(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965058
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20160721BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
C23C14/24 F
G11B5/84 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-518047(P2015-518047)
(86)(22)【出願日】2014年2月7日
(86)【国際出願番号】JP2014000676
(87)【国際公開番号】WO2014188634
(87)【国際公開日】20141127
【審査請求日】2015年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-109378(P2013-109378)
(32)【優先日】2013年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】小野 輝明
(72)【発明者】
【氏名】芝本 雅弘
【審査官】
國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−211127(JP,A)
【文献】
特開2002−241927(JP,A)
【文献】
特開2007−254770(JP,A)
【文献】
特開2004−218087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット部と、
前記ターゲット部から放出された電子が流入するアノード部と、
前記ターゲット部に接触し、前記ターゲット部と前記アノード部を導通させることで、前記ターゲット部と前記アノード部との間にアーク放電を発生させるストライカと、
前記ストライカを前記ターゲット部の方向または前記ターゲット部から退避する方向へ駆動するストライカ駆動手段と、
前記ターゲット部と前記アノード部に電力を付与する電力付与手段と、
前記ストライカ駆動手段および前記電力付与手段を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記ストライカと前記ターゲット部とを接触させた後に、前記ターゲット部と前記アノード部とに電力を付与することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ストライカが前記ターゲット部に接触している状態から非接触状態となるまでの間に、前記電力付与手段により電力を付与することを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ストライカへの負荷が所定閾値を超えたときに、前記ストライカが前記ターゲット部に接触したと判定することを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ストライカと前記ターゲット部の間の抵抗値が所定閾値以下となったきに、前記ストライカが前記ターゲット部に接触したと判定することを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ストライカの移動速度が所定閾値以下となったときに、前記ストライカが前記ターゲット部に接触したと判定することを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記電力付与手段は、電流を通電させるか、電圧を印加することで電力を付与することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記アノード部に連結されて、前記ターゲット部から放出された電子を被処理物の方向へ誘導するフィルタ部を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電を用いた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクなどのメディアの保護膜を形成する方法として、C
2H
2やC
2H
4などの反応性ガスを利用したCVD法がある。最近では、磁気読取ヘッドとメディアの磁気記録層とのスペーシング距離やヘッド浮上量をより短くしドライブ特性を向上させるため、磁気記録層上に成膜されるカーボンなどの保護膜もより一層薄くすることが求められている。
【0003】
しかし、CVD法で成膜されるカーボン保護膜は、その特性から2〜3nmが限界と言われている。そこで、CVD法に代わる技術として、より薄いカーボン保護膜を形成できるアーク放電を用いた成膜方法(真空アーク成膜法:Vacuum Arc Deposition)が注目されている。真空アーク成膜法では、CVD法に比べて水素含有量が少なく硬いカーボン保護膜を成膜できるため、膜厚を1nm程度まで薄くできる可能性がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、ターゲットにアークスポットを形成してアーク放電によりターゲットイオンおよび電子を放出させるストライカ、アークを維持するためのアノード部、ターゲットの間で電子の流れを作るアノードコイル、ターゲットイオンおよび電子をプロセスチャンバまで誘導するフィルタ部を備える成膜装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−254770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の真空アーク成膜法では、
