(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミック原料を含む坏土を押出し、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム形状のハニカム成形体を成形しながら、押出された乾燥前の前記ハニカム成形体を、前記ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に0.3kHz以上の周波数で振動させた切断刃によって切断するハニカム成形体の切断方法。
前記ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の振動である縦振れと、前記ハニカム成形体が移動する方向に平行な方向の振動である横振れと、を含み、前記横振れの振幅が30μm以上で前記切断刃が振動している請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム成形体の切断方法。
前記坏土を水平方向に押出し、前記ハニカム成形体を成形しながら、押出された前記ハニカム成形体を、前記切断刃によって前記ハニカム成形体の前記セルの延びる方向に直交する方向の断面が形成されるように切断する請求項1〜7のいずれか一項に記載のハニカム成形体の切断方法。
前記切断刃の移動速度における前記ハニカム成形体の前記セルの延びる方向に直交する方向の成分が、10〜100mm/秒である請求項1〜8のいずれか一項に記載のハニカム成形体の切断方法。
前記ハニカム成形体の押出し速度と、前記切断刃の移動速度における前記ハニカム成形体の前記セルの延びる方向に平行な方向の成分とが、同じである請求項1〜9のいずれか一項に記載のハニカム成形体の切断方法。
前記切断刃の両方の端部が、0.3kHz以上の周波数の振動を発生させる振動子に連結された支持部材により支持されている請求項1〜12のいずれか一項に記載のハニカム成形体の切断方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の切断方法は、ハニカム成形体の切断を開始する部分に、予めナイフ状の工具で切れ目を入れておき、この切れ目に鋼線を侵入させるものである。鋼線を用いて切断する場合、鋼線がハニカム成形体に接触してからハニカム成形体内に進入を開始する切断初期の段階においてハニカム成形体のセルの変形が大きくなるためである。切れ目は、通常、外周壁の厚さと同程度または深くても更に数セル分の深さである。ナイフ状の工具を深く入れ過ぎるとセルの変形を引き起こし易い。予めナイフ状の工具で切れ目を入れる切断方法は、切断初期に起因した切断面でのセルの変形を少なくする上で有効ではあるが、上記工具で切れ目を入れる工程が必要であるため工程数が多くなる。また、切断初期以外の切断に起因したセルの変形には寄与していない。特許文献2に記載の切断方法は、鋼線に振動を付与しながらハニカム成形体を切断するため、ハニカム成形体をより良好に切断することができる。即ち、ハニカム成形体の切断に際して、鋼線からハニカム成形体に加えられる力によってハニカム成形体の切断面においてセルの変形を少なくすることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の切断方法においては、短期間で鋼線が切れてしまうことがある。鋼線が切れてしまうと、ハニカム成形体の押出し成形と切断作業を中断して新しい鋼線を設置する必要があり、新しい鋼線を設置するための手間と時間がかかる。更には、連続的な押出し成形の作業の中断は、ハニカム成形体の品質にも悪影響を及ぼす。
【0007】
ハニカム成形体のセルを区画形成する隔壁は、非常に薄く軟らかいため鋼線からハニカム成形体に加えられる力によってハニカム成形体のセルが変形する。この変形は切断面に留まらずハニカム成形体の内部に波及する。そして、セルが変形することは、ハニカム構造体としての機械的強度を低下させるのみならず、触媒を担持させる際に触媒用スラリーによってセルが閉塞されるという問題を生じさせることがある。これらの不具合を防止するために、ハニカム成形体は、乾燥後、切断面を含む両端部を切断することにより上記変形部分(不良部分)が除去されている。変形の度合いが大きい場合は、ハニカム成形体の内部へ波及する影響も大きく、より多くの両端部を切断除去することが必要になる。
【0008】
連続的な押出し成形において、ハニカム成形体が押出し口金で与えられた構造を維持するためには、各セルにハニカム成形体の切断面から大気が供給される必要がある。大気が供給されないセルは大気圧で潰れてしまう。セルの変形の程度が大きくてセルが閉塞されてしまう場合、切断面で閉塞したセルは、大気が供給されないために押出しの過程でセルが全長にわたり潰れてしまうことになる。全長にわたってセルが潰れてしまうと、上記のように両端部を切断することでは不良部分を除去できない。従って、セルを閉塞させてしまうような大きな変形は、ハニカム成形体の歩留まりを著しく下げることになる。
【0009】
