(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964890
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】超臨界流体を使用するビチューメンの品質向上
(51)【国際特許分類】
C10G 1/04 20060101AFI20160721BHJP
C10G 1/06 20060101ALI20160721BHJP
C10G 1/00 20060101ALI20160721BHJP
C10G 45/44 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
C10G1/04 B
C10G1/06 B
C10G1/00 A
C10G45/44
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-138263(P2014-138263)
(22)【出願日】2014年7月4日
(62)【分割の表示】特願2010-512320(P2010-512320)の分割
【原出願日】2008年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-205850(P2014-205850A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年7月30日
(31)【優先権主張番号】60/943,173
(32)【優先日】2007年6月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509340012
【氏名又は名称】エイチエスエム システムズ,インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509161037
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ニューブランズウィック
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(72)【発明者】
【氏名】マクグラディ,ジェラルド,シーン
(72)【発明者】
【氏名】ブラウ,サラ,アン
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,クリストファー
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−043344(JP,A)
【文献】
特開2005−225859(JP,A)
【文献】
特表2006−511682(JP,A)
【文献】
米国特許第4397736(US,A)
【文献】
米国特許第4390411(US,A)
【文献】
米国特許第4363717(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出および品質向上をすべき油、タールおよびビチューメン物質のうちの少なくとも1つを含む炭化水素を含有する基材を供給するステップと、
水素ガス、Mn2(CO)8(PBu3)2、RuH2(H2)(PCy3)2、Pd、Pt、Ru、Ni、Rh、Nb、Ta、α−Al2O3、HfO2、ZrO2、NiMo、FeおよびIrからなる群より選ばれる触媒、ならびに基材から油、タールおよびビチューメン物質のうちの前記少なくとも1つを抽出するのに役立ち、水素ガスを溶解させるのに役立つ超臨界または近臨界溶媒として二酸化炭素を含む反応媒体を供給するステップと、
基材、超臨界または近臨界溶媒、水素ガスおよび触媒を混合するステップと、
反応を起こすのに十分な温度で、前記反応を所望の程度まで進行させることが可能と計算された時間の長さだけ混合物を維持するステップとを含み、
油、タールおよびビチューメン物質のうちの前記少なくとも1つの水素化反応と超臨界または近臨界溶媒による抽出とを単一操作で行うことを特徴とする、
炭化水素の抽出および品質向上をするための方法。
【請求項2】
改質剤を供給するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
改質剤が、トルエンまたはメタノールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
超音波処理のステップをさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
光化学的活性化のステップをさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
