(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無機物又は有機物からなる細線の表面に被覆層を形成するためのコーティング方法であって、前記被覆層を形成するために使用されるコーティング溶液を液滴保持用の治具先端又は基板上に点着して保持形成した液滴中に、前記細線を通過させることによって前記細線の表面に前記コーティング溶液をコーティングした後、室温又は加熱による乾燥処理、加熱処理及び光照射処理の少なくとも何れか一つの処理を行って、前記細線の表面に前記被覆層を形成することを特徴とする細線のコーティング方法。
前記の液滴中に細線を通過させる方法は、前記細線を抱合した状態の前記液滴を前記細線の長手方向に移動することによって行うことを特徴とする請求項1に記載の細線のコーティング方法。
前記細線を抱合した状態の前記液滴を前記細線の長手方向に移動する操作を2回以上行うことによって、前記細線の表面に所定の厚さを有する前記コーティング溶液からなる層を形成することを特徴とする請求項2に記載の細線のコーティング方法。
前記液滴の中に前記細線を通過させる方法は、前記液滴を前記細線の長手方向に2個以上形成し、前記細線が前記2個以上の液滴中を連続的に通過するように前記細線を移動することを特徴とする請求項1に記載の細線のコーティング方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外径が100μmを超えるような比較的外径の大きな細線の場合は、取扱いが容易で素線をまっすぐに延伸することが簡単であるため、無機物又は有機物の被覆層の形成において外径の均一性をある程度確保することは容易である。また、これらの被覆層は厚さに多少のバラツキがあっても、細線の外径が比較的大きいため、機械的強度や可撓性を保持することが可能である。絶縁性、耐久性及び耐環境性については、被覆層として最小限の厚さを確保すれば特性的には大きな問題が発生しないため、厚さのバラツキをそれほど考慮する必要が無くなる。そのため、比較的外径の大きな細線へのコーティング方法としては、従来のディッピング法(浸漬法)、スプレー法又は刷毛塗り法で十分に対応することができた。その中で、前記の特許文献1、3に記載されているようなディッピング法(浸漬法)が、被覆層の均一性と外観に優れ、塗着効率も高くできることから、主に使用されている。
【0009】
それに対して、外径が100μm以下の細線においては、従来のコーティング方法によって、緻密で、且つ、均一な厚さを有する被覆層を形成することが非常に難しい。被覆層が薄い場合、厚さのバラツキは、被覆細線の機械的強度や可撓性だけではなく、絶縁性等の電気的特性、耐熱性、耐環境性及び耐久性に大きな影響を与える。被覆層の厚さのバラツキによる影響を小さくするために被覆層を厚く形成する場合は、被覆層を形成するための工数や材料費がかさむ。例えば、前記で述べたディッピング法は、厚さを制御して比較的厚い被覆層を形成する場合には、低粘度のコーティング溶液を用いて塗布及び乾燥の工程を何度も繰り返す必要があり、手間と時間がかかる。逆に、塗布及び乾燥の工程を少なくするために高粘度のコーティング溶液を用いる場合は、被覆層の厚さの均一性を確保することが難しくなる。また、被覆層の材質によっては細線の機械的強度や可撓性の大幅な低下を招く。加えて、被覆層を厚くすることは、狭い箇所や空間への配置や高密度配線という本来の特徴を大きく損なうことになる。
【0010】
以上の点から、100μm以下の細線では、被覆層の厚さの均一性を従来以上に保持する必要があり、特に、被覆層を必要以上に厚くしないで、緻密な構造と均一な厚さを有する被覆層を形成することができるコーティング方法が強く求められている。一方で、耐熱性や耐久性等の信頼性を確保するために、ある程度の厚さを有する被覆層を形成する必要がある場合には、多くの手間と長時間を要しない簡便なコーティング方法であることが望ましい。
【0011】
しかしながら、前記の特許文献2に記載のポリイミドをコーティングした熱電対は、絶縁性と耐水性を有するものの、電圧上昇が5V程度以下に対応したものであり、厳しい条件に適する構成であるのか否かが不明である。また、刷毛による塗布法は、再現性や量産性に乏しく、被覆層の均一性と外観が他の方法と比べて大きく劣ることは良く知られていることである。
【0012】
前記の特許文献4に記載の被覆層は厚さ10μm以上で形成されているが、具体的なコーティング方法が開示されておらず、それより薄い被覆層において均一な厚さを有する被覆層が形成できるものなのか否かが不明である。
【0013】
前記の特許文献5及び6に記載の被覆ボンディングワイヤは、ディップコーティング方法で被覆層が形成されるが、折れ不良防止や8V程度の絶縁性が求められる半導体装置に使用されるものであり、適用分野が限られている。また、形成される被覆層が膜厚の均一性をどの程度まで向上しなければならないかといった技術課題については何等触れられていない。一般的に被覆層の膜厚が数μm以上と厚くなるに伴い、膜厚の均一性を確保するのが難しくなる。
【0014】
前記の特許文献7に記載の極細線絶縁電線も、絶縁層の膜厚として具体的に記載されているのは約10μmであり、この膜厚の場合は厚さの均一性がそれ程求められておらず、従来のディップコーティング方法によって被覆層の形成が行われている。また、前記の特許文献4に記載の熱電対と同じように、それより薄い被覆層においても均一な厚さを有する断熱性被覆層が形成できるものなのか否かについても不明である。
【0015】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、無機物又は有機物からなる細線、特に外径が100μm以下である前記の細線の表面に無機物又は有機物の被覆層を、従来の方法よりも均一な膜厚で、且つ、簡便に形成することができるコーティング方法及び該コーティング方法によって製造される被覆細線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、均一な厚さを有する被覆層を形成し、さらに、機械的強度、可撓性、絶縁性等の電気的特性、耐熱性、耐環境性及び耐久性の少なくとも何れか一つの特性を保持するために必要な厚さの被覆層を短時間で簡便に形成できるようなコーティング方法について検討した結果、コーティング溶液の液滴を利用した新規なコーティング方法によって上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
【0017】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