自動車の排ガスの浄化に用いる触媒担体は、触媒性能の向上を図るために、隔壁を薄くし且つセル密度を高めるように開発が進められてきた。一方で、隔壁を薄くすることによりハニカム成形体は、切断時にセルが変形し易くなり、また、セル密度を高めることが、セルの変形の発生に起因し、セルの閉塞が生じ易くなった。そのため、ハニカム成形体の押出し速度やハニカム成形体の切断速度を下げることなく、切断時に発生するハニカム成形体の切断面の変形を減少させ、押出し成形・切断作業の停止頻度も減少させ得る切断方法の開発が切望されていた。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の課題とするところは、切断後のハニカム成形体(ハニカム成形体切断品)の切断面におけるセルの変形が少なく、生産効率も改善し得るハニカム成形体の切断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム成形体の切断方法が提供される。
【0012】
[1] セラミック原料を含む坏土を押出し、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム形状のハニカム成形体を成形しながら、押出された前記ハニカム成形体を、前記ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に0.3kHz以上の周波数で振動させた切断刃によって切断するハニカム成形体の切断方法。
【0013】
[2] 前記切断刃が、周波数10kHz以上で高周波振動している前記[1]に記載のハニカム成形体の切断方法。
【0014】
[3] 前記切断刃が、前記ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の振動の振幅が15〜40μmで振動している前記[1]または[2]に記載のハニカム成形体の切断方法。
【0015】
[4] 前記切断刃の厚さが、0.6mm以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0016】
[5] 前記ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の振動である縦振れと、前記ハニカム成形体が移動する方向に平行な方向の振動である横振れと、を含み、前記横振れの振幅が30μm以上で前記切断刃が振動している前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0017】
[6] 前記切断刃の幅が、5〜30mmである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0018】
[7] 前記切断刃が、出力50W以上で振動している前記[1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0019】
[8] 前記坏土を水平方向に押出し、前記ハニカム成形体を成形しながら、押出された前記ハニカム成形体を、前記切断刃によって前記ハニカム成形体の前記セルの延びる方向に直交する方向の断面が形成されるように切断する前記[1]〜[7]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0020】
[9] 前記切断刃の移動速度における前記ハニカム成形体の前記セルの延びる方向に直交する方向の成分が、10〜100mm/秒である前記[1]〜[8]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0021】
[10] 前記ハニカム成形体の押出し速度と、前記切断刃の移動速度における前記ハニカム成形体の前記セルの延びる方向に平行な方向の成分とが、同じである前記[1]〜[9]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0022】
[11] 前記ハニカム成形体の前記隔壁の厚さが、50〜300μmである前記[1]〜[10]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0023】
[12] 前記切断刃として、材質が、ステンレス鋼、焼入れステンレス鋼、炭素鋼である切断刃を用いる前記[1]〜[11]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【0024】