炭化水素が、ビチューメンおよび多環式芳香族炭化水素(PAH)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
基材が、オイルサンド、オイルシェール鉱床およびタールサンドのうちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
PAHが、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ベンゾチオフェンおよびインドールのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
PAHが、窒素、硫黄または遷移金属を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
共溶媒を供給するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
共溶媒が、n−ブタンおよびメタノールのうちの選択された1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
反応を起こすのに十分な温度で混合物を維持するステップが、50℃〜400℃の範囲の温度に混合物を維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
反応を起こすのに十分な温度で混合物を維持するステップが、50℃〜150℃の範囲の温度に混合物を維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
反応を起こすのに十分な温度で混合物を維持するステップが、250℃〜350℃の範囲の温度に混合物を維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
水素ガス、触媒、および超臨界もしくは近臨界溶媒を含む反応媒体を供給するステップが、50バール〜1000バールの範囲の圧力で前記超臨界もしくは近臨界溶媒を供給することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
水素ガス、触媒および超臨界もしくは近臨界溶媒を含む反応媒体を供給するステップが、100バール〜500バールの範囲の圧力で前記超臨界もしくは近臨界溶媒を供給することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
水素ガス、触媒および超臨界もしくは近臨界溶媒を含む反応媒体を供給するステップが、150バール〜400バールの範囲の圧力で前記超臨界もしくは近臨界溶媒を供給することを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その出願の全体が参照により本明細書に組み込まれる2007年6月11日出願で同時係属の米国特許仮出願第60/943173号の優先権および利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、化石燃料の抽出および品質向上に関し、詳細には、超臨界流体を使用するビチューメンの品質向上に関する。
【背景技術】
【0003】
基材
アルバータのアサバスカ(Athabasca)タールサンドは、少なくとも1.7兆バーレルの油を含むと推定されており、したがって世界の全石油資源の約1/3を占めることができる。既知のビチューメン埋蔵量の85%超が、この鉱床に存在し、その濃度が高いので、ビチューメンを経済的に回収することが可能である。タールサンドのその他の大きな鉱床は、ベネズエラおよびUSAに存在し、オイルシェールの類似の鉱床は、世界中の多様な場所で見出されている。これらの鉱床は、粘土または頁岩、砂、水およびビチューメンの混合物からなる。ビチューメンは、主として、多環式芳香族炭化水素(PAH)からなる粘性のあるタール状物質である。タールサンド中の有用なビチューメンの抽出は、重要な操作であり、多数の方法が、開発または提案されている。粘度の低い方の鉱床は、砂からポンプで取り出すことができるが、粘性の高い方の物質は、一般に、循環式蒸気刺激法(CSS)または蒸気補助式重力排液法(SAGD)として知られている方法を使用して、過熱蒸気を用いて抽出される。より近年では、この後者の技術が、蒸気抽出(VAPEX)法において、蒸気の代わりに炭化水素溶媒を使用するように適合化されている。1970年代以来、ビチューメン鉱床に対しては、超臨界流体(SCF)が、潜在的に魅力的な抽出剤であると考えられている。超臨界流体は、密度が小さく、粘度が低いので、タールサンドおよびオイルシェールに浸透させ、有機鉱床を抽出する際に、特に効果的であり、それらを産出するのに必要である温度および圧力が中程度であることに伴うエネルギーコストは、過熱蒸気を使用する方法と比較して非常に好ましい。例えば、ビチューメンは、超臨界二酸化炭素(scCO
