(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記波浪解析部は、前記各波の波高及び前記各波の出会周期に基づいて、波スペクトルのモデル関数から、前記各波の波スペクトルを算出する、請求項2に記載の方位制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の自動操舵装置は、あくまで波浪の衝突による船体の「衝撃」を低減しようとするものであって、船体の「動揺」を直接低減するものではない。船体の波浪から受ける衝撃力が大きいことは、船体の動揺が大きいことと無関係ではないが、両者は必ずしも同じではない。船体が波浪による衝撃をほとんど受けなくとも、船体が大きく動揺する状況は存在し得る。例えば、クレーン船などの作業船では安定した状態で作業を行う必要があるが、船体が受ける衝撃を低減させるだけでは十分ではない。むしろ、この場合には、船体の動揺を低減させることが重要となる。
【0005】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたもので、波浪による水上浮揚体の動揺を低減することができる方位制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある形態に係る方位制御装置は、波浪により動揺する水上浮揚体の方位を制御する方位制御装置であって、前記波浪を構成する各波の波特性及び進行方位を算出する波浪解析部と、前記各波の波特性及び進行方位に基づいて、動揺が小さくなるような前記水上浮揚体の好適方位を算出する好適方位算出部と、前記好適方位に前記水上浮揚体を向ける転向制御部と、を備える。かかる構成によれば、水上浮揚体本体が好適方位に向くことで、波浪による水上浮揚体本体の動揺を低減することができる。
【0007】
また、上記の方位制御装置において、ある波特性を有する波をある方向から受けたときの前記水上浮揚体の動揺の大きさを表す波応答関数が記憶されている応答記憶装置をさらに備え、前記波特性は、波の周波数成分とそのエネルギーを表した波スペクトルであり、前記好適方位算出部は、前記各波の波スペクトル及び前記各波の進行方位に基づいて、前記波応答関数から動揺が最も小さくなる前記水上浮揚体の方位を算出し、その方位を前記好適方位としてもよい。かかる構成によれば、波応答関数を用いて好適方位を算出するため、様々な条件下において最も適切な好適方位を算出することができる。
【0008】
また、上記の方位制御装置において、前記波特性は波の波高であって、前記好適方位算出部は、前記各波のうち最も波高の大きい波の進行方位と、前記水上浮揚体本体の長手方向と、が平行になる前記水上浮揚体本体の方位を算出し、その方位を前記好適方位としても良い。かかる構成によれば、非常に単純な演算で好適方位を算出することができる。
【0009】
また、上記の方位制御装置において、前記波浪解析部は、前記各波の波高及び前記各波の出会周期に基づいて、波スペクトルのモデル関数から、前記各波の波スペクトルを算出してもよい。かかる構成によれば、比較的簡易な演算により、不規則性を含む波全体のスペクトルを算出することができる。
【0010】
また、上記の方位制御装置において、前記波浪解析部は、前記各波を観測して得た時間信号をフーリエ変換することで、前記各波の波スペクトルを算出してもよい。
【0011】
また、上記の方位制御装置において、風浪及びうねりに関する波浪データを入力する波浪データ入力部をさらに備え、前記各波の波高は前記波浪データから得られた風浪及びうねりの波高によって得られ、前記各波の周波数は前記波浪データから得られた風浪及びうねりの周期に基づいて算出されるように構成してもよい。
【0012】
また、上記の方位制御装置において、前記水上浮揚体を所定の目標位置に保持する定点保持制御部をさらに備えるように構成してもよい。
【0013】
さらに、本発明のある形態に係る水上浮揚体は、上記の方位制御装置を備えている。
【0014】
さらに、本発明のある形態に係る水上浮揚体の動揺低減方法は、波浪の力を受ける水上浮揚体の動揺低減方法であって、前記波浪を構成する各波の波特性及び進行方位を算出し、前記各波の波特性及び進行方位に基づいて、動揺が小さくなるような前記水上浮揚体本体の好適方位を算出し、前記好適方位に前記水上浮揚体を向ける。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明に係る方位制御装置によれば、波浪による水上浮揚体本体の動揺を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
