特許第5964783号(P5964783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964783
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】通電焼結用型
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/14 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B22F3/14 101A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-115265(P2013-115265)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234525(P2014-234525A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】竹口 貴博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英明
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−218606(JP,A)
【文献】 特開2003−046149(JP,A)
【文献】 特開2010−222689(JP,A)
【文献】 特開2000−239071(JP,A)
【文献】 特開2001−345487(JP,A)
【文献】 特開平07−242909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティの側面を構成し、モールド側面を有するモールドと、
前記キャビティの下面を構成し、前記モールド側面に沿って昇降する下型と、
前記キャビティの上面を構成し、前記モールド側面に沿って昇降する上型と、
前記下型及び前記上型にそれぞれ接続する電源と、を含み、
金属粉末を前記キャビティに充填して通電及び加圧することにより焼結体を得る通電焼結用型であって、
前記モールド側面を被覆する絶縁膜と、
前記上型の下面を被覆する上型導電膜と、
前記下型の上面を被覆する下型導電膜と、を含み、
前記上型導電膜及び前記下型導電膜は、TiAlN、又は、TiSiNからなる膜であり、
前記モールド、前記上型及び前記下型はいずれも金属材料からなることを特徴とする通電焼結用型。
【請求項2】
さらに、前記上型の下面の一部を被覆する上型絶縁膜と、
前記下型の上面の一部を被覆する下型絶縁膜と、を含むことを特徴とする請求項1に記載される通電焼結用型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通電焼結用型及び焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末材料をキャビティに充填して、通電して焼結体を得ることのできる通電焼結用型が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、長尺状のキャビティを有し、両端部よりも中央部の外径を細くした黒鉛からなる通電焼結用型が開示されている。このような通電焼結用型を用いることにより、真空又は不活性ガス雰囲気にてキャビティの長手方向に沿って電流を粉末に流し、これを加圧して、長手方向に均一な温度分布を有するように加熱でき、焼結不良や過焼結の発生を抑制して、均一に焼結した焼結体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−110202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属粉末を材料として用いて、精度及び形状自由度の高い焼結体が求められている。特許文献1に開示される黒鉛からなる通電焼結用型では、黒鉛と金属粉末との反応により、焼結体を離型し難く、高精度の焼結体を製造することが困難である。
【0006】
また、このような通電焼結用型では、焼結体を型から離型させるために、カーボンペーパーを通電焼結用型表面に配置する必要がある。カーボンペーパーを焼結用型の表面形状に追従させるために、焼結体の形状は、例えば、円柱や角柱などの比較的単純な形状に限定されてしまう。
【0007】
