特許第5965078号(P5965078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965078低忠実度の単一キュービットマジック状態からの効率的なトフォリ状態生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965078
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】低忠実度の単一キュービットマジック状態からの効率的なトフォリ状態生成
(51)【国際特許分類】
   G06N 99/00 20100101AFI20160721BHJP
   B82Y 10/00 20110101ALI20160721BHJP
【FI】
   G06N99/00 120
   B82Y10/00
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-539638(P2015-539638)
(86)(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公表番号】特表2016-500886(P2016-500886A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】US2013064343
(87)【国際公開番号】WO2014066056
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2015年5月26日
(31)【優先権主張番号】61/719,073
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503178185
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NORTHROP GRUMMAN SYSTEMS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】イースティン、ブライアン ケイ.
【審査官】 多胡 滋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/082906(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 99/00
B82Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービットマジック状態から生成して、前記単一キュービットマジック状態を使用してトフォリ状態を直接的に構築することにより、前記第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態を生成するため方法であって、
一組のクリフォードゲートによって生成されうる高忠実度状態において第1及び第2キュービットのそれぞれを生成するステップと、
前記単一キュービットマジック状態においてN個のターゲットキュービットを生成するステップであって、Nは、1を上回る整数である、前記N個のターゲットキュービットを生成するステップと、
前記第1キュービット、前記第2キュービット、及び前記N個のターゲットキュービットを有するシステムが、状態
1/2|000...0>+1/2|010...0>+1/2|100...0>+1/2|111...1
となるように、前記第1キュービット、前記第2キュービット、及び前記N個のターゲットキュービットに対して一連のゲートを実行するステップであって、インデックス値1〜Nは、前記N個のターゲットキュービットを表す、前記一連のゲートを実行するステップと、
少なくとも第1計測値を提供するべく、前記N個のターゲットキュービットに対してパリティチェックを実行するステップと、
前記第1計測値が望ましい値をとっている場合に、前記第1キュービット、前記第2キュービット、及び第1ターゲットキュービットを前記トフォリ状態として受け入れるステップとを備える方法。
【請求項2】
一連のゲートを前記第1キュービット、前記第2キュービット、及び前記N個のターゲットキュービットに対して実行するステップは、
前記第1及び第2キュービットのそれぞれに、前記ターゲットキュービットのそれぞれをターゲットとする少なくとも1つの制御NOT演算を実行するステップと、
少なくとも1つのクリフォードゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、ブロッホ球の軸を中心としたそれぞれのターゲットキュービットの回転を実行するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブロッホ球の軸を中心としたそれぞれのターゲットキュービットの回転を実行するステップは、
前記ブロッホ球のY軸を中心として、正又は負のπ/4ラジアンだけ、それぞれのターゲットキュービットの回転を実行するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
それぞれのターゲットキュービットの回転を実行するステップは、
複数の単一キュービットマジック状態のうちの1つを保存しているキュービットによって制御される前記ターゲットキュービットをターゲットとした制御Y演算を実行するステップと、
第1値及び第2値のうちの1つを提供するべく、Y基底において前記ターゲットキュービットを計測するステップと、
前記第1値が計測された場合に、前記Y軸を中心とした正又は負のπ/2ラジアンだけの前記ターゲットキュービットの回転を実行するステップと、
前記第2値が計測された場合に、前記ターゲットキュービットの回転を実行しないステップと含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記パリティチェックを前記N個のターゲットキュービットに対して実行するステップは、
前記N個のターゲットキュービットの少なくとも1つのその他のターゲットキュービットをターゲットとした前記第1ターゲットキュービットによって制御される制御NOTゲートを実行するステップと、
前記第1ターゲットキュービット以外の前記少なくとも1つのターゲットキュービットを標準基底において計測するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1キュービット、前記第2キュービット、及び前記N個のターゲットキュービットに対して前記一連のゲートを実行するステップは、
