特許第5965016号(P5965016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5965016
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】車椅子および車椅子の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/10 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   A61G5/10 704
   A61G5/10 707
   A61G5/10 708
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-60977(P2015-60977)
(22)【出願日】2015年3月24日
【審査請求日】2015年9月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000150512
【氏名又は名称】株式会社仲田コーティング
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100184479
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】松野 竹己
【審査官】 角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−81131(JP,A)
【文献】 特表2007−501049(JP,A)
【文献】 特開2011−72799(JP,A)
【文献】 特開平10−137294(JP,A)
【文献】 特開2009−172108(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3101520(JP,U)
【文献】 米国特許第6540250(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00−5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗したまま洋式便器を使用可能な車椅子であって、
座面の下部に前記洋式便器を収容可能な空間を有するとともに、
搭乗者を前記車椅子に搭乗したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、
前記搭乗者を前記座面の下部に収容された前記洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成可能な開閉式の座面と、
を備え、かつ、
前記両脇クランプが、前記背凭れ部に固定されているとともに、前記膝裏クランプが、前記背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、
前記座面枠部材が、当該座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキを前記車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列を、前記座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、
1列の前記ジャッキ列を構成するジャッキ同士がタイミングベルトにより前記車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなることを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前記座面枠部材の両側方部分におけるそれぞれのジャッキ列が、当該ジャッキ列を構成する複数のジャッキのうちの1つのジャッキにおけるネジ軸を電動モーターにより回転させることにより、前記ジャッキ列を構成する他のジャッキのネジ軸をも回転させ、前記座面枠部材を上下動させることを特徴とする請求項1に記載の車椅子。
【請求項3】
前記座面枠部材の前端部から下方に延びる延設部と、当該延設部の下端部に設けられた足裏載置部と、を含む足裏クランプを有することを特徴とする請求項1または2に記載の車椅子。
【請求項4】
前記座面が、複数の円柱状部材を長手方向が前記車椅子の左右方向となるように平行配置された状態で折り曲げ可能に順次連結してなる座面であるとともに、前記車椅子の前方側にスライドして、前記開口部を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車椅子。
【請求項5】
前記座面が、電動モーターによりスライドすることを特徴とする請求項4に記載の車椅子。
【請求項6】
搭乗したまま洋式便器を使用可能な車椅子の使用方法であって、
前記車椅子が、座面の下部に洋式便器を収容可能な空間を有するとともに、搭乗者を前記車椅子に搭載したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、前記搭乗者を前記座面の下部に収容された前記洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備え、かつ、前記両脇クランプが、前記背凭れ部に固定されているとともに、前記膝裏クランプが、前記背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、前記座面枠部材が、当該座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキを前記車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列を、前記座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、1列の前記ジャッキ列を構成するジャッキ同士がタイミングベルトにより前記車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなる車椅子であるとともに、
下記工程(a)〜(f)を含むことを特徴とする車椅子の使用方法。
(a)前記搭乗者が前記座面に着座した状態で、前記車椅子を後方に移動させて、前記座面の下部に前記洋式便器を収容する工程
(b)前記両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して上方に移動させて、前記搭乗者を前記座面から浮かせる工程
(c)前記搭乗者がズボンおよびパンツを下げる工程
