特許第5964962号(P5964962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5964962インサイチュで電気化学的に酸化を起こし有機硫黄化合物を変換する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964962
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】インサイチュで電気化学的に酸化を起こし有機硫黄化合物を変換する方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 27/00 20060101AFI20160721BHJP
   C10G 32/02 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C10G27/00
   C10G32/02 A
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-523054(P2014-523054)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公表番号】特表2014-521787(P2014-521787A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】US2012048479
(87)【国際公開番号】WO2013019596
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年7月16日
(31)【優先権主張番号】61/513,208
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513185700
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】SAUDI ARABIAN OIL COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】アル−シャフィ、エマド、ナジ
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第1992310(US,A)
【文献】 特表2000−507299(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤のインサイチュ生成を含む、液体炭化水素原料中の有機硫黄化合物を変換する方法であって:
a.酸化剤のインサイチュ生成及び有機硫黄化合物の酸化変換の両方が起こる電気化学反応器を準備することであって、前記反応器は、ガス透過性・液体不透過性陰極、及び電解液区画内の陽極を含み、前記陰極及び前記陽極は、電力供給源に電気的に結合され、互いに離間される、を準備すること;
b.酸性電解液及び前記液体炭化水素原料を、過酸化水素及び過酸化水素イオンが電気合成される前記電解液区画内に搬送すること;
c.有機硫黄化合物の酸化生成物であるスルホキシド及び/又はスルホンを生成するために、ステップ(b)で形成した過酸化水素で前記炭化水素原料中の有機硫黄化合物を酸化させること;及び
d.電解液と酸化生成物を含む炭化水素との混合液を前記電解液区画から除去すること
を含む方法。
【請求項2】
酸性電解液は、HSOを1から3のpHに調節した0.01から1.0MのNaSOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸性電解液は、HNOを1から3のpHに調節した0.01から1.0MのNaNOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸性電解液は、1から3のpHを有する0.01から2.0MのHNOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸性電解液は、1から4のpHを有する0.1から3.0Mの酢酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
酸性電解液は、1から4のpHを有する0.1から3.0Mのアジピン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酸化剤のインサイチュ生成を含む、液体炭化水素原料中の有機硫黄化合物を変換する方法であって:
