(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964777
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】優先復旧設備決定装置、優先復旧設備決定方法、プログラムおよび優先復旧設備決定システム
(51)【国際特許分類】
H04L 12/703 20130101AFI20160721BHJP
H04L 12/70 20130101ALI20160721BHJP
【FI】
H04L12/703
H04L12/70 100A
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-74390(P2013-74390)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-199993(P2014-199993A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年8月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:電子情報通信学会 2013年総合大会 冊子講演論文集DVD 発行者:樫原 俊太郎、宮澤 雅典、及び林 通秋 発行日:平成25年3月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発(課題−イ)震災時を想定した障害推定とレストレーションプラン解析・算定技術の研究開発」委託研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599108264
【氏名又は名称】株式会社KDDI研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】樫原 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雅典
(72)【発明者】
【氏名】林 通秋
【審査官】
速水 雄太
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−186711(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/143059(WO,A1)
【文献】
香川康介他,大規模被災時におけるオペレーションシステムの信頼性向上,NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.20,No.4,一般社団法人電気通信協会,2013年 1月 1日,第26−36頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/703
H04L 12/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信経路を形成する複数の通信設備に障害が発生しているかどうかを検出する検出手段と、
前記複数の通信設備のそれぞれの復旧コストを記憶したコストデータベースと、
複数の通信サービスのそれぞれについて通信経路を構成している複数の通信設備を示す情報を記憶した経路データベースと、
前記検出手段が、第1の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生し、かつ、第2の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生したことを検出すると、前記コストデータベースと前記経路データベースとを参照して、前記第1の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路と、前記第2の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路とを特定する通信経路特定手段と、
障害が検出された複数の通信設備のうち、前記第1の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備と、前記第2の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する復旧通信設備決定手段と
を有することを特徴とする優先復旧設備決定装置。
【請求項2】
前記通信経路特定手段は、前記経路データベースを参照して前記第1の通信サービスを復旧するための複数の通信経路の候補を決定し、それぞれの候補に含まれている障害が発生している通信設備の復旧コストを前記コストデータベースを参照して決定し、各候補ごとに復旧コストを加算して各候補のトータル復旧コストを算出し、各候補のトータル復旧コストのうちでトータル復旧コストが最小となる候補を、前記復旧コストが最小となる通信経路として特定することを特徴とする請求項1に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項3】
前記通信経路特定手段は、前記経路データベースを参照して前記第2の通信サービスを復旧するための複数の通信経路の候補を決定し、それぞれの候補に含まれている障害が発生している通信設備の復旧コストを前記コストデータベースを参照して決定し、各候補ごとに復旧コストを加算して各候補のトータル復旧コストを算出し、各候補のトータル復旧コストのうちでトータル復旧コストが最小となる候補を、前記復旧コストが最小となる通信経路として特定することを特徴とする請求項1または2に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項4】
前記復旧通信設備決定手段は、前記優先的に復旧する通信設備として複数の通信設備が決定されたときは、当該複数の通信設備のそれぞれを経由する通信サービスの数に応じて優先順位を決定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項5】
