの素子を使用し、電解液Cを用いる場合は、径10mm、長さ20mmで、400V−10μFの素子を使用した。この素子に作製した電解液を含浸した。これを有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に弾性ゴムからなる封口体を装着し、絞り加工により外装ケースを密封して電解コンデンサを作製した。このとき、電解液A、BおよびDを用いた場合の素子中の水分率は3wt%、電解液Cを用いた場合の水分率は7wt%であった。
【0037】
(電解コンデンサの性能)
表2に実施例1〜2及び従来例1の電解液の種類、使用した難燃剤の種類、電解液に対する難燃剤の添加量、電解コンデンサの静電容量、漏れ電流、等価直列抵抗の測定結果を示す。実施例1〜2はTFEPの添加量を変化させたもの、従来例1は難燃剤を添加していないものである。漏れ電流は電圧印加2分値、静電容量は120Hzにおける値、等価直列抵抗は100kHzにおける値である。
【表2】
TFEP:リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)
【0038】
表2より、電解液中に含フッ素リン酸エステルをそれぞれ10wt%、20wt%含む実施例1、実施例2の電解コンデンサは、含フッ素リン酸エステルを添加していない従来例1と同様に、いずれも電解コンデンサとして問題なく作動することが確認された。
【0039】
(素子の自己消火性)
電解液を含浸させた素子に着火手段を近付け、10秒間炎をあて、着火手段を素子から離して自己消火性の有無を確認した。本実験においては、素子から着火手段を離した後に、素子の燃焼が10秒以上継続するか否かにより判定した。試験は各素子について3回実施した。
【0040】
表3に、実施例3〜8、従来例2および比較例1〜2の電解液の種類、使用した難燃剤の種類、電解液に対する難燃剤の添加量および自己消火性の有無を示す。自己消火性の有無については、○印は3回共燃焼が10秒以上継続せず自己消火性が有ることを示し、×印は3回共燃焼が継続し、自己消火性が無いことを示す。△印は3回の試験のうち1回または2回燃焼が継続し、十分ではないが自己消火性があることを示す。
【0041】
また、実施例3〜6はTFEPを7.0wt%添加し、電解液種を変化させたもの、実施例7はシェル物質としてポリフェニレンサルファイドを用い、難燃剤をシェル物質に封入して作製したマイクロカプセル化難燃剤を難燃剤純分として表中に示す量を添加したもの、実施例8は、実施例4の難燃剤をリン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)(TFPP)に替えたもの、従来例2は従来例1と同組成の素子を用いたもの、比較例1、2は難燃剤としてTMPまたはTEPを添加したもの、比較例3はシェル物質としてポリフェニレンサルファイドを用い、TMPをシェル物質に封入して作製したマイクロカプセル化難燃剤を難燃剤純分として表中に示す量を添加したものである。
【0042】
【表3】
TFPP:リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)
TMP:リン酸トリメチル
TEP:リン酸トリエチル
【0043】
電解液中に含フッ素リン酸エステルまたはマイクロカプセル化含フッ素リン酸エステルを含有する実施例3〜8の素子は自己消火性を有するのに対し、難燃剤を添加しなかった従来例2、難燃剤としてTMP、TEPまたはマイクロカプセル化TMPを添加した比較例1〜3の素子は、自己消火性が認められなかった。この結果から、TFEPやTFPPなどの含フッ素リン酸エステルはTMPやTEPに比べて少量の添加で難燃効果が得られることが分かる。難燃剤またはマイクロカプセル化難燃剤は電解液中における抵抗成分であるため、添加量が多いほど電解液の比抵抗が上昇してしまうが、含フッ素リン酸エステルは少量の添加で難燃効果が得られるため、比抵抗の上昇を抑制することができる。
【0044】
次に、実施例4及び実施例7と同組成の素子を用いて電解コンデンサを作製し、これを80℃で250時間、無負荷放置後、自己消火性の有無を確認した。結果を表4に示す。
【表4】
【0045】
電解液に直接TFEPを添加した実施例9では、加熱条件下でおそらくはTFEPの一部が加水分解したため自己消火性が低下したのに対し、TFEPをマイクロカプセル化した実施例10では、加熱放置後も十分な自己消火性を示すことが確認された。
【0046】
(電解コンデンサの耐電圧特性)
表5に、難燃剤種を変化させたときの電解コンデンサの耐電圧特性の測定結果を示す。耐電圧は、定電流(3mA)を印加したときの電圧−時間の上昇カーブではじめにスパイクあるいはシンチレーションが観測された電圧値とした。実施例11は実施例6の難燃剤の添加量を変化させたもの、従来例3は難燃剤を添加していないもの、比較例3は比較例2の電解液種を替えたものである。
【表5】
【0047】
表5より、実施例11のTFEPを添加した電解液を用いた電解コンデンサは、難燃剤を添加していない従来例3や、TEPを添加した比較例4と比較して、耐電圧が顕著に向上することが分かった。
【0048】
なお、本実施例では、巻回形電解コンデンサを用いたが、これに限定されるものではなく、積層形電解コンデンサに適用しても良い。