(1)本発明は、無機物又は有機物からなる細線の表面に被覆層を形成するためのコーティング方法であって、前記被覆層を形成するために使用されるコーティング溶液を液滴保持用の治具先端又は基板上に点着して保持形成した液滴中に、前記細線を通過させることによって前記細線の表面に前記コーティング溶液をコーティングした後、室温又は加熱による乾燥処理、加熱処理及び光照射処理の少なくとも何れか一つの処理を行って、前記細線の表面に前記被覆層を形成することを特徴とする細線のコーティング方法を提供する。
(2)本発明は、前記の液滴中に細線を通過させる方法として、前記細線を抱合した状態の前記液滴を前記細線の長手方向に移動することによって行うことを特徴とする前記(1)に記載の細線のコーティング方法を提供する。
(3)本発明は、前記細線を抱合した状態の前記液滴を前記細線の長手方向に移動する操作を2回以上行うことによって、前記細線の表面に所定の厚さを有する前記コーティング溶液からなる層を形成することを特徴とする前記(2)に記載の細線のコーティング方法を提供する。
(4)本発明は、前記液滴の中に前記細線を通過させる方法として、前記液滴を前記細線の長手方向に2個以上形成し、前記細線が前記2個以上の液滴中を連続的に通過するように前記細線を移動することを特徴とする前記(1)に記載の細線のコーティング方法を提供する。
(5)本発明は、前記(1)〜(4)の何れかに記載のコーティング方法によって形成される前記被覆層を有する細線の
製造方法であって、前記細線の外径が100μm以下で、前記被覆層の厚さが0.1〜5μmであり、且つ、前記被覆層を有する細線の外径の平均値(μ)と標準偏差(σ)の比で表される変動係数(CV=σ/μ)が20%以下であることを特徴とする被覆細線
の製造方法を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、液滴保持用の治具先端又は基板上に点着して保持形成したコーティング溶液からなる液滴中に細線に通すことによって、前記細線の表面にコーティングされるコーティング溶液層の厚さを前記細線の半径方向及び長手方向において均一に制御できる。さらに、前記細線を抱合した状態の前記液滴を前記細線の長手方向に移動することによって、コーティング溶液層の厚さを変動させる原因のひとつである細線の移動という操作が不要となるため、コーティング溶液層の厚さの均一性が向上する。
【0019】
本発明によれば、細線の表面にコーティングされるコーティング溶液層の厚さは、前記細線を抱合した状態の前記液滴を前記細線の長手方向に移動する操作の回数によって制御できるため、前記液滴の連続往復移動によるコーティング操作とその後の乾燥及び/又は加熱や光照射によって所望の膜厚を有する被覆層を形成できる。そのため、本発明の方法は、コーティング操作とその後の乾燥からなる1バッチの処理を何度も繰り返す従来のディッピング方法と比べて非常に簡便な方法であり、コストと時間の大幅な削減ができる。また、本発明によれば、前記液滴を前記細線の長手方向に2個以上形成し、前記細線が前記2個以上の液滴中を連続的に通過するように前記細線を移動する方法を採用することによっても、同様に、所定の膜厚を有するコーティング溶液からなる層を簡便に形成することができる。
【0020】
以上のコーティング方法を用いて製造される被覆細線は、細線の外径が100μm以下で、被覆層の厚さが0.1〜5μmであり、且つ、前記被覆層の膜厚の均一性の向上によって前記被細線の外径の均一性が従来よりも優れるため、一層の高性能化、高機能化及び高信頼性化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明によるコーティング方法を模式的に示した図である。
図1の(a)は液滴保持用の治具先端1に点着して保持形成したコーティング溶液からなる液滴2中に細線3を通過させる方法を示し、
図1の(b)は液滴保持用基板4の上に保持形成したコーティング溶液からなる液滴2中に細線3を通過させる方法を示す。
【0023】
図1に示すように、本発明のコーティング方法は、次のような特徴を有する。すなわち、コーティング溶液を厚く塗布するために高粘度溶液を用いる場合、従来のディッピング法やはけ塗り法では、局所的な液だれや液玉の発生等があるために膜厚の制御が難しく、加えて塗布溶液表面の平滑性が劣る場合が多いが、
図1の方法を使用することによってこれらの問題を改善できる。また、従来のスプレー法でも高粘度の溶液を用いて均一な厚さに塗布することは難しいが、
図1の方法は溶液の粘度による制約をあまり受けない。一方、コーティング溶液を薄く塗布する工程を複数回繰り返すことによって所定の膜厚にする場合、デッピング法やはけ塗り法では1回の処理で形成できる膜厚の制御が難しく、最終的に形成される被覆層は厚さのバラツキが大きくなる傾向にある。また、上記で述べたように、ディッピング法はコーティング操作とその後の乾燥工程からなる1バッチの処理を何度も繰り返すため、多くの手間と長時間を要する。同じようなことはスプレー法でも起きるが、スプレー法ではさらに溶液の使用量が多くなって塗着効率が低下する等の問題もある。それに対して、
図1に示す本発明のコーティング方法は、1回の塗布で形成できる溶液層の厚さを均一に制御できるため、多数回の塗布後でも最終的に均一な膜厚を有する被覆層を形成できるという利点を有する。
【0024】
また、本発明のコーティング方法は、コーティング溶液の液滴を利用する方法であり、大気中に曝されるコーティング溶液の量は従来のディッピング法やはけ塗り法と比べて少なくなる。コーティング溶液が、例えば、溶剤等の揮発成分を多く含む場合や加水分解しやすい成分である場合は、コーティング処理中に溶液の増粘や変質が起こりやすい。コーティング溶液の量を多く使用する従来のディッピング法やはけ塗り法では、これがコーティング層の膜厚制御を難しくしていた。しかし、
図1に示すように、本発明のコーティング方法は、コーティング時に少量の液滴を用いるために、この問題を回避できる。本発明では、コーティング回数に応じて新しい液滴を形成するための必要なコーティング溶液量を順次、供給又は補給する方法を採用することによって液滴形成を行うことができる。この点については、後述する。
【0025】
さらに、コーティング時に使用するコーティング溶液の減量は、使用済みの残存溶液の破棄量を少なくできるという利点も有する。上記で述べたように、コーティング溶液は増粘や変質する場合が多く、その再利用は、コーティング性や形成される被覆層の特性に悪影響を与える懸念が強いため実質的に難しい。したがって、使用済みの残存溶液の減量は、その廃棄に伴う経済的及び環境的な負荷を低減できることから、本発明の大きな特徴でもある。
