(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の非水電解質電池用セパレータ及びこれを用いた非水電解質電池について詳細に説明する。なお、以下において数値範囲で「〜」と示したものは、上限値および下限値を含む数値範囲であることを意味する。
【0013】
<非水電解質電池用セパレータ>
本発明の非水電解質電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも称する)は、熱可塑性樹脂を含む多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、接着性樹脂を含む接着性多孔質層と、を備えた複合膜からなる。そして、本発明のセパレータ(複合膜)は、多孔質基材のガーレ値G
Bと複合膜のガーレ値G
Sとの差(ガーレ差)ΔGが75秒/100cc以下であり、かつ、多孔質基材の曲路率τ
Bと複合膜の曲路率τ
Sとの差(曲路率差)Δτが0.30以下である。
【0014】
非水電解質電池用セパレータを上記構成とすることで、電極との接着性、イオン透過性、及び、シャットダウン特性に優れる。したがって、このようなセパレータを用いれば、レート特性やサイクル特性等の電池特性、および高温下での安全性に優れ、高性能なアルミラミネートパック外装の非水電解質電池を提供することが可能となる。
【0015】
セパレータは、非水電解質電池(以下、単に「電池」とも称する)中の正極と負極との間に介在し、電極同士のショートを防止しつつ、電解液中のリチウムイオン等のイオンの透過をスムーズに行う役割を果たす。このとき、電池の寿命が低下することを抑制するために、イオンは、セパレータの部分に偏りなく、セパレータ全面に亘って均一に透過することが求められる。
本発明において、セパレータは、多孔質基材と接着性多孔質層とを有する積層構造であるため、多孔質基材が有する孔の開口部が接着性多孔質層に覆われていたり、接着性多孔質層が有する孔の開口部が多孔質基材によって塞がれていると、イオンの透過性が損なわれる。従って、セパレータのイオン透過性を高めるには、多孔質基材が有する孔と、接着性多孔質層が有する孔とが通じていることが望ましい。
【0016】
ここで、セパレータのガーレ差ΔG(=|G
B−G
S|)が75秒/100cc以下であり、かつ、曲路率差Δτ(=|τ
B−τ
S|)が0.30以下となるように構成すると、多孔質基材および接着性多孔質層が有する孔の開口部が互いに塞がれ難くなると考えられる。つまり、多孔質基材の片面または両面に接着性多孔質層が積層する積層構造において、多孔質基材が有する孔と接着性多孔質層が有する孔とが通じて貫通し易くなると考えられる。その結果、セパレータのイオン透過性が向上すると考えられる。また、多孔質基材が有する孔の開口部が塞がれ難くなるために、電池が過熱したときには、多孔質基材が有する孔が容易に潰れ易くなり、イオンの透過を速やかに遮断することができ、シャットダウン特性にも優れる。
さらには、接着性多孔質層が接着性樹脂を含むため、セパレータと電極との接着性に優れる。
【0017】
上記ガーレ差ΔGや曲路率差Δτは、例えば、特定のガーレ値および曲路率を有する多孔質基材の選定や、接着性多孔質層を構成する接着性樹脂の分子量、接着性多孔質層を形成するための材料の組成、形成条件等を調整することにより制御することができる。
【0018】
(ガーレ値)
本発明のセパレータは、多孔質基材のガーレ値G
Bと複合膜のガーレ値G
Sとの差(ガーレ差)ΔGが75秒/100cc以下である。ガーレ差ΔG(=|G
B−G
S|)が75秒/100ccを超えると、接着性多孔質層と多孔質基材と間の界面において両層の空孔同士が十分に連通されていないことにより、イオン透過を阻害し、十分な電池の特性が得られない。このような観点では、ガーレ差ΔGは、70秒/100cc以下であることが好ましく、65秒/100cc以下であることがより好ましく、60秒/100cc以下であることがさらに好ましい。
なお、多孔質基材のガーレ値G
B、及び複合膜(セパレータ)のガーレ値G
Sは、JIS P8117に従い、ガーレ式デンソメータ(G−B2C 東洋精機社製)にて測定することができる。
【0019】
複合膜のガーレ値G
Sは、十分な電池性能を得る観点から、50秒/100cc以上800秒/100cc以下の範囲が好適である。
さらに、イオン透過性の均一性および電池のサイクル特性を高める観点から、複合膜のガーレ値G
Sの平均値AV
GSに対する複合膜のガーレ値G
Sの標準偏差SD
GSの比〔SD
GS/AV
GS〕が0.3以下であることが好ましい。
SD
GS/AV
GSは、セパレータ全体におけるガーレ値の均一性を判断する指標となり、SD
GS/AV
GSが小さいほど、セパレータ全体におけるガーレ値の均一性が高いことを示す。
【0020】
既述のように、セパレータは、電解液中のリチウムイオン等の透過をスムーズに行う役割を果たすが、電池の寿命が低下することを抑制するために、イオンは、セパレータの一部に偏ることなく、セパレータ全面に亘って均一に透過することが望ましい。セパレータの部分によってガーレ値が異なることは、つまり、セパレータのある部分はイオンが透過し易く、他の部分は透過し難い等、イオンの透過に偏りが生じ易いことを意味する。従って、セパレータ全体におけるガーレ値の均一性を高めることで、セパレータの部分に関わらず、イオン透過性が同程度に維持することができる。その結果、イオンが透過し易い部分のみイオンが行き来することに起因する部分的な劣化を抑制することができ、充放電を繰り返した場合にもセパレータのイオンの透過性を維持することができる。
つまり、SD
GS/AV
GSを0.3以下とすることで、充放電を繰り返した場合にも、電池の容量維持を保つことのできるサイクル特性を高めることができる。このような観点では、SD
GS/AV
GSは、0.29以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましく、0.20以下であることが特に好ましい。
【0021】
SD
GS/AV
GSは、セパレータにおいて任意に異なる部分のガーレ値を20点測定し、それらの平均値と標準偏差をそれぞれAV
GSおよびSD
GSとした。ガーレ値の平均値AV
GSは20点測定したガーレ値の総和をデータの個数(20)で除算することにより求められる。ガーレ値の標準偏差SD
GSは、各々のガーレ値と平均値AV