[13] 前記切断刃の両方の端部が、0.3kHz以上の周波数の振動を発生させる振動子に連結された支持部材により支持されている前記[1]〜[12]のいずれかに記載のハニカム成形体の切断方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のハニカム成形体の切断方法は、セラミック原料を含む坏土を押出し、ハニカム形状のハニカム成形体を成形しながら、このハニカム成形体を、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に0.3kHz以上の周波数で振動させた切断刃によって切断する方法である。このように、本発明のハニカム成形体の切断方法によれば、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に所定以上の周波数で振動させた切断刃によって上記ハニカム成形体を切断するため、切断後のハニカム成形体の切断面におけるセルの変形を少なくすることができる。また、押出し成形・切断工程の生産効率を改善できる。具体的には、ハニカム成形体の切断手段として鋼線ではなく切断刃を用いることにより、上記切断手段が短期間で破損してしまうことを防止することができる。そのため、短期間のうちに切断手段を交換する手間が掛からない。つまり、切断刃であれば次の交換までの期間が長く、不意に破損した切断刃を交換するためにハニカム成形体の切断作業を中断しなければならない事態が、短期間では生じ難くなる。そのため、本発明のハニカム成形体の切断方法によれば、ハニカム成形体切断品を効率良く得ることができる。また、特許文献1に記載されているような、予めナイフ状の工具で切れ目を入れる工程は不要であるので、切断工程を単純化できる。また、切断設備が停止する頻度が低下することにより、ハニカム成形体の品質の向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0028】
[1]ハニカム成形体の切断方法:
本発明のハニカム成形体の切断方法では、セラミック原料を含む坏土を押出し、ハニカム形状のハニカム成形体を成形しながら、このハニカム成形体を、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に0.3kHz以上の周波数で振動させた切断刃によって切断する。ハニカム形状のハニカム成形体は、複数のセルを区画形成する隔壁を有するものである。なお、本発明のハニカム成形体の切断方法は、基本的には切断方向(後述する直交方向)に切断刃を所定以上の周波数で振動させ、小刻みに上記切断刃が振動しながらハニカム成形体へ侵入してハニカム成形体を切断するという原理を用いるものである。上記「切断方向」は、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向ということもできる。
【0029】
本発明のハニカム成形体の切断方法では、更に、切断方向と垂直の方向にも振動(横振れ)することによって、ハニカム成形体を良好に切断することができる。即ち、横振れは切断面を離す役割があると考えられ、切断時の摩擦を減らして良好な切断ができると考えられる。
【0030】
本発明のハニカム成形体の切断方法では、上述のようにして押出されたハニカム成形体を、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に高周波振動させた切断刃によって切断することが好ましい。このようにすることで、ハニカム成形体のセルが潰れてしまうことをより確実に防止することができる。本明細書において「高周波振動」とは、周波数が10kHz以上の振動のことである。なお、「超音波工学-理論と実施」(株式会社 工業調査会)島川正憲 著では、「高周波」を10kHz〜1MHzとしている。
【0031】
本発明のハニカム成形体の切断方法は、上述の通り、セラミック原料を含む坏土を押出し、ハニカム形状のハニカム成形体を成形しながら、このハニカム成形体を、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向に所定以上の周波数で振動させた切断刃によって切断する。そのため、本発明のハニカム成形体の切断方法によれば、切断後のハニカム成形体の切断面におけるセルの変形を少なくすることができる。その結果として、乾燥後の両端面の切断代を少なくし、または、切断代をなくすことができる。また、ハニカム成形体の全長に亘ってセルが潰れてしまうことを防止することにより、ハニカム成形体の歩留まりを改善することもできる。
【0032】
本発明のハニカム成形体の切断方法では、切断後のハニカム成形体が、一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム形状となる限り、ハニカム成形体をどの方向に切断してもよい。本発明のハニカム成形体の切断方法においては、以下のようにしてハニカム成形体を切断することが好ましい。即ち、上記坏土を水平方向に押出し、押出し方向(水平方向)に延びるハニカム成形体を成形しながら、このハニカム成形体を、切断刃によってハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向に沿って切断することが好ましい(
図1,
図2参照)。ハニカム成形体を「ハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向に沿って切断する」とは、ハニカム成形体を、このハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向の断面が形成されるように切断することを意味する。このようにハニカム成形体を切断することによって、切断後のハニカム成形体の切断面の形状が更に良好となる。
