(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリカーボネート樹脂、ピッチ系黒鉛化短繊維、及び黒鉛粒子を含む熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物であって、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維は、アスペクト比が6〜20であり、ラマンスペクトルパラメータID/IGが0.080〜0.150であり、黒鉛粒子は、厚みと長軸方向に発生するアスペクト比が10〜50であり、ラマンスペクトルパラメータID/IGが0.050〜0.085であり、平均粒子径が5〜50μmであり、ピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子混合物は、BET比表面積が10m2/g以下であり、ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し黒鉛粒子を80〜500重量部含み、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子の合計が50〜100重量部含まれていることを特徴とする熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物。
該熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体のMD方向とTD方向の熱伝導率比が2.5以上であり、MD方向の熱伝導率が12W/mK以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物。
ポリカーボネート樹脂、ピッチ系黒鉛化短繊維、黒鉛粒子とを混練して得る熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法であって、使用するピッチ系黒鉛化短繊維が、アスペクト比が10〜750であり、ラマンスペクトルパラメータID/IGが0.060〜0.140であり、ラマンスペクトルパラメータΔνgが23cm−1以下であり、BET比表面積が3m2/g以下であり、金属元素含有量が100ppm以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
[熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂、ピッチ系黒鉛化短繊維、及び黒鉛粒子を含む熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物であって、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維は、アスペクト比が6〜20であり、ラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gが0.080〜0.150であり、黒鉛粒子は、厚みと長軸方向に発生するアスペクト比が10〜50であり、ラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gが0.050〜0.085であり、平均粒子径が5〜50μmであり、ピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子混合物は、BET比表面積が10m
2/g以下であり、ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し黒鉛粒子を80〜500重量部含み、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子の合計が50〜100重量部含まれていることを特徴とする熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0015】
[ピッチ系黒鉛化短繊維]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物は、高い熱伝導性を得るために、ピッチ系黒鉛化短繊維を含む。その中でもメソフェーズピッチを出発材料とした黒鉛結晶構造の非常に発達したピッチ系黒鉛化短繊維を用いることが特に好ましい。ピッチ系黒鉛化短繊維の熱伝導性は黒鉛結晶の格子構造を伝播するフォノン振動に主に由来するため、熱伝導性を高めるには黒鉛結晶の結晶性を高めること、すなわち黒鉛結晶の格子構造ができるだけ欠陥少なく、かつ大きく広がるようにすることが好ましい。なお、ピッチ系黒鉛化短繊維の製法については後述する。
【0016】
[ピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比は6〜20である。ピッチ系黒鉛化短繊維を熱伝導性フィラーとして用いる場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物に優れた熱伝導率を付与するには、アスペクト比が必要である。アスペクト比が6未満の場合、当該ピッチ系黒鉛化短繊維同士が接触しにくくなり、高い熱伝導率を得にくくなることがある。逆にアスペクト比が20を超える場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の粘度が高くなり、成形が困難になることがある。また、ピッチ系黒鉛化短繊維とポリカーボネート樹脂との混練処理においては、ピッチ系黒鉛化短繊維の破断をゼロとすることは困難であり、実質的にアスペクト比が20を超えるケースは少ない。アスペクト比の好ましい範囲は7〜18であり、より好ましくは8〜16である。
【0017】
ここで、アスペクト比とは、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維長を平均繊維径で除した値である。平均繊維長及び平均繊維径は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂を空気中で焼飛ばした残渣を、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比は、原料として使用するピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比、または、ピッチ系黒鉛化短繊維とポリカーボネート樹脂の混練条件を制御することで調整できる。
【0018】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gは0.080〜0.150である。ここで、ラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gの、I
DはDバンド(1360cm
−1付近)の強度、I
GはGバンド(1580cm
−1付近)の強度である。黒鉛結晶表面のエッジ比率が大きくなるほど、I
D/I
Gは大きくなる。黒鉛結晶表面のエッジ比率が大きいほど、黒鉛の表面活性が高くなるため、ポリカーボネート樹脂が加水分解し易くなり、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐久性が低くなる。I
D/I
Gが0.150を超える場合、ポリカーボネート樹脂の加水分解が進み、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐久性が低くなる。I
D/I
Gが0.080を下回るのは、ピッチ系黒鉛化短繊維の黒鉛化温度を非常に高くする必要があり、実質的に困難である。
【0019】
[ピッチ系黒鉛化短繊維のラマンスペクトルパラメータ]
熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gを0.080〜0.150に保つ手段として特に限定は無いが、粉砕工程を黒鉛化工程の前にする事や、ピッチ系黒鉛化短繊維をポリカーボネート樹脂と混練する際に、混練力を低く抑え、ピッチ系黒鉛化短繊維に対するダメージを減らす事で達成できる。混練力を抑える手法として特に限定は無いが、具体的には混練温度を高くすることや回転数を小さくすること、溶融混練装置のスクリュとケーシング間のクリアランスを小さくすること等がある。
【0020】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のラマンスペクトルパラメータΔν
Gは23cm
−1以下であることが好ましい。ここでラマンスペクトルパラメータΔν
GはGバンド(1580cm
−1付近)の半値幅であり、黒鉛化度が大きいほど、Δν
Gは小さくなる。Δν
Gが23cm
−1を超える場合、黒鉛化度が十分でなく、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導性を高くすることが困難なことがある。Δν
