(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パーフルオロアルキルハライド、有機リチウム化合物、及び求電子剤をジエチルエーテルに溶解してマイクロリアクターに導入する請求項1から10のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(含フッ素置換化合物の製造方法)
本発明の含フッ素置換化合物の製造方法は、有機フッ素化合物と、有機リチウム化合物と、前記有機フッ素化合物と前記有機リチウム化合物との反応生成物に対し求電子作用を示す求電子剤とを、温度が−55℃以上である条件下で、複数の液体を混合可能な流路を備えるマイクロリアクターに導入する工程を含み、必要に応じてその他の工程を含む。
【0020】
前記含フッ素置換化合物の製造方法によれば、マイクロリアクターにより反応溶液の精確な流れの制御、精密温度制御、迅速な混合を実現することができるので、含フッ素置換化合物を工業的に可能な温度条件で効率よく製造することができる。
【0021】
更に別の実施形態として、本発明の含フッ素置換化合物の製造方法は、複数の液体を混合可能な流路を備えるマイクロリアクターに有機フッ素化合物と有機リチウム化合物とを導入して反応生成物を得る工程、及び前記マイクロリアクターに前記反応生成物と、前記反応生成物に対し求電子作用を示す求電子剤とを導入して含フッ素置換化合物を得る工程を含み、必要に応じてその他の工程を含む。
【0022】
前記含フッ素置換化合物の製造方法によれば、マイクロリアクターにより反応溶液の精確な流れの制御、精密温度制御、迅速な混合を実現することができるので、求電子剤非共存下において、これまで不可能とされてきたタイプの反応生成物(活性種)を直接形成することができ、その後、反応性の高い求電子剤と前記反応生成物とを反応させることで、従来の製造方法では収率が低かった含フッ素置換化合物の収率を向上させることができ、従来の製造方法では製造できなかった新規の含フッ素置換化合物を効率よく製造することができる。
【0023】
<マイクロリアクターに導入する工程、反応生成物を得る工程、及び含フッ素化合物を得る工程>
本発明の含フッ素置換化合物の製造方法においては、前記有機フッ素化合物、有機リチウム化合物及び求電子剤は、複数の液体を混合可能な流路を備えるマイクロリアクターに導入される。
【0024】
前記有機フッ素化合物、有機リチウム化合物及び求電子剤は、通常、溶媒に可溶化された液体の状態で、マイクロリアクターに導入される。一態様では、有機フッ素化合物、有機リチウム化合物及び求電子剤が各々可溶化された溶液が別々の流路から導入される。また別の態様では、有機フッ素化合物及び求電子剤が可溶化された溶液と有機リチウム化合物が可溶化された溶液とが別々の流路から導入される。なお、導入方法としては、後述するようにシリンジポンプなどを用いることができる。
【0025】
前記マイクロリアクター内に導入された前記有機フッ素化合物、有機リチウム化合物及び求電子剤は、前記マイクロリタクター内で混合される。
前記マイクロリアクターを用いることで、効率的に有機フッ素化合物、有機リチウム化合物及び求電子剤を混合することができるので、使用する材料に無駄がなく、次の反応材料を逐次的に添加することにより効率的に含フッ素置換化合物を製造することが容易になる。
また、前記マイクロリアクターを用いることで、効率的に反応熱を除熱することができるので、反応液中の温度ムラがなくなり、副反応を抑制することができる。
【0026】
ここで、前記導入及び前記混合の形態を
図1を用いて説明する。前記混合は、前記マイクロリアクターを構成するマイクロミキサー1にて行われる。例えば、マイクロミキサー1に接続された上下方向のチューブ(流路)から前記有機フッ素化合物の溶液及び前記有機リチウム化合物の溶液がそれぞれ導入される。導入された溶液は、マイクロミキサー1において混合され、マイクロミキサー1に接続された右方向のチューブに流れ込み、該チューブ内で前述した反応が起こる。
なお、前記マイクロミキサーにおいて溶液が導入されない部分(出口部分)が最も圧力が低く、最も圧力の低い方向(
図1においては右方向)に溶液が流れるため、通常は逆流などの問題は生じない。
【0027】
前記有機フッ素化合物、前記有機リチウム化合物、及び前記求電子剤の混合によりマイクロリアクター内では以下の反応が起こる。
【0028】
前記有機フッ素化合物、前記有機リチウム化合物及び前記求電子剤が前記マイクロリアクターに導入され(求電子剤共存下の系)、かつ前記有機リチウム化合物に対する反応性が前記求電子剤よりも前記有機フッ素化合物の方が大きい場合、並びに前記有機フッ素化合物及び有機リチウム化合物のみがマイクロリアクターに導入された場合(求電子剤非共存下の系)、前記マイクロリアクター内では、まず、前記有機フッ素化合物と有機リチウム化合物とが、ハロゲン−リチウム交換反応を起こすと考えられる。
【0029】
前記ハロゲン−リチウム交換反応は、以下の反応式で表される。
R
FX + RLi → R
FLi + RX
ただし、Rは有機基を表し、R
Fはフッ素含有有機基を表し、Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を表す。
【0030】
上記反応により得られる反応生成物は、フッ素置換カルベンを配位子としたリチウム錯体(フッ素置換カルベン錯体、或いはフッ素置換カルベノイドともいう)であり、それらの中には、カルベンと同様に高いラジカル反応性を示すものが多い。
【0031】
次に、前記反応生成物と、前記反応生成物に対して求電子作用を有する求電子剤とが反応することにより、フッ素含有有機基が求電子剤の分子中に挿入され、含フッ素置換化合物を得ることができる。
【0032】
一方、前記求電子剤共存下において、前記有機リチウム化合物に対する反応性が前記有機フッ素化合物よりも前記求電子剤の方が大きい場合には、前記ハロゲン−リチウム置換反応が起こり難いため、目的とする含フッ素置換化合物の収率が低いか、或いは目的とする含フッ素置換化合物が全く得られないことになる。したがって、前記のような求電子剤を用いる場合には、求電子剤非共存下の系を用いることが好ましい。
【0033】
前記反応の具体例として、例えば、前記有機フッ素化合物としてパーフルオロアルキルハライドを用い、前記有機リチウム化合物としてブチルリチウムを用いた場合の前記マイクロリアクター内における具体的な反応としては、以下の反応式で表される。
【化2】
ただし、Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を表し、R
aは有機基を表し、R
bは水素原子又は有機基を表し、nは1以上の整数である。
【0034】
以下に、本発明の含フッ素置換化合物の製造方法に用いられる、マイクロリアクター、有機フッ素化合物、有機リチウム化合物、及び求電子剤について詳細に説明する。
【0035】
<<マイクロリアクター>>
前記マイクロリアクターは、複数の液体を混合可能な微小な流路を備え、必要に応じて、前記流路に連通し、前記流路に液体を導入する導入路を備え、更に必要に応じて、前記流路及び導入路以外の構成を含む。
【0036】
前記マイクロリアクターとしては、複数の液体を混合可能な微小な流路を備える限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マイクロミキサー(基板型のマイクロミキサー、管継手型のマイクロミキサーなど)、分岐したチューブなどが挙げられる。
【0037】
前記基板型のマイクロミキサーは、内部又は表面に流路が形成された基板からなり、マイクロチャンネルと称される場合がある。
前記基板型のマイクロミキサーとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、国際公開第96/30113号パンフレットに記載される混合のための微細な流路を有するミキサー;文献「“マイクロリアクターズ”三章、W.Ehrfeld、V.Hessel、H.Lowe著、Wiley−VCH社刊」に記載されるミキサーなどが挙げられる。
【0038】
前記基板型のマイクロミキサーには、前記流路以外に、前記流路に連通し、前記流路に複数の液体を導入する導入路が形成されていることが好ましい。即ち、前記導入路の数に応じて、前記流路の上流側が分岐した構成が好ましい。
【0039】
前記導入路の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、混合を所望する複数の液体を別々の導入路から導入し、流路で合流させて混合することが好ましい。なお、1つの液体を予め流路に仕込んでおき、それ以外の液体を導入路により導入する構成としてもよい。
【0040】
前記管継手型のマイクロミキサーは、内部に形成された流路を備え、必要に応じて前記内部に形成された流路と、チューブとを接続する接続手段を備える(
図1参照)。前記接続手段における接続方式としては、特に制限はなく、公知のチューブ接続方式の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ねじ込み式、ユニオン式、突合わせ溶接式、差込み溶接式、ソケット溶接式、フランジ式、食込み式、フレア式、メカニカル式などが挙げられる。
