特許第5965181号(P5965181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965181
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】グロープラグ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F23Q 7/00 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   F23Q7/00 605J
   F23Q7/00 605M
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-75296(P2012-75296)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204946(P2013-204946A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】八田 友成
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀衛
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭64−31361(JP,U)
【文献】 特開2002−174423(JP,A)
【文献】 特開2010−249354(JP,A)
【文献】 特開2001−182937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23Q 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有し、外周面に内燃機関の取付孔に螺合するためのねじ部を具備する筒状のハウジングと、
少なくとも自身の先端部が前記ハウジングの先端から突出した状態で、前記軸孔に挿設されるヒーター部材とを備えるグロープラグであって、
前記ハウジングは、
前記ねじ部の先端から先端側に延びる筒状の先端側胴部と、
前記先端側胴部の前記軸線方向先端側に隣接するとともに、自身の後端に設けられた屈曲部において、自身の少なくとも後端部が前記軸線方向と交差する方向に向けて延びるように曲げられたガスケット部とを有し、
前記ガスケット部は、前記内燃機関の取付孔に前記ねじ部を螺合した際に、前記内燃機関の座面に対して自身の外周側に位置する面が圧接する圧接部を有し、
前記先端側胴部のみに、内周において前記ヒーター部材を保持する保持部を具備することを特徴とするグロープラグ。
【請求項2】
前記ガスケット部のうち前記屈曲部よりも前記軸線方向先端側の部位には、1つ以上の補助屈曲部が設けられ、前記補助屈曲部において、前記ガスケット部が曲げられていることを特徴とする請求項1に記載のグロープラグ。
【請求項3】
次の(a)又は(b)のいずれかを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のグロープラグ。
(a)前記ねじ部のねじ径がM12であり、前記先端側胴部の肉厚が1.6mm以下であること
(b)前記ねじ部のねじ径がM10、M9、又は、M8であり、前記先端側胴部の肉厚が0.9mm以下であること
【請求項4】
前記ガスケット部の肉厚が、前記先端側胴部の肉厚よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のグロープラグ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のグロープラグの製造方法であって、
前記ハウジングを形成するハウジング形成工程を含み、
前記ハウジング形成工程は、板状の金属材に対して深絞り加工を施すことにより、前記ハウジングとなるべき筒状のハウジング中間体を形成する工程を含むことを特徴とするグロープラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの予熱などに使用するグロープラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関における始動補助などに用いられるグロープラグは、筒状のハウジングや通電により発熱するヒーター部材等を備えている。また、前記ヒーター部材としては、導電性セラミックからなる発熱素子を有するセラミックヒータや、発熱コイルを有するシースヒータが採用される場合がある。
