(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軟磁性の鉄基粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性鉄基粒子を複数具えてなる被覆軟磁性鉄基粉末を、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとで作られるキャビティに充填する充填工程と、
前記第一パンチと柱状の第二パンチとにより前記キャビティ内の前記被覆軟磁性鉄基粉末を加圧して成形体とする加圧工程と、
前記成形体をキャビティ内から取り出す取出工程とを具え、
これら各工程を繰り返し行って複数の圧粉成形体を製造する圧粉成形体の製造方法であって、
前記各工程を繰り返す過程で、前記ダイの温度が常時10℃以上40℃以下に維持されるように、前記各工程を繰り返す過程の少なくとも途中で、前記ダイを冷却する圧粉成形体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の圧粉磁心となる圧粉成形体は、一般的に、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとでつくられるキャビティに被覆軟磁性鉄基粒子を複数具える被覆軟磁性鉄基粉末を充填し、第一パンチと柱状の第二パンチとによりキャビティ内の被覆軟磁性鉄基粉末を加圧成形して作製される。その後、成形体に対してダイを相対的に第一パンチ側へ移動させてから、第二パンチを第一パンチ側とは反対側へ移動させて成形体が取り出される。
【0007】
被覆軟磁性鉄基粉末を充填して加圧成形することを連続的に繰り返し行うと、加圧の際のダイと被覆軟磁性鉄基粉末との摩擦などによってダイの温度が上昇し、それに伴い、被覆軟磁性鉄基粉末の温度も上昇する。それにより、被覆軟磁性鉄基粉末が塑性変形し易くなるので、高密度の圧粉成形体が得られるため、磁気特性に優れる圧粉成形体を製造できると考えられる。
【0008】
しかし、このように被覆軟磁性鉄基粉末が塑性変形し易くなることで、加圧及び脱型の際にダイとの摺接により成形体表面側の粒子同士が展延して導通した導通部を形成し、渦電流損(鉄損)が増加して反って磁気特性が低下する虞がある。また、上記導通部が形成されると、加圧成形の際に成形体に内包された空気が成形後に成形体から抜け難くなる。成形体内の空気が十分に除去されないまま上述のようにダイ及び第二パンチを移動させると、急激な圧力の開放により圧粉成形体が破壊されることがある。そのため、成形体内の空気が十分に除去されるまで脱気時間を取る必要があり、成形速度を速くし難く、生産性を向上することが難しい。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、低損失な磁心が得られる圧粉成形体を生産性良く製造できる圧粉成形体の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記本発明の製造方法により製造された圧粉成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を抑制することで上記目的を達成する。
【0012】
本発明の圧粉成形体の製造方法は、充填工程と、加圧工程と、取出工程とを具え、これら各工程を繰り返し行って複数の圧粉成形体を製造する方法である。充填工程は、軟磁性の鉄基粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性鉄基粒子を複数具えてなる被覆軟磁性鉄基粉末を、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとで作られるキャビティに充填する。加圧工程は、第一パンチと柱状の第二パンチとによりキャビティ内の被覆軟磁性鉄基粉末を加圧して成形体とする。取出工程は、成形体をキャビティ内から取り出す。そして、各工程を繰り返す過程の少なくとも途中で、ダイを冷却する。
【0013】
本発明の製造方法は、低損失な磁心が得られる圧粉成形体を生産性良く製造できる。各工程を繰り返す過程の少なくとも途中でダイを冷却することで、被覆軟磁性鉄基粉末とダイとの摩擦などによるダイの過剰な温度上昇を抑制でき、ダイの温度上昇に伴う被覆軟磁性鉄基粉末の温度上昇を抑制できる。そのため、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を抑制し、加圧及び脱型の際にダイと摺接して成形体表面側の粒子同士が展延して導通する導通部の形成を抑制できる。その結果、粒子同士の導通に伴う渦電流が生じ難いため、渦電流損を効果的に低減でき、鉄損を低減できる。
