特許第5964865号(P5964865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964865N−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体
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  • 特許5964865-N−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体 図000019
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964865
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】N−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 1/02 20060101AFI20160721BHJP
   C07F 1/06 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 5/00 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 5/06 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 7/28 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 7/00 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 7/02 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 9/00 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 15/04 20060101ALI20160721BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20160721BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20160721BHJP
   C08F 4/06 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C07F1/02CSP
   C07F1/06
   C07F5/00 H
   C07F5/06 E
   C07F5/00 J
   C07F7/28 C
   C07F7/00 Z
   C07F7/02 Z
   C07F9/00 Z
   C07F9/00 A
   C07F15/04
   C07F15/00 C
   C23C16/34
   C08F4/06
【請求項の数】18
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-554862(P2013-554862)
(86)(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公表番号】特表2014-511380(P2014-511380A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】EP2012052878
(87)【国際公開番号】WO2012113761
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2015年1月21日
(31)【優先権主張番号】102011012515.9
(32)【優先日】2011年2月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨルク・サンダーメイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ・ショルン
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・カルシュ
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04544759(US,A)
【文献】 特開2004−002305(JP,A)
【文献】 特開2004−002306(JP,A)
【文献】 特表2003−531934(JP,A)
【文献】 特表2004−506745(JP,A)
【文献】 特表2008−536800(JP,A)
【文献】 SHAPIRO,P.J. et al,Inorganic Chemistry,1990年,Vol.29,pp.4560-4565
【文献】 CRIMMIN,M.R. et al,Dalton Transactions,2011年,Vol.40,pp.514-522,Published 25 Nov. 2010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体が、一般式1
【化1】
〔式中、
Mは、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、および白金(Pt)の群から選択される金属であり、
は、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、
は、水素、CH、NH、N(CH、またはN(Cであり、
Xは、ヒドリドアニオン(H)から、ハロゲン化物の群から、8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキリド基の群から、10個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリーリド基およびヘテロアリーリド基の群から、アルコキシラト配位子の群から、アルキルチオラト配位子もしくはアルキルセレナト配位子の群から、または第二級アミド配位子の群から、選択されるモノアニオン性共配位子であり、
Yは、オキソ基[O]2−またはイミド基[NR2−{ここで、Rは、8個までのC原子を有する環状、分岐状、もしくは線状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である}から選択されるジアニオン性共配位子であり、
Lは、中性二電子供与体配位子であり、
aは、1〜4の整数であり、かつ
n、m、およびpは、それぞれ互いに独立して、0、1、2、3、または4である〕
に従って構築される、少なくとも1個のN−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体。
【請求項2】
が、CH、C、C、トリル、2,6−ジイソプロピルフェニル、または2,4,6−トリメチルフェニル(メシチル)であり、
およびRが、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、
が、水素、CH、NH、N(CH、またはN(Cであり、
Xが、メチリド(CH)、エチリド(C)、イソプロピリド(iso−C)、tert−ブチルド(tert−C)、フェニリドアニオン(C)、オルト−、メタ−、もしくはパラ−トリリドアニオン[C(CH)]、チオフェン−2−イリドアニオン(C)、メチラト(MeO)、エチラト(EtO)、tert−ブチラト(tert−BuO)、MeS、MeSe、(tert−Bu)S、(tert−Bu)Se、ジメチルアミド(NMe)、ジエチルアミド(NEt)、メチルエチルアミド(NMeEt)、またはN−ピロリジド[NCであり、
Yが、イミド基[NBu]2−である、
請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
基Xが、ヒドリドアニオン(H)、塩化物(Cl)、臭化物(Br)、メチリド(CH)、エチリド(C)、ジメチルアミド(NMe)、またはジエチルアミド(NEt)である、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
ピリジン、ジオキサン、NH、THF、CO、アルキルホスフィン、たとえば、PMeもしくはPCy、またはアリールホスフィンたとえばPPhが、中性二電子供与体配位子Lとして利用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項5】
五員キレート環を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項6】
前記配位子の少なくともの1つが、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「bdma」)、N−モノ(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「dama」)、モノ(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「mdma」)、およびN,N’−ビス(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート(「bdmf」)の群から選択されるN−アミノアミジナート配位子である、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項7】
前記N−アミノアミジナート配位子の少なくともの1つが、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「bdma」)である、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項8】
架橋配位子官能基X、Y、またはLによる二量体構造を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項9】
金属錯体が、一般式2
【化2】
〔式中、
Mは、元素周期表(PTE)の第5または11族から選択される遷移金属であり、
は、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、
は、水素、CH、NH、N(CH、またはN(Cであり、
Xは、ヒドリドアニオン(H)から、ハロゲン化物の群から、8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキリド基の群から、10個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリーリド基およびヘテロアリーリド基の群から、アルコキシラト配位子の群から、アルキルチオラト配位子もしくはアルキルセレナト配位子の群から、または第二級アミド配位子の群から、選択されるモノアニオン性共配位子であり、
Yは、オキソ基[O]2−またはイミド基[NR2−{ここで、Rは、8個までのC原子を有する環状、分岐状、もしくは線状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である}から選択されるジアニオン性共配位子であり、
Lは、中性二電子供与体配位子であり、
aは、1〜4の整数であり、かつ
n、m、およびpは、それぞれ互いに独立して、0、1、2、3、または4である〕
に従って構築される、少なくとも1個の中性N−アミノアミジン配位子を有する金属錯体。
【請求項10】
前記中性N−アミノアミジン配位子が、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジン(「H−bdma」)である、請求項に記載の金属錯体。
【請求項11】
式4
【化3】
〔式中、
指数cのモノアニオン性N−アミノアミジナート配位子および指数bの中性N−アミノアミジノ配位子は、1つの錯体中でかつ1つの配位中心上で組み合され、
かつ、前記指数bおよびcは、互いに独立して、1、2、または3の整数を表し、かつ残りの基、R、R、RX、Y、およびL、さらには指数n、m、およびpは、請求項1に定義されるとおりである〕
で示されるN−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体。
【請求項12】
好適な金属出発化合物をアルカンまたはアミンの脱離により有機溶媒中で中性N−アミノアミジン配位子と反応させる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属錯体の調製方法。