【0041】
前記管継手型のマイクロミキサーの内部には、前記流路以外に、前記流路に連通し、前記流路に複数の液体を導入する導入路が形成されていることが好ましい。即ち、前記導入路の数に応じて、前記流路の上流側が分岐された構成が好ましい。前記導入路の数が2つである場合には、前記管継手型のマイクロミキサーとして例えばT字型やY字型を用いることができ、前記導入路の数が3つである場合には、例えば、十字型を用いることができる。なお、1つの液体を予め流路に仕込んでおき、それ以外の液体を導入路により導入する構成としてもよい。
【0042】
前記マイクロミキサーの材質としては、特に制限はなく、耐熱性、耐圧性、耐溶剤性、及び加工容易性などの要求に応じて、適宜選択することができ、例えば、ステンレス鋼、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム、シリコン、及びテフロン(登録商標)、PFA(パーフルオロアルコキシ樹脂)などのフッ素樹脂、TFAA(トリフルオロアセトアミド)などが挙げられる。
【0043】
前記マイクロミキサーは、その微細構造によって精確に反応溶液の流れを制御するものであるから、微細加工技術によって製作されていることが好ましい。
前記微細加工技術としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(a)X線リソグラフィと電気メッキを組み合わせたLIGA技術、(b)EPON SU8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、(c)機械的マイクロ切削加工(ドリル径がマイクロオーダーのドリルを高速回転するマイクロドリル加工など)、(d)Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法、(e)Hot Emboss加工法、(f)光造形法、(g)レーザー加工法、及び(h)イオンビーム法などが挙げられる。
【0044】
前記マイクロミキサーとしては、市販品を利用することができ、例えば、インターディジタルチャンネル構造体を備えるマイクロリアクター、インスティテュート・ヒュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製シングルミキサー及びキャタピラーミキサー;ミクログラス社製ミクログラスリアクター;CPCシステムス社製サイトス;山武社製YM−1型ミキサー、YM−2型ミキサー;島津GLC社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);マイクロ化学技研社製IMTチップリアクター;東レエンジニアリング開発品マイクロ・ハイ・ミキサー;スウェージロック社製ユニオンティー、三幸精機工業株式会社製T字型マイクロミキサーなどが挙げられる。
【0045】
前記マイクロリアクターとしては、前記マイクロミキサーを単独で使用してもよく、更にその下流にチューブリアクターを連結し、前記流路を延長する構成としてもよい。前記チューブリアクターを前記マイクロミキサーの下流に連結することで、流路の長さを調節することができる。混合された液体の滞留時間(反応時間)は、前記流路の長さに比例する。
【0046】
前記チューブリアクターとは、マイクロミキサーにより迅速に混合された溶液が、その後の反応を行うための必要な時間を精密に制御(滞留時間制御)するためのリアクターである。
前記チューブリアクターとしては、特に制限はなく、例えば、チューブの内径、外径、長さ、材質などの構成は、所望する反応に応じて適宜選択することができる。
前記チューブリアクターとしては、市販品を利用することができ、例えば、ジーエルサイエンス株式会社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径250μm、500μm及び1,000μmから選択可能、チューブ長さは使用者により調整可能)などが挙げられる。
前記チューブリアクターの材質としては、特に制限はなく、前記マイクロミキサーの材質として例示したものを、好適に利用することができる。
【0047】
前記チューブリアクターにおける滞留時間tとしては、0.01秒間〜10秒間が好ましく、0.05秒間〜5.0秒間がより好ましく、0.10秒間〜1.0秒間が特に好ましい。
前記滞留時間が、0.01秒間未満であると、十分に反応が起こらないことがあり、10秒間を超えると、リチウム中間体(フッ素置換リチウムカルベノイド)の分解反応が進行することがある。
【0048】
−流路−
前記流路は、複数の液体を拡散により混合させる機能、及び、反応熱を除熱する機能を有する。
前記流路内における液体の混合方式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層流による混合、乱流による混合などが挙げられる。中でも、より効率的に反応制御や除熱を行える点で、層流による混合(静的混合)が好ましい。
なお、マイクロリアクターの流路は微小であるため、導入路から導入された複数の液体同士はおのずと層流支配の流れとなりやすく、流れに直交する方向に拡散して混合される。層流による混合において、さらに、流路内に分岐点及び合流点を設けることで、流れる液体の層流断面を分割するような構成とし、混合速度を高める構成としてもよい。
また、マイクロリアクターの流路において、乱流による混合(動的混合)を行う場合には、流量や流路の形状(接液部分の3次元形状や流路の屈曲などの形状、壁面の粗さ、など)を調整することによって、層流から乱流へと変化させることができる。前記乱流による混合は、前記層流による混合と比べて、混合効率がよく混合速度が速いという利点を有する。
【0049】
ここで、前記流路の内径が小さい方が、分子の拡散距離を短くできるので、混合に要する時間を短縮させて混合効率を向上させることができる。さらに、前記流路の内径が小さい方が、体積に対する表面積の比が大きくなり、例えば、反応熱の除熱などの、液体の温度制御を容易に行うことができる。
一方で、前記流路の内径が小さ過ぎると、液体を流す時の圧力損失が増加するとともに、送液に使用するポンプとして特別な高耐圧のものが必要となるため、製造コストが高くなることがある。また、送液流量が制限されることにより、前記マイクロミキサーの構造も制限されることがある。
【0050】
前記流路の内径としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm〜4mmが好ましく、100μm〜3mmがより好ましく、250μm〜2mmが更に好ましく、500μm〜1mmが特に好ましい。
前記内径が50μm未満であると、圧力損失が増大することがある。前記内径が4mmを超えると、単位体積当たりの表面積が小さくなり、その結果、迅速な混合や反応熱の除熱が困難になることがある。一方、前記内径が前記特に好ましい範囲であると、より迅速に混合でき、より効率的に反応熱を除熱できる点で有利である。
より具体的には、前記マイクロミキサーの内部に形成される流路の内径としては、50μm〜1,000μmが好ましく、100μm〜800μmがより好ましく、250μm〜500μmが更に好ましい。前記マイクロミキサーの下流に連結される前記チューブリアクターの内径としては、50μm〜4mmが好ましく、100μm〜2mmがより好ましく、500μm〜1mmが更に好ましい。
【0051】
前記流路の断面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、100μm
2〜16mm
2が好ましく、1,000μm
2〜4.0mm
2がより好ましく、10,000μm
2〜2.1mm
2が更に好ましく、190,000μm
2〜1mm
2が特に好ましい。
【0052】
前記流路の長さとしては、特に制限はなく、最適反応時間に応じて適宜調整することができるが、0.1m〜3mが好ましく、0.5m〜2mがより好ましい。
前記流路の断面形状としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円形、矩形、半円形、三角形などが挙げられる。
【0053】
−導入路−
前記導入路は、前記流路に連通し、各々の前記液体を前記流路に導入する機能を有する。なお、前記導入路において、前記流路に連通する側とは別の一端は、通常、混合を所望する液体を含む容器に繋がっている。
【0054】
前記導入路の内径としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましい。なお、前記マイクロリアクターが複数の導入路を有する場合には、それぞれの導入路の内径が互いに異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0055】
−流路及び導入路以外の構成−
前記流路及び導入路以外の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、送液に使用するポンプ、温度調整手段、反応促進手段、センサー、製造されたポリマーを貯蔵するためのタンクなどが挙げられる。
【0056】