図1は、本発明のハニカム成形体の切断方法の一の実施形態によりハニカム成形体を切断する状態を模式的に示す正面図である。
図2は、本発明のハニカム成形体の切断方法の一の実施形態によりハニカム成形体を切断する状態を模式的に示す側面図である。
【0033】
本発明のハニカム成形体の切断方法において、切断刃は、セルの延びる方向に移動するハニカム成形体の移動速度(ハニカム成形体の押出し速度)に合わせて移動しながらハニカム成形体を切断する。そのため、切断刃の移動速度は、「ハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向の成分」と「ハニカム成形体のセルの延びる方向の成分」との合成の速度となる。
【0034】
切断刃の移動速度における「ハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向の成分(移動速度成分)」は、10〜100mm/秒とすることが好ましい。また、30〜70mm/秒とすることが更に好ましい。切断刃の移動速度成分を上記範囲とすることにより、ハニカム成形体を更に効率良く切断することができる。即ち、ハニカム成形体を切断してハニカム成形体切断品を得るために必要な時間を適切に設定することができる。そのため、「最終製品であるハニカム構造体」の製造工程に、本発明のハニカム成形体の切断方法を採用することにより、「最終製品であるハニカム構造体」の生産効率が更に向上する。上記移動速度成分が上記下限値未満であると、切断刃がセルの開口を塞ぎ、大気圧によりセルが潰されるおそれがある。上記上限値超であると、切断時の衝撃が増加するため、セルが潰されるおそれがある。なお、上記移動速度成分は、上記の通りであるが、「切断刃の移動速度におけるハニカム成形体のセルの延びる方向の成分」は、ハニカム成形体の押出し速度と同じにすることが好ましい。これは、セルの延びる方向に直交する切断面を有するハニカム成形体切断品を得ることができるためである。
【0035】
ハニカム成形体の押出し速度と、切断刃の移動速度における「ハニカム成形体のセルの延びる方向に平行な方向の成分」とは、同じであることが好ましい。このようにすると、切断刃によってセルを塞ぎ止めてしまうことが生じ難い条件でハニカム成形体を切断することができるため、大気圧によるセルの潰れ、及び、切断刃の変形が発生し難くなる。なお、ハニカム成形体の押出し速度は、通常10〜100mm/秒である。
【0036】
[1−1]ハニカム成形体:
ハニカム成形体は、セラミック原料を含む坏土を押出し、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム形状に成形されたものである。つまり、本発明のハニカム成形体の切断方法では、例えば押出成形機に充填された坏土を押出成形機の口金を通して押出し、押出成形機から押出されて延びている状態のハニカム成形体を切断刃で切断する。上記ハニカム成形体は、軟らかいものである。なお、ハニカム成形体とする前の硬度(ホケ硬度)は、1.0〜2.0kgf程度である。ホケ硬度は、レオメータにより測定した値である。
【0037】
坏土は、上述のようにセラミック原料を含んでおり、このセラミック原料としては、例えば、アルミナ、カオリン、タルクなどを挙げることができる。
【0038】
坏土としては、セラミック原料以外に、水、バインダなどを含むものを用いることができる。
【0039】
ハニカム成形体は、隔壁の厚さが50〜300μmであるものとすることができる。本発明のハニカム成形体の切断方法によれば、隔壁の厚さが上記範囲のものであっても良好に切断することができる。即ち、上記坏土からなり、隔壁の厚さが上記範囲のように薄いハニカム成形体は、従来の切断方法であると、切断する際に薄い隔壁が変形してしまう(つまり、セルが潰れてしまう)ことがある。一方、本発明のハニカム成形体の切断方法であれば、ハニカム成形体の隔壁が変形してしまうことを防止できる。即ち、ハニカム成形体を切断する際にセルが潰れてしまうことを防止することができる。
【0040】
ハニカム成形体は、セル密度が50〜200個/cm
2であるものとすることができる。本発明のハニカム成形体の切断方法によれば、セル密度が上記範囲であるハニカム成形体を、セルが潰れることなく良好に切断することができる。
【0041】
ハニカム成形体の形状は、特に制限はなく、円柱状、楕円柱状、多角柱状などを挙げることができる。
【0042】
[1−2]切断刃:
切断刃は、上述した切断手段としての鋼線とは区別されるものである。この切断刃の形状は、特に制限されないが、一方向(長手方向)に長い板状であることが好ましい(
図1,
図2参照)。このような切断刃を用いることにより、切断後のハニカム成形体の端面におけるセルの形状が良好になる。また、切断後のハニカム成形体を効率良く得ることができ、更に、原料の歩留まりを向上させることができる。
【0043】