【0026】
図1の(a)に示すように、コーティング溶液からなる液滴2は、液滴保持用治具1の先端に保持される。上記のコーティング溶液からなる塗布層は、細線3を液滴保持用治具1の先端に保持形成される液滴2中に通過させることによって形成する。このとき、細線3はたるみが出ないようにするため、引っ張り又は延伸の状態で保持する。その状態で、必要に応じて細線3の両端は固定してもよい。細線3を液滴2中に通過させる方法としては、液滴2の位置を固定して、細線3が液滴2に抱合された状態で細線3を移動させる方法と、細線3を固定して、細線3を抱合した状態の液滴2を細線3の長手方向に移動する方法がある。本発明では両者の方法のどちらも用いることができるが、塗布が容易であり、塗布装置を簡便にできるだけではなく、塗布される溶液層の厚さの均一性を確保しやすいという点から、後者の細線3を固定して液滴2を移動する方法が好適である。
【0027】
図1の(b)に示す方法は、本発明で使用する上記の溶液からなる液滴2が液滴保持用基板4の上に保持形成される。液滴保持用基板4は、液滴2の基板4に対する接触角が90度以上となるようなものを使用する。例えば、テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、又はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等の炭化水素系樹脂等からなる基板を使用することができる。また、フッ素系化合物によって表面改質された無機又は有機基板を使用してもよい。上記の溶液からなる塗布層は、
図1の(a)と同じように、細線3を、基板4上に形成して保持される液滴2中に通過させることによって形成する。このとき、細線3はたるみが出ないようにするため、引っ張り又は延伸の状態で保持する。その状態で、必要に応じて細線3の両端は固定してもよい。細線3を液滴2中に通過させる方法としては、基板4上の液滴2の位置を固定して、細線3が液滴2に抱合された状態で細線3を移動させる方法と、細線3を固定して、基板4を、細線3を抱合した状態の液滴2とともに細線3の長手方向に移動する方法がある。本発明では両者の方法のどちらも用いることができるが、塗布が容易であり、塗布装置を簡便にできるだけではなく、塗布される溶液層の厚さの均一性を確保しやすいという点から、後者の細線3を固定して基板4を液滴2とともに移動する方法が好適である。
【0028】
図1に示す方法において、塗布速度、すなわち細線3又は液滴2の移動速度は塗布厚さと作業性に応じて任意に選ぶことができるが、本発明においては1mm/秒〜200mm/秒の範囲に調整する。また、本発明においては、細線3の表面に形成する被覆層を厚くしたい場合には、高粘度の溶液を用いて1回で塗布を行うよりも、
図1に示すように、細線3又は液滴2の移動を2回以上の多数回で行うことが好ましい。例えば、被覆層の厚さを0.1〜5μmの範囲で形成するときには、塗布溶液の粘度を低くして塗布の往復回数を1〜100回程度とすることによって、最終的に形成される無機系絶縁物被覆層は、緻密な構造を有するだけでなく、膜厚の均一性が非常に高くなる。本発明において、細線3又は液滴2の移動は比較的高速で行うことができるため、多数回の塗布でも塗布時間は比較的短くできる。
【0029】
図1の(a)に示す液滴保持用治具1としては、ディスペンサの吐出ノズル先端でもよいし、また、樹脂、セラミックス又は金属の棒であってもよい。液滴保持用治具1が吐出ノズル先端である場合は、ノズル内部からコーティング溶液の供給を行うことができる。
【0030】
また、液滴保持用治具1として、樹脂、セラミックス又は金属の棒材を使用する場合は、
図2に示す本発明の液滴作成方法のように、その先端部にコーティング溶液を供給するための多重の溝又は孔5を設けても良い。液滴保持用治具1の棒材はコーティング溶液6に浸漬して引き上げて先端部に液滴2を形成した後、コーティング処理のために使用される。コーティング処理中は、多重の溝や孔5に存在するコーティング溶液6が棒の先端部へ供給又は補給されるため、液滴の大きさを一定に保つことができるようになる。それによって、コーティング回数を増やしても塗布ムラの発生を抑制するという効果を奏する。
【0031】
上記の液滴保持用治具1の棒材は、別の構造として
図3に示すように中空状とすることができる。その中空部にコーティング溶液6を充填すれば、コーティング溶液6は外部と通じる穴7から浸み出して、多重の溝や孔を介して液滴保持用治具1である棒材の先端部に供給又は補給されるため、液滴の大きさを一定にすることできる。コーティング溶液6の外部への浸み出し量は、通常のディスペンサを用いる場合と同じように、圧力によって調整する。
【0032】
このように、
図2及び
図3に示す形状を有する液滴保持用治具1は、塗布ムラの発生を抑える機能を有するため、コーティング溶液から形成される塗膜の膜厚制御性が向上するだけではなく、量産性の点からも本発明において好適である。
【0033】
次に、
図4及び
図5を用いて、本発明のコーティング方法について好適な実施形態を説明する。
図4は、
図1の(a)に示す方法において、細線3を固定して、液滴保持用治具1の棒材の先端部に保持形成した液滴2を移動するコーティング方法である。また、
図5は、
図1の(b)に示す方法において、細線3を固定して、液滴保持用基板4の上に保持形成した液滴2を移動するコーティング方法である
【0034】
図4の(a)に示すように、細線3が固定された固定治具8をセットして、
図2又は
図3に示す形状を有する液滴保持用治具1の棒材をY、Z軸方向に可動できるように取り付ける。固定治具には、あらかじめ細線が張力をかけて両サイドで固定されている。また、液滴保持用治具1の棒材の先端部にも、
図2に示す方法によって、あらかじめコーティング溶液からなる液滴2が保持形成されている。続いて、
図4の(b)に示すように、Y、Z軸可動部によって、液滴2が細線3を抱合するように液滴保持用治具1の棒材の位置を調整する。その後、
図4の(c)に示すように、液滴保持用治具1の棒材を液滴2とともにX軸方向に一方向移動又は往復移動を行って、細線3の表面にコーティング処理を行う。
【0035】
液滴保持用として基板4を使用する場合は、
図5の(a)に示すように、細線3が固定された固定治具8をセットして、表面上に液滴2を保持形成した基板4をY、Z軸方向に可動できるように取り付ける。続いて、Y、Z軸可動部によって、液滴2が細線3を抱合するように基板4の位置を調整した後、基板4を液滴2とともにX軸方向に一方向移動又は往復移動を行って、細線3の表面にコーティング処理を行う。