【0003】
加えて、ハウジングは、内燃機関に対する取付用のねじ部と、内燃機関の取付孔に前記ねじ部を螺合した際に、内燃機関に設けられた座面に対して圧接し、燃焼室内の気密性を確保するための圧接部とを備えている。一般に圧接部は、軸線方向先端側に向けて徐々に外径が小さくなるように形成されたハウジングの先端面により構成されている(例えば、特許文献1等参照)。また、グロープラグを内燃機関に取付けた状態においては、ハウジングのうち圧接部及びねじ部間に位置する部位(先端側胴部)に対して軸線方向に沿った圧縮力(軸力)が加わることとなる。そして、圧接部は、前記軸力に対応する接触圧力で座面に対して圧接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−89233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃費性能の向上や製造コストの削減を図るという点では、ハウジングを薄肉とし、ハウジングの軽量化を図ることが好ましい。しかしながら、ハウジングを薄肉とすると、座面に対する前記圧接部の接触面積が減少してしまう。また、ハウジングの破損防止を考慮すると、ハウジング(先端側胴部)に対して大きな軸力を与えることは難しく、座面に対する圧接部の接触圧力が小さくなってしまうおそれがある。その結果、燃焼室内における気密性の低下を招いたり、内燃機関の動作に伴う振動等により、内燃機関に対するグロープラグの緩みが生じやすくなったりするおそれがある。
【0006】
これに対して、圧接部の傾斜角度(軸線を含む断面において、圧接部の外形線と軸線とのなす角のうち鋭角の角度)を小さくすることで、圧接部の面積を十分に確保し、気密性の向上を図ることが考えられる。ところが、この場合には、座面に対する圧接部の接触圧力が一段と低下してしまい、気密性を向上させることができないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、薄肉のハウジングであっても、燃焼室内において良好な気密性を確保できるとともに、内燃機関に対するグロープラグの緩みをより確実に防止することができるグロープラグ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0009】
構成1.本構成のグロープラグは、軸線方向に延びる軸孔を有し、外周面に内燃機関の取付孔に螺合するためのねじ部を具備する筒状のハウジングと、
少なくとも自身の先端部が前記ハウジングの先端から突出した状態で、前記軸孔に挿設されるヒーター部材とを備えるグロープラグであって、
前記ハウジングは、
前記ねじ部の先端から先端側に延びる筒状の先端側胴部と、
前記先端側胴部の前記軸線方向先端側に隣接するとともに、自身の後端に設けられた屈曲部において、自身の少なくとも後端部が前記軸線方向と交差する方向に向けて延びるように曲げられたガスケット部とを有し、
前記ガスケット部は、前記内燃機関の取付孔に前記ねじ部を螺合した際に、前記内燃機関の座面に対して自身の外周側に位置する面が圧接する圧接部を有し、
前記先端側胴部のみに、内周において前記ヒーター部材を保持する保持部を具備することを特徴とする。

【0010】
上記構成1によれば、内燃機関の取付孔にねじ部を螺合した際には、ハウジングの先端面ではなく、圧接部の外周側に位置する面が、内燃機関の座面に対して圧接するように構成されている。従って、座面に対する圧接部の接触面積を十分に大きなものとすることができる。
【0011】
また、上記構成1によれば、ガスケット部は、自身の後端に設けられた屈曲部において、自身の少なくとも後端部が軸線(つまり、軸力の印加方向)と交差する方向に曲げられている。すなわち、内燃機関への取付に伴いハウジングに軸力が加わった場合には、屈曲部においてガスケット部が屈曲変形するように構成されており、ガスケット部は軸線方向に沿ったバネ性を有するものとされている。従って、内燃機関の動作に伴う振動等が加えられた場合であっても、座面に対して圧接部をより確実に接触させることができる。その結果、上述の通り、座面に対する圧接部の接触面積を大きくできることと相俟って、燃焼室内において良好な気密性を確保することができる。また、圧接部及び座面間で生じる摩擦力を増大させることができるため、内燃機関に対するグロープラグの緩みをより確実に防止することができる。
