特許第5965088号(P5965088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965088
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】食品衛生方法及び食品製品
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/06 20060101AFI20160721BHJP
   A22C 21/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   A23B4/06 501A
   A22C21/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-28792(P2016-28792)
(22)【出願日】2016年2月18日
(62)【分割の表示】特願2015-239525(P2015-239525)の分割
【原出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2016-93200(P2016-93200A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】1109454.7
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1203366.8
(32)【優先日】2012年2月27日
(33)【優先権主張国】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513308826
【氏名又は名称】バーナード マシューズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホール, ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ノーマントン, ジョン
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第2105570(GB,A)
【文献】 国際公開第2004/080189(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/024235(WO,A1)
【文献】 米国特許第3926080(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第1409445(GB,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0075016(US,A1)
【文献】 米国特許第3637405(US,A)
【文献】 米国特許第3359122(US,A)
【文献】 米国特許第4940599(US,A)
【文献】 カナダ国特許出願公開第2016939(CA,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/00−4/14
A22C 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉製品を製造する生産ラインの一部として、食肉の表面に存在する生存微生物数を減少させる方法であって、
(a)表面膜と筋組織とを有しており、該表面膜上に生存微生物が存在する未処理の食肉製品を準備する工程;
(b)前記表面膜の膜内若しくは膜直下に挿入したプローブで測定した第一温度が−5℃〜2℃となるまで、前記表面膜を液体窒素の噴霧に曝露することにより冷却する工程;
(c)前記表面膜を4℃より低い温度まで昇温させることで、処理済み食肉製品を得る工程を有し、
前記表面膜に存在する生存微生物数が減少するとともに、前記処理済み食肉製品における前記筋組織のβ−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ活性が前記未処理の食肉製品と比べてHADH活性比のR値で2以上の係数で上昇することがないことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記食肉製品は、内臓が摘出されていてもよい食鳥丸屠体から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記食肉製品は食鳥の部位肉である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体窒素は衝突ガスと組み合わせて塗布される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物は少なくともカンピロバクター種を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉の表面に存在する生存微生物数を減少させる方法及びその方法で処理した食肉製品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品媒介病原体は、ヒトや動物の健康を極めて深刻に脅かすものである。多くの微生物が種々の食物に常在しており、その中にはヒト(及び他の動物)が摂取すると病気を引き起こすものもある。適切な温度で十分に加熱すること、未加工の食品又は加熱済み食品が正しく貯蔵されているかどうかその貯蔵プロトコルを監視すること、食品を扱う際に衛生基準をきちんと遵守すること等、賢明な予防策を講じればいずれも上記病気の発生を減らすことはできるものの、排除することはできない。