さらに、このような通電焼結用型では、真空又は不活性ガス雰囲気下において焼結をしなければなく、耐久性に乏しく、焼結を連続的に行い難い。また、通電時において金属粉末だけでなく通電焼結用型にも同様に電流が流れる。また、カーボンペーパーの配置は、焼結工程後におけるカーボンペーパーの剥離作業や後加工の工程を必要とする。すなわち、効率良く大量生産を行えなかった。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、金属粉末を材料として用いて、精度及び形状自由度の高い焼結体を効率良く大量生産できる通電焼結用型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる通電焼結用型は、
キャビティの側面を構成し、モールド側面を有するモールドと、
前記キャビティの下面を構成し、前記モールド側面に沿って昇降する下型と、
前記キャビティの上面を構成し、前記モールド側面に沿って昇降する上型と、を含み、
金属粉末を前記キャビティに充填して通電及び加圧により焼結体を得る通電焼結用型であって、
前記モールド側面を被覆する絶縁膜と、
前記上型の下面を被覆する上型導電膜と、
前記下型の上面を被覆する下型導電膜と、を含み、
前記モールド、前記上型及び前記下型はいずれも金属材料からなることを特徴とするものである。
【0010】
このような構成により、黒鉛からなる通電焼結用型の代わりに金属材料からなる通電焼結用型を用いるので、金属との反応性を減じて、焼結体を容易に離型させて、高精度の焼結体を製造できる。また、通電焼結用型のうちモールドの側面を絶縁膜により被覆しつつ上型の下面及び下型の上面を被覆するので、離型性を高めて、カーボンペーパーを省略し、製造可能な焼結体の形状自由度を高める。また、モールド、下型及び上型は、いずれも金属材料からなるので、黒鉛からなる通電焼結用型と比較して、大気下での焼結を容易にしつつ耐久性に優れ、大量生産を容易に行える。また、カーボンペーパーの設置の省略により、焼結工程後におけるカーボンペーパーの剥離作業や後加工の工程を省略することでき、一般的な焼結方法と同様の工程を経て、焼結体を得ることができる。また、絶縁膜、下型導電膜及び上型導電膜の被覆により、モールドを介する電流の流れを抑制して、金属粉末に集中的に電流を流し、効率よく加熱することができる。つまり、焼結体を効率良く大量生産することができる。つまり、このような通電焼結用型を用いると、金属粉末を材料として用いて、精度及び形状自由度の高い焼結体を製造でき、しかも効率良く大量生産できるのである。
【0011】
ここで、さらに、前記上型の下面の一部を被覆する上型絶縁膜と、前記下型の上面の一部を被覆する下型絶縁膜と、を含んでもよい。また、前記上型導電膜及び前記下型導電膜は、TiAlN、又は、TiSiNからなる膜であることを特徴としてもよい。このような構成により、電流密度を制御して、モールドへの抜熱と通電による発熱とのバランスをとって、焼結体を均一に加熱して製造することができる。つまり、製造する焼結体の形状やサイズに影響されることなく、均一な焼結体を得ることができる。
【0012】
他方、本発明にかかる焼結体は、上記した通電焼結用型を用いて製造される焼結体である。これにより、均一な加熱により焼結された均一な焼結体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、金属粉末を材料として用いて、精度及び形状自由度の高い焼結体を効率良く大量生産できる通電焼結用型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態にかかる焼結用型の断面図である。
図2】第2実施形態にかかる焼結用型の断面図及び温度分布を示す図である。
図3】焼結用型における温度上昇を示すグラフである。
図4】焼結用型を用いた際の電流値及び電圧値を示すグラフである。
図5】焼結用型を用いた際の温度変化を示すグラフである。
図6】焼結用型を用いた際の温度変化を示すグラフである。
図7】焼結体の硬度分布を示す図である。
図8】黒鉛型を用いた際の電流値及び電圧値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図1を参照して第1実施形態にかかる焼結用型について説明する。図1は第1実施形態にかかる焼結用型の断面図を示す。
【0016】
