特許第5964782号(P5964782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964782インクジェット用の水性カーボンブラック配合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964782
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】インクジェット用の水性カーボンブラック配合物
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20160721BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20160721BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20160721BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20160721BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20160721BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20160721BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20160721BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09C1/48
   C09C3/08
   C09D11/324
   B41M5/00 E
   B41M5/00 A
   B41M5/00 B
   B41J2/01 501
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-106768(P2013-106768)
(22)【出願日】2013年5月21日
(62)【分割の表示】特願2009-508197(P2009-508197)の分割
【原出願日】2007年4月30日
(65)【公開番号】特開2013-177622(P2013-177622A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2013年5月21日
(31)【優先権主張番号】102006022450.7
(32)【優先日】2006年5月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505422707
【氏名又は名称】ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ゾンマーマン
(72)【発明者】
【氏名】ウド・ヘルマン
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−247391(JP,A)
【文献】 特開平08−269379(JP,A)
【文献】 特開2001−279130(JP,A)
【文献】 特開平09−059551(JP,A)
【文献】 特開平10−067957(JP,A)
【文献】 特開平10−140067(JP,A)
【文献】 特開2001−066826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09C 1/48
C09C 3/08
C09D 11/00−54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)3重量%〜50重量%の少なくとも1種のカーボンブラックと、
b)塩化鉄(II)の存在下でのニトロベンゼンとアニリンとの反応生成物を硫酸化及び中和することにより得られる少なくとも1種の生成物を含む分散剤と、
c)水性媒体と
を、90重量%より多く含む水性カーボンブラック分散系の製造方法であって、
成分a)及びb)を、溶解槽の中で激しくかき混ぜ、その後、高エネルギーのビーズミルで粉砕することによって、前記水性媒体c)中で共に均質化させることを特徴とする方法。
【請求項2】
インクジェット法によって、シート状または3次元形状の基材に印刷するための、請求項1の方法によって得られるカーボンブラック分散系の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性カーボンブラック配合物、これをベースとするインク、これらの製造方法、および、インクジェット法によって、シート状または3次元形状の基材に印刷するためのこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラック顔料として用いられるカーボンブラックは、染料混合物より非常に高い耐オゾン性および耐光性を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,085,698号
【特許文献2】米国特許第5,320,668号
【特許文献3】独国特許出願公開第19801759号
【特許文献4】米国特許第5,554,739号
【特許文献5】米国特許第5,922,118号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、顔料粒子の非の打ちどころがない分散系が、問題のない使用および安定した貯蔵のための絶対的な条件となる。異なるプリンターでの印刷性が、好適な粘度設定によって確保されなければならず、印刷開始時の性能も同様に非の打ちどころがないものでなければならない。
【0005】
さらなる重要なポイントは、凝集を防ぐためにインク仕上げ系に一般に共に含められる水溶性溶剤との相溶性である。
【0006】
(特許文献1)および(特許文献2)は、インクジェットインクにおいて顔料カーボンブラックの使用に取り組む最初の特許であった。これらには、分散剤としての水溶性アクリレートの使用が記載されている。
【0007】
他の分散剤系は、(特許文献3)に記載されているように、官能化ポリエーテル−ポリオールと縮合アリールスルホン酸との混合物からなる。
【0008】