(d)前記座面を移動させて、前記搭乗者を前記洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成する工程
(e)前記両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して下方に移動させて、前記搭乗者を前記洋式便器の便座に着座させる工程
(f)前記搭乗者が、前記洋式便器を使用する工程
【請求項7】
前記工程(f)の後に、さらに下記工程(g)〜(k)を含むことを特徴とする請求項6に記載の車椅子の使用方法。
(g)前記両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して上方に移動させて、前記搭乗者を前記洋式便器の便座から浮かせる工程
(h)前記搭乗者がズボンおよびパンツを上げる工程
(i)前記座面を移動させて元の位置に戻し、前記開口部を閉じる工程
(j)前記両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して下方に移動させて、前記搭乗者を前記座面に着座させる工程
(k)前記搭乗者が前記座面に着座した状態で、前記車椅子を前方に移動させて、前記座面の下部に収容された前記洋式便器から離れる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車椅子および車椅子の使用方法に関する。
特に、搭乗したまま容易に洋式便器の便座に着座することができ、かつ、ズボンやパンツの下げ上げも容易にすることができる車椅子および車椅子の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車椅子に搭乗して移動することが必要な被介護者等は、移動するときのみならず、排泄する際にも多大な困難を伴うことが知られている。
そこで、搭乗したままの状態で、洋式便器を使用可能な車椅子が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、車椅子に搭乗して移動することが必要な被介護者等は、便座の上でズボンやパンツを下げ上げする際にも多大な困難を伴うことが知られている。
そこで、搭乗者をリフトにより持ち上げ、臀部を浮かせ、ズボンやパンツの下げ上げを容易にすることができる車椅子が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
すなわち、特許文献1には、図11に示すように、座席209の下部に洋式便器を嵌め込み可能な空間と、嵌め込んだ洋式便器の便座に着座可能な開口部を生成するように開閉する座席209と、を備えることを特徴とする排泄支援車椅子200が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、図12に示すように、12ボルトの充電式バッテリー301を使用し電動モーター303で油圧ポンプ304を回しシリンダー305に油圧をかけTクランプ309を、押上げ胴脇横クランプ310を締め上げ、お尻を便座より上げ、ズボンおよびパンツを下げ上げできるトイレ用車椅子300が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−172108号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】実用新案登録第3101520号公報(実用新案登録請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の排泄支援車椅子は、座席に開口部を生成する際に、搭乗者が自力で臀部をずらしたり浮かせたりする必要があることから、特に脚が不自由な搭乗者にとっては、洋式便器の便座に着座することが容易でないという問題が見られた。
【0008】
一方、特許文献2に記載のトイレ用車椅子は、まず、搭乗者を洋式便器の便座に着座させる機構が不明であるという問題が見られた。
また、特許文献2に記載のトイレ用車椅子は、搭乗者の胴体を胴脇横クランプによって抱え、そのまま上方に持ち上げる構成であることから、搭乗者の下半身が宙に浮いた不安定な状態になる。
さらに、持ち上げられた搭乗者の体重が、胴脇横クランプと接触する両脇部分に集中するため、痛みが生じやすく、さらには両腕が動かしにくくなる。
したがって、特許文献2に記載のトイレ用車椅子を用いても、依然としてズボンおよびパンツの下げ上げが容易でないという問題が見られた。
【0009】
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、開口部を形成可能な開閉式の座面と、を設けるとともに、両脇クランプ等を上下動させるための駆動機構として、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ設けられた所定のジャッキ列を備えることにより、搭乗したままの状態で、洋式便器の便座に容易に着座することができるばかりか、ズボンやパンツの下げ上げも容易になることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、搭乗したままの状態で、容易に洋式便器の便座に着座することができ、かつ、ズボンやパンツの下げ上げも容易にすることができる車椅子および車椅子の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、搭乗したまま洋式便器を使用可能な車椅子であって、座面の下部に洋式便器を収容可能な空間を有するとともに、搭乗者を車椅子に搭乗したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、搭乗者を座面の下部に収容された洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備え、かつ、両脇クランプが、背凭れ部に固定されているとともに、膝裏クランプが、背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、座面枠部材が、当該座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキを車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列を、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、1列のジャッキ列を構成するジャッキ同士がタイミングベルトにより車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなることを特徴とする車椅子が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、本発明の車椅子であれば、座面枠部材を上下動することにより連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備えることから、搭乗したままの状態で、洋式便器の便座に容易に着座することができ、かつ、ズボンやパンツの下げ上げも容易にすることができる。
