特許第5964776号(P5964776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964776
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】衣料用編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/14 20060101AFI20160721BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20160721BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   D04B1/14
   D02G3/38
   A41D31/00 D
   A41D31/00 501A
   A41D31/00 503D
   A41D31/00 503E
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-72024(P2013-72024)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196572(P2014-196572A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2014年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】麻河 典生
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀一
(72)【発明者】
【氏名】安田 智則
(72)【発明者】
【氏名】馬場 武一郎
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−013048(JP,A)
【文献】 特開平08−109532(JP,A)
【文献】 実開昭60−132473(JP,U)
【文献】 特開昭58−109649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D31/00−31/02
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
D04B1/00−1/28
21/00−21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣毛繊維を含む紡績糸と、マルチフィラメント糸を含む糸が交編された衣料用編地であって、
前記編地を100重量%としたとき、前記獣毛繊維を含む紡績糸の割合は3〜20重量%であり、
前記獣毛繊維の平均直径は23μm以下であり、
前記マルチフィラメント糸2〜30本に対して前記獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されており、
前記獣毛繊維を含む紡績糸はマルチフィラメント繊維と獣毛繊維とが一体化されて撚られた精紡交撚糸であり、
断面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、
側面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の撚り方向に沿って撚回されていることを特徴とする衣料用編地。
【請求項2】
獣毛繊維を含む紡績糸と、マルチフィラメント糸を含む糸が交編された衣料用編地であって、
前記編地を100重量%としたとき、前記獣毛繊維を含む紡績糸の割合は3〜20重量%であり、
前記獣毛繊維の平均直径は23μm以下であり、
前記マルチフィラメント糸2〜30本に対して前記獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されており、
前記獣毛繊維を含む紡績糸は単糸であり、撚り係数Kが70〜200であることを特徴とする衣料用編地。
ただし、撚り係数Kは下記の式(1)で算出する。
K=T/(10,000/D)1/2・・・式(1)
T:1m間の撚り数
D:紡績糸の繊度(deci tex)
【請求項3】
獣毛繊維を含む紡績糸と、マルチフィラメント糸を含む糸が交編された衣料用編地であって、
前記編地を100重量%としたとき、前記獣毛繊維を含む紡績糸の割合は3〜20重量%であり、
前記獣毛繊維の平均直径は23μm以下であり、
前記マルチフィラメント糸2〜30本に対して前記獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されており、
前記獣毛繊維を含む紡績糸は、マルチフィラメント繊維と獣毛繊維の割合が、マルチフィラメント繊維5重量%以上50重量%未満、獣毛繊維50重量%を超え95重量%以下である精紡交撚糸であることを特徴とする衣料用編地。
【請求項4】
前記編地を100重量%としたとき、さらにセルロース繊維を含む紡績糸を、0重量%を超え45重量%以下含む請求項1〜3のいずれかに記載の衣料用編地。