前記コストデータベースは、障害の種類と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであり、
前記通信経路特定手段は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備に発生した障害の種類を特定し、特定した障害の種類に基づき前記コストデータベースを参照することで、復旧コストを決定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項6】
前記コストデータベースは、通信設備の識別情報と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであり、
前記通信経路特定手段は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備の識別情報を特定し、特定した識別情報に基づき前記コストデータベースを参照することで、復旧コストを決定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項7】
前記コストデータベースは、通信設備の機種情報と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであり、
前記通信経路特定手段は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備の機種情報を特定し、特定した機種情報に基づき前記コストデータベースを参照することで、復旧コストを決定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項8】
前記通信経路特定手段は、前記障害が発生した通信設備の復旧コストが前記コストデータベースに登録されていなければ、前記障害が発生した通信設備と同一機種の他の通信設備に関連付けられている復旧コストを検索することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項9】
前記コストデータベースは、通信設備の識別情報と、通信設備の機種情報と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであり、
前記通信経路特定手段は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備の識別情報を特定し、特定した識別情報に対応する復旧コストを前記コストデータベースから検索し、当該通信設備の識別情報に対応した復旧コストが前記コストデータベースに登録されていなければ、前記障害通知に基づき、当該通信設備の機種情報を特定し、特定した機種情報に基づき前記コストデータベースを参照することで復旧コストを決定することを特徴とする請求項8に記載の優先復旧設備決定装置。
【請求項10】
第1の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生し、かつ、第2の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生したことを検出し、
前記第1の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路と、前記第2の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路とを特定し、
障害が検出された複数の通信設備のうち、前記第1の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備と、前記第2の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する
ことを特徴とする優先復旧設備決定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
通信経路を形成する複数の通信設備に障害が発生しているかどうかを検出する検出手段と、
前記複数の通信設備のそれぞれの復旧コストを記憶したコストデータベースと、
複数の通信サービスのそれぞれについて通信経路を構成している複数の通信設備を示す情報を記憶した経路データベースと、
前記検出手段が、第1の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生し、かつ、第2の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生したことを検出すると、前記コストデータベースと前記経路データベースとを参照して、前記第1の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路と、前記第2の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路とを特定する通信経路特定手段と、
障害が検出された複数の通信設備のうち、前記第1の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備と、前記第2の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する復旧通信設備決定手段として機能させるプログラム。
【請求項12】
優先復旧設備決定装置とサーバ装置とを備えた優先復旧設備決定システムであって、
前記サーバ装置は、
複数の通信設備のそれぞれの復旧コストを記憶したコストデータベースと、
複数の通信サービスのそれぞれについて通信経路を構成している複数の通信設備を示す情報を記憶した経路データベースと、
を有し、
前記優先復旧設備決定装置は、
通信経路を形成する複数の通信設備に障害が発生しているかどうかを検出する検出手段と、