切断刃の厚さは、0.6mm以下であることが好ましく、0.25〜0.50mmであることが更に好ましく、0.30〜0.40mmとすることが特に好ましい。切断刃の厚さが上記範囲であることにより、ハニカム成形体を、セルが潰れることなく切断することができる。切断刃の厚さが下限値未満であると、切断刃が破断し易く、ハニカム成形体の切断設備が停止する頻度が増加するおそれがある。上限値超であると、ハニカム成形体の切断抵抗が増加するため、セルが変形するおそれがある。「切断刃の厚さ」とは、ハニカム成形体を切断する際に切断刃をハニカム成形体に立てたとき、切断刃がハニカム成形体に接する部分の上記長手方向に直交する方向の長さのことである。
【0044】
切断刃の幅は、5〜30mmであることが好ましい。切断刃の幅が上記範囲であることにより、ハニカム成形体を、セルが潰れることなく切断することができる。切断刃の幅が下限値未満であると、切断刃の横ぶれが大きくなり、切断精度が悪化するおそれがある。上限値未満であると、切断刃とハニカム成形体との接触面積が増加するため、セルを変形させるおそれがある。「切断刃の幅」とは、切断刃の刃から峰までの最長の距離のことである。
【0045】
切断刃の長さは、ハニカム成形体が円柱状である場合、ハニカム成形体の端面の直径よりも長いものであれば特に制限はない。具体的には、切断刃の長さは、200〜300mmとすることができる。
【0046】
切断刃の材質は、高強度で耐磨耗性に優れた材質であることが好ましい。切断刃の材質は、具体的には、ステンレス鋼(SUS)、焼入れステンレス鋼、炭素鋼などとすることができ、このような材質であると、与えられる振動に長期間耐えることが可能である。なお、「焼入れステンレス鋼」とは、焼入れを行ったステンレス鋼のことであり、具体的には、ステンレス鋼を変態点以上の温度で保持し、その後、急冷処理を行ったステンレス鋼のことである。
【0047】
切断刃の刃先形状は、例えば、両刃、片刃、ノコ刃などとすることができる。
【0048】
切断刃は、両方の端部が、0.3kHz以上の周波数の振動を発生させる振動子に連結された支持部材により支持されたもの(両持ちの切断刃)とすることができる。また、切断刃は、一方の端部が支持部材により支持され且つ他方の端部は自由端であって支持部材が振動子に連結されたもの(片持ちの切断刃)であってもよい。切断刃は、上記「両持ちの切断刃」であることが好ましい。両持ちの切断刃であると、切断刃の振動が一方向に安定するため、ハニカム成形体の切断面の形状が更に良好となるように切断することができる。
【0049】
図1,
図2は、両持ちの切断刃10を備える切断装置100を用いてハニカム成形体20を切断する状態を示している。
図3は、片持ちの切断刃10を備える切断装置101を示している。
図3は、本発明のハニカム成形体の切断方法の他の実施形態に用いる切断装置を模式的に示す正面図である。
【0050】
本発明のハニカム成形体の切断方法に用いられる切断装置としては、上述したような
図1に示す切断装置100や
図3に示す切断装置101を挙げることができる。
【0051】
図1に示す切断装置100は、0.3kHz以上の周波数の振動(例えば高周波振動)を発生させる振動子(図示せず)を備える切断部本体12と、この振動子に連結された第1支持部材14と、この第1支持部材14に両方の端部が支持された切断刃10とを備えている。第1支持部材14は、切断刃10が移動しないように保持しつつ支持している。
【0052】
図1は、坏土を水平方向X(
図2参照)に押出し、水平方向Xに延びるハニカム成形体20を成形しながら、ハニカム成形体20を、切断刃10によって切断する状態を示している。ハニカム成形体20は、複数のセル2を区画形成する隔壁5を有するハニカム形状のものである。切断刃10は、ハニカム成形体20のセル2の延びる方向に直交する方向Y(
図2参照)に高周波振動している。切断刃10は、ハニカム成形体20のセル2の延びる方向に直交する方向Y(
図2参照)に沿ってハニカム成形体20を切断している。
【0053】
図3に示す切断装置101は、0.3kHz以上の周波数の振動(例えば高周波振動)を発生させる振動子を備える切断部本体12と、この振動子に連結された第2支持部材16と、この第2支持部材16に一方の端部が支持され且つ他方の端部が自由端である切断刃10とを備えている。第2支持部材16は、切断刃10が移動しないように保持しつつ支持している。
【0054】
[1−3]0.3kHz以上の周波数の振動:
本発明のハニカム成形体の切断方法では、切断刃を0.3kHz以上の周波数で振動させる。このように切断刃を所定以上の周波数で振動させながらハニカム成形体を切断することによって、切断後のハニカム成形体の端面におけるセルの形状が良好になる。
【0055】
本発明のハニカム成形体の切断方法では、切断刃を高周波振動させることが好ましい。高周波振動の条件は、周波数が10kHz以上であり、20〜40kHzとすることが好ましく、20〜30kHzとすることが更に好ましい。上記周波数が上記下限値未満であると、切断抵抗が増加するため、ハニカム成形体の端面におけるセルが潰れてしまうおそれがある。なお、切断刃の周波数は、切断刃に加える振動の周波数(加振周波数)と同じになる。