【請求項13】
最初に、塩基を用いて中性N−アミノアミジン配位子を脱プロトン化し、続いて、有機溶媒中で好適な金属出発化合物を用いて塩脱離反応により調製を行い、
前記有機溶媒は、脂肪族炭化水素(たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなど)、芳香族溶媒(たとえば、ベンゼン、トルエンなど)、塩素化溶媒(たとえば、ジクロロメタン、クロロホルムなど)、エーテル系溶媒(たとえば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、またはアルコール(たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)から選択される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属錯体の調製方法。
【請求項14】
脂肪族炭化水素(たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなど)、芳香族溶媒(たとえば、ベンゼン、トルエンなど)、塩素化溶媒(たとえば、ジクロロメタン、クロロホルムなど)、エーテル系溶媒(たとえば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、またはアルコール(たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)が溶媒として使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
Buリチウムまたはリチウムヘキサメチルジシラジド(LiHMDS)またはカリウムヘキサメチルジシラジド(KHMDS)が有機塩基として使用される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
金属錯体が、一般式1
【化4】
〔式中、
Mは、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、および白金(Pt)の群から選択される金属であり、
は、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、
は、水素、8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、NH、N(CH、またはN(Cであり、
Xは、ヒドリドアニオン(H)から、ハロゲン化物の群から、8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキリド基の群から、10個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリーリド基およびヘテロアリーリド基の群から、アルコキシラト配位子の群から、アルキルチオラト配位子もしくはアルキルセレナト配位子の群から、または第二級アミド配位子の群から、選択されるモノアニオン性共配位子であり、
Yは、オキソ基[O]2−またはイミド基[NR2−{ここで、Rは、8個までのC原子を有する環状、分岐状、もしくは線状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である}から選択されるジアニオン性共配位子であり、
Lは、中性二電子供与体配位子であり、
aは、1〜4の整数であり、かつ
n、m、およびpは、それぞれ互いに独立して、0、1、2、3、または4である〕
に従って構築される、少なくとも1個のN−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体。
【請求項17】
がイソプロピル基である、請求項16に記載の金属錯体。
【請求項18】
前記N−アミノアミジナート配位子の少なくとも1つが、N−ジメチルアミノ−N’−イソプロピル−アセトアミジナート(「dapa」)配位子である、請求項16または17に記載の金属錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のN−アミノアミジナート配位子を有する新しい金属錯体、より特定的には、N−ジメチルアミノアセトアミジナート配位子およびN,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子を有する金属錯体ならびにN,N’−ビス(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート配位子を有する金属錯体に関する。本発明はさらに、これらの金属錯体の調製さらにはそれらの使用に関する。使用される金属は、元素周期表(PTE)の第1族〜第15族の金属、より特定的には第13族の金属、たとえば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)であるが、そのほかに、第一遷移系列の金属、たとえば、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)、さらには、貴金属、たとえば、テニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、または白金(Pt)である。
【0002】
本発明に係る錯体は、気相堆積プロセス、たとえば、CVD(化学気相堆積)、MO−CVD(有機金属化学気相堆積)、およびALD(原子層堆積)を利用して機能層を生成するための前駆体として使用される。そのほかに、本錯体は、オレフィンヒドロアミノ化およびオレフィン重合のための触媒として使用される。
【背景技術】
【0003】
化学気相堆積(CVD)は、気相反応(通常、基材表面上またはその近傍での)である。そのような反応では、反応ガスは、被覆される基材と同時に反応チャンバー内に通される。ガス(通常、予備加熱される)は、加熱基材により熱的に活性化されて互いに反応する。この反応過程では、所望の材料は、堆積されて化学結合(化学吸着)される。
【0004】
操作圧力および他の操作パラメーターが異なる無数のCVD方式に加えて、多かれ少なかれ改変されたCVDプロセスである特定の被覆プロセスもまた存在する。
【0005】
プラズマ重合として知られるプロセスでは、プラズマにより励起されたガス状モノマーが基材上に高架橋層を形成する。
【0006】
原子層堆積(ALD)は、大幅に改変されたCVDプロセスであり、この場合、表面上での反応または収着は、表面が完全に被覆された後、自動停止する。この自己制限反応を複数のサイクル(それらの間に濯ぎ工程を有する)で行うことにより、非常に良好なアスペクト比(長さ/厚さ比)および厳密な層厚さが達成される。
【0007】
CVD、MO−CVD、およびALDプロセスで使用される既知の有機金属前駆体の例は、金属オルガニル化合物、たとえば、トリメチルインジウム(In(CH)、アミド化合物Ti(NMe、またはアセチルアセトナト錯体[MeIn(CF−CO−CH−CO−CF)]である。
【0008】
本発明は、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「bdma」)、(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「dama」)、N−ジメチルアミノ−N’−イソプロピル−アセトアミジナート配位子(「dapa」)、さらにはN−モノ(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「mdma」)の群からの、さらには、対応するホルムアミジナート系列のN,N’−ビス(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート配位子(「bdmf」)、N−(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート配位子(「damf」)、さらにはN−モノ(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート配位子(「mdmf」)からの、アミノアミジナート配位子を有する金属錯体に関する。好ましい選択肢としては、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「bdma」)を有する金属錯体が挙げられる。
【0009】
さらに以下に明記されるように、このクラスの配位子は、2個の窒素原子の少なくとも1つがさらなるアミノ基により置換されるR−C(NR’)型のアミジナート骨格をベースとする。好ましくは、両方のN原子がさらなるアミノ基により置換される。このことは、配位子N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「bdma」)の場合にあてはまる。
【0010】
配位状態または錯体状態では、配位子は二座であり、2個のN原子が金属に配位されてM−N−N−C−N−の並びの五員環が形成される。配位状態では、配位子は、一般的には一価負電荷(モノアニオン性構造)を有する。ホモレプティックおよびヘテロレプティック金属錯体を形成してもよい。
【0011】
N−モノアミノアミジンさらにはN,N’−ジアミノアミジンのプロトン化配位子は、文献から公知である。たとえば、(非特許文献1)には、アンモニウム塩の存在下でのアセトイミドエチルエステルと過剰の1,1−ジメチルヒドラジン(非対称置換)との反応によるN,N’−ジアミノアミジンの調製が記載されている。類似のモノアミノアミジンは、アセトイミドエチルエステルと1当量の1,1−ジメチルヒドラジンとの反応により得られる。続いて、さらなる記述では、配位子の調製が検討されている。
【0012】
F.A.Neugebauer(非特許文献2)は、末端N原子上にフェニル基を有するPhN−N=CH−NH−NPh型のN,N’−ジアミノアミジン化合物を記載している。N−ジメチルアミノアミジンの親構造は、Neunhoefferら((非特許文献3)参照)により初めて調製された(HCl塩として)。
【0013】
本発明は、本明細書に初めて開示されるN−アミノアミジナート配位子を有する新しい金属錯体に関する。
【0014】
モノアニオン性N−オルガノアミノアミジナート配位子およびその金属錯体は、文献に記載されている((非特許文献4)参照)。この錯体は、アミジナート窒素原子とアミノ窒素原子との間に(CHスペーサー基(n=2、3)を有するので、アミノ基は、アミジナート窒素に直接結合されていない。この金属錯体は、六員環構造を有する(この場合、アミジナート基およびと末端アミノ基は両方とも、中心原子に結合されて六員環を形成する)。この化合物は、触媒用途に使用される。
【0015】
(特許文献1)には、第4遷移族からの金属のN−オルガノアミジナート錯体および重合プロセスでのその使用が記載されている。RC(NR’)型のN−オルガノアミジナート配位子を有する錯体は、四員構造を有する。N−アミノ置換アミジナート錯体は、記載されていない。
【0016】
(特許文献2)には、CVDを利用して銅薄層を生成するために使用されるCu(I)の多環式N−オルガノアミジナート錯体が開示されている。N−アミノ置換アミジナート錯体は、記載されていない。
【0017】
アミジナート配位子を有する既存の金属錯体は、アミジナート窒素原子上に2個の有機炭素基を含有する。これにより、一般的には、配位金属状態で四員歪みキレート環構造がもたらされる。典型的な一例は、ホモレプティックCo(II)アミジナート錯体[Co(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナト)]((非特許文献5)参照)または[(MeC(NCH(CH)AlEt]型および[(EtC(NCH(CH)AlMe]型のアルミニウムアミジナート錯体((非特許文献6)参照)である。
【0018】
類似の錯体は、R.G.Gordonらにより記載されている。たとえば、N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートのCu(I)錯体からCu窒化物が堆積され(非特許文献7)、前駆体[Ru(II)(CO)(N,N’−ジ−tertブチルアセトアミジナート)]を用いてALDによりルテニウム薄膜が作製される((非特許文献8)参照)。
【0019】