【0003】
病気を引き起こす病原体の中でも、カンピロバクターが最も一般的な食中毒原因菌である。カンピロバクターによる疾患は英国で毎年およそ62,000件報告されているが、この病原体に冒された人の大半は医療上の支援を求めないと思われるため、実際にははるかに多い600,000件近くの件数になると推定されている。EU諸国全体におけるカンピロバクターの件数の総数は、年に9百万件と算出されている。
【0004】
カンピロバクター感染症は、小売用食鳥肉においても非常に一般的である。2つの方法を組み合わせて927サンプルを試験したところ、英国内における小売用鶏肉のカンピロバクター罹患率は65.2%であった(Food Survey Information sheet 04/09、A UK survey of Campylobacter and Salmonella contamination of fresh chicken at retail sale,UK Food Standards Agency)。
【0005】
従って、カンピロバクターは、保健機関が食品媒介疾患の数を減少させるために取り組んでいる重要な微生物の一つである。カンピロバクターは、食肉、低温殺菌していない牛乳、及び、未処理水に見られるが、食鳥肉が最も一般的な病原であるという強力な証拠が存在する。
【0006】
カンピロバクターは多くの食鳥類に常在しており、盲腸で多く見られる。食鳥を屠畜し、内臓を取り出す際に表皮に移ると考えられる。
【0007】
ヒト(又は動物)用の食肉、特に食鳥肉及び食鳥肉製品については、カンピロバクター(及びその他の病原体)を殺滅又は除菌することが極めて望ましい。
【0008】
食鳥屠体を殺菌する方法としては、抗殺菌剤を含む水を屠体に噴霧する方法、又は、そのような水に屠体を浸漬する方法が知られている。しかしながら、欧州では、屠体の洗浄に飲用水を使用するよう法律で定められている。
【0009】
特許文献1には、フレッシュパックした食鳥肉からの「滲出(weepage)」を減らす方法が開示されている。この方法は、まず未冷却水を噴射して屠体を洗浄することにより、予冷すると共に水分を補給する第一の工程;続いて、屠体を転がしてそれぞれの屠体に補給された水分量を均一にし、全体の補給水分量を幾分減少させる工程;重力により屠体の水気を切り、表面の水分を取り除く工程;最後に、深冷環境下、例えば二酸化炭素膨張液体を高速流として屠体に当てることにより得られる環境下などに屠体をしばらく置き、屠体の表面を凍結させる工程を有する。
【0010】
「表面凍結(freeze−crusting)」により皮膚が収縮すると、補給された水分が皮下の脂肪筋膜層から絞り出され、許容量である8%まで補給水分量が減少するとともに、極めて短時間で体熱が十分に取り除かれることによって、屠体全体が一様な温度に調整された際には水の凝固点よりは低いが−3.30℃の肉の凝固点よりは高い温度となる。この方法によれば、処理した食鳥肉製品からの滲出を減らすことができると言われている。
【0011】
この方法によれば、細菌の増殖を阻害でき、従って保存期間を長くできると言われている。しかしながら、上記方法が何らかの殺菌効果を有するとは開示されていない。
【0012】
特許文献2には、食肉を包装・保存加工することで、保存期間を長くし、肉をより柔らかくする方法が開示されている。ニワトリの部位肉又は丸鶏肉を−40℃の冷気下に1時間置き、続いて、表面凍結させた鶏肉を0℃で少なくとも3時間保持する。この方法によれば、細菌の増殖を阻害でき、従って保存期間を長くできると言われている。しかしながら、この方法が何らかの殺菌効果を有するとは開示されていない。
【0013】
特許文献3には、食肉の表面が凍結するのに十分な時間、約−10℃未満の急冷温度に曝露して食肉を急冷する工程;及び、得られた表面凍結食肉を、上記急冷温度よりは高いが約+10℃以下である冷却温度に曝露することで、食肉の表面温度を上昇させ、且つ、その表面を、少なくとも細菌を致死的なまでに損傷させる及び/又は殺滅するのに十分な時間、食肉の凝固点以下の温度に保持する工程を含む方法が開示されている。この方法を採用すれば、食肉上に存在する細菌の生存率を低減できる。上記方法は、食鳥肉を処理してカンピロバクター属及び/又はサルモネラ属を含む細菌を殺滅する用途に特に有用であると記載されている。
【0014】
特許文献3に開示された方法によれば、カンピロバクター(及び他の細菌類)の数を減らすという目的を達成できるのは明らかであるが、該方法に従って処理した食鳥肉はEU圏内では「生鮮品」として販売できない。食鳥肉を丸鳥又は部位肉として販売する場合には、EC Poultrymeat Marketing Regulation 1906/90(EC Marketing Regulation 1234/2007に統合された)による規制がある。この規制によれば、食鳥肉は生鮮品、冷凍品又は急速冷凍品として分類され、これらの品目でのみ販売が許可されている。「生鮮食鳥肉」とは、−2℃以上+4℃以下で保存する前に、一切冷却工程によって硬直させていない食鳥肉を意味する。事前に冷凍して解凍されたものを冷蔵/生鮮食鳥肉として販売することは許可されていない。
【0015】
