(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたような、1つの接触円でシェルとライナーとが接触する構成では、シェルによるライナーの支持を安定して行えない虞がある。具体的には、例えば、骨頭ボールがライナーに受けられている場合において、骨頭ボールからライナーを介してシェルへ向けて、シェルの深さ方向と直交する方向としての横方向の成分を含む大きな荷重が作用したとき、上記接触円のうちの周方向の一部に、当該大きな荷重が局所的に作用する。その結果、大きな荷重が作用している箇所を支点に、ライナーがシェルに対して回転するように位置ずれする(脱転する)虞がある。また、上述したように、接触円の一部に、大きな荷重が局所的に作用することとなるため、ライナーにおける当該接触円の周囲の応力が局所的に高くなり、ライナーが破損する虞がある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、シェルとライナーとを所望の位置で確実に接触させることができ、また、ライナーの位置ずれを抑制でき、且つ、ライナーの破損を抑制できる、人工股関節用コンポーネントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工股関節用コンポーネントは、骨盤の臼蓋に設置され、窪み部を有するシェルと、前記シェルの内側に嵌合され、窪み部を有するライナーと、を備え、前記シェルは、金属材料及びセラミック材料の少なくとも一方を用いて形成され、前記ライナーは、金属材料及びセラミック材料の少なくとも一方を用いて形成され、前記シェルの内側面は、前記シェルの深さ方向に沿って延び前記ライナーを取り囲むテーパ状の第1対向面と、前記第1対向面に対して、前記シェルの底側に配置された奥側面と、を有し、前記ライナーの外側面は、前記第1対向面と対向するテーパ状の第2対向面と、前記第2対向面に対して、前記ライナーの底側に配置された奥側面と、を有し、前記第1対向面及び前記第2対向面の少なくとも一方には、環状の凹部が形成されており、前記第1対向面及び前記第2対向面は、前記シェルの深さ方向における前記凹部の両側のそれぞれにおいて、互いに接触し、前記ライナーに荷重が作用していない場合において、前記ライナーの中心軸線に対する前記第2対向面の傾斜角度は、前記シェルの中心軸線に対する前記第1対向面の傾斜角度と比べて大きく設定され、前記シェルの前記奥側面および前記ライナーの前記奥側面は、互いに接触することを抑制されるために互いに離隔した状態で対向し
、前記第1対向面及び前記第2対向面のそれぞれに、前記凹部が形成されており、これらの凹部が互いに向かい合っていることを特徴とする。
【0011】
この発明によると、シェルのテーパ状の第1対向面と、ライナーのテーパ状の第2対向面とは、シェルの深さ方向において、凹部を挟むように配置された2箇所で確実に接触できる。即ち、凹部が設けられた対向面は、少なくとも凹部の近傍において相手側の対向面に確実に接触することとなり、凹部が設けられた対向面と、当該対向面に対向する相手側の対向面との接触位置を、確実に所望の位置にすることができる。その結果、シェルとライナーとの接触状態について、個体差を少なくすることができ、シェルがライナーを固定する性能に個体差が生じることを抑制できる。よって、人工股関節用コンポーネントにおいて、安定した性能を発揮することができる。また、シェルとライナーとは、シェルの深さ方向において、少なくとも、凹部を挟むように配置された2箇所で接触している。このため、例えば、シェルの深さ方向と直交する直交方向の成分が大きい荷重が、骨頭ボールからライナーへ負荷された場合に、ライナーは、シェルによって、深さ方向の少なくとも2箇所で支持される。したがって、ライナーは、上記直交方向の成分が大きい荷重を受けても、シェルに安定した姿勢で支持された状態を維持することができる。これにより、ライナーがシェルに対して転がるように位置ずれすること(脱転)を、確実に抑制できる。また、ライナーとシェルとの接触箇所がシェルの深さ方向において少なくとも2箇所設けられていることにより、ライナーに作用する荷重は、シェルによって広い範囲で受けられる。その結果、ライナーに大きな荷重が作用した場合でも、ライナーに生じる応力が局所的に高くなることを抑制できる。これにより、ライナーの破損をより確実に抑制することができる。
また、ライナーをシェルに嵌合する際、ライナーの第2対向面は、開口側から先にシェルの第1対向面に接触してシェルを押し広げ、その後、第2対向面の奥側部分が第1対向面に接触することとなる。これにより、第2対向面を、凹部を挟むように配置された2箇所で、第1対向面へより確実に接触させることができる。
【0012】
従って、本発明によると、シェルとライナーとを所望の位置で確実に接触させることができ、また、ライナーの位置ずれを抑制でき、且つ、ライナーの破損を抑制できる、人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【0013】