a.酸化剤のインサイチュ生成及び有機硫黄化合物の酸化変換の両方が起こる電気化学反応器を準備することであって、前記反応器は、陰極液区画と通じる陰極としてのガス拡散電極、及び陽極液区画内の陽極を含み、前記陰極及び前記陽極は、電力供給源に電気的に結合され、互いに離間し、前記陰極液区画及び前記陽極液区画は、イオン伝導膜を介して流体を分離し、イオンを通す、を準備すること;
b.酸性陰極液及び前記液体炭化水素原料を、過酸化水素及び過酸化水素イオンが電気合成される前記陰極液区画内に搬送し、酸性陽極液を前記陽極液区画内に搬送すること;
c.有機硫黄化合物の酸化生成物であるスルホキシド及び/又はスルホンを生成するために、ステップ(b)で形成した酸化剤で前記炭化水素原料中の有機硫黄化合物を酸化させること;及び
d.陰極液と酸化生成物を含む炭化水素との混合液を前記陰極液区画から除去すること
を含む方法。
【請求項8】
前記陰極液は、HSOのpHを1から3に調節した0.01から1.0MのNaSOを含み、前記陽極液は、0.05から0.8MのHSOを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記陰極液は、0.1から1.0MのNaClと混合した0.01から1.0MのHClを含み、前記陽極液は、0.1から1.0MのHClを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記陰極液は、0.05から1.0MのKSOと混合した0.05から1.0MのHSOを含み、前記陽極液は、0.1から1.0MのNaSOを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記陰極液は、1から4のpHを有する酢酸を含み、前記陽極液は、0.1から1.0MのNaSOを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記陰極液は、1から4のpHを有するアジピン酸を含み、前記陽極液は、0.1から1.0MのNaSOを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記液体炭化水素原料を酸化触媒と接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記液体炭化水素原料を酸化触媒と接触させることを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
ペルオキシ酢酸が同時に発生し、共酸化剤及び/又は触媒として働く、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
ペルオキシ酢酸が同時に発生し、共酸化剤及び/又は触媒として働く、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
ペルオキシアジピン酸が同時に発生し、共酸化剤及び/又は触媒として働く、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
ペルオキシアジピン酸が同時に発生し、共酸化剤及び/又は触媒として働く、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体酸化剤を使用して炭化水素混合液中の有機硫黄化合物を酸化変換することに関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願
本出願は、2011年7月29日出願の米国仮特許出願第61/513,208号の利益を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
軽質軽油及び重質軽油の石油留分からの脱硫は、大抵、精油所において触媒水素化脱硫(HDS、hydrodesulfurization)によって行われる。しかし、HDS処理は、特に、立体障害性有機硫黄化合物が穏やかなHDS条件(例えば、30Kg/cmの水素分圧)ではあまり反応しないために制限されることは公知である。4,6−ジメチルジベンゾチオフェン(4,6−DMDBT)を含めたジベンゾチオフェン(DBT)誘導体等の立体障害性分子中の硫黄ヘテロ原子は、従来のHDS方法では活性触媒部位に暴露することができない。したがって、触媒HDSのために硫黄ヘテロ原子を囲む立体障害を除去するには、そのような立体障害性硫黄分子中の芳香環を最初に水素化しなければならず、この操作は高度な精密さが求められる。
【0004】