(第1実施形態)
まず、
図1乃至
図3を参照して、本発明の第1実施形態に係る水上浮揚体100の構成について説明する。
図1は本実施形態に係る水上浮揚体100の概略側面図であり、
図2は本実施形態に係る水上浮揚体100の概略平面図であり、
図3は本実施形態の制御に関する構成のブロック図である。本実施形態に係る水上浮揚体100は、洋上を航行する(移動する)船舶である。ただし、ここでは、説明を簡単にするために、水上浮揚体100は移動速度及び移動方向が一定であるものとする。
図1に示すように、水上浮揚体100は、水上浮揚体本体10と、動力部20と、波浪レーダー30と、ジャイロコンパス40と、方位制御装置50と、を備えている。以下、これらの各構成要素について順に説明する。なお、以下で「方位」というときは、東西南北等の絶対的な方向をいい、相対的なものも含む単なる「方向」と区別する。
【0019】
水上浮揚体本体10は、水上に浮揚しており水上浮揚体100のベースとなる部分である。なお、ここでいう「浮揚」には、移動することなく浮揚する場合の他、移動しながら浮揚する場合も含まれる。水上浮揚体本体10は、船舶の船体にあたる部分であり、波浪からの力を受けて動揺する。また、「水上浮揚体(本体)の方位」というときは、船首が存在する場合には船首方位をいい、船首といえるものがない場合には所定の基準点の方位をいうこととする。
【0020】
動力部20は、水上浮揚体本体10を移動させ、また、水上浮揚体本体10の方位を変える(回頭させる)部分である。
図2に示すように、動力部20は、4つの推進器21によって構成されている。本実施形態の推進器21はプロペラ22の回転速度を変更することで推力の大きさを調整することができる。プロペラ22は、可変ピッチプロペラ(Controllable Pitch Propeller)であってもよく、固定ピッチプロペラ(Fixed Pitch Propeller)であってもよい。プロペラ22が可変ピッチプロペラである場合、ピッチ(翼角)を変更することによっても推力の大きさを調整することができる。また、推進器21は、それ自体を旋回させることで推力方向を変更することができる。本実施形態の動力部20は、上記のように構成されているため、水上浮揚体本体10の方位を変更せずに、水上浮揚体本体10を任意の方位に移動させることができる。また、動力部20は、水上浮揚体本体10の移動方位を変更せずに、水上浮揚体本体10の方位を任意に変更することができる。つまり、水上浮揚体本体10の移動方位と水上浮揚体本体10の方位は必ずしも一致しない。なお、動力部20を構成する推進器21としては、上述したものに限らず、ウォータジェットポンプを有する推進器や、舵を有する推進器を採用してもよい。
【0021】
波浪レーダー30は、水上浮揚体本体10に設けられており、波浪を構成する各波を検出する装置である。波浪レーダーとしては、例えばMIROS社のWAVEXなどを用いることができる。波浪レーダー30は、水上浮揚体本体10からみた各波の波高、出会周期、及び進行方向(以下、「相対進行方向」という)を検出することができる。ここで、洋上における波浪は、「風浪」と「うねり」によって構成されている。「風浪」とは、その領域で吹いている風によって生じた波をいい、「うねり」とは、風浪が風の吹かない領域にまで伝わった波をいう。いずれの波も単純な正弦波ではなく、多くの周波数成分によって構成されている。また、
図3に示すように、波浪レーダー30は、検出した各波の波高、出会周期、及び進行方位に関する信号を、後述の波浪解析部52に送信している。
【0022】
ジャイロコンパス40は、水上浮揚体本体10に搭載されており、水上浮揚体本体10の方位を検出する装置である。
図3に示すように、ジャイロコンパス40は、検出した水上浮揚体本体10の方位に関する信号を後述の波浪解析部52及び転向制御部55に送信している。
【0023】
方位制御装置50は、水上浮揚体本体10の動揺が低減されるように、水上浮揚体本体10の方位を制御する装置である。
