(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記調整手段は、上記駆動力算出手段で算出される駆動力が大きくなるほど上記駆動力制御の割合を高くし、上記制動力制御の割合を低くすることを特徴とする請求項1記載の車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両を示し、車両前部に配置されたエンジン2による駆動力は、このエンジン2後方の自動変速装置(トルクコンバータ等も含んで図示)3からトランスミッション出力軸3aを経てセンターディファレンシャル装置4に伝達される。
【0010】
このセンターディファレンシャル装置4から、リヤドライブ軸5、プロペラシャフト6、ドライブピニオン7を介して後輪終減速装置8に入力される一方、センターディファレンシャル装置4から、フロントドライブ軸9を介して前輪終減速装置10に入力される。ここで、自動変速装置3、センターディファレンシャル装置4および前輪終減速装置10等は、一体にケース11内に設けられている。
【0011】
後輪終減速装置8に入力された駆動力は、容量可変型の左後輪油圧クラッチ12Lを介して後輪左ドライブ軸13rlを経て左後輪14rlに伝達され、また、容量可変型の右後輪油圧クラッチ12Rを介して後輪右ドライブ軸13rrを経て右後輪14rrに伝達される。ここで、左後輪油圧クラッチ12Lと右後輪油圧クラッチ12Rは、油圧回路で構成したクラッチ駆動部31により駆動され、このクラッチ駆動部31に対する制御信号(旋回外輪クラッチ締結力Pd)は制御部30から入力される。
【0012】
一方、前輪終減速装置10に入力された駆動力は、前輪左ドライブ軸13flを経て左前輪14flに、前輪右ドライブ軸13frを経て右前輪14frに伝達される。
【0013】
符号32は車両のブレーキ駆動部を示し、このブレーキ駆動部32には、ドライバにより操作されるブレーキペダル16と接続されたマスターシリンダ17が接続されており、ドライバがブレーキペダル16を操作する(踏み込む)とマスターシリンダ17により、ブレーキ駆動部32を通じて、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各ホイールシリンダ(左前輪ホイールシリンダ18fl,右前輪ホイールシリンダ18fr,左後輪ホイールシリンダ18rl,右後輪ホイールシリンダ18rr)にブレーキ圧が導入され、これにより4輪にブレーキがかかって制動される。
【0014】
ブレーキ駆動部32は、加圧源、減圧弁、増圧弁等を備えたハイドロリックユニットで、制御部30等からの入力信号に応じて、各ホイールシリンダ18fl,18fr,18rl,18rrに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在に形成されている。
【0015】
ところで、本実施形態においては、車両1のアクセル操作に対してエンジン2に発生させる駆動力特性として3つのモード(モード1、モード2、モード3)が、ドライバにより操作されるモード選択スイッチ21により、選択自在に設定されている。具体的には、エンジン2を制御するエンジン制御装置(図示せず)には、
図4に示すように、エンジン出力特性を示すマップとして、3種類のモードマップMpe1,Mpe2,Mpe3が予め設定され、格納されている。
【0016】
図4(a)〜(c)に示すように、各モードマップは、アクセル開度αaとエンジン回転数ωEGとを格子軸とし、各格子点にエンジン出力指示値(目標トルク)を格納する3次元マップで構成されている。
【0017】
これらの各モードマップMpe1,Mpe2,Mpe3は、基本的には、ドライバによるモード選択スイッチ21の操作によって選択される。すなわち、エンジン制御装置は、モード選択スイッチ21にてモード1が選択されている場合にモードマップMpe1を選択し、モード2が選択されている場合にモードマップMpe2を選択し、モード3が選択されている場合にモードマップMpe3を選択する。
【0018】
そして、エンジン制御装置は、選択したモードマップMpeと各センサ類からの検出信号等に基づき、図示しないインジェクタに対する燃料噴射タイミング、及び燃料噴射パルス幅(パルス時間)を設定する。更に、エンジン制御装置は、スロットルアクチュエータ(図示せず)に対してスロットル開度信号を出力し、図示しないスロットル弁の開度を制御する。