それぞれのターゲットキュービットをターゲットとした第1制御NOTゲートを実行するステップであって、それぞれのターゲットキュービットに対する前記第1制御NOTゲートは、前記第1キュービット及び前記第2キュービットのうちの所与のキュービットによって制御される、前記第1制御NOTゲートを実行するステップと、
前記一組のクリフォードゲートのうちの少なくとも1つのゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、ブロッホ球の軸を中心として第1方向においてそれぞれのターゲットキュービットの第1回転を実行するステップと、
それぞれのターゲットキュービットをターゲットとした第2制御NOTゲートを実行するステップであって、それぞれのターゲットキュービットに対する前記第2制御NOTゲートは、前記第1制御NOTゲートにおいて使用されなかった前記第1キュービット及び前記第2キュービットのうちの他方のキュービットによって制御される、前記第2制御NOTゲートを実行するステップと、
前記一組のクリフォードゲートのうちの少なくとも1つのゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、前記ブロッホ球の前記軸を中心として第2方向においてそれぞれのターゲットキュービットの第2回転を実行するステップと、
それぞれのターゲットキュービットをターゲットとした第3制御NOTゲートを実行するステップであって、それぞれのターゲットキュービットに対する前記第3制御NOTゲートは、それぞれのターゲットキュービットをターゲットとした前記第1制御NOTゲートの実行するステップにおいて使用された前記第1キュービット及び前記第2キュービットのうちの同一のキュービットによって制御される、前記第3制御NOTゲートを実行するステップと、
前記一組のクリフォードゲートのうちの少なくとも1つのゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、前記ブロッホ球の軸を中心として前記第2方向においてそれぞれのターゲットキュービットの第3回転を実行するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
それぞれのターゲットキュービットをターゲットとした前記第1制御NOTゲートを実行するステップは、
前記第2キュービットにより、第1ターゲットキュービットをターゲットとした前記制御NOTゲートを制御するステップと、
前記第1キュービットにより、第2ターゲットキュービットをターゲットとした前記制御NOTゲートを制御するステップとを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
それぞれのターゲットキュービットの第1回転を実行するステップは、
前記ブロッホ球のY軸を中心としてπ/4の回転を実行するステップを含み、
それぞれのターゲットキュービットの第2回転を実行するステップとそれぞれのターゲットキュービットの第3回転を実行するステップとのそれぞれは、
前記ブロッホ球の前記Y軸を中心とした−π/4の回転を実行するステップを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記単一キュービットマジック状態においてN個のターゲットキュービットを生成するステップは、
ハダマード演算子の固有状態と等価である種類の状態のうちの1つにおいて前記N個のターゲットキュービットを生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
マジック状態の複数のインスタンスから、高忠実度のトフォリ状態において3つのキュービットを提供するシステムであって、
複数のクリフォードゲートによって生成されうる高忠実度状態をそれぞれが保存している第1及び第2キュービットと、
前記マジック状態のインスタンスをそれぞれが保存しているN個のターゲットキュービットと、
前記システムを状態
1/2|000...0>+1/2|010...0>+1/2|100...0>+1/2|111...1
に配置するべく、前記第1キュービット、前記第2キュービット、及び前記N個のターゲットキュービットに対して一連のゲートを実行するように構成された複数ターゲットトフォリ状態生成コンポーネントであって、インデックス値1〜Nは、前記N個のターゲットキュービットを表している、前記複数ターゲットトフォリ状態生成コンポーネントと、
前記N個のターゲットキュービットのパリティをチェックするように構成されたパリティチェックコンポーネントであって、前記パリティチェックコンポーネントは、計測されていないターゲットキュービットを提供するべく、N−1個のターゲットキュービットに関する計測を有する、前記パリティチェックコンポーネントとを備える、システム。
【請求項11】
前記複数ターゲットトフォリ状態生成コンポーネントは、直列状態において構成された複数の量子回路を含み、
前記複数の量子回路のそれぞれは、
前記N個のターゲットキュービットの第1ターゲットキュービットが第1制御NOTゲートのターゲットであると共に前記第1及び第2キュービットのうちの一方が第1制御NOTゲートの制御キュービットとなるように構成された第1制御NOTゲートと、
前記N個のターゲットキュービットの第2ターゲットキュービットが第2制御NOTゲートのターゲットであると共に前記第1及び第2キュービットのうちの他方が第2制御NOTゲートの制御キュービットとなるように構成された第2制御NOTゲートと、
Y軸を中心としたπ/4ラジアンの回転と前記Y軸を中心とした負のπ/4ラジアンの回転とのうちの1つを前記N個のターゲットキュービットのうちの少なくとも1つに対して提供するように構成された回転ゲートとを含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の量子回路は、
第1量子回路であって、前記第1量子回路の第1制御NOTゲートは、前記第2キュービットによって制御されており、且つ、前記第1ターゲットキュービットをターゲットとしており、前記第1量子回路の第2制御NOTゲートは、前記第1キュービットによって制御されており、且つ、前記第2ターゲットキュービットをターゲットとしており、且つ、前記回転ゲートは、前記第1及び第2ターゲットキュービットのそれぞれに対して前記Y軸を中心としたπ/4ラジアンの回転を提供するように構成されている、前記第1量子回路と、