第2発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記凹部は、前記シェル及び前記ライナーの中心軸線を含む切断面において、単一の曲率半径を有する円弧状の輪郭を有していることを特徴とする
。
第3発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明
又は第2発明
の人工股関節用コンポーネントにおいて、前記ライナーは、2種類以上の部材を用いて形成され、前記ライナーの前記凹部は、環状の帯状部材を用いて形成されていることを特徴とする。
【0015】
第
4発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第
3発明の何れかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記第2対向面には、前記凹部が形成されており、前記第2対向面は、前記凹部に対して前記ライナーの奥側に位置する奥側部と、前記凹部に対して前記ライナーの開口側に位置する開口側部と、を含み、前記ライナーの中心軸線に対する前記第2対向面の前記奥側部の傾斜角度を第1傾斜角度とし、前記シェルの中心軸線に対する前記シェルの前記第1対向面の傾斜角度を第2角度とし、前記ライナーの中心軸線に対する前記開口側部の傾斜角度を第3傾斜角度とした場合、第3傾斜角度>第2傾斜角度>第1傾斜角度であることを特徴とする。
【0016】
この発明によると、第2対向面のうち、開口側部を、シェルの第1対向面に確実に接触させることができる。また、第2対向面の奥側部を、シェルの第1対向面に確実に接触させることができる。これにより、第2対向面を、凹部を挟むように配置された2箇所において、第1対向面へより確実に接触させることができる。
【0019】
第
5発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第
4発明の何れかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記深さ方向における前記第2対向面の両端部が、前記第1対向面と接触していることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、シェルの深さ方向における、シェルとライナーとが接触している箇所間の距離(支持スパン)を、可及的に長くすることができる。これにより、ライナーがシェルとの接触部を支点にして転がるように変位することを、より確実に抑制することができる。
【0021】
第
6発明に係る人工股関節用コンポーネントは、第1発明乃至第
5発明の何れかの人工股関節用コンポーネントにおいて、前記凹部は、前記深さ方向に沿って複数設けられていることを特徴とする。
【0022】
この発明によると、シェルの深さ方向において、3箇所以上でシェルの第1対向面と第2対向面とを接触させることができる。これにより、ライナーがシェルとの接触部を支点にして転がるように変位することを、より確実に抑制することができる。また、ライナーからシェルに作用する荷重を、より広範囲に分散させることができる。これにより、ライナーに生じる応力のピークを低くすることができ、その結果、ライナーの破損をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、シェルとライナーとを所望の位置で確実に接触させることができ、また、ライナーの位置ずれを抑制でき、且つ、ライナーの破損を抑制できる、人工股関節用コンポーネントを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、人工股関節において用いられる人工股関節用コンポーネントとして広く適用することができるものである。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工股関節用コンポーネント1を含む人工股関節について骨盤100及び大腿骨101の一部とともに示す断面図である。
図1に示すように、人工股関節用コンポーネント1は、人工股関節において用いられ、臼蓋100aに設置される。人工股関節は、人工股関節用コンポーネント1に加え、ステム103、及び骨頭ボール104を更に備えて構成されている。人工股関節用コンポーネント1、ステム103、骨頭ボール104は、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼等の金属材料、ポリエチレン、PEEK等の高分子材料、及びアルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料を素材として構成されている。
【0027】
ステム103は、大腿骨101の髄腔部101aに一端側が埋植されて配置される棒状に形成される。そして、ボール状に形成されて骨頭部分を構成する骨頭ボール104が、ステム103の他端側に取り付けられる。尚、本実施形態では、骨頭ボール104がステム103に連結される構成を例にとって人工股関節を説明しているが、この通りでなくてもよく、骨頭ボール104がステム103に一体に形成されていてもよい。