本明細書により提供される少なくとも1個のN−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体は、直接N−N結合を介してアミジナート窒素原子NおよびN’に炭素基の代わりに結合された少なくとも1個のアミニル基−NRかつ2個以下のアミニル基を有する。この特定の設計では、貯蔵可能な前駆体錯体に、かつ有利に低い分解温度でさえも前駆体の分解を開始する配位子骨格中の所定の熱破壊部位(N−N結合)に、とくに有利な五員環キレート構造をもたらす。
【0020】
半導体部品(プロセッサー、メモリチップ、センサーチップなど)の製造では、金属層、酸化物層、および窒化物層の堆積のためにCVD、MO−CVD、およびALDプロセスを利用するのが通常である。これらのプロセスは、現在では、半導体技術およびマイクロエレクトロニクスで大きな意義を獲得している。
【0021】
これらのプロセスでは、多くの場合、反応性ガス(たとえば、水素、アンモニア、または1,1−ジメチルヒドラジン)の存在下で、好適な前駆体化合物の気化および分解点を超える加熱により、基材と気相との境界で基材が被覆される。これらの種類のプロセスは、たとえば、GaN、InN、TaN、TiN、またはSiの層を形成するために使用される。金属層(たとえば、Pd、Ru、またはCo)を堆積することも可能である。CVDおよびALDでの使用に適するように、適切な配位子および金属錯体は、分子状構造を有し(かつ理想的には単量体として存在することが望ましい)、低いモル質量を有し、かつ貯蔵温度を超える温度で高い揮発性および低い分解点を有していなければならない。
【0022】
さらに、堆積プロセスの前に分解しないように、それらは、室温で熱的に安定でなければならない。それに加えて、化合物は、均一で再現性のある分解機構を有していなければならず、かつ分子のフラグメント化に好適な所定の破壊点を有していなければならない。最後に、同一のCVD条件下で規定の前駆体化合物を用いたときに、常に、一定した品質を有する同一の層を堆積することが可能でなければならない。
【0023】
そのような前駆体化合物に好適な配位子は、金属中心の良好な立体遮蔽を提供し、電子リッチでなければならず、かつ電子的に金属中心を満たさなければならず、それにより、ルイス酸性度を低減し、かつ低揮発性の配位ポリマーへの化合物のアグリゲーションを阻害しなければならない。堆積時、さらに、金属中心の還元が必要であることも多い。本発明に係る配位子のように高割合のヒドラジン構造ユニットを特徴とする配位子は、それ自体、還元当量を有する。
【0024】
アミジナート配位子を有する既存の金属錯体は、欠点を有する。それらは、たとえば、均一な規定の分解経路を有しおらず、金属原子は、一般的には、不完全に遮蔽され、比較的低い電子密度を有する。したがって、これらのアミジナート錯体の使用は、とくに薄膜堆積プロセスの場合、再現性、層品質、堆積速度、および歩留りに関する欠点をもたらしうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許第5,502,128号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/124700号パンフレット
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】G.S.Gol’din,et al.,Zhurnal Organicheskoi Khimii,1969,5,1404−1410
【非特許文献2】F.A.Neugebauer,Angew.Chem.1973,85,485−493
【非特許文献3】H.Neunhoeffer,H.Hennig,Chem.Ber.1968,101,3947−3951
【非特許文献4】S.Bambirra et al.,Organometallics,2000,19,3197−3204
【非特許文献5】Gordon et al.,J.Chem.Soc.Dalton Trans.,2008,2592−2597
【非特許文献6】A.L.Brazeau et al.,Inorg.Chem.2006,Vol.45,No.5,2276−2281
【非特許文献7】R.G.Gordon et al.,Chem.Vap.Dep.,2006,12,435−441
【非特許文献8】R.G.Gordon et al.,Chem.Vap.Deposition,2009,15,312−319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
したがって、本発明の目的は、改良された金属アミジナート錯体を提供することである。この新しいアミジナート錯体は、薄膜堆積プロセスでの使用に適していなければならない。さらに、それはまた、触媒プロセスに役立たなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0028】
この目的は、本特許請求の範囲に係る新しいN−アミノアミジナート錯体により達成される。
【0029】
少なくとも1個のN−アミノアミジナート配位子を有する本発明に係る金属錯体は、一般式1
【化1】
〔式中、
Mは、元素周期表(PTE)の第1〜15族の金属であり、
は、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、
は、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、NH、N(CH、またはN(Cであり、さらなる実施形態では、基Rは、水素、CH、NH、N(CH、またはN(Cであり、特定の実施形態では、基Rは、イソプロピル(CH(CH)であり、
Xは、ヒドリドアニオン(H)から、ハロゲン化物の群から、8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキリド基の群から、10個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアレーニド基およびヘテロアレーニド基の群から、アルコキシラト配位子の群から、アルキルチオラト配位子もしくはアルキルセレナト配位子の群から、または第二級アミド配位子の群から、選択されるモノアニオン性共配位子であり、
Yは、オキソ基[O]2−またはイミド基[NR2−{ここで、Rは、8個までのC原子を有する環状、分岐状、もしくは線状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である}から選択されるジアニオン性共配位子であり、
Lは、中性二電子供与体配位子であり、
aは、1〜4の整数であり、かつ
n、m、およびpは、それぞれ互いに独立して、0、1、2、3、または4である〕
を有する。
【0030】
本発明は、より特定的には、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「bdma」)、(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「dama」)、さらにはモノ(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「mdma」)の群からの、さらには、対応するホルムアミジナート系列のN,N’−ビス(ジメチルアミノ)型アミジナート配位子(「bdmf」)、N−(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート配位子(「damf」)、さらにはモノ(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート配位子(mdmf」)からの、少なくとも1個のN−アミノアミジナート配位子を有する金属錯体に関する。好ましい選択肢としては、少なくとも1個のN,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子(「bdma」)を有する金属錯体が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、In(bdma)Meの単結晶X線構造解析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る錯体では、金属原子は、+1〜+6の形式酸化状態で存在しうる。好ましい酸化状態は、+1、+2、および+3である。大多数の場合、N−アミノアミジナート配位子は、負電荷を有するので、モノアニオン形である。
【0033】
錯体で使用される中心原子Mは、元素周期表(PTE)の第1〜15族の金属である。これは、PTEのsブロックの金属(第1および2族、すなわち、アルカリ金属およびアルカリ土類金属)、pブロックの金属(第13、14、および15族)、およびdブロックの金属(第3〜12族の遷移金属)を包含する。この定義はまた、当然ながら、PTEの周期内のすべて金属を包含するので、貴金属を含む。
【0034】
好ましい選択肢としては、元素周期表(PTE)の第13、14、および15族の金属および半金属の使用が挙げられる。とくに好ましいのは、金属のアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ヒ素(As)、およびアンチモン(Sb)である。
【0035】
PTEの第3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12族の遷移金属を使用することも可能である。ここでとくに好ましいのは、金属のチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、およびクロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)および銅(Cu)である。
【0036】
「貴金属」という用語は、8種の金属、すなわち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、銀(Ag)、および金(Au)を包含する。これらのうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、および白金(Pt)が好ましい。パラジウム錯体がとくに好ましい。
【0037】
基Rは、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である。好ましいアルキル基は、CHおよびCであり、好ましいアリール基は、フェニル(C)、トリル、2,6−ジイソプロピルフェニル、および2,4,6−トリメチルフェニル(メシチル)である。
【0038】
基RおよびRは、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、基Rは、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、NH、N(CH、またはN(Cである。さらなる実施形態では、基Rは、水素、CH、NH、N(CH、またはN(Cである。特定の実施形態では、基Rは、イソプロピル(CH(CH)である。
【0039】
基Xは、ヒドリドアニオン(H)から、またはハロゲン化物(F、Cl、Br、もしくはI)の群から、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルカニド基(すなわちカルバニオン基)(たとえば、メチリド(CH)、エチリド(C)、イソプロピリド(iso−C)、またはtert−ブチルド(tert−C))の群から、または10個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリーリド基およびヘテロアリーリド基(たとえば、フェニリドアニオン(C)、もしくはオルト−、メタ−、パラ−トリリドアニオン[C(CH)]、チオフェン−2−イリドアニオン(C))の群から、またはアニオン性アルコキシレート配位子(たとえば、メチラート(MeO)、エチラート(EtO)、tert−ブチラート(tert−BuO))の群から、またはアニオン性アルキルチオラート配位子およびアルキルセレナート配位子(たとえば、MeS、MeSe、(tert−Bu)S、もしくは(tert−Bu)Se)の群から、またはアニオン性第二級アミド配位子(たとえば、ジメチルアミド(NMe)、ジエチルアミド(NEt)、メチルエチルアミド(NMeEt)、もしくはN−ピロリジド[NC)の群から、選択されるモノアニオン性共配位子である。
