特許第5964794号(P5964794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964794
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20160721BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20160721BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B23C5/10 Z
   B23C5/16
   B23B51/00 S
   B23B51/00 V
   B23B51/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-186836(P2013-186836)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-54352(P2015-54352A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2015年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】平角 喜彦
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−009603(JP,A)
【文献】 特開2012−236242(JP,A)
【文献】 特開2004−338010(JP,A)
【文献】 特開平06−144859(JP,A)
【文献】 米国特許第05213452(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B23B 51/00
B23C 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に設けられた切削部位と、後端側に設けられ前記切削部位を保持するシャンクと、を含んでなる高脆性材料の加工に用いる切削工具であって、前記切削部位が、横断面外周形状が正三角形であり前記三角形の頂点に形成する三箇所の側面外周刃と、先端面において前記正三角形の各頂点から中心軸に向かって正三角形状の平坦面で形成する三箇所の先端面切刃部と、前記先端面切刃部の正三角形の中心軸側に位置する一辺を上底として中心軸に向かって等脚台形形状をなす三箇所の傾斜部位と、三箇所の前記傾斜部位の中心軸側に位置する台形の下底線にて形成される平面部位と、でなることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記切削工具が前記中心軸廻りに回転したときに、前記中心軸を中心にして放射状に120度の間隔にあって前記切削部位の前記横断面外周形状となる前記正三角形の前記各頂点が作る軌道の円の外形直径をDとして、前記先端面切刃の三角形高さが0.05D〜0.2Dとなることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記傾斜部位の前記等脚台形形状の両脚部に逃げ部位を設けたことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
前記切削部位が多結晶焼結ダイヤモンドで形成される請求項1に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削機械の回転主軸に取り付けられ、切刃を回転させながら主にガラスやセラミックスなどの高脆性材料からなる被加工物から材料を除去する切削工具に関する。特に、先端側に設けられる切削部位の切削面における外形が正三角形状の切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物を切削加工する場合、所望の形状によって使用する切削工具の形状が異なる。例えば、ボール盤のような穴開けを行なう切削機械では、螺旋状の切刃を有するドリルが用いられる。また、旋盤または平削盤のように木工におけるノミやカンナのように平坦面を削りだすような加工を施す切削機械の場合は、基本的に刃数が一刃であるバイトが適用される。また、例えば、フライス盤またはマシニングセンタのように任意の形状の溝もしくは底付穴を加工する切削機械の場合は、主に複数の回転刃を有するフライスが使用される。
【0003】
各切削工具の材質は、加工対象の被加工物の材質と切削する方向および加工結果に対する要求に対応してそれぞれ異なる。切削工具は、基本的に切刃が被加工物と同等以上の硬度を有し、磨耗量をより少なくすることができる材料で形成されることが要求される。代表的な金属である鉄系の被加工物を加工するときは、被加工物の硬さに対応して、被加工物の硬さを上回る硬度を有する炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼(ハイス)のような鋼系の切削工具が使用される。
