特許第5965156号(P5965156)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965156
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】可撓性筒状体の反転機および反転方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 63/36 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B29C63/36
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-27381(P2012-27381)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-163311(P2013-163311A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 伊三郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 仁志
(72)【発明者】
【氏名】森 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】岡村 昭彦
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−058290(JP,A)
【文献】 特開昭55−039374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00 − 63/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に可撓性筒状体が挿通され、前記可撓性筒状体の一端を環状に固定する固定部を有する本体部材と、
前記本体部材内に配置され、前記可撓性筒状体を挿通可能な第1挿通路を有し、かつ、前記可撓性筒状体の前記固定部側部分との間に圧力流体が供給される第1空間を形成する第1仕切部材と、
前記本体部材内において前記第1仕切部材の前記固定部と反対側に配置され、前記可撓性筒状体を挿通可能な第2挿通路を有し、かつ、前記第1仕切部材との間に第2空間を形成する第2仕切部材とを備えており、
前記第2空間に、粘土鉱物を含む液体であって、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sである粘性流体が加圧状態で充填されることを特徴とする可撓性筒状体の反転機。
【請求項2】
前記粘土鉱物が、ベントナイトを含むことを特徴とする請求項1に記載の可撓性筒状体の反転機。
【請求項3】
前記第1挿通路および前記第2挿通路の少なくとも一方の大きさが、前記可撓性筒状体の長さ方向にわたって増減することを特徴とする請求項1または2に記載の可撓性筒状体の反転機。
【請求項4】
前記第1仕切部材および前記第2仕切部材の前記少なくとも一方は、前記可撓性筒状体の長さ方向に間隔を空けて配置された複数の部材を含むことを特徴とする請求項に記載の可撓性筒状体の反転機。
【請求項5】
本体部材内に配置された2つの仕切部材に可撓性筒状体を貫通させつつ、前記可撓性筒状体を前記本体部材に挿通すると共に、前記本体部材に設けられた固定部に前記可撓性筒状体の一端を環状に固定する第1工程と、
前記2つの仕切部材の間に形成される第2空間に、粘土鉱物を含む液体であって、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sである粘性流体を加圧状態で充填する第2工程と、
前記2つの仕切部材のうち前記固定部に近い側の前記仕切部材と前記可撓性筒状体の前記固定部側部分との間に形成される第1空間に、圧力流体を供給して、前記可撓性筒状体を裏返しながら前記可撓性筒状体の長さ方向に進行させる第3工程とを有することを特徴とする可撓性筒状体の反転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性筒状体を反転させる反転機およびその反転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガス導管、水道管、下水道管などの主として地中に埋設された管路を更生する方法として、管路材料が鋳鉄管や鋼管などの場合、管路との接着が期待できるので、管路内面に可撓性を有する筒状体を内張りする方法がある。また、管路材料がセメント系のヒューム管や石綿管など接着が期待できないものの場合、管路内に新しく剛性を有するパイプを形成する方法がある。第1の方法では、筒状の織物の外面に気密層を有する被膜を形成させた筒状体の内側に、エポキシ樹脂などの接着剤を注入し、該接着剤を筒状体内面の織物に含浸塗布させた後、筒状体を反転させながら管路に挿通し、管路内面にエポキシ樹脂を介して筒状体を内張りする。第2の方法では、厚みを有する不織布の外面に気密層を有する被膜を形成した筒状体を用いる。筒状体内の不織布層に不飽和ポリエステル樹脂などの硬化性樹脂を含浸塗布した後、筒状体を反転させながら管路に挿通し、管路内で硬化性樹脂を硬化させて新しいパイプを形成する。