酸化脱硫(ODS、oxidative desulfurization)は、深度脱硫のための公知の代替方法又は相補的方法であり、多くのODS方法は、比較的穏やかな条件下で行われ、水素ガスを使用しなくとも良い。更に、ODSは、特に1つ又は複数の立体障害性硫黄ヘテロ原子を特徴とするDBT及びその誘導体等の有機硫黄化合物の脱硫に効率的である。
【0005】
典型的なODS方法には、有機硫黄化合物を反応性酸素の供給源によって酸化させる酸化ステップを含む。酸化有機硫黄化合物は、除去されるか又は選択的に硫黄ヘテロ原子を除去するために更なる反応を受ける。例えば、DBT及びその誘導体を酸化してDBT−スルホキシド及びDBT−スルホンを生成し、これらを公知の抽出及び/又は吸着方法によって除去することができる。
【0006】
ODS方法のための公知の酸化剤には、過酸化水素若しくは有機過酸化物等の液体酸化剤、又は空気若しくは酸素等のガス状酸化剤を含む。しかし、特定の方法要件及び非効率さにより、実行可能なODS操作に対する操作制限又は経済的な制限が引き起こされることがある。
【0007】
具体的には、過酸化水素及び/又は有機過酸化物等の液体酸化剤の輸送、取扱い、保管は、潜在的に危険な活動であり,高度な安全対策を必要とするために、既存のODS方法にかなりの出費が加わる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、ヘテロ原子を対応する酸化物に変換するための、過酸化水素及び/又は有機過酸化物の輸送、取扱い及び保管の必要性を最小にする酸化方法を提供することが望ましいと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つ又は複数の実施形態によれば、炭化水素原料を酸化させ脱硫するシステム及び方法を提供し、具体的には、炭化水素混合液中の有機硫黄化合物をスルホキシド及び/又はスルホンに変換するための酸化ステップを提供する。
【0010】
1つ又は複数の実施形態によれば、酸化剤のインサイチュ生成を含む、液体炭化水素原料中の有機硫黄化合物の変換方法を提供する。本方法は、
a.酸化剤のインサイチュ生成及び有機硫黄化合物の酸化変換の両方が起こる電気化学反応器を準備することであって、反応器は、ガス透過性・液体不透過性陰極、及び電解液区画内の陽極を含み、陰極及び陽極は、電力供給源に電気的に結合され、互いに離間される、を準備すること;
b.酸性電解液及び液体炭化水素原料を、過酸化水素及び過酸化水素イオンが電気合成される電解液区画内に搬送すること;
c.有機硫黄化合物の酸化生成物であるスルホキシド及び/又はスルホンを生成するために、ステップ(b)で形成した過酸化水素で炭化水素原料中の有機硫黄化合物を酸化させること;及び
d.電解液と酸化生成物を含む炭化水素との混合液を電解液区画から除去すること
を含む。
【0011】
1つ又は複数の更なる実施形態によれば、酸化剤のインサイチュ生成を含む、液体炭化水素原料中の有機硫黄化合物の変換方法を提供する。本方法は、
a.酸化剤のインサイチュ生成及び有機硫黄化合物の酸化変換の両方が起こる電気化学反応器を準備することであって、反応器は、陰極液区画と通じる陰極としてのガス拡散電極、及び陽極液区画内の陽極を含み、陰極及び陽極は、電力供給源に電気的に結合され、互いに離間し、陰極液区画及び陽極液区画は、イオン伝導膜を介して流体を分離し、イオンを通す、を準備すること;
b.酸性陰極液及び液体炭化水素原料を、過酸化水素及び過酸化水素イオンが電気合成される陰極液区画内に搬送し、酸性陽極液を陽極液区画内に搬送すること;
c.有機硫黄化合物の酸化生成物であるスルホキシド及び/又はスルホンを生成するために、ステップ(b)で形成した酸化剤で炭化水素原料中の有機硫黄化合物を酸化させること;及び
d.電解液と酸化生成物を含む炭化水素との混合液を電解液室から除去すること
を含む。
【0012】
これら例示的態様及び実施形態の更なる他の態様、実施形態及び利点は、以下で詳細に説明する。更に、前述の情報及び以下の詳細な説明は、様々な態様及び実施形態の例示的な例にすぎず、特許請求する態様及び実施形態の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組を提供するものであることは理解されよう。添付の図面は、様々な態様及び実施形態の例示及び更なる理解を提供するように含まれ、本明細書の一部に組み込まれ、この一部を構成するものである。図面は、本明細書の残りの部分と共に説明、記載し、特許請求する態様及び実施形態の原理及び操作を説明する役割を果たす。
【0013】