焼結用型1は、モールド2と、下型3と、上型4と、電源5とを含む。焼結用型1は、モールド2、下型3及び上型4により構成されるキャビティ6に、焼結体の材料である金属粉末を充填し、これを下型3及び上型4との間に挟み込んで加圧するとともに、電源5により電流を流して通電して、焼結体を製造することができる。ここで、金属粉末として、例えば、焼結温度約1300℃以下で焼結可能な鉄系粉末を用いることができる。
【0017】
モールド2は、キャビティ6の側面を構成し、モールド側面21を有する。モールド2は、金属材料からなる。モールド2の材料として、黒鉛と比較して焼結体の材料である金属粉末と反応し難く、強度及び靱性の高い金属材料を用いると好ましい。モールド2の材料として、好ましくは鉄鋼であり、さらに好ましくは金型鋼である。モールド側面21は、絶縁膜22により被覆される。
【0018】
絶縁膜22は、焼結工程におけるモールド2の熱膨張に追従できて、焼結工程において与えられる熱衝撃に耐えることのできる材料からなる。また、絶縁膜22は、保温効果を有すると好ましい。絶縁膜22としては、例えば、ジルコニアや、ZrO‐8Yなどのイットリア安定化ジルコニアを用いることができる。また、焼結工程を繰り返しても、絶縁膜22はモールド側面21から剥がれることなく、被覆した状態を維持することができる。絶縁膜22は、絶縁紙と比較して、複雑な形状に追従でき、焼結体の形状自由度を高める。また、絶縁膜22は、絶縁紙と比較して、焼結を繰り返しても離型性を維持することができる。これらにより、連続的に焼結を行うことができ、焼結体の大量生産を容易にすることができる。
【0019】
なお、モールド2は、電流検出部を含む電気回路に接続してもよい。電流検出部は、電源5を制御する制御部に接続している。このような電気回路をモールド2に接続すると、焼結中において、絶縁膜22が剥がれると、通電による電流がモールド2に流れて電流検出部に検出される。次いで、電流検出部は制御部に検出信号を送り、制御部は電源5にパルス電流の供給を停止させる。これにより、絶縁膜22が剥がれたとしても、すぐに検知できて、焼結を安全且つ円滑に行うことができる。
【0020】
下型3は、キャビティ6の下面を構成する上面31を有し、図示しない下型昇降手段に取り付けられる。下型3は、下型昇降手段により、モールド側面21に沿って昇降する。下型3は、モールド2と同様に、金属材料からなる。下型3の材料として、黒鉛と比較して焼結体の材料である金属粉末と反応し難く、強度及び靱性の高い金属材料を用いると好ましい。下型3の材料として、好ましくは鉄鋼であり、さらに好ましくは金型鋼である。下型3の上面31は、下型導電膜32により被覆される。
【0021】
下型導電膜32は、少なくとも絶縁膜22よりも高い導電性を有するとともに、焼結用型として必要な離型性を下型3の上面31に与える。また、焼結工程を繰り返しても、下型導電膜32は上面31から剥がれることなく、被覆した状態を維持することができる。下型導電膜32は、高温環境下においても耐酸化性及び硬度を有する材料からなる。このような材料として、例えば、セラミックスや合金が挙げられる。このようなセラミックスとして、例えば、TiAlNやTiSiNなどがある。このような合金として、例えば、TiCr、AlCrがある。下型導電膜32は、例えば、溶射法やPVD(Physical Vapor Deposition)を用いて形成することができる。下型導電膜32の形成方法として、溶射法と比較してPVDが好ましい。PVDは、溶射法と比較して、下型導電膜32を薄く形成することができる。これにより、焼結体の形状自由度をより高めることができる。
【0022】
上型4は、キャビティ6の上面を構成する下面41を有し、図示しない上型昇降手段に取り付けられている。上型4は、上型昇降手段により、モールド側面21に沿って昇降する。上型4は、モールド2と同様に、金属材料からなる。上型4の材料として、黒鉛と比較して焼結体の材料である金属粉末と反応し難く、強度及び靱性の高い金属材料を用いると好ましい。上型4の材料として、好ましくは鉄鋼であり、さらに好ましくは金型鋼である。上型4の下面41は、上型導電膜42により被覆される。
【0023】