【0003】
このように筒状体を反転させながら管路に挿通するための装置として、圧縮空気などの圧力流体を用いて筒状体を反転させる反転機が用いられている。
例えば特許文献1の反転機では、筒状体を圧力容器に貫通させて、筒状体の一端を圧力容器に設けられた固定部に環状に固定し、圧力容器に圧力流体を供給することで、可撓性筒状体に作用する流体圧力によって可撓性筒状体を反転させながら管路内を前進させている。
【0004】
この圧力容器には筒状体を導入するための導入口が設けられている。また、導入口と筒状体との隙間から圧力流体が漏出するのを防止するために、導入口において、ゴム弾性体からなる一対のシール部材によって扁平状の筒状体を両側から挟んでシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−299235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、扁平状の筒状体の両側部は曲面状となるため、シール部材を筒状体の両側部に追従させることは困難である。そのため、筒状体の両側部とシール部材との間に隙間が生じて、この隙間から圧力流体が漏出する場合がある。特に、筒状体が多層構造の場合には、管路内に内張りするときに最外層となる最も径の大きい層が、シール部材で挟まれるときに、最も内側となるため、部分的に折り畳まれた状態となる。そのため、筒状体の表面に凹凸が生じて、シール部材と筒状体との隙間が生じやすくなり、圧力流体が漏れやすい。
【0007】
圧力流体が漏出すると、圧力容器内の圧力が低下して筒状体を反転できなくなる。また、漏洩を防止しようとしたときに、わずかの隙間が生じると、金属音のような音が生じてしまう。また、内側に接着剤や硬化性樹脂が含浸された筒状体を圧縮空気で加圧された圧力容器の中にいきなり入れていくと、大気圧と圧力容器の中の圧縮空気圧との圧力差によって、筒状体の中の接着剤または硬化性樹脂が絞り出されてしまい、期待される量の接着剤または硬化性樹脂を筒状体の中にとどめておくことができない。
【0008】
さらに、内張り材が比較的固い場合、管路にいくつかの曲り部が存在する場合、管路の口径が1.5m以上などの大口径の場合、あるいは管路長が何百m以上と長い場合には、内張り材を二つに折った状態で反転すると(図4参照)、すでに反転した内張り材の中を未反転の内張り材が通過するときに、未反転内張り材の両耳部がすでに裏返った内張り材の中を通る時の抵抗が著しく減り、反転挿通がやりやすくなることが分かっている。こうした二つ折りの内張り材を連続反転機で裏返そうとすると、漏れが著しく生じ反転できないと共に、大きな音が発生してしまう。
【0009】
このような問題を解消するために、パイプなどでタワーを立て、水頭を利用して筒状体を反転させる方法が用いられている。水頭を利用した反転法では、必要とする圧力は、水頭の高さとなるので、例えば、水頭圧が1.0kgf/cm2必要となる場合、10mのタワーが必要になり、公道上で10mのタワーを立てるのは危険を伴うと共に、大変な作業となる。
【0010】
そこで、本発明は、圧力流体の漏れを防止でき、構成が簡単な反転機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0011】
第1の発明の可撓性筒状体の反転機は、内部に可撓性筒状体が挿通され、前記可撓性筒状体の一端を環状に固定する固定部を有する本体部材と、前記本体部材内に配置され、前記可撓性筒状体を挿通可能な第1挿通路を有し、かつ、前記可撓性筒状体の前記固定部側部分との間に圧力流体が供給される第1空間を形成する第1仕切部材と、前記本体部材内において前記第1仕切部材の前記固定部と反対側に配置され、前記可撓性筒状体を挿通可能な第2挿通路を有し、かつ、前記第1仕切部材との間に第2空間を形成する第2仕切部材とを備えており、前記第2空間に、粘土鉱物を含む液体であって、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sである粘性流体が加圧状態で充填されることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、第1仕切部材を介して第1空間に隣接配置された第2空間に、粘土鉱物を含む液体である粘性流体を加圧状態で充填しているため、第1空間の圧力流体が第2空間に侵入しにくい。そのため、第1空間から圧力流体が漏出するのを抑制できる。したがって、圧力流体の漏出によって発生する騒音も抑制できる。