【0014】
また、導通部の形成を抑制できるため、加圧成形の際に成形体に内包された空気が、加圧工程後に成形体の外部に抜けやすくなる。そのため、脱型の際の急激な圧力の開放を抑制し、圧粉成形体の破壊を抑制できるため、脱型する際、成形体内の空気の脱気時間を短くできる。その結果、成形体の成形速度を速くでき、成形体の生産性を向上できる。
【0015】
本発明の製造方法の一形態として、成形体の体積をVmm
3とし、成形体の周長をLmmとするとき、成形体の体積Vと周長Lとの比V/Lが、V/L>100mm
2であることが挙げられる。ここでいう、周長Lとは、成形体における両パンチの対向方向に対して直交する断面の周長を言う。
【0016】
上記構成によれば、渦電流損の低減、及び成形体の生産性の向上に一層効果的である。従来のようにダイを冷却せずに上記比V/Lを満たす成形体を製造すると、圧粉成形体が破壊され易いからである。これは、圧粉成形体のダイと摺接する領域が長くなるため、導通部が形成され易く、成形体内部の空気が抜け難くなるためである。
【0017】
本発明の製造方法の一形態として、少なくとも加圧工程時にダイを冷却することが挙げられる。
【0018】
上記の構成によれば、各工程を繰り返す過程において、ダイの温度が上がり易い加圧工程時にダイを冷却することで、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を効果的に抑制できる。
【0019】
本発明の製造方法の一形態として、各工程を繰り返す過程で、ダイの温度が常時40℃以下に維持されていることが挙げられる。
【0020】
上記の構成によれば、ダイの温度が常時40℃以下であれば、軟磁性鉄基粒子が過剰に塑性変形する程度の温度まで軟磁性鉄基粒子の温度が上昇することを抑制できる。
【0021】
本発明の製造方法の一形態として、各工程を繰り返す全過程で、ダイを常時冷却することが挙げられる。
【0022】
上記の構成によれば、上記全過程でダイを常時冷却することで、軟磁性粒子の温度上昇を確実に抑制できる。
【0023】
本発明の製造方法の一形態として、鉄基粒子が純鉄であることが挙げられる。
【0024】
上記の構成によれば、鉄基粒子が純鉄であっても、低損失な磁心が得られる圧粉成形体を生産性良く製造できる。純鉄は、フェライトなどに比べて軟らかいため加圧成形すると変形し易く、その変形に伴って被覆軟磁性鉄基粉末の絶縁被膜が損傷することがあり、その結果、表面に導通部が形成され易いが、本発明の製造方法によれば、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を抑制できるので、導通部の形成を抑制できるからである。
【0025】
本発明の製造方法の一形態として、鉄基粒子の平均粒径が100μm以下であることが挙げられる。
【0026】
上記の構成によれば、平均粒径を100μm以下とすることで、軟磁性鉄基粒子の一粒当たりのダイとの接触面積が小さいので、絶縁被膜が損傷し難く、上記導通部が形成され難い。
【0027】
本発明の圧粉成形体は、上記本発明の製造方法により製造された圧粉成形体である。
【0028】
本発明の圧粉成形体によれば、低損失な磁心とすることができる。そのため、例えば、リアクトル用コアに好適に利用でき、その場合、コイルが高周波の交流で励磁される場合でも鉄損特性を改善できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の圧粉成形体の製造方法は、低損失な磁心が得られる圧粉成形体を生産性良く製造できる。
【0030】
本発明の圧粉成形体は、低損失な磁心とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0033】
《圧粉成形体の製造方法》
本発明の圧粉成形体の製造方法は、充填工程と、加圧工程と、取出工程とを具え、これら各工程を繰り返し行うことで複数の圧粉成形体を製造する方法である。この製造方法の特徴とするところは、各工程を繰り返し行う過程の少なくとも途中でダイを冷却する点にある。以下、詳細に説明するにあたり、まず、圧粉成形体を製造するための装置の一例を説明し、続いて、圧粉成形体の原料、上記各工程の順に説明する。
【0034】
〔成形用金型〕