【0004】
フライス加工では、多くの場合、回転方向に刃先が向けられた複数の切刃を円筒形状の切削部位の中心軸から外周に向けて放射状に延伸して設けた切削工具を使用している。そして、複数の切刃を有する切削工具を中心軸廻りに高速で回転させながら被加工物に対して相対移動させることによって被加工物を切削する。正面フライスあるいはエンドミルのような切削工具の切刃の材料には、被加工物の材料に対応して、高速度工具鋼、超硬合金、多結晶立方晶窒化珪素(PcBN)、多結晶焼結ダイヤモンド(PCD)のように、より高い耐磨耗性を有する高硬度材が選ばれる。
【0005】
セラミックス、ガラスのような高脆性材を切削加工するときは、切刃がダイヤモンドの切削工具が有利であるが、このような高脆性材に切込み加工をすると、被削材が硬いので、切刃の寿命が短く、長期にわたっての高精度な加工も困難であった。
【0006】
特許文献1は、工具本体の多角形の断面を有する先端部の角部に外周刃が形成され、工具本体の先端面には隣接する角部と角部の間に切屑(切削粉)を排出するための凹部が形成され、凹部で仕切られた角部を有する凸部の稜線に底刃が形成されていることを特徴とする切削工具を開示している。特許文献1の発明の切削工具によると、工具本体の先端部が多角形断面形状を有し、その角部に外周刃が形成されており、しかも先端面の角部間に形成された凹溝で仕切られた角部を有する凸部の稜線に底刃を形成したから、先端面が逃げ面とされ、切削加工時に外周刃による切削材への切り込みは比較的浅くて底刃による切削が高精度で高い仕上げ加工を行え、しかも外周刃と底刃の剛性と強度が高いので刃先の欠損や摩耗を防止して高寿命になる、としている。なお、特許文献1の発明では、工具本体の先端部は4角以上の多角形であることが好ましい、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−236242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、セラミックス、ガラスのような高脆性材料を加工すると、加工時の切屑は細かい粉末状となり、その切屑を切削工具が巻き込むことで被削材と切削材間で負荷が掛かり、被加工物と切削工具のいずれにも細かい欠けや割れ(いわゆるチッピング)が発生する懸念がある。
【0009】
また、切刃がダイヤモンドで構成される従来の切削工具を用いて高脆性材を被削材として加工すると、被加工物の表面にクラックが発生し無数の凹部を形成してしまい、加工面の面粗さが悪くなる懸念がある。また、被加工物の側面も、切削加工の際に発生する細かい粉末状の切屑によりチッピングが発生し、欠けた加工形状となる懸念がある。
【0010】
また、切削加工において要求される加工形状精度が高いほど、切削部位の外周の形状と切刃の形状に対してより高い精度が求められる。ダイヤモンドのように切削が困難な高硬度材料で成る切削部位に多数の微小な切刃を精密に加工することは相当に大変な作業であり、この種の切削工具の製作における作業性の向上が望まれている。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、回転させて使用する微細加工に適する高脆性材加工用の高精度の切削工具であって、被加工物の切削面の加工精度をより向上し、切刃の破損のおそれが低減され、より長時間の使用に耐える改良された高脆性材加工用の切削工具を提供することを主たる目的とする。本発明の高脆性材加工用の切削工具のいくつかの有利な点は、好適な実施の形態の説明において、その都度具体的に記述される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る切削工具では、上記課題を解決するために、先端側に設けられた切削部位(10)と、後端側に設けられ切削部位を保持するシャンク(20)と、を含んでなる高脆性材料の加工に用いる切削工具(1)であって、切削部位(10)が、横断面外周形状が正三角形でありその三角形の頂点(P)に形成する三箇所の側面外周刃(10B)と、先端面において正三角形の各頂点(P)から中心軸(O)に向かって正三角形状の平坦面で形成する三箇所の先端面切刃部(2B)と、先端面切刃部(2B)の正三角形の中心軸側に位置する一辺を上底として中心軸(O)に向かって等脚台形形状をなす三箇所の傾斜部位(2C)と、三箇所の傾斜部位(2C)の中心軸(O)側に位置する台形の下底線にて形成される平面部位(2D)と、でなることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