【0040】
基Xは、好ましくは、ヒドリドアニオン(H)、塩化物(Cl)、臭化物(Br)、メチリド(CH)、エチリド(C)、ジメチルアミド(NMe)、およびジエチルアミド(NEt)である。
【0041】
基Yは、ジアニオン性共配位子、たとえば、オキソ基[O]2−またはイミド基[NR2−{ここで、Rは、8個までのC原子を有する環状、分岐状、もしくは線状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である}である。好ましい選択肢としては、イミド基[NBu]2−が挙げられる。
【0042】
基Lは、中性二電子供与体配位子である。中性二電子供与体配位子(L)は、すべての中性電子対供与体分子であり、例としては、ピリジン、ジオキサン、NH、THF、CO、さらにはアルキルホスフィン(たとえばPMeもしくはPCy)またはアリールホスフィンたとえばPPhが挙げられる。好ましい選択肢としては、配位子のピリジン、CO、およびNHが挙げられる。
【0043】
本発明のさらなる実施形態では、本発明に係る式1で示される錯体は、配位子架橋二量体の形態で存在しうる。この場合の架橋は、基Xを介しうる(すなわち、たとえば、ハロゲン架橋および/または水素架橋を介しうる)。一般的には、金属原子の配位飽和は、この手段により達成される。このクラスの錯体の一例は、ヒドリド水素架橋が存在する二量体Al錯体[Al(bdma)H(μ−H)]である。この金属錯体は、架橋配位子官能基X、Y、またはLによる二量体構造を有することを特徴とする。
【0044】
本発明のさらなる実施形態では、N−アミノアセトアミジンまたはN−アミノホルムアミジンはまた、プロトン化中性形で金属原子に配位されうる。この場合、金属ルイス酸は、中性キレート配位子と直接反応する。この錯体は、以下の一般式2を有する。
【化2】
【0045】
式2中、水素原子は移動可能である。したがって、プロトン化(中性)N−アミノアミジン配位子のそのような錯体では、2種の互変異性体AおよびBの形成が可能であり、平衡時、AまたはBのいずれかがより高い割合を有しうる。
【0046】
さらに、式2中、
Mは、元素周期表(PTE)の第1〜15族の金属であり、
は、水素、または8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基であり、
およびRは、互いに独立して、水素、CH、またはCであり、
は、水素、CH、NH、N(CH、またはN(Cであり、
Xは、ヒドリドアニオン(H)から、ハロゲン化物の群から、8個までのC原子を有する環状、線状、もしくは分岐状のアルキリド基の群から、10個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリーリド基およびヘテロアリーリド基の群から、アルコキシラト配位子の群から、アルキルチオラト配位子もしくはアルキルセレナト配位子の群から、または第二級アミド配位子の群から、選択されるモノアニオン性共配位子であり、
Yは、オキソ基[O]2−またはイミド基[NR2−{ここで、Rは、8個までのC原子を有する環状、分岐状、もしくは線状のアルキル基、または20個までのC原子を有する置換もしくは非置換のアリール基である}から選択されるジアニオン性共配位子であり、
Lは、中性二電子供与体配位子であり、
aは、1〜4の整数であり、かつ
n、m、およびpは、それぞれ互いに独立して、0、1、2、3、または4である。
【0047】
本発明のとくに好ましい一実施形態では、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジン(「H−bdma」)が中性配位子として金属に結合される(式3)。
【化3】
【0048】
本発明に係る錯体のこの実施形態は、より特定的には、PTEの第5および11族の金属で観測される。式3で示される錯体の例は、化合物Ta(NBu)Cl(Hbdma)(実施例12参照)、Nb(NBu)Cl(Hbdma)、および[CuCl(Hbdma)]である。
【0049】
本発明に係る錯体のさらなる実施形態では、指数cにより表されるモノアニオン性N−アミノアミジナート配位子および指数bにより表される中性N−アミノアミジン配位子が、1つの錯体中にかつ1つの配位中心上に同時に結合される(式4)。
【化4】
【0050】
式4中の指数bおよびcは、互いに独立して、整数1、2、または3である。残りの基X、Y、およびL、さらには指数n、m、およびpは、式1のときと同様に定義される。
【0051】
本発明のこの実施形態では、たとえば、モノアニオン性bdma配位子さらには中性配位子N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジン(「H−bdma」)は、同一の金属原子に配位されうる。これらの配位子の組合せを特徴とする金属錯体は、立体遮蔽に関して特定の利点を有する。
【0052】
驚くべきことに、アミジナート配位子の2個のN原子上への少なくとも1個のさらなるアミノ基の導入は、この配位子を含む金属錯体の有利な性質をもたらすことが判明した。本発明に係るN−アミノアミジナート錯体では、五員環キレート構造は、より良好な立体遮蔽を提供し、環歪みの問題を生じにくく、ひいてはこの前駆体(基底状態の)の貯蔵形態を安定化させる。この特徴は、より容易な破壊、すなわち、熱励起状態でのN−N結合の解離と有利に組み合わされる。
【0053】
特定的には、文献から公知である従来のN−オルガノアミジナート配位子の窒素原子上のアルキル基を少なくとも1個のN−アミノ置換基(−NR)により置き換えると、配位子の電子密度が増大されることが判明した。同時に、ヒドラジン単位が導入されるので、分子の還元的開裂に有利な影響を及ぼす還元当量が存在する。さらに、配位子中の弱いN−N単結合により、所定の破壊点が導入された。配位子が金属原子に配位された場合、キレート環のN−N結合の容易な熱解離により、全金属錯体のより迅速なフラグメント化が起こりうる。これらの事実は、文献の詳細事項により支持される。K.B.Wiberg(J.Phys.Chem.1992,96,5800−5803)によれば、ヒドラジン(HN−NH)中のN−N結合の解離エネルギーは、63.9kcal/molであるが、メチルアミン(HN−CH)中のN−C結合の解離エネルギーは、約82.9kcal/molであり、言い換えれば、約30%高い。高いN−C結合に起因して文献から公知であるN−オルガノアミジナート錯体には存在しない新しいかつ容易なフラグメント化経路が開かれる。本発明に係る錯体中の容易なN−N結合開裂を介する分解経路の指標は、m/z=44(N(CHに対応する)を有する窒素ラジカルカチオンが見いだされる質量スペクトルにより提供される。この新しい破壊経路の結果として、従来のN−オルガノアミジナート錯体を使用した場合に見られる堆積された金属層および/またはM型セラミックス層への炭素の望ましくない混入は、少なくなる。本発明に係る金属錯体を気相薄膜エピタキシーに利用した場合、多くの場合、CVD堆積プロセスで追加の還元反応性ガス、たとえば、水素、アンモニア、およびヒドラジンを用いることなく、機能しうる。この結果として、再現性のある品質で堆積可能な高純度の層が得られる。
【0054】
まず最初に以下で扱わかれているのは、アミジナート配位子の一般的な調製である。以下に記載されているのは、5つの最も重要な型の配位子であり、それぞれの場合に示される形態は、本発明に係る金属錯体で頻繁に結合される配位子のモノアニオン形である。
a)N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「bdma」、式5)
【化5】
b)モノ(ジメチルアミノ)アセトアミジナート(「mdma」、式6)
【化6】
c)N−ジメチルアミノ−N’−メチルアセトアミジナート(「dama」、式7)
【化7】
d)N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ホルムアミジナート(「bdmf」、式8)
【化8】
e)N−ジメチルアミノ−N’−イソ−プロピルアセトアミジナート(「dapa」、式9)
【化9】
【0055】
それぞれの中性配位子は、二価N原子の遊離電子対上に追加のプロトンを有する。
【0056】
非荷電配位子分子「H−bdma」が属する化合物クラスはまた、文献ではヒドラジジンまたはジヒドロホルマザンとしても参照される。本明細書で選択された名称N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジンは、アミジンとの類似性を示すことが意図されている。この中性配位子は、本明細書では「H−bdma」という名称により略記される。それに対応して、モノアニオン性配位子は、N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナートとして存在し、「bdma」という略号を用いて表される。
【0057】
ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジナート配位子は、Gol’din(G.S.Gol’din,et al.,Zhurnal Organicheskoi Khimii,1969,5,1404−14109)の文献に記載の方法に変更を加えて調製される。Gol’dinの合成は、原理的には、三工程手順であり、この手順では、エタノールとアセトニトリルとの反応によりアセトイミドエチルエステル塩酸塩を与え、アセトイミドエチルエステル塩酸塩の脱プロトン化を行って遊離塩基アセトイミドエチルエステルを与え、続いて、遊離塩基アセトイミドエチルエステルを1,1−ジオルガノヒドラジンと反応させて所望のヒドラジジンを与える。
【0058】
本明細書に記載のプロセスによるH−bdmaの調製では、Gol’dinの合成に変更を加えて、アセトイミドエチルエステルの得られたHCl塩を脱プロトン化せずに単離し、その代わりに、2当量の1,1−ジアルキルヒドラジンと直接反応させて(たとえばトリエチルアミンなど塩基の存在下で)、二段階手順とする。
【化10】
【0059】
本明細書に記載のプロセスは、乾燥したガス状塩化水素の存在下でエタノールをアセトニトリルと反応させてアセトイミドエチルエステル塩酸塩を与える工程(a)と、トリエチルアミン中でアセトイミドエチルエステル塩酸塩を1,1−ジアルキルヒドラジンと反応させる工程(b)と、で構成される。
【0060】
使用溶媒は、たとえばトリエチルアミンなどのアミンであり、反応は、60〜100℃の範囲内の温度で行われる。反応終了後、成分は、分別蒸留により分離される。改変されたプロセスは、広い適用可能性を有し、他の置換基を有するアミジナートを調製することも可能である。その場合、たとえば、1,1−ジメチルヒドラジンまたは1,1−ジエチルヒドラジンが使用される。
【0061】
中性配位子モノ(ジメチルアミノ)アセトアミジン(「H−mdma」)は、Gol’dinにより与えられた説明とほぼ類似した方法で調製される。ジクロロメタンなどの塩素化溶媒中で、アセトイミドエチルエステル塩酸塩と1当量の1,1−ジメチルヒドラジンおよびトリエチルアミンとの反応が行われる。
【0062】
中性配位子N−ジメチルアミノ−N’−メチルアセトアミジン(「H−dama」)は、R.F.Smith et al.,Journal of Heterocyclic Chemistry 1981,18,319−325の文献に記載の説明に従って調製される。この調製は、ジメチルスルフェートによるN−メチルアセトアミドのin situ O−アルキル化、それに続く1当量の1,1−ジメチルヒドラジンとの反応に基づく。
【化11】
【0063】
本発明に係るアミジナート錯体は、種々の合成経路により調製可能である。中性配位子は、空気下で調製可能であるが、金属錯体は、不活性ガス(アルゴン、窒素)下で調製しなければならない。
【0064】
本発明に係るホルムアミジナート配位子N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ホルムアミジン「H−bdmf」は、Ch.Grundmann,A.Kreutzberger,J.Am.Chem.Soc.1957,79(11),2839−2843の文献に記載の説明に従って、1,3,5−トリアジンと1,1−ジメチルヒドラジンとの反応により調製される。
【0065】