また、仕切部材において可撓性筒状体が挿通される挿通路と可撓性筒状体との隙間を、粘性流体によってシールするため、たとえ挿通路に挿通された可撓性筒状体の表面に凹凸が生じていても、仕切部材の挿通路と可撓性筒状体との隙間を確実にシールすることができる。
また、圧力流体の漏れを防止するために機械的にシールする場合に比べて、シール部において可撓性筒状体が破損するリスクを無くすことができる。
また、機械的にシールする反転機や水頭圧を利用した反転機に比べて、反転機の構成を簡易化できると共にコンパクト化できる。
また、粘土鉱物は人体等に安全であって自然界に存在するため、粘性流体は防腐剤を使用しなくても腐敗しにくく長期間使用できると共に、廃棄処理がしやすい。
また、粘性流体は、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sである。この構成によると、粘性流体の粘度が高いため、高圧で充填しても第2空間から粘性流体が漏れ出にくい。また、第1空間から第2空間に圧力流体が侵入しにくくなり、圧力流体の漏出量を低減できる。なお、本発明において「20℃における粘度」とは、BH型回転粘度計でNo.5ロータを用いて、23±2℃の温度条件下で、回転時間20秒、回転数20rpmで測定した粘度である。
【0013】
第2の発明の可撓性筒状体の反転機は、第1の発明において、前記粘土鉱物が、ベントナイトを含むことを特徴とする。粘土鉱物が、ベントナイトを含むことにより、粘性流体の粘度を高くできる。また、ベントナイトを含む液体は、チクソトロピー性を有するため、本体部材内に注入しやすい
【0019】
の発明の可撓性筒状体の反転機は、第1または第2の発明において、前記第1挿通路および前記第2挿通路の少なくとも一方の大きさが、前記可撓性筒状体の長さ方向にわたって増減することを特徴とする。
【0020】
この構成によると、仕切部材に設けられた挿通路の大きさが、可撓性筒状体の長さ方向にわたって増減していることで、挿通路と可撓性筒状体との隙間を粘性流体が通過する際の抵抗が大きくなるため、第2空間からの粘性流体の漏出を抑制できる。
また、仕切部材の挿通路の形状を変化させるという簡易な構成によって、粘性流体の漏れを防止しており、複雑なシール構造が不要であるため、反転機を簡易化できる。
【0021】
の発明の可撓性筒状体の反転機は、第の発明において、前記第1仕切部材および前記第2仕切部材の前記少なくとも一方は、前記可撓性筒状体の長さ方向に間隔を空けて配置された複数の部材を含むことを特徴とする。
【0022】
この構成によると、前記部材の配置間隔を変えるだけで、挿通路の内寸の大きい部分の長さを変更することができる。したがって、挿通路の形状を変更しやすい。
【0023】
発明の可撓性筒状体の反転方法は、本体部材内に配置された2つの仕切部材に可撓性筒状体を貫通させつつ、前記可撓性筒状体を前記本体部材に挿通すると共に、前記本体部材に設けられた固定部に前記可撓性筒状体の一端を環状に固定する第1工程と、前記2つの仕切部材の間に形成される第2空間に、粘土鉱物を含む液体であって、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sである粘性流体を加圧状態で充填する第2工程と、前記2つの仕切部材のうち前記固定部に近い側の前記仕切部材と前記可撓性筒状体の前記固定部側部分との間に形成される第1空間に、圧力流体を供給して、前記可撓性筒状体を裏返しながら前記可撓性筒状体の長さ方向に進行させる第3工程とを有することを特徴とする。
【0024】
この構成によると、仕切部材を介して第1空間に隣接配置された第2空間に、粘土鉱物を含む液体である粘性流体を加圧状態で充填しているため、第1空間の圧力流体が第2空間に侵入しにくい。そのため、第1空間から圧力流体が漏出するのを抑制できる。したがって、圧力流体の漏出によって発生する騒音も抑制できる。
また、仕切部材において可撓性筒状体が挿通される挿通路と可撓性筒状体との隙間を、粘性流体によってシールするため、たとえ挿通路に挿通された可撓性筒状体の表面に凹凸が生じていても、仕切部材の挿通路と可撓性筒状体との隙間を確実にシールすることができる。