前記ポンプとしては、特に制限はなく、工業的に使用されうるものから適宜選択することができるが、送液時に脈動を生じないものが好ましく、例えば、プランジャーポンプ、ギアーポンプ、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプなどが挙げられる。
【0057】
<<温度>>
前記求電子剤共存下において前記反応をさせる場合、前記反応における反応温度Tとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、従来のバッチ方式で適用される−78℃以下でも好適に適用できるが、本発明では、従来の方法では採用することができなかった−55℃以上の温度に適用できる。
このような温度としては、−55℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましく、0℃以上が特に好ましい。前記温度が−55℃以上であると、簡易な構成の冷却装置を用いて含フッ素置換化合物を製造することができ、製造コストを低減できる点で好ましい。
また、前記温度が0℃以上であると、より簡易な構成の冷却装置を用いて含フッ素置換化合物を製造することができ、製造コストを大幅に低減できる点で好ましい。前記温度に特に上限はないが、通常は100℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは25℃以下とすればよい。前記温度が25℃を超えると、加熱の必要が生じるため、製造コストの観点からは、25℃以下が好ましい。
【0058】
有機リチウム化合物に対する反応性が有機フッ素化合物よりも求電子剤の方が高い場合には、前記求電子剤が前記ハロゲン−リチウム交換反応を阻害せず、目的の含フッ素置換化合物の収率を向上できる点で、前記求電子剤非共存下の系を用いることが好ましい。
求電子剤非存在下の系では、温度Tが−100℃以上であることが好ましい。前記温度Tが−100℃未満であると、精密な温度制御が困難となったり、製造コストが高くなったりすることがある。一方、温度Tが前記好ましい範囲内であると、工業的に実施可能であり、簡易な装置、かつ、簡便な操作で、含フッ素置換化合物を製造することができる。
【0059】
前記求電子剤非共存下の系において前記有機フッ素化合物と有機リチウム化合物との反応をさせる場合、前記反応における温度T(℃)と溶液のフローリアクター内における滞留時間t(秒間)との関係としては、前記有機フッ素化合物が炭素数6のフルオロアルキルハライドの場合、含フッ素置換化合物の収率の点で、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがより好ましく、下記式(3)を満たすことが更に好ましい。
T≦−3.8t−48 ・・・式(1)
T≦−6.5t−55 ・・・式(2)
T≦−11t−57 ・・・式(3)
【0060】
また、前記温度T(℃)と前記滞留時間t(秒間)が、下記(i)及び(ii)のいずれかの関係を満たすことが特に好ましい。
(i)−78≦T≦−68、かつ、0.25≦t≦0.52
(ii)T=−78、かつ、0.15≦t≦0.25
【0061】
前記有機フッ素化合物が炭素数2のフルオロアルキルハライドである場合、前記温度T(℃)と前記滞留時間t(秒間)とが、−100≦T≦0、かつ、0.15≦t≦8.4を満たすことが好ましい。
また、前記有機フッ素化合物が、炭素数3のフルオロアルキルハライドである場合、下記式(4)を満たすことが好ましく、炭素数4のフルオロアルキルハライドである場合、下記式(5)を満たすことが好ましく、炭素数5のフルオロアルキルハライドである場合、下記式(6)を満たすことが好ましい。
T≦−3.2t−45 ・・・式(4)
T≦−5.1t−47 ・・・式(5)
T≦−7.1t−47 ・・・式(6)
【0062】
<<有機フッ素化合物>>
前記有機フッ素化合物としては、有機リチウム化合物との反応により、活性種(ラジカル)としての反応生成物を生成する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。一般的には、有機フッ素化合物と有機リチウム化合物との間でハロゲン−リチウム交換反応を起こし、反応性の高いフッ素置換カルベノイドを形成することが好ましく、前記フッ素置換カルベノイド種を形成させるための有機フッ素化合物としては、例えば、フッ素置換アルキルハライド(「フルオロアルキルハライド」とも呼び、パーフルオロアルキルハライドも含まれる)などが挙げられる。
【0063】
前記フルオロアルキルハライドとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(a1)によって表されるフルオロアルキルハライド又は下記一般式(a2)で表されるフルオロアルキルビニルハライドが好ましい。
C
jH
kF
lX
m ・・・一般式(a1)
ただし、一般式(a1)中、Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を表し、j、k、l及びmは式2j+2=k+l+mを満たし、jは1〜20の整数であり、kは0以上の整数であり、l及びmは1以上の整数である。jは1〜10の整数であることが好ましい。
【化3】
ただし、一般式(a2)中、X及びYは同一でも異なっていてもよく、フッ素原子以外のハロゲン原子を表し、j、k、l及びmは式2j+2=k+l+mを満たし、jは1〜20の整数であり、kは0以上の整数であり、l及びmは1以上の整数である。jは1〜10の整数であることが好ましい。
【0064】
上記一般式(a1)で表されるフルオロアルキルハライドとしては、例えば、トリブロモフルオロメタン、ジブロモジフルオロメタン、ブロモクロロジフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、1,2−ジブロモテトラフルオロエタンなどが挙げられる。
【0065】
上記一般式(a2)で表されるフルオロアルキルビニルハライドとしては、例えば、1−(トリフルオロメチル)ビニルブロミド、1−(ブロモジフルオロメチル)ビニルブロミド、1−(ジブロモフルオロメチル)ビニルブロミド、1−(ペンタフルオロエチル)ビニルブロミド、1−(ヘプタフルオロプロピル)ビニルブロミドなどが挙げられる。
【0066】
前記パーフルオロアルキルハライドとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、下記一般式(b)で表されるパーフルオロアルキルハライドが好ましい。
C
nF
2n+1X ・・・一般式(b)
ただし、一般式(b)中、Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を表し、nは1〜20の整数であり、好ましくは1〜10の整数である。
【0067】
上記一般式(b)で表されるパーフルオロアルキルハライドとしては、例えば、パーフルオロアルキルヨウ化物、パーフルオロアルキル臭化物などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルヨウ化物としては、例えば、ヨードペンタフルオロエタン、ヘプタフルオロプロピルヨージド、ノナフルオロブチルヨージド、ウンデカフルオロペンチルヨージド、トリデカフルオロヘキシルヨージドなどが挙げられる。
前記パーフルオロアルキル臭化物としては、ペンタフルオロエチルブロミド、ヘプタフルオロプロピルブロミド、ノナフルオロブチルブロミド、ウンデカフルオロペンチルブロミド、トリデカフルオロヘキシルブロミドなどが挙げられる。
なお、これらの有機フッ素化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
前記有機フッ素化合物のマイクロリアクター導入時のモル濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01M〜4.0M(M:mol/L、以下同じ)が好ましく、0.05M〜3.0Mがより好ましく、0.10M〜2.0Mが特に好ましい。
前記濃度が0.01M未満であると、単位時間あたりの含フッ素置換化合物の生成量が低下することがある。前記濃度が4.0Mを超えると、反応熱の除去が十分でないことがある。
【0069】
前記マイクロリアクターの導入路から前記有機フッ素化合物を導入する流量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.10mL/分〜50mL/分が好ましく、0.50mL/分〜25mL/分がより好ましく、1.0mL/分〜10mL/分が特に好ましい。
前記流量が、0.10mL/分未満であると、迅速な混合が実現されないことがあり、50mL/分を超えると、圧力損失が大きく、含フッ素置換化合物の収率に影響することがある。
【0070】
<<有機リチウム化合物>>
前記有機リチウム化合物としては、特に制限はなく、有機フッ素化合物の種類及び求電子剤の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキルリチウム、ベンジルリチウム、アルケニルリチウム、アルキニルリチウム、アラルキルリチウム、アリールリチウム、ヘテロ環リチウム、アルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