食鳥肉を様々な冷凍・冷却温度に置いた場合のカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)の不活化率を求める研究が既に行われている(非特許文献1)。もともと食鳥肉から単離されたC.ジェジュニ株3種の混合物が鶏手羽肉に接種された。手羽肉を−20℃及び−30℃で72時間貯蔵した場合、手羽肉上のC.ジェジュニ数はそれぞれ1.3log10CFU/g及び1.8log10CFU/g減少した。−80℃、−120℃、−160℃及び−196℃の液体窒素を用いて鶏手羽肉を過冷することにより、各手羽肉の内部が急速に−3.3℃まで到達するものの凍結はしないプロトコルが考え出されている。この研究では、食鳥肉を未凍結のままの内部温度まで過冷するために食鳥肉産業において採用される条件では、生鮮品上のカンピロバクター数を実質的には減少できそうにない、という結論に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】英国特許出願公開第2105570号明細書
【特許文献2】米国特許第3637405号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/080189号
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】“Reduction of C.jejuni on the Surface of Poultry by Low Temperature”,J.Food Prot,66,4,2003,652−655
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
第一の態様によれば、本発明は、食肉製品の表面に存在する生存微生物数を減少させる方法であって、
(a)未処理の食肉製品を準備する工程;
(b)温度Tの雰囲気に上記食肉製品を曝露する工程;
(c)選択した冷却速度で上記雰囲気の温度を−20℃よりも低い温度Tまで急速に低下させる工程;
(d)必要であれば、上記雰囲気を温度Tで選択した時間保持する工程;及び、
(e)上記雰囲気の温度を温度Tに調整することで上記食肉製品を、必要であれば選択した緩やかな昇温速度で、昇温させる工程を有し、
上記選択した温度T、T及びT、上記選択した冷却速度、上記選択した保持時間、並びに、上記選択した昇温速度は、上記表面に存在する生存微生物数が減少するとともに、上記食肉製品の温度が−2℃を下回らず未凍結のままであるように選択されることを特徴とする方法に関する。
【0019】
第二の態様によれば、本発明は、食肉の表面に存在する生存微生物数を減少させる方法であって、
(a)表面膜と筋組織とを有しており、該表面膜上に生存微生物が存在する未処理の食肉製品を準備する工程;
(b)上記表面膜を、選択した第一温度に達するまで選択した冷却速度で冷却する環境に曝露する工程;
(c)必要であれば、上記表面膜を上記選択した第一温度で選択した時間保持する工程;及び、
(d)上記表面膜を上記第一温度より高い選択した第二温度まで昇温させることで、処理済み食肉製品を得る工程を有し、
上記選択した冷却速度、上記選択した第一温度、上記選択した保持時間、及び、上記選択した第二温度は、上記表面膜に存在する生存微生物数が減少するとともに、上記処理済み食肉製品における上記筋組織のβ−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(HADH)活性が上記未処理の食肉製品と比べて著しく上昇することがないように選択されることを特徴とする方法を提供する。
【0020】
第三の実施形態によれば、本発明の方法で製造される食肉製品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】4分間処理したシチメンチョウ屠体の表面温度、内部温度及び雰囲気温度を示すグラフである。
図2】40秒間処理したシチメンチョウ屠体の表面温度、内部温度及び雰囲気温度を示すグラフである。
図3】1.5分間処理したシチメンチョウ屠体の表面温度、内部温度及び雰囲気温度を示すグラフである。
図4】2分間処理したシチメンチョウ屠体の表面温度、内部温度及び雰囲気温度を示すグラフである。
図5】1分間処理したシチメンチョウ屠体の表面温度、内部温度及び雰囲気温度を示すグラフである。
図6】鶏肉上のカンピロバクター量をまとめたグラフである。但し、温かい食鳥肉のK+1日目のデータは除く。
図7】鶏肉上のカンピロバクター量をまとめたグラフである。但し、温かい食鳥肉のK+1日目のデータは除く。
図8】鶏肉上のカンピロバクター量をまとめたグラフである。但し、温かい食鳥肉のK+1日目のデータは除く。
図9】鶏肉上のカンピロバクター量をまとめたグラフである。但し、2分間処理した温かい食鳥肉のK+1日目のデータは除く。
図10】鶏肉上のカンピロバクター量をまとめたグラフである。但し、2.5分間処理した温かい食鳥肉のK+1日目のデータは除く。
図11】鶏肉上のカンピロバクター量をまとめたグラフである。但し、2.5分間処理した温かい食鳥肉のK+1日目のデータは除く。
図12】本発明の方法の一実施形態が実施された食肉製品の温度プロファイルを示すグラフである。
図13】1分間処理したニワトリ屠体の表面温度、内部温度及び雰囲気温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中、「食肉」とは、形態を問わず(ヒト又は動物の)食用に適する肉を意味し、特に限定はされないが、豚肉、仔羊肉、羊肉、仔牛肉、牛肉、猟獣の肉、魚肉、甲殻類や貝類の肉、軟体動物の肉及び食鳥肉等が挙げられる。なかでも、本発明の方法は食鳥肉を処理するのに特に適している。
【0023】
本明細書中、「食鳥(類)」とは、各種の可食鳥類を含む。食鳥類としては、ニワトリ、シチメンチョウ、キジ、ウズラ、カモ・アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウ及びハクチョウ等が挙げられる。ニワトリ及びシチメンチョウが好ましい。