【請求項5】
前記獣毛繊維を含む紡績糸の糸継ぎ部は紡績糸内に撚り込まれている請求項1〜のいずれかに記載の衣料用編地。
【請求項6】
前記獣毛繊維を含む紡績糸の繊度は、58.8〜417deci tex(24〜170メートル番手)であり、前記マルチフィラメント糸の繊度は20〜200deci texである請求項1〜のいずれか1項に記載の衣料用編地。
【請求項7】
前記精紡交撚糸の獣毛繊維に対するマルチフィラメント繊維の巻き付けピッチが0.5〜5.0mmである請求項1、3〜6のいずれか1項に記載の衣料用編地。
【請求項8】
前記衣料用編地の目付が80〜250g/m2である請求項1〜のいずれか1項に記載の衣料用編地。
【請求項9】
前記獣毛繊維を含む紡績糸はマルチフィラメント繊維と獣毛繊維とが一体化されて撚られた精紡交撚糸であり、
断面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、
側面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の撚り方向に沿って撚回されている請求項2又は3に記載の衣料用編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績糸とマルチフィラメントを含む糸が交編された衣料用編地に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績糸とマルチフィラメントを含む糸が交編された編地は、ドレスシャツ、ビジネスシャツ、スポーツシャツ、Tシャツ、肌着などとして従来から知られている。例えば特許文献1〜2には紡績糸とフィラメント糸からなる交編編地が提案されている。また特許文献3には紡績糸と弾性糸との交編編物であり、紡績糸が塩型カルボキシル基を有する架橋アクリル繊維及び他の短繊維を含む混紡糸が提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の編地をシャツなどの衣料としたとき、保温性に乏しく着用感もさらなる改善が求められていた。とくに近年の電力不足によりエアコン使用を控え、衣料で身体を保温する風潮が高まる中、ハリ、コシを維持したまま保温性が高く、着用感に優れた編地の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−303301号公報
【特許文献2】特開2001−303403号公報
【特許文献3】特開2009−133036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、獣毛繊維特有のチクチク感がなく、ハリ、コシを維持したまま保温性が高く、着用感に優れた衣料用編地を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1番目の衣料用編地は、獣毛繊維を含む紡績糸と、マルチフィラメント糸を含む糸が交編された衣料用編地であって、前記編地を100重量%としたとき、前記獣毛繊維を含む紡績糸の割合は3〜20重量%であり、前記獣毛繊維の平均直径は23μm以下であり、前記マルチフィラメント糸2〜30本に対して前記獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されており、前記獣毛繊維を含む紡績糸はマルチフィラメント繊維と獣毛繊維とが一体化されて撚られた精紡交撚糸であり、断面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、
側面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の撚り方向に沿って撚回されていることを特徴とする。
本発明の第2番目の衣料用編地は、獣毛繊維を含む紡績糸と、マルチフィラメント糸を含む糸が交編された衣料用編地であって、前記編地を100重量%としたとき、前記獣毛繊維を含む紡績糸の割合は3〜20重量%であり、前記獣毛繊維の平均直径は23μm以下であり、前記マルチフィラメント糸2〜30本に対して前記獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されており、前記獣毛繊維を含む紡績糸は単糸であり、撚り係数Kが70〜200であることを特徴とする。
ただし、撚り係数Kは下記の式(1)で算出する。
K=T/(10,000/D)1/2・・・式(1)
T:1m間の撚り数
D:紡績糸の繊度(deci tex)