2)を使用してクイーンズランドのスチュアート(Stuart)オイルシェールから、および超臨界プロパン(scプロパン)を使用してユタオイルサンドから首尾よく回収されている。非常に最近では、レイセオン(Raytheon)は、RF加熱と組み合わせてscCO
2を使用することによってコロラド、ユタおよびワイオミングの連邦の土地の地下にあるオイルシェール鉱床を抽出したことを発表した。
【0004】
ビチューメンは、通常、ポルフィリン残渣に随伴するバナジウムおよびニッケルなどの遷移金属の高ppm量と一緒に、約83重量%の炭素、10重量%の水素および5重量%の硫黄を含む。こうした低級な物質は、通常、大抵の用途で使用できるようになる前に、合成原油に転換することが必要であり、または精製して直接、石油製品にすることが必要である。通常、これは、接触分解によって実施され、その接触分解によって物質中に水素が再分配される。接触分解によって、比較的高い水素含量を有する各種の「品質が向上した」有機生成物が生成するが、アスファルテンとして知られている物質があとに残り、このアスファルテンは、ビチューメンよりはるかに処理し難く、非常にわずかしか水素を含まない。このアスファルテンが、水素との反応によって品質が向上されない場合、それは、実質的に廃棄物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許仮出願第60/943173号
【特許文献2】米国特許第4483761号
【特許文献3】米国特許第5496464号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、炭化水素の抽出および品質向上をするための方法に関する。その方法は、抽出および品質向上をすべき油、タールおよびビチューメン物質のうちの少なくとも1つを含む炭化水素を含有する基材を供給するステップと、水素ガス、触媒、ならびに基材から前記油、タールおよびビチューメン物質のうちの少なくとも1つを抽出するのに役立ち、水素ガスを溶解させるのに役立つ超臨界もしくは近臨界溶媒を含む、反応媒体を供給するステップと、基材、超臨界または近臨界溶媒、水素ガスおよび触媒を混合するステップと、反応を起こすのに十分な温度で、前記反応を所望の程度まで進行させることが可能と計算された時間の長さだけ混合物を維持するステップとを含む。この方法によって、油、タールまたはビチューメン物質を、単一操作で抽出し、品質向上させる。
【0007】
一実施形態では、本方法は、改質剤を供給するステップをさらに含む。一実施形態では、改質剤はトルエンまたはメタノールである。一実施形態では、本方法は、超音波処理のステップをさらに含む。一実施形態では、本方法は、光化学的活性化のステップをさらに含む。一実施形態では、炭化水素は、ビチューメンおよび多環式芳香族炭化水素(PAH)のうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、基材は、オイルサンド、オイルシェール鉱床およびタールサンドのうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、PAHは、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ベンゾチオフェンおよびインドールのうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、PAHは、窒素、硫黄または遷移金属を含む。一実施形態では、超臨界もしくは近臨界溶媒は、二酸化炭素である。一実施形態では、触媒は、Mn
2(CO)
8(PBu
3)
2、RuH
2(H
2)(PCy
3)
2、Pd、Pt、Ru、Ni、Rh、Nb、およびTaのうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、本方法は、共溶媒を供給するステップをさらに含む。一実施形態では、共溶媒は、n−ブタンおよびメタノールから選択されたうちの1つである。一実施形態では、超臨界もしくは近臨界溶媒は、ヘキサンおよび水から選択されたうちの1つである。一実施形態では、触媒は、α−Al
2O
3、HfO
2、ZrO
2、NiMo、Fe、Ni、Ru、Rh、Pd、PtおよびIrのうち少なくとも1つを含む。
【0008】
一部の実施形態では、反応を引き起こすのに十分な温度に混合物を維持するステップは、50℃〜400℃の範囲の温度に混合物を維持することを含む。一部の実施形態では、反応を引き起こすのに十分な温度に混合物を維持するステップは、50℃〜150℃の範囲の温度に混合物を維持することを含む。一部の実施形態では、反応を引き起こすのに十分な温度に混合物を維持するステップは、250℃〜350℃の範囲の温度に混合物を維持することを含む。