【0028】
次に、人工股関節用コンポーネント1について詳しく説明する。人工股関節用コンポーネント1は、骨盤100に固定され、且つ、骨頭ボール104と協働して球面継手を形成しており、骨盤100に対する大腿骨101の運動を許容する。人工股関節用コンポーネント1は、シェル2と、シェル2に嵌合されたライナー3とを備えて構成されている。尚、本実施形態では、シェル2にライナー3が嵌合された状態を基準に説明する。シェル2は、骨盤100の臼蓋100aに固定されるベース部材として設けられている。
【0029】
図2は、人工股関節用コンポーネント1の断面図であり、人工股関節用コンポーネント1を骨盤100とともに図示している。
図2に示すように、シェル2は、生体親和性を有する材料を用いて形成されている。生体親和性を有する材料とは、生体組織との馴染みが良好な材料をいう。換言すれば、生体親和性を有する材料とは、生体組織に接触した際に長期的、慢性的な炎症反応を引き起こさず、周囲組織と良好な密着状態を維持することができる材料をいう。シェル2の材料として、チタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼等の金属材料、ポリエチレン、PEEK等の高分子材料、及びアルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料を例示することができる。
【0030】
シェル2は、半球殻状、より具体的には、所定の厚みを有する中空の略球状の部材の半部に相当する形状に形成されている。シェル2には、窪み部2aが形成されている。また、シェル2は、半球状の内側面を有する臼蓋100a側を向く外側面201と、ライナー3側を向く内側面202と、を有している。
【0031】
シェル2の外側面201は、臼蓋100aに固定されている。この外側面201には、臼蓋100aに対する固定性能を向上させるための表面処理が施されていることが好ましい。この表面処理として、アパタイトコーティング処理、溶射処理、粗面化処理等の、骨盤100の臼蓋100aに対する固定性能を向上させるための表面処理を例示することができる。
【0032】
シェル2の内側面202は、テーパ状の第1対向面205と、奥側面206と、を含んでいる。第1対向面205は、ライナー3の後述する第2対向面305と対向し且つ当該第2対向面305と接触可能な部分として設けられている。第1対向面205は、シェル2の開口207から、シェル2の深さ方向D1に沿って、シェル2の内側面202の底208側に向けて延びており、ライナー3を取り囲んでいる。第1対向面205は、円錐台状に形成されたテーパ状面であり、シェル2の底208側に進むに従い、直径が連続的に小さくなっている。
【0033】
奥側面206は、ライナー3と対向しつつ、ライナー3とは直接接触することを抑制された部分として設けられている。奥側面206は、第1対向面205に対して、シェル2の底208側に配置されており、当該底208を含んでいる。奥側面206は、半球面状に形成されており、第1対向面205に隣接している。
【0034】
第1対向面205は、奥側面206を一部に含む仮想の球面の内側空間に配置されており、第1対向面205におけるシェル2の厚みは、奥側面206におけるシェル2の厚みよりも大きい。これにより、シェル2の奥側面206にライナー3が接触してしまうことを抑制しつつ、ライナー3から荷重を直接受ける第1対向面205でのシェル2の強度を高くしている。
【0035】
シェル2の奥側面206の中心及び第1対向面205の中心は、シェル2の中心軸線R上に位置している。シェル2の中心軸線Rは、シェル2の内側面202の底208を通っている。
【0036】
ライナー3は、シェル2の内側に嵌合されている。ライナー3は、シェル2に固定され、且つ、骨頭ボール104と摺動可能に接触する部材として設けられている。ライナー3は、半球殻状、より具体的には、所定の厚みを有する中空の略球状の部材の半部に相当する形状に形成されており、シェル2の内側の半球状の空間に少なくとも一部(本実施形態では、全部)が収容されている。また、ライナー3は、シェル2の第1対向面205に固定されている。ライナー3の材料として、コバルトクロムモリブデン合金、ステンレス鋼等の金属材料を例示することができ、また、アルミナ、ジルコニア、ジルコニア強化アルミナ等のセラミック材料を例示することができ、更に、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の高分子材料を例示することができる。
【0037】
ライナー3は、シェル2側へ向けて窪む窪み部3aを有している。また、ライナー3は、外側面301と、内側面302とを有している。内側面302は、半球状の面として設けられており、骨頭ボール104と摺動可能に接触している。ライナー3の外側面301は、テーパ状の第2対向面305と、奥側面306と、を含んでいる。第2対向面305は、シェル2の第1対向面205と対向し且つ当該第1対向面205と接触可能な部分として設けられている。
【0038】