【0024】
「食肉製品」とは、動物の丸屠体(一体まるごと、及び、内臓が摘出されたもののいずれも)の他、少なくとも筋組織の一部を含む部位肉(部分肉)を包含する。食肉製品としては、例えば、内臓が摘出された食鳥の丸屠体、並びに、食鳥のムネ肉、モモ肉、下モモ肉及びスネ肉、下腿肉及び手羽肉等が挙げられる。
【0025】
「未処理の食肉製品」とは、上述の食肉製品のうち、本発明の方法を実施していないものを意味する。未処理の食肉製品に対しては、食肉の製造で通常実施される各種前工程(スタニング(気絶処理)、屠畜、内臓の摘出、湯漬け(スコルディング)、頭部及び脚部の除去、脱羽、水冷又は空冷、及び、切分け(jointing)等)を実施してもよい(実施していることが好ましい)。
【0026】
「微生物」とは、ヒト又は他の動物の体調不良や疾病を引き起こし得る生物を意味する。微生物としては、細菌類、菌類、古細菌類及び原生生物類等が挙げられる。本発明の方法で制御する微生物としては、カンピロバクター属(Campylobacter spp.)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ属(Salmonella spp.)、セレウス菌(Bacillus cereus)、シゲラ属(Shigella spp.)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、連鎖球菌(Streptococcus)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、偽結核菌(エルシニア・シュードツベルクローシス、Yersinia pseudotuberculosis)、コクシエラ・バーネッティ(Coxiella burnetii)、ブルセラ属(Brucella spp.)、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)、及び、プレジオモナス・シゲロイデス(Plesiomonas shigelloides)等が好ましい。微生物は、カンピロバクター属(Campylobacter spp.)及びサルモネラ属(Salmonella spp.)であることがより好ましい。グラム陰性菌、特にカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)及びカンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)を含むカンピロバクター種、なかでもカンピロバクター・ジェジュニであることが更に好ましい。
【0027】
「生存微生物」とは、上述の微生物のうち、摂取した際に体調不良や疾患を引き起こし得る微生物を意味する。培養可能且つ増殖可能な微生物だけでなく、代謝活性が非常に低くて分裂しない状態の培養不能な細菌であるが生存しており、一度蘇生すれば培養可能で、培養できるようになる細菌をも包含する。
【0028】
「膜」とは、処理対象である食肉製品の表面を覆う又は表面に付着する生物学上の層を意味し、筋組織とは別のものである。例えば、皮膚(真皮や表皮)の他、脂肪や軟骨の層が挙げられる。また、内臓を取り出した食鳥の体腔内膜も含まれる。
【0029】
「β−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(HADH)活性」とは、筋ミトコンドリア酵素であるβ−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼの活性を意味する。該酵素は、冷凍・解凍中にミトコンドリア膜が損傷した場合に細胞内液へ放出される。
【0030】
β−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(HADH)活性は、「Verification of Labelling of Previously Frozen Meat and Poultry by Measurement of HADH Activity」(Hargin,K.,J.Assoc.Publ.Analysts,1997,33,1−46)に記載された方法の改変版である「The Effect of Superchilling and Rapid Freezing on the HADH Assay for Chicken and Turkey」(J.Assoc.Publ.Analysts,2010,38,13−23)に記載のプロトコルを用いて測定される。これらの文献は参照により本明細書に組み込まれる。このプロトコルの概要を以下に手短に述べる。
【0031】
HADH試験には、底面寸法が約30×30mm、高さが20mmである直方体状の部位肉を使用する。食鳥肉が直方体の場合、切断面が6つ存在する必要がある。
【0032】
上記直方体は、表面膜の表面から所定の深さ、例えば表面下1〜10mmの部分から切り出すことが好ましい。
【0033】
サンプル表面上の余分な液体はティッシュペーパーで拭き取る。サンプルから肉汁を絞り出し、リン酸緩衝液で希釈する。EDTA、リン酸緩衝液及びNADHのアリコートを希釈した絞り汁に加え、更にアセトアセチル−コエンザイムA溶液を加えた後、石英製の分光光度計用キュベットに入れる。UV分光光度計を用いて、溶液による吸収の減少率に基づいてNADHからNADへの変換率を測定する。340mmでの吸光度を読み取る。2つの読み取り値ΔE間の差が、340mmでの吸収の減少率である。