【0009】
一部の実施形態では、水素ガス、触媒、および超臨界もしくは近臨界溶媒を含む反応媒体を供給するステップは、50バール〜1000バールの範囲の圧力で前記超臨界もしくは近臨界溶媒を供給することを含む。一部の実施形態では、水素ガス、触媒および超臨界もしくは近臨界溶媒を含む反応媒体を供給するステップは、100バール〜500バールの範囲の圧力で前記超臨界もしくは近臨界溶媒を供給することを含む。一部の実施形態では、水素ガス、触媒および超臨界もしくは近臨界溶媒を含む反応媒体を供給するステップは、150バール〜400バールの範囲の圧力で前記超臨界もしくは近臨界溶媒を供給することを含む。
【0010】
抽出、蒸留、コーキングおよび品質向上の操作を複合することは、エネルギー、資本設備、ならびにプラントおよびプロセスの管理システムにおいて主要なコストの節約を可能にすることになる。これは、効率の向上を介してCO
2排出を大幅に低減することを可能にするという追加の利点も有することになる。
【0011】
本発明の前記のおよびその他の目的、態様、特徴および利点は、以下の説明および特許請求の範囲からより明確となろう。
【0012】
本発明の目的および特徴は、以下に説明される図面および特許請求の範囲を参照することによってよりよく理解することができる。図面は、本発明の原理を縮小拡大したり、強調したりするものでは必ずしもなく、逆に、本発明の原理を例示するために一般に置かれる。図面では、多様な図全体を通して、類似の数字を使用することによって類似の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】蒸留、コーキングおよび品質向上を統合したオイルサンド用の石油化学プロセスを示す略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、ナフタレンの当初濃度の関数としてのナフタレンの水素化を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態による、時間の関数としてのナフタレンの水素化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ビチューメンの抽出および品質向上をするための複合SCFプロセスを教示し、それによって、タールサンドおよび/またはオイルシェールの低級石油鉱床の処理で使用するための手順をより効率的および統合的にすることが可能になる。超臨界流体は、サンドおよびシェール鉱床から油およびビチューメン物質を抽出するために使用され、各種の均一および不均一化学プロセス用の反応媒体として使用されてきたが、本発明の抽出/化学反応複合プロセスでは使用されたことはなかった。本発明では、採掘またはin situ抽出によって、ビチューメンが産出され、このビチューメンは、蒸留、コーキングおよび品質向上複合プロセスに供給される。
【0015】
SCFにおけるビチューメンの溶解度及び抽出
ビチューメンは、増加する分子量とヘテロ原子官能基を有する炭化水素の混合物からなる半固体物質である。ビチューメンをn−ヘプタンなどの炭化水素に溶解すると、アスファルテンと呼ばれる沈殿が形成される。これは、大きなPAHからなる、原油の最も複雑な成分である。アスファルテンは、実用的な温度でトルエンには可溶性であるが、n−ヘプタンには不溶性であることが分かっており、このことは、ビチューメン溶液を形成することが可能であることを示す。タールサンドビチューメンのscCO
2への溶解度が、84℃〜120℃の温度で報告されている。こうした調査によって、その溶解度は、温度および圧力依存性であり、低温および高い方の圧力で最適の溶解度が得られることが判明している。
【0016】
超臨界流体反応媒体
その優れた抽出特性に加えて、超臨界流体は、近年、独特で貴重な反応媒体として発展しており、現在では、合成化学および工業において重要な役割を果たしている。超臨界流体は、液体の最も望ましい特性と気体のそれとを合わせ持っている。こうしたものとして、固体の溶解能および永久気体との全混和性が挙げられる。これは、水素の場合、特に貴重である。というのは、従来の溶媒へのその溶解度が低いことが、合成化学者にとって大きな障害であるからである。例えば、50℃で50バールのH
2を添加したscCO
2は、H
2で3Mであり、H
2圧力1000バールを除いては液体ベンゼンでは到達できない濃度である。
【0017】