図5の(a)は、固定治具8が基板4の下方にセットされているが、本発明においては、
図5の(b)に示すように、固定治具8と基板4の取付け場所を変えて、固定治具8が基板4の上方にセットした後、基板4を液滴2とともにX軸方法に一方向移動又は往復移動を行って、細線3の表面にコーティング処理を行う方法を採用してもよい。
【0036】
このとき、X軸、Y軸及びZ軸の可動方向、移動距離、移動回数及び移動速度をプログラム等によって制御できる装置やロボット等を使用すれば、
図4及び
図5に示すコーティング方法は連続的な処理を行うことができる。往復移動の速度と回数は、細線表面に形成するコーティング溶液の膜厚と作業性に応じて任意に選ぶことができ、液滴保持用治具1の棒材又は液滴保持用基板4の位置決めと同様に、自動的な制御が行われる。コーティング溶液の膜厚は、その後に行われる室温又は加熱による乾燥処理、加熱処理及び光照射処理の少なくとも何れか一つの処理によって製造される被覆細線の被覆層の厚さに基づいて決められる。上記で説明したように、本発明において、液滴の移動速度は1mm/秒〜200mm/秒の範囲に、また、移動の往復回数は、コーティング溶液の膜厚にも依存するが、作業性を考慮して1〜100回の範囲に設定するのが好ましい。
【0037】
図6は、本発明によるコーティング方法の別の実施形態を模式的に示す図である。
図6の(a)に示す方法は、液滴保持治具1の先端部に液滴2を形成したコーティング治具を3個直列に並べて、細線3を液滴2中に順次、通過させることによって、多数回のコーティング処理を連続的に行う。また、
図6の(b)は、液滴保持用基板4の上に液滴2を直列に3個並べて、細線3を液滴2中に順次、通過させて、同様に多数回のコーティング処理を連続的に行う方法を示している。これらのコーティング方法は、細線3を1方向に移動するだけで塗布回数を自動的に3回行うことができることから、コーティング処理時間の短縮を図ることができる。
【0038】
図6に示す本発明によるコーティング方法は、液滴2の位置を固定して、細線3を一方向に移動させても良いし、細線3を往復移動させても良い。また、細線3を固定して、細線3を抱合した状態の液滴2の3個を細線3の長手方向に同時に一方向へ移動しても良いし、同時に往復移動させても良い。本発明ではこれらの方法の何れも使用することができるが、細線3を一方向又は往復で移動させる方法が、液滴2の3個を同時に移動する方法よりもコーティング処理作業が容易になる。細線3を移動させる方法を採用しても、コーティング処理の3工程分を連続的に一度の処理で行うことができるため、塗布される溶液層の厚さの均一性を
図1の場合よりも確保しやすくなる。
【0039】
図6には液滴を直列に3個並べた例を示しているが、本発明は液滴の個数は3個に限定されず、2個以上であればコーティング処理時間の短縮化という目的を達成することができる。直列に配列する液滴の数が多くなれば、コーティング処理時間の大幅な短縮が図ることができるが、逆に、液滴保持治具の数が多くなると、コーティング装置を設置するために広いスペースが必要であること、また、各液滴保持治具の先端部に形成する液滴の大きさや濃度を均一にするための管理が必要になること等の点から、配列する液滴は10個以下にするのが好ましい。さらに、各液滴保持治具間の間隔についても、コーティング処理時間、作業スペース及び膜厚制御の観点から、任意の長さに設定することができる。ここで、各液滴保持治具間の間隔はどれも同じ長さにする必要はなく、細線3を通過させる液滴保持用治具の順序に応じて、その間隔は変えてもよい。
【0040】
本発明のコーティング方法は、金属細線、樹脂細線、セラミックス細線又は炭素細線に適用することができる。金属細線としては、例えば、アロメルークロメル合金、銅−コンスタンタン、鉄−コンスタンタン、クロメルーコンスタンタン、白金、白金−ロジウム合金、タングステン・レニウム合金、ニッケルーモリブデンン白金等の熱電対用金属細線、金、アルミニウム、銅等のボンディングワイヤ線、銅又は銅合金等の電線ケーブル用細線等が挙げられる。樹脂細線としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルニトリル等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ベンゾエート系樹脂の単繊維又は撚り繊維等が挙げられる。セラミックス細線としては、例えば、アルミナ、シリカ、アルミナシリカ、SiC等の単繊維又は撚り繊維等が挙げられる。また、本発明は、炭素繊維の特性向上や改質を行うための表面コーティング方法として適用しても良い。
【0041】
本発明のコーティング方法を上記の各種細線に適用する際に、各種細線の外径からの制約は特になく、サブ数ミクロン〜数mmの範囲を有する外径に適用することができる。しかしながら、本発明は、従来のディッピング法、スプレー法及び刷毛塗り法等ではコーティング層の膜厚制御が困難であった外径が100μm以下の細線に適用することが可能で、しかもコーティング層の形成が簡便であるという点で、大きな特徴を有する。
【0042】
本発明において、上記の細線にコーティングを行う際に使用するコーティング剤は、被覆細線の被覆層が有機物又は無機物となるものを使用することができる。有機物の被覆層を形成するコーティング剤としては、無溶剤で又は粘度調整のために溶剤を含む有機化合物からなるコーティング溶液が使用される。無溶剤型コーティング溶液としては、前記の特許文献7にも記載されているように、例えば、コーティング処理後に加熱または光照射によって硬化して樹脂被覆層を形成するモノマー又はオリゴマーを含む組成物が挙げられる。溶剤型コーティング溶液としては、コーティング層を形成する樹脂を溶剤に溶解又は分散したもの、例えば、ポリウレタンワニス、ポリエステエルワニス、アクリルワニス等が使用される。また、ポリアミドイミドワニス、ポリエステルイミドワニス又はポリイミドワニス等のように、これらの樹脂の前駆体を溶剤に溶解又は分散した溶液をコーティング処理後に加熱することによって、さらに硬化反応を進めて耐熱性及び耐久性に優れる被覆層を形成することができる。また、樹脂だけではなく、低分子の有機化合物やワックス等を用いてもよい。これらのコーティング剤は、溶剤(水も含む)に溶解又は分散させて粘度を調整した後、室温又は加熱による乾燥を行って、コーティング層が形成される。
【0043】