HADH活性(U/ml)={V×(ΔE/分)×肉汁の希釈係数}/(C×d×a)
V:試験混合物の体積=3ml
C:340nmにおけるNADHの吸光係数=6.3
d:セルの光路長=1cm
a:希釈した肉汁の体積=0.1ml
T:吸収の減少率を測定する時間(分)
ΔE/分:反応開始時の吸光度−T分後の吸光度
数式は以下のようになる。
HADH活性(U/ml)={3×(ΔE/分)×肉汁の希釈係数}/(6.3×1×0.1)
例えば牛肉の場合は200)
【0034】
従って、冷凍・解凍された食肉の絞り汁は、事前に冷凍されていない食肉よりも高いHADH活性を示すこととなる。サンプルの作製において食肉を切る際に多少のHADHが放出される可能性があるため、本方法は比較目的のものである。本方法においては、使用した未処理の食肉製品のHADH活性をXとし、処理後のHADH活性をXとする。HADH活性比(X/X)はR値と呼ぶ。R値が1.2未満、好ましくは1.1未満、より好ましくは1.05未満であれば、食肉又は食鳥肉のHADH活性は著しくは上昇していないと言える。
【0035】
冷却は、各種方法のいずれかにより実施できる。空気(又は他の冷却ガス)を含んでおり且つ選択した冷却速度を得るのに適切な温度で保持されているチャンバに食肉製品を配置してもよい。食肉製品に当たる冷気の流量を増加できるようガス循環手段(ファン、ブロワ等)を1つ以上備えていてもよく、それにより表面膜の冷却速度を高めることができる。
【0036】
あるいは、食肉製品の表面膜を寒剤で冷却することが好ましい。好適な寒剤としては、液体窒素、液体空気、液体二酸化炭素及び液体アルゴン等の液化ガス;固体二酸化炭素(「ドライアイス」、好ましくは微細化したもの)等の固体;並びに、これらの組み合わせなどが挙げられる。液体窒素が寒剤として好ましい。
【0037】
寒剤は、噴射若しくは噴霧により、又は、浴に浸漬することにより表面膜に塗布してもよい。寒剤は噴霧することが好ましい。処理する食肉製品の大きさ及び形状に応じて、噴出口(roses)又はスプレーバー等、種々のスプレーノズルを使用できる。
【0038】
上記寒剤は、衝突(impinging)ガスと組み合わせて塗布することが好ましい。衝突ガスにより、寒剤が食肉製品の表面膜まで運ばれて冷却速度が高まる。好適な衝突ガスとしては、窒素、空気及び二酸化炭素、並びに、これらの混合ガスなどが挙げられる。衝突ガスの圧力及び寒剤に対する量は、選択した冷却速度が得られるように調整する。
【0039】
本方法の一実施形態においては、寒剤(二酸化炭素、窒素ガス等)の衝突型ガス流を直線通路構造(straight pass−through configuration)で用いる。食肉製品を装置の一端に載せ、反対端で表面膜が選択した第一温度になった状態で回収する。食肉製品を冷却装置に送って冷却工程を実施するのに、コンベア又は駆動型シャックル(拘束具の一種)ラインを使用してもよい。
【0040】
ある実施形態によれば、食肉製品は、一対の衝突板の間に形成された通路に沿って運搬されて表面が冷却されるが、この場合、寒剤(二酸化炭素、窒素ガス等)の冷却流が上記通路内を循環することで表面膜が冷却される。別の実施形態によれば、寒剤を循環させるブロワの下側とは反対側になるように、片側に衝突板を配置する。食肉製品が食鳥屠体である実施形態では、使用するコンベアはシャックルコンベアである。
【0041】
別の実施形態によれば、食品極低温貯蔵用キャビネットフリーザー(cryogenic food cabinet freezer)が使用される。好適な装置としては、CRYOLINE(R)CF(リンデ社、リンデ・ガス部門(Seitnerstrasse 70 82049 Pullach、ドイツ))が挙げられる。本実施形態がより適切なのは、インライン方式が適切ではないバッチ式の冷凍・冷蔵プロセスの場合である。
【0042】
一実施形態によれば、カニューレ又はプローブと接続したスプレーノズルを用いることで寒剤を食肉製品内部まで供給する。本実施形態は、例えば、内臓を摘出した食鳥屠体の体腔内部を滅菌するのに都合がよい。
【0043】
本明細書中、「食肉製品の温度」とは、食肉製品全体の平均温度を意味する。ある実施形態によれば、処置の間、食肉製品の温度はいずれの箇所においても−2℃を下回ることがない。処置の間、食肉製品はいずれの箇所においても−2℃を下回る部分はないことが好ましい。本発明の方法を行う間、食肉製品はいずれの箇所においても凍結した部分がないことが好ましい。
【0044】
本明細書中、「表面温度」とは、表面温度測定用熱電対プローブで測定した食肉製品の表面の全体又は一部の平均温度を意味する。
【0045】
本明細書中、「内部温度」とは、温度プローブで測定した際の食肉製品の表面から所定の深さだけ入り込んだ位置における平均温度を意味する。内部温度は、表面下の深さが少なくとも3mmの位置で測定することが好ましく、少なくとも5mmの位置で測定することがより好ましい。本発明の方法を行う間、内部の温度が−2℃を下回らないことが好ましい。
【0046】
(例えば、屠畜したばかりの食鳥丸屠体の場合には)食肉製品の温度は体温付近又は体温よりほんの少し低い温度(例えば25〜37℃)であってもよい。また、内部温度は周囲温度付近(例えば15〜25℃)であってもよい。
【0047】
しかしながら、食肉製品の温度は周囲温度未満、例えば20℃未満であるのが好ましいことが分かった。より好ましくは、内部温度が15℃未満である。更に好ましくは、内部温度が10℃未満である。更により好ましくは、内部温度が5℃未満である。このような初期温度であれば、細菌を良好に制御でき、整合性のある結果が得られる。