これらの分散系は、顔料上に同様に吸着し得る水溶性溶剤に、幾分敏感である。水溶性溶剤には、例えば、アルキルポリグリコールエーテルであって、3個以上且つ8個未満の炭素原子のアルキル基、および、1〜6個のエチレングリコール単位または1〜3個のプロピレングリコール単位を含むポリエチレングリコール基を有するものが含まれる。
【0009】
さらなるアプローチは、例えば(特許文献4)および(特許文献5)に記載されているように、顔料を分散性の基で官能化することである。しかし、これらの溶剤に安定な分散系は、移行傾向が増大すると共に耐水性が低下するという欠点を有する。
【0010】
驚くべきことに、特定の硫酸化ブラック縮合染料を含有するカーボンブラック分散系がこれらの欠点を克服することが今見出された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、従って、
a)少なくとも1種のカーボンブラックと、
b)塩化鉄(II)の存在下でのニトロベンゼンとアニリンとの反応生成物からの、少なくとも1種の中和した硫酸化生成物と
を含有する水性カーボンブラック配合物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
成分a)のための好ましいカーボンブラックは、5%水性スラリー中で4.5未満のpHを有するタイプのカーボンブラック〔例えば、デグサ(Degussa)製のスペチアルシュバルツ(Spezialschwarz)(登録商標)4、スペチアルシュバルツ(登録商標)4a、スペチアルシュバルツ(登録商標)5、スペチアルシュバルツ(登録商標)6、スペチアルシュバルツ(登録商標)100、スペチアルシュバルツ(登録商標)250、スペチアルシュバルツ(登録商標)350またはスペチアルシュバルツ(登録商標)550など〕、および、顔料グレードのカーボンブラック〔デグサ製のタイプFW200、FW2、W2V、FW285、FW1、FW18、S160、S170またはプリンテックス(Printex)タイプV、140U〕である。
【0013】
成分b)を、本明細書においてアシッドブラック(Acid Black)2と称する。
アシッドブラック2の硫酸化の程度は、好ましくは15重量%〜25重量%の範囲にある。
【0014】
ニトロベンゼンとアニリンとの反応は、好ましくは、170〜190℃の範囲の温度にて、塩化鉄(II)の存在下で、特に10〜20時間実施する。
【0015】
硫酸化は、好ましくは、硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、アミドスルホン酸、またはSOなどの硫酸化剤を用いて行う。特に、95〜97℃の温度における96%硫酸、または、特に0〜20℃、好ましくは8〜12℃の温度における5〜30%発煙硫酸が好ましい。
例えば、96%硫酸を用いる硫酸化は、好ましくは0.5〜3時間、特に1〜1.5時間を要するが、20%発煙硫酸を用いる硫酸化は、好ましくは12時間を要する。こうして得られる硫酸化生成物は次に中和される。
【0016】
中和は、好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、および水溶性アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、N,N’−ジメチルエタノール、プロパノールアミン、ブタノールアミン、またはアミノメチルプロパノールアミンなど)を用いて実施する。
【0017】
本発明のカーボンブラック配合物は、好ましくはカーボンブラック分散系である。
【0018】
本発明のカーボンブラック配合物は、好ましくは、配合物が、成分a)、b)および水性媒体を、90重量%より多く、好ましくは95重量%より多く、特に99重量%より多く含むことを特徴とする。
【0019】
水性媒体は好ましくは、配合物を基準として、1重量%〜88重量%、特に5重量%〜60重量%の量で存在する。水性媒体は、水単独か、水と有機溶媒との混合物かのどちらかであり、これらの有機溶媒は、好ましくは20℃で5g/Lより大きい水への溶解度を有する。
【0020】
本発明のカーボンブラック配合物は、好ましくは、配合物を基準として、0.5重量%未満、特に0.2重量%未満の塩を含む。
【0021】
カーボンブラック配合物は、好ましくは、3〜50重量%、特に5重量%〜45重量%の成分a)を含有する。
【0022】
配合物を基準として、5〜35重量%、特に8〜25重量%の成分b)を使用することが好ましい。
【0023】
有用な有機溶媒には、脂肪族C〜Cアルコール、線状もしくは分岐ペンタンジオール、脂肪族ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコールなど)、ポリオール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなど)、200〜2000g/モルのモル質量を有するポリグリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、チオジグリコール、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルアセトアミド、およびジメチルホルムアミドが含まれる。
【0024】
上述した溶剤の混合物も想定される。
【0025】
有機溶媒の量は、好ましくは、0〜50重量%、特に0〜35重量%である。本顔料配合物は、それらが安定性、印刷性能、および紙上での乾燥性能に悪影響を全く及ぼさないという条件で、粘度を調整するための試剤(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、キサンタンなど)をさらに含むことができる。
【0026】
pHを調整するために、本顔料配合物は、pH調整剤(例えば、NaOH、KOH、アミノエタノール、アミノメチルプロパノール、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、またはメチルジエタノールアミンなど)を含むことができる。
【0027】
本カーボンブラック配合物はさらに、好ましくは1〜10μmの膜またはガラスフィルターを用いて、粗粒子を除去することができる。
【0028】
本発明はさらに、成分a)およびb)を、水性媒体、好ましくは水中で共に均質化(ホモジナイズ)することを特徴とする、請求項1に記載のカーボンブラック配合物の製造方法を提供する。