Gを小さくする手法として特に限定はないが、黒鉛化温度を高めることが最も効果的である。Δν
Gのより好ましい範囲は21cm
−1以下である。
【0021】
[黒鉛粒子]
ピッチ系黒鉛化短繊維は、繊維状のため充填性に劣る傾向にあり、熱伝導率が期待ほど発現しないことがある。この充填性を補うためのフィラーとしては、平板状、鱗片状等パッキング性を有するフィラーが挙げられる。しかし、これらフィラーの熱伝導率が優れていないと、熱伝導率に優れる熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物が得られない。そこで、熱伝導性に優れる黒鉛粒子を使用する。
【0022】
[黒鉛粒子のアスペクト比]
黒鉛粒子の厚みと長軸方向に発生するアスペクト比がある程度ないと、熱伝導率に優れる熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を得るのが困難になる。逆にアスペクト比が大きくなり過ぎると、充填性が悪くなり、熱伝導性フィラーの併用効果が小さくなる。本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子のアスペクト比は10〜50であり、より好ましくは15〜30である。ここで、アスペクト比とは、黒鉛粒子の長軸方向長さを粒子厚みで除した値である。長軸方向長さ及び粒子厚みは、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂を空気中で焼飛ばした残渣を、走査型電子顕微鏡で観察し、さらに複数の視野において所定粒子数を測定して、その平均値から求めることができる。熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子のアスペクト比は、原料として使用する黒鉛粒子のアスペクト比、または、黒鉛粒子とポリカーボネート樹脂の混練条件を制御することで調整できる。
【0023】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gは0.050〜0.085である。ここで、ラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gの、I
DはDバンド(1360cm
−1付近)の強度、I
GはGバンド(1580cm
−1付近)の強度である。黒鉛結晶表面のエッジ比率が大きくなるほど、I
D/I
Gは大きくなる。黒鉛結晶表面のエッジ比率が大きいほど、黒鉛の表面活性が高くなるため、ポリカーボネート樹脂が加水分解し易くなり、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐久性が低くなる。I
D/I
Gが0.085を超える場合、ポリカーボネート樹脂の加水分解が進み、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐久性が低くなる。I
D/I
Gが0.050を下回る黒鉛粒子の入手は困難である。
【0024】
[黒鉛粒子の平均粒子径]
本発明の黒鉛粒子の平均粒子径は5〜50μmである。黒鉛粒子の平均粒子径が5μm未満の場合、黒鉛粒子の厚みと長軸方向に発生するアスペクト比が小さくなり、熱伝導性に優れる熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を得るのが困難になることがある。黒鉛粒子の平均粒子径が50μmを超える場合、黒鉛粒子がピッチ系黒鉛化短繊維同士の隙間に充填され難くなり、充填性が低下し、成形性も低下する。平均粒子径の好ましい範囲は10〜40μmであり、より好ましくは15〜30μmである。ここで、黒鉛粒子の平均粒子径は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂を空気中で焼飛ばした残渣を、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定粒子数を測定し、その平均値から求めることができる。
【0025】
[黒鉛粒子のラマンスペクトルパラメータ]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子のラマンスペクトルパラメータΔν
Gは20cm
−1以下であることが好ましい。ここで、ラマンスペクトルパラメータΔν
GはGバンド(1580cm
−1付近)の半値幅であり、黒鉛化度が大きいほど、Δν
Gは小さくなる。Δν
Gが20cm
−1を超える場合、黒鉛化度が十分でなく、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導性を高くすることが困難なことがある。Δν
Gを小さくする手法として特に限定はないが、黒鉛化温度を高めることが最も効果的である。Δν
Gのより好ましい範囲は19cm
−1以下である。
【0026】
[黒鉛粒子の例]
黒鉛粒子として特に限定は無く、天然黒鉛としては鱗状黒鉛(塊状黒鉛、鱗片状黒鉛)、土状黒鉛、及び膨張黒鉛等、人造黒鉛としては熱分解黒鉛等が挙げられる。後述する金属含有量の観点からすると、人造黒鉛が好ましい。
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子混合物のBET比表面積は10m
2/g以下である。BET比表面積は一般に繊維及び粒子の表面が荒れているほど大きい値となり、滑らかなほど小さい値となる。繊維及び粒子の表面が滑らかであるほど、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の、ピッチ系黒鉛化短繊維同士、黒鉛粒子同士、及びピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子間の接触面積が大きくなり、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導率を向上させることができる。BET比表面積のより好ましい範囲は5m
2/g以下である。
【0027】
[ピッチ系黒鉛化短繊維に対する黒鉛粒子の重量割合]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物は、ピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し、黒鉛粒子を80〜500重量部含む。ピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の添加量がこの比にある時、ピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の相互作用効果が大きく、高い熱伝導性を得ることができ、さらには、該熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体のMD方向の熱伝導率を極めて高くすることができる。ここで、MD方向とは、射出成形により成形片を作製する際の樹脂の流れる方向である。このように、特定方向の熱伝導率を高めることは、成形品中の特定方向の放熱性を高めたい場合に効果的である。該熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体のMD方向とTD方向の熱伝導率比は2.5以上であることが好ましい。MD方向とTD方向の熱伝導率比が大きいことは、特定方向の熱伝導率が高いことを意味する。また、MD方向の熱伝導率は12W/mK以上であることが好ましい。なお、熱伝導率はJIS K7162で規格された試験片の中央部からMD方向、TD方向毎にサンプルを切出し、レーザーフラッシュ法にて測定した。熱伝導率比はMD方向の熱伝導率をTD方向の熱伝導率で除した値である。
【0028】
[ポリカーボネート樹脂組成物に対する、ピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の重量割合]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の合計が50〜100重量部含まれる。ピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の合計が50重量部未満の場合、高い熱伝導性が得られないことがある。逆にピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の合計が100重量部を超えると、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の流動性が低くなり、成形性が低下する傾向にある。ピッチ系黒鉛化短繊維と黒鉛粒子の合計のより好ましい範囲は60〜90重量部である。
