【課題を解決するための手段】
【0044】
これを達成するために、本発明の目的は、互いに積み重ねられた複数の燃料ペレットと、該ペレットの積み重ねを囲む中性子透過性の材料で作られた燃料被覆とを備えており、長手方向に沿って延びている核燃料棒であって、
前記長手方向を横切る断面において、
−前記燃料被覆が、楕円形であって、内面が、長さ2×aの長軸および長さ2×bの短軸を有しており、
−各核燃料ペレットが、前記燃料被覆の長軸方向端部が断ち落とされたおおむね楕円形であり、各ペレットの短軸が、前記燃料被覆への前記ペレットの組み立てすき間jを除いて、前記燃料被覆の内面の短軸の長さ2×bに等しい長さ2×b’を有し、前記ペレットの断ち落とされた半長軸と前記燃料被覆の半長軸との長さの差(c−a)が、前記組み立てすき間よりもはるかに大きい核燃料棒である。
【0045】
本発明の目的において、組み立てすき間よりも「はるかに」大きいということは、後述のように燃料被覆との周方向の相互作用を伴うことなく燃料の膨張が可能であるようにボイド空間を配置することができるように、組み立てすき間よりも大きい値を意味する。
【0046】
本発明による技術的解決策を実現するために、本発明者は、制御されないペレット/燃料被覆の機械的な相互作用の場合に生じ、すなわち燃料被覆の変形能を超える瞬間的な機械的相互作用の状況において生じる機械的な現象の特定を試みた。
【0047】
これらの状況は、例えば原子炉の出力がそれまでの運転の出力よりも高いレベルへと上昇する場合や、燃料の温度が燃料の自動的な再配置の機構を生じさせず、すなわち自身の変形の自動適応を生じさせず、あるいはわずかにしか生じさせない動作状況において、生じる可能性がある。
【0048】
これらの状況において、円形の断面を有する既存の燃料棒は、ペレットと燃料被覆との間のきわめて強力な機械的相互作用を有する。これらの状況において、中実な円形のペレットは、中心から周辺に向かって低下する温度勾配を有し、すなわち換言すると、ペレットの低温な外周が、一種のフープ拘束剛性を形成する半径方向の剛性を課す。さらに、ペレットの自身の適応がきわめてわずかであるため、半径方向の柔軟性が存在しない。したがって、このような状況において、燃料被覆が燃料ペレットの半径方向の変形のより大きな割合によって課される膜剛性と呼ばれるフープ拘束剛性を有する。換言すると、フープ拘束が、この半径方向の相互作用の方向に生じる。結果として、ペレットにとって、可能な応力緩和の方向が1つだけ、すなわち軸方向または長手方向だけしか存在せず、この目的のために各ペレットの端部に形成された皿(dishing)に向かって局所的なクリープが可能なだけである。
【0049】
さらに、本発明者は、きわめて強力なペレット/燃料被覆の機械的な相互作用が存在する状況において、燃料棒の熱機械的挙動を改善すべき場合に、以下の技術的解決策を実現しなければならないという結論に達した。
・燃料被覆のフープ拘束方法を変更し、円形断面の場合に燃料被覆を長円にすることによって、燃料被覆の剛性を低下させる。機械的な半径方向のペレット/燃料被覆の相互作用を、非軸対称にしなければならない。したがって、最初は長円形である断面を、小径の方向においてのみペレットと燃料被覆との間の機械的な接触が生じうるように定めなければならず、大径の方向のペレットと燃料被覆との間の移動(すなわち、燃料の膨張)が可能であるように、空間を生成しなければならない。
・これに対応して、ペレットを長円形にすることによってペレットの低温な外周の剛性を低下させる。これは、相互作用の表面を局所化でき、長円モードでペレットに応力を加えることによって小径に対してのみ直角にすることができる。