【0029】
配合物を均質化するために、個々の成分を、好ましくは溶解槽の中で激しくかき混ぜ、その後、例えば酸化ジルコニウムビーズを使用する高エネルギーのビーズミルで粉砕する。
【0030】
その後、配合物を、一般に、例えば1〜10μmの膜またはガラス繊維フィルターを通して濾過する。
【0031】
本発明の顔料配合物は、優れた貯蔵安定性を示し、サーマルバブルジェット(登録商標)プリンター(HP、キャノン(Canon)、エンカド(Encad))およびピエゾプリンター(エプソン(Epson)、ムトー(Mutoh))の両方で高い光学密度および優れた鮮明さのプリントを提供する。
【0032】
本発明は、水性インク、すなわち、上述した少なくとも1種の溶剤を含有する本発明のカーボンブラック配合物をさらに提供する。本発明のインクは、2つの成分a)およびb)を、好ましくは、10重量%未満、特に6重量%未満含有する。
【0033】
本発明は、インクジェット法によって、シート状または3次元形状の基材に印刷するための、本発明のカーボンブラック配合物またはインクの使用をさらに提供する。
【0034】
表1は、様々な紙上での、様々な量のアシッドブラック2を用いた場合の光学密度の不変性を示す。
【0035】
プリントの光学密度は、QEA=クオリティ・エンジニアリング・アソシエーツ社(Quality Engineering Associates Inc.)製の測定機器で測定した。
【実施例】
【0036】
アシッドブラック2の製造
a)ニトロベンゼンとアニリンとの反応生成物
ニトロベンゼン(12モル)、アニリン(17モル)、および塩化鉄(II)(2モル)を、約180℃で16時間反応させる。次いで、過剰のアニリン中のニグロシンの溶融溶液を、希水酸化ナトリウム水溶液に撹拌しながら注ぎ入れる。水相に鉄塩が取り込まれ、ニグロシンベースを、蒸留による取り出しおよび乾燥によって有機相から回収する。こうして回収した固体を、本明細書では以下ソルベントブラック(Solvent Black)7と称する。
【0037】
b)硫酸化
50L撹拌容器に16.3Lの96%硫酸を装入する。10kgのソルベントブラック7を、撹拌しながら少しずつ加える。
【0038】
温度を、全てが溶解してしまうまで90℃に維持する。
【0039】
希釈容器に185Lの完全にイオンを含まない水を装入し、反応混合物を、温度を70〜80℃に保って加える。生成物をフィルタープレスで単離する(粗ニグロシン)。
【0040】
26kgの水および1.85Lの50%水酸化ナトリウム水溶液を撹拌容器に導入し、撹拌することによって33.3kgの粗ニグロシンと混ぜ合わせる。こうして得られた溶液はアシッドブラック2を含有する。
【0041】
c)アシッドブラック2の精製
この溶液を、25μmフィルターを通して濾過する。
【0042】
この溶液を完全にイオンを含まない水で所望の濃度に調整し、加圧透過装置で0.5%未満の塩含有率に脱塩する。このニグロシンを以下の実施例で分散剤として使用する。
【0043】
顔料インクを使用する印刷試験用のベース液体
15%の1,5−ペンタンジオール
10%のポリエチレングリコール200
5%の2−ピロリドン
70%の完全にイオンを含まない水
【0044】
均質化したカーボンブラック分散系を、ベース液体を用いて希釈することによって5%の顔料含有率に調整し、次に印刷する。
【0045】
実施例1
【0046】
【表1】
【0047】
本発明のカーボンブラック分散系から製造したインクを、HP6122インクジェットプリンターを使用して印刷した。
【0048】
実施例2
20リットル容器に、11,900gの完全にイオンを含まない水、2660gのアシッドブラック2溶液〔上記の処方c)に従って得られた、30.0%の固形分含有率を有するもの〕、および300gのエタノールアミンを装入する。この混合物を溶解槽の中で15分間均質化する。5000gのスペチアルシュバルツS4カーボンブラック(デグサ)を、撹拌しながら少しずつ加える。
【0049】
この分散系を、流量が260kg/時である、ドライス(Drais)V−15ビーズミルで7時間回路粉砕する。ビーズ直径は0.7〜0.9mmである。生成物を、10μmプレートフィルターを通して濾過する。
【0050】
ベース液体を用いて5%顔料含有率を有するインクを製造し、これを、エンカド・ノバジェット(Encad Novajet)(登録商標)700を使用して、180g/mプレミアム紙上に印刷する。光学密度は1.6であることが分かる。
【0051】
実施例3
5リットル容器中で、2570gの完全にイオンを含まない水、400gのアシッドブラック2溶液〔上記の処方c)に従って得られた、30%の固形分含有率を有するもの〕、および30gのエタノールアミンを、溶解槽の中で激しくかき混ぜて均質化する。750gのデグサ製ファルブラス(Farbruss)FW2カーボンブラックを、撹拌しながら少しずつ加える。
【0052】
この分散系を、ドライスV−15ビーズミルで、150L/時の流量で1.5時間粉砕し、最後に1.2μmを通して濾過する。
【0053】
ベース液体を用いて5%顔料含有率を有するインクを製造し、これをエプソンC−82上に印刷する。
【0054】
HPブライト・ホワイト紙では、1.4の光学密度が得られた。
【0055】
HPプレミアム紙では、1.45の光学密度が得られた。
【0056】
実施例4
5リットル容器中で、1818gの完全にイオンを含まない水、400gのアシッドブラック2溶液〔上記の処方c)に従って得られた、30%の固形分含有率を有するもの〕、および30gのエタノールアミンを、溶解槽の中で激しくかき混ぜて均質化する。750gのスペチアルラス(Spezialruss)S6カーボンブラックを、撹拌しながら少しずつ加える。
【0057】
この分散系を、ドライスV−15ビーズミルで、150L/時の流量で2時間粉砕し、最後に1.2μmを通して濾過する。
【0058】
ベース液体を用いて5%顔料含有率を有するインクを製造し、これをHPデスクジェット(Deskjet)(登録商標)1280上に印刷する。
【0059】
HPブライト・ホワイト紙では、1.32の光学密度が得られた。
【0060】
HPプレミアム紙では、1.5の光学密度が得られた。