GSの差を二乗したものの総和を「データ個数‐1」、即ち19で徐算し、その平方根により求められる。
また、SD
GS/AV
GSは、例えば、接着性多孔質層を構成する接着性樹脂の分子量、接着性多孔質層を形成するための材料の組成、形成条件等を調整することにより制御することができる。
【0022】
(曲路率)
本発明のセパレータは、多孔質基材の曲路率τ
Bと複合膜の曲路率τ
Sとの差(曲路率差)Δτが0.30以下である。曲路率差Δτ(=|τ
B−τ
S|)が0.30を超えると、接着性多孔質層より、多孔質基材表面の孔の閉塞の割合が多くなると考えられるため、膜抵抗が高くなり、電池のレート特性(充放電容量の維持特性)やサイクル特性が十分に得られない。このような観点では、曲路率差Δτは、0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることが好ましい。
【0023】
さらに、セパレータの曲路率τ
Sは、良好なイオン透過性を確保するという観点から、1.5〜2.5の範囲であることが好ましい。
【0024】
なお、曲路率τは、セパレータの一方の面から反対側の面へ貫通する孔の長さL
Pと、セパレータの膜厚L
Sとの比(L
P/L
S)である。従って、孔が曲がらず直線であるとき、曲路率は1となり、孔が曲がるほど曲路率は大きくなる。曲路率の計算方法にはいくつかの方法があるが、具体的には例えば膜抵抗から計算する方法や、透気度から計算する方法が挙げられる。電池特性を考慮する際は、膜抵抗から計算する方法が望ましい。
本発明においては、多孔質基材の曲路率τ
B、および複合膜の曲路率τ
Sは、試料に電解液を含浸させたときの曲路率として、下記式に基づき、算出される値である。
【0025】
τ={(R・ε/100)/(r・t)}
1/2
τ:試料の曲路率(τ
Bまたはτ
S)
R(ohm・cm
2):電解液を試料に含浸させたときの試料の抵抗
r(ohm・cm):電解液の比抵抗
ε(%):空孔率
t(cm):試料の厚さ
【0026】
(セパレータの諸物性)
非水電解質電池用セパレータの空孔率は、本発明の効果とセパレータの力学物性を良好に得る観点から、30%以上60%以下の範囲が適当である。
セパレータの膜厚は、機械強度とエネルギー密度の観点から、5μm〜35μmが好ましい。
セパレータの膜抵抗は、十分な電池の負荷特性を確保するという観点から、1ohm・cm
2〜10ohm・cm
2の範囲であることが好ましい。
ここで膜抵抗とはセパレータに電解液を含浸させたときの抵抗値であり、交流法にて測定される。当然、電解液の種類、温度によって異なるが、上記の数値は電解液として1M LiBF
4 プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1質量比)を用い、20℃にて測定した数値である。
【0027】
〔多孔質基材〕
本発明において、多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。
このような基材としては、微多孔膜や、不織布、紙状シート等の繊維状物からなる多孔性シート、あるいは、これら微多孔膜や多孔性シートに他の多孔性層を1層以上積層させた複合多孔質シート等を挙げることができる。なお、微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0028】
多孔質基材を構成する材料には、シャットダウン機能を付与する観点から熱可塑性樹脂を使用する。熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適当であり、特にポリオレフィンが好ましい。
【0029】
ポリオレフィンを用いた多孔質基材としてはポリオレフィン微多孔膜が好適である。ポリオレフィン微多孔膜としては、十分な力学物性とイオン透過性を有した、従来の非水電解質電池用セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜を用いることができる。そして、ポリオレフィン微多孔膜は、上述したシャットダウン機能を有するという観点から、ポリエチレンを含むことが好ましく、ポリエチレンの含有量としては95質量%以上が好ましい。
【0030】
別途、多孔質基材が高温にさらされたときに、容易に破膜しない程度の耐熱性を多孔質基材に付与するという観点では、多孔質基材を構成する材料としては、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜が好適である。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの膜において混在している微多孔膜が挙げられる。このような微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと、5質量%以下のポリプロピレンを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点では、ポリオレフィン微多孔膜が少なくとも2層以上の構造となっており、当該2層のうち一方の層はポリエチレンを含み、他方の層はポリプロピレンを含む積層構造のポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0031】
ポリオレフィンの重量平均分子量は10万〜500万のものが好適である。重量平均分子量が10万より小さいと、十分な力学物性を確保するのが困難となる場合がある。また、500万より大きくなると、シャットダウン特性が悪くなる場合や、成形が困難になる場合がある。
【0032】
このようなポリオレフィン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、(i)溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出してシート化する工程、(ii)上記シートに結晶化処理を施す工程、(iii)シートを延伸する工程、および(iv)シートを熱処理する工程を順次実施して、微多孔膜を形成する方法が挙げられる。また、(i)流動パラフィンなどの可塑剤と一緒にポリオレフィン樹脂を溶融し、これをT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化する工程、(ii)シートを延伸する工程、(iii)シートから可塑剤を抽出する工程、および(iv)シートを熱処理する工程を順次実施して微多孔膜を形成する方法等も挙げられる。