上記の無機物の被覆層を形成するコーティング剤としては、セラミックスや有機金属化合物又は該有機金属化合物の加水分解及び/又は縮合反応によって調整される有機金属化合物のポリマを含む溶液又は粘稠物を使用することができる。これらの無機物からなるコーティング剤は、細線の表面にコーテイングした後、室温で、若しくは加熱して形成される。これら無機物被覆層形成時の加熱温度は、加水分解及び/又は縮合反応を促進させて耐熱性を上げるために、一般に500℃以上の高温に設定される。しかし、本発明を外径が100μm以下である細線のコーティング方法に適用する場合は、細線が極細であるため、熱的なダメージが非常に大きく酸化されやすくなるので、加熱温度はできるだけ低めに設定することが好ましい。加熱温度を低めに設定することによって、無機物被覆層の収縮が小さくなるだけでなく、細線との熱膨張係数の差による応力発生も低減できるため、細線との密着性が向上して細線の性能と信頼性の向上を図ることができるという効果を得ることができる。
【0044】
このようにして得られる無機物被覆層は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化バリウム及び酸化バナジウムからなる群の少なくとも1種の金属酸化物を含む。この場合、無機物被覆層は、絶縁性だけではなく、用途に応じて金、銅、インジウム、ニッケル、スズ等の導電性粒子を含有させて導電性又は半導電性を付与しても良い。また、無機物被覆層としては、前記の金属酸化物の他にも、耐熱性を損なわない程度の量で、炭素数が1〜8のアルキル基、ビニル基、エーテル基又はエステル基を含んでも良い。これらの基は、無機物被覆層に柔軟性を与えるという効果を有するため、熱電対の使用温度範囲に応じて含有量を調整する。ここで、熱電対の耐熱性と絶縁性の大幅な低下を避けるためには、これらの基の含有量は合計で無機系絶縁物に対して20モル%以下、好ましくは10モル%以下にする必要がある。
【0045】
また、本発明は、細線の強度、可撓性、耐久性及び耐環境性を向上させるために、構造が緻密で、且つ、細線の半径方向及び長手方向において膜厚の均一性が高い被覆層を形成する場合に適用できる。その目的を達成するためのコーテイング組成物としては、金属アルコキシド、金属アルコキシドのポリマ、及びポリシラザン系化合物からなる群の少なくとも1種を含む溶液を用いることが好ましい。これらの溶液は、ゾル−ゲル法によって金属酸化物を得るために使用されるものであり、低温で、かつ緻密な構造を有する無機系絶縁物を形成することができる。
【0046】
本発明のコーティング方法によって細線表面に形成する被覆層において膜厚の制約は特になく、サブ数ミクロン〜50μmの範囲に適用することができる。しかしながら、本発明は、上記で述べたように、外径が100μm以下の細線に適用したときに、従来のコーティング方法よりも被覆層の膜厚制御が優れるという特徴を活かすことができる。その際に形成される被覆層の膜厚は、0.1〜5μmの範囲が好ましい。被覆層の膜厚が0.1μm未満と非常に薄くなると緻密な被覆層を形成することが難しくなり、水(塩水を含む)又は腐食性ガス又は液体の浸入による熱電対細線の耐腐食性や耐熱性が低下する等の問題が発生して、熱電対の性能と信頼性が低下する場合がある。また、外径が100μm以下の細線の表面に厚い被覆層を形成しても、細線の強度、可撓性、耐久性及び耐環境性を向上させるために必要な緻密な構造を形成することができず、加えて、熱電対の半径方向及び長手方向において均一な膜厚を保持することが難しくなる。膜厚の制御を高精度で行うためにコーティング処理を多数回繰り返すことも可能であるが、その場合はコーティング処理回数を増やす必要がある。特に、被覆層の膜厚が5μmを超えると、コーティング処理回数が大幅に増えるため、従来のディッピング方法に対する製造の工数及びコストの低減効果が薄れる。
【0047】
次に、本発明のコーティング方法による被覆細線の製造方法について説明する。以下に示す工程は、被覆層を形成する際に、乾燥工程及び/又は加熱工程を含む被覆細線の製造方法の例である。
【0048】
(1)塗布工程
細線、特に外径が100μm以下の細線の表面に、被覆層を形成するためのコーティング溶液を本発明のコーティング方法によって塗布する。なお、光照射によって被覆層を形成する場合は、この塗布工程で形成されたコーティング溶液層に紫外線や電子線等を照射することによって被覆細線を製造することができる。この場合、必要に応じて、次の乾燥工程及び/又は熱処理工程を含んでもよい。
【0049】
(2)乾燥工程
上記の(1)の工程においてコーティング溶液が塗布された前記の細線を室温で、又は200℃以下の温度で乾燥する。乾燥時の温度は、室温から連続的に、又は段階的に上昇させて最終温度を200℃以下に設定した条件で行うことができる。また、温度を連続的又は段階的に変えなくとも、室温から200℃以下の範囲において所定の一定温度で乾燥を行ってもよい。
【0050】
(3)熱処理工程
上記の(2)乾燥工程の乾燥工程の後に、コーティング組成物に含まれるコーティング剤の硬化反応、縮合反応、加水分解反応又は酸化反応を促進させるために、前記のコーティング溶液が塗布された細線をさらに高温、具体的には200℃を超える温度で加熱処理する。加熱処理は、上記の(2)乾燥工程に続いて、温度を200℃から連続的に、又は段階的に上昇させて最終温度を200℃を超える範囲の何れかの温度に設定した条件で行う。また、上記の(2)乾燥工程の後、温度を下げて前記のコーティング溶液で塗布された細線を乾燥炉から取り出してから、再度、熱処理炉に入れて連続的又は段階的に温度を上昇して加熱処理を行ってもよい。また、加熱処理は、温度を連続的又は段階的に変えなくとも、200℃を超える範囲において所定の一定温度で行ってもよい。
【0051】
被覆細線は、上記の(1)塗布工程及び(2)乾燥工程からなる工程経路(A)、又は上記の(1)塗布工程、(2)乾燥工程及び(3)熱処理工程からなる工程経路(B)の2つの経路を経て製造される。上記のコーティング組成物を室温又は200℃以下の温度で処理して被覆層を形成する場合は、上記の(2)の乾燥工程の加熱時間を調整することによって細線の表面に被覆層を形成してもよい。これが、前記の工程経路(A)に相当する。また、200℃を超えた温度で熱処理する必要がある場合は、さらに(3)熱処理工程を加えた前記の工程経路(B)を経由して被覆細線を製造する。
【0052】