第2量子回路であって、前記第2量子回路の第1制御NOTゲートは、前記第1キュービットによって制御されており、且つ、前記第1ターゲットキュービットをターゲットとしており、前記第2量子回路の第2制御NOTゲートは、前記第2キュービットによって制御されており、且つ、前記第2ターゲットキュービットをターゲットとしており、且つ、前記回転ゲートは、前記第1及び第2ターゲットキュービットのそれぞれに対して前記Y軸を中心とした負のπ/4ラジアンの回転を提供するように構成されている、前記第2量子回路と、
第3量子回路であって、前記第3量子回路の第1制御NOTゲートは、前記第2キュービットによって制御されており、且つ、前記第1ターゲットキュービットをターゲットとしており、前記第3量子回路の第2制御NOTゲートは、前記第1キュービットによって制御されており、且つ、前記第2ターゲットキュービットをターゲットとしており、且つ、前記回転ゲートは、前記第1及び第2ターゲットキュービットのそれぞれに対して前記Y軸を中心とした負のπ/4ラジアンの回転を提供するように構成されている、前記第3量子回路と含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記パリティチェックコンポーネントは、
前記計測されていないターゲットキュービットによって制御されると共に前記N−1個のターゲットキュービットのうちの1つをターゲットとした制御NOTゲートを含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
一組のクリフォードゲートと関連付けられたマジック状態は、ハダマード演算子の固有状態と等価である種類の状態のうちの1つである、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子演算に関し、より詳しくは、低忠実度の単一キュービットマジック状態からのトフォリ状態の効率的な生成に関する。
【背景技術】
【0002】
古典的コンピュータは、古典物理学の法則に従って状態を変化させる情報のビット(二進数)を処理することによって動作している。これらの情報ビットは、AND及びORゲートなどの単純な論理ゲートを使用することによって変更することができる。ビットは、論理「1」(例えば、高電圧)又は論理「0」(例えば、低電圧)のいずれかに対応する論理ゲートの出力において発生する高電圧又は低電圧によって物理的に表される。2つの整数を乗算するものなどの古典的アルゴリズムは、これらの単純な論理ゲートの長いストリングに分解することができる。古典的コンピュータと同様に、量子コンピュータも、ビット及びゲートを有する。論理「1」及び「0」を排他的に保存する代わりに、量子ビット(「キュービット(qubit)」)は、ある意味において、キュービットが両方の古典的状態に同時にあることを許容する2の任意の量子機械的重ね合わせ(quantum mechanical superposition)を保存することができる。この機能によれば、量子コンピュータは、古典的コンピュータのものをはるかに上回る効率により、特定の問題を解決することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一態様によれば、第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービットマジック状態から生成し、それにより、単一キュービットマジック状態を使用してトフォリ状態を直接的に構築することにより、第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態が結果的に得られるようになっている方法が提供される。クロフォードゲートの組によって生成されうる高忠実度状態において第1及び第2キュービットのそれぞれが生成される。単一キュービットマジック状態においてN個のターゲットキュービットが生成され、この場合に、Nは、1を上回る整数である。第1キュービット、第2キュービット、及びN個のターゲットキュービットを有するシステムが、状態
1/2|000...0>+1/2|010...0>+1/2|100...0>+1/2|111...1
となるように、第1キュービット、第2キュービット、及びN個のターゲットキュービットに対して一連のゲートが実行され、この場合に、インデックス値1〜Nは、N個のターゲットキュービットを表している。第1ターゲットキュービットが、その他のターゲットキュービットと同一状態にあることを検証するべく、N個のターゲットキュービットに対してパリティチェックが実行される。パリティチェックは、少なくとも第1計測値を提供する。計測値が望ましい値をとっている場合に、第1キュービット、第2キュービット、及び第1ターゲットキュービットが、トフォリ補助状態として受け入れられる。
【0004】
本発明の別の態様によれば、マジック状態の複数のインスタンスから高忠実度トフォリ状態において3つのキュービットを生成するシステムが提供される。第1及び第2キュービットは、それぞれ、クリフォードゲートによって生成されうる高忠実度状態を保存している。N個のターゲットキュービットは、それぞれ、マジック状態のインスタンスを保存している。トフォリ状態生成コンポーネントは、システムを状態
1/2|000...0>+1/2|010...0>+1/2|100...0>+1/2|111...1
に配置するべく、一連のゲートを第1キュービット、第2キュービット、及びN個のターゲットキュービットに対して実行するように、構成されており、この場合に、インデックス値1〜Nは、N個のターゲットキュービットを表している。パリティチェックコンポーネントは、N個のターゲットキュービットのパリティをチェックするように構成されている。パリティチェックは、計測されていないターゲットキュービットを提供するべく、N−1個のターゲットキュービットに関する計測を含む。
【0005】