前記検出手段が、第1の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生し、かつ、第2の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生したことを検出すると、前記コストデータベースと前記経路データベースとを参照して、前記第1の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路と、前記第2の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路とを特定する通信経路特定手段と、
障害が検出された複数の通信設備のうち、前記第1の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備と、前記第2の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する復旧通信設備決定手段と
を有することを特徴とする優先復旧設備決定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の通信設備のうち優先的に復旧すべき通信設備を決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
企業の支社と本社とを結ぶ専用線サービスなど様々な通信サービスが提供されている。このような通信サービスは複数の通信設備(ルータ、スイッチ、ファイバなど)を介して提供されている。特許文献1によれば、通信サービスを提供している通信経路にネットワーク障害が発生すると、迂回経路を設定して通信サービスを復旧することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−61196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されている技術は、障害の発生した通信設備が少なければ有効であろう。しかしながら、東日本大震災などで明らかになったように、大規模災害では多数の通信設備において同時に障害が発生してしまう。つまり、大規模災害が発生すると迂回経路をまったく設定できないことがある。よって、このような場合にはいずれかの通信設備を修復しなければならないが、障害の発生した多数の通信設備のうちどの通信設備から優先的に復旧すべきかが問題となる。これを決定するには人間の経験だけでは早期に効率よく復旧すべき通信設備を決定することは、非常に困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、早期に効率よく複数の通信サービスを復旧するために有用な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、たとえば、
通信経路を形成する複数の通信設備に障害が発生しているかどうかを検出する検出手段と、
前記複数の通信設備のそれぞれの復旧コストを記憶したコストデータベースと、
複数の通信サービスのそれぞれについて通信経路を構成している複数の通信設備を示す情報を記憶した経路データベースと、
前記検出手段が、第1の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生し、かつ、第2の通信サービスを提供するための通信経路に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生したことを検出すると、前記コストデータベースと前記経路データベースとを参照して、前記第1の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路と、前記第2の通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路とを特定する通信経路特定手段と、
障害が検出された複数の通信設備のうち、前記第1の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備と、前記第2の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する復旧通信設備決定手段と
を有することを特徴とする優先復旧設備決定装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の通信サービスのそれぞれについて復旧コストが最小となる通信経路を特定し、かつ、特定されたいくつかの通信経路において共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定するため、早期に効率よく複数の通信サービスを復旧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、複数の通信サービスを提供するネットワークの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、顧客の第1の拠点と第2の拠点とに提供されている第1の通信サービスについての最小コスト経路を決定する手順を説明するための図である。
【
図3】
図3は、顧客の第1の拠点と第2の拠点とに提供されている第1の通信サービスについての最小コスト経路を決定する手順を説明するための図である。
【
図4】