【0056】
切断刃の振動の条件は、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の振動の振幅が15〜40μmであることが好ましい。上記振幅が上記下限値未満であると、切断時にセルを変形させてしまうおそれがある。上記振幅が上記上限値超であると、切断刃のひずみが増大するため、破断頻度が増加するおそれがある。
【0057】
切断刃の進行方向におけるハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向を「直交方向」とする。切断刃には、直交方向(別言すれば、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向)の振動のみを加えることが通常であるが、切断刃に加える振動(切断刃の振動条件)は、例えば上記直交方向に平行な方向の振動(横振れ)を有する振動とすることができる。即ち、上記切断刃は、上記直交方向に平行な方向の振動Aと、この振動A以外の他の方向の振動Bとを有する振動(合成振動)で振動していてもよい。本発明のハニカム成形体の切断方法において、上記切断刃は、上記合成振動で振動していてもよいが、上記直交方向に平行な方向の振動からなり、他の方向の振動(上記横振れを除く)を有さない振動であることが好ましい。なお、上述したように、直交方向に平行な振動(縦振れ)以外に、横振れ(「前後振れ」ともいう)を有する振動であると、ハニカム成形体を良好に切断することができる。
【0058】
縦振れ(ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の振動)と、横振れ(ハニカム成形体が移動する方向に平行な方向の振動)と、を含む振動である場合(つまり、切断刃がこのような合成振動をする場合)、横振れの振幅が30μm以上であることが好ましい。このような構成とすることにより、ハニカム成形体を更に良好に切断することができる。
【0059】
切断刃の振動条件は、出力が50W以上であることが好ましく、50〜500Wであることが更に好ましく、90〜300Wであることが特に好ましく、100〜150Wであることが最も好ましい。上記出力が上記下限値未満であると、振動が切断抵抗により減衰するため、ハニカム成形体の端面におけるセルが潰れてしまうおそれがある。なお、500W超であると、振動が強すぎるため、切断刃が破断するおそれがある。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
まず、20質量%のアルミナ、40質量%のカオリン、40質量%のタルクからなるセラミック原料に、このセラミック原料に対して30質量部の水、3質量部のバインダからなる坏土を用意した。次に、この坏土を、押出し成形機を用いて、複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム形状に押出し成形した。押出し成形機における坏土の押出し速度は、50mm/秒であった。また、ハニカム成形体は、隔壁の厚さが75μmであった。このハニカム成形体は、セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状(セル形状)が六角形でセル密度が93個/cm
2のものとした。六角形のセルは潰れ易く、また、このハニカム成形体は薄壁品であり、隔壁が直線となっていないハニカム成形体で確認を行うためである。ハニカム成形体は、押出し成形機から水平方向に押出された後、水平方向に搬送された。そして、上記押出し成形機から押出されている状態のハニカム成形体を、所定の長さとなるように、順次、幅18mm、厚さ0.5mm、長さ300mmの切断刃によって切断した。切断刃は、その両端部が支持部材により支持され、この支持部材が振動子に連結された「両持ちのもの」を用いた(
図1参照)。また、この切断刃は、刃先形状が「両刃」であった。ハニカム成形体を切断する際、切断刃に加えた振動の周波数(加振周波数)は0.4kHzであり、出力(加振出力)を10Wとした。このようにして、切断刃を、ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の周波数が0.4kHz、振幅(縦振幅)が20μmで、且つ、ハニカム成形体が移動する方向に平行な方向の周波数が10kHz、振幅(前後振幅)が5μm未満で振動させた。切断刃の移動速度におけるハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向の成分(移動速度成分)は、150mm/秒未満の速さであった。ハニカム成形体は、鉛直方向(別言すれば、ハニカム成形体のセルの延びる方向に直交する方向)に沿って切断した。なお、表1中、「ハニカム成形体が移動する方向に垂直な方向の周波数」を「縦振動に対する周波数」と示し、「ハニカム成形体が移動する方向に平行な方向の周波数」を「前後振動に対する周波数」と示す。
【0062】