本発明の更に別の態様によれば、第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービットマジック状態から生成し、それにより、単一キュービットマジック状態を使用してトフォリ状態を直接的に構築することにより、第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態が結果的に得られるようになっている方法が提供される。プラス状態において第1の組のキュービットのそれぞれが生成される。複数の単一キュービットマジック状態のうちの1つにおいて第2の組のキュービットのそれぞれが生成される。複数の単一キュービットマジック状態のうちの1つにおいて第3の組のキュービットのそれぞれが生成される。第1の組のキュービットのそれぞれのキュービットごとに、第2の組のキュービットのうちの所与のものをターゲットとした制御NOT(CNOT:Controlled NOT)演算が、第1の組のキュービットからの対応するキュービットによって制御されるように、第2の組のキュービットのうちの対応するキュービットをターゲットとすることにより、CNOT演算が実行される。第3の組のキュービット内に保存されている少なくとも1つのクリフォードゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、ブロッホ球の軸を中心とした第2の組のキュービットのそれぞれのキュービットの少なくとも1回の回転が実行される。ブロッホ球の軸であって、第2の組のキュービットのそれぞれのキュービットがそれを中心として回転されたブロッホ球の軸に対して垂直である計測基底において、第2の組のキュービットのうちの少なくとも1つが計測される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一態様による単一キュービットマジック状態からのトフォリ状態の直接的な蒸留のためのシステムを示す。
図2】本発明の一態様による高忠実度トフォリ状態を生成する量子回路の一例を示す。
図3】マジック状態を介したY回転のために使用される例示用の量子回路を示す。
図4】第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービットマジック状態から生成し、それにより、単一キュービットマジック状態を使用してトフォリ状態を直接的に構築することにより、第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態が結果的に得られるようになっている方法の一例を示す。
図5】第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービット状態から生成し、それにより、単一キュービットマジック状態を使用してトフォリ状態を直接的に構築することにより、第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態が結果的に得られるようになっている方法の別の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一態様によれば、複数の入力された単一キュービットマジック状態(single qubit magic state)から高忠実度のトフォリゲート(Toffoli gate)を提供するべく、一群のルーチンが提供される。具体的には、本明細書に記述されているシステム及び方法は、入力された単一キュービットの別個の蒸留(Distillation)に対する要求を伴うことなしに、高品質のトフォリ補助状態を直接的に生成し、この結果、別個の蒸留及び生成と比べた場合に、大幅な効率の向上が得られる。
【0008】
キュービット状態の標準基底は、|0>として本明細書において表記されている「0」状態と、「0」状態と直交すると共に|1>として本明細書において表記されている「1」状態とを含む。符号基底(sign basis)は、
【0009】
【数1】
として標準基底において定義されるプラス状態|+>と、
【0010】
【数2】
として標準基底において定義されるマイナス状態|−>とを含む。トフォリ状態は、
1/2|000>+1/2|010>+1/2|100>+1/2|111>
として標準基底において定義される。
【0011】
本明細書において使用されている語句、ユニバーサルな(universal)量子ゲートの組とは、量子コンピュータ上において可能である任意の演算が低減されうる、即ち、任意のその他の単体演算がその組からのゲートの有限のシーケンスとして近似されうる量子ゲートの任意の組である。逆に、ゲートの非ユニバーサルな組とは、この特性を欠いた量子ゲートの組を意味している。ゲートの非ユニバーサルな組の一例は、クリフォードゲートの組である。
【0012】
本明細書において使用されている「マジック状態」とは、任意の量子演算を提供するためにクリフォードゲート(Clifford gate)と共に使用することが可能であり、且つ、クリフォードゲートから構築された回路によって忠実度を改善することができる量子状態である。事実上、クリフォードゲートの組と共に、所与のマジック状態を、又はむしろ、マジック状態の有限数のインスタンスを使用することにより、ユニバーサルな量子演算が可能になる。本明細書における回路は、その特性の基本的な変更を伴うことなしに、異なるゲートの組を使用することにより、且つ、異なる基底において、再表現されうる変換を表すことを理解されたい。
【0013】
本明細書において使用されている「蒸留」とは、相対的に高い忠実度を有する所与の状態(又は、よりに一般的には別の状態)をとるキュービットの相対的に小さな組を生成するように、所与の状態にあるキュービットの組を確率論的に変換するプロセスを意味している。量子情報理論においては、忠実度は、2つの量子状態の「密接さ」の尺度である。本明細書において使用されている忠実度は、望ましい理想的な状態に対する状態の所与のインスタンスの密接さを意味している。「低忠実度状態」とは、量子演算において使用するのに望ましい忠実度のレベル未満であるが、蒸留プロセスに必要とされる最低限の忠実度を上回っている状態を意味している。
【0014】
図1は、本発明の一態様による単一キュービットマジック状態からのトフォリ状態の直接的な蒸留のためのシステム10を示している。システムの様々なコンポーネントは、別個のコンポーネントとして表示されているが、システムの実装のために使用される実際のハードウェアは、再使用されることから、様々な物理的コンポーネントにまたがって重複しうることを理解されたい。システム10は、複数のキュービット13〜18を個々の望ましい初期状態に初期化する状態生成コンポーネント12を含む。複数のキュービット13〜18は、それぞれ、1つ又は複数の物理的コンポーネント内に保存されうることを理解されたい。初期状態生成の後に、システムは、クリフォードゲートを使用して高忠実度を有するように生成されうる初期状態をそれぞれが保存する第1の組のキュービット13及び14と、マジック状態の相対的に低忠実度のインスタンスをそれぞれが保存するターゲットキュービットと呼ばれる第2の組のキュービット15及び16とを含む。一実装形態において、単一キュービットマジック状態は、ハダマード演算子(Hadamard operator)の「+1」固有状態に等価である種類の状態のうちの1つである。「等価」とは、それぞれの状態が、1キュービットのクリフォード単体演算子を介してその他のものから導出されうることを意味している。システム10は、ターゲットキュービット15及び16に加えて、第3の組のキュービット17及び18内に保存されているいくつかの低忠実度マジック状態をも消費することになる。