る切削工具では、切削工具(1)が中心軸(O)廻りに回転したときに、中心軸(O)を中心にして放射状に120度の間隔にあって切削部位(10)の横断面外周形状(10C)となる正三角形の各頂点(P)が作る軌道の円の外形直径をDとして、先端面切刃(2B)の三角形高さが0.05D〜0.2Dとなることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る切削工具では、傾斜部位(2C)の等脚台形形状の両脚部に逃げ部位(2E)を設けたことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る切削工具では、切削部位(10)が多結晶焼結ダイヤモンドで形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る高脆性材料の加工に用いる切削工具は、外周形状を正三角形として、切削部位の先端面において、正三角形の各頂点から切削工具の中心軸に向かって形成され互いに結合しない三箇所の正三角形形状の先端面切刃部を放散同形に均等配置として形成しているので、切削部位の強度を確保し、摩耗を均等にできるとともに、高脆性材料を被削体として切削加工する場合の高硬度な刃の当たりを最小化し、被削対表面のクラックやひび割れなどの発生を抑える効果を有する。
また、先端面切刃部は、傾斜部位と平面部位により、切刃部同士が繋がっていないので、切削面において切刃と被加工物とが接触しない領域が比較的広く、摩擦抵抗をより小さくできるとともに、切屑をより効率よく逃がすことができるので、磨耗量をより少なくすることができる。
【0017】
請求項2に係る切削工具は、切削工具の中心軸廻りに回転したときに、当該中心軸を中心にして放射状に120度の間隔にあって切削部位の横断面外周形状となる正三角形の各頂点が作る軌道の円の外形直径をDとして、先端面切刃の三角形高さを0.05D〜0.2Dとして先端面切刃部の面積を小さくすることにより、切屑の捌け性の向上を図ることができる。特に、本発明の切削工具は、ワイヤ電極を水平方向に張架して被加工物を切断加工する横型ワイヤ放電加工機を用いて回転と角度割出にて切削部位の外周と切刃をワイヤカット加工によって製作することができるため、高硬度材料で成る微細加工に適する精密な切削工具でありながらもより容易に製作することができる。特に、本発明の切削工具は、真円度がより高く、三箇所の切刃の形状誤差がより小さい。したがって、加工形状精度と加工速度が向上する。
【0018】
請求項3に係る切削工具では、傾斜部位の等脚台形形状の両脚部に逃げ部位を設けている。この逃げ部は切屑をより積極的に排出させるので、微細なガラス粉あるいはセラミックス粉のような高硬度の切屑が先端面切刃部と被削材との間に残って発生するチッピングを抑えることができる。
【0019】
請求項4に係る切削工具では、切削部位を多結晶焼結ダイヤモンドにて形成しているので、セラミックス、ガラスのような高脆性材の精度の高い加工も期待できる。また、超硬合金のように非鉄系の高硬度鋼材等への適用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の切削工具を先端側から見た平面図である。
図2】本発明の切削工具の側面図である。
図3】本発明の切削工具を先端側から見た斜視図である。
図4】本発明の切削工具をワイヤカットで加工するプロセスを示す模式図である。
図5】本発明の切削工具の切刃をワイヤカットで加工するプロセスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1および図2に、本発明の好適な実施の形態の切削工具が示されている。図3は、図1および図2に示される実施の形態の切削工具の切刃を示す。本発明では、切削工具の長手方向の中心線を中心軸とし、切刃が設けられて加工に供される側を先端側とし、切削機械に取り付けられる側を後端側とする。そして、切削工具の先端面を天面と称し、天面に直交する面を側面とする。また、切削部位における天面と同一の面を切削面という。
【0022】
切削工具1は、フライス盤あるいはマシニングセンタのような数値制御切削機械の回転主軸(スピンドル)に取り付けられる。切削工具1は、主に切削部位10とシャンク20とから成る。切削部位10は、切削工具1の先端側に設けられる。シャンク20は、切削工具1の後端側に設けられる。実施の形態の切削工具1では、切削部位10とシャンク20とが一体で成形されている。
【0023】
切削部位10は、多結晶焼結ダイヤモンドにて形成されている。切削工具1では、切削面10Aと側面外周刃10Bが設けられているので、少なくとも切削部位10の切削面10Aと側面外周刃10Bとを含めた表面の全体にわたって多結晶焼結ダイヤモンドの層を有する。切削部位10の多結晶焼結ダイヤモンドの層以外の部位は、超硬合金で形成される。