【0071】
前記アルキルリチウムとしては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウムなどが挙げられる。
前記ベンジルリチウムとしては、例えば、ベンジルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,1−ジフェニルヘキシルリチウムなどが挙げられる。
前記アルケニルリチウムとしては、例えば、ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウムなどが挙げられる。
前記アルキニルリチウムとしては、例えば、エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどが挙げられる。
前記アラルキルリチウムとしては、例えば、フェニルエチルリチウムなどが挙げられる。
前記アリールリチウムとしては、例えば、フェニルリチウム、ナフチルリチウムなどが挙げられる。
前記へテロ環リチウムとしては、例えば、2−チエニルリチウム、4−ピリジルリチウム、2−キノリルリチウムなどが挙げられる。
前記アルキルリチウムマグネシウム錯体としては、例えば、トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウムなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
なお、前記有機リチウム化合物は、銅、亜鉛、アルミニウムなどの金属原子を含むアート錯体であってもよい。
【0073】
前記有機リチウム化合物としては、反応性の異なるn−(一級)、sec−(二級)、tert−(三級)などの異性体のいずれもがヘキサンなどの炭化水素溶液として市販されていて入手容易で、それらの炭化水素溶液が長時間室温で安定であり、使いやすいため、ブチルリチウムが好ましい。
【0074】
前記有機リチウム化合物のモル濃度としては、特に制限はなく、前記有機フッ素化合物の種類及び濃度に応じて適宜選択することができるが、0.001M〜3.0Mが好ましく、0.005M〜0.75Mがより好ましく、0.01M〜0.50Mが特に好ましい。
前記濃度が、0.001M未満であると、前記有機リチウム化合物が溶媒中に含まれる水などにより分解されることがあり、3.0Mを超えると、前記有機リチウム化合物の溶解性が問題となることがある。
【0075】
前記マイクロリアクターの導入路から前記有機リチウム化合物を導入する流量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.10mL/分〜10mL/分が好ましく、0.50mL/分〜5.0mL/分がより好ましく、1.0mL/分〜3.0mL/分が特に好ましい。
前記流量が、0.10mL/分未満であると、迅速な混合が実現されず、含フッ素置換化合物の収率が低下することがあり、前記流量が10mL/分を超えると、圧力損失を抑えることができず、含フッ素置換化合物の収率が低下することがある。
【0076】
<<求電子剤>>
前記求電子剤としては、前記有機フッ素化合物と前記有機リチウム化合物との反応生成物に対して求電子作用を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。求電子作用を有するか否かは、前記反応生成物との関係で相対的に決まるため、一概には言えないが、求電子作用を有しやすいものとしては、例えば、アルデヒド類、ケトン類、イソシアネート類、スズ化合物、シリル化合物などが挙げられる。
なお、前記反応生成物は、前述した有機フッ素化合物と有機リチウム化合物の反応生成物であり、具体的には、フッ素置換カルベンを配位子としたリチウム錯体(フッ素置換リチウムカルベノイド)である。
【0077】
前記アルデヒド類としては、アルデヒド基を有する限り特に制限はなく、例えば、置換基を有していてもよい炭素数2〜10の脂肪族アルデヒド、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の芳香族アルデヒド、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の複素環式アルデヒドなどが挙げられる。前記置換基としては、反応に悪影響を与えないがきり特に限定されないが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
前記アルデヒド類の具体的な化合物としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、n−ヘキサンアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
【0078】
前記ケトン類としては、ケトン基を有する限り特に制限はなく、例えば、置換基を有していてもよい炭素数2〜10の脂肪族ケトン、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の芳香族ケトン、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の複素環式ケトンなどが挙げられる。前記置換基としては、反応に悪影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
前記ケトン類の具体的な化合物としては、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。また、主鎖の炭素がケイ素に置換されたクロシラン類、シラケトンも用いることができる。
【0079】
前記イソシアネート類としては、イソシアネート基を有する限り特に制限はなく、例えば、置換基を有していてもよい炭素数2〜10の脂肪族イソシアネート、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の芳香族イソシアネート、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の複素環式イソシアネートなどが挙げられる。前記置換基としては、反応に悪影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
前記イソシアネート類の具体的な化合物としては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、n−ブチルイソシアネート、tert−ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
これらの中でも、前記有機フッ素化合物と有機リチウム化合物との、ハロゲン−リチウム交換反応を阻害せず、前記反応生成物との反応性が高い点で、ベンズアルデヒド、n−ブチルイソシアネートが好ましい。
【0080】
前記スズ化合物としては、例えば、下記一般式(c)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
ただし、式中、R
5〜R
7はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜9の脂肪族基、置換基を有していてもよい炭素数3〜19の芳香族基、又は置換基を有していてもよい炭素数3〜19の複素環基を表し、X
2はCl、Br、又はIを表す。
前記スズ化合物の具体例としては、トリブチルスズクロリド、トリフェニルスズクロリドなどが挙げられる。
【0081】
前記シリル化合物としては、例えば、下記一般式(d)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
ただし、式中、R
8〜R
10はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜9の脂肪族基、置換基を有していてもよい炭素数3〜19の芳香族基、又は置換基を有していてもよい炭素数3〜19の複素環基を表し、X
3はCl、Br、I、又はTf(Tfは、トリフルオロメチルスルホニル基)を表す。
前記シリル化合物の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、トリメチルシリルヨージドなどが挙げられる。
【0082】
なお、以上の求電子剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
前記求電子剤のマイクロリアクター導入時のモル濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01M〜4.0Mが好ましく、0.05M〜3.0Mがより好ましく、0.10M〜2.0Mが特に好ましい。
前記濃度が0.01M未満であると、単位時間あたりの含フッ素置換化合物の生成量が低下することがある。前記濃度が4.0Mを超えると、反応熱の除去が十分でないことがある。
【0084】
前記求電子剤のモル濃度と、前記有機フッ素化合物のモル濃度及び前記有機リチウム化合物のモル濃度との関係としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、溶解性、粘性、反応熱の除熱などの点で、それぞれのモル濃度が上記好ましい範囲内であることが好ましい。