【0033】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン等からなる繊維状物、あるいは、これらの繊維状物の混合物からなる多孔性シートを用いることができる。
【0034】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層した構成を採用できる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる点で好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点では、耐熱性樹脂からなる多孔質層や、耐熱性樹脂および無機フィラーからなる多孔質層を用いることができる。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、およびポリエーテルイミドから選ばれる1種または2種以上の耐熱性高分子が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物や、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等を好適に使用できる。なお、複合化の手法としては、多孔性シートに機能層をコーティングする方法、接着剤で接合する方法、熱圧着する方法等が挙げられる。
【0035】
(多孔質基材の諸物性)
本発明において、多孔質基材のガーレ値G
BはΔGが既述の条件を満たす範囲であれば特に制限されないが、50秒/100cc以上800秒/100ccであることが好ましい。多孔質基材のガーレ値G
Bが、50秒/100cc以上であれば電池の短絡防止を得る観点で好ましく、90秒/100cc以上であることがより好ましく、120秒/100cc以上であることがさらに好ましい。また、多孔質基材のガーレ値G
Bは、800秒/100cc以下であればイオン透過性が良好であり、500秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0036】
多孔質基材の曲路率τ
Bも、Δτが既述の条件を満たす範囲であれば特に制限されない。τ
Bが5.0以下であれば十分なイオン透過性を得る観点で好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。
【0037】
多孔質基材の孔径は、小さいほど非孔領域が増えて接着性多孔質層との接着領域が増えるため多孔質基材と接着性多孔質層との接着性が向上する。また、孔径は、大きいほど、イオン透過性に優れる。
以上のような観点から、多孔質基材の平均孔径は、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、多孔質基材の平均孔径は、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、多孔質基材の平均孔径d
Bは、窒素ガス吸着量から算出される多孔質基材の空孔表面積S
Bと、空孔率から算出される多孔質基材の空孔体積V
Bを用いて、すべての孔が円柱状であることを仮定して、以下の式から算出する。
【0039】
d
B=4×V
B/S
B
d
B:多孔質基材の平均孔径
V
B:多孔質基材の空孔体積
S
B:多孔質基材の空孔表面積
【0040】
多孔質基材の空孔表面積S
B(m
2/g)は、まず、窒素ガス吸着法で適用した多孔質基材の比表面積(m
2/g)を測定する。次に、多孔質基材の比表面積に多孔質基材の目付(g/m
2)を乗算することで、多孔質基材の1m
2あたりの空孔表面積S
B(m
2/g)を求める。
【0041】
本発明において、多孔質基材の膜厚は、良好な力学物性と内部抵抗を得る観点から、5〜25μmの範囲が好適である。
多孔質基材の突刺強度は、製造歩留まりを向上させる観点から、300g以上が好適である。
【0042】
〔接着性多孔質層〕
接着性多孔質層は、多孔質基材の少なくとも片面に設けられ、接着性樹脂を含んで構成される。接着性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった多孔質層を意味する。
接着性多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面にセパレータの最外層として設けられ、この接着性多孔質層によって電極と接着させることができる。すなわち、接着性多孔質層は、セパレータと電極とを重ねた状態で熱プレスしたときにセパレータを電極に接着させ得る層である。本発明の非水電解質電池用セパレータが前記多孔質基材の片側のみに接着性多孔質層を有する場合、接着性多孔質層は正極又は負極のいずれかに接着される。また、本発明の非水電解質電池用セパレータが前記多孔質基材の両側に接着性多孔質層を有する場合、接着性多孔質層は正極及び負極の双方に接着される。接着性多孔質層を多孔質基材の両面に設けることで、セパレータの両面が接着性多孔質層を介して両電極とよく接着するため、電池のサイクル特性に優れる点で好ましい。
【0043】
(接着性樹脂)
接着性樹脂は、電極との接着し易いものであれば特に制限されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリビニルアルコール、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体又は共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテルが好適である。特に、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン共重合体(これらを「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」と称する。)が特に好適である。接着性多孔質層は、接着性樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上を含んでもよい。
