(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5964989
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】電場印加方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/32 20060101AFI20160721BHJP
A23L 5/30 20160101ALI20160721BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20160721BHJP
A23B 4/015 20060101ALI20160721BHJP
A23B 7/14 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
A23L3/32
A23L5/30
A23L5/00 J
A23B4/00 B
A23B7/14
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-553120(P2014-553120)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2013083573
(87)【国際公開番号】WO2014098009
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年4月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-275359(P2012-275359)
(32)【優先日】2012年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512326573
【氏名又は名称】松井 寿秀
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120189
【弁理士】
【氏名又は名称】奥 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100173510
【弁理士】
【氏名又は名称】美川 公司
(72)【発明者】
【氏名】松井 寿秀
(72)【発明者】
【氏名】大野 正樹
【審査官】
福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−200327(JP,A)
【文献】
特開2008−164219(JP,A)
【文献】
特開平03−098565(JP,A)
【文献】
WATANABE, Y., et al.,Effect of D.C. Voltage Application on Ethanol Fermentation,Electrical Insulation and Dielectric Phenomena (CEIDP), 2011 Annual Report Conference on,2011年,p.175-178
【文献】
MARSELLES-FONTANET, AR., et al.,Optimising the inactivation of grape juice spoilage organisms by pulse electric fields,International Journal of Food Microbiology,2009年,Vol.130,p.159-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−5/49
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜肉、魚肉、鶏肉、野菜、果物等の食品を電場雰囲気中に設置して鮮度保持処理又は熟成処理をする場合において、食品に電場を形成する電源の正弦波を整流して正(+)の波成分からなる正(+)波整流と負(−)の波成分からなる負(−)波整流を行い、鮮度保持の場合は負波整流を食品に印加し、熟成処理の場合は正波整流を食品に印加するようにした電場印加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の熟成、鮮度保持、発酵等のために電場を印加する電場印加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品の鮮度保持、熟成の促進のために食品に高電圧を印加して電場雰囲気にすることが知られているが、この電場雰囲気は2kV〜10kVの電圧、商用電源周波数(50又は60Hz)の電源によって形成される。また、食品の鮮度保持、熟成の際には、冷蔵庫内を0〜−2℃に維持し、単に前記電源によって電場雰囲気を形成していた。更に、電場は食品に付着する細菌を抑制する作用があることも公知であり、発酵飲料に電場を印加することも公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−204428