また、圧力流体の漏れを防止するために機械的にシールする場合に比べて、シール部において可撓性筒状体が破損するリスクを無くすことができる。
また、機械的にシールする反転機や水頭圧を利用した反転機に比べて、反転機の構成を簡易化できると共にコンパクト化できる。
また、粘土鉱物は人体等に安全であって自然界に存在するため、粘性流体は防腐剤を使用しなくても腐敗しにくく長期間使用できると共に、廃棄処理がしやすい。
また、粘性流体は、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sである。この構成によると、粘性流体の粘度が高いため、高圧で充填しても第2空間から粘性流体が漏れ出にくい。また、第1空間から第2空間に圧力流体が侵入しにくくなり、圧力流体の漏出量を低減できる。なお、本発明において「20℃における粘度」とは、BH型回転粘度計でNo.5ロータを用いて、23±2℃の温度条件下で、回転時間20秒、回転数20rpmで測定した粘度である。

【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に可撓性筒状体の反転機の断面図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3】第1仕切部材の部分拡大断面図であって、(a)は可撓性筒状体が挿通された状態を示し、(b)は可撓性筒状体が挿通されていない状態を示す。
図4図1のB−B線断面図である。
図5】本発明の他の実施形態に可撓性筒状体の反転機の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の可撓性筒状体の反転機1(以下、単に反転機1という)は、可撓性筒状体を裏返しながら管路に挿通して管路内に内張りするための装置であって、図1に示すように、筒状の本体部材2と、本体部材2内に配置された第1仕切部材5および第2仕切部材6を備えている。
【0027】
図4に示すように、本体部材2の内部には、扁平状に二つ折りされた可撓性筒状体100が挿通される。可撓性筒状体100の径は、管路101の内径とほぼ同じであって、例えば0.3mである。そして、可撓性筒状体100が内張りされる管路101の長さは800mと長い。
【0028】
可撓性筒状体100は、例えば、筒状布帛の片面に気密性のゴムまたは樹脂のコーティングを施したものである。可撓性筒状体100の管路101に内張りされたときに外周面となる面(即ち、本体部材2に挿通された状態における内周面)には、接着剤が塗布されている。
【0029】
本体部材2は、両端が開口した略L字状の管である。本体部材2は、一端側が略水平となり、他端側が略鉛直となるように支持される。以下、本体部材2の図1中左端を前端、図1中右端を後端とする。本体部材2の前端は、管路101の端部に対向して配置される。また、本体部材2の前端には、固定部3が設けられている。この固定部3に、本体部材2から引き出された可撓性筒状体100の一端が裏返された状態で環状に固定される。また、本体部材2の曲がり部分の内側には、可撓性筒状体100が本体部材2の内面と接触するのを防止するためのローラ4が設置されている。
【0030】
第1仕切部材5および第2仕切部材6は、本体部材2内に筒軸方向に離れて配置されている。第1仕切部材5は、第2仕切部材6よりも固定部3に近い位置に配置されている。第2仕切部材6は、本体部材2の後端から例えば2m離れた位置に配置されている。第1仕切部材5および第2仕切部材6には、扁平状に折り畳まれた可撓性筒状体100が挿通される第1挿通路5aおよび第2挿通路6aがそれぞれ形成されている。仕切部材5、6の詳細については後述する。
【0031】
第1仕切部材5と可撓性筒状体100の折り返し部100aとの間に形成される空間(即ち、本体部材2の内周面と第1仕切部材5と可撓性筒状体100の折り返し部100aとによって形成される空間)を、第1空間11とする。また、本体部材2内において、第1仕切部材5と第2仕切部材6との間に形成される空間を第2空間12とし、第2仕切部材6の後方に形成される空間を第3空間13とする。
【0032】
本体部材2の第1仕切部材5より前方には、圧力流体注入口2aが設けられている。圧力流体注入口2aは、図示しないコンプレッサーなどに接続される。この圧力流体注入口2aから第1空間11に圧縮空気や圧縮蒸気などの圧力流体が供給される。可撓性筒状体100が反転するときの第1空間11の圧力は、例えば0.20MPaである。なお、本体部材2には、第1空間11内の圧力を測定する圧力計(図示省略)が取り付けられている。
【0033】