【0012】
構成2.本構成のグロープラグは、上記構成1において、前記ガスケット部のうち前記屈曲部よりも前記軸線方向先端側の部位には、1つ以上の補助屈曲部が設けられ、前記補助屈曲部において、前記ガスケット部が曲げられていることを特徴とする。
【0013】
上記構成2によれば、ガスケット部のバネ性をより高めることができ、座面に対して圧接部を一層確実に、かつ、より安定した状態で接触させることができる。その結果、気密性の更なる向上を図ることができるとともに、グロープラグの緩みを一層確実に防止することができる。
【0014】
構成3.本構成のグロープラグは、上記構成1又は2において、次の(a)又は(b)のいずれかを満たすことを特徴とする。
【0015】
(a)前記ねじ部のねじ径がM12であり、前記先端側胴部の肉厚が1.6mm以下であること
(b)前記ねじ部のねじ径がM10、M9、又は、M8であり、前記先端側胴部の肉厚が0.9mm以下であること
上記構成3によれば、先端側胴部を十分に薄肉とすることができ、ハウジングの軽量化を図ることができる。従って、燃費性能の向上や製造コストの削減を図ることができる。また、ハウジング(先端側胴部)側へと引かれるヒーター部材の熱を減少させることができるため、ヒーター部材における急速昇温性の向上や、ヒーター部材を所定温度に到達させるために必要な電力の低減を図ることができる。
【0016】
尚、上記構成3のように、先端側胴部が薄肉とされた場合には、圧接部の面積減少や軸力低下による、気密性の低下やグロープラグの緩みが特に懸念されるが、上記構成1等を採用することで、このような懸念を払拭することができる。換言すれば、上記構成1等は、上記構成3のように先端側胴部の肉厚が規定されたグロープラグにおいて、特に有意である。
【0017】
構成4.本構成のグロープラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記ガスケット部の肉厚が、前記先端側胴部の肉厚よりも小さいことを特徴とする。
【0018】
上記構成4によれば、内燃機関の取付孔にねじ部を螺合した際には、ガスケット部を先端側胴部よりも変形しやすくすることができる。従って、先端側胴部の変形に伴う軸力の低下を防止しつつ、座面に対して圧接部をより確実に、かつ、より安定的な状態で接触させることができる。その結果、燃焼室内における気密性を一層向上させることができるとともに、グロープラグの緩み防止効果をより高めることができる。
【0019】
構成5.本構成のグロープラグの製造方法は、上記構成1乃至4のいずれかに記載のグロープラグの製造方法であって、
前記ハウジングを形成するハウジング形成工程を含み、
前記ハウジング形成工程は、板状の金属材に対して深絞り加工を施すことにより、前記ハウジングとなるべき筒状のハウジング中間体を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
上記構成5によれば、深絞り加工より、ハウジングとなるべきハウジング中間体が製造されるように構成されている。従って、全体的に薄肉とされた軽量のハウジングをより容易に製造することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0021】
また、ハウジングを全体的に薄肉とできるため、ハウジングの一層の軽量化を図ることができる。その結果、燃費性能の向上や製造コストの削減等の作用効果をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】グロープラグの正面図である。
図2】グロープラグの一部破断正面図である。
図3】ガスケット部の構成を示す拡大断面図である。
図4】内燃機関に取付けられたグロープラグを示す拡大断面図である。
図5】(a)は、金属材の斜視図であり、(b)〜(d)は、深絞り加工による金属材の形状変化の遷移を示す正面図であり、(e)は、ハウジング中間体を示す正面図である。
図6】(a)は、工具係合部を形成する際に用いられるダイスやパンチを示す一部破断正面図であり、(b)は、ハウジング中間体が配置されたダイス等を示す一部破断正面図である。
図7】(a)は、工具係合部の形成工程の一過程を示す一部破断正面図であり、(b)は、工具係合部が形成されたハウジング中間体を示す正面図である。