【0019】
ここで、
図4(a)に示すモードマップMpe1は、アクセル開度αaが比較的小さい領域で目標トルクがリニアに変化する特性に設定されており、スロットル弁の開度αthが全開付近で最大目標トルクとなるように設定されている。
【0020】
また、
図4(b)に示すモードマップMpe2は、快適性、経済性を最も重視した特性となっており、モードマップMpe1に比し、目標トルクの上昇が抑えられており、アクセルペダルを全踏しても、スロットル弁は全開せず、相対的にアクセルペダルの踏み込みに対し、スロットル弁の開度変化がモード1よりも小さくなる。従って、モード1と同じアクセルペダルの踏み込み量であっても、スロットル開度αthが小さく、出力トルクの上昇が抑制される。その結果、モードマップMpe2に基づき出力トルクを抑制した走行を行うことで、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができ、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であっても、2リッタエンジン相当の十分な出力を確保しながらスムーズな出力特性とし、特に街中等の実用領域における扱いやすさを重視した目標トルクが設定される。
【0021】
また、
図4(c)に示すモードマップMpe3は、スポーツ性、走行性を最も重視するモードとなっており、略全運転領域でアクセル開度αaの変化に対する目標トルクの変化率が大きく設定されている。従って、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であれば、3リッタエンジンの有するポテンシャルを最大限に発揮できるような目標トルクが設定される。
【0022】
また、車両1には、前方障害物情報を検出する前方障害物情報認識手段としての前方認識装置22が搭載されている。前方認識装置22は、車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報を出力する電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラ(ステレオカメラ:図示せず)から画像情報が入力されるとともに自車速V等が入力される。そして、これらの情報に基づき、前方認識装置22は、ステレオカメラからの画像情報に基づいて自車両前方の立体物データや白線データ等の前方情報を認識する。
【0023】
ここで、前方認識装置22は、ステレオカメラからの画像情報の処理を、例えば以下のように行う。先ず、ステレオカメラで自車進行方向を撮像した1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め設定しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較することにより、白線データ、道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁データ、車両等の立体物データ等を抽出する。更に、前方認識装置22は、白線データや側壁データ等に基づいて自車走行路を推定し、自車走行路上の自車両に最も近い位置に存在する立体物を障害物として抽出(検出)する。そして、障害物を検出した場合には、その障害物の情報として、自車両1と障害物との相対距離(自車両1から障害物までの距離)Lobj、障害物の移動速度Vf(=(相対距離Lobjの変化の割合)+自車速V))等を演算する。
【0024】
制御部30には、上述のエンジン2の駆動力特性を選択するモード選択スイッチ21からモード選択信号、及び、前方認識装置22から検出した障害物についての自車両1から障害物までの距離Lobjが入力される。また、制御部30には、4輪14fl,14fr,14rl,14rrの各車輪速センサ23から4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ハンドル角センサ24からハンドル角θH、横加速度センサ25から車体横加速度(d
2y/dt
2)、アクセル開度センサ26からアクセル開度αa、エンジン回転数センサ27からエンジン回転数ωEG、自動変速装置3の変速制御等を行うトランスミッション制御装置28からトランスミッションギヤ比GTM等の信号が入力される。