【0044】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体(すなわちポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体、あるいはこれらの混合物を用いることができる。フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えばテトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、トリフロロエチレン、トリクロロエチレンあるいはフッ化ビニル等の一種類又は二種類以上を用いることができる。このようなポリフッ化ビニリデン系樹脂は、乳化重合または懸濁重合により得ることが可能である。
【0045】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の中では、電極との接着性の観点から、フッ化ビニリデンとヘキサフロロプロピレンとを少なくとも共重合した共重合体が好ましく、更には、フッ化ビニリデン由来の構造単位と質量基準で0.1モル%以上5モル%以下(好ましくは0.5モル%以上2モル%以下)のヘキサフロロプロピレン由来の構造単位とを含む共重合体であることがより好ましい。
【0046】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、重量平均分子量が50万〜300万の範囲のものが好ましい。重量平均分子量が50万より以上であると、接着性多孔質層が電極との接着工程に耐える程の力学物性を有することができ、十分な接着性が得られやすくなる。このような観点では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は60万以上が好ましく、70万以上がさらに好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が300万以下であると、接着性多孔質層の成形性が良好であり、接着性多孔質層に良好な結晶を形成でき、好適な多孔構造を得ることができる。このような観点では、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は250万以下が好ましく、200万以下が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が50万〜300万の範囲であれば、上述したガーレ差ΔG、曲路率差ΔおよびSD
GS/AV
GSを本発明の範囲に調整しやすい点でも好ましい。
【0047】
(添加物)
接着性多孔質層には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、無機物あるいは有機物からなるフィラーやその他添加物を含んでいてもよい。
接着性多孔質層がこのようなフィラーを含むことで、セパレータの滑り性や耐熱性を改善することが可能となる。無機フィラーとしては、例えば、アルミナ等の金属酸化物や、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等を用いることができる。有機フィラーとしては例えばアクリル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂等を用いることができる。
接着性多孔質層中の添加物の含有量は、接着性多孔質層の全質量に対して1質量%〜95質量%であることが好ましい。
【0048】
(接着性多孔質層の諸物性)
本発明において、接着性多孔質層の平均孔径は1nm〜100nmであることが好ましい。接着性多孔質層の平均孔径が100nm以下であれば、均一な空孔が均一に分散した多孔質構造になり易く、電極との接着点が均一に分散するため、良好な接着性を得ることができる。また、その場合、イオンの移動も均一となるため、十分なサイクル特性を得ることができ、さらに良好な負荷特性が得られる。一方、平均孔径は均一性という観点では出来るだけ小さいことが好ましいが、1nmより小さい多孔構造を形成することは現実的に困難である。また、接着性多孔質層に電解液を含浸させた場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は膨潤するが、平均孔径が小さすぎると、膨潤により孔が閉塞し、イオン透過性が阻害されてしまう。このような観点からも平均孔径は1nm以上であることが好ましい。接着性多孔質層の平均孔径は20nm〜100nmであればより好ましい。
【0049】
なお、接着性多孔質層の平均孔径d
Aは、窒素ガス吸着量から算出される接着性多孔質層の空孔表面積S
Aと、空孔率から算出される接着性多孔質層の空孔体積V
Aを用いて、すべての孔が円柱状であることを仮定して、以下の式から算出する。
【0050】
d
A=4×V
A/S
A
d
A:接着性多孔質層の平均孔径
V
A:接着性多孔質層の空孔体積
S
A:接着性多孔質層の空孔表面積
【0051】
接着性多孔質層の空孔表面積S
Aを求めるためには、まず、窒素ガス吸着法で適用した多孔質基材の比表面積(m
2/g)と、接着性多孔質層を成形したセパレータの比表面積(m
2/g)を測定する。そして、それぞれの比表面積にそれぞれの目付(g/m
2)を乗算して、セパレータの単位面積あたりの空孔表面積を求め、多孔質基材の空孔表面積をセパレータの空孔表面積から減算することで、接着性多孔質層の空孔表面積S
Aを算出する。
【0052】
本発明においては、接着性多孔質層が多孔質基材の両面に塗布形成される場合、接着性多孔質層の塗工量は、多孔質基材の片面の量として、0.5g/m
2〜1.5g/m
2が好ましく、0.7g/m
2〜1.3g/m
2がより好ましい。塗工量が0.5g/m
2以上であると、接着性多孔質層と電極との接着性がより良好になる。一方、前記塗工量が1.5g/m
2以下であることで、より良好なイオン透過性が確保されやすい。
【0053】
接着性多孔質層が多孔質基材の両面に設けられている場合、一方の面の塗工量と他方の面の塗工量との差は、両面合計の塗工量に対して20質量%以下であることが好ましい。20質量%以下であると、セパレータがカールしにくいので、その結果、ハンドリング性がよく、またサイクル特性が低下する問題が起きにくい。
【0054】
接着性多孔質層の厚さは、多孔質基材の片面において、0.3μm〜5μmであることが好ましい。厚さが0.3μm以上であると、電極との接着性がより良好になる。厚さが5μm以下であると、良好なイオン透過性が確保され、電池の負荷特性に優れる。このような観点では、接着性多孔質層の厚さは、多孔質基材の片面において、0.5μm〜5μmであることがより好ましく、1μm〜2μmであることが更に好ましい。