【0085】
前記マイクロリアクターの導入路から前記求電子剤を導入する流量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.10mL/分〜50mL/分が好ましく、0.50mL/分〜25mL/分がより好ましく、1.0mL/分〜10mL/分が特に好ましい。
前記流量が、0.10mL/分未満であると、迅速な混合が実現されないことがあり、50mL/分を超えると、圧力損失が大きく、含フッ素置換化合物の収率に影響することがある。
【0086】
前記求電子剤の前記マイクロリアクターに導入する流量と、前記メチルリチウム(反応生成物)の前記マイクロリアクターに導入する流量との関係としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、粘性、反応熱の除熱などの点で、それぞれの流量が上記好ましい範囲内であることが好ましい。
【0087】
ここで、本発明者らにより、マイクロリアクターを用いた含フッ素置換化合物においては、前記有機フッ素化合物と、前記有機リチウム化合物及び前記求電子剤との当量比は、それぞれの濃度と流量との積の比に一致することが明らかとなっている。
【0088】
前記有機フッ素化合物と前記求電子剤との当量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記有機フッ素化合物に対して、前記求電子剤が、1.0当量〜20当量が好ましく、1.0当量〜5.0当量がより好ましく、1.0当量〜2.0当量が特に好ましい。前記当量比が、1.0当量未満であると、含フッ素置換化合物の収率が低下し、20当量を超えると、反応生成物に対して求電子剤が過剰となり、含フッ素置換化合物の収率が低下することがある。
【0089】
前記有機フッ素化合物と有機リチウム化合物との当量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、有機フッ素化合物に対して、有機リチウム化合物は、0.5当量〜5.0当量が好ましく、1.0当量〜3.0当量がより好ましい。
前記当量比が0.5当量未満であると、ハロゲン−リチウム交換反応が十分に進まないことがあり、前記濃度が5.0当量以上であると、有機リチウム化合物が有機フッ素化合物に対して過剰となり、製造コストが高くなる。
【0090】
−溶媒−
前記有機フッ素化合物、前記有機リチウム化合物及び前記求電子剤は、それぞれ溶媒に可溶化された液体の状態で、マイクロリアクターに導入されることが好ましい。なお、前記有機フッ素化合物及び前記求電子剤は、混合して溶媒に可溶化されてもよい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、前記有機フッ素化合物、前記有機リチウム化合物、及び前記求電子剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0091】
前記溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒などが挙げられ、より具体的には、炭化水素系溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、iso−オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリン、これらの誘導体などが挙げられ、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトシキエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジグライムなどが挙げられる。これらの中でも、前記有機フッ素化合物の溶解性、対カチオンに対する溶媒和の強さ、収率のよさの点でジエチルエーテルが好ましい。
【0092】
また、前記対カチオンに配位し、立体障害を大きくする目的で、アミン化合物や環状エーテルを少量溶媒に添加してもよい。
前記アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサメチルホスホリルトリアミド(HMPA)などが挙げられ、環状エーテルとしては、例えば、クラウンエーテルなどが挙げられる。
【0093】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記含フッ素置換化合物とメタノールとを更に連続してマイクロリアクターに導入する工程が挙げられる。本工程は、前記含フッ素置換化合物を生成させたフローリアクターの下流に更にマイクロミキサー及びフローリアクターが設けられたマイクロリアクターにメタノールを導入することにより、連続的にメタノールクエンチを行う工程である。前記工程をマイクロリアクターで行うことにより、メタノールクエンチにおける高速混合、精密温度制御、及び精密滞留時間制御が実現され、含フッ素置換化合物収率を向上させることができる。
【0094】
前記メタノールの流量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.10mL/分〜50mL/分が好ましく、0.50mL/分〜25mL/分がより好ましく、1.0mL/分〜10mL/分が特に好ましい。
前記流量が、0.10mL/分未満であると、迅速な混合が実現されず、含フッ素置換化合物の収率が低下することがあり、50mL/分を超えると、圧力損失が大きくなることがある。
【0095】
前記メタノールクエンチにおける滞留時間としては、0.10秒間〜30秒間が好ましく、0.50秒間〜10秒間がより好ましく、1.0秒間〜5.0秒間が特に好ましい。
前記滞留時間が、0.10秒間未満であると、十分なクエンチが実現されないことがあり、30秒間を超えると、圧力損失が大きくなることがある。
【0096】
(含フッ素置換化合物)
本発明の含フッ素置換化合物は、下記一般式(1)から(10)のいずれかで表される新規の含フッ素置換化合物であり、本発明の含フッ素置換化合物の製造方法により製造される。
【化6】
ただし、一般式(1)〜(10)中、R
1及びR
3〜R
10はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜9の脂肪族基、置換基を有していてもよい炭素数3〜19の芳香族基、又は置換基を有していてもよい炭素数3〜19の複素環基を表し、R
2は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜9の脂肪族基、置換基を有していてもよい炭素数3〜19の芳香族基、又は置換基を有していてもよい炭素数3〜19の複素環基を表し、Xはフッ素原子以外のハロゲン原子を表し、j、k、l及びmは式2j+1=k+l+mを満たし、jは1〜20の整数であり、k及びmは0以上の整数であり、lは1以上の整数である。jは1〜10の整数であることが好ましい。R
1及びR
3〜R
10における置換基としては、反応に悪影響を与えないがきり特に限定されないが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
【実施例】
【0097】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
(試験例1)
従来のバッチ型反応器における含フッ素置換化合物の製造方法と同様の温度条件で、マイクロリアクターを用いた場合に含フッ素置換化合物を製造できることを確かめるため、以下の試験を行った。
【0099】
<マイクロリアクター>
本試験例で用いたマイクロリアクターは、T字型の管継手からなるマイクロミキサーと、前記マイクロミキサーの下流に連結されたチューブリアクターとを含んで構成される。
【0100】
−マイクロミキサー−
前記マイクロミキサー(
図2では、「M1」と記載する。)としては、三幸精機工業株式会社製の特注品を使用した(本実施例の記載に基づいて製造を依頼し、同等のものを入手することが可能である)。なお、本実施例で使用したマイクロミキサーは、その内部に第一の導入路、第二の導入路及びこれらが合流する流路の一部を有し、前記マイクロミキサー内においては、そのいずれの内径も同じである。したがって、以下、これらの内径をまとめて「マイクロミキサーの内径」と称する。
【0101】
−チューブリアクター−
前記チューブリアクター(
図2では、「R1」と記載する。)としては、ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブを使用した。送液用のポンプとしては、ハーバード社製シリンジポンプ Model 11 Plusを使用した。反応温度の調節は、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで行った。
【0102】
<マイクロリアクターに導入する溶液の調製>
CF
3(CF
2)
5Br(トリデカフルオロヘキシルブロミド、TCI(東京化工業株式会社)製)及びベンズアルデヒド(アルドリッチ社製)を、THFとジエチルエーテル((C
2H
5)
2O、以下ではEt
2Oとも表記する)の混合溶液(体積比率は、THF/Et