【0025】
そして、制御部30は、車両モデルに基づく目標横加速度(d
2y/dt
2)tを算出し、実際の車体横加速度(d
2y/dt
2)と比較して車両に付加する目標ヨーモーメントMztを算出し、車両1の駆動力Twhlを算出し、この駆動力Twhlをハンドル角θH、自車両1から障害物までの距離Lobj、左右輪間の差回転Δωで補正し、この補正した値に応じて、目標ヨーモーメントMztを発生させるために旋回外輪に付加する駆動力制御の割合Kdと旋回内輪に付加する制動力制御の割合Kbを可変設定し、クラッチ駆動部31、ブレーキ駆動部32に出力して、それぞれの制御を実行させるように構成されている。
【0026】
このため、制御部30は、
図2に示すように、目標横加速度算出部30a、横加速度偏差算出部30b、目標ヨーモーメント算出部30c、駆動力算出部30d、第1の係数設定部30e、第2の係数設定部30f、第3の係数設定部30g、重み付け係数設定部30h、旋回内輪制動力算出部30i、各輪ブレーキ液圧算出部30j、旋回外輪駆動力算出部30k、旋回外輪クラッチ締結力算出部30lから主要に構成されている。
【0027】
目標横加速度算出部30aは、4輪車輪速センサ23から4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが入力され、ハンドル角センサ24からハンドル角θHが入力される。そして、例えば、以下の(1)式により、目標横加速度(d
2y/dt
2)tを算出し、横加速度偏差算出部30bに出力する。
(d
2y/dt
2)t=(1/(1+A・V
2))・(V
2/l)・(θH/n)
…(1)
ここで、Aはスタビリティファクタ、Vは車速(例えば、4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrの平均)、lはホイールベース、nはステアリングギヤ比である。
【0028】
横加速度偏差算出部30bは、横加速度センサ25から車体横加速度(d
2y/dt
2)が入力され、目標横加速度算出部30aから目標横加速度(d
2y/dt
2)tが入力される。そして、以下の(2)式により、横加速度偏差Δ(d
2y/dt
2)を算出し、目標ヨーモーメント算出部30cに出力する。
Δ(d
2y/dt
2)=(d
2y/dt
2)−(d
2y/dt
2)t …(2)
【0029】
目標ヨーモーメント算出部30cは、ハンドル角センサ24からハンドル角θHが入力され、横加速度偏差算出部30bから横加速度偏差Δ(d
2y/dt
2)が入力される。そして、以下の(3)式、或いは、(4)式により、目標ヨーモーメントMztを算出し、旋回内輪制動力算出部30i、旋回外輪駆動力算出部30kに出力する。
・|Δ(d
2y/dt
2)|>e、且つ、横加速度偏差Δ(d
2y/dt
2)とハンドル角θHが異符号の場合(すなわち、車両1がアンダーステア傾向の場合):
Mzt=GMZ・Δ(d
2y/dt
2) …(3)
ここで、eは予め実験、計算等により設定した作動閾値、GMZは予め実験、計算等により設定したヨーモーメントゲインである。
【0030】
・上述の条件以外の場合:
Mzt=0 …(4)
すなわち、ドライバの操舵に対し、車両1が所定以上の旋回不足と見なされる場合に、車両1に対して旋回方向に対し、ヨーモーメントを目標ヨーモーメントMztとして付加するようになっている。このように、目標ヨーモーメント算出部30cは付加ヨーモーメント算出手段として設けられている。
【0031】
駆動力算出部30dは、モード選択スイッチ21からモード選択信号が入力され、アクセル開度センサ26からアクセル開度αaが入力され、エンジン回転数センサ27からエンジン回転数ωEGが入力され、トランスミッション制御装置28からトランスミッションギヤ比GTMが入力される。そして、予め設定しておいた
図5に示すような、各モード毎のアクセル開度αaに対するスロットル開度αthの特性を参照してスロットル開度αthを求め、該スロットル開度αthにおける吸入空気量mairとエンジン回転数ωEGとにより、前述のモードマップMpeで説明した目標トルクの特性のようなエンジン出力トルクTEGを求める。このエンジン出力トルクTEGに、トランスミッションギヤ比GTMを乗算することによりトランスミッション出力トルクを駆動力Twhlとして算出する。この算出された駆動力Twhlは、重み付け係数設定部30hに出力される。このように、駆動力算出部30dは駆動力算出手段として設けられている。