図3に示すように、方位制御装置50は、波記憶部51と、波浪解析部52と、応答記憶部53と、好適方位算出部54と、転向制御部55と、によって主に構成されている。
【0024】
波記憶部51は、波スペクトルのモデル関数を記憶する部分である。ここでいう「波スペクトルのモデル関数」とは、ある波特性を有する波がどのような周波数成分を有しており、その周波数成分のエネルギーがどの程度であるかの分布(以下、「波スペクトル」という)を表すモデル関数をいう。波スペクトルのモデル関数の入力としては、例えば、有義波高とゼロクロシック周波数が用いられる。このうち「有義波高」は波の波高から算出することができ、「ゼロクロシック周波数」は波の出会周期から算出することができる。つまり、各波の波高と出会周期がわかれば、波スペクトルのモデル関数によって、各波の波スペクトルを得ることができる。波スペクトルのモデル関数は、海域等によって固有の形状を持っており、代表的なものとしてModified Pierson-Moskowitzスペクトル、JONSWAPスペクトル等がある。
【0025】
波浪解析部52は、各波の波スペクトルと、各波の進行方位(絶対座標系における進行方向)を算出する部分である。このうち波スペクトルについては、上述したように、波の波高と、出会周期がわかれば、波スペクトルのモデル関数によって得ることができる。波浪解析部52では、波浪レーダー30で検出した各波の波高及び出会周期と、波記憶部51に記憶された波スペクトルのモデル関数と、に基づいて波スペクトルを算出する。また、各波の進行方位は、波浪レーダー30で検出した各波の相対進行方向と、この相対進行方向が検出されたときの水上浮揚体本体10の方位に基づいて算出することができる。なお、水上浮揚体本体10の方位はジャイロコンパス40で検出することができる。以上のようにして算出された各波の波スペクトル及び進行方位に関する信号は、波浪解析部52から好適方位算出部54に送信される。
【0026】
応答記憶部53は、波応答関数を記憶する部分である。ここでいう「波応答関数」とは、ある相対的な方向から、ある波特性を有する波を受けたとき、水上浮揚体本体10が動揺する程度を表す関数をいう。ここでいう波特性とは、上述した波スペクトルである。つまり、波の波スペクトル、波の進行方位、及び水上浮揚体本体10の方位がわかれば、波応答関数によって水上浮揚体本体10の動揺の程度を算出することができる。なお、具体的な算出結果としては、周波数ごとの動揺値が得られる。波応答関数は、水上浮揚体ごとに固有のものであり、RAO(Response Amplitude Operator)と呼ばれている。また、各水上浮揚体本体10の波応答関数は、水上浮揚体本体10の具体的な形状等から数値計算によって求めることができる。
【0027】
好適方位算出部54は、動揺が小さくなるような水上浮揚体本体10の好適方位を算出する部分である。上記のように、各波の波スペクトル、各波の進行方位、水上浮揚体本体10の方位に基づいて、波応答関数により水上浮揚体本体10の動揺の大きさを算出することができる。ここで、本実施形態では水上浮揚体本体10は移動速度及び移動方向が一定であることを前提としているため、各波の波高と出会周期に基づいて算出される各波の波スペクトルは一定である。また、各波の進行方位も一定となる。そこで、計算上、水上浮揚体本体10の方位の値(方位角)だけを変化させて、水上浮揚体本体10の動揺が最も小さくなる方位を探し出す。そして、動揺が最も小さくなる方位を好適方位とする。
【0028】
より具体的にいうと、
図2に示すように水上浮揚体本体10の浮揚位置における波浪が2つの波で構成されているとし、それぞれを第1波101及び第2波102とする。そして、波応答関数RAOを用いれば、水上浮揚体本体10の方位角をΨとすると、第1波101による水上浮揚体本体10の動揺はRAO
1(Ψ)と表すことができ、第2波102による水上浮揚体本体10の動揺はRAO
2(Ψ)と表すことができる。そうすると、波浪全体による水上浮揚体本体10の動揺J(Ψ)は以下の式で求めることができるから、この波浪全体による水上浮揚体本体10の動揺J(Ψ)の大きさが最も小さくなる水上浮揚体本体10の方位角Ψを算出すればよい。ここで、動揺の大きさをいかに評価するかは、水上浮揚体100の用途によるが、最も高い動揺値を動揺の大きさとしてもよく、全ての周波数における動揺値を足した値(積分値)を動揺の大きさとしてもよく、これ以外のものを動揺の大きさとしてもよい。