【0015】
キュービット13〜18のそれぞれは、複数ターゲットトフォリ状態生成コンポーネント20に提供される。本発明の一態様によれば、複数ターゲットトフォリ状態生成コンポーネント20は、第1の組のキュービット及び第2の組のキュービットを有するシステムを状態
1/2|000...0>+1/2|010...0>+1/2|100...0>+1/2|111...1> 式1
に配置するべく、第1及び第2の組のキュービットに対して一連のゲートを実行する。
【0016】
ここで、それぞれのエンタングルされた状態(entangled state)における最初の2つのキュービットは、第1の組のキュービットを表し、且つ、インデックス付けされたキュービット1〜Nは、第2の組のキュービットを表している。
【0017】
一実装形態において、複数ターゲットトフォリ状態生成コンポーネント20は、直列状態で構成された複数の量子回路コンポーネントを含み、それぞれの量子回路コンポーネントは、第2の組のキュービット15及び16のそれぞれがCNOTゲートのうちの1つのターゲットであると共にそれぞれのCNOTゲートが第1の組のキュービット13及び14のうちの1つによって制御されるように構成された複数の制御NOT(CNOT)ゲートを含む。それぞれの量子回路コンポーネントは、第3の組のキュービット内に保存された少なくとも1つのクリフォードゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、ブロッホ球(Bloch sphere)の軸を中心とした回転を提供するように構成された少なくとも1つの回転ゲートを更に有する。一実装形態において、それぞれの回転ゲートは、Y軸を中心としたπ/4ラジアンの回転とY軸を中心とした負のπ/4ラジアンの回転とのうちの1つを第2の組のキュービット15及び16の少なくとも1つに対して提供する。
【0018】
次いで、第1及び第2の組のキュービット13〜16は、パリティチェックアセンブリ22に提供される。パリティチェックアセンブリ22は、エンタングルされた状態の生成においてエラーが発生したかどうかを判定するべく、第2の組のキュービット15及び16のパリティをチェックするように構成されている。具体的には、パリティチェックは、第2の組のキュービット15及び16に対する1つ又は複数のゲート演算のみならず、第2の組のキュービットのうちの1つを除くすべてのものの計測を含むことが可能であり、これにより、計測されていないターゲットキュービット(例えば、15)が残される。本発明の一態様によれば、パリティチェックの後に、第1キュービット13、第2キュービット14、及び計測されていないターゲットキュービット15は、高忠実度トフォリ状態を表している。この状態は、ユニバーサルな量子演算のために十分であるトフォリゲートを提供するべく、クリフォードゲートの組と共に使用することができる。
【0019】
一実装形態において、パリティアチェックセンブリ22は、そのターゲット及び制御ビットがいずれも第2の組のキュービット15及び16のメンバである少なくとも1つのCNOTゲートを含む。換言すれば、少なくとも1つのCNOTゲートのうちの1つは、第2の組のキュービットのうちの第1キュービット15によって制御されており、且つ、第2組のキュービットうちの別のキュービット16をターゲットとしている。次いで、CNOTゲートによってターゲットとされた第2の組のキュービット内のそれぞれのキュービットは、ブロッホ球の軸であって、第2の組のキュービットのそれぞれのキュービット16がそれを中心として回転されたブロッホ球の軸に垂直である計測基底において、計測アセンブリにおいて計測される。一実装形態において、キュービット16は、標準(Z)基底において計測される。
【0020】
図2において更に詳述する一実装形態において、システムは、第3の組のキュービットと、4つの初期キュービットとを有する6つのマジック状態を利用しており、第1及び第2キュービットは、プラス状態において初期化され、且つ、第3及び第4キュービットは、マジック状態において初期化され、第2の組のキュービットを形成している。第1量子回路コンポーネント内において、第1量子回路の第1CNOTゲートは、第3キュービットをターゲットとしており、且つ、第2キュービットによって制御されており、且つ、第1量子回路の第2CNOTゲートは、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第1キュービットによって制御されている。回転ゲートは、Y軸を中心としたπ/4ラジアンの回転を第3及び第4キュービットのそれぞれに対して提供するように構成されている。
【0021】
第2量子回路コンポーネント内において、第2量子回路の第1CNOTゲートは、第3キュービットをターゲットとしており、且つ、第1キュービットによって制御されており、且つ、第2量子回路の第2CNOTゲートは、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第2キュービットによって制御されている。回転ゲートは、Y軸を中心とした負のπ/4ラジアンの回転を第3及び第4キュービットのそれぞれに対して提供するように構成されている。第3量子回路コンポーネント内において、第3量子回路の第1CNOTゲートは、第3キュービットをターゲットとしており、且つ、第2キュービットによって制御されており、且つ、第3量子回路の第2CNOTゲートは、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第1キュービットによって制御されている。回転ゲートは、Y軸を中心とした負のπ/4ラジアンの回転を第3及び第4キュービットのそれぞれに対して提供するように構成されている。
【0022】
この例におけるパリティチェックアセンブリ22は、単一のCNOTゲートと、標準基底の計測アセンブリと、を有する。CNOTゲートは、第3キュービットによって制御され、且つ、第4キュービットをターゲットとしている。この結果、第4キュービットは、標準基底において計測される。誤りなしを仮定することにより、第4キュービットは、グランド状態にあることが見出されることになり、且つ、第1、第2、及び第3キュービットは、高忠実度のトフォリ補助状態を形成する。
【0023】
図2は、本発明の一態様による高忠実度のトフォリ状態を生成する量子回路50の一例を示している。図示の実装形態において、マジック状態は、「H」状態であり、即ち、ハダマード演算子の「+1」固有状態に等価である一群の状態のうちの1つである。この例における特定のマジック状態は、