【0055】
本発明において接着性多孔質層は、イオン透過性の観点から充分に多孔化された構造であることが好ましい。具体的には、接着性多孔質層の空孔率は30%〜60%であることが好ましい。空孔率が30%以上であると、イオン透過性が良好であり、電池特性により優れる。また、空孔率が60%以下であると、熱プレスにより電極と接着させる際に、多孔質構造が潰れない程度の充分な力学物性が得られる。また、空孔率が60%以下であると、表面開孔率が低くなり、接着性樹脂が占める面積が増えるため、より良好な接着力を確保することができる。なお、接着性多孔質層の空孔率は、30〜50%の範囲がより好ましい。
【0056】
接着性多孔質層における接着性樹脂のフィブリル径は、サイクル特性の観点から、10nm〜1000nmの範囲であることが好ましい。
【0057】
<非水電解質電池用セパレータの製造方法>
本発明の非水電解質電池用セパレータは、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂等の接着性樹脂を含む塗工液を多孔質基材上に塗工し塗工層を形成し、次いで塗工層の樹脂を固化させることで、接着性多孔質層を多孔質基材上に一体的に形成する方法で製造される。
以下、接着性多孔質層をポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いて形成する場合について、説明する。
【0058】
接着性樹脂としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた接着性多孔質層は、例えば以下の湿式塗工法によって好適に形成することができる。
湿式塗工法は、(i)ポリフッ化ビニリデン系樹脂を適切な溶媒に溶解させて塗工液を調製する工程、(ii)この塗工液を多孔質基材に塗工する工程、(iii)当該多孔質基材を適切な凝固液に浸漬させることで、相分離を誘発しつつポリフッ化ビニリデン系樹脂を固化させる工程、(iv)水洗工程、および(v)乾燥工程を行って、多孔質基材上に多孔質層を形成する製膜法である。本発明に好適な湿式塗工法の詳細は、以下のとおりである。
【0059】
塗工液の調製に用いる、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」とも称する。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が好適に用いられる。
良好な多孔構造を形成する観点からは、良溶媒に加えて相分離を誘発させる相分離剤を混合させることが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲で添加することが好ましい。
溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒を60質量%以上、相分離剤を40質量%以下含む混合溶媒が好ましい。
【0060】
塗工液は、良好な多孔構造を形成する観点から、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が3質量%〜10質量%の濃度で含まれていることが好ましい。
接着性多孔質層にフィラーやその他の成分を含有させる場合は、塗工液中に混合あるいは溶解させればよい。
【0061】
凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒と相分離剤、及び水から構成されるのが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比はポリフッ化ビニリデン系樹脂の溶解に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。水の濃度は40質量%〜90質量%であることが、多孔構造の形成および生産性の観点から適切である。
【0062】
多孔質基材への塗工液の塗工は、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーターなど従来の塗工方式を適用してもよい。接着性多孔質層を多孔質基材の両面に形成する場合、塗工液を両面同時に基材へ塗工することが生産性の観点から好ましい。
【0063】
接着性多孔質層は、上述した湿式塗工法以外にも、乾式塗工法で製造し得る。ここで、乾式塗工法とは、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂と溶媒を含んだ塗工液を多孔質基材に塗工し、この塗工層を乾燥させて溶媒を揮発除去することにより、多孔層を得る方法である。ただし、乾式塗工法は湿式塗工法と比べて塗工層が緻密になり易いので、良好な多孔質構造を得られる点で湿式塗工法のほうが好ましい。
【0064】
本発明の非水電解質電池用セパレータは、接着性多孔質層を独立したシートとして作製し、この接着性多孔質層を多孔質基材に重ねて、熱圧着や接着剤によって複合化する方法によっても製造し得る。接着性多孔質層を独立したシートとして作製する方法としては、樹脂を含む塗工液を剥離シート上に塗工し、上述した湿式塗工法あるいは乾式塗工法を適用して接着性多孔質層を形成し、剥離シートから接着性多孔質層を剥離する方法が挙げられる。
【0065】
<非水電解質電池>
本発明の非水電解質電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質電池であり、正極と、負極と、既述の本発明の非水電解質電池用セパレータとを設けて構成されている。なお、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0066】
非水電解質電池は、負極と正極とがセパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有している。本発明の非水電解質電池は、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池に好適である。
【0067】
本発明の非水電解質電池は、セパレータとして、既述の本発明の非水電解質電池用セパレータを備えることにより、電極とセパレータ間の接着性に優れると共に、製造工程での歩留まりが高く、電解液の保持性にも優れている。したがって、本発明の非水電解質電池は、安定的なサイクル特性を発現するものである。
【0068】