【数1】
【0029】
転向制御部55は、動力部20を動作させ、水上浮揚体本体10を好適方位に向ける部分である。具体的には、転向制御部55は、好適方位算出部54から好適方位を取得するとともに、ジャイロコンパス40から水上浮揚体本体10の現在の方位(以下、「現在方位」という)を取得する。そして、好適方位と現在方位との差に基づいて、水上浮揚体本体10を転向(回頭)させる制御信号を生成し、動力部20にその制御信号を送信する。これにより、転向制御部55は、動力部20を制御し、好適方位算出部54で算出した好適方位に水上浮揚体本体10を向けることができる。
【0030】
次に、
図4を参照して、本実施形態に係る水上浮揚体100の動作について説明する。
図4は、本実施形態に係る水上浮揚体100の動作のフロー図である。以下で説明する動作は、方位制御装置50の制御によって遂行される。おおよその動作については既に説明しているため、ここではまとめの意味で簡単に説明する。
【0031】
まず、方位制御装置50は、波浪解析部52によって、波浪レーダー30で検出した各波の波高及び出会周期に基づいて、波記憶部51で記憶された波スペクトルのモデル関数により各波の波スペクトルを算出する。また、同じく波浪解析部52によって、波浪レーダー30で検出した各波の相対進行方向と、この相対進行方向を検出したときの水上浮揚体本体10の方位とに基づいて、各波の進行方位を算出する(ステップS1)。なお、水上浮揚体本体10の方位はジャイロコンパス40によって検出することができる。
【0032】
続いて、好適方位算出部54によって、波浪解析部52で算出した各波の波スペクトル及び進行方位に基づいて、応答記憶部53で記憶された波応答関数により、動揺が最も小さくなる水上浮揚体本体10の方位を算出し、その方位を好適方位とする(ステップS2)。
【0033】
続いて、転向制御部55により、好適方位算出部54で算出した好適方位と、ジャイロコンパス40で検出した水上浮揚体本体10の現在方位とに基づいて、動力部20を作動させ、水上浮揚体本体10を好適方位に転向させる(ステップS3)。
【0034】
以上が本実施形態に係る水上浮揚体100の動作である。このように、本実施形態によれば、水上浮揚体本体10に到来する波浪を解析した結果に基づいて、最も動揺が小さくなる方位に水上浮揚体本体10を向けるため、水上浮揚体本体10(水上浮揚体100)の動揺を効果的に低減することができる。
【0035】
(第2実施形態)
次に、
図5を参照して、本発明の第2実施形態に係る水上浮揚体200について説明する。
図5は、本実施形態に係る水上浮揚体200の制御に関する構成のブロック図である。
図5に示すように、本実施形態における水上浮揚体200は、波スペクトルのモデル関数を記憶する波記憶部51(
図3参照)を備えていない点で、第1実施形態に係る水上浮揚体100と構成が異なる。つまり、本実施形態では、波スペクトルのモデル関数を用いずに波スペクトルを算出する。その他の点については、第1実施形態に係る水上浮揚体100と基本的に同じである。
【0036】
具体的には、本実施形態においては、波浪レーダー30によって各波の波高の時間変化(波の時間信号)を検出し、波浪解析部52によってこの波の時間信号をフーリエ変換することで直接波スペクトルを算出する。その他は、第1実施形態の場合と同様に、波浪解析部52によって、波の進行方位を算出し、好適方位算出部54により好適方位を算出して、転向制御部55により水上浮揚体本体10を好適方位に転向する。
【0037】
(第3実施形態)
次に、
図6を参照して、本発明の第3実施形態に係る水上浮揚体300について説明する。
図6は、本実施形態に係る水上浮揚体300の制御に関する構成のブロック図である。
図6に示すように、本実施形態に係る水上浮揚体300は、波スペクトルのモデル関数を記憶する波記憶部51及び波応答関数を記憶する応答記憶部53(いずれも
図3参照)を備えていない点で、第1実施形態に係る水上浮揚体100と構成が異なる。つまり、本実施形態では、波スペクトルのモデル関数や波応答関数を用いずに好適方位を算出する。その他の点については、第1実施形態に係る水上浮揚体100と基本的に同じである。