・2つの面において冷却されるプレートの温度勾配により近い温度勾配を持たせることによって、非軸対称なペレットの温度勾配を生成する。燃料の非軸対称な温度勾配は、長円形のペレットの長軸の端部により高温な部位を生じさせることによって、現時点において使用されている円形断面のペレットの低温な外周のフープ剛性を下げることができる。この熱的効果は、ペレットが短軸に沿って有する長円剛性の低下に貢献する。
・膨張および拡大する燃料が、他の応力またはペレット/燃料被覆の相互作用を生じさせることなく自身の断面においてクリープによって自身を再配置できるよう、断面により大きなボイド空間を生成する。このクリープによる再配置は、これらのボイドがペレットの最も高温の部分に隣接し、ペレット/燃料被覆の相互作用においてペレットへと加わる反力がこれらの最も高温の部分に作用する場合にのみ可能である。
・外部の冷却材の圧力が加わる燃料棒の断面の機械的な平衡を維持する。きわめて強力なペレット/燃料被覆の機械的相互作用の条件下で、得られるオバリング剛性が、断面の形状を安定な平衡に維持するために十分でなければならない。
【0050】
さらに、本発明者は、燃料ペレットと燃料被覆との間の機械的な相互作用の状況における熱機械的挙動を改善するために、燃料棒の断面を楕円形にすることを最初に提案する。
【0051】
次いで、本発明者は、使用先の原子炉の通常の動作において核燃料要素に生じる他の現象の理解を試みた。
【0052】
加圧水型原子炉などの既存の原子炉において、棒状の燃料要素は、互いに1つずつ積み重ねられた円柱形の燃料ペレットを、この積み重ねよりも長い管の燃料被覆の内側に配置することで、核分裂ガスの放出の影響下で燃料要素の積み重ねにおける圧力が次第に増加することを抑えるために必要な膨張空間をカラムの端部に残すように構成される。
【0053】
燃料ペレットと冷却材との間の熱伝達が、組み立てにおけるペレットと燃料被覆との間の半径方向のすき間(寿命の最初にガスで満たされる)および燃料被覆の厚さによって構成される熱抵抗を介して半径方向に生じる。
【0054】
要素の寿命の全体にわたってこの熱抵抗を制御することで、燃料の温度の容認の限界が守られることが保証される。したがって、本発明者は、新規な燃料棒の設計に以下の因子すなわち、
・寿命の最初に較正される半径方向のガスシールを介する熱伝達、
・熱伝達の方向を横切る方向に形成される自由空間
を導入しなければならないと考えた。
【0055】
通常のプレート状の燃料要素は、燃料によって引き起こされる変形に、それらの燃料被覆の「延性」を通じて、変形方向の熱伝達を維持しつつきわめて低い燃料被覆の応力にて適応することができる。したがって、本発明者は、厚さの方向において燃料によって引き起こされる変形にきわめて低い燃料被覆の応力にて適応できるよう、燃料要素をきわめて細長く製作しなければならず、すなわち厚さに対する幅の比が大きくなければならないと確信した。
【0056】
結果として、本発明者は、本発明による楕円形断面を有する燃料棒が、有利には上述の3つの解決策の因子を使用しなければならず、すなわち、
・長さ2×aの長軸および長さ2×bの短軸を有し、a/bに等しい断面の細長さ係数を有する楕円形の断面、
・ペレットの形状も、円形断面の標準的な燃料棒にすでに存在するすき間に比肩する、ペレットと較正された燃料被覆との間の組み立てにおける半径方向のすき間を生じさせる楕円形であるべきであること、
・ペレットの長軸の断ち落としによって得られるペレットの長軸の端部の自由空間の存在
有さなければならないという結論に達した。
【0057】
このようにして、本発明者は、本発明に開示の技術的解決策に到達し、すなわち長軸方向端部が断ち落とされた楕円形断面を有するペレットを、楕円形の燃料被覆の内側において1つずつ互いに積み重ね、組み立て時に半径方向のすき間がペレットの断ち落とされていない部位に沿って形成され、核分裂ガスの膨張チャンバが断ち落とされた端部に形成される技術的解決策に到達した。