最も重要な合成経路は、アルカンまたはアミンの脱離を含む(錯体(bdma)AlMe2の調製を参照されたい、実施例2および反応式3を参照されたい)。
【化12】
【0066】
さらなる調製経路は、中性配位子の事前の脱プロトン化の後の塩脱離を含む。この場合、まず最初に、配位子のLi塩またはK塩を生成し(BuLi、リチウムヘキサメチルジシラジドLiHMDS、またはカリウムヘキサメチルジシラジドKHMDSを用いて)、続いて、不活性ガス下で金属化合物と反応させる(実施例4および反応式4の錯体(bdma)GaClの調製を参照されたい)。
【化13】
【0067】
本発明に係るアミジナート錯体は、一般的には、金属出発化合物の導入およびアミジン/アミジナート配位子の添加を行って「ワンポット反応」で調製される。出発化合物の型に依存して、反応は、−78℃(ドライアイスによる冷却)から100℃までの非常に広い温度範囲で行いうる。反応時間は、典型的には、30分間〜48時間の範囲内であるが、いくつかの場合には、72時間まで延長可能である。使用溶媒は、脂肪族溶媒(たとえば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなど)、芳香族溶媒(ベンゼン、トルエン)、塩素化溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、またはアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール)を含む。本発明に係る金属錯体は、結晶化、昇華、濃縮、および/または沈殿により単離可能である。この場合、利用される分離技術は、当業者に公知の技術(たとえば、濾過、遠心分離など)である。さらに詳しい内容は、以下の実施例から得られうる。
【実施例】
【0068】
実験の節/実施例
略号
Bu: n−ブチル、−CHCHCHCH
Bu: tert−ブチル、−C(CH
Pr: iso−プロピル、−CH(CH
Et: エチル、−CHCH
Me: メチル、−CH
Hbdma: N,N’−ビス(ジメチルアミノ)アセトアミジン
Hdama: N−ジメチルアミノ−N’−メチルアセトアミジン
Hdapa: N−ジメチルアミノ−N’−イソプロピルアセトアミジンHbdmf N,N’−ビス(ジメチルアミノ)ホルムアミジン
Hmdma: N−モノジメチルアミノアセトアミジン
HMDS: ヘキサメチルジシラジド、N(SiMe
MHz: メガヘルツ、10−1
ppm: 百万分率、NMR分光法での化学シフトの単位
THF: テトラヒドロフラン
TMS: トリメチルシリル、−SiMe
TMSCl: トリメチルシリルクロリド
NMRスペクトルの多重度に関して、略号は、次のとおりである。
s: 一重線
bs: 幅広い一重線
d: 二重線
t: 三重線
m: 多重線
IRスペクトルの強度は、次のように略記される。
w: 弱い
m: 中程度に強い
s: 強い
vs: 非常に強い
【0069】
総論
中性配位子の合成は、不活性ガスの操作を必要とせず、そのうえさらに、化学品は、予備乾燥や精製を行うことなく使用される。しかしながら、ヒドラジン誘導体には毒性の可能性があるため、いかなる接触も回避しなければならない。
【0070】
配位子のリチウム塩およびカリウム塩の調製さらには本発明に係る金属錯体の合成は、酸素および湿気を排除して行わなければならず、さらに、自然発火性物質を使用するため、乾燥した無水溶媒を使用しなければならない。溶媒は、好適な乾燥剤を用いて乾燥され、窒素雰囲気下で貯蔵される。
【0071】
使用される化学品は、次のとおり市販されている。ブチルアミン(Merck−Schuchardt)、ヘキサン溶液中のブチルリチウム(CheMetall)、ジメチルアミン(Merck−Schuchardt)、N,N−ジメチルヒドラジン(Aldrich)、ジメチルスルフェート(Sigma−Aldrich)、塩化鉄(II)(Aldrich)、三塩化ガリウム(Strem)、四塩化ハフニウム(Aldrich)、ヘキサメチルジシラザン(Fluka)、水素化アルミニウムリチウム(Aldrich)、水素化リチウム(Aldrich)、リチウムジメチルアミド、LiN(CH(Aldrich)、硫酸マグネシウム(無水、Sigma−Aldrich)、N−メチルアセトアミド(Fluka)、水酸化ナトリウム(Sigma−Aldrich)、二塩化パラジウム(ABCR)、ピリジン(Gruessing)、五塩化タンタル(H.C.Starck)、チタンテトラキスジメチルアミド(ChemPur)、トリエチルアミン(Sigma−Aldrich)、トリメチルシリルクロリド(Acros)、塩化バナジウム(III)(Merck)。
【0072】
以下の出発化合物は、合成されるか、または次の指定の文献に記載の説明に従って取得可能である:
リチウムヘキサメチルジシラジド、LiN(Si(CH: U.Wannagat,H.Niederprum,Chem.Ber.1961,94,1540−1547。
カリウムヘキサメチルジシラジド、KN(Si(CH: C.Sreekumar,K.P.Darst,W.C.Still,J.Org.Chem.1980,45,4260−4262。
パラジウムジクロリドビスアセトニトリル、[PdCl(CHCN)]: M.A.Andres,T.C.T.Chang,C.W.F.Cheng,L.V.Kapustay,K.P.Kelly,M.J.Zweifel,Organometallics 1984,3,1479−1484。
タンタルtert−ブチルイミドトリクロロビスピリジン、[Ta(NtBu)Clpy]: J.Sundermeyer,J.Putterlik,M.Foth,J.S.Field,N.Ramesar,Chem.Ber.1994,127,1201−1212。
トリメチルアンモニウムクロリド、MeN−HCl: W.H.Hunter,G.D.Byrkit,Journal of the American Chemical Society 1932,54,1948−1957。
トリメチルガリウム、Ga(CH: V.I.Bregadze,L.M.Golubinskaya,B.I.Kozyrkin,Journal of Cluster Science 2002,13,631−636。
トリメチルインジウム、In(CH: V.I.Bregadze,L.M.Golubinskaya,B.I.Kozyrkin,Journal of Cluster Science 2002,13,631−636。
バナジウムトリクロリドトリステトラヒドロフラン、[VCl(THF)]: A.Gansaeuer,B.Rinker,Polyhedron 2002,7017−7026。
【0073】
NMRスペクトルについては、Bruker製のAVANCE300A型、AVANCE300B型、およびDRX500型の装置を使用し、質量分析試験は、Finnigan製のMAT95型の装置を用いて行い、元素分析は、CHN迅速型のHeraeus製の装置を用いて行った。IRスペクトルは、Bruker装置(ALPHA型装置)を用いて記録した。
【0074】
中性配位子の調製
a)Hbdma: 150mlのトリエチルアミン中に51g(65.4ml、0.85mol、2.33当量)のN,N−ジメチルヒドラジンを導入し、激しく攪拌しながら室温で少しずつ45g(0.36mol、1.00当量)のアセトイミドエチルエステル塩酸塩と混合すると、その後、ガスの発生が観測される。2時間の撹拌後、無色懸濁液を90℃に加熱して、この温度で4時間撹拌する。ブフナー漏斗で濾過した後、揮発性成分を大気圧下で留去する。残存する油を大気圧未満の圧力(88℃/88mbar)下で蒸留する。生成物は、無色液体として得られる。収量:39.4g(0.27mol、75%)。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=2.04(s,6H,NMe)、2.05(s,3H,MeC)、2.46(s,6H,NMe)、6.54(bs,1H,NH)。
HR−EI−MS:C16の計算値:144.1375m/z、実測値:144.1371m/z。
IR:約3250(vw)、2978(w)、2946(w)、2853(w)、2817(w)、2771(w)、1625(vs)、1398(m)、1159(m)、1016(m)、962(m)、908(m)。
【0075】
b)Hmdma: 7.50g(60.69mmol、1.00当量)のアセトイミドエチルエステル塩酸塩を150mlのジクロロメタン中に溶解させ、0℃で4.00g(66.56mmol、1.10当量)のN,N−ジメチルヒドラジンと6.76g(66.56mmol、1.10当量)のトリエチルアミンとの混合物と滴下混合する。撹拌しながら反応混合物を徐々に室温に一晩加温し、次いで、揮発性成分を大気圧下で留去する。残存する帯黄色固体を50mlのジクロロメタンとHO中の4.00gのNaOHの50mlの溶液との二相混合物に導入し、混合物を激しく2時間撹拌する。有機相を分離除去し、水相を10mlのジクロロメタンで3回抽出する。合わせた有機相をMgSOで脱水し、次いで、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去する。残存する固体を熱ヘキサンから再結晶し、高真空下、室温で乾燥させた後、生成物は、繊維状結晶形態で得られる。収量:4.23g(41.88mmol、69%)。融点:73℃(文献値:68〜73℃)。
【0076】
c)Hdama: 8.80g(120.40mmol、1.00当量)のN−メチルアセトアミドを15.18g(120.40mmol、1.00当量)のジメチルスルフェートと混合し、混合物を60℃で2時間加熱する。室温に冷却した後、反応混合物を20mlのジエチルエーテルで3回洗浄し、高真空を適用することによりエーテルの残留物を短時間で除去する。残存する油を50mlのメタノール中に溶解させ、0℃で7.96g(132.44mmol、1.10当量)のN,N−ジメチルヒドラジンと13.38g(132.44mmol、1.10当量)のトリエチルアミンとの混合物と混合する。撹拌しながら反応混合物を徐々に室温に一晩加温し、その後、溶液を50mlのジクロロメタンと50mlの水中の6gのNaOHの50mlの溶液との二相混合物に導入する。相の分離後、水相を25mlのジクロロメタンで4回抽出する。MgSOによる脱水、大気圧下での蒸留、およびそれに続く65℃/50mbarでの蒸留により、無色液体として9.00g(78.26mmol、65%)の生成物を与える。
H NMR(CDCl、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.79(s,3H,MeC)、2.24(s,6H,NMe)、2.76(s,3H,NMe)、5.89(s,1H,NH)。
13C NMR(CDCl、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=17.0(MeC)、29.2(NMe)、46.5(NMe)、159.2(MeC)。
【0077】
d)Hdapa: 10.39g(102.70mmol、1.00当量)のN−iso−プロピルアセトアミドを9.8mL(103.30mmol、1.00当量)のジメチルスルフェートと混合し、混合物を60℃で23時間加熱する。室温に冷却した後、反応混合物を10mlのジエチルエーテルで2回洗浄し、高真空を適用することによりエーテルの残留物を短時間で除去する。残存する油を100mLのiso−プロパノール中に溶解させ、室温で25mLのiso−プロパノール中の9.0mL(116.80mmol、1.14当量)のN,N−ジメチルヒドラジンと16.0mL(115.40mmol、1.13当量)のトリエチルアミンとの溶液と混合する。反応混合物を60時間攪拌し、その後、溶媒を減圧下で除去する。残存する黄色油を50mLのジクロロメタン中に溶解させ、15mLの水中の8.40g(150mmol、1.50当量)の水酸化カリウムの溶液を徐々に添加する。相の分離後、水相を15mLのジクロロメタンで2回抽出する。MgSOによる脱水、大気圧下での蒸留、およびそれに続く52℃/5mbarでの蒸留により、無色液体として7.13g(49.90mmol、48%)の生成物を与える。