上型導電膜42は、上記した下型導電膜32と同様に、少なくとも絶縁膜22よりも高い導電性を有するとともに、焼結用型として必要な離型性を上型4の下面41に与える。また、焼結工程を繰り返しても、上型導電膜42は下面41から剥がれることなく、被覆した状態を維持することができる。上型導電膜42は、下型導電膜32と同様に、高温環境下でも耐酸化性及び硬度を有する材料からなる。このような材料として、例えば、セラミックスや合金が挙げられる。このようなセラミックスとして、例えば、TiAlNやTiSiNなどがある。このような合金として、例えば、TiCr、AlCrがある。上型導電膜42は、下型導電膜32と同様に、例えば、溶射法やPVDを用いて形成することができる。上型導電膜42の形成方法として、溶射法と比較してPVDが好ましい。上型導電膜42をPVDにより形成すると、溶射法と比較して、膜の厚みを薄く形成することができる。PVDは、溶射法と比較して、上型導電膜42を薄く形成することができる。これにより、焼結体の形状自由度をより高めることができる。
【0024】
電源5は、下型3及び上型4にそれぞれ接続し、パルス電流を流すパルス電源である。なお、電源5は、直流電源であっても構わない。また、電源5は、図示しない制御機器に接続されていてもよい。これにより、電源5は、電流の供給中にこの制御機器からの停止信号を受けて、電流の供給を停止することができる。
【0025】
(使用方法)
次に、第1実施形態にかかる焼結用型の使用方法について説明する。焼結用型1は、通電加圧焼結用装置に取り付けて使用する。通電加圧焼結用装置は、下型3及び上型4にそれぞれ接続される昇降手段など通電焼結を行うのに必要な手段を有する装置である。まず、焼結体の材料となる金属粉末をキャビティ6に充填し、これを下型3及び上型4により加圧しつつ、電源5から下型3及び上型4に電流を流して通電する。すると、電流は、絶縁膜22により、モールド2を介して上型4から下型3へ流れることを抑制される。その一方で、電流は、下型導電膜32及び上型導電膜42により誘導されて、キャビティ6に充填された金属粉末を介して上型4から下型3へ集中して流れる。この通電及び加圧により、ジュール熱が金属粉末に発生し、金属粉末が加熱される。この加熱により、金属粉末を材料として用いて焼結体を製造することができる。
【0026】
ここで、モールド2、下型3及び上型4は、いずれも金属材料からなるので、黒鉛からなる焼結用型と比較して、金属粉末と反応し難く、焼結体を容易に離型して、精度の高い焼結体を製造することができる。また、絶縁膜22、下型導電膜32及び上型導電膜42の被覆により離型性を高めて、カーボンペーパーの設置を省略することができ、製造可能な焼結体の形状自由度を高める。これらにより、焼結用型1は、金属粉末を材料として用いて、精度及び形状自由度の高い焼結部品を製造することができる。ここで、形状自由度の高い焼結部品は、例えば、キャリアやギヤ部品である。
【0027】
さらに、モールド2、下型3及び上型4は、いずれも金属材料からなるので、黒鉛からなる焼結用型と比較して、大気下での焼結を容易にしつつ耐久性に優れ、大量生産を容易にする効果がある。鉄鋼からなるモールド2、下型3及び上型4は、よりこの効果を高める。また、金型鋼からなるモールド2、下型3及び上型4は、さらにこの効果を高め得る。カーボンペーパーの設置の省略により、焼結工程後におけるカーボンペーパーの剥離作業や後加工の工程を省略することでき、一般的な焼結方法と同様の工程を経て、焼結体を得ることができる。また、モールド2のモールド側面21を絶縁膜22で被覆し、さらにキャビティ面となる上面31及び下面41を下型導電膜32及び上型導電膜42によりそれぞれ被覆することにより、モールド2を介する電流の流れを抑制して、金属粉末に集中的に電流を流し、効率よく加熱することができる。つまり、焼結体を効率良く焼結することができる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、図2を参照して第2実施形態にかかる焼結用型について説明する。図2は第2実施形態にかかる焼結用型の断面図及び温度分布を示す。第2実施形態にかかる焼結用型は、第1実施形態にかかる焼結用型と比較して、下型及び上型のみを異にしており、他の部材については共通するため説明を省略する。また、第1実施形態の下型3及び上型4と共通する箇所には相当する符号を付することにより説明を簡略化する。なお、図2では、電源205を図示することを省略している。
【0029】
図2に示すように、下型203は、上面231の中央近傍において、略円筒状の中空部を有する凹部234を有する。凹部234は下型絶縁膜233により被覆されている。上面231は、下型絶縁膜233により被覆される範囲を除く全ての範囲において、下型導電膜232に被覆されている。
【0030】