本発明においては、上記の(1)塗布工程、(2)乾燥工程、及び(3)熱処理工程の少なくとも何れか1つの工程を経ることによって、所定の厚さを有する被覆層を形成する。また、より厚い被覆層を形成するために、上記の(1)塗布工程、(2)乾燥工程、及び(3)熱処理工程の少なくとも何れか1つの工程を2回以上繰り返してもよい。本発明においては、コーティング組成物を用いて(1)塗布工程を複数回を繰り返すことによって、コーティング層を所定の厚さまで塗布した後、上記の(2)乾燥工程、又は(2)乾燥工程+(3)熱処理工程を行う方法を通常は採用する。また、上記の(1)塗布工程+(2)乾燥工程を複数回行って、所定の厚さの被覆層とし、必要であれば上記の(3)熱処理工程を行ってよい。さらに、手間と時間は要するものの、(1)塗布工程+(2)乾燥工程+(3)熱処理工程を複数回行って所定の厚さの無機系絶縁物被覆層を形成することもできる。
【0053】
本発明においては、上記の工程経路(A)又は工程経路(B)のどちらかを経て細線の表面に被覆層を形成した後、その層の外方に、別のコーティング組成物を用いて新たな被覆層を形成することによって、2層の被覆層を形成してもよい。例えば、被覆層の第1層目は無機物被覆層であり、第2層目が被覆細線の可撓性や耐摩耗性を向上させるためにポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂から成る群の何れか1種によって形成される有機物被覆層の場合である。この被覆細線は、無機物被覆層と有機物被覆層の両者の特徴を兼ね備えるものとすることができる。本発明のコーティング方法は、前記の2層に限らず、3層以上の被覆層を形成する際にも適用することができる。
【0054】
上記で述べたように、本発明のコーティング方法は膜厚制御に優れるため、均一な膜厚を有する被覆層を有する被覆細線を製造することができる。本発明で形成される被覆層の膜厚均一性は、様々な方法によって把握することができる。例えば、製造された被覆細線を長手方向の異なる位置で切断した後、その断面を顕微鏡又は電子顕微鏡(SEM)を用いて観測して、各位置のデータを統計的な処理を行う。この方法は、被覆層の半径方法及び長手方向における膜厚均一性を正確に把握できるが、切断処理と断面観測に手間と時間を有する。そのため、本発明では、製造される被覆細線について長手方法の各位置をマイクロメーターによって計測するか、又はレーザーによる円径計測法によって求めることがより簡便である。このとき、被覆層の半径方向における外径のバラツキは、被覆細線を90度回転した位置の外径を、回転前の同じ位置で測定した外径と比較することによって把握することができる。本発明においては、自動的な測定とデータ処理ができるため、レーザーによる連続的な円径計測法が好適である
【0055】
このようにして計測される被覆細線は、測定された外径の平均値(μ)と標準偏差(σ)の比で表される変動係数(CV=σ/μ)に基づいて、被覆層の膜厚均一性を把握する。被覆細線の変動係数には、被覆層の膜厚だけではなく、細線そのものの外径のバラツキも含まれる。しかし、外径が100μm以下の細線は、外径バラツキが通常、数ミクロンμm以下であり、細線そのものに起因する変動係数(CV)は数%以下と非常に小さい。したがって、被覆層の膜厚均一性は被覆細線の外径測定データを用いて統計的処理される変動係数(CV)によって把握することができる。本発明においては、変動係数(CV)は20%以下であることが好ましく、10%以下がより好ましい。変動係数(CV)が20%以上を超えると、被覆層の膜厚均一性が大きく劣り、被覆細線の取扱い性や性能及び信頼性の低下が顕著になる。特に、外径が100μm以下で、被覆層の膜厚が0.1〜5μmである被覆細線において、変動係数(CV)を10%以下に規定することによって、従来のディッピング方法、スプレー法又は刷毛塗り法で得ることが難しかった膜厚均一性を十分に得ることができる。
【0056】
本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1〜4]
図2に示す方法で、ペルヒドロポリシラザンの5質量%とアミン系触媒を含むキシレン溶液中に液滴保持治具1の金属棒を浸漬させてから引き上げて、この金属棒の先端部に点着した液滴を形成した。次に、
図4に示すように、この金属棒をY、Z軸可動部にセットした後、この金属棒の先端部に保持形成された液滴2中に、外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線3が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した。続いて、前記金属棒の往復移動をX軸方向で個別に1回、5回、10回又は20回と繰り返してコーティングを行い、コーティング処理完了後のそれぞれの細線を150℃で1時間の乾燥を行った。その後、室温まで自然冷却して、厚さがそれぞれ0.1μm、0.3μm、0.5μm又は1.0μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する被覆細線を作製した。ここで、シリカ(SiO
2)被覆層の膜厚が0.1μm、0.3μm、0.5μm及び1.0μmである被覆細線が、それぞれ実施例1、2、3及び4に相当する。
【0058】
[実施例5]
実施例1〜4と同じコーティング溶液を用いて、液滴保持治具の金属棒を浸漬させてから引き上げて、この金属棒の先端部に点着した液滴を形成した。この金属棒の先端部に保持形成された液滴中に、外径が20μmのクロメル−アルメル合金からなる細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した。続いて、前記金属棒の往復移動を70mm/秒の条件でX軸方向に40回繰り返してコーティングを行い、コーティング処理完了後のそれぞれの細線を150℃で1時間の乾燥を行った。その後、室温まで自然冷却して、膜厚が約2.0μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する被覆細線を作製した。
図7に、本実施例によるシリカ(SiO
2)被覆層9を有する被覆細線の外観をSEM観察した写真を示す。
図7の(a)は、倍率が500倍の写真であり、
図7の(b)は同じ被覆細線の外観を倍率2000倍で撮影した写真である。
図7に示すように、本実施例の被覆細線は、表面が平滑で、均一な外径を有しており、被覆層の膜厚均一性に優れることが分かる。
【0059】
[実施例6〜7]
実施例1〜4と同じ方法で、ペルヒドロポリシラザンの20質量%とアミン系触媒を含むジブチルエーテル溶液中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が25μmのクロメル−アルメル合金からなる細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した後、前記金属棒の往復移動をX軸方向で個別にそれぞれ2回又は4回繰り返した後、150℃で1時間の乾燥を行った。最終的に膜厚が1.0μm又は1.5μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する被覆細線を作製した。