また、本体部材2の第1仕切部材5と第2仕切部材6との間には、第2空間12に粘性流体Fを注入するための粘性流体注入口2bが設けられている。第2空間12内には粘性流体Fが加圧状態で充填される。可撓性筒状体100を反転させる際には、粘性流体注入口2bは、ホース7を介して補給タンク8に接続されており、第2空間12から第1空間11と第3空間13に漏出した分の粘性流体Fが補給される。第2空間12の圧力は、可撓性筒状体100を反転させる際の第1空間11の圧力以下であって、第1空間11の圧力に近い圧力とする。なお、本体部材2には、第2空間12内の圧力を測定する圧力計(図示省略)が取り付けられている。
【0034】
また、本体部材2の第2仕切部材6より後方には、第3空間13に粘性流体Fを注入するための粘性流体注入口2cが設けられている。第3空間13には、第2仕切部材6から数十cmの高さまで粘性流体Fが入れられる。
【0035】
粘性流体Fは、チクソトロピー性を有し、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sであることが好ましい。なお、20℃における粘度とは、BH型回転粘度計でNo.5ロータを用いて、23±2℃の温度条件下で、回転時間20秒、回転数20rpmで測定した粘度である。上記粘度の粘性流体は、例えば、100ccのビーカー内に入れて逆さまにしても落下することがない。また、粘性流体Fの比重は、1.05〜1.15が好ましい。本実施形態では、粘性流体Fとして、20℃における粘度が13500Pa・s、比重1.12の粘土鉱物を含む液体を用いた。具体的には、ベントナイトと水との混合液(比重1.06)に、さらにベントナイト以外の粘土を入れて、比重を1.12とした。なお、ベントナイトとは、モンモリロナイトを主成分する粘土鉱物のことである。
【0036】
第1仕切部材5は、本体部材2の筒軸方向に等間隔に配置された3枚の板状部材51と、ブラシ52で構成されている。また、第2仕切部材6は、本体部材2の筒軸方向に等間隔に配置された3枚の板状部材61で構成されている。
【0037】
板状部材51および板状部材61は、両面が平坦状であって、本体部材2の筒軸方向に直交する方向に配置される。なお、図1では、3枚の板状部材51の隙間、および、3枚の板状部材61の隙間に粘性流体Fが入り込んでいる状態を表示しているが、粘性流体Fはこの隙間にほとんど無くてもよい。
【0038】
図2に示すように、第1仕切部材5の板状部材51の中央部には、可撓性筒状体100が挿通される略矩形状の挿通孔51aが形成されている。3枚の板状部材51の挿通孔51aの大きさは全て同じである。挿通孔51aの内側には全周にわたってブラシ52が設けられている。図3(b)に示すように、ブラシ52は、挿通孔51aに可撓性筒状体100が挿通されていないときに、挿通孔51aを塞ぐように設けられている。図2および図3(a)に示すように、挿通孔51aに可撓性筒状体100が挿通された場合には、ブラシ52はたわみ変形して、挿通孔51aと可撓性筒状体100との隙間を塞ぐ。
【0039】
図4に示すように、第2仕切部材6の板状部材61の中央部には、可撓性筒状体100が挿通される矩形状の挿通孔61aが形成されている。3枚の板状部材61の挿通孔61aの大きさは全て同じである。挿通孔61aの短辺長さは、折り畳まれた状態の可撓性筒状体100の厚みより若干(例えば2mm程度)大きい。挿通孔61aの長辺長さは、可撓性筒状体100の折り畳み幅よりも大きく、折り畳まれた状態の可撓性筒状体100の両側部と挿通孔61aとの間には隙間が生じる。
【0040】
第1仕切部材5および第2仕切部材6が、間隔を空けて配置された3枚の板状部材を有するため、第1挿通路5aおよび第2挿通路6aの大きさは、本体部材2の筒軸方向(可撓性筒状体100の長さ方向)にわたって増減している。したがって、第1挿通路5aと可撓性筒状体100との隙間、および、第2挿通路6aと可撓性筒状体100との隙間は、いわゆるラビリンス構造をなしており、この隙間を粘性流体Fが通過する際の抵抗が大きいため、粘性流体Fは第2空間12から漏れ出にくい。
【0041】
本実施形態の反転機1を用いて可撓性筒状体100を反転させるには、まず、接着剤を塗布して扁平状に折り畳んだ可撓性筒状体100を、本体部材2の後端から挿入して、第2仕切部材6と第1仕切部材5を順に貫通させて、本体部材2の前端から引き出す。そして、本体部材2の前端から引き出された可撓性筒状体100の先端を固定部3に固定する。
【0042】
次に、粘性流体注入口2bから第2空間12に粘性流体Fを注入すると共に、粘性流体注入口2cから第3空間13に粘性流体Fを注入する。第2空間12に粘性流体Fを所定の加圧状態で充填すると共に、第3空間13に所定の液面高さまで粘性流体Fを入れると、粘性流体Fの注入を停止する。そして、粘性流体注入口2bを補給タンク8に接続する。