【0024】
【数3】
として、標準基底において表すことができる。
【0025】
量子回路は、4つのキュービット52〜55を含み、第1及び第2キュービット52及び53は、高忠実度のプラス状態において始まり、且つ、第3及び第4キュービット54及び55は、H状態において始まっている。高忠実度状態のそれぞれは、プラス状態を提供するための標準基底におけるグランド(0)状態へのキュービットの初期化及び初期化されたキュービットに対するハダマードゲート演算を介して生成されうることを理解されたい。又、システムは、第3及び第4キュービット54及び55内に当初保存されている2つのH状態のみならず、量子回路50内においてY回転を生成するべく利用される6つの更なる状態を含む8つの相対的に低忠実度のH状態をも使用している。
【0026】
±π/4の回転をターゲットキュービットに対して提供するための例示用のY回転ゲート100が、参考として、図3に示されている。それぞれのY回転は、回転をターゲットキュービット104に対して提供するべく、キュービット102内に保存されている生成されたH状態のうちの1つを消費することを理解されたい。ゲート100は、補助キュービット102によって制御された制御Yゲート106を含む。この結果、補助キュービット102は、Y演算子の固有状態のうちの1つを提供するべく、Y基底において計測アセンブリ108において計測される。古典的に制御されている回転要素110は、Y演算子の第1固有状態が、具体的には、「−1」固有状態が、計測アセンブリ108において計測された場合に、π/2の回転をターゲットキュービットに対して適用し、且つ、Y演算子の第2固有状態が、具体的には、「+1」固有状態が、計測された場合には、回転をターゲットキュービットに対して適用しない。−π/4の回転の場合には、第2固有状態が計測アセンブリ108において計測された場合に、−π/2の回転がターゲットキュービットに対して適用され、且つ、第1固有状態が計測された場合には、回転が適用されないように、古典的に制御されている回転要素110に対する制御が変更されることを理解されたい。
【0027】
図2を再度参照すれば、説明をわかりやすくするべく、量子回路は、4つの回路コンポーネント60、70、80、及び90に分割されており、これらのそれぞれが、4つのキュービット52〜55に対して作用する。第1回路コンポーネント60は、2つの制御NOT(CNOT)ゲート62及び64を収容している。第1CNOTゲート62は、第3キュービットをターゲットとしており、且つ、第2キュービットによって制御されている。第2CNOTゲート64は、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第1キュービットによって制御されている。次いで、第3及び第4キュービットは、それぞれ、第1及び第2Y回転ゲート66及び68に提供されている。この結果、それぞれのY回転ゲート66及び68は、π/4ラジアンだけ、その個々のキュービットを回転させ、これにより、このプロセスにおいて低忠実度のH状態のうちの1つが消費されることになる。
【0028】
第2回路コンポーネント70は、第3及び第4CNOTゲート72及び74を収容している。第3CNOTゲート72は、第3キュービットをターゲットとしており、且つ、第1キュービットによって制御されている。第4CNOTゲート74は、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第2キュービットによって制御されている。次いで、第3及び第4キュービットは、個々の第3及び第4Y回転ゲート76及び78に提供される。それぞれのY回転ゲート76及び78は、回転が、第1及び第2回転ゲート66及び68によって提供されるものと等量に且つ反対になるように、負のπ/4ラジアンだけ、その個々のキュービットを回転させる。
【0029】
第3回路コンポーネント80は、第5及び第6CNOTゲート82及び84を収容している。第5CNOTゲート82は、第3キュービットをターゲットとしており、且つ、第2キュービットによって制御されている。第6CNOTゲート84は、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第1キュービットによって制御されている。次いで、第3及び第4キュービットは、それぞれ、第5及び第6Y回転ゲート66及び68に提供される。それぞれのY回転ゲート66及び68は、負のπ/4ラジアンだけ、その個々のキュービットを回転させる。誤りが導入されていないと仮定することにより、第3回路コンポーネント80の末尾において、キュービット52〜55によって形成されるシステム50は、次のように表すことができる。
|φ>=1/2|0000>+1/2|0100>+1/2|1000>+1/2|1111> 式2
第4回路コンポーネント90は、システムの最終的な出力を提供するべく、パリティチェックを実行する。誤りが存在しない状態においては、Z基底における第3及び第4キュービット54及び55の計測は、同一の結果をもたらすことになり、且つ、従って、パリティ計測がゼロとなることに留意されたい。これを目的として、第7CNOTゲート92は、第4キュービットをターゲットとしており、且つ、第3キュービットによって制御されている。第7CNOTゲートの後に、システムの状態は、次のように表すことができる。
1/2|0000>+1/2|0100>+1/2|1000>+1/2|1110> 式3
次いで、パリティ計測を提供するべく、第4キュービット55が、標準基底において、計測アセンブリ94において計測される。誤りが発生していないと仮定することにより、グランド状態(0)が計測されることになり、且つ、最初の3つのキュービット52、53、及び54が、高忠実度のトフォリ状態に残されることになる。第4キュービット55が励起状態(1)において計測された場合に、回路50の出力は破棄される。
【0030】
本発明者は、量子回路50の実装に使用されるH状態(初期状態又は回転において消費されるもののいずれか)における誤りが、場合により制御キュービットにおけるZ誤りと共に、ターゲットキュービットにおけるY誤りに伝播しうることを示した。従って、このような単一の誤りは、任意の2つの誤りが非検出状態で進行している間に、パリティ計測によって検出されることになる。従って、非自明の最低次において、出力誤り確率は、
【0031】
【数4】
であり、且つ、受け入れ確率は、1−8pであり、ここで、pは、所与のH状態がY誤りを経験することになる尤度である。