図8】別の実施形態における、ガスケット部の構成を示す拡大端面図である。
図9】別の実施形態における、ガスケット部の構成を示す拡大端面図である。
図10】別の実施形態における、ガスケット部の構成を示す拡大端面図である。
図11】別の実施形態における、ガスケット部の構成を示す拡大端面図である。
図12】別の実施形態における、グロープラグの構成を示す一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、グロープラグ1の正面図であり、図2は、グロープラグ1の一部破断正面図である。尚、図1等では、グロープラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をグロープラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0024】
図1及び図2に示すように、グロープラグ1は、筒状のハウジング2と、ハウジング2に装着されたヒーター部材3とを備えている。
【0025】
ハウジング2は、所定の金属(例えば、炭素鋼やステンレス鋼など)により形成されており、軸線CL1方向に貫通する軸孔4を有している。また、ハウジング2の外周面には、ディーゼルエンジン等の内燃機関の取付孔へと螺合するためのねじ部5と、内燃機関への取付時にトルクレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部6とが形成されている。尚、本実施形態において、ねじ部5のねじ径はM12とされている。また、工具係合部6の内周は、工具係合部6の外周形状に倣う断面六角形状とされている。
【0026】
さらに、ハウジング2は、後述する先端側胴部9の軸線CL1方向先端側に隣接するとともに、前記取付孔にねじ部5を螺合した際に、前記内燃機関の座面(図示せず)に対して圧接するガスケット部7を備えている。当該ガスケット部7が前記座面に圧接することで、燃焼室における気密性の確保が図られている。尚、ガスケット部7の構成については、後に詳述する。
【0027】
加えて、ハウジング2は、ねじ部5及び工具係合部6間に位置する後端側胴部8と、ねじ部5の先端から先端側に向けて延び、ガスケット部7及びねじ部5間に位置する先端側胴部9とを備えている。後端側胴部8は、円筒状をなし、軸線CL1方向に沿って一定の外径を有するように構成されている。一方で、先端側胴部9は、その外周面及び内周面が湾曲状をなしており、軸孔4で最小の内径を有し、内周において前記ヒーター部材3を保持する保持部20を具備している。尚、本実施形態において、保持部20は、先端側胴部9における最小の外径を有するように構成されている。
【0028】
また、本実施形態において、ハウジング2は全体的に薄肉で、かつ、ほぼ均一の肉厚を有するように構成されており、先端側胴部9の肉厚は1.6mm以下とされている。尚、ねじ部5のねじ径がM8、M9、又は、M10である場合、先端側胴部9の肉厚は0.9mm以下とされる。但し、先端側胴部9の強度を十分に確保すべく、先端側胴部9の肉厚を所定値(例えば、0.3mm)以上とすることが好ましい。
【0029】
ヒーター部材3は、チューブ10と、当該チューブ10の内部に配置される発熱コイル12及び制御コイル13とを備えており、所定の金属(例えば、鉄系合金など)からなる中軸11と直列的に接続されている。また、ヒーター部材3は、自身の先端部がハウジング2の先端から突出した状態で前記保持部20に圧入されることにより、ハウジング2に対して固定されている。
【0030】
チューブ10は、鉄(Fe)又はニッケル(Ni)を主成分とする金属〔例えば、ニッケル基合金やステンレス合金等〕から形成され、先端部が閉じた筒状チューブである。また、当該チューブ10の内側には、自身の先端部がチューブ10の先端に接合された発熱コイル12と、当該発熱コイル12の後端部に対して直列接続された制御コイル13とが酸化マグネシウム粉末を含む絶縁粉末14とともに封入されている。尚、発熱コイル12は、その先端においてチューブ10と導通しているが、発熱コイル12及び制御コイル13の外周面とチューブ10の内周面とは、絶縁粉末14の介在により絶縁された状態となっている。
【0031】
さらに、前記チューブ10の後端側内周と中軸11との間には、所定のゴム(例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等)からなる環状ゴム15が設けられており、チューブ10内は封止されている。