【0029】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は16,000〜23,000であることが好ましい。粘度平均分子量が16,000未満の場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性が弱かったり、耐久性が低かったりする。逆に23,000を超える場合、溶融粘度が高くなり、成形性が低下する傾向にある。ここで、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(η
sp)を次式に挿入して求めたものである。粘度平均分子量のより好ましい範囲は17,000〜20,000である。
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4M
0.83
c=0.7
前述のポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。具体的には例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等が挙げられる。
【0030】
[難燃剤]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物には、難燃性付与のために難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤の種類は特に限定されるものではなく、公知の難燃剤、例えば、リン酸エステル系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等を添加することができるが、耐久性、環境配慮の観点から、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩が好適に用いられる。本発明における有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩は、パーフルオロアルキルスルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩のようなフッ素置換アルキルスルホン酸の金属塩、ならびに芳香族スルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩との金属塩とを含む。本発明の金属塩を構成するアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムが挙げられる。より好適にはアルカリ金属である。アルカリ金属の中でも、難燃性と熱安定性の観点からカリウムおよびナトリウムが好ましく、特にカリウムが好ましい。カリウム塩と他のアルカリ金属からなるスルホン酸アルカリ金属塩とを併用することもできる。
【0031】
パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、及びパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。ここでパーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜18の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜8である。これらの中で特にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
【0032】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体例としては、例えばジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド−4,4’−ジスルホン酸ジカリウム、5−スルホイソフタル酸カリウム、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム、1−メトキシナフタレン−4−スルホン酸カルシウム、4−ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4−フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6−ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2−フルオロ−6−ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p−ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン−2,6−ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3,4’−ジスルホン酸ジカリウムな、α,α,α−トリフルオロアセトフェノン−4−スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン−2,5−ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホキサイド−4−スルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、及びアントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。これら芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩では、特にカリウム塩が好適である。
【0033】
[有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩(難燃剤)の添加量]
有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の好適な添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.001〜1重量部が好ましい。0.001重量部以上であると、十分な難燃効果が付与される。逆に1重量部以下であれば、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性が向上し、加水分解を抑制させるので、耐久性を向上できる。添加量のより好ましい範囲は0.01〜0.2重量部である。
【0034】
[ポリカーボネート樹脂組成物の荷重たわみ温度]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の荷重たわみ温度は、130℃以上であることが好ましい。LED照明等の熱を受ける電気・電子機器で使用する場合、荷重たわみ温度が低い場合、機器が熱変形することがある。荷重たわみ温度のより好ましい範囲は140℃以上である。
【0035】
[機能性フィラー、添加剤、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて様々な機能性フィラー、添加剤、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂等を配合することができる。機能性フィラーの例としては、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導率を高めるものとして、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素等の金属窒化物、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物、炭化珪素等の金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウム等の金属もしくは金属合金等が挙げられる。また、2種類以上併用することも可能である。熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の強度、弾性率等を補強フィラーの例としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、タルク、マイカ、PAN系炭素繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、アラミド繊維、金属繊維、金属酸化物繊維等が挙げられる。これらは2種類以上を併用することも可能である。
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、滴下防止剤、離型剤等が挙げられる。
【0036】
[酸化防止剤]