図8に示すように、動作開始信号が出力されると(S801)、アーク電源による電力付与を開始すると同時にストライカがターゲットの方向へ移動を開始し(S802)、ストライカがターゲットに接触したことを検知すると(S803)、ストライカが退避位置へ移動を開始する(S804)。この一連の動作のどこかでアークが発生し、アーク電源から付与される電力でアーク放電が維持され、所望の時間に到達したときにアーク電源による電力付与を終了する(S805、S806)。
【0007】
ここで、従来のアークの発生パターンについて、本願発明者らが検証を行った結果について説明する。
図9の9aから9cは、3つのパターンA〜Cにおける、ストライカ速度、ストライカ負荷、アーク電流、フィルタ電流を例示しており、ストライカ速度およびストライカ負荷はストライカ駆動用モータにて測定し、アーク電流はアーク電源にて測定し、フィルタ電流はフィルタ用電源もしくは電流測定手段により測定した結果である。アークの発生は、アークによるプラズマが発生したときに、プラズマからの電子もしくはターゲットイオンがフィルタ部に流入することで発生するフィルタ電流によって確認することができる。本願発明者らは、従来のアークの発生パターンとして3つのパターンA〜Cがあることを発見した。すなわち、ストライカがターゲットから退避するときに発生するパターンAと、ストライカがターゲットに接触した直後に発生するパターンBと、ストライカがターゲットに接触した直後に発生するが何かの原因で消滅し、ストライカがターゲットから退避するときに再度発生するパターンCである。アークの発生パターンが複数あるということは被処理基板ごとの膜厚にバラツキが発生するということである。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされ、その目的は、アークの発生タイミングを制御することにより、被処理物ごとの膜厚のバラツキを従来よりも低減できる成膜装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明の成膜装置は、ターゲット部と、前記ターゲット部から放出された電子が流入するアノード部と、前記ターゲット部に接触し、前記ターゲット部と前記アノード部を導通させることで、前記ターゲット部と前記アノード部との間にアーク放電を発生させるストライカと、前記ストライカを前記ターゲット部の方向または前記ターゲット部から退避する方向へ駆動するストライカ駆動手段と、前記ターゲット部と前記アノード部に電力を付与する電力付与手段と、前記ストライカ駆動手段および前記電力付与手段を制御する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記ストライカと前記ターゲット部とを接触させた後に、前記ターゲット部と前記アノード部とに電力を付与する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アークの発生するタイミングを制御することにより、被処理物ごとの膜厚のバラツキを従来よりも低減することができる。
【0011】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
【
図1】本発明に係る実施形態の成膜装置の概略構成を示す断面図。
【
図2】
図1の成膜装置のフィルタ部の構成を示す断面図。
【
図3A】
図1の成膜装置のソース部の構成を示す2方向から見た側面図。
【
図3B】
図1の成膜装置のソース部の構成を示す2方向から見た側面図。
【
図4】本実施形態の成膜装置の電力供給系の概略構成を示すブロック図。
【
図5】本実施形態の成膜装置の制御系の概略構成を示すブロック図。
【
図6】本実施形態の成膜装置におけるアーク発生処理手順を示すフローチャート。
【
図7】本実施形態の成膜装置によるアーク発生パターンを示す図。
【
図8】従来の成膜装置におけるアーク発生処理手順を示すフローチャート。
【
図9】従来の成膜装置によるアーク発生パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0014】
以下に、本発明の成膜装置を、真空アーク成膜法(Vacuum Arc Deposition)を用いて被処理物としての基板に保護膜を形成する成膜装置に適用した実施形態について説明する。
【0015】
<装置構成>先ず、
図1ないし
図3A−Cを参照して、本発明に係る実施形態の成膜装置の構成について説明する。
【0016】
図1において、本実施形態の成膜装置100は、3nm以下のターゲット材料(例えば、カーボン)の保護膜が成膜される基板1を配置するプロセスチャンバ101と、プロセスチャンバ101に内部で連通するように連結されたフィルタ部110と、フィルタ部110に内部で連通するように連結されたソース部120とを有する。また、プロセスチャンバ101とフィルタ部110、ならびにフィルタ部110とソース部120の各連結部分には絶縁部材2が配置され、各部が電気的絶縁状態を保持するように構成されている。
【0017】
フィルタ部110は、90°方向に湾曲した誘導路110aを形成し、誘導路11
0aの内部を真空状態に保持するための1つ以上の輸送管111、輸送管111の大気側または真空側に電子およびターゲットイオンを輸送するための磁場を形成するフィルタコイル112、永久磁石などの磁場形成手段を備える。誘導路110aは1つ以上の輸送管111が連結されて構成され、各輸送管111の外側(大気側)には全周にわたってフィルタコイル112が設けられており、ソース部120で生成された電子およびターゲットイオンを基板1に向けて誘導すると共に、パーティクルとなる粒径の大きいカーボン粒子を除去する。輸送管111には、電圧印加端子113などの電圧印加手段が設けられており、輸送管111が2つ以上のときは各々を電気的に導通状態とするか、各々の連結部分に絶縁部材を配置して電気的絶縁状態とすることが可能であり、いずれかの状態が選択可能である。
