【実施例1】
【0014】
以下、
図1〜
図4により、本発明の冷凍サイクル装置の実施例1を説明する。本実施例では、冷凍サイクル装置として、冷媒R32を使用している空気調和機の例で説明する。
まず、
図1により、本実施例の冷凍サイクル装置としての空気調和機の構成を説明する。
図1は本発明の冷凍サイクル装置の実施例1を示す冷凍サイクル系統図である。
【0015】
図1に示すように、本実施例の空気調和機は、室外機40及び室内機20を備え、これら室外機40と室内機20は液側接続配管7及びガス側接続配管8により接続されている。
【0016】
冷房運転の場合、室外機40に設けられた圧縮機(密閉式圧縮機)1で圧縮された高温高圧のガス冷媒は冷凍機油と共に圧縮機1から吐出され、ガス冷媒が四方弁2を経て、熱源側熱交換器3へ流入し、ここで外部の空気(室外空気)や水などの熱源側媒体と熱交換して凝縮液化する。凝縮液化した冷媒(液冷媒)は全開状態の第1の膨張装置4を通過し、阻止弁6を通って、液側接続配管7から前記室内機20へ送られる。
【0017】
室内機20に流入した液冷媒は、第2の膨張装置21において低圧まで減圧されて低圧二相状態となり、利用側熱交換器22に入って室内空気などの利用側媒体と熱交換して蒸発、ガス化する。その後、このガス冷媒は、ガス側接続配管8を通り、阻止弁9、四方弁2を経てアキュムレータ10に入り、ここから前記圧縮機1に再び吸入されることで冷凍サイクルを構成している。余剰冷媒は前記アキュムレータ10に貯留され、冷凍サイクルの運転圧力、温度が正常な状態に保たれる。
【0018】
暖房運転の場合には、前記圧縮機1で圧縮された高温高圧のガス冷媒は冷凍機油と共に圧縮機1から吐出され、四方弁2、阻止弁9、ガス側接続配管8を経て、室内機20の利用側熱交換器22へ流入し、ここで室内空気などの利用側媒体と熱交換して利用側媒体を加熱すると共に自らは凝縮液化する。凝縮液化した冷媒は、液側接続配管7、阻止弁6を経て、前記第1の膨張装置4で減圧され、前記熱源側熱交換器3で室外空気や水などの熱源側媒体と熱交換して蒸発、ガス化する。蒸発、ガス化した冷媒は四方弁2、アキュムレータ10を経て前記圧縮機1へ戻り、冷凍サイクルが構成される。
【0019】
なお、本実施例における冷凍サイクル装置(空気調和機)では、冷媒としてR32を使用し、また前記冷凍サイクル装置を制御する制御装置(図示せず)を備えている。そして、この制御装置により、冷凍サイクル装置の設計圧力(制御圧力の上限値)を、冷媒R22や冷媒R407Cを採用した冷凍サイクル装置での設計圧力(制御圧力の上限値)と同等に設定或いは設定可能に構成されている。これにより、吐出圧力の最大値を下げるように構成している。
【0020】
前記圧縮機1から吐出されたガス冷媒の温度である吐出温度は、圧縮機1から吐出されたガス冷媒の圧力である吐出圧力における冷媒の凝縮温度と、吐出されたガス冷媒の過熱度により表すことができる。ここで、圧縮機1から吐出されたガス冷媒の過熱度が一定になるように、前記膨張装置4,21を制御した場合には、前記凝縮温度が低いほど、つまり前記吐出圧力が低いほど、前記吐出温度を低く設定することが可能である。
【0021】
次に、
図2〜
図4により、前記吐出圧力がより高くなり、設計圧力を下げた際に尤度が小さくなる冷房運転、特に冷房過負荷条件における冷房運転時においても、前記設計圧力、即ち、冷媒R22や冷媒R407Cでの設計圧力以下に制御するための方法について説明する。
図2は熱源側熱交換器の伝熱面積、冷媒循環量及び吐出圧力との関係を説明する線図、
図3は熱源側熱交換器の風量、冷媒循環量及び吐出圧力との関係を説明する線図、
図4は同一冷房能力における、熱源側熱交換器の伝熱面積、風量及び吐出圧力との関係を説明する線図である。
【0022】
なお、以下説明する吐出圧力の検討には、冷凍サイクルの運転状態を模擬するサイクルシミュレータ(例えば、第34回空気調和・冷凍連合講演会論文集(2000年4月17〜19日)の13〜16頁、2005年度日本冷凍空調学会年次大会講演論文集(2005年10月23〜27日)のB204−1〜4を参照)によって模擬し、その計算値を使用した。
【0023】
図2〜