第2対向面305は、ライナー3の開口側端面312から、深さ方向D1に沿って、ライナー3の外側面301の底308側に向けて延びている。第2対向面305は、円錐台状に形成されたテーパ状面であり、ライナー3の底308側に進むに従い、直径が連続的に小さくなっている。第2対向面305の一部は、後述するように、第1対向面205にテーパ嵌合によって圧入固定されている。奥側面306は、第2対向面305に対して、ライナー3の底308側に配置されており、当該底308を含んでいる。奥側面306は、半球面状に形成されており、第2対向面305に隣接している。第2対向面305は、奥側面306を一部に含む仮想の球面の内側空間に配置されており、第2対向面305におけるライナー3の厚みは、奥側面306におけるライナー3の厚みよりも小さい。
【0039】
ライナー3の奥側面306の中心及び第2対向面305の中心は、ライナー3の中心軸線上に位置している。ライナー3の中心軸線は、中心軸線Rと一致している。即ち、中心軸線Rは、シェル2の中心軸線であるとともに、ライナー3の中心軸線でもある。そして、第2対向面305は、シェル2の第1対向面205に取り囲まれている。
【0040】
図3は、
図2のシェル201の開口207近傍の拡大図である。
図3に示すように、第1対向面205及び第2対向面305は、それぞれ、中心軸線Rに対して所定の傾斜角度A1,A2を有している。具体的には、中心軸線Rを含む切断面において、中心軸線Rに対する第1対向面205の傾斜角度A1と、中心軸線Rに対する第2対向面305の傾斜角度A2とは、同じ値である。
【0041】
第1対向面205および第2対向面305の少なくとも一方には、環状の凹部309が形成されている。本実施形態では、第2対向面305に、環状の凹部309が形成されている。そして、第1対向面205は、第2対向面305のうち凹部309以外の部分と全域に亘って面接触している。即ち、第1対向面205及び第2対向面305は、深さ方向D1における凹部309の両側のそれぞれにおいて、互いに面接触している。
【0042】
凹部309は、第1対向面205と第2対向面305との安定した接触状態を維持するために設けられている。凹部309は、第1対向面205に取り囲まれた、円環状の部分である。凹部309は、シェル2の深さ方向D1における中央部が、第2対向面305に対して最も深い底部309aとされており、当該底部309aから深さ方向D1の一方または他方に進むに従い、凹部309の深さが浅くなっている。第2対向面305からの底部309aの深さは、例えば、1mm程度とされている。このように、凹部309の深さは十分に大きくされており、凹部309は、第2対向面305の表面粗さを粗くすることで形成されたものでないことが明らかである。
【0043】
図3に示す断面、即ち、中心軸線Rを含む切断面において、凹部309は、円弧状の輪郭を有し、第2対向面305と直交する方向に向けて窪んでいる。本実施形態では、上記切断面において、凹部309は、単一の曲率半径を有している。凹部309は、第2対向面305において、ライナー3の開口側端面312の近傍に配置されている。
【0044】
第1対向面205と第2対向面305とは、凹部309の周辺で、互いに面接触している。具体的には、前述したように、第2対向面305は、深さ方向D1における凹部309の両側方において、第1対向面205と全周に亘って面接触している。第2対向面305は、凹部309に対してライナー3の奥側に位置する奥側部310と、凹部309に対してライナー3の開口側端面312側に位置する開口側部311と、を有している。
【0045】
本実施形態では、第2対向面305の奥側部310の全域が、第1対向面205と接触しており、これにより、第1接触領域11が形成されている。また、第2対向面305の開口側部311の全域が、第1対向面205と接触しており、これにより、第2接触領域12が形成されている。この構成により、深さ方向D1における第2対向面305の両端部が、第1対向面205と接触している。
【0046】
深さ方向D1において、第1接触領域11の長さは、第2接触領域12の長さよりも長くされており、第1対向面205と第2対向面305との間の荷重の大部分は、第1接触領域11に作用する。これにより、ライナー3の開口側端面312の近傍の第2接触領域12に、過大な負荷が作用することが抑制されている。
【0047】
深さ方向D1において、凹部309の長さの次に第1接触領域11の長さが大きく、その次に、第2接触領域12の長さが大きい。
【0048】
図2に示すように、第1接触領域11と深さ方向D1に隣接した位置に、ライナー3の外側面301の奥側面306が配置されている。奥側面306は、例えば、球面の一部を含む形状に形成されており、単一の曲率半径を有している。奥側面306は、シェル2の内側面202とは直接接触しておらず、シェル2の内側面202の奥側面206とは離隔した状態で対向している。奥側面306の中心の位置、及び奥側面206の中心の位置は、一致している。
【0049】