利用する成形用金型としては、代表的には、貫通孔が設けられた筒状のダイと、ダイの貫通孔の各開口部からそれぞれ挿入可能な一対の柱状の第一パンチ及び第二パンチとを具える。この一対の第一パンチと第二パンチは、貫通孔内で対向して配置される。この金型では、一方のパンチの一面(他方のパンチとの対向する圧接面)とダイの内周面とで有底筒状のキャビティ(成形空間)を形成する。この成形空間内に後述する原料粉末を充填し、両パンチで加圧・圧縮して圧粉成形体を製造する。両パンチの各対向面は、圧粉成形体の各端面を形成し、ダイの内周面が圧粉成形体の側面を形成する。
【0035】
より具体的には、
図1に示すように、貫通孔10hを備える筒状のダイ10と、貫通孔10hに挿脱される一対の角柱状の上パンチ20・下パンチ30とを備える成形用金型1を利用できる。貫通孔10hの形状、及びパンチ20,30の横断面形状はここでは矩形としているが、特に限定されるわけではなく、例えば、円形を含む楕円形状、矩形以外の多角形状、或いは直線と円弧を組み合わせた扇状などの異形状のいずれであっても構わない。
【0036】
この成形用金型1では、下パンチ30が図示しない本体装置に固定され、ダイ10及び上パンチ20が図示しない移動機構によりそれぞれ上下方向に移動可能な構成とした。もちろん、ダイ10が固定されて両パンチ20,30が移動可能な構成としても良いし、ダイ10及び両パンチ20,30のいずれもが移動可能な構成としても良い。
【0037】
成形用金型1の構成材料には、従来、金属材料の圧粉成形体の成形に利用されている適宜な高強度材料(高速度鋼など)が挙げられる。
【0038】
(冷却機構)
本実施形態の成形用金型1は、ダイ10を冷却する冷却機構を具える。この冷却機構は、ダイ10を所望の温度に冷却(維持)するためのもので、ダイ10の外部から冷却する外部冷却型でもよいし、ダイ10の内部から冷却する内部冷却型でもよい。前者の場合、例えば、ダイ10の外周に冷媒が循環される冷却ジャケットを装着させ、冷却ジャケットを介して冷却することや、ダイ10の表面(具体的には、上面10uや下面)に直接冷媒を接触させることが挙げられる。後者の場合、ダイ10の内部に冷媒を流通させることが挙げられる。ここでは、内部冷却型を採用する。即ち、ダイ10が冷却機構を具える。具体的には、冷却機構15は、ダイ10の内部に冷媒を流通させる循環溝15t、流入路15i、及び流出路15oを具える。
【0039】
ここでは、冷却機構15を具えるダイ10は、複数の筒状部材で構成している。具体的には、下パンチ30とで成形空間40を構成する内周面を有する内側ダイ部材11と、その内側ダイ部材11の外周を囲う外側ダイ部材12とを具える。このダイ10は、外側ダイ部材12と内側ダイ部材11とを焼き嵌めすることで一体に成形されている。
【0040】
そして、冷却機構15を構成する循環溝15tは、ダイ10(内側ダイ部材11)を所望の温度に冷却するために冷媒を流通させる溝である。この循環溝15tは、外側ダイ部材12の内周面に設けられており、ここでは、螺旋状に形成されている。循環溝15tの断面輪郭形状は適宜選択できる。例えば、当該断面輪郭形状は、円形、矩形、台形などとすることが挙げられる。循環溝15tの大きさや、循環溝15tの外側ダイ部材12における内周面の周回数は適宜選択できる。
【0041】
冷却機構15を構成する流入路15iは、冷媒を循環供給する冷媒循環装置(図示せず)から循環溝15t(内側ダイ部材11側)へ冷媒を供給するための流路である。流入路15iは、外側ダイ部材12内に設けられ、循環溝15tの一端に連結されている。流出路15oは、循環溝15tを流通した冷媒を循環溝15t(内側ダイ部材11側)から冷媒循環装置へ戻すための流路である。流出路15oは、外側ダイ部材12内に設けられ、循環溝15tの他端に連結されている。
【0042】
このように、ダイ10では、この循環溝15tと、流入路15i及び流出路15oとで冷却機構15を構成している。この冷却機構15に冷媒を流通させることで、ダイ10を冷却できる。
【0043】
その他、ダイ10の温度を測定する温度センサ(図示せず)、冷媒の流量計や温度計、及びダイ10の温度センサによる測定データに基づいて冷媒の流量や温度を制御する制御手段(図示せず)を具えることが好ましい。そうすれば、ダイ10の温度を所望の温度に容易に制御し易くなる。
【0044】
〔原料粉末〕
次に、本発明製造方法に用いる原料粉末を説明する。本発明製造方法では、原料粉末は、軟磁性の鉄基粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性鉄基粒子を複数具える被覆軟磁性鉄基粉末からなる。