【0058】
この新規な燃料棒の断面によって得られる結果は、ペレットと燃料被覆との間のきわめて強力な機械的相互作用のもとでの熱機械的挙動の目標とした改善である。その理由は以下のとおりである。
・相互作用が断面の短軸に直交するペレット/燃料被覆の機械的な接触の部位に限られることで、燃料被覆がペレットによって引き起こされる変形に自身の長円度を減少させることによって適応でき、したがって長軸2×aに沿った端部に位置する燃料被覆の厚さにおいてのみ曲げ応力が生じる。
・ペレットにおける温度勾配が、相互作用の際のペレットのより柔軟な機械的挙動を促進する。
・ペレットがおおむね楕円形であることと、長軸方向端部に大きなガスシールが存在することとの組み合わせにより、もっぱら短軸方向に向かう熱交換が生じ、ペレットの高温なコアが長軸に沿って延び、低温の周辺部が燃料被覆との接触の部位に限られる。相互作用の際にペレットが短軸方向に形成する機械的な剛性が、ペレットの低温の周辺部によって生成されるアーチ効果がほぼ完全に存在しないことによって、きわめて大きく減らされる。
・ペレットの断ち落とされた端部における(すなわち、長軸に沿った)ペレットと燃料被覆との間の熱交換に対する局所的な抵抗が、この領域のペレットの表面部分の温度を上昇させることにより、燃料被覆との機械的な相互作用において、燃料ペレットが基本的には小径に沿って圧縮を被り、長軸の端部に位置する表面の範囲までの高温領域の存在は、優先的にこの軸に沿ってクリープによる変形が可能であることを意味する。横方向の端部のボイドへと向かうクリープによる押し出しのこの自由度は、ペレットが優先的にこの方向に沿ったクリープの変形によって自身の体積の増加に適応することを可能にし、したがって短軸に沿った燃料被覆との機械的相互作用によって引き起こされる変形を最小限にする。
【0059】
当業者であれば、断面の平坦化に対抗するように燃料ペレットによって加えられる剛性パラメータを調節することによって、本発明による燃料棒が使用される原子炉の通常の動作において加えられる冷却材の外部の圧力の作用のもとで燃料棒の楕円形断面の幾何学的安定性を達成することを試みるであろう。
【0060】
これらのパラメータを、以下のように定めることができる。
・断面の細長さ係数(長軸と短軸との比)が、ペレットの熱特性を制御し、したがって短軸に沿った圧縮に対する剛性を制御する、
・ペレットの断ち落とされた長軸cに沿った横方向の端部の空洞の寸法が、温度を制御し、したがってこの方向に沿ったペレットのクリープ変形速度(短軸に沿った圧縮に対するペレットの剛性を部分的に決定する空洞へと向かう押し出しに対する剛性)を制御する。
【0061】
したがって、本発明によって提案される新規な燃料棒の形状は、ペレットと燃料被覆との間の加えられた変形の分配ならびにオバリングによる曲げにて燃料被覆へと応力が加わるやり方ゆえに燃料被覆における応力を最小にする断面の細長さ係数の調節、ならびにペレットの断ち落とし、したがって端部におけるディッシング(dishing)の設計によって、通常の動作の際のペレットの勾配の制御および熱交換を保証する断面の幾何学的安定性をもたらす一方で、機械的な相互作用の状況下でペレットによって燃料被覆へともたらされる変形への適応を可能にする。
【0062】
好ましくは、断ち落とされた長軸cの全長を越えたところにある燃料被覆へのペレットの組み立てすき間jが、燃料被覆の長軸の長さ2×aの10%以下である。
【0063】
本発明による燃料棒が加圧水型原子炉(PWR)用として設計される場合、燃料被覆は、好ましくはジルコニウム合金またはM5合金(ZrNbO)で作られ、燃料ペレットが、好ましくはUO