2O=2/1)で希釈し、それぞれの濃度が0.12M、0.10Mである混合溶液を調製した。また、sec−ブチルリチウム(sec−BuLi、関東化学株式会社製)をヘキサン(hexane)で希釈し、0.40Mのsec−ブチルリチウム溶液を調製した。
【0103】
<反応条件>
調製したCF
3(CF
2)
5Brとベンズアルデヒドとの混合溶液をマイクロリアクターM1の一方から導入し、sec−ブチルリチウム溶液をマイクロリアクターのもう一方から導入した。前記溶液は、各々ガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、マイクロリアクターに送液した。
これらは、マイクロミキサーM1において混合され、チューブリアクターR1内で連続的な反応を行い、含フッ素置換化合物を生成した(
図2参照)。
【0104】
前記マイクロリアクターは、
図2に示すように、T字型マイクロミキサー(M1)、マイクロチューブリアクター(R1)、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2)から構成されている。
マイクロミキサーM1には、T字型マイクロミキサー(マイクロミキサー1、三幸精機工業株式会社製、内径250μm、
図2参照)を使用した。マイクロチューブリアクター及びプレクーリングのためのチューブリアクターは、ジーエルサイエンス株式会社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1,000μm)を用いている。なお、滞留時間は、流量を変えずにステンレス製チューブの長さを変えることで調節することができる。また、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させて、反応温度を−78℃に設定した。
【0105】
T字型ミキサーM1には、前記CF
3(CF
2)
5Brとベンズアルデヒドとの混合溶液と、前記sec−ブチルリチウム溶液を、それぞれ6.00mL/分、1.50mL/分の流量でシリンジポンプを用いて送液した。
【0106】
チューブリアクターR1(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は3.14秒間とした。
また、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2)はすべて内径1,000μm、長さ100cmを用いた。
混合した反応溶液は反応が安定化するまでの数分間は廃棄し、その後サンプリング管に30秒間採取した。
【0107】
<収率の測定>
得られた反応溶液について、ガスクロマトグラフィーを用いた内部標準法により、含フッ素置換化合物の収率を求めた。なお、測定には、GC−2014(株式会社島津製作所製)を用いた。結果を表1に示す。
【0108】
(試験例2〜8)
試験例1において、有機リチウム化合物の種類、反応温度T(℃)及びチューブリアクター内の滞留時間t(秒間)を表1に示す組み合わせに変更した以外は、試験例1と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を測定した。結果を表1に示す。
なお、前記滞留時間tは、チューブリアクターの長さを50cmから200cmに変えることにより、3.14秒間から12.6秒間に変更した。
【0109】
【表1】
表中、Buはブチル基を表す。
【0110】
試験例1〜8の結果から、従来と同じ温度条件において、マイクロリアクターを用いて含フッ素置換化合物を生成できることが分かった。また、有機リチウム化合物の種類としては、sec−ブチルリチウムよりもn−ブチルリチウムを用いた方が収率が高いことが分かった。
【0111】
次に、含フッ素置換化合物の収率に対する連続的なメタノールクエンチ及び溶液導入流量の効果を調べるため、以下の試験を行った。
【0112】
(試験例9)
【0113】
<マイクロリアクター>
本試験例で用いたマイクロリアクターは、
図3に示すように、T字型マイクロミキサー(M1、M2)、マイクロチューブリアクター(R1、R2)、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3)から構成されている。
マイクロミキサーM1、マイクロミキサーM2には、ともにT字型マイクロミキサー(マイクロミキサー1及び2、三幸精機工業株式会社製、内径250μm又は500μm、
図3参照)を使用した。マイクロチューブリアクター及びプレクーリングのためのチューブリアクターは、ジーエルサイエンス株式会社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1,000μm)を用いた。なお、滞留時間は、流量を変えずにステンレス製チューブの長さを変えて調節した。また、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させて、反応温度を−78℃に設定した。
【0114】
<マイクロリアクターに導入する溶液の調製>
試験例1において、CF
3(CF
2)
5Br及びベンズアルデヒドのそれぞれの濃度を0.20M、0.10Mとし、n−ブチルリチウム(関東化学株式会社社製)をヘキサン(hexane)で希釈し、0.72Mのn−ブチルリチウム溶液を調製した以外は、試験例1と同様にしてマイクロリアクターに導入する溶液を調整した。
【0115】
<反応条件>
T字型ミキサーM1には、前記CF
3(CF
2)
5Brとベンズアルデヒドとの混合溶液と、前記n−ブチルリチウム溶液を、それぞれ6.00mL/分、1.50mL/分の流量でシリンジポンプを用いて送液した。これらの溶液は、マイクロミキサーM1において混合され、チューブリアクター内で連続的な反応を行わせた。また、マイクロリアクターM2の一方からメタノール(和光純薬工業株式会社社製)を導入した。マイクロミキサーM2において、前記反応物と前記メタノールとを混合させることにより、メタノールクエンチを行った(
図3参照)。
【0116】
チューブリアクターR1(内径1,000μm、長さ12.5cm)における滞留時間は0.785秒間とした。
混合した反応溶液は反応が安定化するまでの数分間は廃棄し、その後サンプリング管に30秒間採取した。
【0117】
<収率の測定>
試験例1と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を測定した。結果を表2に示す。
【0118】
(試験例10〜14)
試験例9において、溶液を導入する流量(mL/分)及びチューブリアクター内の滞留時間t(秒間)を表2に示す組み合わせに変更した以外は、試験例9と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を測定した。結果を表2に示す。
なお、前記滞留時間tは、チューブリアクターの長さを12.5cmから50cm又は200cmに変えることにより、0.785秒間から3.14秒間又は12.6秒間に変更した。
【0119】
【表2】
表中、Buはブチル基を表す。
【0120】
試験例9〜14の結果から、マイクロリアクターを用いて連続的なメタノールクエンチを行うことにより、含フッ素置換化合物の収率を大幅に向上できることが分かった。また、有機フッ素化合物、有機リチウム化合物及び求電子剤をマイクロリアクターに導入する流量を多くすることにより、含フッ素置換化合物の収率を向上できることが分かった。
【0121】
(実施例1)
<マイクロリアクター>
本実施例で用いたマイクロリアクターは、T字型の管継手からなるマイクロミキサーと、前記マイクロミキサーの下流に連結されたチューブリアクターとを含んで構成される(
図4参照)。
【0122】
−マイクロミキサー−
前記マイクロミキサー(
図4では、「M1」、「M2」と記載する。)としては、三幸精機工業株式会社製の特注品を使用した(本実施例の記載に基づいて製造を依頼し、同等のものを入手することが可能である)。なお、本実施例で使用したマイクロミキサーは、その内部に第一の導入路、第二の導入路及びこれらが合流する流路の一部を有し、前記マイクロミキサー内においては、そのいずれの内径も同じである。したがって、以下、これらの内径をまとめて「マイクロミキサーの内径」と称する。
【0123】
−チューブリアクター−
前記チューブリアクター(
図4では、「R1」、「R2」と記載する。)としては、ジーエルサイエンス株式会社製ステンレスチューブを使用した。送液用のポンプとしては、ハーバード社製シリンジポンプ Model 11 Plusを使用した。反応温度の調節は、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで行った。
【0124】
<マイクロリアクターに導入する溶液の調製>
有機フッ素化合物であるCF
3(CF
2)
4CF
2Br(トリデカフルオロヘキシルブロミド、東京化成工業株式会社製)と、求電子剤であるベンズアルデヒドとを、THF及びジエチルエーテル(Et
2O)の混合溶液(体積比率は、THF/Et
2O=2/1)で希釈し、それぞれの濃度が0.10M、0.12Mである混合溶液を調製した。また、メチルリチウム(MeLi、関東化学株式会社製)をジエチルエーテル(Et