図4は、優先復旧設備決定装置として機能する情報処理装置(コンピュータ)の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、複数のデータベースを管理するサーバ装置として機能する情報処理装置の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、経路データベースの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、コストデータベースの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、障害管理データベースの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、優先復旧設備決定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、コストデータベースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、複数の通信サービスを提供するネットワークの一例を示す図である。ネットワーク20を介して、顧客Aの第1の拠点10Aと第2の拠点11Aとに通信サービス12Aが提供されている。ここで、通信サービスは、企業の複数の拠点間を結ぶ専用線サービスなどである。同様に、ネットワーク20を介して、顧客Bの第1の拠点10Bと第2の拠点11Bとに通信サービス12Bが提供されている。ネットワーク20は、複数の設備R(例:ルータ、スイッチ、光ファイバなど)を接続して構成されている。
【0010】
通常の障害は1つの設備だけで発生することが多いため、その設備を修理して復旧することになる。また、予備の通信経路としていくつかの迂回経路がネットワーク設計によって用意されているため、通信サービスが障害の影響を受けることはまれである。しかし、大震災などが発生すると、複数の設備Rのうち2つ以上の設備Rにおいて同時に障害Fが発生する。このように複数の設備Rに同時に障害が発生すると、現用の通信経路だけでなく、予備の通信経路も確保できなくなる。その結果、複数の通信サービスが障害の影響を受けてしまう。また、復旧を要する設備の数も多数となるため、どの設備から復旧を開始すべきかを決定することは非常に困難である。
【0011】
そこで、本実施形態では、サーバ装置150が、各通信サービスを提供している通信経路の情報と、設備ごとの復旧コストの情報と、障害がどの設備で発生したかの情報とをデータベース化して管理する。さらに、優先復旧設備決定装置100が通信サービスごとに復旧コストが最小となる通信経路(最小コスト経路)を探索して決定する。さらに、優先復旧設備決定装置100は、より多くの通信サービスが経由することになる設備(より多くの最小コスト経路が通過する設備)を、優先的に復旧する通信設備として決定する。このように、本実施形態によれば、サービスごとに復旧コストが最小となる通信経路を決定し、かつ、サービスが通過する設備の数に応じて優先順位が決定されるため、通信サービスを早期にかつ低コストで復旧することが可能となる。
【0012】
図2は、顧客Aの第1の拠点10Aと第2の拠点11Aとに提供されている第1の通信サービス12Aについての最小コスト経路を決定する手順を説明するための図である。この例で、障害Fが発生するまえに使用されていた経路は、破線で示した経路L1である。経路L1は、第1の拠点10Aの通信インタフェースから第2の拠点11Aの通信インタフェースまでを結ぶ経路であり、設備R4,R1,R2,R3を経由する。ここで、障害Fが設備R2、R6で発生したとする。優先復旧設備決定装置100は、第1の通信サービス12Aを提供するための通信経路L1に含まれる複数の通信設備R4,R1,R2,R3のいずれかに障害が発生したことを検出すると、復旧コストが最小となる通信経路を特定する。
図2に示した例では、通信経路L1では通信設備R2が故障しており、その復旧コストは10である。一方で、通信経路L2は、通信設備R4,R5,R6,R3を経由するため、障害の発生している通信設備R6が含まれる。通信設備R6の復旧コストは5である。このように、通信経路L1の復旧コストは10であり、通信経路L2の復旧コストは5であるから、通信経路L2の復旧コストが最小となる。よって、優先復旧設備決定装置100は、通信経路L2を最小コスト経路に決定する。
【0013】
図3は、顧Bの第1の拠点10Bと第2の拠点11Bとに提供されている第2の通信サービス12Bについての最小コスト経路を決定する手順を説明するための図である。この例で、障害Fが発生するまえに使用されていた経路は、破線で示した経路L3である。経路L3は、第1の拠点10Bの通信インタフェースから第2の拠点11Bの通信インタフェースまでを結ぶ経路であり、設備R4,R1,R2,R3,R6を経由する。ここで、障害Fが設備R2、R6で発生したとする。優先復旧設備決定装置100は、第2の通信サービス12Bを提供するための通信経路L3に含まれる複数の通信設備R4,R1,R2,R3,R6のいずれかに障害が発生したことを検出すると、復旧コストが最小となる通信経路を特定する。
図3に示した例では、通信経路L2では通信設備R2,R6が故障しており、その復旧コストはそれぞれ10と5である。一方で、通信経路L4は、通信設備R4,R5,R6を経由するため、障害の発生している通信設備R6が含まれる。通信設備R6の復旧コストは5である。このように、通信経路L3の復旧コストはトータルで15であり、通信経路L4の復旧コストは5であるから、通信経路L4の復旧コストが最小となる。よって、優先復旧設備決定装置100は、通信経路L4を最小コスト経路に決定する。
【0014】
次に、優先復旧設備決定装置100は、復旧が必要な通信設備の優先度を決定する。優先復旧設備決定装置100は、第1の通信サービス12Aの最小コスト経路(L2)と第2の通信サービス12Bの最小コスト経路(L4)において共通に含まれる通信設備を特定する。
図2、
図3に示した例では、共通の通信設備は、通信設備R6である。よって、通信設備R6の優先度は最も高い優先度が割り当てられる。なお、第1の通信サービス12Aの最小コスト経路(L2)と第2の通信サービス12Bの最小コスト経路(L4)とのうち片方の通信経路にのみ含まれている修理が必要な通信設備の優先度はその次に高い優先度となる。第1の通信サービス12Aの最小コスト経路(L2)と第2の通信サービス12Bの最小コスト経路(L4)とのどちらにも含まれていない修理が必要な通信設備の優先度は最も低くなる。さらに、詳細に優先順位を決定する場合は、修理が必要な通信設備ごとにいくつの通信サービスが経由するかを算出し、算出結果が大きい順から高い優先度を付与してもよい。これは、1つの通信設備を修理及び復旧することで、より多くの通信サービスを復旧できるからである。