H NMR(CDCl、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.14(d,HH=6.4Hz,6H,CHMe)、1.88(s,3H,MeC)、2.31(s,6H,NMe)、3.57(sept,HH=6.4Hz,1H,CHMe)、5.91(bs,1H,NH)。
13C NMR(CDCl、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=17.4(MeC)、24.4(CHMe)、43.9(NCHMe)、46.5(NMe)、157.8 (CMe)。
【0078】
本発明に係る金属錯体の調製
以下の実施例では、実施例1〜16は、配位子bdmaおよびH−bdmaを有する錯体を記載し、実施例17および18は、配位子mdmaを有する錯体を記載し、そして実施例19は、配位子damaを有する錯体を記載する。実施例20は、配位子bdmfを有する錯体を報告し、そして実施例21は、dapa配位子を有するGa錯体を記載する。
【0079】
実施例1
[Li−bdma]の調製
5.00g(29.88mmol、1.00当量)のLiHMDSを40mlのヘキサン中に溶解させる。それに室温で5.17g(35.85mmol、1.20当量)のHbdmaを添加すると、溶液がわずかに加温され、相分離(液/液)が観測される。反応混合物を一晩撹拌すると、その間に無色固体が生成する。上澄み溶液をデカントし、固体を20mlのヘキサンで2回洗浄する。高真空下での乾燥により、4.22g(28.09mmol、94%)の無色固体を与える。収量:2.57g(17.1mmol、94%)。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=2.24(s,3H,CCH)、2.47(s,12H,N(CH)、2.53(s,12H,N(CH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=17.3(MeC)、48.2(NMe)、50.3(NMe)、170.1(MeC)。
元素分析:C15LiN
計算値:C:47.99%、H:10.07%、N:37.31%。
実測値:C:47.46%、H:9.68%、N:36.35%。
IR:2969(w)、2934(w)、2840(w)、2803(w)、2758(w)、1521(vs)、1430(m)、1395(m)、1171(m)、1058(m)、1008(m)、954(s)、658(s)、561(s)、423(m)。
【0080】
実施例2
[K−bdma]の調製
5.00g(25.06mmol、1.00当量)のKHMDSを50mlのトルエン中に溶解させ、溶液を室温で4.01g(27.80mmol、1.11当量)のHbdmaと滴下混合する。添加時、無色固体が沈殿し始める。室温で一晩撹拌した後、それをG4フリットで濾別する。ヘキサンによる数回の洗浄および高真空下での乾燥により、4.16g(22.80mmol、91%)の無色固体を与える。
元素分析:C15KN
計算値:C:39.53%、H:8.29%、N:30.73%。
実測値:C:39.25%、H:8.25%、N:30.22%。
IR:2962(w)、2924(w)、2829(w)、2792(m)、2748(m)、1511(vs)、1426(m)、1371(m)、1159(m)、947(s)、631(m)、455(m)。
【0081】
実施例3
[Ga(bdma)H]の調製
1.95g(245.28mmol、13.10当量)のLiHを30mlのEtO中に懸濁させ、灰色懸濁液を−78℃に冷却する。この懸濁液を15mlのEtO中の2.70g(15.33mmol、0.82当量)のGaClの−78℃に冷却された溶液と滴下混合し、得られた懸濁液を撹拌しながら氷浴中で徐々に室温に一晩加温する。続いて、懸濁液をG4フリット(Celiteなし)に通してフラスコ中に濾過し、これをあらかじめ−78℃に冷却し、そして10mlのEtO中の0.83g(4.71mmol、0.25当量)のGaClの−78℃に冷却された溶液と−78℃で滴下混合する。懸濁液を約−25℃に徐々に加温し、次いで、G4フリット(Celiteなし)に通してあらかじめ−78℃に冷却された滴下漏斗中に濾過し、そして透明溶液を20mlのEtO中の2.70g(18.70mmol、1.00当量)のHbdmaの−78℃に冷却された溶液に−78℃で滴下する。生成する懸濁液を撹拌しながら徐々に室温に一晩加温すると、この間、形成された無色固体がガス(H)の発生を伴って徐々に溶解する。得られた無色溶液をCeliteで濾過し、溶媒を高真空下、0℃で除去する。残存する無色液体を0.5mbarおよび50℃で蒸留して、低粘正液体として2.10g(9.81mmol、52%)の生成物を与える。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=2.00(s,3H,MeC)、2.30(s,12H,NMe)、5.30(bs,2H,GaH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=15.6(MeC)、49.7(NMeMe)、51.0(NMeMe)、167.2(MeC)。
HR−EI−MS:C17N4の計算値:214.0709m/z、実測値:214.0715m/z。
IR:2978(m)、2944(m)、2850(m)、2811(m)、2767(m)、1866(s)、1550(vs)、1405(vs)、957(s)、744(vs)、651(vs)。
【0082】
炭素の割合が低いため、この前駆体をCVDプロセスでGaN層の堆積に使用した場合、C不純物(たとえば炭化物の形態の)の混入を最小限に抑えることが可能である。
【0083】
実施例4
[Al(bdma)Me]の調製
トルエン中の1mlのAlMe溶液(1.43mol/l、1.43mmol、1.00当量)を30mlのヘキサン中に導入し、溶液を−78℃に冷却し、そして222mg(1.54mmol、1.08当量)のHbdmaと徐々に混合する。添加後、冷却浴を除去して、反応混合物を室温で12時間撹拌する。溶媒の除去および高真空下での残存する固体の昇華により、246mg(1.23mmol、86%)の無色固体を与える。融点:41℃。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)−0.41(s,6H,AlMe)、2.01(s,3H,MeC)、2.17(s,6H,NMe2)、2.36(s,6H,NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=−8.7(AlMe)、15.9(MeC)、48.1(NMe)、49.5(NMe)、168.7(MeC)。
HR−EI−MS:C21Alの計算値:200.1582m/z、実測値:200.1587のm/z。
元素分析:C21AlN
計算値:C:47.98%、H:10.57%、N:27.98%。
実測値:C:47.69%、H:10.57%、N:27.68%。
IR:2980(w)、2944(w)、2885(w)、2850(w)、2814(w)、2772(w)、1549(m)、1403(m)、1190(m)、952(m)、663(s)、630(m)、592(m)、557(m)。
【0084】
実施例5
[Ga(bdma)(NMe]の調製
20mlのEtO中の1.15g(22.55mmol、3.00当量)のLiNMeの懸濁液を10mlのEtO中の1.32g(7.50mmol、1.00当量)のGaClの溶液と−78℃で混合する。添加の終了後、冷却浴を除去して、無色懸濁液を室温で30分間攪拌する。次いで、10mlのEtO中の1.08g(7.50mmol、1.00当量)のHbdmaの溶液を室温で添加する。懸濁液を室温で一晩攪拌し、次いで、遠心分離する。高真空下で透明遠心分離生成物から溶媒を除去し、1mbar/110℃で再濃縮する。これにより、1.22g(4.05mmol、GaCl基準で54%)の低融点の無色固体を与える。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=2.07(s,3H,MeC)、2.27(s,6H,NNMe)、2.35(s,6H,NNMe)、2.81(s,12H,Ga(NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=17.0(MeC)、43.2(Ga(NMe)、48.5(NNMe)、48.9(NNMe)、168.3(MeC)。
HR−EI−MS:C1027GaNの計算値:300.1553m/z、実測値:300.1545m/z。
IR:2944(w)、2853(w)、2810(m)、2762(s)、1552(s)、1399(s)、1178(s)、965(vs)、952(vs)、631(s)、545(s)。
【0085】
実施例6
[Ga(bdma)Cl]の調製
205mg(1.16mmol、1.00当量)のGaClをシュレンクフラスコ中に秤取し、次いで、約10mlのEtOを−196℃で凝縮導入する。混合物を室温に加温した後、EtO中の174mg(1.16mmol、1.00当量)のLibdmaの懸濁液を徐々に添加する。続いて、無色懸濁液を一晩撹拌し、溶媒を高真空下で除去し、そして残存する固体から昇華により生成物を取得する。これにより309mg(1.09mmol、94%)の無色固体を生じる。
【0086】
実施例7
[In(bdma)Me]の調製
200mg(1.25mmol、1.00当量)のInMeを室温で10mlのトルエン中に溶解させ、そして溶液を180mg(1.25mmol、1.00当量)のHbdmaと室温で混合する。初期のガスの発生および室温での溶液の一晩の撹拌の後、溶媒を高真空下で除去する。残存する固体を高真空下で昇華させて、292mg(1.01mmol、81%)の無色固体を生成する。融点:47℃。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=−0.02(s,6H,InMe)、2.14(s,3H,MeC)、2.20(bs,12H、NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=−6.4(InMe)、17.4(MeC)、49.4(NMe)、50.8(NMe)、167.8(MeC)。
HR−EI−MS:C21Inの計算値:288.0805m/z、実測値:288.0811m/z。
元素分析:C21InN
計算値:C:33.35%、H:7.35%、N:19.45%。
実測値:C:33.20%、H:7.24%、N:19.47%。
IR:2979(w)、2939(m)、2880(w)、2841(w)、2802(w)、2755(m)、1537(s)、1392(s)、949(s)、507 (vs)。
【0087】
この錯体は、きわめて揮発性であり、0.1mbarおよび80℃で分解せずに昇華する。図1は、この化合物のX線構造解析を示している。
【0088】
実施例8
[Ti(bdma)(NMe]の調製
221mg(0.98mmol、1.00当量)のTi(NMeを5mlのトルエン中に溶解させ、この溶液を284mg(1.97mmol、2.00当量)のHbdmaと0℃で混合する。続いて、透明黄色溶液を60℃で一晩撹拌し、そして室温に冷却して高真空下で溶媒を除去した後、294mg(0.91mmol、93%)の鮮黄色油を得る。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=2.25(s,3H,MeC)、2.74(bs,12H,N−NMe)、3.12(s,18H,Ti−NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=15.0(MeC)、46.0(Ti−NMe)、47.3(bs,N−NMe)。
H NMR(CCD、500,1MHz、232K):δ(ppm単位)=2.38(s,3H,MeC)、2.57(s,6H,N−NMe)、2.97(s,6H,N−NMe)、3.12(s,18H,Ti−NMe)。
13C NMR(CCD、125.8MHz、232K):δ(ppm単位)=15.1(MeC)、45.4(N−NMe)、46.0(Ti−NMe)、48.7(N−NMe)、163.1(MeC)。
HR−EI−MS:C1233Tiの計算値:323.2278m/z、実測値:323.2272m/z。