酸化防止剤の好適な例としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系安定剤を含有することにより、例えば成形加工時の色相悪化や長期間の使用における色相の悪化等を抑制する効果が発揮される。ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、上記ヒンダードフェノール系安定剤以外の他の酸化防止剤を使用することもできる。他の酸化防止剤としては、例えば、3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤、ならびにペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、及びグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネートなどのイオウ含有系安定剤が挙げられる。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
[酸化防止剤の添加量]
ヒンダードフェノール系安定剤の好適な添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001〜1重量部である。0.0001重量部未満では、十分な酸化防止効果が付与されないことがある。逆に1重量部を超える場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の物性が低下することがある。添加量のより好ましい範囲は0.001〜0.5重量部である。
【0039】
[安定剤]
熱安定剤の好適な例としては、リン系安定剤が挙げられる。リン系安定剤は製造時または成形加工時の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性を大きく向上させる。その結果、機械物性、帯電防止性、難燃性及び成形安定性を向上させる。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル、ならびに第3級ホスフィン等が挙げられる。これらの中でも特に、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸、トリオルガノホスフェート化合物、及びアシッドホスフェート化合物が好ましい。なお、アシッドホスフェート化合物における有機基は、一置換、二置換、及びこれらの混合物の何れも含む。該化合物に対応する下記の例示化合物においても同様に何れも含むものとする。
【0040】
トリオルガノホスフェート化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、及びトリブトキシエチルホスフェート等が挙げられる。これらの中でもトリアルキルホスフェートが特に好ましい。トリアルキルホスフェートの炭素数は、好ましくは1〜22、より好ましくは1〜4である。特に好ましいトリアルキルホスフェートはトリメチルホスフェートである。
【0041】
アシッドホスフェート化合物としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、及びビスフェノールAアシッドホスフェート等が挙げられる。これらの中でも炭素数10以上の長鎖ジアルキルアシッドホスフェートが熱安定性の向上に有効であり、該アシッドホスフェート自体の安定性が高いことから好ましい。
【0042】
その他ホスファイト化合物としては、例えば、トリデシルホスファイトのようなトリアルキルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイトのようなジアルキルモノアリールホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイトのようなモノアルキルジアリールホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトのようなトリアリールホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のペンタエリスリトールホスファイト、ならびに2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、及び2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等の環状ホスファイトが挙げられる。
【0043】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、及びビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく挙げられ、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、及びビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。ホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0044】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、及びベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。第3級ホスフィンとしては、例えばトリフェニルホスフィンが挙げられる。
【0045】
[安定剤の添加量]
リン系安定剤の好適な添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.0001〜2重量部である。0.0001重量部未満では、十分な熱安定性が付与されないことがある。逆に2重量部を超える場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の物性が低下することがある。添加量のより好ましい範囲は0.01〜1重量部であり、さらに好ましい範囲は0.05〜0.5重量部である。また、リン系安定剤はその100重量部中50重量部以上がトリアルキルホスフェート及び/またはアシッドホスフェート化合物であることが好ましく、特にその100重量部中50重量部以上がトリアルキルホスフェートであることが好ましい。
【0046】
[滴下防止剤]
滴下防止剤の好適な例としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができ、このようなポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称する)である。
【0047】
フィブリル形成能を有するPTFEは極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万〜1000万、より好ましく200万〜900万である。PTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。また、フィブリル形成能を有するPTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。
【0048】
フィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン工業(株)のポリフロンMPAFA500及びF−201L等を挙げることができる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業(株)製のフルオンD−1及びD−2、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)30J等を代表として挙げることができる。
【0049】
混合形態のPTFEとしては、(1)PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報等に記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報等に記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)、及び(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、さらに該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)により得られたものが使用できる。これらの混合形態のPTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレンA3000」(商品名)、及びGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)等を挙げることができる。