上述の概要及び以下の詳細な説明は、添付の図面と共に読めば最適に理解されよう。しかし、本発明は図示する正確な配置及び装置に限定されないことを理解されたい。図面において、同じ又は同様の参照番号は、同じ又は同様の要素を特定するために使用する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】個別の陽極液供給器及び陰極液供給器を有する電気化学反応器を使用する酸化脱硫方法の一実施形態の概略方法の流れ図である。
図2】共通の電解液を有する電気化学反応器を使用する酸化脱硫方法の一実施形態の概略方法の流れ図である。
図3】共通の電解液を有する電気化学反応器を使用する酸化脱硫方法の別の実施形態の概略方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
炭化水素原料を含有する混合液中の有機硫黄化合物を変換する方法及びシステムであって、それは電気化学反応器内で酸化剤をインサイチュ生成する、方法及びシステムを提供する。本方法は、従来から輸送、取扱い及び保管費用並びに安全対策が必要であった過酸化水素、有機過酸化物及び有機ヒドロペルオキシド等の液体酸化剤を外部供給源から酸化脱硫方法に導入する必要性を低減するか又はそれに取って代わるものである。
【0016】
中間体としての過酸化水素(H)及び過酸化水素イオン(HO)が酸化剤として発生する。酸化剤を炭化水素供給流と合わせて有機硫黄分子を酸化させる。電気化学反応器において、インサイチュでの酸化剤発生及び有機硫黄化合物の酸化の両方が起こる。
【0017】
インサイチュで酸化を発生させる電気化学的機構は、過酸化水素及び過酸化水素イオンを生成するように2つの電子経路をたどる酸性媒体の酸素還元であり、化1で表される。
【0018】
【化1】
【0019】
特定の実施形態では、過酸化水素を約200から約40,000ppmwの範囲の電気化学反応器で発生させ、更なる実施形態では、約200から約10,000ppmwの範囲で発生させ、また更なる実施形態では、約200から約1,000ppmwの範囲で発生させる。発生する過酸化水素の量は、一般に供給材料の硫黄含有量によって決まる。
【0020】
酢酸又はアジピン酸を使用する特定の実施形態では、ペルオキシ酢酸又はペルオキシアジピン酸はそれぞれ、過酸化水素及び過酸化水素イオンと共に同時に発生する。
【0021】
との有機硫黄化合物の酸化反応により、対応するスルホキシド及び/又はスルホンが生成される。例えば、ワン・ステップ反応は、DBTのスルホキシド分子の形成を含む(化2)。2ステップ反応は、DBTのスルホン分子の形成を含む(化3)。同様の反応は、4,6−DMDBT等の立体障害性DBT誘導体を含むDBTの誘導体で起こる。
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
電気化学反応器の構成は、変更することができる。特定の実施形態では、陰極及び陽極を有する連続撹拌槽型反応器(CSTR、continuous stirred tank reactor)が提供される。陰極は、反応器外側の周囲空気等の酸素供給源又は制御式酸素供給源と流体連通する表面を有する反応器の一方の側に置かれるガス拡散電極である。陽極は、反応器の構成に応じて電解液室又は陽極液室内に設置される。陰極及び陽極は、電極の両端に電流を印加する適切な電圧源に接続される。電気化学反応器の全体の電池電位は、一般的には約0.2から約10.0ボルトであり、特定の実施形態では、約0.7から約3.0ボルトである。電気化学反応器の電流は、一般的には約100から約2000mA/cmであり、特定の実施形態では、約500から約1500mA/cmである。システムのエネルギー消費は、約2から約18kWhkg−1である。
【0025】
酸素、例えば空気のガス供給源は、陰極の外側に面した面に導入され、酸素イオンが生成される。こうした酸素イオンを酸性電解液又は陽極液媒体からの水素陽イオンと合わせて、上記化1によって表される過酸化水素イオン及び過酸化水素を生成する。複数の反応器を直列に配置してもよい。
【0026】
反応器及び電解液槽(炭化水素供給流を含む)の温度条件は、約35℃から約90℃であり、特定の実施形態では、約45℃から約70℃である。反応器の圧力は、大気圧とすることができる。
【0027】
酸化硫黄含有炭化水素を含む炭化水素生成物混合液は、炭化水素生成物からスルホン及びスルホキシドを抽出するために溶媒抽出にかけることができる。或いは又は組み合わせて、酸化硫黄含有炭素を含む炭化水素生成物混合液は、酸化硫黄含有炭化水素化合物を硫黄不含炭化水素化合物に変換するのに適した1つ又は複数の方法にかけることができる。