【0038】
まず、本実施形態の波浪解析部52では、第1実施形態の場合と
同様に各波の進行方位を算出するが、第1実施形態の場合と異なり各波の波スペクトルは算出しない。ただし、波浪解析部52は、ここでは算出に用いない各波の波高を波浪レーダー30から取得する。そして、波浪解析部52は、算出した各波の進行方位に関する信号を好適方位算出部54に送信するとともに、波浪レーダー30が検出した各波の波高に関する信号をそのまま好適方位算出部54に転送する。
【0039】
好適方位算出部54は、波浪解析部52から、水上浮揚体本体10に到来する各波の波高及び進行方位を取得する。本実施形態においては、この各波の波高が、好適方位を算出する上での波特性となる。続いて、波浪解析部52は、各波のうち最も波高の大きい波を選出する。そして、この最も波高の大きい波の進行方位に対向する方位を好適方位とする。例えば、最も波高の大きい波の進行方位が南であるとき、好適方位を北とする。その後は、第1実施形態の場合と同様に、転向制御部55により、動力部20を制御して、水上浮揚体本体10を好適方位に向ける。なお、水上浮揚体300の船首が存在しない場合には、最も波高の大きい波の進行方位と水上浮揚体本体10の長手方向とが平行になるような方位を好適方位とし、水上浮揚体本体10をこの好適方位に転向させる。
【0040】
本実施形態によれば、最も波高の大きい波の進行方位に対向する方位に水上浮揚体本体10を向けるため(最も波高の大きい波の進行方位と水上浮揚体本体10の長手方向が平行になるため)、最も波高の大きい波による水上浮揚体本体10の動揺を抑えることができる。その結果、波浪全体(各波の合成波)による水上浮揚体本体10の動揺も低減することができる。なお、本実施形態では、波応答関数を用いた演算が行われないため、第1実施形態の場合に比べ好適方位の算出が容易であり、また、あらかじめ数値計算等により波応答関数を求めておく必要もない。
【0041】
(第4実施形態)
次に、
図7を参照して、本発明の第4実施形態に係る水上浮揚体400について説明する。
図7は、本実施形態に係る水上浮揚体400の制御に関する構成のブロック図である。
図7に示すように、本実施形態に係る水上浮揚体400は、波浪レーダー30(
図3参照)を備えておらず、これに代えて、波浪データ入力部60、位置検出装置70、及び本体移動算出部56を備えている点で第1実施形態に係る水上浮揚体100と構成が異なる。その他の点については、第1実施形態に係る水上浮揚体100と基本的に同じである。以下、波浪データ入力部60、位置検出装置70、本体移動算出部56、及び波浪解析部52を中心に説明する。
【0042】
波浪データ入力部60は、波浪データを入力する部分である。ここでいう「波浪データ」とは、風浪に関するデータとうねりに関するデータが含まれる。上述したように、海洋における波浪は、実質的に風浪とうねりの合成波とみなすことができるから、比較的高い精度で好適方位を算出することができる。波浪データの具体的な値は、各国の気象庁から発表される海上予報や測定された波浪の、ある海域における波高、波の進行方向、及び波の周期である。本実施形態では、波浪データ入力部60への波浪データの入力は作業者が行う。ただし、波浪データ入力部60は、自動で入力されるように構成されていてもよい。
【0043】
位置検出装置70は、水上浮揚体本体10に搭載されており、水上浮揚体本体10の位置を検出する装置である。位置検出装置70としては、例えばGPS(Global Positioning System)を用いることができる。
図7に示すように、位置検出装置70で検出した水上浮揚体本体10の位置に関する信号は、本体移動算出部56に送信される。
【0044】
本体移動算出部56は、方位制御装置50の構成要素であって、水上浮揚体本体10の移動速度及び移動方向を算出する部分である。本体移動算出部56は、位置検出装置70から水上浮揚体本体10の位置を刻々と取得し、ある時刻における水上浮揚体本体10の位置と所定の時間後における水上浮揚体本体10の位置を対比することで、水上浮揚体本体10の移動速度及び移動方向を算出することができる。
図7に示すように、本体移動算出部56で算出した水上浮揚体本体10の移動速度及び移動方向に関する信号は、波浪解析部52に送信される。