図4において、Aは基準を表し、室内機側の条件は同一とし、熱源側熱交換器の伝熱面積及び風量、発生能力が、冷媒R410Aを使用した場合と、冷媒R32を使用した場合で同一となる条件で吐出圧力を計算した結果、吐出圧力が、R410Aを使用した場合とR32を使用した場合とで同一となった点である。各図の縦軸は、この点Aでの吐出圧力を基準としてR32を使用した場合の吐出圧力を比で表している。なお、
図2及び
図3における冷媒循環量比は、冷媒R32の「冷媒循環量比×1.0」を基準としている。冷媒循環量比が同一の曲線上では冷媒循環量は一定となっている。
【0024】
図2は、冷媒R32を冷凍サイクル装置に封入した際の熱源側熱交換器3の伝熱面積比に対する圧縮機1の吐出圧力比の関係を示している。また、
図3は、熱源側熱交換器3の空気側の風量比に対する圧縮機1の吐出圧力比の関係を示している。
【0025】
図2、
図3における曲線aは、能力14kWを発生するために必要な冷媒循環量(冷媒循環量比を1.0とする)を基準とした場合の伝熱面積比または風量比と、吐出圧力比との関係を示している。また、前記冷媒循環量比を0.88とした場合(曲線b)と、前記冷媒循環量比を0.77とした場合(曲線c)の伝熱面積比または風量比と、吐出圧力比との関係も併せて示している。このときの空気条件は、冷房運転において最も吐出圧力が上昇する過負荷条件(室内機側の利用側熱交換器22の入口空気の乾球温度32℃、湿球温度23℃、室外機側の熱源側熱交換器3の入口空気の乾球温度43℃の条件)である。
【0026】
また、冷媒R410A及び冷媒R32を採用した室外機40の設計圧力は4.2〜4.3MPa(絶対圧力)であるが、圧縮機1の信頼性を十分確保するために、冷媒R32を使用する本実施例では、前述したように、冷凍サイクル装置における制御圧力の上限値を設け、その上限値は冷媒R32の設計圧力よりも低く、或いは同等に設定されている。具体的には、本実施例では、制御圧力の上限値を3.8MPa(絶対圧力)とし、
図2及び
図3に示す吐出圧力比1.0は3.8MPa(絶対圧力)とした場合の結果を示している。
【0027】
図2及び
図3に示すように、熱源側熱交換器3の伝熱面積が大きいほど、また熱源側熱交換器3の風量が大きいほど、更には冷媒循環量が少ないほど、圧縮機1の吐出圧力を低減することができ、前記制御圧力の上限値を低く設定することができる。また、これに伴い圧縮機1の吐出温度を低減することも可能となる。
【0028】
ここで、冷媒R410AやR32よりも設計圧力の低い、冷媒R22やR407Cを使用した空気調和機で使用されていた液側接続配管7及びガス側接続配管8の使用圧力は、配管の外径と肉厚、更に配管の材料である銅管の材質により決められている。前記液側接続配管7及びガス側接続配管8に一般的に使用される銅管のうち、使用圧力が最も低い配管の外径、肉厚、材質の組み合わせは、一般冷媒配管用銅管(JIS B 8607)から、φ19.05、肉厚1.0mm、O材の場合であり、最高使用圧力は3.72MPa(絶対圧力)である。
【0029】
従って、冷媒R32を使用した冷凍サイクル装置における室外機40の運転圧力(制御圧力の上限値)が3.7MPa(絶対圧力)以下になるように、
図2から、熱源側熱交換器3の伝熱面積を設定したり、
図3から、熱源側熱交換器3における風量(冷却ファンにより送風される空気量)を設定する。または、冷媒R32を使用した室外機40に搭載されている前記制御装置により制御される制御圧力の上限値が3.7MPa(絶対圧力)以下になるように、前記制御装置により、圧縮機1の運転周波数を制御して冷媒循環量を調整したり、前記熱源側熱交換器3における冷却ファンの運転周波数を制御して風量を制御する。これにより、冷媒R22やR407Cを採用していた空気調和機(旧機)で使用されていた液側接続配管7やガス側接続配管8を、冷媒R32を使用した空気調和機(新機)の導入時に再利用することが可能となる。また、圧縮機1の吐出温度を低減することも可能となる。
【0030】
なお、1台の室外機40に対して複数台の室内機20が接続される空気調和機(冷凍サイクル装置)においては、液側接続配管7とガス側接続配管8の途中を分岐管で分岐することにより、複数台のそれぞれの室内機20に冷媒が流れるように接続されている。前記分岐管は、使用する冷媒の設計圧力に対応して、通常設計されている。