【0050】
[滴下防止剤の添加量]
混合形態におけるPTFEの割合としては、PTFE混合物100重量部中、PTFEが10〜80重量部が好ましく、より好ましくは15〜75重量部である。PTFEの割合がこの範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。
滴下防止剤の好適な添加量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部である。0.01重量部未満では、十分な滴下防止効果が付与されないことがある。逆に5重量部を超える場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の物性が低下することがある。添加量のより好ましい範囲は0.05〜1重量部であり、さらに好ましい範囲は0.1〜0.6重量部である。
【0051】
[離型剤]
離型剤の好適な例としては、例えば、飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体等、酸変性等の官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、シリコーン化合物、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイル等)、パラフィンワックス、蜜蝋等が挙げられる。
【0052】
離型剤の中でも、飽和脂肪酸エステル、特に高級脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル及び/またはフルエステルが好ましい。特にフルエステルが好適である。ここで高級脂肪酸とは、炭素原子数10〜32の脂肪族カルボン酸を指し、その具体例としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、並びに、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、セトレイン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸を挙げることができる。これらのなかでも脂肪族カルボン酸としては炭素数10〜22のものが好ましく、炭素数14〜20であるものがより好ましい。特に炭素数14〜20の飽和脂肪族カルボン酸、特にステアリン酸及びパルミチン酸が好ましい。ステアリン酸のような脂肪族カルボン酸は、通常、炭素原子数の異なる他のカルボン酸成分を含む混合物であることが多い。前記飽和脂肪酸エステルにおいても、かかる天然油脂類から製造され他のカルボン酸成分を含む混合物の形態からなるステアリン酸やパルミチン酸から得られたエステル化合物が好ましく使用される。
【0053】
一方、飽和脂肪酸エステルの構成単位たる多価アルコールとしては、炭素原子数3〜32のものがより好ましい。多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(例えばデカグリセリン等)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。
【0054】
本発明の飽和脂肪酸エステルにおける酸価は、20以下(実質的に0を取り得る)であることが好ましく、より好ましくは2〜15、さらに好ましくは4〜15である。水酸基価は20〜500(より好ましくは50〜400)の範囲がより好ましい。さらにヨウ素価は、10以下(実質的に0を取り得る)が好ましい。これらの特性はJISK 0070に規定された方法により求めることができる。
【0055】
[離型剤の添加量]
離型剤の添加量の好ましい範囲は、ポリカーボネート樹脂100重量部を基準として、0.005〜3重量部であり、より好ましくは0.01〜1重量部である。
【0056】
[ポリカーボネート樹脂以外の樹脂]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の効果を発揮する範囲において、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂を添加することができる。使用できる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン類及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体等)、ポリメタクリル酸類及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル等)、ポリアクリル酸類及びその共重合体、ポリアセタール類及びその共重合体、フッ素樹脂類及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマー等)、ポリスチレン類及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂等)、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂等も含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、エラストマー、液晶性ポリマー、ポリイミド類及びその共重合体等が挙げられる。これらから1種を単独で添加しても、2種以上を適宜組み合わせて添加しても良い。
【0057】
[製造方法]
[ピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法]
以下本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維の好ましい製造法について述べる。
本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認できる。
【0058】
さらに、メソフェーズピッチの軟化点としては、230〜340℃が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低い場合、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超える場合、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250〜320℃であり、さらに好ましくは260〜310℃である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。メソフェーズピッチは、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせるメソフェーズピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230〜340℃であることが好ましい。
メソフェーズピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、粉砕、黒鉛化によってピッチ系黒鉛化短繊維となる。場合によっては、粉砕処理の後、分級工程を入れることもある。
以下各工程の好ましい態様について説明する。
【0059】
[紡糸工程]
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適応することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0060】
ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては、2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超える場合、ノズルを通過するメソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じさせることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することができず、結果として黒鉛の配向が低いピッチ系炭素繊維前駆体となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度を十分に上げることが出来ず、熱伝導性を向上させ難く好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するには、メソフェーズピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、さらには3〜12の範囲が特に好ましい。