本発明の第3番目の衣料用編地は、獣毛繊維を含む紡績糸と、マルチフィラメント糸を含む糸が交編された衣料用編地であって、前記編地を100重量%としたとき、前記獣毛繊維を含む紡績糸の割合は3〜20重量%であり、前記獣毛繊維の平均直径は23μm以下であり、前記マルチフィラメント糸2〜30本に対して前記獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されており、前記獣毛繊維を含む紡績糸は、マルチフィラメント繊維と獣毛繊維の割合が、マルチフィラメント繊維5重量%以上50重量%未満、獣毛繊維50重量%を超え95重量%以下である精紡交撚糸であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の衣料用編地は、獣毛繊維を含む紡績糸とマルチフィラメント糸が交編され、獣毛繊維の割合は3〜15重量%であり、獣毛繊維の平均直径が23μm以下であり、マルチフィラメント糸2〜30本に対して獣毛繊維を含む紡績糸が1本の割合で交編されていることにより、ハリ、コシがあり、保温性が高く、着用感に優れ、ウォッシャブル性を有し家庭洗濯が可能な衣料用編地を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは本発明の一実施例の精紡交撚糸の断面図であり、図1Bは同紡績糸の側面図である。
図2図2は同、精紡交撚糸を製造するためのリング精紡機の要部を示す斜視図である。
図3図3は同、リング精紡機のフロントローラ要部の模式的説明図である。
図4図4は本発明の一実施例の編地の模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の衣料用編地は、獣毛繊維を含む紡績糸とマルチフィラメント糸を含む糸が交編され、編地を100重量%としたとき、獣毛繊維の割合は3〜20重量%、好ましくは4〜18重量%である。獣毛繊維の割合が前記の範囲であると着心地は良好で、ハリ、コシを維持したまま保温性が高く、良好な着用感となる。マルチフィラメント糸は速乾性、ハリ、コシ、強度などが高い。
【0010】
獣毛繊維の平均直径は23μm以下とする。これにより、獣毛繊維特有のチクチク感をなくすことができる。獣毛繊維の平均直径を23μm以下とするには、獣毛繊維がウールの場合、羊の下肢等の剛毛の部分を除いてカットし集毛することにより得られる。
【0011】
本発明の衣料用編地は、マルチフィラメント糸を含む糸2〜30本、好ましくは3〜25本、さらに好ましくは4〜20本に対して、獣毛繊維を含む紡績糸を1本の割合で交編した編地である。これにより着心地は良好で、ハリ、コシを維持したまま保温性が高く、良好な着用感となる。加えて、ウォッシャブル性を有し家庭洗濯が可能である。加えて、獣毛繊維を他の繊維と別の色に染色すると、特殊な模様を発現できる。例えば編地のウェール方向に平行状の線模様を染色し、獣毛繊維紡績糸を同色又は別の色に染色すると格子模様を発現できる。別の手段として、編地全体のコース方向に平行状の線模様を染色し、獣毛繊維紡績糸を同色又は別の色に染色するとボーダー模様又はストライプ模様を発現できる。
【0012】
前記編地を100重量%としたとき、さらにセルロース繊維を含む紡績糸を0重量%を超え45重量%以下含んでもよく、好ましくは5〜42重量%、さらに好ましくは10〜40重量%含んでも良い。セルロース繊維を含む紡績糸を使用する場合は、マルチフィラメント糸とセルロース繊維を含む紡績糸の合計2〜30本、好ましくは3〜25本、さらに好ましくは4〜20本に対して、獣毛繊維を含む紡績糸を1本の割合で交編する。セルロース繊維を加えることにより、吸湿性と吸水性を向上できる。セルロース繊維としては、コットン、麻、レーヨン、キュプラ、アセテート、パルプを有機溶媒に溶解して紡糸したリヨセル(商品名)、テンセル(商品名)などがある。
【0013】
本発明の獣毛繊維を含む紡績糸は、マルチフィラメント繊維と獣毛繊維とが一体化されて撚られた精紡交撚糸であり、断面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、側面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記精紡交撚糸の撚り方向に沿って撚回されていることが好ましい。この構造により、マルチフィラメント繊維と獣毛繊維との一体性が高く、獣毛繊維の周囲はマルチフィラメント繊維によって巻き付けられ毛羽部伏せされていることから、ウォッシャブル性を発揮する。
【0014】
前記獣毛繊維を含む紡績糸は単糸であるのが好ましい。撚り係数Kは70〜200が好ましく、さらに好ましくは75〜190、さらに好ましくは80〜180である。ただし、撚り係数Kは下記の式(1)で算出する。
K=T/(10,000/D)1/2・・・式(1)
T:1m間の撚り数
D:紡績糸の繊度(deci tex)
【0015】
前記獣毛繊維を含む紡績糸の糸継ぎ部は紡績糸内に撚り込まれているのが好ましい。これにより糸の編み針通過性がよく、取扱い性が良好となる。
【0016】
前記精紡交撚糸は、マルチフィラメント繊維と獣毛繊維の割合が、マルチフィラメント繊維5重量%以上50重量%未満、獣毛繊維50重量%を超え95重量%以下が好ましく、さらに好ましくはマルチフィラメント繊維10重量%以上40重量%以下、獣毛繊維60重量%以上90重量%以下である。前記の範囲であればマルチフィラメント繊維と獣毛繊維のそれぞれの長所を引き出せる。