また、座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ設けられた所定のジャッキ列を備えることにより、座面の下部において洋式便器を収容可能な空間を安定的に確保しつつ、効率的に両脇クランプ等を連動して上下動させることができる。
【0011】
また、本発明の車椅子を構成するにあたり、座面枠部材の両側方部分におけるそれぞれのジャッキ列が、当該ジャッキ列を構成する複数のジャッキのうちの1つのジャッキにおけるネジ軸を電動モーターにより回転させることにより、ジャッキ列を構成する他のジャッキのネジ軸をも回転させ、座面枠部材を上下動させることが好ましい。
このように構成することにより、より効率的に両脇クランプ等を連動して上下動させることができる。
【0012】
また、本発明の車椅子を構成するにあたり、座面枠部材の前端部から下方に延びる延設部と、当該延設部の下端部に設けられた足裏載置部と、を含む足裏クランプを有することが好ましい。
このように構成することにより、搭乗者をより安定的に支持しながら上下動させることができる。
【0013】
また、本発明の車椅子を構成するにあたり、座面が、複数の円柱状部材を長手方向が車椅子の左右方向となるように平行配置された状態で折り曲げ可能に順次連結してなる座面であるとともに、車椅子の前方側にスライドして、開口部を形成することが好ましい。
このように構成することにより、座面として人体の形状に合わせた曲線を調節して、座り心地を向上させることができるとともに、搭乗者の邪魔になることなく、容易に開口部を形成することができる。
【0014】
また、本発明の車椅子を構成するにあたり、座面が、電導モーターによりスライドすることが好ましい。
このように構成することにより、搭乗者等の負担をより軽減することができる。
【0015】
また、本発明の別の態様は、搭乗したまま洋式便器を使用可能な車椅子の使用方法であって、車椅子が、座面の下部に洋式便器を収容可能な空間を有するとともに、搭乗者を車椅子に搭乗したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、搭乗者を座面の下部に収容された洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備え、かつ、両脇クランプが、背凭れ部に固定されているとともに、膝裏クランプが、背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、座面枠部材が、当該座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキを車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列を、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、1列のジャッキ列を構成するジャッキ同士がタイミングベルトにより車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなる車椅子であるとともに、下記工程(a)〜(f)を含むことを特徴とする車椅子の使用方法である。
(a)搭乗者が座面に着座した状態で、車椅子を後方に移動させて、座面の下部に洋式便器を収容する工程
(b)両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して上方に移動させて、搭乗者を座面から浮かせる工程
(c)搭乗者がズボンおよびパンツを下げる工程
(d)座面を移動させて、搭乗者を洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成する工程
(e)両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して下方に移動させて、搭乗者を洋式便器の便座に着座させる工程
(f)搭乗者が、洋式便器を使用する工程
すなわち、本発明の車椅子の使用方法であれば、所定の車椅子を用いていることから、搭乗したままの状態で、洋式便器の便座に容易に着座することができ、かつ、ズボンやパンツを下げる作業も容易にすることができる。
【0016】
また、本発明の車椅子の使用方法を実施するにあたり、工程(f)の後に、さらに下記工程(g)〜(k)を含むことが好ましい。
(g)両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して上方に移動させて、搭乗者を洋式便器の便座から浮かせる工程
(h)搭乗者がズボンおよびパンツを上げる工程
(i)座面を移動させて元の位置に戻し、開口部を閉じる工程
(j)両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して下方に移動させて、搭乗者を座面に着座させる工程
(k)搭乗者が座面に着座した状態で、車椅子を前方に移動させて、座面の下部に収容された洋式便器から離れる工程
このように実施することにより、搭乗したままの状態で、洋式便器の便座に容易に着座することができ、かつ、ズボンやパンツを上げる作業も容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)〜(b)は、本発明の車椅子と、洋式便器との関係を示すために供する図である。
図2図2(a)〜(c)は、本発明における上下動機構を説明するために供する図である。
図3図3(a)〜(b)は、本発明における上下動機構を説明するために供する別の図である。
図4図4は、足裏クランプを説明するために供する図である。
図5図5(a)〜(b)は、本発明における座面について説明するために供する図である。
図6図6は、本発明における座面について説明するために供する別の図である。
図7図7(a)〜(c)は、本発明における上下動機構の駆動機構を説明するために供する図である。
図8図8は、本発明における上下動機構の駆動機構を説明するために供する別の図である。
図9図9(a)〜(b)は、本発明の車椅子の使用方法を説明するために供する図である。
図10図10(a)〜(b)は、本発明の車椅子の使用方法を説明するために供する別の図である。