【0018】
ソース部120は、陽極アノード部130と、陰極ターゲット部140と、アノードコイル131aとを備え、陽極アノード部130と陰極ターゲット部140の間での電子電流もしくはイオン電流を維持することによりアーク放電を維持する。
【0019】
陽極アノード部130は、
図3A−Cに詳細を示すように、陽極アノード131、陽極アノード給電部132、陽極アノード給電端子133、ストライカ134、およびアノードハウジング135を有している。
【0020】
ストライカ134は、陰極ターゲット部140の表面に所定のタイミングで接触することでターゲット表面にアーク放電を発生させる。陰極ターゲット部140上のアークスポットから放出された電子およびターゲットイオンは、プラズマ化してプロセスチャンバ101へ誘導される。陰極ターゲット部140も所定の角度になるように回転駆動される。このように陰極ターゲット部140に対してストライカ134が接触する位置を相対的に移動させることにより、アークスポットの局在化を防止している。なお、アークスポットとはターゲット上でアークが発生している場所のことである。
【0021】
ストライカ134は、陽極アノード131と同電位とされ、アノードハウジング135は、陽極アノード給電部132と電気的絶縁状態を保持するように絶縁部材2が介装されている。ストライカ134は、ストライカ駆動用モータ134aの駆動力が、ストライカ駆動用モータカップリング134b、ストライカ駆動用モータシャフト134c、ストライカ駆動用モータギヤ134d、ストライカ駆動用モータ動力伝達ギヤ134e、ストライカ給電・駆動シャフト134iを介して伝達されることにより駆動可能に構成されている。また、ストライカ給電端子134g、ストライカ給電部134f、ストライカ給電用ブラシ134hがストライカ給電・駆動シャフト134iに接続されており、ストライカ給電用ブラシ134hがストライカ給電・駆動シャフトに接触するように配置されていることによって、ストライカ134に給電可能となっている。さらに、ストライカ給電・駆動シャフト134iとアノードハウジング135との間には、電気的絶縁状態を保持するように絶縁部材2が介装され、かつ絶縁部材2とストライカ給電・駆動シャフト134iとの間に磁性流体134jを介装することによってストライカ給電・駆動シャフト134iとアノードハウジング135が導通状態にならずにストライカ134の駆動および給電が可能となっている。
【0022】
また、ストライカ134は、アーム部134kとチップ部134lからなり、高温・大電流に対する耐久性のある材質が望ましい。例えば、アーム部134kをモリブデン製、チップ部134lをグラファイト製とする。また、アーム部とチップ部を一体的に構成しても良い。
【0023】
陰極ターゲット部140は、円筒状または円盤状のカーボングラファイト製の陰極ターゲット141、陰極ターゲット給電部142、陰極ターゲット給電端子143、陰極ターゲットハウジング144を有している。陰極ターゲット141は、陰極ターゲット回転用モータ141aの駆動力が、陰極ターゲット回転用モータカップリング141b、陰極ターゲット回転用モータシャフト141c、陰極ターゲット回転用モータギヤ141d、陰極ターゲット回転用モータ動力伝達ギヤ141e、陰極ターゲット回転用シャフト141f、陰極ターゲットブラケット141hを介して伝達されることにより回転可能に構成されている。また、陰極ターゲット141は、陰極ターゲット給電部142、陰極ターゲット給電用ブラシ142a、陰極ターゲット給電端子143と接続されていることにより給電可能に構成されている。さらにまた、陰極ターゲット回転用シャフト141fと陰極ターゲットハウジング144との間には、電気的絶縁状態を保持するように絶縁部材2が介装され、かつ絶縁部材2と陰極ターゲット回転用シャフト141fとの間に磁性流体141gを介装することによって陰極ターゲット回転用シャフト141fと陰極ターゲットハウジング144が導通状態にならずに陰極ターゲット141の回転および給電が可能となっている。
【0024】
上記構成において、ストライカ134と陰極ターゲット141が接触するときに陽極アノード131と陰極ターゲット141が短絡し、アークが発生する。
【0025】
不図示のアーク電源から陰極ターゲット141に負の電圧を印加し、ストライカ134及び陽極アノード131に正の電圧を印加することで、アノードコイル131aによる磁場に沿って陰極ターゲット141と陽極アノード131との間で電子の流れを形成する。
【0026】
アークスポットで発生した電子は、アーク維持電子とイオン輸送電子となる。アーク維持電子は、ターゲット表面で発生した電子の一部をアノードコイル131aの磁場で誘導されて陽極アノード131へ流入する電子であり、陰極ターゲット141で発生したプラズマアークを維持するために、陰極ターゲット141と陽極アノード部131の間に電流を流してアークスポットを加熱することに利用される。
【0027】
イオン輸送電子は、ターゲットイオンを被処理基板1に到達させるための電子であり、電子のクーロン力を利用してイオンを引っ張る働きをする。イオン輸送電子はフィルタ部110により作られた磁場により被処理基板1の方向へ誘導される。
【0028】
上記構成によって、プロセスチャンバ101内部で被処理基板1の表面にターゲットイオンを付着・堆積させて保護膜が成膜される。
【0029】
<電力供給系>次に、
図4も参照して、本実施形態の成膜装置の電力供給系の構成について説明する。
【0030】