【0061】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満では、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、メソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成するため好ましくない。メソフェーズピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、メソフェーズピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることがさらに好ましい。
【0062】
本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径が5〜20μm以下であることが好ましく、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0063】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/m
2が好ましい。
【0064】
[不融化工程]
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、あるいはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜400℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜350℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜10℃/分である。
【0065】
[炭化工程]
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、あるいは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0066】
[粉砕工程]
炭化処理されたピッチ系炭素繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕、粉砕等の処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、切断にはギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用され、破砕、粉砕には衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュ式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。処理雰囲気は湿式、乾式のどちらでもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。詳細は後述するが、本発明で使用するピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比は10〜750であることが好ましく、平均繊維径に応じて、上記手法により平均繊維長を制御する。
【0067】
[黒鉛化工程]
上記の切断、破砕、粉砕処理、場合によっては分級処理を併用して作製したピッチ系炭素短繊維は、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化処理することで、ピッチ系黒鉛化短繊維となる。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0068】
[表面処理ならびにサイジング処理]
本発明においてピッチ系黒鉛化短繊維は、ポリカーボネート樹脂との親和性をより高め、ハンドリング性の向上を目的として、表面処理やサイジング処理をしても良い。また、必要に応じて表面処理した後にサイジング処理をしても良い。表面処理の方法として特に限定は無いが、具体的には、電着処理、めっき処理、オゾン処理、プラズマ処理、酸処理等が挙げられる。サイジング処理に用いるサイジング剤に特に限定は無いが、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、アルコール、グリコールを単独またはこれらの混合物で用いることができる。サイジング剤はピッチ系黒鉛化短繊維100重量部に対し0.01〜10重量部付着させても良い。しかし、サイジング剤付着ピッチ系黒鉛化短繊維は活性点を持つ可能性もあることから、サイジング処理は極力少ないことが好ましい。好ましい付着量は0.1〜2.5重量%である。
【0069】
[熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
[混練方法]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法における、ピッチ系黒鉛化短繊維、黒鉛粒子及びポリカーボネート樹脂との混練は、単軸押出機、二軸押出機、ニーダ等の公知の溶融混練装置を用いて好ましく実施できるが、ピッチ系黒鉛化短繊維の破断を抑制する観点で、溶融混練時の樹脂せん断力が比較的小さいタイプのスクリュ構成を取ることが好ましく、また、ピッチ系黒鉛化繊維はサイドフィーダー等から投入し、混練時間を短めに設定することが好ましい。さらに、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐久性の観点から、溶融混練装置は溶融混練時の樹脂から発生する低沸ガス、水分等を取り除くために、ベント部を有することが好ましい。低沸分や水分が溶融混練中の樹脂に滞留すると、粘度平均分子量が低下し、耐久性も低下してしまうことがある。
【0070】
溶融混練装置から押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後、ペレタイザーで切断してペレット化される。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、及び球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.5mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0071】
[熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物に添加するピッチ系黒鉛化短繊維]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物に添加するピッチ系黒鉛化短繊維は、アスペクト比が10〜750であり、ラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gが0.060〜0.140であり、ラマンスペクトルパラメータΔν
Gが23cm
−1以下であり、BET比表面積が3m
2/g以下であり、金属元素含有量が100ppm以下であることが好ましい。前述したように、本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比は6〜20であるが、溶融混練中のピッチ系黒鉛化短繊維の破断は避けられないため、混練処理前のピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比は10〜750であることが好ましい。
【0072】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gは0.080〜0.150であるが、溶融混練中のピッチ系黒鉛化短繊維の破断により、黒鉛結晶表面のエッジ比率が増大し、黒鉛の表面活性が高くなってしまうために、混練処理前のピッチ系黒鉛化短繊維のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gは0.060〜0.140であることが好ましい。
【0073】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に使用するピッチ系黒鉛化短繊維のΔν
Gは23cm
−1以下であることが好ましい。Δν
Gが23cm
−1を超える場合、黒鉛化度が十分でなく、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導性を高くすることが困難なことがある。
【0074】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に使用するピッチ系黒鉛化短繊維のBET比表面積は3m
2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が3m
2/gを超える場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子混合物のBET比表面積が10m
2/gを超えてしまうことがある。