以上の概略構成を有する人工股関節用コンポーネント1において、臼蓋100aと骨頭ボール104との間に荷重が作用した場合、この荷重は、シェル2及びライナー3に作用する。この場合、荷重は、第1接触領域11と第2接触領域12の2箇所、即ち、凹部309の幅(溝幅)分離隔した2箇所に作用する。
【0050】
以上説明した人工股関節用コンポーネント1によると、シェル2のテーパ状の第1対向面205と、ライナー3のテーパ状の第2対向面305とは、シェル2の深さ方向D1において、凹部309を挟むように配置された2箇所で確実に接触できる。即ち、凹部309が設けられた第2対向面305は、少なくとも凹部309の近傍において第1対向面205に確実に接触することとなり、第1対向面205と、第2対向面305との接触位置(第1接触領域11の位置、及び第2接触領域12の位置)を、確実に所望の位置にすることができる。その結果、シェル2とライナー3との接触状態について、個体差を少なくすることができ、シェル2がライナー3を固定する性能に個体差が生じることを抑制できる。よって、人工股関節用コンポーネント1において、安定した性能を発揮することができる。また、シェル2とライナー3とは、シェル2の深さ方向D1において、少なくとも、凹部309を挟むように配置された2箇所で接触している。このため、例えば、シェル2の深さ方向D1と直交する直交方向の成分が大きい荷重が、骨頭ボール104からライナー3へ負荷された場合に、ライナー3は、シェル2によって、少なくとも第1接触領域11と第2接触領域12の、深さ方向D1の2箇所で支持される。したがって、ライナー3は、上記直交方向の成分が大きい荷重を受けても、シェル2に安定した姿勢で支持された状態を維持することができる。これにより、ライナー3がシェル2に対して転がるように位置ずれすること(脱転)を、確実に抑制できる。また、ライナー3とシェル2との接触箇所が深さ方向D1において少なくとも2箇所設けられていることにより、ライナー3に作用する荷重は、シェル2によって広い範囲で受けられる。その結果、ライナー3に大きな荷重が作用した場合でも、ライナー3に生じる応力が局所的に高くなることを抑制できる。これにより、ライナー3の破損をより確実に抑制することができる。
【0051】
従って、人工股関節用コンポーネント1によると、シェル2とライナー3とを所望の位置で確実に接触させることができ、また、ライナー3の位置ずれを抑制でき、且つ、ライナー3の破損を抑制することができる。
【0052】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、第2対向面305のうち、少なくとも凹部309が形成された部分は、第1対向面205に接触させる必要が無いため、これら第1対向面205及び第2対向面305のそれぞれの寸法公差を厳密にしなくてもよい。したがって、第1対向面205及び第2対向面305を形成する加工の加工精度を過度に上げずに済み、その結果、人工股関節用コンポーネント1の製造コストを低減することができる。
【0053】
また、人工股関節用コンポーネント1によると、深さ方向D1における第2対向面305の両端部が、第1対向面205と接触している。このような構成であると、深さ方向D1における、シェル2とライナー3とが接触している箇所間の最大距離(支持スパン)を、可及的に長くすることができる。これにより、ライナー3がシェル2との接触領域11,12を支点にして転がるように変位することを、より確実に抑制することができる。
【0054】
また、公知の構成として、シェルの開口側端面に、シェルの周方向に間隔をあけて複数の溝を設けるとともに、この溝に係合する突起をライナーに設け、突起と溝とを係合させることにより、形状の異なる複数種類のライナーを択一的にシェルに固定可能な構成が知られている。しかしながら、このような構成では、シェルのテーパ状の対向面(第1対向面205に相当)のうちの、シェルの開口側部分の面積が小さい。このため、シェルの開口側において、シェルのテーパ状の対向面とライナーのテーパ状の対向面との接触面積が小さい。その結果、シェルとライナーとのテーパ嵌合による互いの固定の安定性が得られ難く、安定性を得られる形状は限られており、シェルの設計の自由度が低い。
【0055】
これに対し、人工股関節用コンポーネント1によると、シェル2の開口側の端面に溝を設ける必要が無いため、上述したような、シェル2の形状の制約が無く、シェル2の設計の自由度を高くできる。
【0056】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1の主要部の周辺の断面図である。尚、以下では、第1実施形態と異なる構成について主に説明し、第1実施形態と同様の構成には図に同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
第1実施形態では、第1対向面205の傾斜角度A1と第2対向面305の傾斜角度A2とが同じである構成を例に説明した。一方、第2実施形態及び後述する第3実施形態では、これらの傾斜角度を異ならせることにより、深さ方向D1における凹部309の両側方において、第1対向面と第2対向面とをより確実に接触させるようにしている。