【0032】
第1の係数設定部30eは、ハンドル角センサ24からハンドル角θHが入力される。そして、予め設定しておいた、例えば、
図6に示すハンドル角の絶対値|θH|に応じた第1の係数KθHのマップを参照し、第1の係数KθHを設定して、重み付け係数設定部30hに出力する。ここで、後述するように、第1の係数KθHは、駆動力Twhlに乗算することにより駆動力Twhlを補正する係数となっており、ハンドル角の絶対値|θH|が大きいほど第1の係数KθHが小さく設定され(
図6参照)、駆動力Twhlの値が小さくなるように補正される。詳しくは後述するが、本発明の実施の形態では、駆動力Twhlの値が大きくなるほど駆動力制御の割合が高くなり、制動力制御の割合が低くなるようになっている。従って、ハンドル角の絶対値|θH|が大きいほど駆動力制御の割合が低くなり、制動力制御の割合が高くなるように補正されることになる。すなわち、ハンドル角の絶対値|θH|が大きくなるような状況は、急カーブを走行する場合や危険回避走行の場合が考えられるため、このような場合では、減速してもドライバのハンドリングを重視して走行できるようにするためである。
【0033】
第2の係数設定部30fは、前方認識装置22から自車両1から障害物までの距離Lobjが入力される。そして、予め設定しておいた、例えば、
図7に示す自車両1から障害物までの距離Lobjに応じた第2の係数Kobjのマップを参照し、第2の係数Kobjを設定して、重み付け係数設定部30hに出力する。後述するように、この第2の係数Kobjも駆動力Twhlに乗算することにより駆動力Twhlを補正する係数となっており、自車両1から障害物までの距離Lobjが長くなるほど第2の係数Kobjが大きく設定され(
図7参照)、駆動力Twhlの値が大きくなるように補正される。本発明の実施の形態では、駆動力Twhlの値が大きくなるほど駆動力制御の割合が高くなり、制動力制御の割合が低くなるようになっている。従って、自車両1から障害物までの距離Lobjが長いほど駆動力制御の割合が高くなり、制動力制御の割合が低くなるように補正されることになる。すなわち、自車両1から障害物までの距離Lobjが近い場合には、危険回避の観点から制動力制御による減速制御の方が好ましいことを考慮した設定となっている。
【0034】
第3の係数設定部30gは、4輪車輪速センサ23から4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが入力され、ハンドル角センサ24からハンドル角θHが入力される。そして、以下の(5)式により、左右輪間の差回転Δωを算出し、予め設定しておいた、例えば、
図8に示す左右輪間の差回転の絶対値|Δω|に応じた第3の係数KΔωのマップを参照し、第3の係数KΔωを設定して、重み付け係数設定部30hに出力する。
Δω=ωo−ωi …(5)
ここで、ωoは旋回外側後輪の車輪速で、ωiは旋回内側後輪の車輪速であり、旋回方向は、ハンドル角θHの方向により判断する。後述するように、この第3の係数KΔωも駆動力Twhlに乗算することにより駆動力Twhlを補正する係数となっており、
図8の特性図をみてもわかるように、左右輪間の差回転の絶対値|Δω|が小さい領域では、左右輪間の差回転の絶対値|Δω|が小さいほど、第3の係数KΔωが大きくなるように設定され、駆動力Twhlの値が大きくなるように補正される。本発明の実施の形態では、駆動力Twhlの値が大きくなるほど駆動力制御の割合が高くなり、制動力制御の割合が低くなるようになっている。従って、左右輪間の差回転の絶対値|Δω|が小さい領域では、左右輪間の差回転の絶対値|Δω|が小さいほど、駆動力制御の割合が高くなり、制動力制御の割合が低くなるように補正されることになる。すなわち、左右輪間の差回転の絶対値|Δω|が小さいときに、制動力制御で車両1の左右輪の一方の車輪に制動力を付加してヨーモーメントを発生させようとしても、左右輪の他方の車輪に制動力が回り込み目標とするヨーモーメントを発生させることが難しく、制動力制御によりヨーモーメント制御をすることが困難である。従って、このような左右輪間の差回転の絶対値|Δω|が小さい領域では、制動力制御の割合を減じるようになっている。
【0035】