図11図11は、従来の車椅子について説明するために供する図である。
図12図12は、従来の車椅子について説明するために供する別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、搭乗したまま洋式便器を使用可能な車椅子であって、座面の下部に洋式便器を収容可能な空間を有するとともに、搭乗者を車椅子に搭載したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、搭乗者を座面の下部に収容された洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備え、かつ、両脇クランプが、背凭れ部に固定されているとともに、膝裏クランプが、背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、座面枠部材が、当該座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキを車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列を、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、1列のジャッキ列を構成するジャッキ同士がタイミングベルトにより車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなることを特徴とする車椅子である。
以下、第1の実施形態について、図面を示しながら具体的に説明する。
【0019】
1.基本的構成
図1(a)〜(b)に示すように、本発明の車椅子1は、座面40の下部に洋式便器110を収容可能な空間を有する。
これにより、搭乗者を洋式便器110の真上に位置させることが可能になることから、所定の工程を経て搭乗者を車椅子1に搭乗したままの状態で洋式便器110の便座120に着座させることができるためである。
したがって、座面40の下面の高さL1を洋式便器110の便座120の上面よりも高くし、かつ、両小車輪96の間の幅L2を洋式便器110の幅(ウォシュレット(登録商標)等の洗浄機付き洋式便器付きの場合は、かかる洗浄機のスペースの幅も含めて考慮する。)よりも広くすればよい。
より具体的には、通常、座面40の下面の高さL1を420〜450mmの範囲内の値とすることが好ましく、両小車輪96の間の幅L2を400〜500mmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0020】
なお、本発明の車椅子1は、上述したように座面40の下部に洋式便器110を収容可能な空間を備えるとともに、後述する所定の両脇クランプ10、所定の背凭れ部20、所定の膝裏クランプ30a、所定の座面40および所定の駆動機構(図示せず)を備える点に特徴を有するが、車輪92やフレーム骨格93等、その他の構成については、基本的に従来公知の車椅子と同様とすることができる。
また、本発明の車椅子1は、電動走行式のものであってもよいし、ハンドリム94を手動で回転させる手動走行式のものであってもよい。
以下、本発明の車椅子1の特徴的な構成部分について、具体的に説明する。
【0021】
2.上下動機構
本発明の車椅子は、図1(a)〜(b)に示すように、搭乗者を車椅子1に搭乗したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aと、を備えることを特徴とする。
この理由は、連動して上下動する両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aを備えることにより、搭乗者を上方に移動させた際に、搭乗者の下半身が宙に浮いた不安定な状態になることを安定的に防止することができるためである。
また、搭乗者を上方に移動させた際に、搭乗者の体重が、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aに分散されることから、両脇クランプ10のみの場合と比較して搭乗者の身体に痛みが生じにくく、さらには両腕が動かしやすくなる。
【0022】
より具体的には、図2(a)に示すように、両脇クランプ10が、背凭れ部20に固定されているとともに、膝裏クランプ30aが、背凭れ部20の下端部に固定された座面枠部材30の上側表面に形成されていることを特徴とする。
この理由は、このように構成することにより、搭乗者を両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aにて支持しつつ、より安定的に上下方向に移動させることができるためである。
すなわち、図2(a)に示す構成であれば、車椅子のフレーム骨格に固定された上下動の基底部としての図2(c)に示す座面支持部材50に対して、座面枠部材30を上下動させることで、図3(a)〜(b)に示すように、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aを一体として、より安定的に上下動させることができるためである。
【0023】
また、図2(a)に示すように、座面枠部材30は平板状の枠状物であり、かかる座面枠部材30における車椅子の前方側に位置する部分の上側表面がそのまま膝裏クランプ30aとなる。
さらに、座面枠部材30における車椅子の後方側に位置する部分には、両脇クランプ10を備えた背凭れ部20が、斜め上方に延設される。
したがって、図3(a)に示すように、座面枠部材30を最下方に移動させた状態では、座面枠部材30と、座面支持部材50に設けられた座面40とが、所定の距離まで接近することにより、搭乗者が座面40に着座することができる。
一方、図3(b)に示すように、座面枠部材30を上方に移動させた状態では、座面枠部材30と、座面支持部材50に設けられた座面40とが、所定の距離まで離隔することにより、搭乗者を座面40から浮かせることができる。
以下、上述した上下動機構を構成する各構成について、それぞれ説明する。
なお、上述した上下動機構により実際に搭乗者を上下方向に移動させる態様については、第2の実施形態において具体的に説明する。
【0024】
(1)座面枠部材
図2(a)に示すように、座面枠部材30は、平板状の枠状物であり、その平面形状は、四角形、円形、楕円形等、特に限定されるものではないが、通常、車椅子の座面の平面形状が四角形であることに合わせて、四角形とすることが好ましい。