【0075】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に使用するピッチ系黒鉛化短繊維の金属元素含有量は100ppm以下であることが好ましい。金属元素含有量が100ppmを以下であると、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の加水分解を抑制でき、耐久性を向上させる事が出来る。金属元素のうち、アルカリ金属及びアルカリ土類金属は特に含有量が少ないことが好ましい。
【0076】
[熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物に添加する黒鉛粒子]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物に使用する黒鉛粒子は、厚みと長軸方向に発生するアスペクト比が15〜100であり、平均粒子径が5〜100μmであり、ラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gが0.045〜0.080であり、ラマンスペクトルパラメータΔν
Gが23cm
−1以下であり、BET比表面積が10m
2/g以下であり、金属元素含有量が400ppm以下であることが好ましい。前述したように、本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子の厚みと長軸方向に発生するアスペクト比は10〜50であるが、溶融混練中の黒鉛粒子の破砕は避けられないため、混練処理前の黒鉛粒子のアスペクト比は15〜100であることが好ましい。
【0077】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物に使用する黒鉛粒子は、平均粒子径が5〜100μmであることが好ましい。前述したように、本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子の平均粒子径は5〜50μmであるが、溶融混練中の黒鉛粒子の破砕は避けられないため、溶融処理前の黒鉛粒子の平均粒子径は上記範囲であることが好ましい。
【0078】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gは0.050〜0.085であるが、溶融混練中の黒鉛粒子の破断により、黒鉛結晶表面のエッジ比率が増大し、黒鉛の表面活性が高くなってしまうために、混練処理前の黒鉛粒子のラマンスペクトルパラメータI
D/I
Gは0.045〜0.080であることが好ましい。
【0079】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に使用する黒鉛粒子のΔν
Gは20cm
−1以下であることが好ましい。Δν
Gが20cm
−1を超える場合、黒鉛化度が十分でなく、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導性を高くすることが困難なことがある。
【0080】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に使用する黒鉛粒子のBET比表面積は10m
2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が10m
2/gを超える場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子混合物のBET比表面積が10m
2/gを超えてしまうことがある。
【0081】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の製造に使用する黒鉛粒子の金属元素含有量は400ppm以下であることが好ましい。金属元素含有量が400ppm以下である場合、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の加水分解を抑制できるので、耐久性をより向上できる。金属元素のうち、アルカリ金属及びアルカリ土類金属は特に含有量が少ないことが好ましい。
【0082】
[熱伝導性ポリカーボネート樹脂成形体]
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体は、通常そのペレットを射出成形して得ることができる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などを挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0083】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を押出成形し、各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形とすることもできる。また、シート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形したり、回転成形、ブロー成形、プレス成形などにより成形品としたりすることも可能である。
【0084】
本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の用途は、電気機器の放熱部材等がある。例えば、本発明の熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物は、LED照明等の発熱性電気機器からの熱を放出する、放熱筐体や放熱フィン等の放熱部品に好適に使用される。これによって、発熱性電気機器からの熱の拡散が良好となり、長期的に発熱性電気機器の長寿命化に貢献できる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
[評価方法]
本実施例における各値は、以下の評価方法に従って求めた。
【0086】
(1)原料として使用するピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。なお、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を空気気流下で550℃、3時間保持して、ポリカーボネート樹脂を除去した残渣の光学顕微鏡像から、ピッチ系黒鉛化短繊維を特定して測定した。
【0087】
(2)原料として使用するピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維長は、光学顕微鏡下でスケールを用いて1500本測定し、その平均値から求めた。なお、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維長は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を空気気流下で550℃、3時間保持して、ポリカーボネート樹脂を除去した残渣の光学顕微鏡像から、ピッチ系黒鉛化短繊維を特定して測定した。
【0088】
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維のアスペクト比は、上述した平均繊維長を平均繊維径で除して算出した。
【0089】
(4)原料として使用するピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子のラマンスペクトルパラメータは、Jobin Yvon製Ramanor T−64000を用いてマクロラマンモードまたは顕微モードで測定し求めた。なお、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子のラマンスペクトルデータは、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を空気気流下で550℃、3時間保持して、ポリカーボネート樹脂を除去した残渣を同様の方法で測定し求めた。
【0090】
(5)原料として使用する黒鉛粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡で2000倍の倍率で観察し、厚みと長軸の長さを測定し、長軸の長さを厚みから算出した。なお、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子のアスペクト比は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を空気気流下で550℃、3時間保持して、ポリカーボネート樹脂を除去した残渣を同様の方法で測定し求めた。
【0091】
(6)原料として使用する黒鉛粒子の平均粒子径は、シスメックス製マスターサイザー2000を用いて、レーザー回折法から求めた。