重み付け係数設定部30hは、駆動力算出部30dから駆動力Twhlが入力され、第1の係数設定部30eから第1の係数KθHが入力され、第2の係数設定部30fから第2の係数Kobjが入力され、第3の係数設定部30gから第3の係数KΔωが入力される。そして、予め設定しておいた、例えば、
図9に示すマップを参照して、Twhl・KθH・Kobj・KθHに応じ、内輪制動制御の重み付け係数Kbと外輪駆動制御の重み付け係数Kdを設定し、旋回内輪制動力算出部30i、旋回外輪駆動力算出部30kに出力する。
【0036】
すなわち、危険回避等でアクセルを戻して操舵した場合は、駆動力配分制御による旋回性能の向上だけでなく、ブレーキ制御による減速効果が事故回避の観点から有効である。一方、積極的にアクセルが踏まれている状況ではブレーキ制御による走行抵抗の増加は望ましくない。また、旋回内輪に対する制動力制御と旋回外輪に対する駆動力制御とを併用した場合、制動力を付加する車輪と駆動力を付加する車輪との間のトルク伝達が完全に遮断されていない限り、ブレーキトルクが外輪へも回り込んで、ヨーモーメントを付加しようとする機能を阻害すると共に、ブレーキの負担も増加してしまう。従って、これら内輪制動制御の重み付け係数Kbと外輪駆動制御の重み付け係数Kdは、
図9の重み付け係数の特性説明図に示すように、Twhl・KθH・Kobj・KθHが大きくなるほど駆動力制御の割合(外輪駆動制御の重み付け係数Kd)が高くなり、制動力制御の割合(内輪制動制御の重み付け係数Kb)が低くなる特性となっている。
【0037】
更に、第1の係数KθH、第2の係数Kobj、第3の係数KΔωが所定の一定の値として、アクセル開度αaに応じた内輪制動制御の重み付け係数Kbと外輪駆動制御の重み付け係数Kdは、
図10に示すように、モード2→モード1→モード3となるほど、重み付け係数Kb、Kdの傾きの大きさは急となり、ドライバがスポーツ性、走行性を求めるほど、外輪駆動制御の重み付け係数Kdの上昇の変化割合が高くなり、内輪制動制御の重み付け係数Kbの低下の変化割合が高くなって、ドライバの求める走行性能を実現できるようになっている。逆に、モード3→モード1→モード2となるほど、重み付け係数Kb、Kdの傾きの大きさは緩くなり、内輪制動制御の割合が長く作用し、外輪駆動制御の割合が低く抑えられて、ドライバの求める快適性、経済性が達成できるようになっている。このように、重み付け係数設定部30hは調整手段として設けられている。
【0038】
旋回内輪制動力算出部30iは、目標ヨーモーメント算出部30cから目標ヨーモーメントMztが入力され、重み付け係数設定部30hから内輪制動制御の重み付け係数Kbが入力される。そして、例えば、以下の(6)式により、旋回内輪制動力(旋回内側前輪と旋回内側後輪の制動力の和)Fbを算出し、各輪ブレーキ液圧算出部30jに出力する。
Fb=2・|Mzt・Kb|/w …(6)
ここで、wはトレッドである。
【0039】
各輪ブレーキ液圧算出部30jは、旋回内輪制動力算出部30iから旋回内輪制動力Fbが入力される。そして、以下の(7)式により、旋回内側前輪のブレーキ液圧PBfiと旋回内側後輪のブレーキ液圧PBriを算出し、ブレーキ駆動部32に出力する。
PBfi=PBri=Fb・CB …(7)
ここで、CBはブレーキ諸元で決まる定数である。このように旋回内輪制動力算出部30i、各輪ブレーキ液圧算出部30jは、制動制御手段として設けられている。
【0040】
旋回外輪駆動力算出部30kは、目標ヨーモーメント算出部30cから目標ヨーモーメントMztが入力され、重み付け係数設定部30hから外輪駆動制御の重み付け係数Kdが入力される。そして、例えば、以下の(8)式により、旋回外輪駆動力Fdを算出し、旋回外輪クラッチ締結力算出部30lに出力する。
Fd=2・|Mzt・Kd|/w …(8)
【0041】
旋回外輪クラッチ締結力算出部30lは、旋回外輪駆動力算出部30kから旋回外輪駆動力Fdが入力される。そして、以下の(9)式により、旋回外輪クラッチ締結力Pdを算出し、クラッチ駆動部31に出力する。
Pd=Fd・CD …(9)
ここで、CDはクラッチ諸元で決まる定数である。このように、旋回外輪駆動力算出部30k、旋回外輪クラッチ締結力算出部30lは、左右駆動力配分制御手段として設けられている。
【0042】
次に、上述の制御部30で実行される車両制御を、