このようにして得られた切断後のハニカム成形体は、両端面がセルの延びる方向に直交する面であり、外形が円柱状であり、両端面の直径はそれぞれ110mmであった。なお、表1中、「両持ち/片持ち」は、切断刃が「両持ちの切断刃」である場合を「両持ち」と示し、切断刃が「片持ちの切断刃」である場合を「片持ち」と示す。
【0063】
切断後のハニカム成形体について、以下の[セルの潰れ]及び[耐久性]の評価を行った。
【0064】
[セルの潰れ]
切断後のハニカム成形体の端面を、目視にて観察し、以下の基準で評価を行った。切断刃がハニカム成形体に進入できず、ハニカム成形体を切断できない場合を「不可」とした(表中、「1」と示す)。最外周セルから数えて4つ目または5つ目のセルまで潰れが確認され、更に、連続してハニカム成形体を切断できない場合を「可」とした(表中、「2」と示す)。最外周セルから数えて2つ目または3つ目のセルまで潰れが確認されるが、連続してハニカム成形体を切断できる場合を「まずまず良い」とした(表中、「3」と示す)。最外周セルのみに潰れが確認されるが、連続してハニカム成形体を切断できる場合を「良い」とした(表中、「4」と示す)。セルの潰れが確認されず(つまり、ハニカム成形体のセルが変形しておらず(即ち、ハニカム成形体の端面における隔壁が変形しておらず))、更に、連続してハニカム成形体を切断できる場合を「非常に良い」とした(表中、「5」と示す)。評価結果を表1に示す。
【0065】
[耐久性]
ハニカム成形体の切断を行った場合における切断手段(切断刃、鋼線)の状態を観察して、以下の基準で評価を行った。切断中の切断負荷によって、まもなく折損する場合を「不可」とした(表中、「1」と示す)。切断開始後10分以内に折損する場合を「可」とした(表中、「2」と示す)。切断開始後12時間まで連続して使用できるが、その後折損する場合を「まずまず良い」とした(表中、「3」と示す)。切断開始後24時間まで連続して使用できるが、その後折損する場合を「良い」とした(表中、「4」と示す)。切断開始後24時間超、連続して使用できる場合を「非常に良い」とした(表中、「5」と示す)。評価結果を表1に示す。
【0066】
表1、2中、切断刃の材質の欄における「SKH」は、高速度工具鋼とよばれるもので切断刃がモリブデン系の材質であることを示す。「超硬」は、切断刃がタングステン系の超硬合金であることを示す。「SK」は、切断刃が炭素工具鋼であることを示す。「SUS焼き無し」は、切断刃が鉄を主成分とするステンレス鋼(SUS)であることを示す。「SUS焼き有り」は、切断刃が焼入れステンレス鋼であることを示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
(実施例2〜57)
表1、2に示す切断刃及びハニカム成形体を用い、表1、2に示す条件で切断刃を振動させたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム成形体を切断した。その後、ハニカム成形体切断品について、実施例1と同様に[セルの潰れ]及び[耐久性]の評価を行った。評価結果を表1、2に示す。
【0070】
なお、表1、2中の「縦振幅」及び「縦振動に対する周波数(kHz)」の欄に、2つの数値が記入されている実施例において、これらの数値は、1次振動と2次振動を示している。そして、欄中の上に記載された数値が1次振動であり、欄中の下に記載された数値が2次振動を示している。つまり、1次振動の大きな波長の波の上に小さい波長の波が乗っている(2次振動している)状態(主となる大きな波が更に細かく振動している状態)で、切断刃が振動していることを示す。
【0071】
(比較例1)
表1に示す切断刃及びハニカム成形体を用い、切断刃を振動させないこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム成形体を切断した。その後、ハニカム成形体切断品について、実施例1と同様に[セルの潰れ]及び[耐久性]の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2〜5)
切断刃に代えて鋼線(炭素鋼製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム成形体を切断した。使用した鋼線の直径(線径(μm))を、表2に示す。その後、ハニカム成形体切断品について、実施例1と同様に[セルの潰れ]及び[耐久性]の評価を行った。評価結果を表2に示す。なお、比較例2〜5において、ハニカム成形体のうちの切断を開始する部分に、予めナイフ状の工具でセルの延びる方向に直交する方向に、鋼線を侵入させるための切れ目を入れる操作は行っていない。
【0073】
実施例1〜57及び比較例1〜5の結果から、実施例1〜57のハニカム成形体の切断方法によれば、比較例1〜5のハニカム成形体の切断方法に比べて、切断後のハニカム成形体の端面におけるセルの形状が良好となることが確認できた。また、実施例1〜57のハニカム成形体の切断方法は、切断刃の耐久性が良好であり、切断後のハニカム成形体を効率良く得ることができることが確認できた。