【0017】
前記精紡交撚糸の繊度は、58.8〜417deci tex(24〜170メートル番手)が好ましく、前記マルチフィラメント糸の繊度は20〜200deci texが好ましい。前記の範囲であれば、薄手編地から中厚地編地まで適用でき、衣料用として適度な厚みの編地となる。獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ、キャメル等の毛繊維である。ウールはとくに有用であるが、カシミヤやモヘヤを混合したウールは軽くて色つやもよく、高級素材となる。獣毛繊維の繊維長は20〜200mmが好ましく、さらに好ましくは30〜180mmである。
【0018】
前記精紡交撚糸の使用するマルチフィラメント繊維は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維、シルク繊維などが使用できる。この中でもポリエチレンテレフタレートのマルチフィラメント繊維は強度が高く、プリーツ性もあり、最も汎用的な素材である。マルチフィラメント繊維のトータル繊度は10〜300deci texが好ましく、より好ましくは20〜200deci texである。マルチフィラメント繊維を構成する繊維の単糸繊度は0.1〜4deci texが好ましく、より好ましくは0.2〜3deci texである。マルチフィラメント繊維の構成本数は、3〜200本程度が好ましく、より好ましくは5〜100本程度である。ウールとポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント繊維とを組み合わせると汎用的な織物や編み物に好適である。ウールとシルクマルチフィラメント繊維とを組み合わせると光沢のある高級素材が得られる。
【0019】
前記精紡交撚糸は、撚り係数とも関係するが、マルチフィラメント繊維の巻き付けピッチは、0.5〜5.0mmが好ましく、さらに好ましくは0.6〜4.0mmであり、0.7〜3.0mmがとくに好ましい。マルチフィラメント繊維の巻き付けピッチが前記の範囲であれば、獣毛繊維を周囲から巻き付け一体化し、ウォッシャブル性を向上できる。また、獣毛繊維の周囲にマルチフィラメント繊維が螺旋状に巻きついていると、長さ方向に引っ張るとマルチフィラメント繊維がコイルのように伸びるため、精紡交撚糸に好ましい伸びを与える。とくに獣毛繊維がウールの場合、繊維長は55〜100mmであるので、マルチフィラメント繊維の巻き付けピッチが前記範囲であると、1本の単繊維当たり相当数マルチフィラメントが巻き付けられていることになり、獣毛繊維とマルチフィラメント繊維との一体化にとって好ましい状態となる。
【0020】
本発明において精紡交撚糸に換えて、通常のリング紡績糸を使用することもできる。リング紡績糸を使用する場合は、撚り係数Kが60〜200の単糸であるのが好ましく、さらに好ましくは65〜180、さらに好ましくは70〜150である。撚り係数Kは前記式(1)のとおりである。
【0021】
本発明の編地は、コース密度20〜70個/インチが好ましく、さらに好ましくは30〜 50個/インチである。ウェール密度は30〜100個/インチが好ましく、さらに好ましくは40〜80個/インチである。この範囲であれば衣料用として適度な風合いの編地となる。目付(単位面積当たりの重量)は80〜220g/m2が好ましい。目付80〜160g/m2は薄手のビジネスシャツ、Tシャツ、スポーツシャツ、インナー(肌着)等として好ましく、目付160〜220g/m2は中厚地のビジネスシャツ、長袖シャツ、スポーツシャツ、インナー(肌着)等として好ましい。
【0022】
本発明の編地は、よこ編でもよいしたて編でもよい。編組織もどのような組織であってもよい。よこ編の場合、平編、ゴム編、パール編、両面編、これらの基本組織の変化編であってもよい。編み機もよこ編機、丸編機(以上よこ編)、トリコット編、ハーフ編、パワーネット編、ラッセル編、多軸挿入編(以上たて編)などを使用できる。また染色は、綿(わた)、糸、編物等いかなる段階で行ってもよく、染色方法は常法を採用できる。
【0023】
セルロース繊維を含む紡績糸を使用する場合は、セルロース繊維100%紡績糸、又はセルロース繊維とポリエステル短繊維との混紡糸を使用してもよい。この場合は、獣毛繊維を含む紡績糸とセルロース繊維を含む紡績糸とポリエステルマルチフィラメントを含む糸の3種類の糸を使用した交編編地となる。この場合の好ましい混合割合は、ポリエステル40〜75重量%、獣毛繊維3〜15重量%、残余をセルロース繊維とする。
【0024】
獣毛繊維は吸湿発熱加工するのが好ましい。吸湿発熱加工は、獣毛繊維中のジサルファイド(−S−S−)結合の少なくとも一部を還元剤溶液中で還元切断してメルカプト基(−SH)を生成させ、前記メルカプト基に不可逆性ブロック基、例えばグリセロールポリグリシジルエーテル(親水性基含有多官能エポキシ化合物)を化学結合させる。
【0025】