【0028】
図1は、陰極液槽70、陽極液槽60、空気/酸素槽80及び液体セパレータ槽50と流体連通する電気化学反応器120の一実施形態を示す。電気化学反応器120は、3つの区画、即ち任意選択の酸素区画85、陰極液区画75及び陽極液区画65を含むガス拡散電極反応器である。スルホン化膜等の膜112は、陰極液区画75と陽極液区画65との間に位置し、イオンが区画間を移動するのを可能にするが、液体が区画間を通過するのを防止することができる。
【0029】
反応器120は、適切な電圧源(図示せず)に接続した、酸素還元のためのガス透過性・液体不透過性炭素ベースの陰極111、及び陽極113を含む。陽極113は、陽極液区画65に位置する。陰極111は、陰極液区画75の外側境界であり、膜112に対して離間し、例えば膜112を有する側とは逆の陰極液区画75の側に位置するが、他の配置が電池構成に応じて可能である。
【0030】
空気/酸素槽80からの酸素又は空気等の適切な酸素含有ガスは、空気/酸素槽80と酸素区画85との間を流体連通する導管81を介して酸素区画85に導入され、この酸素区画85は、酸素圧力を一般的には約1psigから約150psigに、特定の実施形態では、約1psigから約100psigに、更なる実施形態では、約1psigから約25psigに調整する適切な圧力調整器87を含む。過剰なガスは導管82を介して循環させ、空気/酸素槽80に再利用することができる。特定の実施形態では、空気/酸素供給は陰極111(図示せず)に直接導入することができ、即ち、図1に示される酸素区画85を最初に通過しないことに留意されたい。
【0031】
陰極液槽70は、水性陰極液とディーゼル原料等酸化すべき有機硫黄化合物を含有する炭化水素供給材料との混合液を含む。混合液は、導管71を介して反応器120の陰極液区画75に導入される。過酸化水素及び過酸化水素イオンの電気合成は、陰極液区画75内で起こる。インサイチュで発生した過酸化水素及び過酸化水素イオンは、原料中の硫黄含有炭化水素を酸化する酸化剤として働く。酸化有機硫黄化合物を含む、陰極液と炭化水素との混合液の合成流れは、陰極液区画75から導管72を介してポンプにより流出させるか、他の方法で取り除かれ、液体セパレータ槽50、例えば、遠心セパレータ又は他の適切な相分離装置に収集される。合成流れは、流れ40として回収される炭化水素相、及び流れ42として陰極液槽70に再利用される陰極液相に分離される。陽極液は、導管62を介して陽極液区画65に搬送され、導管63を介して陽極液槽60に再利用される。流れ40は、溶媒抽出(図示せず)にかけて硫黄不含炭化水素化合物からスルホン及びスルホキシドを抽出することができ、及び/又は生成物の収率を最大にするように酸化硫黄含有炭化水素化合物を硫黄不含炭化水素化合物に変換する適切な1つ又は複数の方法(図示せず)にかけることができる。
【0032】
図2は、イオン伝導電解液を備える電気化学酸化変換システムの別の実施形態及び方法を示す。具体的には、電気化学反応器220は、電解液槽170、空気/酸素槽180及び液体セパレータ槽150と流体連通する。電気化学反応器220は、任意選択の酸素区画185及び電解液区画175を含むガス拡散電極反応器である。
【0033】
反応器220は、酸素還元のためのガス透過性・液体不透過性炭素ベースの陰極211、及び陽極213を含み、両方とも適切な電圧源(図示せず)に接続される。陽極213は、電解液区画に置かれる。陰極211は、電解液区画175の外側境界であり、陽極213に対して離間して位置するが、他の配置が電池構成に応じて可能である。
【0034】
空気/酸素槽180からの酸素又は空気等の適切な酸素含有ガスは、空気/酸素槽180と酸素区画185との間を流体連通する導管181を介して酸素区画185に導入し、この導管181は、酸素圧力を一般的には約1psigから約150psigに、特定の実施形態では約1psigから約100psigに、更なる実施形態では、約1psigから約25psigに調整する適切な圧力調整器187を含む。過剰なガスがあれば出口182を介して循環させ、酸素槽180に再利用する。特定の実施形態では、空気/酸素供給は、例えば図3に示す構成で、図2に示す室185内に事前に導入せず陰極211に直接導入できることに留意されたい。
【0035】