【特許文献2】PCT/JP98/180927
【特許文献3】特開2005−156042
【特許文献4】特開2001−190444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1、2には、食肉の鮮度保持と熟成の促進の両方の場合において電場の印加方法に差を設けることがなく、同一の印加方法を使用しており、鮮度保持を主目的としての電場の印加か熟成の促進を主目的としての電場の印加なのかが明確でない。また、前記特許文献3では、乳酸菌飲料に電場を印加することは開示されているが、発酵促進の効果を有することも開示されていないし、その具体的印加方法も全く開示されていない。更に、また、前記特許文献4には、どのように電場を印加したら制菌効果が増大するかについても十分な検討がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、
本発明の電場印加方法は、畜肉、魚肉、鶏肉、野菜、果物等の食品を電場雰囲気中に設置して鮮度保持処理又は熟成処理をする場合において、食品に電場を形成する電源の正弦波を整流して正(+)の波成分からなる正(+)波整流と負(−)の波成分からなる負(−)波整流を行い、鮮度保持の場合は負波整流を食品に印加し、熟成処理の場合は正波整流を食品に印加するようにした。
【発明の効果】
【0009】
正弦波を整流して正(+)の波成分を整流した半波整流又は全波整流を食品に印加すると肉、魚、野菜(キムチ等)の熟成を促進させることができ、逆に負(−)の波成分を整流した半波整流又は全波整流を食品に印加すると、肉、魚、野菜等の鮮度保持を促進させることができ、目的に応じて電源の選択的制御が行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図7】ヨーグルトの乳酸菌の発酵促進の実験システム図である。
【
図8】電場内と非電場内の細菌の増殖状態比較グラフである。
【
図12】パルス波を集めて正弦波の形状とした整流波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0015】
畜肉、魚肉、野菜等の食品の鮮度保持、解凍、又は熟成を行うための技術として食品を電気的に絶縁し、電極を通して食品に高電圧(1kV〜7kV)を印加する電場技術が知られている。ドリップの少ない解凍はさておき、鮮度保持と熟成促進は見方によっては相反する効果であるが、交流の正弦波を食品に印加すると、これら両効果がバランスよく得られることが知られている。
【0016】
畜肉、魚肉、野菜等の電場処理は、一般的に
図1に示すように、冷蔵庫1内に電極板2を設置し、この電極板2上に食品3を絶縁状態で載置し、前記電極板2に電源4を接続し、この電源4から交流の正弦波形(
図2)の電圧(1〜5kV)を印加するようにしている。このような、正弦波形の電圧印加は、食品の鮮度保持と熟成促進効果がバランスよく得られるが、
図3に示すような、正(+;プラス)半波整流の波形の電圧、又は、
図4に示すような正成分が連続した全波整流の波形の電圧を印加すると、熟成効果が著しく促進され、逆に、
図5に示すような負(−;マイナス)半波整流の波形の電圧又は、
図6に示すような負成分が連続した全波整流の波形の電圧を印加すると、鮮度保持効果が著しく促進される。
【0017】
また、波形としては、目的に応じて
図10に示すようなパルス波形、又は、
図11に示すような三角波形の正負成分を利用するようにしてもよく、
図12に示すように正弦波の正負成分をパルス波の集合体で形成するような波形でもよい。
【0018】
1)第1実験例(選択的波形制御)
正弦波と、正半波整流と、負半波整流を冷蔵庫内に戴置した畜肉、魚肉に印加した場合にその効果は表1に示す結果になった。
【0019】
実験条件 冷蔵庫温度 -1℃
冷蔵庫湿度 30〜50%
電源 50Hz、5KV
期間 5日間
判断 鮮度保持 目視
熟成 アミノ酸量
【0020】
【表1】
ここで、△はやや不良、○はやや良好、◎は良好を示し、これより、正弦波は鮮度保持と熟成促進がバランスがとれており、正半波整流は熟成効果が大で鮮度保持効果はやや不良で、負半波整流は鮮度保持効果が大で、熟成効果がやや不良であることが判る。したがって、目的に応じて波形が選択される。
【0021】
また、電場雰囲気は、食品を美味とする乳酸菌、納豆菌等の発酵菌を活性化する。その効果は周波数、電圧に応じて異なるが、その結果は表2、表3の通りである。
【0022】
2)第2実験例(発酵促進)
実験条件 菌の種類 米ぬか由来枯草菌(Bacillus sp)
温度 40℃
湿度 50%
電源