【0031】
また、過去には、冷媒R22を採用した空気調和機と、冷媒R407Cを採用した空気調和機とが併売されていた時期があるが、このときの分岐管の設計圧力は、設計圧力の高い冷媒R407Cの設計圧力である3.4MPa(絶対圧力)が採用され、冷媒R22用の分岐管と冷媒R407C用の分岐管とは共用化されていた。
【0032】
このため、前記液側接続配管7やガス側接続配管8の最高使用圧力の下限値である3.72MPa(絶対圧力)よりも、分岐管の設計圧力(3.4MPa)は低く、室内機20が複数台接続された空気調和機では、分岐管の設計圧力以下で運転する必要がある。
【0033】
従って、前記液側接続配管7とガス側接続配管8とに分岐管を介して複数台の室内機20が接続された冷凍サイクル装置(空気調和機)に、冷媒R32を使用した冷凍サイクル装置を接続する場合、冷凍サイクル装置の制御圧力の上限値、即ち前記室外機40の運転圧力が3.4MPa(絶対圧力)以下になるように、
図2から、熱源側熱交換器3の伝熱面積を設定したり、
図3から、熱源側熱交換器3における風量を設定する。または、冷媒R32を使用した室外機40に搭載されている前記制御装置により制御される制御圧力の上限値が3.4MPa(絶対圧力)以下になるように、前記制御装置により、圧縮機1の運転周波数を制御して冷媒循環量を調整したり、前記熱源側熱交換器3における冷却ファンの運転周波数を制御して風量を制御する。
【0034】
これにより、冷媒R22やR407Cを採用していた空気調和機(旧機)で使用されていた前記液側接続配管7、前記ガス側接続配管8及び前記分岐管を、冷媒R32を使用した空気調和機(新機)の導入時に再利用することが可能となる。また、圧縮機1の吐出温度を低減することも可能となる。
【0035】
更に、冷媒R32を使用した冷凍サイクル装置における前記室外機40は、冷媒R22やR407Cを採用していた空気調和機で使用されていた既設の接続配管7,8を再利用して接続可能であることの他に、冷媒R32に対応した、即ち設計圧力が4.2〜4.3MPa(絶対圧力)以上の新規な接続配管7,8にも接続することができる。即ち、本実施例の冷媒R32を使用した冷凍サイクル装置における前記室外機40は、新規配管施工方式と既設配管利用方式の何れの方式にも対応させて使用することができるものである。
【0036】
即ち、本実施例では、新規配管施工方式と既設配管利用方式の何れにも採用可能な前記室外機40とするために、室外機40の制御圧力の上限値を、前記新規配管施工方式または既設配管利用方式の何れを採用する場合でも同一とする。例えば、冷媒R22や冷媒R407Cを採用した室外機での設計圧力3.7MPa、または既設の分岐管も再利用する場合には3.4MPaに、前記室外機40の制御圧力の上限値を設定する。
【0037】
また、前記制御装置は、前記圧縮機1や四方弁2などのアクチュエータを制御する前記室外機40の制御基盤に設けられているが、この制御基盤上に設置され冷凍サイクルの機能を設定することが可能なディップスイッチやジャンパ線などの制御圧力設定部により、前記制御圧力の上限値を任意に選択して設定できるようにする。
【0038】
または、前記制御基盤(制御装置)における制御圧力の上限値を、リモコンや外部の制御装置(制御圧力設定部)から、電気信号による伝送手段を介して前記制御基盤に送信することにより、室外機40の制御圧力の上限値を任意に設定するようにしても良い。
【0039】
このように、上記ディップスイッチや外部の制御装置などの制御圧力設定部により、空気調和機における室外機40の制御圧力の上限値を任意に設定可能に構成することにより、前記新規配管施工方式や既設配管利用方式を採用した場合に使用される接続配管7,8や分岐管の耐圧に応じて、室外機40の制御圧力の上限値を設定することができる。
【0040】
従って、本実施例の冷凍サイクル装置(空気調和機)は、新規配管施工方式と既設配管利用方式の何れにも対応することが可能であり、使用される前記接続配管7,8や前記分岐管の設計圧力に対応した圧力に前記室外機40の制御圧力の上限値を決めることができる。これにより、冷媒R32を採用した室外機40において新規配管施行方式をとる場合には、冷媒R32を採用した室外機40の能力を更に大きくすることも可能となる。