【0015】
図4は、優先復旧設備決定装置100として機能する情報処理装置(コンピュータ)の一例を示している。CPU101は、記憶装置105のROMやハードディスクドライブに記憶されているプログラムを実行することで、優先復旧設備決定装置100を構成する各種の機能を実現する。CPU101によって実現される機能としては、たとえば、障害検出部111、通信経路特定部112、復旧通信設備決定部113などがある。障害検出部111は、通信経路を形成する複数の通信設備Rに障害が発生しているかどうかを検出する。たとえば、障害検出部111は、通信設備Rから、または当該通信設備Rを監視している監視装置(不図示)から受信した障害通知(アラートメッセージなど)に基づき、障害が発生したことを検出する。通信経路特定部112は、サーバ装置150のコストデータベースと経路データベースとを参照して、各通信サービスについて、通信サービスを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路を特定する。復旧通信設備決定部113は、たとえば、復旧が必要な各通信サービスの最小コスト経路に含まれる復旧が必要な通信設備のうち、2以上の通信サービスに関与している通信設備を、優先的に復旧すべき通信設備として決定する。たとえば、復旧通信設備決定部113は、障害が検出された複数の通信設備のうち、第1の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備と、第2の通信サービスについて特定された通信経路を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する。
【0016】
通信部102は、通信設備Rや監視装置、サーバ装置150と通信するためのユニットである。入力装置103は、キーボードやポインティングデバイスなどであり、CPU101に対して情報を入力するために使用される。表示装置104は、CPU101からの表示指示にしたがって優先的に復旧する通信設備の設備IDや地理的な設置場所、復旧コストなどを表示する。記憶装置105は、ROM、RAM、ハードディスクドライブなどである。
【0017】
図5は、複数のデータベースを管理するサーバ装置150として機能する情報処理装置の一例を示している。CPU151は、記憶装置155のROMやハードディスクドライブに記憶されているプログラムを実行することで、サーバ装置150を構成する各種の機能を実現する。データベース管理部160は、経路データベース156、コストデータベース157、障害管理データベース158などを作成したり、更新したり、検索を実行したりする。経路データベース156、コストデータベース157、障害管理データベース158は、記憶装置155に記憶されているものとする。
【0018】
通信部152は、通信設備Rや監視装置、優先復旧設備決定装置100と通信するためのユニットである。入力装置153は、キーボードやポインティングデバイスなどであり、CPU151に対して情報(復旧コストなど)を入力するために使用される。表示装置154は、CPU151からの表示指示にしたがってデータベースの検索結果などを表示する。記憶装置155は、ROM、RAM、ハードディスクドライブなどである。
【0019】
図6は、経路データベース156の一例を示す図である。経路データベース156には、通信サービスごとにどのような通信経路(通信設備)を通過するかが登録されている。サービスIDは、通信サービスを識別するための識別情報である。たとえば、第1の通信サービスAのサービスIDはS00001であり、第2の通信サービスBのサービスIDはS00002である。2つの接続IFは、一方の拠点に接続された通信インタフェースと、他方の拠点に接続された通信インタフェースとを示す識別情報である。経路情報は、通信経路を構成している複数の通信設備の識別情報と、接続関係を示す情報とを含む。たとえば、第1の通信サービスAについては、通信経路を構成している複数の通信設備とその接続順序とを表す情報としてR4−R1−R2−R3が登録されている。これは、IF01とR4とが接続され、R4とR1が接続され、R1とR2とが接続され、R2とR3とが接続され、R3とIF02とが接続されていることを意味する。容量(単位は[Gbps]など)は、その通信サービスの通信帯域を示す情報である。復旧用の通信経路を探索する際に、この容量を満たすように通信設備が選択されてもよい。
【0020】
図7は、コストデータベース157の一例を示す図である。コストデータベース157には、設備ID、容量、復旧コストが関連付けて記憶されている。設備IDは、各通信設備Rを識別するための固有の識別情報である。容量は、設備IDによって識別される通信設備Rが提供可能な通信帯域である。復旧コストは、設備IDによって識別される通信設備Rを復旧するために必要となるコストである。復旧コストについては、たとえば、過去の経験に基づいてサーバ装置150のオペレータが入力してもよい。また、同一機種の複数の通信設備Rが存在する場合は、いずれかの通信設備Rで過去に必要となった復旧コストを他の同一機種の通信設備Rの復旧コストとしてコストデータベース157に登録してもよい。この場合、過去に復旧履歴のない通信設備Rであってもおおよその目安となる復旧コストを提供できる。
【0021】
図8は、障害管理データベース158の一例を示す図である。通信設備Rやそれを監視する監視装置は、通信設備Rの通信カードや電源、その他の構成部品に障害が発生すると、障害通知を優先復旧設備決定装置100やサーバ装置150に送信する。障害通知には、障害の種別を特定するための障害ID、障害の発生した通信設備を示す設備IDが含まれる。この例では、F0001は通信カードの故障を意味し、F0002はメイン電源の故障を意味する。
【0022】