また、枠内に便座を露出される必要があることから、図2(a)に示すように、座面枠部材30における枠の内側における横幅L3を390〜490mmの範囲内の値とすることが好ましく、枠の内側における縦幅L4を420〜450mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、搭乗者を上下方向に移動させる際に必要な強度を確保する観点から、座面枠部材30における枠の太さL5を30〜100mmの範囲内の値とすることが好ましく、厚さL6を10〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0025】
また、図2(a)に示すように、座面枠部材30の4隅もしくはその近傍に、孔部32を設けることが好ましい。
この理由は、かかる孔部32を設けることにより、後述するジャッキを介して、座面枠部材30を、図2(c)に示す座面支持部材50に対して上下動可能に設置することができるためである。
また、座面枠部材30を構成する材料物質としては、搭乗者を上下方向に移動させる際に必要な強度を確保できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アルミニウム合金等の金属類、プラスチック、あるいは木材等が挙げられる。
【0026】
(2)膝裏クランプ
また、図2(a)に示すように、膝裏クランプ30aは、座面枠部材30における車椅子の前方側に位置する辺の上側表面として設けられる。
また、かかる膝裏クランプ30aは、特に搭乗者を上下方向に移動させる際に、直接的に搭乗者の膝裏に接触することになるため、図2(a)に示すように人体の形状に合わせた曲面として構成することが好ましい。
すなわち、車椅子の後方側から前方側に向かって、最初緩やかな上り勾配を有し、半ば過ぎで比較的急な下り勾配に転じる曲面とすることが好ましい。
【0027】
(3)背凭れ部
また、図2(a)に示すように、背凭れ部20は、座面枠部材30における車椅子の後方側に位置する部分から斜め上方に延設される。
また、かかる背凭れ部20の態様は、特に限定されるものではなく、通常の車椅子における背凭れと同様にすることができる。
したがって、適宜、人体の形状に合わせた曲面を形成したり、クッション等を設けたりすることが好ましい。
また、背凭れ部20の大きさや材料物質についても、通常の車椅子における背凭れと同様にすることができる。
【0028】
(4)両脇クランプ
また、図2(a)に示すように、両脇クランプ10は、搭乗者の背後から両脇に挿入されるための部材であり、背凭れ部20の表面から車椅子の前方側に向かって延設される。
また、かかる両脇クランプ10は、搭乗者を上下方向に移動させる際に、直接的に搭乗者の両脇に接触し押圧することになるため、押圧力を分散すべく両脇クランプ10の上面を人体の形状に合わせた曲面として形成することが好ましく、また、その面積をできるだけ大きくすることが好ましい。
また、搭乗者をより安定的に支持する観点からは、図2(a)に示すように、両脇クランプ10の先端を、それぞれ内側に湾曲させることが好ましく、それぞれの湾曲した先端同士を結合するための結合部材を備えてもよい。
【0029】
また、両脇クランプ10を開閉式とすることも好ましい。
すなわち、トイレを使用するとき以外の状況においては、常に両脇クランプ10が両脇に挿入されていると、搭乗者にとって心理的、身体的な負担が大きいことから、普段は図1(a)に示すように、両脇クランプ10を外側に開いた状態にしておき、トイレを使用するときのみ、図2(a)に示すように両脇クランプ10を内側に閉じた状態とすることが好ましい。
また、このようにすることで、両脇クランプ10の先端が湾曲している場合であっても、容易に搭乗者の両脇に挿入することができる。
なお、両脇クランプ10を開閉式とする場合には、例えば、図1(a)に示すように、背凭れ部20における両脇クランプ10の設置箇所よりも内側に位置する内側部分22を、外側に位置する外側部分24よりも凸状に形成することで、立体的な障害の発生を抑制して両脇クランプ10を容易に開閉することができる。
また、両脇クランプ10の設置位置は、搭乗者の身体のサイズにより適宜調節する必要があることから、例えば、図1(a)に示すように、背凭れ部20に高さ調節用レール26を設けておくことが好ましい。
また、両脇クランプ10の間の距離も調節できるように、高さ調節用レール26の間の距離も調節可能に構成することが好ましい。
【0030】
また、上下方向に移動させる際に、搭乗者を安定的に支持する必要があることから、図2(a)に示すように、両脇クランプ10の背凭れ部20の表面から先端までの長さL7を150〜300mmの範囲内の値とすることが好ましく、幅L8を30〜200mmの範囲内の値とすることが好ましく、厚さL9を10〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、両脇クランプ10を構成する材料物質としては、搭乗者を上下方向に移動させる際に必要な強度を確保できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アルミニウム合金等の金属類、プラスチック、あるいは木材等が挙げられる。
【0031】
(5)足裏クランプ
また、図4に示すように、座面枠部材30の前端部から下方に延びる延設部34bと、当該延設部34bの下端部に設けられた足裏載置部34aと、を含む足裏クランプ34を設けることが好ましい。
この理由は、かかる足裏クランプ34を設けることにより、搭乗者をより安定的に支持しながら上下動させることができるためである。
すなわち、足裏クランプ34が、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aと連動して上下動することになるため、搭乗者の膝下部分が宙に浮いた不安定な状態になることを安定的に防止することができる。
また、搭乗者を上方に移動させた際に、搭乗者の体重が、両脇クランプ10、背凭れ部20、膝裏クランプ30aおよび足裏クランプ34に分散されることから、搭乗者の身体への負担をさらに軽減することができる。
【0032】
(6)座面支持部材
図2(c)に示す座面支持部材50は、図3(a)〜(b)に示すように、上下動する座面枠部材30に対する基底部としての役割を有することから、図1(a)に示すように、車椅子1のフレーム骨格93に対して固定される。
また、図2(c)に示すように、座面支持部材50は、上述した座面枠部材30と同様に、基本的に平面状の枠状物であり、その平面形状は、四角形、円形、楕円形等、特に限定されるものではないが、通常、車椅子の座面の平面形状が四角形であることに合わせて、四角形とすることが好ましい。