【0045】
(軟磁性鉄基粒子)
〈組成〉
軟磁性の鉄基粒子は、鉄を50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、純鉄(Fe)が挙げられる。その他、鉄合金、例えば、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−Ni系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、及びFe−Al−Si系合金から選択される少なくとも1種からなるものが利用できる。特に、透磁率及び磁束密度の点から、99質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
【0046】
〈粒径〉
軟磁性鉄基粒子の平均粒径は、圧粉成形体として低損失に寄与するサイズであればよい。つまり、特に限定することなく適宜選択できるが、例えば、1μm以上100μm以下であれば好ましい。軟磁性鉄基粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性鉄基粉末の流動性を落とすことがなく、軟磁性鉄基粉末を用いて製作された圧粉成形体の保磁力及びヒステリシス損の増加を抑制できる。逆に、軟磁性鉄基粒子の平均粒径を100μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。より好ましい軟磁性鉄基粒子の平均粒径は、40μm以上75μm以下である。この平均粒径が40μm以上であれば、渦電流損の低減効果が得られ易いと共に、被覆軟磁性鉄基粉末の取り扱いが容易になり、より高い密度の成形体とすることができる。なお、この平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
【0047】
〈形状〉
軟磁性鉄基粒子の形状は、アスペクト比が1.2〜1.8となるようにすると好ましい。このアスペクト比とは、粒子の最大径と最小径との比とする。上記範囲のアスペクト比を有する軟磁性鉄基粒子は、アスペクト比が小さな(1.0に近い)ものに比べて、圧粉成形体にしたときに反磁界係数を大きくでき、磁気特性に優れた圧粉成形体とすることができる。その上、圧粉成形体の強度を向上させることができる。
【0048】
〈製法〉
軟磁性鉄基粒子は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法などのアトマイズ法で製造されたものが好ましい。水アトマイズ法で製造された軟磁性鉄基粒子は、粒子表面に凹凸が多いため、その凹凸の噛合により高強度の成形体を得やすい。一方、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性鉄基粒子は、その粒子形状がほぼ球形のため、絶縁被膜を突き破るような凹凸が少なくて好ましい。軟磁性鉄基粒子の表面には、自然酸化膜が形成されていても良い。
【0049】
(絶縁被膜)
絶縁被膜は、隣接する軟磁性鉄基粒子同士を絶縁するために、軟磁性鉄基粒子の外周に被覆される。軟磁性鉄基粒子を絶縁被膜で覆うことによって、軟磁性鉄基粒子同士の接触を抑制し、成形体の比透磁率を低く抑えることができる。その上、絶縁被膜の存在により、軟磁性鉄基粒子間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉成形体の渦電流損を低減できる。
【0050】
〈組成〉
絶縁被膜は、軟磁性鉄基粒子同士の絶縁を確保できる程度の絶縁性に優れるものであれば特に限定されない。例えば、絶縁被膜の材料は、リン酸塩、チタン酸塩、シリコーン樹脂、リン酸塩とシリコーン樹脂の2層からなるものなどが挙げられる。
【0051】
特に、リン酸塩からなる絶縁被膜は変形性に優れるので、軟磁性材料を加圧して圧粉成形体を作製する際に軟磁性鉄基粒子が変形しても、この変形に追従して変形できる。また、リン酸塩被膜は鉄系の軟磁性鉄基粒子に対する密着性が高く、軟磁性鉄基粒子表面から脱落し難い。リン酸塩としては、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのリン酸金属塩化合物を利用できる。
【0052】
シリコーン樹脂からなる絶縁被膜の場合は、耐熱性に優れるので、後述する熱処理工程で分解し難く、圧粉成形体の完成までの間、軟磁性鉄基粒子同士の絶縁を良好に維持できる。
【0053】