【0043】
このとき、第1挿通路5aと可撓性筒状体100との間のラビリンス構造と、ブラシ52によって、第2空間12から第1空間11に粘性流体Fが漏出するのを抑制できる。また、第2挿通路6aと可撓性筒状体100とのラビリンス構造によって、第2空間12から第3空間13に粘性流体Fが漏出するのを抑制できる。
【0044】
次に、圧力流体注入口2aから第1空間11に圧力流体を注入する。可撓性筒状体100に作用する流体圧力によって、可撓性筒状体100は、折り返し部100aが膨らむと共に、内側が外側となるように裏返されながら、図1中左側に進行する。折り返し部100aが管路101内に導入されると、圧力流体の圧力により折り返し部100aが管路101の内面に圧接される。
【0045】
可撓性筒状体100の反転時、第2空間12と第3空間13との圧力差によって、第2空間12から第3空間13に粘性流体Fが少しずつ漏出する。また、可撓性筒状体100の移動に伴って、可撓性筒状体100に付着した粘性流体Fが第2空間12から第1空間11に出ていく。そのため、第2空間12の圧力を所定の圧力に維持できるように、補給タンク8から第2空間12に粘性流体Fを補給する。
【0046】
第1空間11に圧力流体が供給されている際、第1空間11の圧力流体は第2空間12に侵入しようとするが、第2空間12に粘性流体Fが加圧状態で充填されているため、圧力流体の侵入を阻止できる。そのため、第1空間11から圧力流体が漏出するのを防止できる。圧力流体の漏れを防止するためには、第2空間12の圧力を第1空間11の圧力と同じにすることが好ましい。
【0047】
第1空間11への圧力流体の供給を継続することで、可撓性筒状体100は全長にわたって反転されて、管路101に内張りされる。なお、可撓性筒状体100の後端が第1仕切部材5を通過すると、ブラシ52によって板状部材51の挿通口51aが塞がれるため、第2空間12の粘性流体Fが第1空間11に漏れ出るのを抑制できる。
【0048】
本実施形態の反転機1によると、以下の効果を得ることができる。
第1仕切部材5を介して第1空間11に隣接配置された第2空間12に、粘性流体Fを加圧状態で充填しているため、第1空間11の圧力流体が第2空間12に侵入しにくい。そのため、第1空間11から圧力流体が漏出するのを抑制できる。したがって、圧力流体の漏出によって発生する騒音も抑制できる。
また、仕切部材5、6の挿通路5a、6aと可撓性筒状体100との隙間を、粘性流体Fによってシールするため、たとえ挿通路5a、6aに挿通された可撓性筒状体100の表面に凹凸が生じていても、挿通路5a、6aと可撓性筒状体100との隙間を確実にシールすることができる。
【0049】
また、圧力流体の漏れを防止するために機械的にシールする場合に比べて、シール部において可撓性筒状体が破損するリスクを無くすことができる。
また、機械的にシールする反転機や水頭圧を利用した反転機に比べて、反転機の構成を簡易化できると共にコンパクト化できる。
【0050】
また、本実施形態の粘性流体Fは、20℃における粘度が10000〜30000Pa・sであって、粘度が高いため、高圧で充填しても第2空間12から粘性流体Fが漏れ出にくい。また、第1空間11から第2空間12に圧力流体が侵入しにくくなり、圧力流体の漏出量を低減できる。
なお、粘性流体Fの粘度が高いほど、第2空間12からの粘性流体Fの漏れと、第1空間11からの圧力流体の漏れを低減できる。
【0051】
また、本実施形態では、粘性流体Fは、粘土鉱物と水とを混合した液体である。粘土鉱物は人体等に安全であって自然界に存在するため、粘性流体Fは防腐剤を使用しなくても腐敗しにくく長期間使用できると共に、廃棄処理がしやすい。
【0052】
また、本実施形態では、粘土鉱物としてベントナイトを用いているため、粘性流体Fの粘度を高くできる。また、ベントナイトを含む液体は、チクソトロピー性を有するため、本体部材2内に注入しやすい。
【0053】
また、仕切部材5、6に設けられた挿通路5a、6aの大きさは、可撓性筒状体100の長さ方向にわたって増減している。これにより、挿通路5a、6aと可撓性筒状体100との隙間を粘性流体Fが通過する際の抵抗が大きくなるため、第2空間12からの粘性流体Fの漏出を抑制できる。
また、仕切部材5、6の挿通路5a、6aの形状を変化させるという簡易な構成によって、粘性流体Fの漏れを防止しており、複雑なシール構造が不要であるため、反転機1を簡易化できる。
【0054】