2、(U,Pu)O
2などのセラミック材料、あるいは酸化ウランおよび再処理酸化プルトニウムにもとづく混合物で作られる。
【0064】
本発明による燃料棒が、ガス冷却高速炉(GCFR)における使用を意図している場合には、燃料被覆が、好ましくは例えばバナジウム主体の合金などの耐熱または準耐熱金属材料、あるいは例えばTi
3SiC
2型のMAX相などの延性セラミックで作られ、燃料ペレットが、好ましくは(U,Pu)C、(U,Pu)O
2などのセラミック材料で作られる。
【0065】
さらに本発明は、上述した燃料棒のような燃料棒を複数本、格子にまとめて配置して備えている核燃料アセンブリに関する。
【0066】
さらに本発明は、中性子透過性の材料で作られた燃料被覆であって、長手方向に沿って延びるとともに、この長手方向に対して横方向に楕円形の断面を有している燃料被覆に関する。
【0067】
さらに本発明は、長手方向に沿って延びている核燃料ペレットであって、長手方向を横切る断面が、長軸方向端部が断ち落とされたおおむね楕円形状を有する核燃料ペレットに関する。
【0068】
さらに本発明は、長手方向に沿って高さHを有し、この長手方向を横切る断面が、長さ2×cの断ち落とされた長軸と長さ2×b’の短軸とを有するおおむね断ち落とされた楕円形状を有する燃料ペレットを製造する方法であって、
−いわゆるペレット化工程において燃料粉末を作成するステップと、
−高さHと、長軸2×cおよび短軸2×b’を有する断ち落とされた楕円形の断面とを有する一組の金型内で、燃料粉末を原料ペレットの縁に対して圧縮するステップと、
−圧縮した燃料ペレットを焼結するステップと
が実行される方法に関する。
【0069】
用語「原料ペレット」が、未焼結のペレットを意味することに留意されたい。
【0070】
有利には、高さHと長軸2×cとの比H/(2×c)が、少なくとも1.2に等しい。
【0071】
したがって、本発明によって開示される新規な燃料棒の形状は、燃料棒の製造に関する改善も可能にすることができる。燃料ペレットの断ち落とされた楕円形断面は、上述の製造方法における2つの改善を、下記に別々に表わされるとおりに想定することを意味する。
・ペレットの圧縮方法について:このペレットの新規な形状は、圧縮軸が(円形断面の公知のペレットのような円柱の軸に沿った圧縮軸ではなく)楕円形断面の短軸方向に沿ってよいことを意味する。この新規な圧縮方法は、圧縮密度の一様性、したがって焼結後のペレットの形状について、より良好な制御をもたらすことができる。
・ペレットの直径を調節するための研削の排除:この燃料棒の断面の新規な楕円形は、原子炉において冷却材の温度が初めて上昇したときに外側からの圧力の影響によって、燃料被覆がペレットの面(短軸に対して直角)に接触させられることを意味する。したがって、ペレットの熱特性が、ペレットと燃料被覆との間の初期の組み立てすき間に影響されにくい。したがって、従来技術における状況と異なり、(特に上述の圧縮方法の改善と併せて)焼結によって得られる幾何学的な公差を容認できるようになるため、ペレットの寸法を調節する必要がない。
【0072】
さらに本発明は、燃料ペレットを中性子透過性の材料で作られた燃料被覆の内側に積み重ねて核燃料棒を製作する方法であって、上述の製造方法を直接使用して作られた焼結されたままの燃料ペレットが、おおむね楕円形である燃料被覆の内側に積み重ねられ、燃料被覆の内面の短軸の長さ2×bが、組み立てすき間を除いて、ペレットの短軸の長さ2×b’と同じであり、ペレットの断ち落とされた半長軸と燃料被覆の半長軸との長さの差(c−a)が、組み立てすき間jよりもはるかに大きい方法に関する。