絶縁被膜が上記リン酸塩とシリコーン樹脂の2層構造からなる場合、リン酸塩を上記軟磁性鉄基粒子側に、シリコーン樹脂をリン酸塩の直上に被覆することが好ましい。リン酸塩の直上にシリコーン樹脂を被膜しているので、上述したリン酸塩及びシリコーン樹脂の両方の特性を具えることができる。
【0054】
〈膜厚〉
絶縁被膜の平均厚さは、隣接する軟磁性鉄基粒子同士を絶縁できる程度の厚みであればよい。例えば、10nm以上1μm以下であることが好ましい。絶縁被膜の厚みを10nm以上とすることによって、軟磁性鉄基粒子同士の接触の抑制や渦電流によるエネルギー損失を効果的に抑制できる。一方、絶縁被膜の厚みを1μm以下とすることによって、被覆軟磁性鉄基粒子に占める絶縁被膜の割合が大きくなりすぎず、被覆軟磁性鉄基粒子の磁束密度が著しく低下することを防止できる。
【0055】
上記絶縁被膜の厚さは、以下のようにして調べることができる。まず、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X−ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma−mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出する。そして、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0056】
〈被覆方法〉
軟磁性鉄基粒子に絶縁被膜を被覆する方法は、適宜選択するとよい。例えば、加水分解・縮重合反応などにより被覆することが挙げられる。軟磁性鉄基粒子と絶縁被膜を構成する原料とを配合して、その配合体を、加熱した状態で混合する。そうすれば、軟磁性鉄基粒子を被膜原料に十分に分散でき、個々の軟磁性鉄基粒子の外側に絶縁被膜を被覆できる。
【0057】
上記加熱温度及び混合時間は適宜選択するとよい。加熱温度及び混合時間を選択することで、軟磁性鉄基粒子をより十分に分散でき、個々の粒子に絶縁被膜を被覆することが容易となる。
【0058】
[成形手順]
次に、上述した成形用金型1を用いて本発明製造方法の成形手順を説明する。具体的には、圧粉成形体の原料粉末Pを用意した後、成形用金型1に原料粉末Pを充填する充填工程と、原料粉末Pを加圧成形して成形体50とする加圧工程と、成形体50を成形用金型1から取り出す取出工程とを繰り返し行う。
【0059】
(準備工程)
圧粉成形体の原料粉末Pとして上述の被覆軟磁性鉄基粉末を用意する。
【0060】
(充填工程)
まず、
図1(A)に示すように、上パンチ20をダイ10における貫通孔10hの上方の所定の待機位置に移動する。ダイ10を上方に移動して、下パンチ30の上面30uと、ダイ10の内周面(貫通孔10h)とで所定の成形空間40を形成する。
【0061】
次に、
図1(B)に示すように、準備工程で用意した圧粉成形体の原料粉末Pを成形空間40内に図示しない給粉装置により、充填する。
【0062】
(加圧工程)
続いて、
図1(C)に示すように、上パンチ20を下方に移動してダイ10の貫通孔10hに挿入して、両パンチ20,30により、原料粉末Pを加圧・圧縮する。その際、上パンチ20が原料粉末Pに接してから、ダイ10を上パンチ20と同様に下方に移動する。上パンチ20と共にダイ10も移動することで、成形空間40内の原料粉末Pのうち、上パンチ20に接する粉末及び上パンチ20の近傍に存在する粉末が下パンチ30側に移動する量を低減でき、過度な移動による絶縁被膜の損傷を防止できる。また、両パンチ20、30の原料粉末Pに加える圧力を均一的にできる。
【0063】
加圧する圧力は、適宜選択できるが、例えば、リアクトル用コアとなる圧粉成形体を製造するのであれば、490〜1470MPa、特に、588〜1079MPa程度とすることが好ましい。490MPa以上とすることで、原料粉末Pを十分に圧縮でき、圧粉成形体の相対密度を高められ、1470MPa以下とすることで、原料粉末Pを構成する被覆軟磁性鉄基粒子同士の接触による絶縁被膜の損傷を抑制できる。
【0064】
(取出工程)
所定の加圧を行った後、
図1(D)に示すように、成形体50に対して、ダイ10を相対的に移動させる。ここでは、成形体50を移動せず、ダイ10のみを下方に移動する。このとき、成形体50の外周面のうち、ダイ10との接触領域は、ダイ10からの反力によりダイ10の貫通孔10hに摺接する。
【0065】
ダイ10の上面10uと下パンチ30の上面30uとが面一となる、或いは、下パンチ30の上面30uがダイ10の上面10uよりも上方に位置するまでダイ10を移動する。成形体50がダイ10から完全に露出されたら、