また、上型204は、下面241の中央近傍において、上型絶縁膜243により被覆されている。詳細には、上型絶縁膜243により被覆される範囲は、下型絶縁膜233により被覆される範囲を下方から下面241に投影した範囲と同じ範囲である。下面241は、上型絶縁膜243により被覆される範囲を除く全ての範囲において、上型導電膜242に被覆されている。
【0031】
キャビティ206は、モールド202、下型203及び上型204に構成される。キャビティ206は、下型203の上面231の中心近傍の凹部234により、周囲部よりも中心部において厚みを有する。すなわち、キャビティ206の形状を転写してできる焼結体は、中心部の周囲となる周囲部と比較して、中心部に厚みを有する。
【0032】
焼結用型201は、焼結用型1と同様に、上記した通電加圧焼結用装置に取り付けて使用する。ところで、上記したように、焼結用型1を用いて通電及び加圧を行うと、電流が、絶縁膜22により、モールド2を介して上型4から下型3へ流れることを抑制される。その一方で、電流が、下型導電膜32及び上型導電膜42により誘導されて、キャビティ6に充填された金属粉末を介して上型4から下型3へ集中して流れる。これらにより、ジュール熱が金属粉末に発生し、金属粉末が加熱されて、焼結体が得られる。しかし、この発生した熱の一部が周囲部からモールド2へ移動し、さらにモールド2から外気へ移動する。焼結中において、周囲部は中央部よりも低い温度で加熱され、金属粉末が不均一に加熱されることがあった。さらに、径の大きな焼結体を焼結する場合、周囲部は中央部よりもさらに低い温度で加熱される傾向がある。
【0033】
しかしながら、焼結用型201を用いて通電焼結を行うと、図2に示すように、加熱開始時には中心部と比較して周囲部が高い温度を有する場合であっても、加熱終了時には、中心部と周囲部との温度差はほとんど無い。つまり、焼結用型201を用いて通電焼結を行うと、金属粉末を均一に加熱して焼結体を製造できる。
【0034】
なお、下型絶縁膜233及び上型絶縁膜243により被覆される範囲は、焼結体の形状やサイズや、焼結体からモールドへの抜熱量に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、焼結用型201を用いて得られる焼結体は、周囲部と比較して厚みの大きい中央部を有する。このような形状に応じて、焼結用型201では、下型絶縁膜233により被覆される範囲を凹部234とし、上型絶縁膜243により被覆される範囲を下面241の中央近傍としている。このように設定することで、焼結体の各部に流れる電流の電流密度を制御して、抜熱とのバランスを制御して、焼結体のサイズや形状に限定されることなく、金属粉末を均一に加熱して焼結体を製造できる。
【0035】
(加熱実験1)
次に、図3図4及び図8を用いて、本発明の1つの実施例として金型鋼からなる焼結用型(金属型)と、比較例としての黒鉛からなる焼結用型(黒鉛型)を用いて通電焼結したときの実験について説明する。図3は、焼結用型における温度上昇を示す。図4は焼結用型を用いた際の電流値及び電圧値を示す。図8は、黒鉛型を用いた際の電流値及び電圧値を示す。
【0036】
(方法)
本発明の1つの実施例として金型鋼からなる焼結用型(金属型)では、全ての部材は焼結用型1と共通する。ただし、この焼結用型(金属型)の、モールド2、上型4及び下型3に対応する部材は金型鋼からなる。比較例としての黒鉛からなる焼結用型(黒鉛型)は、モールド2、上型4及び下型3に対応する部材が黒鉛からなることと、これら各部材の表面に下型導電膜32、上型導電膜42及び絶縁膜22を被覆する代わりにカーボンペーパーを設置していることを除き、他の部材は焼結用型1と共通する。金属型及び黒鉛型をそれぞれ用いて、焼結体の材料である鉄系粉末を、焼結するのに必要な温度、約1050℃に達するまで通電及び加圧を行って通電焼結した。通電及び加圧の際中において、焼結体の中心部とモールドの温度を計測しつつ、電流電圧値も計測した。
【0037】
(結果)
図3に示すように、黒鉛型を用いた場合、焼結体の中心部は、鉄系粉末を焼結するのに必要な温度である約1050℃に約16分間で到達している。一方、金属型を用いて通電焼結した場合、焼結体の中心部は、約11分間とより短時間で約1050℃まで到達している。さらに、金属型を用いて通電焼結した場合、焼結体の中心部は、モールドと比較して、速く温度上昇する。その一方で、黒鉛型を用いて通電焼結した場合、焼結体の中心部は、焼結用型と比較して、ほぼ変わらない速度で温度上昇する。これにより、金属型を用いて通電焼結した場合は、黒鉛型を用いて通電焼結した場合と比較して、電流をモールドではなく焼結体に集中して流すことができ、効率良く加熱できると考えられる。