2O)で希釈し、0.42Mのメチルリチウム溶液を調製した。
【0125】
<反応条件>
調製した0.10MのCF
3(CF
2)
4CF
2Brと0.12Mのベンズアルデヒドとの混合溶液をマイクロリアクターM1の一方から導入し、0.42Mのメチルリチウム溶液をマイクロリアクターのもう一方から導入した。前記溶液は、各々ガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、マイクロリアクターに送液した。
これらは、マイクロミキサーM1において混合され、チューブリアクター内で連続的な反応を行わせた。また、マイクロリアクターM2の一方からメタノールを導入した。マイクロミキサーM2において、前記反応物と前記メタノールとを混合し、含フッ素置換化合物を製造した(
図4参照)。
【0126】
前記マイクロリアクターは、
図4に示すように、T字型マイクロミキサー(M1、M2)、マイクロチューブリアクター(R1、R2)、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3)から構成されている。
マイクロミキサーM1、マイクロミキサーM2には、ともにT字型マイクロミキサー(三幸精機工業株式会社製、内径250μm又は500μm、
図4参照)を使用した。マイクロチューブリアクター及びプレクーリングのためのチューブリアクターは、ジーエルサイエンス株式会社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1,000μm)を用いた。また、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させて、反応温度を0℃に設定した。
【0127】
第一のT字型ミキサーM1(内径250μm)には、前記CF
3(CF
2)
4CF
2Br及び前記メチルリチウムの混合溶液と、前記メチルリチウム溶液を、それぞれ9.00mL/分、2.25mL/分の流量でシリンジポンプを用いて送液した。
第二のT字型ミキサーM2(内径500μm)には、メタノールを2.25mL/分の流量で送液した。
【0128】
チューブリアクターR1(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は2.09秒間、チューブリアクターR2(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は1.65秒間とした。
また、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3)は内径1,000μm、長さ100cmを用いた。
混合した反応溶液は反応が安定化するまでの数分間は廃棄し、その後サンプリング管に30秒間採取した。
【0129】
<収率の測定>
試験例1と同様にして含フッ素置換化合物の収率を求めた。結果を表3に示す。
【0130】
(実施例2〜10及び比較例1〜5)
実施例1において、有機フッ素化合物の種類、前記有機フッ素化合物及び求電子剤の溶媒の種類、並びに反応温度をそれぞれ表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜10及び比較例1〜5の含フッ素置換化合物を製造し、収率を測定した。結果を表1に示す。
【0131】
【表3】
表中、Xはヨウ素原子又は臭素原子を表し、Etはエチル基を表す。
【0132】
(実施例11)
−マイクロリアクター−
実施例11で用いたマイクロリアクターは、T字型の管継手からなるマイクロミキサーと、前記マイクロミキサーの下流に連結されたチューブリアクターとを含んで構成される(
図5参照)。なお、前記マイクロミキサー及び前記チューブリアクターは、実施例1と同じものを用いた。
【0133】
<導入する溶液の調製>
CF
3CF
2I(ヨードペンタフルオロエタン、アルドリッチ社製)及びベンズアルデヒドを、ジエチルエーテル(Et
2O)で希釈し、それぞれの濃度が0.10M、0.12Mである混合溶液を調製した。ジエチルエーテル(Et
2O)で希釈し、0.12Mの溶液に調製した。メチルリチウム(MeLi)をジエチルエーテル(Et
2O)で希釈し、0.42Mのメチルリチウム溶液を調製した。
【0134】
<反応条件>
調製したCF
3CF
2Iとベンズアルデヒドとの混合溶液をマイクロリアクターM1の一方から導入し、メチルリチウム溶液をマイクロリアクターのもう一方から導入した。前記溶液は、各々ガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、マイクロリアクターに送液した。
これらは、マイクロミキサーM1において混合され、チューブリアクター内で連続的な反応を行い、また、マイクロリアクターM2の一方からメタノールを導入した。マイクロミキサーM2において、前記反応物と前記メタノールとが混合され、メタノールクエンチを行った(
図5参照)。
【0135】
前記マイクロリアクターは、
図5に示すように、T字型マイクロミキサー(M1、M2)、マイクロチューブリアクター(R1、R2)、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3)から構成されている。
マイクロミキサーM1、マイクロミキサーM2には、ともにT字型マイクロミキサー(マイクロミキサー1、三幸精機工業株式会社製、内径250μm又は500μm、
図2参照)を使用した。マイクロチューブリアクター及びプレクーリングのためのチューブリアクターは、ジーエルサイエンス株式会社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1,000μm)を用いた。また、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させて、反応温度を0℃に設定した。
【0136】
第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には、前記CF
3CF
2I(ヨードペンタフルオロエタン)及び前記メチルリチウムの混合溶液と、前記メチルリチウム溶液を、それぞれ9.00mL/分、2.25mL/分の流量でシリンジポンプを用いて送液した。
第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には、メタノールを3.00mL/分の流量で送液した。
【0137】
チューブリアクターR1(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は2.09秒間、チューブリアクターR2(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は1.65秒間とした。
また、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3)は内径1,000μm、長さ100cmを用いた。
混合した反応溶液は反応が安定化するまでの数分間は廃棄し、その後サンプリング管に30秒間採取した。
【0138】
<収率の測定>
含フッ素置換化合物の収率を、実施例1と同様にして測定した。結果を表4に示す。
【0139】
(実施例12〜22)
実施例11において、有機フッ素化合物としてのCF
3CF
2I(ヨードペンタフルオロエタン)及び求電子剤としてのベンズアルデヒドをそれぞれ表1に示す成分に変更したこと以外は、実施例11と同様にして、実施例12〜22の含フッ素置換化合物を製造し、収率を測定した。結果を表4に示す。
【0140】
【表4】
表中、Xはヨウ素原子又は臭素原子を表し、Meはメチル基を表し、Buはn−ブチル基を表し、Phはフェニル基を表し、Tfはトリフルオロメチルスルホニル基を表す。
【0141】
実施例11〜22の結果から、マイクロリアクターを用いることにより、過剰量のパーフルオロアルキルハライドを使用することなく、工業的に実施可能な温度で、煩雑な操作をせずに、含フッ素置換化合物を製造することができることが分かった。また、実施例14、15、18、19、20及び21において新規の含フッ素置換化合物を製造できることができた。
【0142】
(実施例23)
本実施例では、目的とする含フッ素化合物の収率が低い求電子剤を用いた場合のマイクロリアクター内における反応温度T(℃)と滞留時間t(秒間)との関係を明らかにするため以下の操作を行った。
【0143】
<溶液の調製>
有機フッ素化合物としてCF
3(CF
2)
4CF
2I(トリデカフルオロヘキシルヨージド、東京化成工業株式会社製)と、メチルリチウムとをマイクロリアクターに導入して反応させた後、反応生成物とBu
3SnCl(トリブチルスズクロリド、アルドリッチ社製)とを反応させてパーフルオロ基置換化合物を形成させた。
次いで、反応停止剤としてメタノールをマイクロリアクターに導入し、前記フッ素置換化合物との連続的なメタノールクエンチを行い、CF
3(CF
2)
4CF
2SnBu
3(パーフルオロヘキシルトリブチルスズ)を製造した(
図6参照)。
【0144】
<マイクロリアクター>