電解液槽170は、水性電解液とディーゼル原料等酸化すべき有機硫黄化合物を含有する炭化水素供給材料との混合液を含む。混合液は、導管171を介して反応器220の電解液区画175に導入される。過酸化水素及び過酸化水素イオンは、電解液区画175内で電気合成される。インサイチュで発生した過酸化水素及び過酸化水素イオンは、原料中の硫黄含有炭化水素を酸化する酸化剤として働く。酸化有機硫黄化合物を含有する、電解液と炭化水素との混合液の合成流れは、導管172を介して電解液区画175からポンプで流出させるか又は他の方法で搬送し、液体セパレータ槽150、例えば遠心セパレータ又は他の適切な相分離装置に収集される。合成流れは、流れ140として回収される炭化水素相、及び流れ142として陰極液槽170に再利用する陰極液相に分離される。流れ140は、溶媒抽出(図示せず)にかけて硫黄不含炭化水素化合物からスルホン及びスルホキシドを抽出することができ、及び/又は生成物の収率を最大にするように酸化硫黄含有炭化水素化合物を硫黄不含炭化水素化合物に変換する適切な1つ又は複数の方法(図示せず)にかけることができる。
【0036】
図3は、電気化学酸化変換システム及び方法の更なる別の実施形態を示す。電気化学反応器320は、電解液槽270、空気/酸素槽280及び液体セパレータ槽250を含む。電気化学反応器320は、電解液区画275を含むガス拡散電極反応器である。
【0037】
反応器320は、適切な電圧源(図示せず)に接続された、酸素還元のためのガス透過性・液体不透過性炭素ベースの陰極311、及び陽極313を含む。陽極313は、電解液区画内に置かれる。陰極311は、電解液区画275の外側境界であり、陽極313に対して離間して位置するが、他の配置が電池の構成に応じて可能である。
【0038】
空気/酸素槽280からの酸素又は空気等の適切な酸素含有ガスは、導管281を介して陰極311に導入し、それによって酸素圧力は、一般的には約1psigから約150psigに、特定の実施形態では約1psigから約100psigに、更なる実施形態では、約1psigから約25psigに適切な圧力調整器(図示せず)により調節することができる。
【0039】
電解液槽270は、水性電解液とディーゼル原料等酸化すべき有機硫黄化合物を含有する炭化水素供給材料との混合液を含む。混合液は、導管271を介して反応器320の電解液区画に導入される。電解液区画275では、過酸化水素及び過酸化水素イオンの電気合成が生じ、インサイチュで発生した過酸化水素及び過酸化水素イオンは、原料中の硫黄含有炭化水素を酸化する酸化剤として働く。酸化有機硫黄化合物を含む、電解液と炭化水素との混合液の合成流れは、電解液区画275から導管272を介してポンプにより流出させ、遠心セパレータ又は他の適切な相分離装置等の液体セパレータ槽250に収集される。合成流れは、流れ240として回収する炭化水素相、及び流れ242として陰極液槽270に再利用する陰極液相に分離される。流れ240は、溶媒抽出(図示せず)にかけて硫黄不含炭化水素化合物からスルホン及びスルホキシドを抽出することができ、及び/又は生成物の収率を最大にするように酸化硫黄含有炭化水素化合物を硫黄不含炭化水素化合物に変換する適切な1つ又は複数の方法(図示せず)にかけることができる。
【0040】
特定の実施形態では、本明細書に記載した1つ又は複数の同一又は異なる電気化学反応器は、電気化学的に発生する過酸化水素が増加するように直列に配置され、これによって原料の酸化が促進される。
【0041】
図1から図3に関して示し、説明したシステムで使用する陰極は、一般的にはガス拡散電極である。こうしたガス拡散電極は、ガス拡散電極と適合する陽極との間に電圧を印加すると、大気又は加圧酸素ガスを酸素イオンに変換する。好ましくは、選択するガス拡散電極は、例えば、燃料電池及び電気化学電池に使用される貴金属の触媒担体等、表面積の大きい炭素基材から構築して、高い酸素スループット及び高い電流密度を可能にする。更に、適切な炭素ベースの電極は、陰極液区画又は電解液区画において水性相又は有機相内への金属の浸出が最小であるか又は浸出がないことを特徴とする。
【0042】
適切な陰極は、炭素−ポリテトラフルオロエチレン(炭素−PTFE)、5から50重量%の白金を有する炭素布、網目ガラス状炭素(RVC)、白金めっきチタン電極、ガラス状炭素、ニッケル・メッシュを有する炭素−PTFE、又は鉄メッシュ/炭素布複合物の基材を含む。
【0043】