また、獣毛繊維は抗菌・防臭加工されていてもよい。抗菌・防臭加工は、例えばパラジウム粒子をバインダーで獣毛繊維に固着させる。別の方法としては、キトサンをバインダーにより獣毛繊維に固着させてもよい。
【0026】
本発明の編地に使用するマルチフィラメント糸は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維、絹繊維などが使用できる。この中でもポリエチレンテレフタレートのマルチフィラメント繊維は強度が高く、プリーツ性もあり、最も汎用的な素材である。マルチフィラメント繊維のトータル繊度は10〜300deci texが好ましく、より好ましくは20〜200deci texである。マルチフィラメント繊維を構成する繊維の単糸繊度は0.1〜4deci texが好ましく、より好ましくは0.2〜3deci texである。マルチフィラメント繊維の構成本数は、3〜200本程度が好ましく、より好ましくは5〜100本程度である。マルチフィラメント繊維は生糸(なまいと)、加工糸のどちらでも使用できる。
【0027】
次に図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物品を示す。図1Aは本発明の一実施例の精紡交撚糸の断面図であり、図1Bは同紡績糸の側面図である。図1Aのようにマルチフィラメント繊維22は獣毛繊維21に取り込まれ、精紡交撚糸20の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在している。すなわち、偏心している。また側面から見たとき、図1Bのようにマルチフィラメント繊維22は獣毛繊維21に取り込まれ、精紡交撚糸20の撚り方向に沿って螺旋状に撚回されている。マルチフィラメント繊維22は獣毛繊維21に取り込まれた構造によって、マルチフィラメント繊維22は埋め込まれて露出度が低くなり、獣毛繊維21の特性をより多く引き出せることから、シャリ感を抑え、ふっくらとした柔らかい風合いのものとなる。加えて、獣毛繊維は周囲からマルチフィラメント繊維によって巻き付けられ毛羽部伏せされている。すなわち縛り付けられている。このことから毛羽は少なく、ピリングの発生も少なく、ウォッシャブル性を発揮する。
【0028】
図1Aに示すように、精紡交撚糸20は断面から見た外観がほぼ円形であることが好ましい。また図1Bに示すように、側面から見た外観がほぼ直線状態であるのが好ましい。このような外観であると、前記と同様にマルチフィラメント繊維22は埋め込まれて露出度は低くなり、獣毛繊維21の特性をより多く引き出せることから、シャリ感を抑え、ふっくらとした柔らかい風合いのものとなる。
【0029】
図2は精紡交撚糸20を得るための一実施例のリング精紡機の要部を示す斜視図である。積極回転駆動するフロントボトムメインシャフト3にはフロントボトムローラ4を錘ごとに設ける。フロントボトムローラ4の上にはフロントトップローラ5をのせる。フロントトップローラ5はゴムコットで被覆され、荷重を掛けた共通のアーバー6にそれぞれ独立に転動可能に外嵌する。粗糸ボビン1から引き出した獣毛繊維束15は、ガイドバーからトランペットフィーダー7を介してバックローラ8に供給する。バックローラ8から送出されてドラフトエプロン9でドラフトされた獣毛繊維束15は、フロントボトムローラ4とフロントトップローラ5にニップされて紡出される。
【0030】
パーン2から引き出されたマルチフィラメント繊維16は、糸ガイドを通過し、テンションフリーの状態でヤーンガイド14を通し、フロントトップローラ5の上流側に供給し、フロントボトムローラ4とフロントトップローラ5のニップ線上で獣毛繊維束と重ね合わせ、次いで実撚りが加えられる。実撚りは、糸をスネルワイヤ10とアンチノードリング11を通過させ、トラベラ12を介して錘上の糸管13に巻き取ることにより加えられる。得られた精紡交撚糸20は糸管13に巻き取られる。
【0031】
図3は獣毛繊維束15とマルチフィラメント繊維16を合撚する際に、フロントトップローラ5の上方から見た説明図である。フロントボトムローラとフロントトップローラ5のニップ線17上において、獣毛繊維束15とマルチフィラメント繊維16を合体させ、ニップ線17を通過した後に撚りを加えて精紡交撚糸20とする。
【0032】
以上説明のとおり、本発明で好ましく用いる精紡交撚糸を得る方法には、下記の2点の特徴がある。
(1)リング精紡機のドラフトゾーンに獣毛繊維束を供給し、リング紡績機のフロントローラの上流側にマルチフィラメント繊維をテンションフリーの状態で供給する。
(2)フロントローラのニップ線上でドラフトされた前記獣毛繊維束にマルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加える。
前記において、マルチフィラメント繊維のテンションフリーの状態は、ワッシャテンサなどを使用せず、摩擦をできるだけ少なくして単に糸ガイドを通過させることを意味する。具体的な張力で示すと、テンション値は0〜15gであり、さらに好ましくは0〜10gであり、とくに好ましくは0〜6.5gの範囲である。