2つの米国特許には、重質炭化水素の品質向上および分解に対するSCFの応用が記載されている。米国特許第4483761号には、軽質オレフィンのSCF溶液に対する添加が記載され、米国特許第5496464号には、かかる溶液の水素処理が記載されている。
【0018】
二酸化炭素、CO
2
そのT
c、P
cおよびコストが低いので、CO
2には、各種のプロセス用のSCF媒体として多数の用途がある。これは、優れた抽出媒体として既に確立されており、上記したように、タールサンドおよびオイルシェールからのビチューメン物質の抽出での有用性が実際に示されている。CO
2に対するT
cが低いことは、この媒体に対する有効操作範囲が50〜150℃となるはずであることを意味する。この温度は、PAHおよびアスファルテンを熱分解してより小さい揮発性画分にするのに必要である温度より大幅に低いが、大きな利点を予備水素化ステップによって得ることができる。というのは、この予備水素化ステップは、水素富化基材を供給することになり、この基材によって、任意の続いての分解段階において品質が向上した物質の収率が向上することになるからである。アントラセン、フェナントレン、ピレンおよびペリレンなどのPAHは、scCO
2に驚くほど可溶性であることが分かっており、この流体は、優れた水素化媒体である。scCO
2中の有機水素化接触反応に関する膨大な文献が存在する。ナフタレンおよびアントラセンなど高度に不飽和な芳香族基材について研究が実施されていることが特に興味深い。ナフタレン、アントラセン、ピレンおよびフェナントレンなど単純なPAHは、Mn
2(CO)
8(PBu
3)
2およびRuH
2(H
2)(PCy
3)
2などの均一系金属カルボニル触媒を使用して、従来の溶媒中で対応する炭化水素に首尾よく水素化されている。ただし、均一系水素化は、通常、過酷な反応条件が必要であり、報告は多くはない。アルミナ担持PdおよびPt、ならびに還元Fe
2O
3系を含めての各種遷移金属系を使用する不均一系の条件は、実用的な低温(<100℃)での有効な水素化触媒である。ナフタレンとアントラセンは共に、担持Ru触媒を用いて水素化されており、アントラセンは、活性炭素担持Ni触媒を用いてこうした方法で品質が向上している。この点に関して特に興味深いのは、60℃という低温で担持Rh触媒の存在下でscCO
2中のナフタレンの水素化が収率100%で容易に実施されたことが記載されている最近の報告である。ベンゾチオフェン(S含有)およびインドール(N含有)など複素環式芳香族分子の均一系水素化は、実用的な温度(<100℃)で多様な簡単な触媒を用いて首尾よく進むことが実際に示されており、ヘテロ原子成分による触媒の被毒もない。ベンゾ[α]ピレン、クリセンおよびフルオレンの光分解を、酸素の存在下、水/エタノール混合物中で実施することによって多様な開環生成物が形成されている。SCF中で実施された光化学的変換の報告はほとんど存在しない。しかし、スペクトルのUV領域の多くに亘ってCO
2が透明であるので、この媒体中でPAHに対して類似の光分解結果を依然として実現しつつ、scCO
2をエタノールの代用とすることが可能になる。
【0019】
ヘキサン、C
6H
14
ヘキサンは、中間の操作範囲(約250〜350℃)を提供する。超臨界プロパンは、直接抽出技術として実際に示されており、軽質炭化水素液体を使用する採掘されたタールサンドからのビチューメンの回収は、特許化された技術である。scC
6H
14の温度の型では、炭素骨格の熱転位が利用可能になる。例えば、アルミナ担持貴金属触媒が、350℃におけるナフタレンおよびメチルシクロヘキサンの開環で使用されており、開環生成物の大幅な異性化が観察された。ベンゾチオフェンの均一系ロジウム触媒による開環および水素化脱硫は、アセトンおよびTHF中で比較的低い水素圧(30バール)下160℃で首尾よく進むことが分かっている。不均一系水素化共触媒(所要量)と共に、SCF媒体中で担持され得るH
2の高濃度によって、開環中間体およびそれらの異性体の同時水素化、高分子量の不飽和芳香族分子の分解、およびそれらの揮発性脂肪族物質への転換が起こる可能性がある。
【0020】
水、H
2O
超臨界H
2O(scH
2O)は、水素化および脱水素化;C−C結合の形成および開裂;加水分解;および酸化を含めての広範囲の有機反応を促進する際に利用されている。硫黄で前処理したNiMo/Al
20
3触媒の存在下での単純PAHおよび複素環式芳香族炭化水素の水素化が、400℃でscH
2O中で実際に示されている。この媒体は、比誘電率の減少、水素結合度の低下、および解離定数の上昇(3桁程度)を含めて、周囲温度の水とは非常に異なる特性を有する。したがって、多数の有機化合物が、scH