【0092】
(7)熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中の黒鉛粒子の平均粒子径は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を空気気流下で550℃、3時間保持して、ポリカーボネート樹脂を除去した残渣の光学顕微鏡像から、黒鉛粒子を特定し、スケールを用いて1500個測定し、その平均値から求めた。
【0093】
(8)原料として使用するピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子のBET比表面積は、マウンテック製MacsorbHMを用いて測定し求めた。なお、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物中のピッチ系黒鉛化短繊維及び黒鉛粒子混合物のBET比表面積は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を空気気流下で550℃、3時間保持して、ポリカーボネート樹脂を除去した残渣を同様の方法で測定し求めた。
【0094】
(9)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めた。
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4M
0.83
c=0.7
【0095】
(10)ピッチ系黒鉛化短繊維、黒鉛粒子の金属含有量は、ピッチ系黒鉛化短繊維、黒鉛粒子を硫酸、硝酸で分解した後、硫酸白煙まで濃縮し、希硝酸に溶かした溶液ICP質量分析法で分析し求めた。なお、金属含有量に含まれる金属の対象は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、モリブデン、バリウム、タングステンとし、その合計量を金属含有量とした。
【0096】
(11)熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の荷重たわみ温度は、JIS K7191−2に準じ、東洋精機製作所製HDTテスターA−3M(0.45MPa)を用いて求めた。
【0097】
(12)熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体のMD方向とTD方向の熱伝導率比は、MD方向の熱伝導率をTD方向の熱伝導率で除して算出した。なお、熱伝導率はJIS K7162で規格された試験片の中央部からMD方向、TD方向毎にサンプルを切出し、レーザーフラッシュ法にて測定し求めた。
【0098】
(13)熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物の耐久性は、熱伝導性ポリカーボネート樹脂組成物をプレッシャークッカー試験で温度120℃、湿度80%環境下に120時間保存し、保存前後のアイゾット衝撃強度(保存後のアイゾット衝撃強度を保存前のアイゾット衝撃強度で除した値)の比で算出した。アイゾット衝撃試験はJIS K7110に準じて実施した。
【0099】
[使用原料]
本実施例における使用原料は、以下の通りである。
(ピッチ系黒鉛化短繊維)
A−1:縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmの孔のノズルを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は328℃であり、溶融粘度は13.5Pa・Sであった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付400g/m
2のピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から320℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、さらに800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブを粉砕機にて粉砕し、3000℃で黒鉛化処理した。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は10μm、平均繊維長は170μm、アスペクト比は17であった。ラマンスペクトルデータI
D/I
Gは0.111、Δν
Gは19.8cm
−1、BET比表面積は0.6m
2/g、金属含有量は20ppmであった。
A−2:平均繊維長が長くなるように粉砕条件を調整した以外は、A−1と同様の方法でピッチ系黒鉛化短繊維を作製した。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は10μm、平均繊維長は3000μm、アスペクト比は300であった。ラマンスペクトルデータI
D/I
Gは0.111、Δν
Gは19.8cm
−1、BET比表面積は0.4m
2/g、金属含有量は20ppmであった。
A−3:平均繊維長が短くなるように粉砕条件を調整した以外は、A−1と同様の方法でピッチ系黒鉛化短繊維を作製した。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は10μm、平均繊維長は28μm、アスペクト比は2.8であった。ラマンスペクトルデータI
D/I
Gは0.111、Δν
Gは19.8cm
−1、BET比表面積は0.9m
2/g、金属含有量は20ppmであった。
A−4:粉砕工程と黒鉛化工程の処理順序を入替えた以外は、A−1と同様の方法でピッチ系黒鉛化短繊維を作製した。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は10μm、平均繊維長は170μm、アスペクト比は17であった。ラマンスペクトルデータI
D/I
Gは0.148、Δν
Gは19.8cm
−1、BET比表面積は0.6m
2/g、金属含有量は20ppmであった。
【0100】
(黒鉛粒子)
B−1:人造黒鉛TIMREX SFG44(TIMCAL製、アスペクト比25、平均粒子径25μm、ラマンスペクトルデータI
D/I
G0.062、Δν
G18.3cm
−1、BET比表面積は4.1m
2/g、金属含有量120ppm)
B−2:人造黒鉛TIMREX KS15(TIMCAL製、アスペクト比14、平均粒子径8μm、ラマンスペクトルデータI
D/I
G0.066、Δν
G18.3cm
−1、BET比表面積は8.5m
2/g、金属含有量140ppm)
B−3:人造黒鉛TIMREX KS6(TIMCAL製、アスペクト比11、平均粒子径4μm、ラマンスペクトルデータI
D/I
G0.072、Δν
G18.3cm
−1、BET比表面積は16.5m
2/g、金属含有量150ppm)
B−4:膨張黒鉛 E−40(西村黒鉛製、アスペクト比200、平均粒子径400μm、ラマンスペクトルデータI
D/I
G0.076、Δν
G19.4cm
−1、BET比表面積は3.4m
2/g、金属含有量1200ppm)
【0101】
(ポリカーボネート樹脂)
C−1:直鎖状ポリカーボネート樹脂パウダー L−1225WX(帝人化成製、粘度平均分子量19,500)
C−2:直鎖状ポリカーボネート樹脂パウダー L−1225WP(帝人化成製、粘度平均分子量22,500)
(難燃剤)
D−1:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩 メガファックF−114P(DIC製)
(その他添加剤)
E−1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤 イルガノックス1076(BASF製)
F−1:離型剤 ステアリルステアレートおよびグリセリントリステアレートを主成分とする脂肪酸エステル リケマールSL900(理研ビタミン製)
【0102】
[実施例1〜5、比較例1〜8]
表1に示すC〜F成分を所定の組成比にてタンブラーを用いて均一混合して、難燃剤及び添加剤を含むポリカーボネート樹脂混合物を作製し、得られたポリカーボネート樹脂組成物をワーナー・アンド・フライドラー製二軸押出機ZSK−58の第1供給口(スクリュ根元部)に供給し、次いで、第2供給口(サイドフィード、スクリュ中央部)からB成分を所定量を供給し、さらに、第3供給口(サイドフィード、スクリュ中央部と先端部の中間)からA成分を供給した。混練した樹脂を押出機先端から吐出し、水冷し、ペレタイザーにてペレット化することで、熱伝導性ポリカーボネート樹脂を得た。このときの混練温度、スクリュ回転数は表1に示す。
得られた熱伝導性ポリカーボネート樹脂を用いて、上述した評価方法にて各種物性の評価を実施した。
【0103】
【表1】