正極は、正極活物質及びバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造とすることができる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。
正極活物質としては、例えばリチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO
2、LiNiO
2、LiMn
1/2Ni
1/2O
2、LiCo
1/3Mn
1/3Ni
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiCo
1/2Ni
1/2O
2、LiAl
1/4Ni
3/4O
2等が挙げられる。
バインダー樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。
導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末といった炭素材料が挙げられる。
集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、アルミ箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0069】
本発明の非水電解質電池において、セパレータがポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着性多孔質層を備え、該接着性多孔質層を正極側に配置した場合、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が耐酸化性に優れるため、4.2V以上の高電圧で作動可能なLiMn
1/2Ni
1/2O
2、LiCo
1/3Mn
1/3Ni
1/3O
2等の正極活物質を適用しやすく有利である。
【0070】
負極は、負極活物質及びバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造としてよい。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。
負極活物質としては、例えばリチウムを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には炭素材料、シリコン、スズ、アルミニウム、ウッド合金等が挙げられる。
バインダー樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。
導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末といった炭素材料が挙げられる。
集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。
また、上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0071】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。
リチウム塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等が挙げられる。
非水系溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル;が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート/鎖状カーボネート)20/80〜40/60で混合し、リチウム塩を0.5M〜1.5M溶解したものが好適である。
【0072】
外装材としては、金属缶やアルミラミネートフィルム製のパック等が挙げられる。
電池の形状は角型、円筒型、コイン型等があるが、本発明の非水電解質電池用セパレータはいずれの形状にも好適である。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[測定方法]
以下に示す実施例及び比較例で作製したセパレータ及びリチウムイオン二次電池について、以下の測定、評価を行なった。
(ガーレ値)
JIS P8117に従い、ガーレ式デンソメータ(G−B2C 東洋精機社製)にて測定した。
【0075】
(曲路率)
多孔質基材の曲路率τ
B、および複合膜(セパレータ)の曲路率τ
Sは次のようにして測定した。電解液に1M LiBF
4 プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート=1/1質量比を用い、この電解液を試料(多孔質基材またはセパレータ)に含浸させた。これをリードタブ付きのアルミ箔電極に挟みアルミパックに封入して試験セルを作製した。この試験セルの抵抗を交流インピーダンス法(測定周波数:100kHz)により20℃、−20℃にて測定した。得られた20℃の抵抗値から以下の式を適用することで、試料の曲路率を算出した。
【0076】
τ={(R・ε/100)/(r・t)}
1/2
τ:試料の曲路率
R(ohm・cm
2):電解液を試料に含浸させたときの試料の抵抗
r(ohm・cm):電解液の比抵抗
ε(%):空孔率
t(cm):試料の厚さ
【0077】
(SD
GS/AV
GS)
複合膜(セパレータ)のガーレ値G
Sの平均値AV
GSに対する複合膜(セパレータ)のガーレ値G
Sの標準偏差SD
GSの比〔SD
GS/AV
GS〕は、セパレータにおいて、任意の異なる部分のガーレ値を20点測定し、その値からSD
GSおよびAV
GSを算出した。
【0078】
(膜厚)
接触式の厚み計(LITEMATIC ミツトヨ社製)を用いて測定した。測定端子は直径5mmの円柱状のものを用い、測定中には7gの荷重が印加されるように調整して行った。
【0079】
(目付)
サンプルを10cm×10cmに切り出し、その質量を測定した。質量を面積で割ることで目付を求めた。
【0080】
(ポリフッ化ビニリデン系樹脂の塗工量)
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX−800HS、島津製作所)を用いてFKαのスペクトル強度からポリフッ化ビニリデン系樹脂の塗工量(質量)を測定した。この測定ではX線を照射した面のポリフッ化ビニリデン系樹脂の質量が測定される。よって表裏両面にポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる多孔質層を形成した場合、表裏各々の測定を行うことで表裏各々のポリフッ化ビニリデン系樹脂の質量が測定され、それを合計することで表裏合計の質量が測定できる。