【0048】
食肉製品の温度は0℃より高いことが好ましい。内部温度は1℃より高いことがより好ましい。内部温度は2℃より高いことが更に好ましい。
【0049】
未処理の食肉製品は、初期温度Tの雰囲気に曝露される。この雰囲気は、空気、窒素又は他の好適なガスであってもよい。Tは−5℃〜20℃が好ましい。Tは−3℃〜10℃がより好ましい。
【0050】
本明細書中、「選択した冷却速度」とは、初期温度Tから保持温度Tまでの平均冷却速度を意味する。これは図12に模式的に示されており、TとTとの差(ΔTで示す)をその降温に要した時間(Δtで示す)で除することで算出され、単位は℃/sである。当業者であれば分かる通り、直線的に降温することが必ずしも実用向き又は望ましいとは限らない。
【0051】
上記選択した冷却速度は、0.1〜10℃/sであることが好ましく、0.3〜1.5℃/sであることがより好ましい。
【0052】
温度Tは−20〜−120℃が好ましい。温度Tは−20〜−100℃がより好ましい。温度Tは−25〜−95℃がより好ましい。−40〜−90℃がより好ましい。Tは−50〜−80℃が更に好ましい。
【0053】
好ましい実施形態によれば、上記雰囲気は選択した温度Tで保持される。この保持段階においては、周期的に冷却された場合のように、表面温度が幾分異なることもある。Tからの偏差は、±20℃以下であることが好ましく、±15℃以下であることがより好ましく、±10℃以下であることが更に好ましい。
【0054】
好ましい実施形態によれば、上記雰囲気は、選択した温度Tで選択した時間保持される。上記時間は、プロセス全体における細菌の制御を最適化しつつ、食肉製品のいずれの部分も凍結しないように選択される。特に、保持段階の継続時間(すなわち、上記雰囲気がTで保持される選択した時間)は、ある実施形態においてはその後の工程における昇温速度を決定する要因となることが分かった。
【0055】
好ましくは、上記雰囲気は、選択した温度Tで10秒〜10分間、より好ましくは30秒〜5分間、更に好ましくは1分〜4分間保持される。
【0056】
ある実施形態の第三段階において、上記雰囲気は選択した昇温速度で温度Tまで昇温される。温度Tは温度Tより高く、例えば−20℃より高く、より好ましくは−10℃より高く、より好ましくは0℃より高い。Tは−1℃〜4℃であることが好ましい。
【0057】
昇温は従来の方法で行うことができ、単に冷却を止めることで最も簡便に行うことができる。この場合、食肉製品内部に蓄積された潜熱が食肉表面に浸透する。あるいは、食肉製品をより暖かい環境へ移してもよいし、温かい空気や他のガスを食肉表面に当ててもよい。
【0058】
別の実施形態によれば、温度勾配を有する領域、例えば長さ方向に温度が変化していくインライン式加工トンネル等に食肉製品を通過させることで、周囲温度を徐々に上昇させる。
【0059】
本明細書中、「選択した昇温速度」とは、保持温度Tから最終温度Tまでの平均昇温速度を意味する。これは図12に模式的に示されており、TとTとの差(ΔTで示す)をその降温に要した時間(Δtで示す)で除することで算出され、単位は℃/sである。当業者であれば分かる通り、直線的な昇温が必ずしも実用向き又は望ましいとは限らない。
【0060】
選択した昇温速度は、好ましくは20℃/s未満、より好ましくは10℃/s未満、より好ましくは5℃/s未満、より好ましくは2℃/s未満、より好ましくは1℃/s未満、更に好ましくは0.5℃/s未満、最も好ましくは0.1℃/s未満である。
【0061】
驚くべきことに、保持温度Tから最終温度Tまで食肉製品を昇温する速度を遅くするほど、食肉製品の表面に存在する生存微生物数がより減少することが分かった。これは発明者の予想に反しており、このような現象が起こる理由は正確には分かっていない。
【0062】
昇温速度は複数の要因の影響を受ける。要因としては、保持温度T、食肉製品をこの温度で保持する選択した時間、初期温度T、食肉製品の質量、及び、食肉製品の表面積対質量比等が挙げられる。なかでも、温度Tが低いと昇温速度が遅くなって菌の制御に有利であるので好ましい。
【0063】
ある実施形態においては、食肉の表面膜が選択した第一温度に達するまで表面膜を冷却条件下に曝露する。上記選択した第一温度は、表面に存在する生存微生物の少なくとも一部が、選択した第二温度まで昇温した際に生育不能となるように選択される。
【0064】
従来技術によれば、食肉表面に存在する微生物をうまく制御するためには、食肉を表面凍結させるのに十分な時間、−10℃より低い温度まで急冷した後、昇温する必要があった。驚くべきことに、本発明者らは、−10℃よりももっと高い温度までしか表面を急冷しなくても、極めて効果的に殺菌できることを見出した。また、従来技術によれば、滅菌効果を得るには表面凍結が必要であった。驚くべきことに、本発明者らは、表面凍結させる必要はなく、表面膜が未凍結のままでも場合によっては実に優れた結果が得られることを見出した。
【0065】
上記選択した第一温度は2℃未満であることが好ましい。上記選択した第一温度は1℃未満であることがより好ましい。上記選択した第一温度は0.5℃未満であることがより好ましい。上記選択した第一温度は0℃未満であることが更に好ましい。上記選択した第一温度は−0.5℃未満であることが更に好ましい。上記選択した第一温度は−5℃より高いことが好ましい。上記選択した第一温度は−4℃より高いことがより好ましい。上記選択した第一温度は−3.5℃より高いことが更に好ましい。上記選択した第一温度は−3℃より高いことが更に好ましい。上記選択した第一温度は−2.5℃より高いことが更に好ましい。上記選択した第一温度は−2℃より高いことが最も好ましい。温度を−2℃より高くすることで、本方法に従って処理した食肉は、どの時点においても−2℃未満には保時されない、という「生鮮食鳥肉」であるための要件を満たすという利点がある。