【0032】
前記発熱コイル12は、所定の金属(例えば、Feを主成分とし、AlやCr等を含む合金など)からなる抵抗発熱線が螺旋状に巻回されることで構成されている。発熱コイル12は、中軸11を介して通電されることで発熱する。
【0033】
また、制御コイル13は、発熱コイル12の材質よりも電気比抵抗の温度係数が大きい材質、例えばコバルト(Co)−Ni−Fe系合金等に代表されるCo又はNiを主成分とする抵抗発熱線により構成されている。これにより、制御コイル13は、自身の発熱及び発熱コイル12からの発熱を受けることにより電気抵抗値を増大させ、発熱コイル12に対する供給電力を制御する。具体的には、通電初期においては発熱コイル12に対して比較的大きな電力が供給され、発熱コイル12の温度は急速に上昇する。すると、その発熱により制御コイル13が加熱され、制御コイル13の電気抵抗値が増大し、発熱コイル12への供給電力が減少する。これにより、ヒーター部材3の昇温特性は、通電初期に急速昇温した後、以降は制御コイル13の働きにより供給電力が抑制されて温度が飽和する形となる。つまり、制御コイル13の存在により、急速昇温性を高めつつ、発熱コイル12の過昇温(オーバーシュート)が生じにくくなるように構成されている。
【0034】
中軸11は、中実の棒状をなし、自身の先端部がチューブ10内に挿入されている。そして、中軸11の最先端部が、前記制御コイル13の後端部に挿通された状態で、中軸11及び制御コイル13が抵抗溶接されることにより、中軸11及び制御コイル13が接続されている。
【0035】
さらに、中軸11の後端部には、有底筒状をなすケーブル接続用の端子ピン17が加締め固定されている。また、端子ピン17の先端部とハウジング2の後端部との間には、両者間における直接的な通電(短絡)を防止すべく、絶縁性素材からなる絶縁ブッシュ18が設けられている。加えて、軸孔4内の気密性の向上等を図るべく、ハウジング2及び中軸11の間には、絶縁ブッシュ18の先端部に接触するようにして絶縁性素材からなる環状のシール部材19が設けられている。
【0036】
ところで、本実施形態では、上述の通り、先端側胴部9の肉厚が1.6mm以下又は0.9mm以下とされているため、従来技術のように、ハウジング2(先端側胴部9)の先端面を内燃機関の座面に圧接させる構成とした場合には、ハウジング2の先端部と座面との接触面積が非常に小さなものとなる。従って、燃焼室内の気密性を十分に確保することができないおそれがある。
【0037】
この点を考慮して、本実施形態では、燃焼室内において良好な気密性を確保すべく、ガスケット部7が、次のように構成されている。すなわち、ガスケット部7は、図3に示すように、自身の後端に設けられた屈曲部7Aにおいて、自身の少なくとも後端部7Dが軸線CL1方向と交差する方向に向けて延びる(本実施形態では、軸線CL1方向先端側に向けて外周側に延びる)ように曲げられている。そして、ガスケット部7は、その先端部に、内燃機関の取付孔にねじ部5を螺合した際に、前記内燃機関の座面に対して自身の外周側に位置する面が圧接する圧接部7Bを有している。
【0038】
さらに、本実施形態において、ガスケット部7のうち屈曲部7Aよりも軸線CL1方向先端側の部位には補助屈曲部7Cが設けられており、当該補助屈曲部7Cにおいて、ガスケット部7が曲げられている。すなわち、本実施形態のガスケット部7は、複数箇所において曲げられた構成とされている。
【0039】
上述のようにガスケット部7が構成されることで、ハウジング2に対して軸線CL1方向に沿った軸力が加わった際には、屈曲部7A及び補助屈曲部7Cにおいてガスケット部7に曲がり変形が生じるようになっており、ガスケット部7は軸線CL1方向に沿ったバネ性を有するものとされている。そのため、図4に示すように、内燃機関ENの取付孔HOに対してねじ部5を螺合し、圧接部7Bを内燃機関ENの座面TSに圧接させた際には、屈曲部7A及び補助屈曲部7Cにおいてガスケット部7に曲がり変形が生じ、圧接部7Bのうち座面TSに圧接する部位には、軸線CL1方向先端側(座面TS側)に向けた反力が加わるようになっている。
【0040】
加えて、本実施形態では、ガスケット部7の肉厚が、先端側胴部9の肉厚よりも小さくなるように構成されている。
【0041】