【0058】
具体的には、人工股関節用コンポーネント1のライナー3の外側面301は、第2対向面305Aと、第2対向面305Aに形成された凹部309と、を有している。第2対向面305Aの傾斜角度A20は、第1対向面205の傾斜角度A1とは異なっている。傾斜角度A20は、後述する傾斜角度A21と傾斜角度A22とを総称した傾斜角度である。
【0059】
より具体的には、中心軸線Rに対する、第2対向面305Aの奥側部310Aの傾斜角度A21、及び開口側部311Aの傾斜角度A22が、それぞれ、第1対向面205の傾斜角度A1と異なっている。奥側部310Aの傾斜角度A21を第1傾斜角度とし、第1対向面205の傾斜角度A1を第2傾斜角度とし、開口側部311Aの傾斜角度A22を第3傾斜角度とした場合、第3傾斜角度>第2傾斜角度>第1傾斜角度となるように各傾斜角度が設定されている。即ち、A22>A1>A21となるように各傾斜角度が設定されている。各前記傾斜角度A22,A1,A21のうち、最も大きい傾斜角度A22と最も小さい傾斜角度A21との差は、例えば、約5度である。
【0060】
上記の構成により、第2対向面305Aの開口側部311Aが第1対向面205に面接触しており、且つ、奥側部310Aが第1対向面205に面接触している。
【0061】
第2実施形態によると、深さ方向D1における凹部309の両側で、第1対向面205と第2対向面305とが確実に接触するように、第1対向面205の傾斜角度A1と、第2対向面305の傾斜角度A20とを設定することができる。
【0062】
また、第2実施形態によると、第3傾斜角度>第2傾斜角度>第1傾斜角度としている。これにより、第2対向面305の開口側部311Aを、シェル2の第1対向面205に確実に接触させることができる。また、第2対向面305の奥側部310Aを、シェル2の第1対向面205に確実に接触させることができる。これにより、第2対向面305を、凹部309を挟むように配置された2箇所において、第1対向面205へより確実に接触させることができる。
【0063】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1の主要部の周辺の断面図であり、
図5(a)は、シェル2にライナー3が圧入される前の状態を示しており、
図5(b)は、シェル2にライナー3が圧入された後の状態を示している。
【0064】
ライナー3の外側面301は、第2対向面305Bと、第2対向面305Bに形成された凹部309と、を有している。
図5(a)に示すように、シェル2にライナー3が圧入される前の状態、即ち、ライナー3に荷重が作用していない状態を考える。この場合において、ライナー3の中心軸線とシェル2の中心軸線Rとが一致するようにライナー3を配置したとき、中心軸線R(ライナー3の中心軸線)に対する第2対向面305Bの傾斜角度A23は、第1対向面205の傾斜角度A1と比べて大きくされている(A23>A1)。傾斜角度A23と傾斜角度A1の差は、例えば、約5度である。
【0065】
次に、ライナー3をシェル2へ圧入する作業について説明する。
図6は、ライナー3をシェル2へ圧入する際にライナー3に生じる応力及び反力を示すグラフ図である。
図6のグラフの横軸は、ライナー3の第2対向面305Bの開口側部311Bが、シェル2の第1対向面205に接触を開始したときにおけるライナー3の位置をゼロとし、そこからライナー3の開口側端面312を中心軸線Rに沿ってシェル2側に変位させた変位量を示している。また、
図6のグラフの縦軸は、ライナー3に生じる応力及び反力を示している。
【0066】
図6の△印は、ライナー3の奥側部310Bにおけるライナー3の応力を示している。また、
図6の○印は、ライナー3の開口側部311Bにおけるライナー3の応力を示している。また、
図6の◇印は、シェル2からライナー3が受ける深さ方向D1の反力を示している。
図6のグラフは、シェル2とライナー3とをコンピュータ上でモデル化し、シェル2に作用する負荷をFEM(有限要素法)解析することで作成されている。
【0067】
図5(a)及び
図6を参照して、ライナー3を、中心軸線Rに沿ってシェル2に挿入すると、まず、ライナー3の第2対向面305Bの開口側部311Bが、シェル2の第1対向面205に接触する。この状態から、ライナー3の開口側端面312を中心軸線Rに沿って押圧することにより、ライナー3をシェル2の奥側へ更に押し込むと、ライナー3は、シェル2の開口207の周囲をシェル2の外側へ向けて押し広げる。この際のシェル2からの反力によって、ライナー3の開口側部311Bの応力が次第に上昇する。
【0068】
そして、シェル2へ向けてライナー3を押し込む量、即ち、開口側端面312の変位量が所定量(
図6において、約0.35mm)に達するまでは、第2対向面305Bの開口側部311B及び奥側部310Bのうちの、開口側部311Bのみが第1対向面205に接触した状態(片当たり状態)が続く。この片当たり状態のとき、ライナー3の変位量が増すに従い、開口側部311Bの周辺の応力が増す傾向が見られる。そして、変位量が所定値に達すると、