【0024】
シャンク20は、円柱形状の超硬合金で形成されている。シャンク20は、切削部位10を直接または間接的に保持する。シャンク20は、切削機械の回転主軸または回転主軸に装着される工具ホルダのチャックに締め付けられる切削工具1の後端側の部位である。
【0025】
切削部位10の外周形状は、正三角柱である。したがって、切削部位10の横断面における外周10Cの形状、端的に言うと、切削部位10の切削面10Aの外形は、正三角形である。そのため、実施の形態の切削工具1は、比較的容易に三箇所の切刃2の切削量のバランスを得ることができる利点を有する。
【0026】
側面外周刃10Bは、切削部位10の外周10Cの正三角形の各頂点Pに設けられる。したがって、切削工具1は、外周10Cの正三角形の頂点Pの数と同じく三箇所の切刃2を有する。
【0027】
三箇所の各切刃2は、それぞれ切削部位10の外周10Cの正三角形の各頂点Pを一頂点とする正三角形の同形の先端面切刃部2Bを形成している。
【0028】
傾斜部位2Cは、先端面切刃部2Bの正三角形の中心軸側の一辺を上底とした台形形状の傾斜部位として形成され、三箇所の切刃2がそれぞれ標準的な摩擦に因る均等な磨耗によって、より長時間連続して切削能力を維持するために必要である。また、傾斜部位2Cは加工面に当接しないので、傾斜部位2Cと加工面との間に入り込む切削粉を逃がす役割を担う。
【0029】
平面部2Dは、三箇所の切刃2の台形形状をなす傾斜部位2Cの下底線にて形成される。この平面部2Dも加工面に当接しないので、加工面との間に入り込む切削粉を逃がす役割を担う。
【0030】
逃げ部2Eは、等脚台形形状である傾斜部位2Cの両脚部に設けられ、傾斜部位2Cと加工面との間に入り込む切屑をさらに逃がす役割を担う。
【0031】
三箇所の切刃2は、各切刃2同士が中心軸O廻りにおいてそれぞれ互いにつながらない状態で各頂点Pに放散同形に設けられる。本発明でいう放散同形とは、切削面10Aにおいて各切刃2が中心軸Oを中心に放射状に同一間隔(120°)で均等に配設されることをいう。切削工具1では、各切刃2が放散同形に配置されているため、摩擦抵抗が比較的小さく、切刃2と被加工物とが接触しない空間を通して切屑が効率よく逃がされる。その結果、切削工具1では、磨耗量をより少なくすることができる。
【0032】
また、実施の形態の切削工具1では、正三角形の各頂点Pに切刃2を配設しているので、切刃2を比較的容易により均一に高精度に加工しやすい利点がある。そして、切削工具1が回転したときに、三箇所の切刃2の刃先Pが作る軌道10Dの真円度をより高くすることができるので、見掛け上の芯振れが小さく抑えられた状態で切削することができ、高い加工形状精度を得ることができる。
【0033】
図4および図5は、ワイヤカットによって切刃を切り出すプロセスを模式的に示す。図4は、切削工具を製作するための素材の側面を示す。図4は、具体的に、円柱形状の素材から切削工具の原型を形成するまでのプロセスを示す。図5は、切削工具の天面に当たる素材の先端面を示す。
【0034】
素材3は、高硬度の導電性の材料で形成されている。また、素材3は、切刃2を含めて切削工具1の全体が同一の材料で形成されるときを除いて、切刃2の材料を接合ないし被覆することができる材料でなる。具体的に、素材3の材質は、高速度工具鋼あるいは超硬合金である。切刃2は、多結晶焼結ダイヤモンドのような高硬度の導電性の材料で形成される。一方、ワイヤ電極4は、タングステンあるいは黄銅の高抗張力を有する導電性の金属ないし合金から成るφ0.1mm以下の線である。
【0035】
図4Aに示されるように、素材3を図示しないワイヤ放電加工機の主軸に装着するとともに、ワイヤ電極4を水平に張架する。そして、主軸を所定の回転数で回転させながら、素材3とワイヤ電極4とを水平方向Xと垂直方向Zに相対移動させ、放電加工によって素材3の表面を均一に除去する。さらに、そのまま素材3を主軸に取り付けた状態で、素材3のシャンク20に該当する部位の表面をシャンク20の予定されている外径よりもある程度大きい適当な外径になるまで均一に除去する。
【0036】
次に、段付の円柱形状に形成された素材3を一旦主軸から取り外し、後の工程で段付の外径が大きい部位を外形が正三角形になるように切断することを見込んで、同部位の表面に切刃2の刃高hよりも大きい所要の厚さの多結晶焼結ダイヤモンドの層3Aを形成する。そして、素材3を主軸に装着し直して、ワイヤ電極4を水平に張架する。
【0037】