次に上記のように構成されてなるグロープラグ1の製造方法について説明する。尚、特に明記しない部位については、従来公知の方法が採用される。
【0042】
まず、Feを主成分とし、CrやAlを含有する抵抗発熱線をコイル形状に加工し、発熱コイル12を得る。また、アーク溶接等によって、発熱コイル12の後端部分と、Co−Ni−Fe系合金等の抵抗発熱線をコイル形状に加工した制御コイル13の先端部分とを接合する。
【0043】
次に、最終寸法より加工代分だけ大径に形成され、かつ、先端の閉じていない筒状のチューブ10内に、中軸11の先端と、当該中軸11と一体となった発熱コイル12及び制御コイル13とが配置される。そして、アーク溶接によって、チューブ10の先端部分を閉塞させるとともに、当該チューブ10の先端部分と発熱コイル12の先端部分とを接合する。
【0044】
その後、チューブ10内に絶縁粉末14を充填した後、チューブ10にスウェージング加工を施すことで、チューブ10及び中軸11と一体とされたヒーター部材3が得られる。
【0045】
次いで、ハウジング形成工程において、ハウジング2を製造する。まず、図5(a)に示すように、所定の鉄系素材からなる円板状の金属材MBを用意するとともに、当該金属材MBに対して深絞り加工を施し、ハウジング2となるべき筒状のハウジング中間体を得る。具体的には、外径が徐々に小さくなる複数の棒状のパンチ(図示せず)と、各パンチの外径に対応する内径を有する複数の有底筒状をなすダイス(図示せず)とがそれぞれ並んで取付けられたトランスファープレス(図示せず)に、前記金属材MBを供給する。そして、前記パンチ及び前記ダイスを用いて、前記金属材MBに対して多段階に亘ってプレス加工を施すことで、図5(b)〜(d)に示すように、金属材MBを筒状に形成するとともに、筒状部分の深さを徐々に増大させていく。そして最後に、金属材MBの両端部を切除することで、図5(e)に示すように、工具係合部6に対応する比較的大径の係合部対応部32を一端部に有し、全体的にほぼ均一の肉厚とされた筒状のハウジング中間体31が得られる。
【0046】
次いで、図6(a)に示すように、工具係合部6の外周形状に対応する形状の外周成形部OMを内周に有するダイスD1と、上下動可能なパンチP1とを用いて、工具係合部6を形成する。詳述すると、まず、図6(b)に示すように、ダイスD1の内周にハウジング中間体31を配置する。その上で、図7(a)に示すように、パンチP1を下動させてパンチP1により係合部対応部32をダイスD1の外周成形部OMに押込む。これにより、係合部対応部32の外周及び内周の双方が断面六角形状に成形され、図7(b)に示すように、工具係合部6が形成される。
【0047】
次に、ハウジング中間体31の先端側外周に径方向内側に向けてプレスを加えることで、前記先端側胴部9に対応する部位を変形させ、前記保持部20を形成する。また、転造加工により、ハウジング中間体31の所定部位にねじ部5を形成する。
【0048】
次いで、ハウジング中間体31の先端部にプレス加工を施し、ハウジング中間体31の先端部に屈曲部7A及び補助屈曲部7Cを有するガスケット部7を形成することで、ハウジング2が得られる。
【0049】
そして最後に、ヒーター部材3をハウジング2の保持部20に圧入するとともに、前記絶縁ブッシュ18やシール部材19を中軸11の後端部外周に配置した上で、中軸11の後端部に端子ピン17を加締め固定することにより、上述のグロープラグ1が得られる。
【0050】
以上詳述したように、本実施形態によれば、内燃機関ENの取付孔HOにねじ部5を螺合した際には、圧接部7Bの外周側に位置する面が、内燃機関ENの座面TSに対して圧接するように構成されている。従って、座面TSに対する圧接部7Bの接触面積を十分に大きなものとすることができる。
【0051】
また、ガスケット部7は、自身の後端に設けられた屈曲部7Aにおいて、自身の少なくとも後端部7Dが軸線CL1(つまり、軸力の印加方向)と交差する方向に曲げられている。すなわち、内燃機関ENへの取付に伴いハウジング2に軸力が加わった場合には、屈曲部7Aにおいてガスケット部が屈曲変形するように構成されており、ガスケット部7は軸線CL1方向に沿ったバネ性を有するものとされている。従って、内燃機関ENの動作に伴う振動等が加えられた場合であっても、座面TSに対して圧接部7Bをより確実に接触させることができる。その結果、上述の通り、座面TSに対する圧接部7Bの接触面積を大きくできることと相俟って、燃焼室内において良好な気密性を確保することができる。また、圧接部7B及び座面TS間で生じる摩擦力を増大させることができるため、内燃機関ENに対するグロープラグ1の緩みをより確実に防止することができる。