【0081】
(空孔率)
セパレータの空孔率は、以下の式によって算出した。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、εは空孔率(%)、Wsは目付(g/m
2)、dsは真密度(g/cm
3)、tは膜厚(μm)である。
【0082】
ポリエチレン多孔質基材とポリフッ化ビニリデン系樹脂のみからなる多孔質層とを積層したセパレータの空孔率ε(%)は以下の式から算出した。
ε={1―(Wa/0.95+Wb/1.78)/t}×100
ここで、Waは基材の目付(g/m
2)、Wbはポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量(g/m
2)、tは膜厚(μm)である。
接着性多孔質層の空孔率を算出する場合は、上記式において、Wa=0(g/m
2)として、tは接着性多孔質層の厚み、すなわちセパレータの膜厚から基材の膜厚を引いた値とすることで、求められる。
【0083】
(ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量)
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量(ダルトン)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCともいう。)により下記の条件で測定し、ポリスチレン換算して表した分子量である。
<条件>
・GPC:Alliance GPC 2000型〔Waters社製〕
・カラム:TSKgel GMH
6−HT×2 +TSKgel GMH
6−HTL×2〔東ソー(株)製〕
・移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン
・標準試料 :単分散ポリスチレン〔東ソー(株)製〕
・カラム温度:140℃
【0084】
(接着性多孔質層の平均孔径)
ガス吸着法でBET式を適用することにより、多孔質基材の比表面積(m
2/g)と、接着性多孔質層を形成した複合膜の比表面積(m
2/g)を測定した。これら比表面積(m
2/g)にそれぞれの目付(g/m
2)を乗算して、シート1m
2当たりの空孔表面積を算出した。多孔質基材の空孔表面積を複合膜の空孔表面積から減算することで、接着性多孔質層1m
2当たりの空孔表面積S
Aを算出した。別途、空孔率からシート1m
2当たりの接着性多孔質層の空孔体積V
Aを算出した。接着性多孔質層の平均孔径d
Aは、接着性多孔質層の空孔表面積S
Aと空孔体積V
Aを用いて、すべての孔が円柱状であることを仮定して、以下の式から算出した。
d
A=4×V
A/S
A
d
A:接着性多孔質層の平均孔径
V
A:接着性多孔質層の空孔体積
S
A:接着性多孔質層の空孔表面積
【0085】
[実施例1]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としてフッ化ビニリデン/ヘキサフロロプロピレン=98.9/1.1モル%、重量平均分子量180万の共重合体を用いた。
該ポリフッ化ビニリデン系樹脂を5質量%の濃度でジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=7/3質量比である混合溶媒に溶解し、塗工液を作製した。これを膜厚9μm、ガーレ値160秒/100cc、空孔率43%のポリエチレン微多孔膜の両面に等量塗工し、水/ジメチルアセトアミド/トリプロピレングリコール=57/30/13質量比の凝固液(40℃)に浸漬することで固化させた。これを水洗した後、乾燥することでポリオレフィン系微多孔膜の表裏両面にポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる接着性多孔質層が形成された本発明の非水電解質電池用セパレータを得た。
このセパレータについて、多孔質基材及びセパレータ(複合膜)のガーレ値(G
B及びG
S)、ガーレ差ΔG(=|G
B−G
S|)、多孔質基材およびセパレータの曲路率(τ
B及びτ
S)、曲路率差Δτ(=|τ
B−τ
S|)、セパレータのSD
GS/AV
GS、ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVdF)の重量平均分子量(Mw)、塗工液中の相分離剤の濃度、凝固液の水の濃度、ならびに、凝固液の温度の測定結果を表1に示す。
以下の実施例および比較例のセパレータについても同様に、表1にまとめて示す。
【0086】
[実施例2〜
4、参考例1、2及び比較例1]
相分離剤濃度、水濃度、及び凝固液温度を表1に示すとおり変化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜
4、参考例1、2及び比較例1の非水電解質電池用セパレータを得た。
【0087】
[実施例7〜8]
接着性樹脂として、重量平均分子量が50万あるいは300万のフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7〜8の非水電解質電池用セパレータを得た。
【0088】
【表1】
【0089】
[電解液を含浸させたときのセパレータの抵抗測定]
既述の曲路率の測定方法に基づき、実施例1および比較例1で作成したセパレータ、ならびに、上記のポリエチレン微多孔膜について、20℃あるいは−20℃において電解液を含浸させたときのセパレータの抵抗測定を実施した。その結果を表2に示す。また、得られた20℃の抵抗値から既述の式を適用することで、セパレータの曲路率を算出した。この結果も表2に示す。
なお、表2に示す、「20℃」および「−20℃」は、20℃および−20℃における試験セルの抵抗であり、「20℃/−20℃」は両者の比である。
【0090】
【表2】
【0091】
[抵抗測定結果の解釈]
表2から、曲路率が高いと膜抵抗が高くなり、低温における抵抗値上昇がより顕著になることがわかる。
【0092】
[非水電解質電池の作製]
実施例1〜
4,7,8、参考例1,2及び比較例1で作製したセパレータを用いて、次の手順に基づき、実施例1〜
4,7,8、参考例1,2及び比較例1の各非水電解質電池を作製した。
【0093】
(負極の作製)