また、トイレを使用する際に、車椅子を後方に移動させながら、枠内に便座を収容する必要があることから、図2(c)に示すように、座面支持部材50の後方側の側面は開放構造とし、上部のみ板状物52にて連結することが好ましい。
この理由は、図1(a)〜(b)に示すように、座面枠部材30に対する基底部としての役割を有する座面支持部材50は、座面枠部材30の上下動により搭乗者を便座120に着座させる観点から、基本的に便座120の高さと同程度、あるいは便座120より低い高さに位置することになる。
したがって、後方側を開放構造としない場合、座面支持部材50の枠内に便座120を収容することが困難になるためである。
なお、板状物52は省略することもできる。
【0033】
また、枠内に便座を収容する必要があることから、図2(c)に示すように、座面支持部材50における枠の内側における横幅L10を390〜540mmの範囲内の値とすることが好ましく、枠の内側における縦幅L11を420〜500mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、上下動における基底部としての強度を確保する観点から、座面支持部材50における枠の太さL12を30〜100mmの範囲内の値とすることが好ましく、厚さL13を15〜100mmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0034】
また、図2(c)に示すように、座面支持部材50の枠の内側における両側面に、図2(b)に示す座面40を移動可能に載置するための座面載置用レール54を設けることが好ましい。
この理由は、かかる座面載置用レール54を設けることにより、図5(a)〜(b)に示すように、座面40を安定的に座面支持部材50に対して移動可能に載置することができるばかりか、座面載置用レール54の立体形状を調節することにより、座面の曲面を人体の形状に合わせて適宜調節することができるためである。
より具体的には、車椅子の後方側から前方側に向かって、最初下り勾配を有し、半ば過ぎに上り勾配に転じ、さらに膝裏クランプ30aの手前辺りから下り勾配に転じる曲面を形成できるように調節することが好ましい。
また、座面支持部材50の枠の内側における前方側の面には、座面載置用レール54と連続するように形成された座面通過用溝56を形成することが好ましい。
この理由は、かかる座面通過用溝56を形成することにより、図5(a)〜(b)に示すように、スライドにより座面支持部材50の前方側から出入りする座面40の位置的な安定性を高めることができ、ひいては、後述するモーターおよび歯車による座面40の送りにおける安定性を高めることができるためである。
【0035】
また、図2(c)に示すように、座面支持部材50の4隅もしくはその近傍に、孔部58を設けることが好ましい。
この理由は、かかる孔部58を設けることにより、後述するジャッキを介して、座面支持部材50に対して、図2(a)に示す座面枠部材30を上下動可能に設置することができるためである。
また、座面支持部材50を構成する材料物質としては、上下動における基底部としての強度を確保できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アルミニウム合金等の金属類、プラスチック、あるいは木材等が挙げられる。
【0036】
(7)座面
図5(a)〜(b)に示すように、本発明の車椅子における座面40は、搭乗者を座面40の下部に収容された洋式便器の便座に着座させるための開口部48を形成可能な開閉式の座面40であることを特徴とする。
この理由は、このような開閉式の座面40とすることにより、搭乗者を洋式便器の便座に直接的に着座させることができることから、普通に洋式便器を使用するのと実質的に同じ状態を再現することができ、無用な違和感を取り除き、搭乗者の心理的負担を軽減することができるためである。
また、便座と搭乗者との間に、例えば排泄用の孔部が設けられた座面が介在している場合、排泄物により座面が汚染されるという問題が生じやすくなるが、このような問題の発生を根本的に解決することができる。
【0037】
また、座面の具体的な態様は、搭乗者を洋式便器の便座に直接的に着座させることができる開口部を形成できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、中央から左右に分かれて開く態様や、後方に折りたたまれて開く態様等が挙げられる。
中でも、図2(b)に示すように、座面40が、複数の円柱状部材42を長手方向が車椅子の左右方向となるように平行配置された状態で折り曲げ可能に順次連結してなる座面40であるとともに、図5(a)〜(b)に示すように、車椅子の前方側にスライドして、開口部48を形成することが好ましい。
この理由は、座面40をこのような態様とすることにより、座面40として人体の形状に合わせた曲線を調節することができ、座り心地を向上させることができるとともに、搭乗者の邪魔になることなく、容易に開口部48を形成することができるためである。
また、車椅子の前方側にスライドさせることから、そのときの座面40の状態を搭乗者が直接視認しやすくなり、搭乗者の心理的負担を軽減することができるとともに、不注意による事故の発生を未然に防ぐことにも寄与する。
【0038】
また、図2(b)に示すように、座面40を構成する円柱状部材42の長手方向の長さL14は、通常、380〜530mmの範囲内の値とすることが好ましく、直径L15は、通常、0.5〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、円柱状部材42を構成する材料物質としては、搭乗者の着座に耐え得る強度を確保できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アルミニウム合金等の金属類、プラスチック、あるいは木材等が挙げられる。
【0039】
また、複数の円柱状部材42を連結する態様としては、図6に示すように、個々の円柱状部材42の端面に対して自転車のチェーンとして用いられるようなチェーン44を係合させることにより連結することが好ましい。
より具体的には、個々の円柱状部材42の両端の端面の中央にそれぞれ軸となる突起を設け、これらの突起をチェーン44におけるそれぞれの可動軸に設けられた孔部に係合させ、座面40の両側面からチェーン44を用いて連結することが好ましい。
この理由は、このようにチェーン44を用いて複数の円柱状部材42を連結することで、図6に示すように、チェーン44と係合させた歯車46を回転させることにより、容易かつ安定的に座面40をスライドさせることができるためである。
【0040】