【0066】
上記選択した第一温度は、−5℃〜2℃の範囲であることが好ましい。上記選択した第一温度は、−3℃〜1℃であることがより好ましい。上記選択した第一温度は、−2℃〜0.5℃であることが更に好ましい。
【0067】
上記選択した第一温度及び選択した第二温度とは、赤外線温度計、又は、膜内若しくは膜直下に挿入したプローブで測定した表面の温度を意味する。
【0068】
表面膜を本発明の冷却工程に曝露する前の食肉製品は、周囲温度(例えば20〜29℃)であってもよく、周囲温度よりも低い温度まで予冷してもよい(予冷するのが好ましい)。一実施形態によれば、食肉製品の温度が全体にわたってほぼ均一となるように、食肉製品を周囲温度よりも低い温度まで予冷する。食肉製品は、好ましくは15℃よりも低い温度、より好ましくは10℃よりも低い温度、更に好ましくは5℃よりも低い温度、更に好ましくは2℃よりも低い温度にまで予冷する。
【0069】
しかしながら、加工工場での前工程から届いた食肉製品に対して、冷蔵する予備工程を行うことなく本発明の方法を実施するのがより簡便な場合もある。
【0070】
上記冷却速度は、表面膜の所望の降温が十分に急速に行われ、下層にある筋肉の温度が実質的に変化しないように選択される。当業者であれば、食肉製品のそれぞれの種類によって好適な冷却速度を決定できるであろう。
【0071】
特に好ましい実施形態によれば、周囲温度(すなわち、食肉製品周囲の雰囲気の温度)を0.1〜5℃/s、より好ましくは0.2〜3℃/s、最も好ましくは0.5〜3℃/sの速度で降温させることにより、食肉製品を冷却する。
【0072】
食肉周囲の雰囲気の周囲温度は、好ましくは−10〜−150℃、より好ましくは−20〜−100℃、更に好ましくは−30〜−90℃の温度まで冷却する。
【0073】
食肉製品を表面冷却条件下に曝露する時間は、できるだけ短い方が好ましい。これにより、確実に食肉製品中の温度勾配を大きくし、表面膜の温度と下層にある筋肉の温度との差を大きな差に保つことができる。
【0074】
必要であれば、食肉製品の表面膜をある時間、事前に選択した温度で保持するのが好ましい。この時間は、HADH活性を著しく増大させるのに十分な熱が食肉筋肉から移されることがないように選択される。
【0075】
好ましい一実施形態によれば、所定の温度プロファイルを有する冷却トンネルを用いることで冷却できる。食肉製品がトンネルを通過する速度は、適当な冷却速度を得られるように調整される。本実施形態は、本発明の方法が食肉製品を製造する生産ラインの一部である場合に特に便利である。
【0076】
食肉製品の表面膜は、好ましくは選択した第一温度で30秒〜20分間、好ましくは1〜10分間、より好ましくは1.5〜7分間、最も好ましくは2〜6分間保持される。
【0077】
また、食肉製品を選択した第一温度で保持する必要はないが、その代わりに、選択した第一温度に到達したら、選択した第二温度まで温めたり、昇温したりしてもよい。
【0078】
上記選択した第二温度は、上記選択した第一温度より高い。選択した第一及び第二温度の差は、生存微生物数を減少させるとともに、食肉製品加工におけるその後の工程に効率よく適合するように選択される。上記選択した第二温度は、−1℃より高いことが好ましい。上記選択した第二温度は、好ましくは20℃未満、より好ましくは15℃未満、更に好ましくは10℃未満、更に好ましくは5℃未満、最も好ましくは4℃未満である。上記選択した第二温度は、−1℃〜4℃であることが非常に好ましい。いずれの時点でも+4℃以下に保持することで、欧州規則における生鮮食鳥肉の要件を満たすことができる。
【0079】
適切なプロトコルに従って、表面膜に存在する生存微生物数の定量的評価を行う。例えば、カンピロバクターはISO/TS10272−2:2006(E)「Microbiology of food and animal feeding stuffs−Horizontal method for detection and enumeration of Campylobacter spp.−Part 2:Colony−count technique」に従って定量する。他の微生物は、異なる手法で定量してもよい。「生存微生物数」とは、表面組織に存在する単位表面積あたりの微生物数を意味することは、当業者であれば理解できるであろう。
【0080】
上記冷却速度、選択した第一温度、及び、選択した第二温度は、観察された食肉表面に存在する生存微生物数の減少率が、採用する定量方法の限度内において少なくとも統計的に有意なレベルとなるように選択される。存在微生物数が少なくとも1log(10分の1)に減少することが好ましい。存在微生物数が少なくとも2log(100分の1)に減少することがより好ましい。
【0081】
処理した製品におけるHADH活性のR値は、好ましくは2未満、より好ましくは1.5未満、より好ましくは1.2未満、より好ましくは1.1未満である。
【0082】
本発明に従って皮膚(又は外の表面膜)を処理しても筋組織の大部分は影響を受けないままなので、食肉製品は、生鮮食品の官能的特性及び栄養的特性を保持できる。
【0083】