【0033】
図4は本発明の一実施例の編地の模式的平面図であり、よこ編地のゴム編組織を示す。編地を構成する糸を白抜きの糸とドットの糸で示しているのは編み物組織をわかりやすく示すためのものであり、2種類の糸を交互に使っていることを示すのではない。具体的には、マルチフィラメント糸、又はマルチフィラメント糸とコットン紡績糸2〜30本、好ましくは3〜25本、さらに好ましくは4〜20本に対して、獣毛繊維を含む紡績糸を1本の割合で交編する。図4に示す編地において、よこ方向に並んだループの列をコース(course)といい、たて方向に並んだループの列をウェール(wale)という。本発明においては、コース密度20〜70個/インチが好ましく、さらに好ましくは30〜50個/インチである。ウェール密度は30〜100個/インチが好ましく、さらに好ましくは30〜 80個/インチである。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明の実施例、比較例における測定方法は次のとおりとした。
(1)抗ピル性
JIS L 1076A法に従って測定した。
(2)ウォッシャブル性
JIS L0217(105法)における家庭洗濯試験に従って、15回の洗濯後の寸法変化、経方向及び緯方向ともに±2%以内、かつ外観4−5級以上を合格とした。
(3)スナッグ
JIS L1058A法にしたがって測定した。
【0035】
(実施例1)
獣毛繊維を含む紡績糸としてメリノ種ウール紡績糸(ただし、平均直径23μm以下のウール)、メートル番手72番単糸(1/72,139deci tex)、撚り数730回/m(Z撚り)、撚り係数K86.1を使用した。マルチフィラメント糸として(1)ポリエチレンテレフタレート(PET) マルチフィラメント糸(トータル繊度84deci tex,36本)、(2)PET マルチフィラメント糸(トータル繊度84deci tex,48本)、(3)PET マルチフィラメント糸(トータル繊度110deci tex,48本)を使用した。PETはいずれも仮撚加工糸を使用した。
【0036】
36ゲージのヨコ編機を用いて図4に示すゴム編みに編成した。ポリエステルフィラメント糸27本に対してウール紡績糸単糸を1本の割合で交編した。混率は、ウール5.0重量%、ポリエステル95.0重量%であった。編地のウェール数77個/インチ、コース数52個/インチ、目付は155g/m2であった。糸使いと構成比を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
得られた編地をニットシャツに仕立てた。このニットシャツは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯試験合格であり、イージーケアもでき、着心地もよかった。
【0039】
(実施例2)
獣毛繊維を含む紡績糸としてメリノ種ウール紡績糸(ただし、平均直径23μm以下のウール)、メートル番手72番単糸(1/72,139deci tex) 、撚り数730回/m(Z撚り)、撚り係数K86.1を使用した。マルチフィラメント糸として(1)ポリエチレンテレフタレート(PET) マルチフィラメント糸(トータル繊度84deci tex,36本)、(2)PET マルチフィラメント糸(トータル繊度110deci tex,48本)を使用したPETはいずれも仮撚加工糸を使用した。さらに、コットン紡績糸としてメートル番手60番単糸(1/60,167deci tex) 、撚り数770回/m(Z撚り)、撚り係数K99.4を使用した。
【0040】
36ゲージのヨコ編機を用いて図4に示すゴム編みに編成した。ポリエステルフィラメント糸+コットン紡績糸25本に対してウール紡績糸単糸を1本の割合で交編した。混率は、ウール4.8重量%、ポリエステル71.4重量%、コットン23.9重量%であった。編地のウェール数79個/インチ、コース数53個/インチ、目付は158g/m2であった。糸使いと構成比を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
得られた編地をニットシャツに仕立てた。このニットシャツは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯試験合格であり、イージーケアもでき、着心地もよかった。実施例1品に比べて吸湿性と吸水性が高かった。
【0043】
(実施例3)
獣毛繊維を含む紡績糸としてメリノ種ウール紡績糸(ただし、平均直径23μm以下のウール)、メートル番手72番単糸(1/72,139deci tex) 、撚り数730回/m(Z撚り)、撚り係数K86.1を使用した。マルチフィラメント糸として(1)ポリエチレンテレフタレート(PET) マルチフィラメント糸(トータル繊度150deci tex,75本)を使用した。PETはいずれも仮撚加工糸とした。さらに、コットン紡績糸としてメートル番手40番単糸(1/40,250deci tex) 、撚り数700回/m(Z撚り)、撚り係数K110.7を使用した。