図9は、優先復旧設備決定方法の一例を示すフローチャートである。優先復旧設備決定方法は、記憶装置に記憶されたプログラムにしたがって、優先復旧設備決定装置100のCPU101が実行する手順を含んでいる。
【0023】
S901で、障害検出部111は、通信経路を形成している複数の通信設備Rのいずれかに障害が発生しているかどうかを検出したかどうかを判定する。障害検出部111は、障害が発生していることを示す障害通知を受信すると、障害が発生したと判定し、S902に進む。なお、障害通知には、障害の発生した通信設備の設備IDが含まれている。
【0024】
S902で、通信経路特定部112は、障害の影響を受ける通信サービスを特定する。たとえば、通信経路特定部112は、障害通知から抽出した設備IDを検索キーとして経路データベース156を検索する。サーバ装置150のデータベース管理部160は、検索キーとして設定された設備IDを経路情報として含んでいるレコードのサービスIDを検索し、検索結果を優先復旧設備決定装置100に送信する。通信経路特定部112は、検索結果を受信し、受信した検索結果に含まれているサービスIDから復旧が必要な通信サービスを特定する。検索結果には、サービスID,2つの接続インタフェースの識別情報、経路情報などが含まれている。
【0025】
S903で、通信経路特定部112は、復旧が必要な複数の通信サービスのそれぞれについて、最小コストの復旧経路を特定する。通信経路特定部112は、たとえば、経路データベース156を参照して通信サービスを復旧するための複数の通信経路の候補を決定する。経路データベース156には、通信サービスごとに2つの通信インタフェースが登録されている。よって、2つの通信インタフェース間を結ぶ複数の通信経路の候補をデータベース管理部160に検索させる。複数の通信経路の探索手順は周知であるため、ここではその説明を省略する。検索結果(R4−R1−R2−R3、R4−R5−R2−R3、R4−R5−R6−R3など)はデータベース管理部160から通信経路特定部112に送信される。通信経路特定部112は、受信したそれぞれの候補に含まれている障害が発生している通信設備の復旧コストをコストデータベース157を参照して決定する。通信経路特定部112は、障害が発生している通信設備の設備IDを検索キーとしてデータベース管理部160に検索を依頼する。データベース管理部160は、コストデータベース157を検索し、検索キーの設備IDに対応した復旧コストを抽出し、検索結果を返信する。通信経路特定部112は、各候補ごとに復旧コストを加算して各候補のトータル復旧コストを算出する。たとえば、R4−R1−R2−R3のトータル復旧コストは10であり、R4−R5−R2−R3のトータル復旧コストは10であり、R4−R5−R6−R3のトータル復旧コストは5である。通信経路特定部112は、各候補のトータル復旧コストのうちでトータル復旧コストが最小となる候補を、復旧コストが最小となる通信経路として特定する。
図2に示した例では、R4−R5−R6−R3のトータル復旧コストが最小であるため、R4−R5−R6−R3を最小コスト経路に決定する。この手順により、
S904で、復旧通信設備決定部113は、各通信サービスの最小コスト経路に含まれる復旧が必要な通信設備について、優先的に復旧すべき通信設備を決定する。たとえば、復旧通信設備決定部113は、複数の復旧すべき通信設備の優先度(優先順位)を決定する。たとえば、復旧通信設備決定部113は、障害が検出された複数の通信設備のうち、第1の通信サービス12Aについて特定された通信経路(L2)を形成するために使用される複数の通信設備と、第2の通信サービス12Bについて特定された通信経路(L3)を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する復旧対象の通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する。なお、復旧通信設備決定部113は、優先的に復旧する通信設備として複数の通信設備が決定されたときは、当該複数の通信設備のそれぞれを経由する通信サービスの数に応じて優先順位を決定してもよい。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の優先復旧設備決定装置100は、複数の通信サービスのそれぞれについて復旧コストが最小となる通信経路を特定し、かつ、特定されたいくつかの通信経路において共通する通信設備を優先的に復旧する通信設備として決定する。よって、早期に低コストで、しかも効率よく複数の通信サービスを復旧させることができる。たとえば、障害検出部111が、第1の通信サービス12Aを提供するための通信経路L1に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生し、かつ、第2の通信サービス12Bを提供するための通信経路L3に含まれる複数の通信設備のいずれかに障害が発生したことを検出する。通信経路特定部112は、コストデータベース157と経路データベース156とを参照して、第1の通信サービス12Aを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路L2と、第2の通信サービス12Bを復旧するための復旧コストが最小となる通信経路L4とを特定する。さらに、復旧通信設備決定部113は、障害が検出された複数の通信設備のうち、第1の通信サービス12Aについて特定された通信経路L2を形成するために使用される複数の通信設備と、第2の通信サービス12Bについて特定された通信経路L4を形成するために使用される複数の通信設備とに共通する通信設備R6を優先的に復旧する通信設備として決定する。
【0027】