負極活物質である人造黒鉛300g、バインダーであるスチレン−ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含む水溶性分散液7.5g、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース3g、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌し、負極用スラリーを作製した。この負極用スラリーを負極集電体である厚さ10μmの銅箔に塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を有する負極を得た。
【0094】
(正極の作製)
正極活物質であるコバルト酸リチウム粉末89.5g、導電助剤であるアセチレンブラック4.5g、及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン6gを、ポリフッ化ビニリデンの濃度が6質量%となるようにN−メチル−ピロリドン(NMP)に溶解し、双腕式混合機にて攪拌し、正極用スラリーを作製した。この正極用スラリーを正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を有する正極を得た。
【0095】
(電池の作製)
前記の正極と負極にリードタブを溶接し、セパレータを介してこれら正負極を接合させ、電解液をしみ込ませてアルミパック中に真空シーラーを用いて封入した。ここで電解液は1M LiPF
6 エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7質量比)を用いた。これを熱プレス機により電極1cm
2当たり20kgの荷重をかけ、90℃、2分の熱プレスを行うことで試験電池を作製した。
【0096】
[負荷特性(レート特性)試験]
負荷特性試験は上記のようにして作製した非水電解質電池を用いて実施した。電池の負荷特性は25℃にて0.2Cの放電容量を基準にした2Cの相対放電容量を測定し、これを指標とした。この試験を、実施例1〜
4,7,8、参考例1,2及び比較例1で作製したセパレータを用いた電池について実施した。その結果を表3に示す。
【0097】
[充放電サイクル試験]
充放電サイクル試験は前記作製した非水電解質電池を用いて実施した。充電条件は1C、4.2Vの定電流定電圧充電、放電条件は1C、2.75Vカットオフの定電流放電としサイクル特性試験を実施した。ここでサイクル特性の指標は100サイクル後の容量維持率とした。この試験を、実施例1〜
4,7,8、参考例1,2及び比較例1で作製したセパレータを用いた電池について実施した。その結果を表3に示す。
【0098】
[電極と接着性確認]
充放電サイクル試験後の電池を解体し、セパレータと電極の接着性を確認した。接着性は接着力と均一性の観点から確認し、その結果を表3に示す。なお、接着力に関しては、正極側の電極表面および負極側の電極表面のそれぞれについて、実施例1のセパレータを用いた場合の剥離強度を100としたときの相対値を表3に示す。
均一性に関しては、正極側および負極側のそれぞれについて剥離テストを行なった後における、電極表面における接着性多孔質層の付着程度から、次の評価基準に基づき評価した。
【0099】
−評価基準(均一性)−
A:接着性多孔質層がほぼ全て電極表面に付着していた〔均一性が良好〕。
B:接着性多孔質層の大部分が電極表面に付着しているが一部破損していた〔均一性が中程度〕。
C:接着性多孔質層の大部分が電極表面に付着しておらず著しく破損していた〔均一性が不良〕。
【0100】
なお、接着性多孔質層から電極表面を剥離するときの剥離強度は、次のようにして求めた。すなわち、JIS K 6854に基づき、正極側および負極側の各電極表面から、セパレータを剥離するときに要した荷重を測定することにより求めた。
この剥離試験で、正極側および負極側の各電極表面から、セパレータを剥離するときに要した荷重を測定することにより剥離強度を求めた。
【0101】
[シャットダウン特性]
実施例1〜
4,7,8、参考例1,2及び比較例1で作製した各セパレータについて、次の方法によりシャットダウン特性を評価した。結果を表3に示す。
まず、セパレータを直径19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製;エマルゲン210P)の3重量%メタノール溶液中に浸漬して風乾した。そしてセパレータに電解液を含浸させSUS板(直径15.5mm)に挟んだ。電解液には、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートが1対1の重量比で混合した溶媒に、1mol/LのLiBF
4を溶解させた液体を用いた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に振幅10mV、1kHzの周波数の交流を印加することでセルの抵抗を測定した。
上記測定で130〜140℃の範囲で抵抗値が10
3ohm・cm
2以上となった場合をAと評価し、140〜150℃の範囲で抵抗値が10
3ohm・cm
2以上となった場合をBと評価し、150℃超で抵抗値が10
3ohm・cm
2以上となった場合あるいはいずれの温度領域でも抵抗値が10
3ohm・cm
2以上にならなかった場合をCと評価した。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示す通り、△Gおよび△τを制御することにより、実施例では電池特性(負荷特性およびサイクル特性)、セパレータと電極との接着性、およびシャットダウン特性の全てについて優れていることが分かる。
【0104】
[実施例9]
塗工液として、スチレン−ブタジエン共重合体(スチレン共重合比40質量%):カルボキシルメチルセルロース:水=3:2:95[質量比]の混合物を用い、実施例1で用いたポリエチレン微多孔膜に両面等量塗工し、これを乾燥することでスチレン−ブタジエン共重合体からなる接着性多孔質層が形成されたセパレータを得た。このセパレータの物性値は、ガーレ値(G
s)が234秒/100cc、SD
GS/AV
GSが0.29、曲路率(τ
S)が2.25、ガーレ差(ΔG)が74秒/100cc、曲路率差(Δτ)が0.27であった。
なお、この実施例9についても実施例1と同様にして評価を行ったところ、実施例1と同程度の結果が得られた。