また、座面が電動モーターにより移動することが好ましい。
この理由は、座面が電動モーターにより移動する構成とすることにより、搭乗者等の負担をより軽減することができるためである。
かかる態様については、特に限定されるものではないが、例えば、図6に示すような態様であれば、歯車46を電動モーターにより回転させることで、容易に座面40をスライドさせることができる。
【0041】
(8)駆動機構
また、本発明の車椅子においては、図7(a)〜(c)に示すように、座面枠部材30が、当該座面枠部材30を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキ(70a、70b、80a、80b)を車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列(70、80)を、座面枠部材30の両側方部分において1列ずつ有し、1列のジャッキ列70(80)を構成するジャッキ(70a、70b(80a、80b))同士がタイミングベルト60(62)により車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなることを特徴とする。
この理由は、このような駆動機構とすることにより、図1(a)〜(b)に示すように座面40の下部において洋式便器110を収容可能な空間を安定的に確保しつつ、効率的に両脇クランプ10等を連動して上下動させることができるためである。
【0042】
例えば、図8に示すように、座面枠部材30の4隅もしくはその近傍に配設したジャッキ(70a、70b、80a、80b)を、1つのタイミングベルト60を掛け回して連結した態様の場合、座面40の下部に洋式便器110を収容するための空間を確保することが困難になりやすい。
これは、図1(a)〜(b)に示すように、座面枠部材30に対する基底部としての役割を有する座面支持部材50は、座面枠部材30の上下動により搭乗者を便座120に着座させる観点から、基本的に便座120の高さと同程度、あるいは便座120より低い高さに位置することになる。
したがって、図8に示す態様の場合、図7(b)〜(c)に示すように、座面枠部材30と、座面支持部材50との間隙部分にてジャッキ(70a、70b、80a、80b)に掛け回されるタイミングベルト60は、座面支持部材50の枠内に便座120を収容する際に便座120と接触してしまい、収容を妨げることになるためである。
これに対し、図7(a)〜(c)に示す本発明の態様であれば、車椅子の前後方向に沿って列状に配設してなるジャッキ列(70、80)の間に安定的に便座を収容することが可能となる。
【0043】
また、図7(a)に示すように、座面枠部材30の両側方部分におけるそれぞれのジャッキ列70(80)が、当該ジャッキ列70(80)を構成する複数のジャッキ(70a、70b(80a、80b))のうちの1つのジャッキ70a(80a)におけるネジ軸74a(84a)を電動モーター90により回転させることにより、ジャッキ列70(80)を構成する他のジャッキ70b(80b)のネジ軸74b(84b)をも回転させ、座面枠部材30を上下動させることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、少ない動力により効率的に両脇クランプ等を連動して上下動させることができるためである。
【0044】
より具体的には、図7(a)〜(c)に示すように、それぞれ4隅もしくはその近傍に孔部を設けた座面枠部材30および座面支持部材50を、それぞれの孔部が連通するように重ね合わせ、連通した孔部に対し、座面枠部材30の上方から下方に向けてジャッキ(70a、70b、80a、80b)のネジ軸(74a、74b、84a、84b)を貫通させる。
このとき、ジャッキ(70a、70b、80a、80b)のギヤケース部分(72a、72b、82a、82b)を、座面枠部材30に対して完全に固定する一方、座面支持部材50の各孔部の内周面には、ネジ溝を形成しておき、ジャッキ(70a、70b、80a、80b)のネジ軸(74a、74b、84a、84b)のネジ溝と螺合させる。
これにより、ジャッキ(70a、70b、80a、80b)のネジ軸(74a、74b、84a、84b)をジャッキ列(70、80)ごとに同期して回転させることにより、座面支持部材50を基底部として、座面枠部材30を上下動させることが可能になる。
【0045】
また、座面枠部材30と、座面支持部材50との間隙部分に位置するジャッキ(70a、70b、80a、80b)のネジ軸(74a、74b、84a、84b)部分には、ネジ軸(74a、74b、84a、84b)の回転をジャッキ列(70、80)ごとに同期させるための歯車(76a、76b、86a、86b)を固定し、歯車(76a、76b、86a、86b)に対してジャッキ列(70、80)ごとにタイミングベルト60(62)を掛け回して連結する。
これにより、1つのジャッキ70a(80a)におけるネジ軸74a(84a)をモーター90により回転させるだけで、他のジャッキ70b(80b)のネジ軸74b(84b)をも同様に容易回転させることができることから、2つのジャッキ列(70、80)により一定の速度でバランスよく座面枠部材30を上下動させることができる。
なお、上述した態様に好ましくしようされるジャッキ(70a、70b、80a、80b)のタイプとしては、台形ネジタイプのジャッキが挙げられる。
また、ジャッキ列(70、80)の間の幅は、図1(a)における両小車輪96の間の幅L2と同様にすることが好ましい。
また、1列のジャッキ列を構成するジャッキの数は、2つに限られず、上下運動の安定性を高める観点から、3つ以上とすることも好ましい。
【0046】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、搭乗したまま洋式便器を使用可能な車椅子の使用方法であって、車椅子が、座面の下部に洋式便器を収容可能な空間を有するとともに、搭乗者を車椅子に搭乗したままの状態で上下方向に移動させるために連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、搭乗者を座面の下部に収容された洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備え、かつ、両脇クランプが、背凭れ部に固定されているとともに、膝裏クランプが、背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、座面枠部材が、当該座面枠部材を上下動させるための駆動機構として、複数のジャッキを車椅子の前後方向に沿って列状に配置してなるジャッキ列を、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、1列のジャッキ列を構成するジャッキ同士がタイミングベルトにより車椅子の前後方向に沿って列状に連結されてなる車椅子であるとともに、下記工程(a)〜(f)を含むことを特徴とする車椅子の使用方法である。