通信経路特定部112は、経路データベース156を参照して第1の通信サービス12Aを復旧するための複数の通信経路の候補を決定し、それぞれの候補に含まれている障害が発生している通信設備の復旧コストをコストデータベース157を参照して決定し、各候補ごとに復旧コストを加算して各候補のトータル復旧コストを算出し、各候補のトータル復旧コストのうちでトータル復旧コストが最小となる候補を、復旧コストが最小となる通信経路として特定する。同様に、通信経路特定部112は、経路データベース156を参照して第2の通信サービス12Bを復旧するための複数の通信経路の候補を決定し、それぞれの候補に含まれている障害が発生している通信設備の復旧コストをコストデータベース157を参照して決定し、各候補ごとに復旧コストを加算して各候補のトータル復旧コストを算出し、各候補のトータル復旧コストのうちでトータル復旧コストが最小となる候補を、復旧コストが最小となる通信経路として特定する。
【0028】
また、復旧通信設備決定部113は、優先的に復旧する通信設備として複数の通信設備が決定されたときに、当該複数の通信設備のそれぞれを経由する通信サービスの数に応じて優先順位を決定してもよい。このように、多くの通信サービスに関与する通信設備の優先順位を高く設定することで、より早く多くの通信サービスを復旧しやすくなろう。
【0029】
上述した事例では、コストデータベース157は、通信設備の識別情報と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであった。そのため、通信経路特定部112は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備の識別情報を特定し、特定した識別情報に基づきコストデータベースを参照することで、復旧コストを決定していた。しかし、コストデータベース157は、障害の種類と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであってもよい。この場合、通信経路特定部112やデータベース管理部160は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備に発生した障害の種類を特定し、特定した障害の種類に基づきコストデータベースを参照することで、復旧コストを決定してもよい。
【0030】
また、コストデータベース157は、通信設備の機種情報と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであってもよい。通信経路特定部112は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備の機種情報を特定し、特定した機種情報に基づきコストデータベースを参照することで、復旧コストを決定してもよい。複数の通信設備には、多数の同一の機種が含まれていることが多い。よって、各通信設備ごとに、個別に、復旧コストを登録するよりも、機種ごとに復旧コストを登録しておいたほうが、データベースの容量を削減できるであろう。なお、同一の機種であっても設置場所や設置台数などに依存して個別の作業コストが発生することもある。この場合は、上述したように、通信設備ごとに復旧コストを管理した方がより正確な復旧コストを算定できるだろう。
【0031】
また、通信経路特定部112やデータベース管理部160は、障害が発生した通信設備の復旧コストがコストデータベースに登録されていなければ、障害が発生した通信設備と同一機種の他の通信設備に関連付けられている復旧コストを検索してもよい。この点についてさらに詳細に説明する。
【0032】
図10には、コストデータベース157の他の例を示している。この例では、設備IDは、通信設備自体を識別するためのIDに枝番が負荷されている。枝番は、その通信設備を構成している部品(例:通信カードや電源、その他)を識別するための情報である。設備種別は、その通信設備を構成している部品の種別を示す情報である。たとえば、T1は通信カードを意味し、T2は電源装置を意味している。通信カードについてそのカードが提供する通信容量の情報が登録されている。さらに、各部品ごとの復旧コストもコストデータベース157に登録されている。この例では、設備IDがR3−1の通信設備(部品)の復旧コストが未登録である。そこで、通信経路特定部112やデータベース管理部160は、障害が発生した通信設備R3−1と同一機種(T1)の他の通信設備(R1−1)に関連付けられている復旧コストを検索してもよい。このように、設備種別の情報や機種情報を検索キーとして同一機種や類似機種について登録されている復旧コストを流用することができる。
【0033】
あるいは、コストデータベース157は、通信設備の識別情報と、通信設備の機種情報と、復旧コストとを関連付けて記憶したデータベースであってもよい。通信経路特定部112は、通信設備から、または当該通信設備を監視している監視装置から受信した障害通知に基づき、当該通信設備の識別情報を特定し、特定した識別情報に対応する復旧コストをコストデータベース157から検索する。当該通信設備の識別情報に対応した復旧コストがコストデータベースに登録されていなければ、通信経路特定部112は、障害通知に基づき、当該通信設備の機種情報を特定し、特定した機種情報に基づきコストデータベースを参照することで復旧コストを決定してもよい。このように、通信設備の設備IDによる復旧コストの検索に失敗したときは、機種情報(設備種別)をもとに同一または類似の機種に関連付けられている復旧コストを流用できるようになる。
【0034】
上述した実施形態では、優先復旧設備決定装置100とサーバ装置150とを分けて記載したが、サーバ装置150に優先復旧設備決定装置100に統合されてもおい。また、優先復旧設備決定装置100とサーバ装置150は、優先復旧設備決定システムを形成している。また、経路データベース156、コストデータベース157、障害管理データベース158はそれぞれ異なるサーバ装置によって提供されてもよい。たとえば、経路データベース156、コストデータベース157、障害管理データベース158のうち少なくとも1つを優先復旧設備決定装置100が備えていてもよい。