2O中に極めて溶解しやすく、純流体は、酸および塩基触媒反応に対して優れた環境である。近年、ScH
2Oは、約400℃の温度で、炭素骨格の分解および再組織化が大幅に行われるので、リグニン、グルコースおよびセルロースから誘導されたバイオマスのガス化用の有効な媒体として働くことが分かってきた。したがって、多量の溶解H
2およびNiまたはRu触媒の存在下での熱分解によって、CO、CO
2およびCH
4など各種の揮発性生成物がもたらされる。これは、700〜1000℃で操業される従来のガス化手順よりも大幅な改良である。硫黄で前処理したNiMo/Al
20
3触媒の存在下での単純PAHおよび複素環式芳香族炭化水素の水素化も、400℃でscH
2O中で首尾よく進むことが分かってきた。
【0021】
原理的には、超臨界流体反応媒体としての二酸化炭素、ヘキサンおよび水は、抽出技術と統合することが可能であり;scCO
2は、タールサンドおよびオイルシェール鉱床からビチューメンを抽出するための媒体として有効であることが実際に示され;scプロパンを使用することによってオイルサンドからビチューメンが抽出され、現行のCSS、SAGDまたはVAPEX式抽出技術からの流出物は、転換して超臨界ビチューメン−水混合物に容易になることができる。scH
2Oの使用は、タールサンド技術では未開発であるように思われる。
【0022】
触媒
H
2とscCO
2の混和性の向上によって、Novartisによる除草剤(S)−メトラクロルなどの精密化学品のエナンチオ選択性調製を含めて、均一系触媒反応において広範囲な用途が見出されている。Co
2(CO)
8触媒を使用するプロペンのヒドロホルミル化が容易であることも、実際に示され、直鎖生成物であるn−ブチルアルデヒドに対する選択性は、従来の液体溶媒に比較して向上することが観察された。C=C結合の開裂および再配列を含むオレフィンメタセシスが、温和な条件下でSCF媒体中で実際に示された。Ru/A1
2O
3またはCo/La/SiO
2触媒系を使用するフィッシャー−トロプシュ合成を含む一連の不均一系水素化反応も、SCCO
2中で首尾よく実施されている。8族金属の不均一系触媒も、超臨界条件下でCO
2、H
2およびMe
2NHからのN,N−ジメチルホルムアミドの合成において非常に有効であり、担持Pd触媒を使用する不飽和ケトンの水素化は、温和な条件下でscCO
2中で実施されている。
【0023】
オイルサンドまたはオイルシェール鉱床からの油、タールまたはビチューメン物質は、超臨界もしくは近臨界溶媒を使用して抽出することができる。超臨界CO
2および超臨界ヘキサンへのビチューメンの溶解度は、増加させることができ、次いで、タールサンドからのその抽出は、トルエンまたはメタノールなどの改質剤を添加することによって、および溶解を促進するために超音波処理を使用することによって向上させることができる。近年、超音波処理は、超臨界流体媒体における化学反応を加速させると主張されている。
【0024】
本発明の一実施形態では、二酸化炭素は、抽出および品質向上複合プロセス用の超臨界媒体として使用される。二酸化炭素は、最も利用しやすい臨界温度を有し、安価であるが、極性がないので、低温での品質向上プロセスに限定されることになる。トルエンまたはメタノールなどの改質剤を添加することによってビチューメン物質の溶解に役立つことができる。
【0025】
本発明の別の実施形態では、ヘキサンが、抽出および品質向上複合プロセス用の超臨界媒体として使用される。これは、中程度の温度の可能性を提供するが、やはり、双極子モーメントがなく、3つの媒体のうちで最も価格が高い。
【0026】
本発明の別の実施形態では、水が、抽出および品質向上複合プロセス用の超臨界媒体として使用される。水は、最高の臨界温度を有する。水の極性および無視できるほどの価格は、魅力的な特徴である。
【0027】
適切な量の水素ガスが、この超臨界もしくは近臨界混合物中に導入される。適切な量の水素ガスは、品質を向上すべき炭化水素に存在する不飽和度の量に従い、反応媒体中に維持されるのが望ましい水素の割合に関係して変化することになる。
【0028】
ナフタレンおよびアントラセンなどの単純PAH、ならびに、NおよびSなどのヘテロ原子を含んだPAHと遷移金属との混合物を含むより複雑なPAHの水素化および開環反応は、広範囲の触媒を使用してこうしたSCF媒体中で実施される。かかる混合物は、ビチューメンおよびシェールオイルの化学構成物を代表している。
【0029】
scC
6H
14中の水素化と開環反応の組合せ、およびscH
2O中の開裂、水素化およびガス化のために、PAH基材と共に多数の均一および不均一触媒を使用することができる。こうした均一触媒として、NbおよびTaが挙げられ、これらは、多様なアレーン基材の水素化のために有効であることが分かっている。不均一担持系は、均一触媒より強固で、長寿命であることが分かる可能性がある。scCO