【0041】
本実施例を採用することにより、新規配管施工方式に対応した室外機40と既設配管利用方式に対応した室外機40とを別々に開発して、別々の製品を製造する必要がなくなり、開発期間の短縮を図ることができる。これにより、製品開発時に発生する電力も削減できるので、製品開発時に発生する二酸化炭素量も削減可能となるから、地球温暖化防止に貢献できる冷凍サイクル装置を得ることができる。
【0042】
なお、前記冷媒R32を採用した空気調和機における室外機40の制御圧力の上限値を、従来の冷媒R22やR407Cを採用した空気調和機における室外機の制御圧力の上限値と同じにすれば、冷媒R32を採用した場合に問題となる前記圧縮機1の吐出温度も低減することが可能となる。例えば、現在使用されているR410Aを採用した室外機における圧縮機の吐出温度とほぼ同様にすることができる。これにより、冷媒R32を採用する前記室外機40の圧縮機1などをR32用に開発することなく、冷媒R410Aを使用している室外機の圧縮機などを流用することができるという効果も得られる。
【0043】
図4は同一冷房能力に制御した場合における、熱源側熱交換器の伝熱面積、風量及び吐出圧力との関係を説明する線図である。この
図4により、冷媒R32を使用した空気調和機(冷凍サイクル装置)における前記室外機40の設計圧力(制御圧力の上限値)を、3.4MPa(絶対圧力)に設定する場合の、熱源側熱交換器3の伝熱面積比と、風量比の下限値の関係を説明する。
【0044】
図4において、冷媒循環量は、冷房能力が一定となるように圧縮機1の運転周波数を制御することで調整している。
図4においても、上記
図2、
図4と同様に、制御上の上限圧力を3.8MPa(絶対圧力)とした場合の結果である。
図4中の曲線dは、熱源側熱交換器3の風量比が1.0の場合、曲線eは前記風量比を1.3とした場合、曲線fは前記風量比を1.6とした場合の結果を示す。
【0045】
図4における縦軸の吐出圧力比1.0は3.8MPa(絶対圧力)に相当し、吐出圧力比0.9は3.4MPa(絶対圧力)に相当する。吐出圧力が3.4MPaとなる吐出圧力比0.9における伝熱面積比と風量比との組み合わせは、伝熱面積比が1.55のとき風量比が1.6、伝熱面積比が2.25のとき風量比が1.3となる。
【0046】
ここで、熱源側熱交換器の伝熱面積比をA
0、風量比をQ
0とすると、
A
0×Q
01.8 ≧ 3.6 …(1)
の関係を満たすようにすれば、圧縮機1の吐出圧力を、吐出圧力比0.9以下を満足することができる。即ち、熱交換器の性能は、伝熱面積に比例し、更に、熱交換器を通過する空気の流速のべき乗に比例するので、このことと上記
図4に示す結果から上記(1)式は導き出されたものである。
【0047】
上記式(1)において伝熱面積比A
0は運転中には制御できないから、前記風量比Q
0を上記式(1)を満たすように制御することにより、を吐出圧力3.4MPa以下に制御することができる。この結果、圧縮機1の吐出温度を低減することも可能となる。
【0048】
また、この
図4に示す例によれば、冷媒R32を使用した前記室外機40の設計圧力を、既設の分岐管の設計圧力、例えば3.4MPa以下に制御できるから、既設の分岐管の再利用も可能となる。
【0049】
上述したように、本実施例によれば、冷媒R32を採用した冷凍サイクル装置において、その設計圧力(制御圧力の上限値)を、冷媒R22や冷媒R407Cを採用していた冷凍サイクル装置での設計圧力に設定し、圧縮機の吐出圧力の最大値、即ち制御圧力の上限値を下げるようにしているので、冷媒としてR32を採用しつつ、既設の冷媒接続配管や分岐管を再利用することもできる冷凍サイクル装置を得ることができる。
【0050】
また、圧縮機効率を低下させること無く、圧縮機からの冷媒の吐出温度を冷媒R410Aと同程度まで低下させることができるから、冷媒R410Aを採用した冷凍サイクル装置の室外機で使用されるモータの絶縁材料や、モータ回転子の永久磁石の材料などを、高温対応(高温で減磁しにくい磁石)に変更することなく、R32を採用した冷凍サイクル装置の圧縮機の部品として流用できる。従って、高効率で地球温暖化防止を図れる冷媒R32を使用した冷凍サイクル装置を安価に製造できる効果も得られる。