【0044】
28ゲージのヨコ編機を用いて図4に示すゴム編みに編成した。ポリエステルフィラメント糸+コットン紡績糸5本に対してウール紡績糸単糸を1本の割合で交編した。混率は、ウール12.9重量%、ポリエステル46.2重量%、コットン40.9重量%であった。編地のウェール数50個/インチ、コース数37個/インチ、目付は187g/m2であった。糸使いと構成比を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
得られた編地をニットシャツに仕立てた。このニットシャツは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯試験合格であり、イージーケアもでき、着心地もよかった。実施例1品に比べて吸湿性と吸水性が高かった。実施例2品に比べるとさらに保温性は高かった。
【0047】
(実施例4)
(1)精紡交撚糸の製造
図2〜3に示す方法によって精紡交撚糸を製造した。獣毛繊維束15としてメリノ種ウール(ただし、直径23μm以下のウール)の粗糸1180deci texを供給し、精紡機のドラフトゾーンで14倍にドラフトした。マルチフィラメント繊維16はポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント繊維(トータル繊度:16deci tex,フィラメント数:8本)をテンションフリー(0〜6.5g)の状態でフロントローラの上流側に供給した。そしてフロントローラのニップ線上でドラフトされたウール繊維束にPETマルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加えて精紡交撚糸を製造した。得られた精紡交撚糸は、100メートル番手単糸(1/100と表示、100 deci tex)、撚り数1000回/m(Z撚り、マルチフィラメントの巻き付けピッチ:1.00mm)、撚り係数Kは100であった。また、得られた精紡交撚糸の割合は、ウール82重量%、PETマルチフィラメント繊維18重量%であった。この糸を顕微鏡で観察したところ、図1A−Bに示すとおりであった。
【0048】
(2)編み物製造
この精紡交撚糸とマルチフィラメント糸として(1)ポリエチレンテレフタレート(PET) マルチフィラメント糸(トータル繊度84deci tex,36本)、(2)PET マルチフィラメント糸(トータル繊度84deci tex,48本)、(3)PET マルチフィラメント糸(トータル繊度110deci tex,48本)を使用してニット編み物を作成した。36ゲージのヨコ編機を用いて図4に示すゴム編みに編成した。ポリエステルフィラメント糸 27本に対して精紡交撚糸を1本の割合で交編した。混率は、ウール4重量%、ポリエステル96重量%であった。編地のウェール数51個/インチ、コース数76個/インチ、目付は152g/m2であった。糸使いと構成比を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
得られた編地をニットシャツに仕立てた。このニットシャツは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯試験合格であり、イージーケアもでき、着心地もよかった。
【0051】
実施例1〜5の編地について抗ピル性、ウォッシャブル性、スナッグを測定した。この結果を表5にまとめて示す。
【0052】
【表5】
【0053】
表5から次のことがわかる。
(1)抗ピル性
実施例1〜5の編地の抗ピル性はいずれも4級以上であり、抗ピル性は良好であった。抗ピル性の最高は5級であり、4級以上であれば実用的には問題のないレベルである。
(2)ウォッシャブル性、
実施例1〜5の編地はJIS L0217(105法)における家庭洗濯試験(15回)の後の寸法変化、経方向及び緯方向ともに±2%以内であり、かつ外観4−5級以上であり合格であった。
(3)スナッグ
スナッグも4−5級以上であり、実用的には問題のないレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の編地は、ハリ、コシがあり、保温性が高く、着用感に優れ、ウォッシャブル性を有し家庭洗濯が可能であり、強度、耐久性、寸法安定性などに優れ、ニットシャツ、肌着、作業着、スポーツ用衣類などに好適である。
【符号の説明】
【0055】
1 粗糸ボビン
2 パーン
3 フロントボトムメインシャフト
4 フロントボトムローラ
5 フロントトップローラ
6 アーバー
7 トランペットフィーダー
8 バックローラ
9 ドラフトエプロン
10 スネルワイヤ
11 アンチノードリング
12 トラベラ
13 糸管
14 ヤーンガイド
15 獣毛繊維束
16,22 マルチフィラメント繊維
17 ニップ線
20 精紡交撚糸
21 獣毛繊維
図1
図2
図3
図4