プロセスチャンバ101は、アースに接続されている。フィルタ部110は、電圧印加端子113を介して不図示のフィルタ電源または電流測定部に接続されている。陽極アノード部130は、陽極アノード給電端子133を介してアーク電源150に接続されている。ストライカ134は、ストライカ給電端子134gを介してアーク電源150に接続されている。陰極ターゲット部140は、陰極ターゲット給電端子143を介してアーク電源150の負電極側に接続されている。陽極アノード部130とストライカ134は同電位になるようにアーク電源150のプラス側に接続されており、陰極ターゲット部140はアーク電源150のマイナス側に接続されている。また、アーク電源150は電流の通電制御の方が望ましいが、電圧の印加制御であっても良い。本明細書中では、電流と電圧を総称して電力と呼ぶものとする。
【0031】
なお、陽極アノード部130側と陰極ターゲット部140の間に電位差を生じさせる回路であれば、陽極アノード部130側と陰極ターゲット部140の間でアーク放電が生じるため、複数の電源を用いて回路を構成しても良い。例えば、第1の電源の一端をアースに、他端を陽極アノード部130側にそれぞれ接続し、第2電源の一端を陰極ターゲット部140に、他端をアースに接続する回路であってもよい。
【0032】
本実施形態のストライカ134は、陽極アノード部130と並列にアーク電源150に接続されているが、ストライカ134を陽極アノード部130に接続する直列的な配線でも良い。さらに、ストライカ134と陽極アノード部130に供給される電力が実質的に同じであれば、ストライカ134に電力を供給する電源と、陽極アノード部130に電力を供給する電源を別個にしても良い。本実施形態において、アークの発生させる際に、陽極アノード部130に電力を供給するときはストライカ134にも同様に電力が供給されるものとする。
【0033】
<制御系>次に、
図5を参照して、本実施形態の成膜装置の制御系の概略構成について説明する。
【0034】
図5に示すように、本実施形態の成膜装置は、装置全体を統括して制御するメイン制御装置500と、アークの発生を制御するアーク制御装置501とを有する。メイン制御装置500およびアーク制御装置501は、メモリ等の記憶部やCPU等の演算処理部、通信部を有する。アーク制御装置501は、メイン制御装置500から受けた制御信号に従って電力付与装置503としてのアーク電源150による電力供給を制御すると共に、ストライカ駆動装置504としてのモータ134a、141aの回転を制御する。なお、電力付与装置503は、ストライカ134と陰極ターゲット部140の間の抵抗値を測定するための抵抗計を含む。また、ストライカ駆動装置504は、ストライカ駆動用モータ134aや陰極ターゲット部140の陰極ターゲット回転用モータ141aの回転数やトルクを検知するエンコーダ等のセンサを含む。
【0035】
<アーク発生タイミングの制御処理>次に、
図6を参照して、本実施形態の成膜装置によるアーク発生タイミングの制御処理について説明する。
【0036】
メイン制御装置500から動作開始信号が出力されると(S601)、アーク制御装置501による処理が開始される。ここで、動作開始信号が出力されてもアーク電源150は電力付与を開始せず、ストライカ134の陰極ターゲット141と接触する方向への駆動が開始される(S602)。
【0037】
その後、ストライカ134が陰極ターゲット141に接触したことを検知すると(S603)、アーク制御装置501はアーク電源150による電力付与を開始する(604)。
【0038】
その後、ストライカ134の陰極ターゲット141から退避する方向への駆動が開始される(S605)。
【0039】
ストライカ134が、退避位置へ到達したことを検知すると(S606)、アーク制御装置501はアーク電源150による電力付与を停止する(S607)。
【0040】
上記動作を被処理基板ごとに繰り返し行う。
【0041】
なお、ストライカ134と陰極ターゲット141との接触は、ストライカ134が受ける反力による負荷を検知することで判定できる。つまり、ストライカ駆動用モータ134aの負荷が所定閾値を超えたときにストライカ134と陰極ターゲット141が接触したと判定される。
【0042】
他の方法として、ストライカ134の移動速度が所定閾値以下になったとき、または、ストライカ134と陰極ターゲット141の間の電気抵抗値が所定閾値以下になったときに、ストライカ134と陰極ターゲット141が接触したと判定することもできる。
【0043】
また、本実施形態では、ストライカ134がターゲット141に接触した後、電力付与を開始し、ストライカ134を退避させているが、ストライカ134がターゲット141に接触している状態から非接触状態となるまでの間に電力付与を行っても良い。また、ストライカ134とターゲット141が接触してから、一定の時間経過後にストライカ134の退避位置への駆動を開始しても良い。
【0044】
図7は、
図6のアーク発生タイミング制御によるアーク発生パターンを実験により検証した結果を示し、ストライカ134が陰極ターゲット141から退避するときに発生するパターンのみであることが確認された。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、ストライカと陰極ターゲットとを接触させた後に、アークを発生させるように制御することにより、被処理基板ごとの膜厚のバラツキを従来よりも低減することができる。
【0046】
なお、上述した実施形態では、ターゲット材料としてカーボンを用いた形態について記載したが、カーボンに限らず、例えば、TiやTiNを用いることも可能である。
【0047】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。
【0048】
本願は、2013年5月23日提出の日本国特許出願特願2013−109378を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。