(a)搭乗者が座面に着座した状態で、車椅子を後方に移動させて、座面の下部に洋式便器を収容する工程
(b)両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して上方に移動させて、搭乗者を座面から浮かせる工程
(c)搭乗者がズボンおよびパンツを下げる工程
(d)座面を移動させて、搭乗者を洋式便器の便座に着座させるための開口部を形成する工程
(e)両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプを連動して下方に移動させて、搭乗者を洋式便器の便座に着座させる工程
(f)搭乗者が、洋式便器を使用する工程
以下、第2の実施形態について、図面を示しながら具体的に説明する。
【0047】
1.工程(a)
工程(a)は、図9(a)に示すように、搭乗者400が座面40に着座した状態で、車椅子1を後方に移動させて、座面40の下部に洋式便器110を収容する工程である。
【0048】
2.工程(b)
工程は、図9(b)に示すように、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aを連動して上方に移動させて、搭乗者400を座面40から浮かせる工程である。
このとき、搭乗者400を上昇させる高さを、通常、10〜100mmの範囲内の値とすることが好ましく、搭乗者400を上昇させる速度を、通常、50〜300mm/分の範囲内の値とすることが好ましい。
【0049】
3.工程(c)
工程(c)は、図10(a)に示すように、搭乗者400がズボン410およびパンツを下げる工程である。
【0050】
4.工程(d)
工程(d)は、図10(a)に示すように、座面40を移動させて、搭乗者400を洋式便器110の便座120に着座させるための開口部48を形成する工程である。
なお、工程(c)と工程(d)は、順番が入れ替わってもよく、また、同時であってもよい。
【0051】
5.工程(e)
工程(e)は、図10(b)に示すように、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aを連動して下方に移動させて、搭乗者400を洋式便器110の便座120に着座させる工程である。
【0052】
6.工程(f)
工程(f)は、図10(b)に示す状態で、搭乗者400が、洋式便器110を使用する工程である。
【0053】
7.工程(g)
工程(g)は、図10(a)に示すように、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aを連動して上方に移動させて、搭乗者400を洋式便器110の便座120から浮かせる工程である。
【0054】
8.工程(h)
工程(h)は、図9(b)に示すように、搭乗者400が、ズボン410およびパンツを上げる工程である。
【0055】
9.工程(i)
工程(i)は、図9(b)に示すように、座面40を移動させて元の位置に戻し、開口部48を閉じる工程である。
なお、工程(h)と工程(i)は、それぞれの順番が入れ替わってもよく、また、同時であってもよい。
【0056】
10.工程(j)
工程(j)は、図9(a)に示すように、両脇クランプ10、背凭れ部20および膝裏クランプ30aを連動して下方に移動させて、搭乗者400を座面40に着座させる工程である。
【0057】
11.工程(k)
また、工程(k)は、図9(a)に示すように、搭乗者400が座面40に着座した状態で、車椅子1を前方に移動させて、座面40の下部に収容された洋式便器110から離れる工程である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の車椅子等によれば、連動して上下動する両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、開口部を形成可能な開閉式の座面と、を設けるとともに、両脇クランプ等を上下動させるための駆動機構として、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ設けられた所定のジャッキ列を備えることにより、搭乗したままの状態で、洋式便器の便座に容易に着座することができるばかりか、ズボンやパンツの下げ上げも容易にすることができるようになった。
したがって、本発明の車椅子等は、被介護者等や介護者等の心理的、肉体的な負担の軽減に著しく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0059】
1:車椅子、10:両脇クランプ、20:背凭れ部、26:調節用レール、30:座面枠部材、30a:膝裏クランプ、32:座面枠部材の孔部、34:足裏クランプ、34a:足裏載置部、34b:延設部、40:座面、42:円柱状部材、44:チェーン、46:座面移動用の歯車、48:開口部、50:座面支持部材、52:板状物、54:座面載置用レール、56:座面通過用溝、58:座面支持部材の孔部、60:タイミングベルト、62:タイミングベルト、70:ジャッキ列、80:ジャッキ列、72:ジャッキのギヤケース部分、82:ジャッキのギヤケース部分、74:ジャッキのネジ軸、84:ジャッキのネジ軸、76:ジャッキの歯車、86:ジャッキの歯車、90:電動モーター、92:車輪、93:フレーム骨格、94:ハンドリム、96:小車輪、110:洋式便器、120:便座、400:搭乗者、410:ズボン
【要約】
【課題】搭乗したままの状態で、容易に洋式便器の便座に着座等することができる車椅子および車椅子の使用方法を提供する。
【解決手段】上下方向に移動させるための両脇クランプ、背凭れ部および膝裏クランプと、所定開口部を形成可能な開閉式の座面と、を備え、かつ、両脇クランプが、背凭れ部に固定されているとともに、膝裏クランプが、背凭れ部の下端部に固定された座面枠部材の上側表面に形成されており、さらに、座面枠部材が、上下動させるための駆動機構として、所定のジャッキ列を、座面枠部材の両側方部分において1列ずつ有し、これらのジャッキ同士がタイミングベルトにより車椅子の前後方向に沿って列状に連結されている。
【選択図】図1
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図12