図1(E)に示すように上パンチ20を上方に移動する。ここでは、上パンチ20の下面20dと下パンチ30の上面30uとで成形体50を挟持した状態でダイ10を移動し、上パンチ20を後工程で移動する形態としたが、ダイ10の移動と同時に上パンチ20を上方に移動したり、上パンチ20をダイ10より先に移動したりしてもよい。
【0066】
上パンチ20を移動することで、成形体50は、取出可能であるため、例えば、マニュピレータなどにより、成形体50を取り出すことができる。
【0067】
これら各工程を繰り返し行う。即ち、成形体50を成形用金型1から取り出したら、次の成形体を成形するにあたり、上述したように成形空間の形成→成形空間への原料粉末の充填→原料粉末の加圧→成形体の取出を繰り返し行う。
【0068】
(冷却)
本発明の製造方法では、上記各工程を繰り返し行う過程の少なくとも途中でダイ10を冷却する。
【0069】
ダイ10の冷却時期としては、具体的には、充填工程前、充填工程時、充填工程後加圧工程前、加圧工程時、加圧工程後取出工程前、取出工程時、取出工程後充填工程前が挙げられる。これらの少なくとも一時期においてダイ10を冷却する。中でも、ダイ10の冷却時期は少なくとも加圧工程時であることが好ましい。そうすれば、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を効果的に抑制できる。この加圧工程時にダイ10の温度が高くなり易く、軟磁性鉄基粒子の温度も高くなり易いからである。そして、各工程を繰り返す全過程で常時冷却することが好ましい。そうすれば、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を確実に抑制できる。ここでは、各工程を繰り返す全過程でダイ10を常時冷却する。
【0070】
ダイ10の冷却により、ダイ10の温度を常時40℃以下に維持することが好ましい。ダイを冷却しない場合、上記のように各工程を繰り返す過程では、ダイの温度が50℃以上になり、ときには60℃以上、更には70℃〜80℃程度になる場合もある。その場合、軟磁性鉄基粒子が過剰に塑性変形してしまうからである。ダイ10の温度の下限は、10℃程度とすることが好ましい。ダイ10の温度を10℃以上とすることで、軟磁性鉄基粒子の過剰な塑性変形を抑制しつつも、高密度化に寄与する程度に塑性変形させることができる。その上、ダイ10が冷却され過ぎることを抑制し、成形空間40の内寸が規定寸法よりも小さくなり過ぎることを抑制できる。
【0071】
具体的には、上述した冷媒機構15によりダイ10の内部に冷媒を循環させる。ここでは、冷媒をダイ10の下パンチ30側からダイ10の上パンチ20側へ向かって流す。即ち、冷媒は、冷媒循環装置(図示せず)から外側ダイ部材12の流入路15iを介して循環溝15の一端(下パンチ30側)から他端(上パンチ20側)まで流通する。その間にダイ10が冷却される。そして、冷媒は、流出路15oを介して上記冷媒循環装置に戻される。こうして冷媒を循環させてダイ10を冷却する。使用する冷媒の種類は、例えば、水などの液体冷媒が挙げられる。
【0072】
以上の工程を経て製造された成形体50の形状は、ダイ10の内周形状と、上パンチ20の下面20d及び下パンチ30の上面30uの形状が転写された形状となる。つまり、ここでは、角柱状体(直方体)の成形体50となる。この成形体50において、上パンチ20及び下パンチ30により加圧された対向面は、加圧の際、或いは、脱型時に金型と摺接しないため、軟磁性鉄基粒子同士が導通する導通部を形成し難い。また、ダイ10を冷却して成形しているため、軟磁性粒子の過剰な塑性変形を抑制できるので、成形体におけるダイ10の内周面との摺接面も導通部が形成され難い。
【0073】
成形される圧粉成形体のサイズは、圧粉成形体の体積をVmm
3、成形体における両パンチの対向方向、即ち、加圧方向に対して直交する断面の周長をLmmとするとき、上記体積Vと上記周長Lとの比V/Lが、V/L>100mm
2とすることが好ましい。本発明の製造方法は、上記比V/L>100mm
2を満たす圧粉成形体を製造する場合に特に効果的である。従来のようにダイを冷却せずに上記比V/Lの範囲を満たす圧粉成形体を製造すると、圧粉成形体が特に破壊され易いからである。これは、圧粉成形体の体積が大きくなり、かつ周長が短くなると、相対的に高さが高くなり、加圧及び脱型の際に、ダイと摺接する領域が長くなるため導通部が形成され易く、成形体内部の空気が抜け難くなるからである。特に、上記体積Vと周長Lとの比V/Lは、120mm