図5(b)及び
図6に示すように、第2対向面305Bの奥側部310Bが、第1対向面205に接触する。すなわち、第2対向面305Bの開口側部311Bに加え奥側部310Bが第1対向面205に面接触するという、両当たり状態に移行する。
【0069】
両当たり状態では、開口側部311Bの応力と、奥側部310Bの応力は、変位量の増加に従い略同じ割合で線形的に増加する。片当たり状態において、奥側部310Bが第1対向面205に接触する直前には、変位量の増加に対する開口側部311Bの応力の増加量が大きいのに対し、両当たり状態では、変位量の増加に対する開口側部311Bの応力の増加量が小さくなっている。これは、両当たり状態では、奥側部310Bが第1対向面205に接触して負荷を受けることで、奥側部310Bと開口側部311Bとで負荷を分担して受け、開口側部311Bへの負荷の集中が抑制されていることを意味している。尚、ライナー3が受ける反力は、変位量の増加に伴って略一定の割合で増加している。
【0070】
そして、
図5(b)に示すように、シェル2へのライナー3の圧入が完了した状態では、第2対向面305Bの傾斜角度A23は、第1対向面205の傾斜角度A1と一致しており、開口側部311Bと奥側部310Bが、それぞれ、第1対向面205と強固に結合している。
【0071】
第3実施形態によると、ライナー3をシェル2に嵌合する際、ライナー3の第2対向面305Bは、開口側部311Bから先にシェル2の第1対向面205に接触してシェル2を押し広げ、その後、第2対向面305Bの奥側部310Bが第1対向面205に接触することとなる。これにより、第2対向面305Bを、凹部309を挟むように配置された2箇所で、第1対向面205へより確実に接触させることができる。
【0072】
また、ライナー3をシェル2へ圧入する際、ライナー3は、シェル2に対して片当たり状態から両当たり状態に移行することで、第2対向面305Bに作用する負荷を、開口側部311Bと奥側部310Bとで協働して受けることができ、開口側部311Bに過大な負荷が作用することを抑制できる。これにより、ライナー3の破損をより確実に抑制することができる。
【0073】
尚、ライナー3をシェル2に圧入した状態において、第2対向面305Bの開口側部311Bの傾斜角度と奥側部310Bの傾斜角度とを、異ならせてもよい。
【0074】
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1の周辺の断面図であり、
図8は、
図7の一部拡大図である。
図7及び
図8に示すように、本実施形態では、第2対向面305には凹部が形成されておらず、代わりに、シェル2の第1対向面205に、環状の凹部209が形成されている。
【0075】
第1対向面205及び第2対向面305は、深さ方向D1における凹部209の両側のそれぞれにおいて、互いに面接触している。凹部209は、第2対向面305を取り囲む、円環状の部分である。凹部209は、深さ方向D1における中央部が、第1対向面205に対して最も深い底部209aとされており、当該底部209aから深さ方向D1の一方または他方に進むに従い、第1対向面205からの深さが浅くなっている。底部209aの深さは、底部309a(
図3参照)の深さと同様である。
【0076】
図8に示す断面、即ち、中心軸線Rを含む切断面において、凹部209は、円弧状の輪郭を有し、第1対向面205と直交する方向に向けて窪んでいる。本実施形態では、上記切断面において、凹部209は、単一の曲率半径を有している。凹部209は、第1対向面205において、シェル2の開口207の近傍に配置されている。
【0077】
第1対向面205と第2対向面305とは、凹部209の周辺で、互いに面接触している。具体的には、前述したように、第1対向面205は、深さ方向D1における凹部209の両側方において、第2対向面305と全周に亘って面接触している。第1対向面205は、凹部209に対してシェル2の奥側に位置する奥側部210と、凹部209に対してシェル2の開口207側に位置する開口側部211と、を有している。
【0078】
本実施形態では、第1対向面205の奥側部210の一部が、第2対向面305と接触しており、これにより、第1接触領域11Cが形成されている。また、第1対向面205の開口側部211の一部が、第2対向面305と接触しており、これにより、第2接触領域12Cが形成されている。
【0079】
深さ方向D1において、第1接触領域11Cの長さは、第2接触領域12Cの長さよりも長くされており、第1対向面205と第2対向面305との間の荷重の大部分は、第1接触領域11Cに作用する。これにより、ライナー3の開口307近傍の第2接触領域12Cに、過大な負荷が作用することが抑制されている。
【0080】
本実施形態の人工股関節用コンポーネント1によると、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
(第5実施形態)