本方法の処理に続いて、処理済み食肉製品に対して、生鮮食肉処理で通常実施される工程、例えば切り分け、冷蔵(空冷及び水冷が考えられる)及び包装(パッキング、ラッピング)等を更に行ってもよい。処理済み食肉製品が再汚染されないように、本方法は、生産ライン上でパッキングより前に実施される最終の工程の一つであることが好ましい。
【0084】
いくつかの実施形態によれば、本発明の食品衛生方法は、他の食品衛生処理と組み合わせてもよい。好適な他の処理としては、化学処理(塩素、クロラミン、亜塩素酸塩、二酸化塩素、オゾン、有機酸類(クエン酸、乳酸等)、過酸化水素、及び、過マンガン酸カリウム等による処理)等が挙げられる。その他の処理としては、ガンマ線照射、蒸気を用いた処理、帯電水を用いた処理、及び、表面凍結等が挙げられる。
【0085】
本方法は、キュアリング、燻製、塩蔵、ピックリング又は加熱調理等の加工工程を更に含んでもよい。
【実施例】
【0086】
本方法では、CRYOLINE(R)CFユニットを採用した。このユニットは温度管理システムを有しており、このシステムによりユニット内に極低温ガスを注入して冷却できる。
【0087】
上記キャビネットは内部チャンバを有しており、そこに屠畜した食鳥屠体の脚を掛けることで、首の皮が屠体から離れて掛かり、また体腔の入口を開放することができた。
【0088】
上記ユニットは、鳥の皮や他の外膜又は露出した膜を急冷できる温度に設定し、−2℃より低い温度ではあるが、いずれの部分も−3.8℃よりは低くならない温度となるようにした。上記温度は、露出した膜に対して、液体窒素をキャビネット内に導入する極低温ガススプレーバーと衝突を生み出せる循環ファンとを使用して、あるいは急速温度交換により達成できた。
【0089】
食鳥肉は凍結しなかったが、皮膚及び膜を急冷した。その後、ユニットから取り出して、屠体の温度を通常の冷蔵保持範囲である−1℃〜+4℃まで戻した。
【0090】
本方法では、表面膜と、屠体表面に存在するカンピロバクター菌とを急冷し、それらを、食品が潜熱段階を通過する直前に見られるのと同様な低温に調整された状態にするよう設計されており、それによって食鳥屠体が完全に凍結するのを防ぐことができた。食鳥上の細菌に急冷ショックを与えると、通常の冷却温度まで温度を戻す過程でカンピロバクター菌が深刻なダメージを受けたり殺滅されたりするように細菌にダメージを与えることができ、その感染能力を奪うことができる。
【0091】
食鳥はキャビネット内で急冷したが、屠体の大きさ及び導入時の温度にもよるが、約30秒から最大5分の留置時間で、食鳥の筋肉単位が凍結することなく急冷がうまく完了した。
【0092】
(実施例1)
キャビネットの温度は−80℃に設定した(他の温度でも同様の結果が得られたが、低温に調整された状態となるまでの時間は長くなったり短くなったりした)。
【0093】
カンピロバクター菌を完全に滅菌できた場合もあり、また全ての場合で2logを超える減少が見られた。従来のあらゆる方法と比較してより早く、より簡便にカンピロバクターにこのようなダメージを与え、滅菌することができる。
【0094】
自然感染したニワトリ又はシチメンチョウ屠体を上記プロトコルに従って処理した後のカンピロバクター数を表1に示す。
【0095】
図1〜5は、急冷条件に曝露したシチメンチョウ屠体について(i)表面並びに(ii)手羽肉及び胸肉の深さ5mmだけ進入した部分における表面の温度プロトコルを示す。
【0096】
【表1】
【0097】
(実施例2)
外部の試験が完了したら、全ての食鳥肉を4℃に予冷した。これらを実施例1で採用した条件下で30秒〜2分間処理した。カンピロバクター数の減少量を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
(実施例3)
本実施例では鶏肉のみを使用した。全ての食鳥肉を4℃に予冷し、実施例1で採用した条件下で1〜2.5分間処理した。カンピロバクター数の減少量を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
(実施例4)
4℃に冷却したシチメンチョウ屠体(全10体)を実施例1に記載した条件下で処理し、極低温キャビネットに2分間保持して平均表面温度を−2℃とする。全てのシチメンチョウを4℃に昇温する。5体のシチメンチョウは1分かけて昇温する。残りのシチメンチョウは10分かけて昇温する。昇温速度は、周囲温度の空気を異なる速度で吸気することで変化させる。1分かけて昇温したものと比較して、よりゆっくりと昇温した屠体ほど、カンピロバクター数は少なくなった。
【0102】
(実施例5)
4℃に冷却したニワトリ屠体(全10体)を実施例1に記載した条件下で処理し、雰囲気温度−80℃の極低温キャビネットに1分間又は45秒間保持した。いくつかの屠体は、処理直後にキャビネットから取り出して4℃に昇温した。更に別の屠体群は、冷却をやめてから45秒〜2分間、キャビネット内に置いたままとした(「留置有りの」屠体という)。カンピロバクター数の減少量を表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
(結論)
・45秒間処理し、キャビネット内に留置しなかった場合、コントロールとほとんど同じ値が得られた。
・45秒間処理し、さらにキャビネット内に留置した場合、0.1logのわずかな差が見られた。
・1分間処理した場合は、滞留時間が短い場合よりもさらにより効果的だと思われる。
図12
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図13