2以上の場合、一層効果的である。ここで、圧粉成形体における上記加圧方向に対して直交する断面が一様でない場合、例えば、ダイの内部空間が成形体をダイから抜き出す方向に向かって広がるように傾斜する傾斜面を具えるダイを使用して作製された圧粉成形体の場合、その周長は、圧粉成形体の全表面積から、上パンチ及び下パンチで成形される面の表面積を引き、圧粉成形体の高さで除算した値を周長とする。
【0074】
なお、(1)上記準備工程で、被覆軟磁性鉄基粉末に潤滑剤(原料用潤滑剤)を混合して混合材料を作製すること、(2)上記充填工程において成形空間40を形成する際に、パンチやダイの被覆軟磁性鉄基粉末と接触する箇所(特にダイ10の内壁)に潤滑剤(金型用潤滑剤)を塗布すること、の少なくとも一方を行うことが好ましい。そうすれば、加圧工程で、成形体50が成形用金型1に焼き付くことや、被覆軟磁性鉄基粉末の絶縁被膜が破壊されることを抑制できる。その上、前者の場合は、原料用潤滑剤が被覆軟磁性鉄基粉末における粒子同士の接触を抑制して粒子間の絶縁を確保し易いため、渦電流損を低減できる。後者の場合は、金型用潤滑剤を上記内壁に塗布するので、被覆軟磁性粉末との摩擦を低減すると共に、高密度な成形体50を成形できる。
【0075】
潤滑剤としては、具体的には、金属元素を含むもの、代表的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸、金属元素を含まないもの、代表的には、ステアリン酸、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどの固体潤滑剤が挙げられる。その他、固体潤滑剤を水などの液媒に分散させた分散液、液状潤滑剤、六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤、例えば、窒化ほう素、硫化モリブデン、硫化タングステン、及びグラファイトなどから選択される無機物などが挙げられる。この無機物と上述した金属石鹸などとを組み合わせて用いてもよい。なお、原料用潤滑剤及び金型用潤滑剤の両方を用いる場合、原料用潤滑剤の材質と金型用潤滑剤の材質とは同じでもよいし異なっていてもよい。
【0076】
原料用潤滑剤を用いる場合、原料用潤滑剤の量が多いほど被覆軟磁性鉄基粒子の絶縁被膜が破れることを抑制できる。その結果、得られた圧粉成形体も健全な状態の絶縁被膜が多く存在しており、この圧粉成形体により磁心を作製した場合、この磁心は、絶縁性に優れる。但し、原料用潤滑剤の量が多すぎると圧粉成形体の磁束密度が低下する。そのため原料用潤滑剤の量は、0.3質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0077】
〈成形後の工程〉
成形体50を成形後、成形体50に対して加圧工程で軟磁性鉄基粒子に導入された歪を除去するために熱処理を施すことが好ましい。
【0078】
熱処理の温度が高いほど、歪の除去を十分に行うことができることから、熱処理温度は、300℃以上、特に400℃以上が好ましく、上限は約800℃程度が好ましい。このような熱処理温度であれば、歪の除去と共に、加圧時に軟磁性粒子に導入される転移などの格子欠陥も除去できる。それにより、圧粉成形体のヒステリシス損を効果的に低減できる。
【0079】
熱処理を施す時間は、加圧工程で軟磁性鉄基粒子に導入された歪を十分に除去するように、上記熱処理温度及び成形体の体積に合わせて適宜選択すればよい。例えば、上記の温度範囲の場合、10分〜1時間であることが好ましい。
【0080】
この熱処理を施す際の雰囲気は、大気中でも良いが、不活性ガス雰囲気内で施すと特に好ましい。それにより、潤滑剤の燃焼による煤などの素材成形体への付着を抑制できる。
【0081】
《作用効果》
上述した製造方法によれば、以下の効果を奏する。
【0082】
(1)圧粉成形体を製造するための各工程を繰り返し行う過程で、ダイを冷却することで、原料粉末が過剰に塑性変形する程度まで温度が上昇することを抑制できる。それにより、原料粉末を加圧成形する際に原料粉末の過剰な塑性変形を抑制し、ダイと摺接して成形体表面側の粒子同士が展延して導通部を形成することを抑制できるため、渦電流損(鉄損)を抑制できる。従って、低損失な磁心が得られる圧粉成形体を製造できる。
【0083】