【0060】
[実施例8〜9]
実施例1〜4と同じ方法で、ペルヒドロポリシラザンの20質量%とアミン系触媒を含むジブチルエーテル溶液中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記の金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した後、前記金属棒の往復移動をX軸方向で個別にそれぞれ10回又は25回繰り返した後、150℃で1時間の乾燥を行った。最終的に厚さが2.0μm又は4.5μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する被覆細線を作製した。ここでシリカ(SiO
2)被覆層の膜厚が2.0μm及び4.5μmである被覆細線が、それぞれ実施例8及び実施例9に相当する。
【0061】
[実施例10]
図1の(b)に示す方法で、ペルヒドロポリシラザンの5質量%とアミン系触媒を含むキシレン溶液をテトラフルオロエチレンの基板上に滴下して該基板上に液滴を保持形成する。
図5の(a)に示すように、前記液滴を有する基板4をY、Z軸可動部にセットした後、基板4上に形成された液滴2中に、外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線3が抱合されるように、基板4の位置を調整した後、基板4の往復移動をX軸方向で20回繰り返した後、150℃で1時間の乾燥を行った。最終的に膜厚が1.0μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する熱電対を作製した。
【0062】
[実施例11]
実施例1〜4と同じ方法で、ポリイミド前駆体ワニスを含む溶液中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した後、前記金属棒の往復移動をX軸方向に4回繰り返した後、400℃の炉中を3m/分で通過して焼成することによって、膜厚が1μmのポリイミド被覆層を有する被覆細線を作製した。
【0063】
[比較例1〜3]
外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線を、ペルヒドロポリシラザンの5質量%とアミン系触媒を含むキシレン溶液中にディッピングした後、60℃で1時間の乾燥を行った。この(コーティング工程+乾燥工程)を1バッチとして1回、10回又は20回繰り返して、最終的に膜厚がそれぞれ0.1μm、0.5μm又は1.0μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する被覆細線を作製した。ここで、シリカ(SiO
2)被覆層の膜厚が0.1μm、0.5μm及び1.0μmである被覆細線が、それぞれ比較例1、2及び3に相当する。
【0064】
[比較例4]
外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線に、ペルヒドロポリシラザンの5質量%とアミン系触媒を含むキシレン溶液中をスプレーによって噴霧した後、60℃で1時間の乾燥を行った。この操作を1回行って、膜厚が0.08μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する被覆細線を作製した。
【0065】
以上のようにして作製した熱電対について、(A)絶縁性、(B)塩水に対する耐腐食性、及び(C)膜厚の均一性を評価した。評価方法は次の通りである。
【0066】
(A)絶縁性評価
コーティングした被覆細線の5箇所を30mmおきに等間隔で銀ペーストを用いて固定した後、各間隔の間の導通を調べた。各間隔の間の導通は、抵抗計で抵抗率を測定することによって評価した。すべての間隔において抵抗率が10
14Ω以上であるものを(○)、一箇所でも10
12〜10
14Ω以下を示すものを(△)、また、一箇所でも10
12Ω未満の抵抗率を示すものを(×)として評価した。
(B)耐腐食性評価
JIS H2371規格に準拠して、噴霧溶液組成として50g/l(リットル)NaCl水溶液を用いて、雰囲気温度35℃、噴霧条件1.5ml/80cm
2.hrの条件で、コーティング後の被覆細線について24時間及び72時間の塩水噴霧試験を行った。試験後の被覆細線について、熱電対素線とシリカ被覆層との界面における変色又はシリカ被覆層の剥離状態を光学顕微鏡又はSEMを用いて調べた。72時間放置後においても変色又は剥離が全く観察されなかったものを(○)、変色又は剥離が24時間放置後は観察されないが、72時間放置後で観察されたものを(△)、また、変色又は剥離が24時間放置後ですでに観察されたものを(×)として評価した。
(C)膜厚の均一性評価
コーティングした被覆細線の20箇所を5mmおきに等間隔でレーザーによる円径自動計測器を用いて外径を測定する。次に、被覆細線を90度回転した位置の外径を、長手方向で回転前に測定を行った箇所と全く同じ位置で測定する。これらの測定データについて、外径の平均値(μ)及び標準偏差(σ)を計算して、変動係数(CV=σ/μ)を求める。ここで求める外径の変動係数(CV)は、被覆細線の長手方向と半径方向とを合わせた時の外径のバラツキを評価することになる。このように外径の変動係数(CV)を求めることによって、被覆層の膜厚の均一性を評価するための尺度とする。
【0067】
実施例及び比較例の評価結果を下記の表1に示す。表1には、コーティング法、シリカ被覆層の膜厚、及び所定の膜厚の被覆層を形成するまでのコーティング時間の相対比を合わせて示している。コーティング時間の相対比は、比較例2においてコーティング処理を完了するまでの要した時間を1としたときの相対比で表した。
【0069】
表1に示すように、本発明の実施例は、被覆層の膜厚が厚くなるほどコーティング時間の大幅な短縮を図ることができる。例えば、被覆層の膜厚が0、5μmでは従来のディッピング法と対比すると、コーティング時間は約1/5に短縮できる(実施例3と比較例2との対比)。これは、ディッピング法が塗布工程と乾燥又は加熱工程とからなる1バッチ工程を塗布回数に応じて繰り返す必要があるのに対して、本発明は塗布工程において所定の膜厚のコーティング層を形成した後に乾燥又は加熱工程を経るものであり、塗布工程ごとの乾燥工程が省略できるためである。