【0032】
出力されたターゲットキュービットにおける検出されていないX(又は、Y)誤りの確率は、より多くのターゲットキュービットを生成すると共にそれらのパリティをチェックすることにより、任意に小さくすることが可能であり、o個のターゲットキュービット(o target qubits)を生成すると共にそれらを互いに照らしてチェックすることにより、X(又は、Y)誤り確率をp°のレベルまで低減することができる。この結果、出力される制御ビットにおけるZ誤りの確率は、pレベル未満に低減されず、実際に、pの前の定数は、oが大きくなるのに伴って悪化する。但し、ターゲットキュービット上におけるX(又は、Y)誤りの確率を望ましいレベルまで低減したことにより、ハダマードゲートのペアを使用してターゲットキュービットをトフォリ補助の制御キュービットとスワップする場合に、制御キュービットにおけるZ誤りの確率の低減を実現することができる。
【0033】
この変換は、前の制御ビットにおけるZ誤りを新しいターゲットキュービットにおけるX誤りに変換している。ターゲットキュービットにおけるX誤り及び制御キュービットにおけるZ誤りのみを有するトフォリ補助を使用することにより、ターゲットにおけるX誤り及び(整合する)制御におけるZ誤りのみを有するトフォリゲートを実装することができる。この結果、このような補助のターゲットキュービットにおける誤りの確率の二次低減を実現することができる。ターゲットキュービットにおけるX誤り及び制御キュービットにおけるZ誤りのみを有するトフォリ補助が付与された状態で、複数回のトフォリ蒸留を使用することにより、且つ/又は、互いに照らして検証されるべき更なるターゲットキュービットを追加することにより、更に高次の誤り抑制を実現することができる。この結果、恐らく十分に小さい誤りを有するHタイプのマジック状態が付与された状態において、出力されたトフォリ補助上のあらゆる場所における誤りの確率を、Hタイプのマジック状態を使用したこの補助の直接的な実装との比較において、劇的に低減することができる。
【0034】
図2のトフォリへの直接的な蒸留回路は、トフォリ状態を生成すると共に別個のプロセスにおいてマジック状態を蒸留する既存の方法との比較において、効率性の大幅な向上を提供する。このルーチンは、Hタイプのマジック状態用のマジック状態蒸留ルーチンと直接的に比較することができず、その理由は、出力がHタイプのマジック状態ではないからである。多くの量子アルゴリズムは、主には、トフォリゲートの実装において使用するべく、マジック状態を必要としているが、しかし、この目的のために最も妥当な比較は、より伝統的なルーチンを使用して改善されたトフォリゲートを実装するために必要とされるリソースに関するものである。トフォリゲートを実装するための状態費用、即ち、改善されたトフォリゲート当たりに必要とされるマジック状態のコピーの数は、容易に算出される。
【0035】
図2の量子回路を使用して、確率レベルpの誤りを有する単一のトフォリゲートを実装するには、確率pのY誤りを有する8つのHタイプのマジック状態が必要とされる。二次低減された誤りを有するHタイプのマジック状態の蒸留に必要とされる状態費用は、3以下であることが判明した。クリフォードゲート及びπ/4の回転の観点におけるトフォリゲートの伝統的な分解には、7回のπ/4の回転が必要であるが、多くの場合に、マーゴラス−トフォリゲートは、十分な代役として使用することが可能であり、且つ、クリフォードゲート及び4回のπ/4の回転のみを使用することにより、実装することができる。この結果、状態費用は、本発明者のその他の研究を使用することにより、20又は12から8に低減され、これは、それぞれ、60%及び33%の節約である。
【0036】
関心の対象である別の値は、トフォリゲートを実装するための場所費用(location cost)、即ち、所与のルーチンを使用して改善されたトフォリゲートを実装するために必要とされる場所の数である。1キュービットクリフォード状態の生成及び2キュービットクリフォードゲートのみを非ゼロの時間を所要するものと見なすことにより、図3に示されているように
【0037】
【数5】
ゲートが実装されている図2のトフォリへの直接的な蒸留ルーチンにおける場所の数は、36である。結果的に得られるトフォリ補助を使用してトフォリゲートを実装するために必要とされる付加的な場所の数は、15である。従って、合計リソース費用(total resource cost)は、51個の場所と、8つのH状態と、である。それぞれのH状態が、5つの場所を必要とするプロセスを使用して演算の下のレベルから注入される場合には、場所費用は、トフォリゲート当たりに91個の場所となる。
【0038】
比較として、最良の場所費用を有する公開されたルーチンを使用することにより、入力状態が下のレベルの演算から注入されると仮定した場合の二次抑制された誤りを有するH状態を蒸留するための場所費用は、65である。本発明者によって実施されたその他の研究によれば、この数値を50に改善することができる。このサイズの費用を有するマジック状態蒸留ルーチンの場合には、トフォリゲートを実装する最も効率的な方法は、トフォリ状態を生成し、且つ、次いで、この状態を使用してトフォリゲートを実装するというものであることは明らかである。但し、マーゴラス−トフォリゲート(Margolus-Toffoli gate)は、更にコンパクトに実装することが可能であり、且つ、このようなトフォリと同様のゲート(Toffoli-like gate)は、多くの場合に、十分なものであることから、比較の基礎として使用することができる。マーゴラス−トフォリゲートの一例の場合には、リソースオーバーヘッド(resource overhead)は、25個の場所と、4個のH状態と、である。最良の一般的に入手可能な蒸留ルーチンを使用することにより、これは、285個の合計場所費用という結果をもたらす。本発明者のその他の研究を使用した場合のこれに相当する数値は、241である。従って、一般的に利用可能なルーチンとの比較における場所費用の節約は68%であり、一方、本発明者のその他の研究によって実装されるルーチンとの比較における節約は62%である。
【0039】
図1図3において説明した上述の構造的且つ機能的特徴の観点において、図4及び図5を参照することにより、例示用の方法についてより良く理解されよう。説明を簡単にするべく、図4及び図5の方法は、逐次的に稼働するものとして図示及び記述されているが、いくつかの動作は、その他の例においては、本明細書に図示及び記述されているものとは異なる順序で且つ/又は同時に発生しうることから、本発明は、図示の順序に限定されるものではないことを理解及び認識されたい。