IR:2965(w)、2939(w)、2839(m)、2807(m)、2761(m)、1580(m)、1359(m)、1316(s)、1242(m)、1052(m)、944(vs)、583(s)、559(s)、448(m)。
【0089】
実施例9
[Hf(bdma)Cl]の調製
261mg(0.81mmol、1.00当量)のHfClおよび245mg(1.63mmol、2.00当量)のLibdmaを一緒にシュレンクフラスコ中に導入し、30mlのTHFと室温で混合する。得られた懸濁液を沸騰温度で4時間加熱し、そして室温に冷却した後、溶媒を高真空下で除去する。残存する固体を30mlのジクロロメタンと混合して一晩撹拌する。次いで、無色懸濁液を30mlのヘキサンと混合し、そしてG4フリットに通して濾過する。高真空下での固体の乾燥により、301mg(0.56mmol、69%)の無色固体を与える。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.67(s,6H,MeC)、2.12(s,6H,NMeMe))、2.51(s,6H,NMeMe)、2.87(s,6H,NMeMe)、3.19(s,6H,NMeMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=16.0(MeC)、44.4(NMeMe)、45.7(NMeMe)、51.7(NMeMe)、52.0(NMeMe)、163.9(MeC)。
HR−EI−MS:C1230l2HfNの計算値:536.1436m/z、実測値:536.1442m/z。
IR:2957(w)、2912(m)、2867(w)、1574(s)、1380(s)、1342(vs)、939(vs)、854(s)、823(s)、618(s)、504(s)、441(s)、408(s)。
【0090】
実施例10
[Ta(bdma)Cl]の調製
2.27g(3.17mmol、1.00当量)の[TaClを50mlのトルエン中に懸濁させ、加熱しながら溶解させ、そして溶液を撹拌しながら徐々に室温に冷却する。個別のシュレンクフラスコ中で、1.05g(7.01mmol、1.10当量)のLibdmaを5mlのトルエン中にスラリー化し、2ml(1.70g、15.65mmol、2.50当量)のTMSClと混合する。得られた懸濁液を沸騰加熱温度で短時間加熱し(約5分間)、冷却し、そしてTaCl懸濁液に滴下し、これを0℃で冷却し、生成するブラッドオレンジ色懸濁液を70℃に加熱する。12時間後、懸濁液をCeliteに通して濾過すると、生成物は結晶化し始める。オレンジ色溶液をその体積の半分に濃縮して−23℃で冷却した後、1.84g(3.95mmol、62%)の黄色固体を得る。
H NMR(CDCl、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=2.33(s,3H,MeC)、3.25(s,6H,NMe)、3.50(s,6H,NMe)。
13C NMR(CDCl、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=13.6(MeC)、48.9(NMe)、54.2(NMe)、160.1(MeC)。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.25(s,3H,MeC)、2.62(s,6H,NMe)、3.02(s,6H,NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=12.7(MeC)、47.9(NMe)、53.9(NMe)、160.1(MeC)。
HR−EI−MS:C15ClTaの計算値:463.9531m/z、実測値:463.9523m/z。
元素分析:C15ClTa:
計算値:C:15.47%、H:3.24%、N:12.02%。
実測値:C:15.38%、H:3.16%、N:12.38%。
IR:2936(w)、1607(m)、1453(m)、1379(vs)、1341(vs)、953(s)、851(s)、606(s)、520(m)、444(m)。
【0091】
実施例11
[Si(bdma)Cl]の調製
752mg(4.43mmol、1.00当量)のSiClを20mlのジクロロメタン中に導入し、460mg(4.54mmol、1.02当量)のトリエチルアミンと650mg(4.51mmol、1.02当量)のHbdmaとの混合物と室温で混合する。透明溶液を室温で3時間攪拌し、次いで、20mlのヘキサンと混合する。得られた懸濁液をCeliteに通して濾過し、続いて、透明溶液の溶媒を高真空下で除去する。残存する固体を20mlの熱ヘキサン(約40℃)中に溶解させ、再びCeliteに通して濾過する。高真空下での溶媒の除去により、350mg(1.27mmol、28%)の無色固体を生成する。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.58(s,3H,MeC)、2.54(s,12H,NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=8.9(MeC)、46.4(NMe)、175.6(MeC)。
HR−EI−MS:C15ClSiの計算値:276.0132m/z、実測値:276.0128m/z。
元素分析:C15ClSi:
計算値:C:25.95%、H:5.45%、N:20.18%。
実測値:C:26.02%、H:5.62%、N:20.87%。
IR:2989(w)、2957(w)、2869(w)、2835(w)、2789(w)、1607(m)、1442(m)、1388(m)、1023(m)、965(m)、928(m)、878(m)、845(m)、609(s)、568(s)、536(vs)、446(s)、419 (vs)。
【0092】
この化合物は、0.1mbarおよび80℃で分解せずに昇華する無色のきわめて揮発性の固体である。それは、CVDプロセスを利用して窒化ケイ素層を生成するための前駆体として使用可能である。
【0093】
実施例12
[Ta(NBu)Cl(H−bdma)]の調製
873mg(1.67mmol、1.00当量)の[Ta(NBu)Clpy]を50mlのトルエン中に懸濁させる。黄色懸濁液を483mg(3.35mmol、2.00当量)のHbdmaと室温で混合する。短時間後、淡黄色透明溶液が形成される。一晩撹拌した後、溶媒を高真空下で除去する。淡黄色残渣を25mlのジクロロメタン中に溶解させ、シリンジフィルターを用いて無色溶液を清澄化させる。約10mlの体積に濃縮した後、溶液を撹拌しながら50mlのペンタンと混合し、そして沈殿する無色固体を遠心分離により取り出して高真空下で乾燥させる。これにより、713mg(1.42mmol、85%)の無色微結晶性固体が得られる。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.45(s,3H,MeC)、1.62(s,9H,NBu)、2.67(s,6H,NMe)、2.96(s,6H,NMe)、5.84(s,1H,NH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位で)=15.6(MeC)、32.4(NCMe)、46.8(NMe)、52.6(NMe)、66.7(NCMe)、167.7(MeC)。
HR−EI−MS:C1024ClTaの計算値:465.0889m/z、実測値:465.0885m/z。
元素分析:C1026l3Ta:
計算値:C:23.89%、H:5.01%、N:13.93%。
実測値:C:23.63%、H:5.36%、N:13.76%。
IR:3241(m)、3093(w)、2973(w)、2920(w)、2885(w)、1575(s)、1442(m)、1263(vs)、874(s)、552(m)、498(m)。
【0094】
実施例13
[V(bdma)]の調製
359mg(0.96mmol、1.00当量)の[VCl(THF)]を5mlのTHF中に懸濁させ、菫色懸濁液を5mlのTHF中の525mg(2.88mmol、3.00当量)のKbdmaの溶液と滴下混合する。室温で12時間撹拌した後、沈殿したKClを遠心分離により除去し、上澄み菫色溶液をデカントして分離し、そして溶媒を高真空下で除去する。残存する固体を40mlのヘキサンと混合し、そして得られた懸濁液をCeliteに通して濾過する。溶媒体積を約10mlに濃縮して−23℃で一晩貯蔵することにより、354mg(2.22mmol、77%)の濃菫色結晶性固体を与える。
HR−EI−MS:C184512Vの計算値:480.3330m/z、実測値:480.3336 m/z
元素分析:C184512V:
計算値:C:44.99%、H:9.44%、N:34.98%。
実測値:C:44.56%、H:9.32%、N:34.57%。
IR:2973(w)、2940(m)、2852(m)、2816(m)、2777(w)、1576(m)、1368(vs)、1314(vs)、1016(m)、942(s)、635(m)、534(m)、454(w)。
【0095】
実施例14
[Ni(bdma)]の調製
330mg(1.50mmol、1.00当量)の[NiCl(DME)]を20mlのトルエン中に懸濁させて、50mlのトルエン中の451mg(3.00mmol、2.00当量)のLibdmaの懸濁液と混合する。徐々に褐色着色を呈する懸濁液を60℃で4時間加熱する。室温に冷却した後、溶媒を高真空下で除去し、残存する固体を80mlのヘキサンと混合し、そして生成する懸濁液を室温で30分間攪拌する。次いで、赤褐色懸濁液をCeliteに通して濾過し、そして濾液が完全に無色になるまで、濾過ケークを少量のヘキサンで抽出する。高真空下での溶媒の除去および残渣の昇華により、緑色固体として428mg(1.24mmol、83%)の生成物を生成する。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=0.08(bs,10H)、4.48(bs,20H)。
H NMR(CCD、500.1MHz、223K):δ(ppm単位)=1.87(s,6H,MeC)、2.41(s,12H,NMe)、 2.70(s,12H,NMe)。
13C NMR(CCD、125.7MHz、223K):δ(ppm単位)=15.7(MeC)、46.2(NMe)、49.3(NMe)、170.0(MeC)。
HR−EI−MS:C1230Niの計算値:344.1947m/z、実測値:344,1964m/z。
元素分析:C1230Ni:
計算値:C:41.76%、H:8.76%、N:32.47%。
実測値:C:41.24%、H:8.33%、N:32.10%。
IR:3039(w)、2980(w)、2904(m)、2848(m)、2772(m)、1566(vs)、1445(m)、1380(vs)、1340(vs)、1220(m)、1173(m)、1094(m)、950(vs)、904(s)、866(m)、838(m)、616(s)、570(s)、535(m)、455(m)、431(s)。
【0096】
実施例15
[Pd(bdma)]の調製
90mg(0.35mmol、1.00eq)の[PdCl(MeCN)]を10mlのTHF中に溶解させて、溶液を0℃に冷却する。この温度で、10mlのTHF中の133mg(0.73mmol、2.00eq)のKbdmaの溶液を滴下する。室温に加温した反応混合物を18時間攪拌し、次いで、遠心分離する。透明溶液からTHFを減圧下で除去して、黄色粉末として生成物を与える。103mg(0.26mmol、76%)の[Pd(bdma)]が回収される。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.98(s,6H,CCH)、2.54(s,12H,NNCH)、2.82(s,12H,PdNCH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=15.0(CCH)、45.8(PdNCH)、51.9(NNCH)、169.9(NCCH)。
HR−EI−MS:C1230Pdの計算値:392.1628m/z、実測値:392.1621m/z。
元素分析:C1230Pd:
計算値:C:36.68%、H:7.69%、N:28.52%。
実測値:C:37.04%、H:7.58%、N:23.25%。
【0097】
実施例16
[Al(bdma)H(μ−H)]の調製