【0052】
さらに、ガスケット部7は、前記屈曲部7Aに加えて、補助屈曲部7Cを有するため、ガスケット部7のバネ性をより高めることができる。従って、座面TSに対して圧接部7Bを一層確実に、かつ、より安定した状態で接触させることができる。その結果、気密性の更なる向上を図ることができるとともに、グロープラグ1の緩みを一層確実に防止することができる。
【0053】
加えて、先端側胴部9の肉厚が1.6mm以下とされているため、ハウジング2の軽量化を図ることができる。従って、燃費性能の向上や製造コストの削減を図ることができる。また、ハウジング2(先端側胴部9)側へと引かれるヒーター部材3の熱を減少させることができるため、ヒーター部材3における急速昇温性の向上や、ヒーター部材3を所定温度に到達させるために必要な電力の低減を図ることができる。
【0054】
併せて、ガスケット部7の肉厚が、先端側胴部9の肉厚よりも小さくされているため、内燃機関ENの取付孔HOにねじ部5を螺合した際には、ガスケット部7を先端側胴部9よりも変形しやすくすることができる。従って、先端側胴部9の変形に伴う軸力の低下を防止しつつ、座面TSに対して圧接部7Bを一層確実に、かつ、一層安定的な状態で接触させることができる。その結果、気密性を一層向上させることができるとともに、グロープラグ1の緩み防止効果をより高めることができる。
【0055】
加えて、ハウジング2が全体的に薄肉とされているため、ハウジング2の一層の軽量化を図ることができる。その結果、燃費性能の向上や製造コストの削減等をより一層効果的に実現することができる。
【0056】
また、本実施形態において、保持部20は、先端側胴部9における最小の外径を有するように構成されている。従って、内燃機関ENに対するグロープラグ1の取付に伴い、先端側胴部9に対して軸力が加わった際には、ヒーター部材3側に向けて軸力が分解されることとなる。そのため、本実施形態のように、ハウジング2(先端側胴部9)が薄肉とされていても、保持部20によるヒーター部材3の保持力が低下してしまうことをより確実に防止できる。
【0057】
さらに、本実施形態では、板状の金属材MBに対して深絞り加工を施すことにより、ハウジング2となるべきハウジング中間体31が製造されている。従って、全体的に薄肉とされた軽量のハウジング2をより容易に製造することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0058】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0059】
(a)上記実施形態において、ガスケット部7は、補助屈曲部7Cを有するように構成されている。これに対して、図8〔尚、図8図11は、ハウジング2の先端部とこれが取付けられる内燃機関ENの拡大端面図である。また、図8図11においては、座面TSに対する圧接による変形が生じていない状態のガスケット部を示す。〕に示すように、ガスケット部21に補助屈曲部を設けることなく、ガスケット部21が屈曲部21A及び圧接部21Bを有するように構成してもよい。
【0060】
また、上記実施形態において、ガスケット部7の後端部7Dは、軸線CL1方向先端側に向けて外周側に延びる形状とされているが、図9に示すように、ガスケット部22の後端部22Dを、軸線CL1方向先端側に向けて内周側に延びる形状とし、補助屈曲部22Cにおいて、ガスケット部22が外周側に曲げ返されて圧接部22Bが座面TSに対して圧接するように構成してもよい。
【0061】
さらに、図10及び図11に示すように、ガスケット部23(24)に、複数の補助屈曲部23C1,23C2(24C1,24C2,24C3,24C4)を設けることとしてもよい。複数の補助屈曲部を設けることで、ガスケット部23,24のバネ性をより高めることができ、座面に対して圧接部を一層確実に圧接することができる。
【0062】
(b)上記実施形態では、発熱コイル12の過昇温を防止すべく、発熱コイル12及び中軸11間に制御コイル13が介在されているが、発熱コイル12に中軸11を直接接触させ、制御コイル13を省略してもよい。