周波数 50Hz、300Hz
電圧 5KV
波形 正弦波
発酵原料 脱脂大豆
始発温度 40℃
【0023】
【表2】
表2によれば、電場なしでは、発酵原料の脱脂大豆においては40℃から発酵熱ピーク温度の52℃まで発酵して上昇するまで20時間要したが、周波数、電圧が高くなると発酵熱ピーク温度も57℃に上昇するだけでなく、その到達時間も16.5時間に短縮されることが判る。これは、高電圧、高周波の電場雰囲気では、微生物が持っている酵素の活性が高くなり、微生物の体内の酸化還元の生化学反応が促進されるものと思われる。
【0024】
3)第3実験例(発酵促進)
図7に示すように、温度、湿度調節可能な2つのボックス5、6を準備し、容器8、9をその中にセットした。ボックス6内には、電極板10が設置され、電極板10には電源11が接続され、ボックス5はコントロール区で、ボックス6は電場区をなしている。前記容器8、9は、236ccのポリプロピレン製のもので、これらの中に成分無調整牛乳(無脂乳固形分8.3%以上、乳脂成分3.5%以上、生乳100%)200ccにLB81乳酸菌(明治ブルガリアヨーグルト)又はビフィズス菌を15cc入れて発酵させた結果は表3に示す通りである。
【0025】
実験条件 菌の種類 LB81乳酸菌(明治ブルガリアヨーグルト)
温度 25℃
(通常ヨーグルトを作る温度は40℃であるが、比較のため低い温度に設定した)
湿度 45〜50%
電源 50Hz、1.0〜2.0mA、5KV、正弦波
印加時間 24時間
【0026】
【表3】
表3の結果によれば、電場区では、LB81乳酸菌、ビフィズス菌の場合に同じ結果となり、発酵菌の活性が促進され24時間で生乳が通常のヨーグルトに近いものとなり、電場なしのコントロール区では、水分が表面に浮き上がる離水部分12が観察されたが、電場区では、全く観察されず、キメ細かいし酸味もきつくなく柔らかく感じられた。
【0027】
4)第4実験例(植物性プランクトンの増殖)
電場雰囲気内では、植物性プランクトンが活性化されるので、淡水にアサリ煮汁を0.5%と、植物性プランクトンの淡水クロレラを加えて450LUXの光を当てて1ヶ月間植物性プランクトンの増殖を行ったが、その結果を表4に示す。
【0028】
実験条件 水 淡水
植物性プランクトン 淡水クロレラ
培養液(アサリ煮汁)濃度 0.5%
照度 450LUX
温度 28℃
培養期間 1ヶ月間
電源 50Hz、300Hz、5KV、正弦波
【0029】
【表4】
表4によれば、電場は植物性プランクトンを増殖させ、電圧を100Vより高くし、周波数が常用周波数50Hzより高い方が活性化が大きくなる。植物性プランクトンの光合成反応に光子が必要とされるが、低照度のときには光子エネルギーが低く光合成反応が進まないが、電場(電子)が印加されると、光合成反応に必要なエネルギーの閾値が低くなり、比較的低照度でも光合成反応が促進される。これにより植物工場で照度を低くでき、省エネに繋がる。
【0030】
5)第5実験例(細菌の増殖抑制)
また、一般的に食品に付着する一般細菌、大腸菌、ブドウ球菌等の細菌は、電場なしの場合に、
図8のA直線に示すように、時間の経過とともに一定割合で増加するが、電場を連続的に印加した場合には、B曲線に示すように、一定時間迄は、増加率は低いが、細菌が電場環境に慣れると急激に増加し、電場なしのばあいより急激に増殖する傾向にある。そこで細菌が電場環境に慣れる前に環境を変化させ環境対応を鈍らせると最近の増殖の抑制が可能となる。
【0031】
そのために、一般細菌、大腸菌、ブドウ球菌等を冷蔵庫内にセットしたシャーレ内で培養し、細菌に15分置きに、電場ONと電場OFF制御を72時間繰り返したときのシャーレ内の細菌数を顕微鏡で数えた時の制菌効果を表5に示す。
実験条件 冷蔵庫 温度 0℃
電源 50Hz、5KV、正弦波、
15分毎にON、OFF制限
期間 72時間
【0032】
【表5】
表5によれば、間欠的に電場を印加する印加タイミング制御をしたものは、しないものに比較して明らかに一般細菌については、細菌増殖抑制の効果が大きいことが判るが、大腸菌については変化がなかった。ブドウ球菌については、印加タイミングを制御した方が、しない方より僅かに良好であった。尚、間欠的ON・OFFタイミングの制御において、
図9におけるONの時間T
1ONとT
2ON、OFFの時間T
1OFFとT
2OFFの時間とを逐次変化させ細菌の環境対応をより鈍らせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、畜肉、魚肉の鮮度保持、乳酸菌を使用する発酵業界、魚介類の養殖産業界等に適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…冷蔵庫
2…電極板
3…食品
4…電源
8…容器
9…容器
11…電源
12…離水部