【0038】
図4に示すように、金属型を用いて通電焼結した場合、鉄系粉末を焼結するのに必要な温度に達するまでに、電流値として1700A程度が必要である。一方、図8に示すように、黒鉛型を用いて通電焼結した場合、鉄系粉末を焼結するのに必要な温度に達するまでに、電流値として2000A程度が必要である。つまり、金属型を用いて通電焼結した場合は、黒鉛型を用いて通電焼結した場合と比較して、小さな電流を短時間流して通電焼結を行うことができる。
【0039】
(加熱実験2)
次に、図5乃至図7を参照しつつ、第2実施形態にかかる焼結用型を用いて、焼結中の焼結体の各部位と焼結用型の温度を計測した実験について説明する。図5及び図6は、焼結用型を用いた際の温度変化を示す。図7は、焼結体の硬度分布を示す。
【0040】
(方法)
焼結用型として、絶縁膜焼結用型と、導電膜焼結用型とを用いて加熱実験2を行った。この絶縁膜焼結用型は、焼結用型201と全ての部材について共通している。つまり、この絶縁膜焼結用型の上型の下面、及び、下型の上面の中央近傍には、絶縁膜を有する。また、この導電膜焼結用型は、上型及び下型を導電膜により全面被覆したことを除いて、焼結用型201と他の全ての部材について共通する。この2つの焼結用型を用いて、通電焼結して、半径65mmの略円柱状の焼結体を製造した。通電焼結中では、焼結体の各部位の温度を測定した。また、この製造した焼結体の各部位の硬度を測定した。
【0041】
(結果)
図5に示すように、絶縁膜焼結用型を用いて通電焼結した場合、焼結体の周囲部は、焼結体の中心部と比較して、焼結開始から数分間まで高速で温度上昇するものの、時間の経過とともに徐々にその温度差を減じるように温度上昇する。さらに通電焼結を続けて、焼結するのに必要な温度に達するまで温度上昇させると、周囲部は中心部とほぼ同じ温度になった。これは、下型絶縁膜233及び上型絶縁膜243を絶縁膜焼結用型の上型及び下型の中心部に被覆することにより、焼結体の周囲部に電流を集中して流し、焼結体の中心部と比較してより多くのジュール熱を発生させて、均一に加熱できたと考えられる。
【0042】
一方、図6に示すように、導電膜焼結用型を用いて通電焼結した場合、焼結体の周囲部は、焼結体の中心部と比較して、焼結開始から数分間において同じ速さで温度上昇するものの、時間の経過とともに徐々にその温度差を生じるように温度上昇する。さらに通電焼結を続けて、焼結するのに必要な温度に達するまで温度上昇させると、周囲部は中心部よりも約100℃低くなった。焼結体の温度が高くなるにつれて、焼結体から導電膜焼結用型への放熱量が大きくなる。そのために、周囲部と中心部との温度差が広がったと考えられる。
【0043】
図7に示すように、絶縁膜焼結用型を用いて通電焼結して得られた焼結体は、各部位において規格値を超える硬度を有し、均一な硬度を有する。一方、導電膜焼結用型を用いて通電焼結して得られた焼結体では、一部の部位、特に、周囲部において、その硬度は規格値を下回ってしまう。これは、導電膜焼結用型を用いて通電焼結して得られた焼結体は、焼結工程中において、中心部よりも周囲部において約100℃低くなることから、均一に加熱できず、周囲部の硬度が中心部と比較して低下したと考えられる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。本発明にかかる焼結用型を用いると、例えば、三角柱や円柱と比較して複雑な形状を有する焼結体を製造することができる。このような複雑な形状を有する焼結体として、例えば、輪環状体の焼結体や、ピンを用いて孔を形成した焼結体、キャリア形状の焼結体、ギヤ形状の焼結体などが挙げられる。
【符号の説明】
【0045】
1、201 焼結用型 2、202 モールド 3、203 下型
4、204 上型 5、205 電源 6、206 キャビティ
21 モールド側面 22 絶縁膜 31、231 上面
32、232 下型導電膜 233 下型絶縁膜 41、241 下面
42、242 上型導電膜 243 上型絶縁膜 234 凹部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8