【0063】
(c)上記実施形態において、ヒーター部材3は、チューブ10と当該チューブ10の内部に配置された発熱コイル12等により構成されており、本発明の技術思想が、いわゆるメタルグロープラグに対して適用されている。これに対して、ヒーター部材を、絶縁性セラミックからなる筒状の基体と、当該基体内に設けられるとともに、導電性セラミックにより形成され、中軸11からの通電により発熱する発熱素子とにより構成し、本発明の技術思想を、いわゆるセラミックグロープラグに対して適用してもよい。また、この場合には、基体の外表面に発熱素子となる導電性の被膜が設けられてなるヒーター部材(いわゆる表面発熱タイプのヒーター)を用いてもよい。さらに、発熱素子の少なくとも一部を耐熱性に優れる導電性金属(例えば、タングステンを主成分とする合金等)により形成することとしてもよい。
【0064】
(d)上記実施形態において、グロープラグ1の後端部(ケーブルの接続部分)は、中軸11の後端部に対して端子ピン17が加締め固定される構成とされているが、グロープラグ1の後端部の構成はこれに限定されるものではない。従って、例えば、中軸11のうちハウジング2の後端から突出する部位の外周に雄ねじを設けるとともに、内周に雌ねじを有するナットを、絶縁ブッシュ18に接触した状態で前記雄ねじに螺合し、ナットから前記中軸の後端部が突出するように構成してもよい。すなわち、中軸の後端部がケーブルの接続箇所となるように構成してもよい。
【0065】
(e)上記実施形態において、中軸11は中実の棒状をなしているが、図12に示すように、中軸11の内部に中空部25を設け、中軸11を筒状としてもよい。この場合には、グロープラグ1のより一層の軽量化を図ることができ、燃費性能の更なる向上を図ることができる。また、中軸11によりヒーター部材3(発熱コイル12)から引かれる熱を低減することができるため、ヒーター部材3(発熱コイル12)をより速やかに所定温度に到達させることができるとともに、ヒーター部材3を所定温度に到達させるために必要な電力をさらに少なくすることができる。さらに、中軸11により制御コイル13の熱が引かれてしまうことを効果的に防止でき、制御コイル13の温度ひいては抵抗値を一層速やかに増大させることができる。その結果、制御コイル13の本来的な機能をより速やかに発揮させることができるとともに、更なる省電力化を図ることができる。
【0066】
(f)上記実施形態では、深絞り加工によりハウジング中間体31が形成されているが、ハウジング中間体31の製造手法は、これに限定されるものではない。従って、例えば、所定の金属材料に対して鍛造加工を施すことにより、ハウジング中間体を得ることとしてもよい。
【0067】
(g)上記実施形態において、先端側胴部9は、その外周及び内周が湾曲面状をなしており、均一の厚さを有しているが、先端側胴部9の形状はこれに限定されるものではない。従って、例えば、先端側胴部9の外径を軸線CL1に沿って一定とし、先端側胴部9のうち前記保持部20のみを内周側に突出させ、保持部20のみを比較的厚肉としてもよい。
【0068】
(h)上記実施形態において、工具係合部6は断面六角形状とされているが、工具係合部6の形状は、このような形状に限定されるものではない。従って例えば、工具係合部6を、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等としてもよい。
【0069】
(i)ヒーター部材3の形状は特に限定されるものではなく、例えば、断面楕円形状や断面長円形状、断面多角形状であってもよい。また、ヒーター部材として、絶縁性の基体を板状に複数形成して、その間に発熱体を挟み込んだいわゆる板状ヒーターを用いることとしてもよい。
【0070】
(j)上記実施形態における発熱コイル12や制御コイル13の構成材料は例示であって、発熱コイル12等の構成材料は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0071】
1…グロープラグ、2…ハウジング、3…ヒーター部材、4…軸孔、5…ねじ部、7…ガスケット部、7A…屈曲部、7B…圧接部、7C…補助屈曲部、9…先端側胴部、31…ハウジング中間体、CL1…軸線、EN…内燃機関、HO…取付孔、MB…金属材、TS…座面。
図1
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図12