(2)成形体表面に導通部が形成されることを抑制できるので、加圧成形の際に成形体に内包された空気が、加圧工程後に成形体の外部に抜けやすくなる。そのため、脱型の際の急激な圧力の開放を抑制し、成形体の破壊を抑制できる。従って、脱型する際に成形体内の空気の脱気時間を短くできるため、成形体の成形速度を速くでき、成形体の生産性を向上できる。
【0084】
《試験例》
試験例として、
図1に示す成形用金型1を使用して、圧粉成形体の試料1、2を複数作製し、各試料の磁気特性について後述する試験を行った。なお、試料1は、各工程を繰り返す全過程においてダイ10を常時冷却して作製し、試料2は、全過程においてダイ10を一度も冷却せずに作製した点が相違する。
【0085】
まず、圧粉成形体の構成材料として、鉄粉からなる軟磁性鉄基粒子の表面にリン酸鉄からなる絶縁被膜を被覆した被覆軟磁性鉄基粉末に、ステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤を0.6質量%含有した混合材料を用意した。上記鉄粉は、水アトマイズ法により作製され、純度が99.8%以上であった。この軟磁性鉄基粒子の平均粒径が50μmで、そのアスペクト比は1.2であった。この平均粒径は、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径により求めた。絶縁被膜は、軟磁性鉄基粒子の表面全体を実質的に覆い、その平均厚さは、20nmであった。
【0086】
次に、上述した成形手順に沿って、準備した混合材料を成形空間40内に充填し、730MPaの圧力をかけて縦30mm×横30mm×高さ20mm(体積V:18000mm
3、周長L:120mm、V/L:150mm
2)の直方体状の成形体を作製して、成形体を取り出す。これを連続して繰り返し行い、成形体をそれぞれ1000個ずつ得た。
【0087】
このとき、各試料において全成形体の作製にかかった時間から一個当たりの成形速度を算出した。また、各試料の全過程でのダイ10の温度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0088】
〔評価〕
試料1、2において、それぞれ作製した圧粉成形体のうち適宜選択した複数の圧粉成形体を窒素雰囲気下で400℃×30分熱処理し、その熱処理した圧粉成形体をそれぞれ環状に組み合わせて試験用磁心を作製した。各試験用磁心にそれぞれ巻線で構成したコイルを配して、磁気特性を測定するための測定部材を作製し、以下の磁気特性を測定した。
【0089】
[磁気特性試験]
各測定部材について、AC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおける試料の渦電流損We(W)及びヒステリシス損Wh(W)を求め、鉄損W(W)を算出した。その結果を表1に示す。
【0091】
〔結果〕
試料1は、上記全過程においてダイ10の温度が常時40℃以下に維持された。試料2は、全過程においてダイ10の温度が50℃〜60℃の範囲であった。そして、試料1は、試料2よりも成形速度が速く、渦電流損(鉄損)が小さかった。
【0092】
試料1は、各工程を繰り返す過程でダイ10を冷却してダイ10の温度を40℃以下に維持することで、原料粉末の温度上昇を抑制できたため、加圧成形の際の軟磁性鉄基粉末の過剰な塑性変形を抑制できたからだと考えられる。それにより、ダイ10と摺接して成形体表面側の粒子同士が展延することによる導通部の形成を抑制できたため、粒子同士の導通に伴う渦電流を抑制でき、渦電流損(鉄損)を低減できたと考えられる。また、上記導通部の形成を抑制できたため、加圧成形の際に成形体に内包された空気が、加圧工程後に外部に抜け難くなることを抑制できたため、脱型の際、成形体内の空気の脱気時間を短くできた。そのため、成形速度を速くできたと考えられる。一方、試料2は、ダイ10の温度が50℃以上と高く、軟磁性鉄基粒子が過剰に塑性変形したため、渦電流損を低減できず、また、成形速度を速くできなかった。
【0093】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、ダイの外部からダイ自体に直接冷媒を拭き付けることでダイを冷却することもできる。この場合、冷媒を拭き付けるタイミングは、例えば、充填工程前や加圧工程時等が挙げられる。使用する冷媒は、揮発性が高く、原料粉末と反応し難い液体窒素などが好ましい。また、上パンチ及び下パンチの少なくとも一方もダイと同様の冷却機構により冷却してもよい。そうすれば、パンチを介して原料粉末が過剰に塑性変形しないように原料粉末を冷却することができる。