107mg(2.82mmol、0.75当量)のLiAlHを5mlのEtO中に溶解させ、この溶液を5mlのEtO中の126mg(0.94mmol、0.25当量)のAlClの−78℃に冷却された溶液に添加する。冷却浴が−40℃の温度に達して顕著な曇りが観測されるまで、溶液を撹拌する。続いて、懸濁液を再び−78℃に冷却して、10mlのEtO中の543mg(3.76mmol、1.00当量)のHbdmaと混合する。冷却浴の除去後、混合物を室温で一晩攪拌する。次いで、無色懸濁液をCeliteに通して濾過し、濾過ケークを5mlのEtOで2回抽出し、溶媒を高真空下で除去し、そして残存する無色固体を昇華させる。これにより、微結晶性無色固体として595mg(3.46mmol、92%)の生成物が得られる。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.99(s,3H,MeC)、2.26(s,6H,NMe)、2.40(s,6H,NMe)、4.54(s,2H,AlH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=15.7(MeC)、49.2(NMe)、49.7(NMe)、169.2(MeC)。
HR−EI−MS:C17AlNの計算値:172.1269m/z、実測値:172.1270m/z。
元素分析:C17AlN
計算値:C:41.85%、H:9.95%、N:32.53%。
実測値:C:41.53%、H:9.56%、N:32.10%。
IR:2975(w)、2934(w)、2855(w)、2818(w)、2777(w)、1831(s)、1565(s)、1390(vs)、1343(s)、950(s)、840(s)、679(s)、636(s)、553(s)、524(s)。
【0098】
実施例17
[Al(mdma)H]の調製
43mg(1.13mmol、1.00当量)のLiAlHを10mlのEtO中に溶解させて、108mg(1.13mmol、1.00当量)のMeN・HClと少しずつ−78℃で混合する。無色懸濁液を撹拌しながら−20℃に徐々に加温し、そしてガス(H)の発生が終了するまで、この温度で撹拌する。次いで、無色懸濁液を再び−78℃に冷却して、10mlのEtO中の229mg(2.26mmol、2.00当量)のHmdmaの溶液を徐々に添加する。室温への緩徐な加温を伴いながら、得られた懸濁液を一晩撹拌する。次いで、無色懸濁液から高真空下で溶媒を除去し、残存する固体を20mlのベンゼンと共に室温で2時間撹拌し、続いて、反応混合物をCeliteに通して濾過する。溶媒体積を約7mlに濃縮し、14mlのヘキサンを上側に注ぎ、そして溶媒混合物を除去した後、高真空下での残存する固体の乾燥により、90mg(0.39mmol、34%)の結晶性固体を生成する。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.70(s,6H,MeC)、2.22(s,6H,NMeMe)、2.51(s,6H,NMeMe)、3.36(bs,2H,NH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)= 20.4(MeC)、47.2(NMeMe)、50.0(NMeMe)および166.1(MeC)。
元素分析:C21AlN
計算値:C:42.09%、H:9.27%、N:36.82%。
実測値:C:41.79%、H:9.44%、N:36.79%。
IR:3338(m)、3007(w)、2987(w)、2973(m)、2922(m)、1773(m)、1584(s)、1424(vs)、1408(vs)、977(s)、620(m)、584(vs)、428(vs)。
【0099】
実施例18
[Ga(mdma)H]の調製
336mg(1.91mmol、1.25当量)のGaClを10mlのEtO中に溶解させ、この溶液を236mg(29.68mmol、19.43当量)のLiHの懸濁液に−78℃で滴下混合する。懸濁液を撹拌しながら室温に徐々に一晩加温し、次いで、G4フリット(Celiteなし)に通してあらかじめ−78℃に冷却されたフラスコ中に濾過し、そして残存する濾過ケークをあらかじめ−78℃に冷却された5mlのEtOで2回抽出する。透明LiGaH溶液を144mg(1.51mmol、1.00当量)のMeN・HClと少しずつ−78℃で混合し、そしてガス(H)の発生が終了するまで、緩徐な加温を行いながら得られた懸濁液を撹拌する。続いて、それを再び−78℃に冷却し、15mlのEtO中の306mg(3.02mmol、2.00当量)のHmdmaの溶液を徐々に添加する。添加の終了後、冷却浴を除去して、無色懸濁液を室温で一晩攪拌する。続いて、無色懸濁液を高真空下で乾燥させて、残存する固体を25mlのベンゼンと混合する。懸濁液をCeliteに通して濾過し、濾過ケークを5mlのベンゼンで3回抽出し、そして溶媒を高真空下で除去する。残存する固体を5mlのヘキサンでスラリー化し、そしてデカンテーションおよび残存する固体の乾燥を行った後、170mg(0.63mmol、42%)の微細無色固体を得る。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=1.75(s,6H,MeC)、2.30(s,12H,NMe)、3.58(bs,2H,NH)、4.97(bs,1H,GaH)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=20.7(MeC)、48.3(NMe)、164.7(MeC)。
HR−EI−MS:C21GaNの計算値:270.1084m/z、実測値:270.1083m/z。
IR:3328(m)、2961(m)、2911(m)、2879(m)、1867(s)、1580(vs)、1413(vs)、985(s)、587(s)、540(s)、503(s)。
【0100】
実施例19
[Ga(dama)Me]の調製
1.34g(11.65mmol、1.00当量)のGaMeを77Kでシュレンクフラスコ中に凝縮導入して、10mlのヘキサンと混合する。−78℃に加温した後、1.33g(11.56mmol、0.99当量)のHdamaを添加する。開始時に生成する無色固体は、室温への加温過程でガスの発生を伴って徐々に溶解する。溶媒を大気圧下で留去して、残存する油性液体を減圧下(15mbar、73℃)で蒸留する。これにより、1.40g(6.54mmol、56%)の無色液体が得られる。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=−0.21(s,6H,GaMe)、1.68(s,3H,MeC)、2.21(s,6H,NMe)、2.57(s,3H,NMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=−8.9(GaMe)、15.5(MeC)、32.0(NMe)、49.1(NMe)、166.1(MeC)。
HR−EI−MS:C18GaNの計算値:213.0757m/z、実測値:213.0766m/z。
IR:3003(w)、2927(m)、2888(m)、2810(w)、1552(vs)、1422(s)、1398(s)、1192(m)、942(m)、569(s)、536(s)。
【0101】
実施例20
[Pd(bdmf)]の調製
270mg(1.35mmol、4.00当量)のKHMDSを5mLのトルエン中に溶解させ、溶液を118mg(0.91mmol、2.7当量)のHbdmfと室温で滴下混合する。反応混合物を1時間撹拌し、無色沈殿物Kbdmfを分離して3mLのヘキサンで洗浄し、そして減圧下で乾燥させる。130mgのKbdmf(0.77mmol、2.3当量)を3mLのTHF中に溶解させ、この溶液を、3mLのTHF中に溶解させた88mgの[PdCl(MeCN)](0.34mmol、1.00当量)に徐々に添加し、そして25℃で12時間撹拌する。KClの帯褐色沈殿物を分離し、そして揮発性物質を橙色溶液から除去する。黄橙色固体をヘキサンで洗浄し、トルエンから再結晶させて、51mg(0.31mmol、41%)の単結晶性生成物を与える。これを単結晶XRD解析により分析する。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=3.52(s,2H CH)、2.65(s,12H,PdNMe)、2.47(m,12H,NNMe)。
13C NMR(C6D6、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=157.2(CH)、52.7(PdNMe)、47.3(NNMe)。
HR−MS:C1027Pd、[M+H]の計算値:365.1389m/z、実測値:365.1389m/z。
IR:2962(w)、1569(w)、1447(m)、1259(m)、1078(m)、1012(s)、950(w)、865(w)、792(s)、702(w)、596(w)、569(w)、533(w)、470(m)、435(m)。
【0102】
実施例21
[Ga(dapa)Me]の調製
20mLのジエチルエーテル中の350mg(1.99mmol、1.00当量)のGaClの溶液を、4.0mLのMeLi溶液(溶媒:ジエチルエーテル、c=1.555mol/L、6.22mmol、3.10当量)と混合する。添加の終了後、懸濁液を室温で2時間撹拌する。0℃に冷却した後、290mg(2.02mmol、1.02当量)のHdapaを滴下する。添加の終了後、冷却浴を除去して、無色懸濁液を室温で3日間(72時間)撹拌する。懸濁液をCelite(商標)床で濾過し、そして透明溶液を減圧下でストリッピングする。残存する無色固体の昇華後、無色結晶として368mg(1.52mmol、76%)の生成物が得られる。
H NMR(C、300.1MHz、300K):δ(ppm単位)=−0.10(s,6H,GaMe)、1.03(d,HH=6.4Hz,6H,CHMe)、1.77(s,3H,CMe)、2.21(s,6H,NMe)、3.38(sept,1H,HH=6.4Hz,CHMe)。
13C NMR(C、75.5MHz、300K):δ(ppm単位)=−6.0(GaMe)、16.1(CMe)、25.9(CHMe)、47.1(CHMe)、48.9(NMe)、164.0(CMe)。
HR−EI−MS:C22GaNの計算値:241.1070m/z、実測値:241.1059m/z。
IR:3007(w)、2961(m)、2927(m)、1542(vs)、1471(m)、1449(vs)、1424(s)、1400(m)、1193(vs)、1004(m)、560(vs)、538(vs)。
元素分析:C22GaN
計算値:C:44.67%、H:9.16%、N:17.36%。
実測値:C:43.82%、H:9.70%、N:17.68%。
【0103】
実施例22
CVD実験の実施
キャリヤーガスとして水素、アンモニア、または窒素を用いて、市販のAixtron AIX−200反応器により、再現性のある異なる量の金属および窒素を有する層を堆積させる。操作時、反応器内の圧力を50〜150mbar、好ましくは80〜120mbar、より好ましくは100mbarの一定レベルに設定する。ガス流量は、400〜700sccm、好ましくは500〜600sccmである。bdma−アルミニウムヒドリドおよびbdma−ガリウムヒドリドの場合、本発明に係る揮発性金属錯体を含有するステンレス鋼バブラー内の温度を30℃で一定に維持する。貯蔵容器の温度をbdma−金属アルキルの場合には50〜70℃に、bdma−金属アミドおよびbdma−金属ハロゲン化物の場合には70〜100℃に調整する。SiO表面の自然膜で被覆された(100)配向pドープシリコンウエハ上にまたはサファイアの(0001)表面上に、200〜800℃、好ましくは400〜600℃の基材温度で、堆積を行う。0.4〜40.0nm/minの一定した調整可能な成長速度で、5nmから15μmまでの厚さを有するアモルファス多結晶層またはエピタキシャル層を得ることが可能である。一例は、前駆体(bdma)GaHからサファイア上への窒化ガリウム(GaN)の高品質層の堆積である。
【0104】
層の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて検出され、元素組成は、エネルギー分散型X線解析(EDX)を利用して解析され、品質は、フォトルミネセンス分光法(PL)を利用して評価され、そして結晶相は、XRD法を用いて解析される。
図1