【0045】
本実施形態に係る波浪解析部52では、波浪データ入力部60で入力された波浪データを取得し、この波浪データに基づいて水上浮揚体本体10に到来する波を解析する。具体的には、風浪の波スペクトル及び進行方位と、うねりの波スペクトル及び進行方位を算出する。このうち各波(風浪及びうねり)の進行方位は波浪データ入力部60から直接入力されるため、実質的な計算は不要である。つまり、水上浮揚体本体10の方位を考慮する必要がなく、波浪解析部52にはジャイロコンパス40からの信号は入力されない。一方、波スペクトルを算出するには、出会周期が必要であるところ、波浪データから取得できるのは単なる波の周期であり、出会周期を算出するにはさらに水上浮揚体本体10の移動速度と移動方向が必要である。そこで、本実施形態の波浪解析部52では、本体移動算出部56から水上浮揚体本体10の移動速度及び移動方向を取得し、これらと各波の周期に基づいて各波の出会周期を算出し、その上で波スペクトルを算出している。
【0046】
そして、風浪の波スペクトル及び進行方位と、うねりの波スペクトル及び進行方位を算出した後は、第1実施形態と同様に作動する。つまり、好適方位算出部54において、各波(風浪及びうねり)の波スペクトル及び進行方位に基づいて、応答記憶部53で記憶されている波応答関数により、好適方位を算出する。そして、転向制御部55によって、動力部20を制御し、水上浮揚体本体10を好適方位に向ける。以上のように、本実施形態によれば、波浪レーダー30を用いずとも好適方位を算出することができるため、水上浮揚体300を比較的単純に構成することができる。
【0047】
(第5実施形態)
次に、
図8を参照して、本発明の第5実施形態に係る水上浮揚体500について説明する。
図8は、本実施形態に係る水上浮揚体500の制御に関する構成のブロック図である。
図8に示すように、本実施形態に係る水上浮揚体500は、位置検出装置70(
図7参照)と、目標位置(定点位置)を設定する目標位置設定部80と、目標位置に水上浮揚体本体10を定点保持させる定点保持制御部57とを備えている点で、第1実施形態に係る水上浮揚体100と構成が異なる。その他の点については、第1実施形態に係る水上浮揚体100と基本的に同じである。以下、目標位置設定部80及び定点保持制御部57を中心に説明する。
【0048】
目標位置設定部80は、定点保持制御において必要な目標位置(定点)を入力する部分である。本実施形態では、目標位置設定部80は、作業者が座標を入力できるように構成されている。そして、目標位置設定部80は、作業者が入力した座標に基づいて目標位置を設定する。
【0049】
定点保持制御部57は、方位制御装置50の構成要素であり、動力部20を制御し、水上浮揚体本体10を所定の目標位置に保持する部分である。定点保持制御部57は、目標位置設定部80から目標位置を取得するとともに、位置検出装置70から水上浮揚体本体10の現在位置を取得する。そして定点保持制御部57は、目標位置と水上浮揚体本体10の現在位置との差に基づいて、動力部20を制御し、水上浮揚体本体10を目標位置(定点)に移動又は保持する定点保持制御を行う。
【0050】
このように、本実施形態の水上浮揚体500では、第1実施形態で説明した水上浮揚体本体10の動揺を低減する制御に加え、定点保持制御が行われる。つまり、本実施形態によれば、水上浮揚体本体10が定点に保持され、かつ、水上浮揚体本体10動揺が低減される。例えは、作業船などのように、水上浮揚体本体10が所定位置からずれないことと、動揺しないことの両方が求められる水上浮揚体においては、両制御を組み合わせることは非常に有効である。
【0051】
以上、本発明の第1乃至5実施形態に係る水上浮揚体100、200、300、400、500について説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、以上では、水上浮揚体が船舶である場合について説明したが、水上浮揚体がメガフロートのような停止した船舶以外の水上浮揚構造物であっても本発明に含まれる。
【0052】
なお、以上では、水上浮揚体本体10の移動方向及び移動速度が一定である場合について説明したが、所望の進行方向や進行速度がある場合には、その条件下で各波の波スペクトルを算出し、その上で、好適方位を算出するようにしてもよい。