2の場合、アルミナまたは炭素上に担持された不均一NiおよびRu系、ならびに価格が高くなる恐れがあるRhおよびPtなどの金属を含めての広範囲の市販水素化触媒が存在する。
【0030】
n−ブタンおよびメタノールなどの共溶媒をscCO
2媒体に少量添加することによっても、PAHのscCO
2への溶解度を向上させることができる。
【0031】
反応混合物は、電磁スペクトルの紫外および/または可視領域の光を使用して、光化学的照射によって活性化することができる。この活性化を使用することによって、品質向上プロセスに含まれる開環、分裂および水素化反応を加速することができる。
【0032】
最も強固な触媒のみが、scC
6H
14およびscH
2O中の反応性および/または高温環境に適合することになる。しかし、α−A1
2O
3、HfO
2およびZrO
2は全て、こうした条件下で物理的および化学的に安定であり、それらを使用することによって微粉砕した金属触媒を担持することができる。Fe、Ni、Ru、Rh、PdおよびPtなどの後期遷移金属は、PAHの芳香族環を含めての不飽和有機部分に対する有効な水素移動触媒であるが、RuおよびIrは、開環およびオレフィンメタセシス用の良好な触媒であることが知られている。
【0033】
超臨界条件下でこうした2つのプロセスを複合する最適の不均一担持触媒の開発は、最初にコンビナトリアル手法を必要とする反復プロセスである。しかし、例えば、A1
2O
3に金属塩の貯蔵液を含浸させた後に乾燥させ、H
2ガスで還元するという簡単な手段は、こうした型のプロセス用の高活性触媒を生成する際に極めて有効である。
【0034】
反応混合物は、適切な時間、適切な温度に維持することにより、混合物中のビチューメン物質の所望の水素化、転位または分解が行われる。必要な温度および時間は、系内の反応物の濃度、および品質を向上させたい物質の量によって変化することになる。
【0035】
以下の実施例は、本発明の実施形態を例示するものである。当業者は、特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に対する変更、改変および変化を実施することができる。
【実施例1】
【0036】
PAHであるナフタレンの水素化を、H
2(60バール、870psi)およびscCO
2(100バール、1450psi)を用いてRh/Cの存在下で実施した。反応をスキーム1に示した反応条件に従って16時間実施した。
【数1】
【0037】
図2は、ナフタレンの初期濃度の関数としてナフタレンの水素化を示すグラフであり、ナフタレンの量はひし形で示され、テトラリンの量は正方形で示され、デカリンの量は三角形で示されている。垂直軸は、全炭化水素に対する炭化水素の相対濃度の百分率を表し、水平軸は、モルで示したナフタレンの初期濃度を表す。
【0038】
0.1M、0.2M、0.3M、0.4Mおよび0.5Mのナフタレン濃度を使用して、反応を繰り返した。こうした反応条件下で、ナフタレンの全水素化は、0.1Mを超える濃度で実現された。0.4Mにおける結果は、恐らくは、新規の装置に伴う誤差のためと思われる。
【実施例2】
【0039】
PAHであるナフタレンの水素化を、H
2(60バール、870psi)およびscCO
2(100バール、1450psi)を用い、0.1Mのナフタレンを混合することによって60℃でRh/Cの存在下で実施した。形成されたテトラリンおよびデカリンの百分率を30分、1時間、2時間、3時間および4時間で分析した。
図3は、時間の関数としてナフタレンの水素化を示すグラフであり、ナフタレンの量はひし形で示され、テトラリンの量は正方形で示され、デカリンの量は三角形で示されている。垂直軸は、全炭化水素に対する炭化水素の相対濃度の百分率を表し、水平軸は、時間の単位で示した反応プロセスの継続を表す。
【0040】
図3に示されているように、ナフタレンの80%が、30分以内にテトラリン(50%)およびデカリン(30%)に転換された。反応時間が増加すると、ナフタレンはさらに減少し、生成物の形成が増加した。4時間後、ナフタレンの90%が、完全に飽和したデカリンに転換していた。したがって、完全に水素化するために16時間ではなくて、わずか約4時間しか必要としないと考えられる。
【0041】
本明細書で開示された構造および方法を参照し、図面で例示されたように、本発明を詳細に示し、説明してきたが、本発明は、記載の詳細説明に束縛されるものではなく、本発明は、以下の特許請求の範囲の範囲および趣旨を逸脱しないと思われる任意の改変および変更を包含するものである。