図4Bに示されるように、主軸を所定の回転数で回転させながら、素材3とワイヤ電極4とを水平方向Xと垂直方向Zに相対移動させ、放電加工によって段付の外径が小さい部位の表面をシャンク20の外径dになるまで均一に除去する。さらに、そのまま素材3を主軸に取り付けた状態で、素材3の外径が大きい部位の表面を刃先2Bが作る軌道10Dの直径Dになるまで表面を均一に除去する。したがって、真円度が高い外形を有する段付の円柱形状の素材3を得ることができる。
【0038】
このとき、予め未加工の柱形状の素材3の天面と側面の全面に所要の厚さの多結晶焼結ダイヤモンドの層を形成させておいてから、ワイヤカットによる表面の除去を行なうようにすることができる。また、予め素材3の全部または切削部位10に該当する部位の全部を多結晶焼結ダイヤモンドで形成させておくことができる。この場合は、材料費がより高くなる欠点があるが、切削工具1を製作するプロセスで素材3を主軸から取り外す必要がなくなるので、作業にかかる負担が一層軽減される利益がある。
【0039】
図4Cに示されるように、主軸を所定角度ずつ回転角度割出を行なって回転させ、素材3と水平に張架したワイヤ電極4とを水平方向Xと垂直方向Zに相対移動させ、放電加工によって段付の外径が大きい部位における多結晶焼結ダイヤモンドの層3Aの表面を正三角形に切断する。実施の形態の切削工具1は、外周10Cの形状が正三角形であるので、主軸を120度ずつ回転角度割出を行ないながら各面を切り出す。なお、合わせて切刃2の刃先Pに当たる正三角形の各頂点10Bの面取りをしておくとよい。
【0040】
図5に示されるように、素材3を主軸に取り付けたまま水平に張架しているワイヤ電極4を素材3の先端面に対向配置する。素材3の先端面は、切削工具1の切削面10Aになる。回転角度割出の基準位置を水平に張架されている原点の位置にあるワイヤ電極4と外周10Cの形状の正三角形の一辺とが平行になる位置に設定する。そして、素材3に対してワイヤ電極4を水平に維持したまま平行に相対移動させ、放電加工によって切刃2を部分的に切り出す。
【0041】
例えば、ワイヤ電極4を方向3Cに平行に相対移動させて放電加工する場合は、図5(A)に示すように、切刃21の刃端部2B(2B1)の端部より主軸の高さを相対的に徐々に変化させながら傾斜部位2C(2C1)を得た後に、ワイヤ電極4を3C方向に相対移動させワイヤカットで放電加工される領域Σ1とする平坦面を得る。その後に、図5(B)に示すように、回転角度δで主軸の回転角度割出を行ない、同様な主軸の高さの相対移動とワイヤ電極の3C方向への相対移動によりΣ2とする平坦面を得た後に、主軸の高さを相対的に徐々に変化させながら傾斜部位2C(2C2)を得て、平坦面2B(2B2)を有する切刃22を得る。さらに、上記の加工を完了する毎に、外周10Cの形状の正三角形に依存する回転角度(60度または120度)で主軸の回転角度割出を行なって、方向3Cの加工と同じようにして、各切刃2を部分的に切り出す。このようにして、順次回転角度割出を行なって一定の方向で加工していき、主軸を1周360度回転させたところで、所要の数の同形の切刃2が放散同形に切り出される。
【0042】
基本的に、一度位置決めされた素材3とワイヤ電極4との相対位置関係を崩さずにワイヤカットだけで一気に三箇所の切刃2を放散同形に加工することができる。その結果、真円度が高く、三箇所の切刃2のばらつきが小さい高精度な切削工具を比較的容易に得ることができる。
【0043】
以上に示される切削工具1は、外周10Cの形状の正三角形の各頂点Pから中心軸Oに向かって同形の切刃2を各切刃2が繋がらない状態で放散同形に設けて成るので、切削が困難な素材3を高精度に切断可能なワイヤカットによって精密な三箇所の切刃2を同時に形成することができる。その結果、切削工具1を製作するにあたって作業性が向上し、作業の負担が軽減される。
【0044】
本発明の切削工具は、詳しく説明された実施の形態の切削工具に限定されるべきではない。既にいくつかの例が挙げられているが、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で実施の形態の切削工具を変形ないし応用して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、高脆性材料を切削加工する加工機械の技術分野において利用される。本発明の切削工具は、切刃が高硬度材料で成り、耐磨耗性に優れるとともに、製作がより容易で作業の負担が軽減され、加工形状精度と加工速度に優れる。本発明は、高脆性加工機械の技術分野の発展に寄与する。
【符号の説明】
【0046】
1 切削工具
2 切刃
2A 刃先
2B 先端面切刃部
2C 傾斜部位
2D 平面部位
2E 逃げ部位
10 切削部位
10A 切削面
10B 側面外周刃
20 シャンク
3 素材
4 ワイヤ電極
図1
図2
図3
図4
図5