図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要なパラメータ、すなわち、エンジン2の駆動力特性のモード選択信号、自車両1から障害物までの距離Lobj、4輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ハンドル角θH、車体横加速度(d
2y/dt
2)、アクセル開度αa、エンジン回転数ωEG、トランスミッションギヤ比GTM等の信号を読み込む。
【0043】
次に、S102に進み、目標横加速度算出部30aで、上述の(1)式により、目標横加速度(d
2y/dt
2)tを算出する。
【0044】
次いで、S103に進んで、横加速度偏差算出部30bで、上述の(2)式により、横加速度偏差Δ(d
2y/dt
2)を算出する。
【0045】
次に、S104に進み、目標ヨーモーメント算出部30cで、上述の(3)式、或いは、(4)式により、目標ヨーモーメントMztを算出する。
【0046】
次いで、S105に進んで、駆動力算出部30dで、駆動力Twhlを算出する。
【0047】
次に、S106に進み、第1の係数設定部30eで、第1の係数KθHを設定する。
【0048】
次いで、S107に進み、第2の係数設定部30fで、第2の係数Kobjを設定する。
【0049】
次に、S108に進んで、第3の係数設定部30gで、第3の係数KΔωを設定する。
【0050】
次に、S109に進み、重み付け係数設定部30hで、Twhl・KθH・Kobj・KθHに応じて内輪制動制御の重み付け係数Kbを設定する。
【0051】
次いで、S110に進み、重み付け係数設定部30hで、Twhl・KθH・Kobj・KθHに応じて外輪駆動制御の重み付け係数Kdを設定する。
【0052】
次に、S111に進んで、旋回内輪制動力算出部30iで、上述の(6)式により、旋回内輪制動力(旋回内側前輪と旋回内側後輪の制動力の和)Fbを算出する。
【0053】
次いで、S112に進み、各輪ブレーキ液圧算出部30jで、上述の(7)式により、旋回内側前輪のブレーキ液圧PBfiと旋回内側後輪のブレーキ液圧PBriを算出し、ブレーキ駆動部32に出力する。
【0054】
次に、S113に進み、旋回外輪駆動力算出部30kで、上述の(8)式により、旋回外輪駆動力Fdを算出する。
【0055】
次いで、S114に進み、旋回外輪クラッチ締結力算出部30lで、上述の(9)式により、旋回外輪クラッチ締結力Pdを算出し、クラッチ駆動部31に出力する。
【0056】
このような制御により、例えば、ドライバが危険回避等でアクセルを戻し、駆動力が0となって操舵した場合は、
図11(a)に示すように、ブレーキ制御によるブレーキ力Fb1で旋回性能の向上が得られると共に、減速効果も得ることが可能となって危険回避を有効に実現することができる。また、
図11(b)に示すように、ドライバが積極的にアクセルを踏み込んだ状況では、駆動力制御による駆動力Fd1のように、旋回外側後輪のクラッチ12Rを締結して駆動力を外輪に積極的に付加することにより旋回性能の向上を図り、ブレーキ制御による走行抵抗の増加、不要なブレーキトルクの発生を抑え、ブレーキへの負担が軽減できるようになっている。
【0057】
このように本発明の実施の形態によれば、車両に付加する目標ヨーモーメントMztと車両1の駆動力Twhlを算出し、この駆動力Twhlをハンドル角θH、自車両1から障害物までの距離Lobj、左右輪間の差回転Δωで補正し、この補正した値に応じて、目標ヨーモーメントMztを発生させるために旋回外輪に付加する駆動力制御の割合Kdと旋回内輪に付加する制動力制御の割合Kbを可変設定(この補正した値が大きくなるほど駆動力制御の割合が高くなり、制動力制御の割合が低くなる特性に設定)し、クラッチ駆動部31、ブレーキ駆動部32に出力して、それぞれの制御を実行させるようになっている。このため、ドライバの運転状態に応じて、加速時、走行抵抗が生じることなく、また、アクセルを戻して危険回避する際等でも、目標とするヨーモーメントを効率良く確実に付加することが可能となる。
【0058】
尚、本実施の形態では、駆動力Twhlを、ハンドル角θH、自車両1から障害物までの距離Lobj、左右輪間の差回転Δωの3つで補正するように構成した例を説明したが、これら3つの補正のうち、何れか1つの補正のみ、或いは、何れか2つの補正のみ行うようにしても良い。