マイクロリアクターは、T字型マイクロミキサー(M1、M2、M3)、マイクロチューブリアクター(R1、R2、M3)、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3、P4)から構成されている(
図6参照)。
マイクロミキサーM1、マイクロミキサーM2、マイクロミキサーM3には、ともにT字型マイクロミキサー(三幸精機工業株式会社製、M1の内径:250μm、M2及びM3の内径:500μm、
図6参照)を使用した。
マイクロチューブリアクター及びプレクーリングのためのチューブリアクターは、ジーエルサイエンス株式会社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径1,000μm)を用いていた。
【0145】
<反応条件>
滞留時間は、流量を変えずにチューブリアクターの長さを3.5cm、6.0cm、12.5cm、25cm、50cm、100cm、200cmに変えて調節した。また、マイクロリアクターを所定の恒温槽(恒温槽の温度T:−48℃、−58℃、−68℃及び−78℃)に埋没させて、反応温度を設定した。
【0146】
有機フッ素化合物であるCF
3(CF
2)
4CF
2Iは、ジエチルエーテルで希釈し、0.14Mの溶液に調製した。有機リチウム化合物であるメチルリチウムは、ジエチルエーテルで希釈し、0.48Mの溶液に調製した。求電子剤であるBu
3SnClは、ジエチルエーテルで希釈し、0.84Mの溶液に調製した。これらの溶液は、各々ガスタイトシリンジに吸い上げた後、ハーバード社製シリンジポンプを用いて、マイクロリアクターに送液した。
第1のT字型ミキサーM1(内径250μm)には、CF
3(CF
2)
4CF
2I溶液と、メチルリチウム溶液を、それぞれ9.00mL/分、2.25mL/分の流量でシリンジポンプを用いて送液した。
第2のT字型ミキサーM2(内径500μm)には、Bu
3SnCl溶液を1.50mL/分の流量で送液した。
第3のT字型ミキサーM3(内径250μm)には、メタノール溶液を2.00mL/分の流量で送液した。
チューブリアクターR1(内径1,000μm)における滞留時間tは、前述のようにして変化させ、0.15秒間、0.25秒間、0.52秒間、1.1秒間、2.1秒間、4.2秒間、8.4秒間とした。チューブリアクターR2(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は、1.85秒間、チューブリアクターR3(内径1,000μm、長さ50cm)における滞留時間は1.60秒間とした。
また、プレクーリングのためのチューブリアクター(P1、P2、P3、P4)は、すべて内径1,000μm、長さ100cmを用いた。
【0147】
<収率の測定>
最終的に得られた溶液を実施例1と同様に処理し、トリデカフルオロヘキシルスズ含フッ素置換化合物の収率を実施例1と同様にして求めた。結果を
図7に示す。
なお、
図7では、X軸を滞留時間とし、Y軸を反応温度としたカウンタープロット上にトリデカフルオロヘキシルスズの収率を示した。
【0148】
実施例23の結果から、前記反応温度T(℃)と滞留時間t(秒間)との関係としては、含フッ素置換化合物の収率の点で、次式T≦−3.8t−48を満たすことが好ましいことが分かった。
【0149】
(実施例24)
実施例23において、有機フッ素化合物をCF
3(CF
2)
4CF
2I(トリデカフルオロヘキシルヨージド)からCF
3CF
2I(ヨードペンタフルオロエタン、アルドリッチ社製)に変更し、恒温槽の温度Tを0℃、−26℃、−52℃及び−78℃)に変更した以外は、実施例23と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を求めた(
図8参照)。結果を
図9に示す。
【0150】
実施例24の結果から、含フッ素置換化合物の収率の点で、T≦0を満たすことが好ましく、T≦−26を満たすことがより好ましいことが分かった。
【0151】
(実施例25)
実施例23において、有機フッ素化合物をCF
3(CF
2)
4CF
2I(トリデカフルオロヘキシルヨージド)からCF
3CF
2CF
2I(ヘプタフルオロプロピルヨージド、東京化成工業株式会社製)に変更した以外は、実施例23と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を求めた(
図8参照)。結果を
図10に示す。
【0152】
実施例25の結果から、含フッ素置換化合物の収率の点で、T≦−3.2t−45を満たすことが好ましいことが分かった。
【0153】
(実施例26)
実施例23において、有機フッ素化合物をCF
3(CF
2)
4CF
2I(トリデカフルオロヘキシルヨージド)からCF
3(CF
2)
2CF
2I(ノナフルオロブチルヨージド、東京化成工業株式会社製)に変更した以外は、実施例23と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を求めた(
図8参照)。結果を
図11に示す。
【0154】
実施例26の結果から、含フッ素置換化合物の収率の点で、T≦−5.1t−47を満たすことが好ましいことが分かった。
【0155】
(実施例27)
実施例23において、有機フッ素化合物をCF
3(CF
2)
4CF
2I(トリデカフルオロヘキシルヨージド)からCF
3(CF
2)
3CF
2I(ウンデカフルオロペンチルヨージド、東京化成工業株式会社製)に変更した以外は、実施例23と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を求めた(
図8参照)。結果を
図12に示す。
【0156】
実施例27の結果から、含フッ素置換化合物の収率の点で、T≦−7.1t−47を満たすことが好ましいことが分かった。
【0157】
なお、以上の実施例23〜27から、CF
3(CF
2)
nCF
2Liの安定性は、n=0(炭素数2)では、安定性が高く、n=1以上(炭素数3以上)では不安定になるものの、n=2以上ではアルキル鎖の長さに関わらず、ほぼ同様の安定性を有していると考えられる。
【0158】
(実施例28〜32)
実施例23において、恒温槽の温度(反応温度)Tを−68℃とし、滞留時間を0.15秒間とし、有機フッ素化合物及び求電子剤を下記表5に示す組み合わせに変更した以外は、実施例23と同様にして、含フッ素置換化合物を製造し、収率を測定した。結果を表5に示す。なお、表5には、実施例23〜27における恒温槽の温度(反応温度)T=−68℃、滞留時間t=0.15秒間の場合の収率も示す。
【0159】
【表5】
表中、Xはヨウ素原子又は臭素原子を表し、Meはメチル基を表し、Buはn−ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0160】
表5から、前記マイクロリアクターを用いることで、従来のバッチ型反応器においては、目的の含フッ素置換化合物の収率が非常に低い、或いは目的の含フッ素置換化合物を得ることが不可能とされてきたタイプの求電子剤を使用することができ、目的の含フッ素置換化合物の収率を大幅に向上できることが分かった。また、実施例27、29、30及び31において新規の含フッ素置換化合物を製造できた。
【0161】
(実施例33)
実施例23において、有機フッ素化合物をCF
3(CF
2)
4CF
2I(トリデカフルオロヘキシルヨージド)から1−(トリフルオロメチル)ビニルブロミド(東京化成工業株式会社製)に変更し、恒温槽の温度Tを−28℃、−48℃、−65℃、−78℃、及び−90℃、チューブリアクターR1における滞留時間tを0.014秒間、0.055秒間、0.22秒間、0.79秒間、3.1秒間、6.3秒間、及び13秒間とした以外は、実施例23と同様にして、含フッ素置換化合物の収率を求めた(
図13参照)。結果を
図14に示す。
【0162】
図14から、従来の反応温度(−105℃;Nadano R, Fuchibe K, Ikeda M, Takahashi H, Ichikawa J. Chem Asian J. 2010;5(8):1875−1883参照)よりも高い温度域において1−(トリフルオロメチル)ビニルリチウムを生成でき、より短時間で目的の含フッ素置換化合物を得られることが分かった。また、含フッ素置換化合物の収率の点で、T≦−7.2t−45を満たすことが好ましいことが分かった。
【0163】
(実施例34〜35)
実施例33において、恒温槽の温度(反応温度)Tを−78℃とし、滞留時間を0.055秒間とし、求電子剤を下記表6に示す化合物に変更した以外は、実施例33と同様にして、含フッ素置換化合物を製造し、収率を測定した。結果を表6に示す。なお、表6には、実施例33における恒温槽の温度(反応温度)T=−78℃、滞留時間t=0.055秒間の場合の収率も示す。
【0164】
【表6】
表中、Buはノルマル−ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0165】
表6から、前記マイクロリアクターを用いることで、工業的に実施可能な温度で、複雑な装置の利用や煩雑な操作をせずに、目的の含フッ素置換化合物を製造できることが分かった。また、実施例34及び35において新規の含フッ素置換化合物を製造できた。