また、本実施形態では、仕切部材5、6は、間隔を空けて配置された複数の板状部材51、61で構成されるため、板状部材51、61の配置間隔を変えるだけで、挿通路5a、6aの内寸の大きい部分の長さを変更することができる。したがって、挿通路5a、6aの形状を変更しやすい。
板状部材51、61の配置間隔が小さいほど、挿通路5a、6aを通過する圧力流体または粘性流体Fの漏れ量を低減できる。
【0055】
また、本実施形態では、第1仕切部材5は、可撓性筒状体100が挿通されていない状態において挿通口51aを塞ぐブラシ52を有する。そのため、可撓性筒状体100の後端が第1仕切部材5を通過しても、ブラシ52によって第2空間12の粘性流体Fが第1空間11に漏出するのを防止できる。
【0056】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0057】
例えば、上記実施形態の本体部材2は、L字状の管であるが、本体部材2の形状はこれに限定されない。例えば、直線形状であってもよい。この場合、ローラ4は設けなくてよい。また、上記実施形態の本体部材2は、径がほぼ一定であるが、径が筒軸方向にわたって変化する形状であってもよい。
【0058】
上記実施形態では、固定部3は、可撓性筒状体100の一端を筒軸方向に挟持する構造(図1参照)であるが、固定部3は可撓性筒状体100の一端を環状に固定できるものであれば、この構造に限定されない。
【0059】
上記実施形態では、本体部材2の内径は、可撓性筒状体100の径(管路101の内径)とほぼ同じであるが、可撓性筒状体100の径より大きくても小さくてもよい。
【0060】
上記実施形態では、可撓性筒状体100は、二つ折りに折り畳まれた状態で本体部材2に挿通されるが、折り畳み方は二つ折り以外であってもよい。また、可撓性筒状体100は、ほぼ扁平状となっていれば、折り畳まれていなくてもよい。
【0061】
上記実施形態では、第1仕切部材5を構成する3枚の板状部材51の板厚、挿通孔51aの形状および大きさは互いに同じであるが、異なっていてもよい。また、3枚の板状部材51は等間隔に配置されているが、等間隔でなくてもよい。第2仕切部材6を構成する3枚の板状部材61についても同様である。
【0062】
上記実施形態では、第1仕切部材5を構成する板状部材51の数は3枚であるが、4枚以上であってもよい。また、粘性流体Fの粘度が高い場合には、板状部材51の数は2枚または1枚であってもよい。第2仕切部材6についても同様である。
【0063】
上記実施形態では、可撓性筒状体100の後端が第1仕切部材5を通過した後、粘性流体Fが第1空間11に漏れるのを抑制するために、第1仕切部材5にブラシ52を設けたが、ブラシ52を設ける代わりに、挿通孔51aの大きさを扁平状の可撓性筒状体よりも小さくして、第1仕切部材5の少なくとも挿通孔51aの周囲を可撓性を有するプラスチック材料で形成してもよい。また、第1仕切部材5は、第2仕切部材6と同じ構成であってもよい。
【0064】
第1仕切部材5および第2仕切部材6は、第2空間12から粘性流体Fが漏出するのを防止できる構造であれば、上記実施形態以外の構成であってもよい。例えば図5に示すように、仕切部材206が、挿通孔206aを有する1枚の板状部材で構成されており、この挿通孔206aの大きさ(長辺長さおよび短辺長さ)が、本体部材2の筒軸方向にわたって増減していてもよい。
【0065】
上記実施形態では、可撓性筒状体100を反転させる際、粘性流体注入口2bに補給タンク8を接続して、第2空間12に粘性流体Fを補給しているが、第2空間12の設定圧力や仕切部材6の構造によっては、第3空間13から第2空間12に粘性流体Fが漏出する場合があるため、この場合には、粘性流体注入口2cに補給タンク8を接続して、第3空間13に粘性流体Fを補給してもよい。
【0066】
第3空間13には、粘性流体Fを入れなくてもよい。
【0067】
上記実施形態では、粘性流体Fは、粘土鉱物と水との混合液であるが、これに限定されるものではない。例えば、コーンスターチと水の混合液であってもよい。コーンスターチ液は、天然材料で、下水道内に捨てることなどもできるが、腐敗するという性質があり、保存期間が数日程度と短いので、粘土鉱物の方が扱いやすい。
【符号の説明】
【0068】
1 可撓性筒状体の反転機
2 本体部材
3 固定部
2a 圧力流体注入口
2b、2c 粘性流体注入口
5 第1仕切部材
5a 第1挿通路
6 第2仕切部材
6a 第2挿通路
11 第1空間
12 第2空間
13 第3空間
51 板状部材(部材)
51a 挿通孔
52 ブラシ
61 板状部材(部材)
61a 挿通孔
100 可撓性筒状体
100a 折り返し部
101 管路
F 粘性流体
図1
図2
図3
図4
図5