図9は、本発明の第5実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1の主要部の周辺の断面図である。本実施形態では、第1対向面205及び第2対向面305のそれぞれに、凹部209,309が形成されている。凹部209と凹部309とは、深さ方向D1と直交する方向に向かい合っている。
【0082】
第5実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1によると、第1対向面205のうちの凹部209に隣接する部分と、第2対向面305のうちの凹部309に隣接する部分とを、より確実に接触させることができる。
【0083】
(第6実施形態)
図10は、本発明の第6実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1の主要部の周辺の断面図である。本実施形態では、第2対向面305に複数(例えば、2つ)の凹部309,309が形成されている。凹部309,309は、深さ方向D1に沿って並んで配置されている。
【0084】
上記の構成により、第1対向面205と第2対向面305とが互いに接触している接触領域10が、3箇所以上に設けられている。すなわち、第1対向面205と第2対向面305とが互いに接触している接触領域10が、最も開口307寄りの凹部309に対して開口307側の位置と、凹部309,309間の位置と、最も奥側の凹部309に対して奥側の位置とに、それぞれ設けられている。
【0085】
第6実施形態に係る人工股関節用コンポーネント1によると、深さ方向D1において、3箇所以上で第1対向面205と第2対向面305とを接触させることができる。これにより、ライナー3が接触領域10を支点にして転がるように変位することを、より確実に抑制することができる。また、ライナー3からシェル2に作用する荷重を、より広範囲に分散させることができる。これにより、ライナー3に生じる応力のピークを低くすることができ、その結果、ライナー3の破損をより確実に抑制することができる。
【0086】
尚、
図11に示すように、第1対向面205に複数(例えば、2つの)凹部209を設けてもよい。この場合も、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0087】
また、第1対向面205に複数の凹部209を設け、且つ、第2対向面305に複数の凹部309を設けてもよい。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0089】
(1)前述の各実施形態では、ライナーが、単一の材料によって形成されている形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、ライナーは、2種類以上の材料を用いて形成されていてもよい。例えば、
図12の断面図に示すように、ライナー3のうち、凹部309の周辺を、ステンレス等の金属製の環状の帯状部材16で形成し、当該帯状部材16以外の部分を、金属以外の材料で形成してもよい。この場合の金属以外の材料として、PEEK等の高分子材料を例示することができる。凹部309は、帯状部材16に形成されている。この場合、帯状部材16によって、ライナー3の強度を高くすることができる。
【0090】
(2)前述の各実施形態では、第1対向面と第2対向面との関係について、複数の例を説明したけれども、この通りでなくてもよい。第1対向面の傾斜角度及び直径と、第2対向面の傾斜角度及び直径と、を適宜設定することにより、深さ方向における凹部の両側方で、第1対向面と第2対向面とを接触させてもよい。また、シェルにおいて、第1対向面の表面粗さを、他の部分の表面粗さよりも大きくしてもよい。また、ライナーにおいて、第2対向面の表面粗さを、他の部分の表面粗さよりも大きくしてもよい。
【0091】
(3)前述の各実施形態では、第1対向面及び第2対向面には、凹部のみを形成した形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、
図13の断面図に示すように、シェル2のうち、凹部309とはシェル2の径方向に隣接する位置に、ライナー3と係合可能な機能部分としての係合部313を設けてもよい。係合部313は、環状に形成されている。係合部313には、ライナー3の外側面301に形成される図示しない突起、又は、凹部309が設けられていない従来のライナーの外周に形成された突起が挿入される。これにより、ライナーの抜け止めが達成される。このように、シェル2の第1対向面205のうち、凹部309と対向する位置に係合部313を配置することにより、第1対向面205と第2対向面305との接触状態が、係合部313の影響を受けずに済む。
【0092】
(4)凹部の形状は、前述の実施形態で説明した形状に限られず、種々変更してもよい。
【0093】
(5)前述の各実施形態では、シェルおよびライナーは、半球殻状である形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。たとえば、シェルは、円錐台形状に形成されていてもよい。また、ライナーの外側面は、円錐台形状に形成されていてもよい。