【0040】
図4は、第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービットマジック状態から生成し、それにより、単一キュービットマジック状態を使用してトフォリ状態を直接的に構築することにより、第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態が結果的に得られるようになっている方法150の一例を示している。152において、第1及び第2キュービットが、クリフォードゲートの組によって高忠実度を有するように実現されうる量子状態において生成されている。クリフォードの組の場合には、実現可能な高忠実度状態は、標準基底におけるグランド状態への高忠実度初期化を仮定することにより、少なくともZ演算子のいずれかの固有状態(即ち、標準基底の「0」状態及び「1」状態)及びX演算子のいずれかの固有状態(即ち、プラス状態及びマイナス状態)を含みうることを理解されたい。一実装形態において、第1の組のキュービットは、プラス状態において生成された2つのキュービットを含む。154において、N個のターゲットキュービットが、単一キュービットマジック状態において生成されている。一例において、単一キュービットマジック状態は、クリフォードの組のマジック状態であってもよく、且つ、ハダマード演算子の+1固有状態と等価である種類の状態のうちの1つを含むことができる。又、方法の一部として、マジック状態の更なるコピーを生成及び利用してもよいことを理解されたい。
【0041】
156において、誤りが、相対的に低忠実度の補助状態によって導入されていないと仮定することにより、システムを状態
1/2|000...0>+1/2|010...0>+1/2|100...0>+1/2|111...1> 式4
に配置するように、一連のゲートが、第1キュービット、第2キュービット、及びターゲットキュービットのうちのN個に対して実行されている。
【0042】
例えば、一連のゲートは、それぞれが、第1及び第2キュービットのそれぞれごとに、ターゲットキュービットのそれぞれをターゲットとした少なくとも1つの制御NOT演算と、ブロッホ球の軸を中心としたそれぞれのターゲットキュービットの回転とを実行する1つ又は複数の量子回路コンポーネントを含むことができる。例示用の一実装形態においては、それぞれのターゲットキュービットの回転は、Hタイプのマジック状態を保存するキュービットによって制御されるターゲットキュービットに対して制御Y演算を実行するステップと、第1値及び第2値のうちの1つを提供するべく、Y基底において制御キュービットを計測するステップと、計測された値に従って、ゼロの、又は正の、又は負の、π/2ラジアンのターゲットキュービットに対するY回転を実行するステップと、を含む。
【0043】
158において、少なくとも1つの計測値を提供するべく、パリティチェックがN個のターゲットキュービットに対して実行されている。一実装形態において、選択されたターゲットキュービットは、1つ又は複数のその他のターゲットキュービットをターゲットとしたCNOTゲート用の制御キュービットであり、且つ、選択されたターゲットキュービット以外のそれぞれのターゲットキュービットは、標準基底において計測される。少なくとも1つの計測値のいずれかが望ましい値をとっていない場合には、誤りが通知され、且つ、第1キュービット、第2キュービット、及び選択されたターゲットキュービットの状態は、破棄される。計測値のすべてが個々の望ましい値をとっている場合には、160において、第1キュービット、第2キュービット、及び選択されたターゲットキュービットによって形成されるシステムが高忠実度トフォリ状態として受け入れられる。
【0044】
図5は、本発明の一態様による、第1忠実度を有するトフォリ状態を、第2忠実度を有する複数の単一キュービットマジック状態から生成し、それにより、単一キュービットマジック状態を使用して直接的にトフォリ状態を構築することにより、第1忠実度未満の忠実度を有するトフォリ状態が結果的に得られるようになっている方法180の別の例を示している。182において、第1の組のキュービットが、プラス状態において生成されている。184において、第2の組のキュービット及び第3の組のキュービットのそれぞれが、単一キュービットマジック状態において生成されている。単一キュービットマジック状態は、高忠実度を有するように効率的に直接的に生成することが不可能であり、且つ、従って、本発明の一態様によれば、単一キュービットマジック状態のそれぞれには、相対的に低い忠実度が提供されていることを理解されたい。一例において、単一キュービットマジック状態は、ハダマード演算子の「+1」固有状態に等価である種類の状態のうちの1つを含む。
【0045】
186において、第1の組のキュービットのそれぞれのキュービットごとに、第2の組のキュービットのうちのキュービットをターゲットとすることにより、制御NOT演算が実行されている。188において、ブロッホ球の軸を中心とした第2の組のキュービットのそれぞれのキュービットの回転が実行されている。回転は、第3の組のキュービット内に保存されている少なくとも1つのクリフォードゲート及び少なくとも1つの単一キュービットマジック状態を使用することにより、実行することができる。一実装形態において、それぞれのキュービットの回転は、Y軸を中心とした正又は負のπ/4の回転のいずれかであってよい。186及び188は、いくつかの実装形態においては、複数回にわたって反復されうることを理解されたい。
【0046】
190において、第2の組のキュービットのうちの少なくとも1つが、ブロッホ球の軸であって、第2の組のキュービットのそれぞれのキュービットがそれを中心として回転されたブロッホ球の軸に対して垂直である計測基底において計測されている。一例において、キュービットは、標準基底において計測される。少なくとも1つの計測が誤りを通知していないと仮定することにより、第1の組のキュービットの第1及び第2キュービット並びに第2の組のキュービットのうちの所与のキュービットにより、トフォリ状態が形成される。
【0047】
上述の内容は、本発明の例である。当然のことながら、本発明の説明を目的として、コンポーネント又は方法のすべての想定可能な組合せについて記述することは不可能であり、当業者は、本発明の多くの更なる組合せ及び順列が可能であることを認識するであろう。従って、本発明は、添付の請求項の範囲に含まれるすべてのそれらの変更形態、修正形態、及び変形形態を含むことを意図されている。
図2
図3
図1
図4
図5