陽極は、ガス拡散陰極に対して適切な対向電極を与えるように選択される。一般的には、選択する陽極は、システム流体、例えば、陽極液又は電解液への溶解性が最小であり、好ましくは、システム流体に不溶性であり、それによって陽極からの溶解材料が流体を汚染する可能性を最小にするか、又はその可能性をなくす。負電圧は、陽極液又は電解液の酸からの陽子に反発し、過酸化水素及び過酸化水素イオンを形成する結合を促進させる。適切な陽極材料は、白金ガーゼ、ステンレス鋼ガーゼ、銀めっきニッケル・スクリーン、Ti/Pt陽極、ケイ素/BDD薄膜電極等のホウ素ドープダイヤモンド(BDD、boron−doped diamond)、鉄線、白金箔、アクリル樹脂、アルミニウム・ガーゼ、アルミニウム/炭素、セシウム/鉄ガーゼ、セシウム/炭素、ガラス状炭素、及び炭素−PTFEを含む。
【0044】
図1のシステム構成では、陽子交換膜を用いて、液体分離を維持すると同時に陽子の陽極液区画と陰極液区画との間の往復を可能にし、過酸化水素(HO2−)イオンの移動の防止を可能にする。適切な膜には、Dupont社から市販のスルホン化膜(Nafion(登録商標))等のスルホン化膜、又はTetramerTechnologies社からのスルホン化PFCBが挙げられる。選択する膜は、一般的には最大約150℃の熱安定性及び機械的安定性を有する。
【0045】
図1のシステム構成では、相補的陰極液/陽極液反応体を使用する一方で、図2図3のシステム構成では、電解液を使用する。陰極液又は電解液のpHは、1から4の間である。炭化水素:電解液比は、約20:1から約2:1とすることができる。
【0046】
適切な陰極液/陽極液システムは、以下を含む。
1.陰極液:HSOをpH1から3で調節した0.01から1.0MのNaSO
陽極液:0.05から0.8MのHSO
2.陰極液:0.1から1.0MのNaClで混合した0.01から1.0MのHCl
陽極液:0.1から1.0MのHCl;
3.陰極液:0.05から1.0MのKSOで混合した0.05から1.0MのHSO
陽極液:0.1から1.0MのNaSO;又は
4.陰極液:1から4のpHを有する0.1から3Mの酢酸又はアジピン酸
陽極液0.1から1.0MのNaSO
【0047】
図2図3の方法構成の使用に)適切な電解液は、以下を含む。
1.HSOを1から3のpHに調節した0.01から1.0MのNaSO
2.HNOを1から3のpHに調節した0.01から1.0MのNaNO
3.1から3のpHを有する0.01から2.0MのHNO;又は
4.1から4のpHを有する0.1から3Mの酢酸又はアジピン酸。
【0048】
任意選択で、固体触媒を酸化脱硫の反応比を増大させるために導入することができる。適切な触媒は、亜鉛、鉛、バナジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、銅、コバルト、スズ、酸化物及び鉄を含めた、周期表のVB族、VI族又はIIB族からの元素の金属酸化物である。触媒は、合わせた電解液(又は陰極液)及び炭化水素供給材料の約0.2から約2%の量で提供することができる。酸化触媒は、陰極に直接統合して及び/又は電気化学反応器の被覆物として統合して、固体粒子として電気化学反応器に添加することができる。
【0049】
触媒は、ポリオキソメタル酸、ギ酸、酢酸、ケイ酸チタン、バナドケイ酸、マグネシウムランタニド酸化物、2層状複水酸化物、Mo/Al、コバルト塩、シリカ、ペルオキシカルボキシル基官能化シリカ、フェントン触媒、MnO/Al、Co/Al、V/TiO、Al、金属−スルホフタロシアニン、Fe/炭素、HPW1240−SBA15、CoAPO−5及びW/ZrO、Al又は上述の組合せを含めて、同種であっても、異種であってもよい。
【0050】
酢酸又はアジピン酸を含む電解液を利用するインサイチュ酸化脱硫により、ペルオキシ酢酸又はペルオキシアジピン酸が同時に発生する。同時に発生したペルオキシ酢酸及びペルオキシアジピン酸は、共酸化剤及び/又は触媒としても働き、有機硫黄のスルホキシド及びスルホンへの酸化速度を増加させる。
【0051】
本方法及びシステムに使用する適切な原料は、限定するものではないが、直留、水素処理及び/又は分留のナフサ、ガソリン、ディーゼル並びに軽油を含む。
【0052】
概略方法の図面及び例を参照して本発明の方法を記載し説明してきた。更なる変形形態及び修正形態は上記説明に基づき当業者にとって明らかであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって決定すべきである。
【符号の説明】
【0053】
50 液体セパレータ槽
60 陽極液槽
65 陽極液区画
70 陰極液槽
75 陰極液区画
80 空気/酸素槽
85 酸素区画
111 陰極
112 膜
113 陽極
120 電気化学反応器
図1
図2
図3