【0070】
さらに、本発明は、被覆細線の外径の変動係数が小さく、被覆細線の外径の均一性に優れることが分かる。本実施例は比較例と同じ金属細線を用いていることから、被覆細線の外径の均一性は被覆層の膜厚の均一性を反映しているものと考えられる。それに対して、比較例1〜4に示すように、従来のディッピングやスプレー法は被覆層の膜厚の均一性が劣っている。そのため、本発明は被覆層の膜厚が薄い場合でも、被覆細線の絶縁性や耐腐食性等の特性が、従来のコーティング方法と比べて向上している(実施例1〜3と比較例1〜2との対比)。このように、本発明は、コーティング時間の短縮だけではなく、被覆層の膜厚制御性に優れる。
【0071】
[実施例12]
図2に示す方法で、ペルヒドロポリシラザンの5質量%とアミン系触媒を含むキシレン溶液中に液滴保持治具1の金属棒を浸漬させてから引き上げて、この金属棒の先端部に点着した液滴を形成した。次に、
図6の(a)に示すように、この金属棒の3個を直列にY、Z軸可動部にセットした後、前記3個の金属棒の先端部に保持形成された液滴2中のすべてに、外径が50μmのクロメル−アルメル合金からなる細線3が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した。続いて、前記金属棒の往復移動をX軸の一方向に1回コーティングを行い、コーティング処理完了後の細線を150℃で1時間の乾燥を行った。その後、室温まで自然冷却して、膜厚が0.3μmのシリカ(SiO
2)被覆層を有する熱電対を作製した。
【0072】
このようにして作製された被覆細線について、実施例1〜11と同じ方法によって(A)絶縁性、(B)塩水に対する耐腐食性、及び(C)膜厚の均一性を評価した。その結果、絶縁性及び耐腐食性は、上記の実施例2と同じ評価結果が得られ、外径の変動係数は6%であった。
【0073】
[実施例13]
実施例1〜4と同じ方法で、ポリイミド前駆体ワニスを含む溶液中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が25μmのAu細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した後、前記金属棒の往復移動をX軸方向で個別にそれぞれ4回繰り返した後、350℃、15秒の乾燥と加熱処理による硬化を行い、Au細線表面に厚さが1μmのポリイミド被覆層を有する被覆細線を作製した。被覆層を形成したAu細線の長さは、500mmであった。
【0074】
[比較例5]
実施例12で使用したポリイミド前駆体ワニスと同じ溶液を入れた浸漬塗布装置を用いて、この溶液中に外径が25μmのAu細線をディッピングした後、120℃1分の乾燥を行った。この(コーティング工程+乾燥工程)を1バッチとして4回繰り返した後、350℃15秒の加熱処理による硬化を行い、Au細線表面に厚さが1μmのポリイミド被覆層を有する被覆細線を作製した。被覆層を形成したAu細線の長さは、500mmであった。
【0075】
[実施例14]
実施例1〜4と同じ方法で、ウレタンアクリレートオリゴマー、メタクリレート系モノマー、トルエンジイソシアネート及び光重合開始剤とを含むコーティング組成物中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が50μmの銀メッキ銅合金細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整した後、前記金属棒の往復移動をX軸方向に3回繰り返した後、紫外線照射炉を通して硬化させて、銀メッキ銅合金細線表面に厚さが4.0μmのポリイミド被覆層を有する被覆細線を作製した。
【0076】
[実施例15]
コーティング組成物の溶液として、アルミニウムイソプロポキシド(Al−(O−iso−C
3H
7)
3)を室温でイソプロピルアルコールに溶解した後、加水分解速度を調整するためにアセト酢酸エチルを、アルミニウムイソプロポキシドの濃度に対して3倍になるように配合して、80℃で3時間加熱還流して反応させたものを使用した。実施例1〜4と同じ方法で、このコーティング組成物の溶液中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記の金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が100μmのポリプロピレン繊維の細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整して前記金属棒の往復移動をX軸方向に5回繰り返した後、120℃で2時間の乾燥を行った。最終的に厚さが1.0μmのアルミナ(Al
2O
3)被覆層を有するポリプロピレン細線を作製した。
【0077】
[実施例16]
アルミニウム−sec−ブトキシド(Al−(O−sec−C
4H
9)
3)及びその希釈溶媒としてイソプロピルアルコールを用い、80℃2時間還流しながら溶解させて室温まで冷却した後、その溶液に、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを1質量%添加して、室温で、さらに2時間撹拌しながら反応させてコーティング溶液を調整した。実施例1〜4と同じ方法で、このコーティング組成物の溶液中に金属棒を浸漬させてから引き上げて前記の金属棒に点着した液滴を形成する。この液滴中に外径が50μmの炭素繊維の細線が抱合されるように、前記金属棒を移動させて前記液滴の位置を調整して前記金属棒の往復移動をX軸方向に3回繰り返した後、120℃で30分の乾燥処理と450℃で1時間の加熱処理を行った。最終的に厚さが1.0μmのアルミナ(Al
2O
3)被覆層を有する炭素細線を作製した。
【0078】
実施例13〜16及び比較例5で得られた各細線について、実施例1〜11と同じ方法によって(A)絶縁性、(B)塩水に対する耐腐食性、及び(C)膜厚の均一性を評価した。評価結果を下記の表2に示す。表2には、コーティング法、シリカ被覆層の膜厚とともに、コーティング処理を完了するまでの要した時間を実施例13と比較例5の間で対比した結果も合わせて示す。ここで、実施例13のコーティング時間は、比較例5におけるコーティング時間を1として、その相対比で表した。
【0080】
表2に示すように、実施例13は、比較例5と比べてコーティング時間の大幅な短縮を図ることができるだけでなく、被覆細線の外径の変動係数が小さく、被覆細線の外径の均一性に優れることが分かる。また、本発明のコーティング方法は、金属細線だけではなく、有機繊維や炭素繊維等の細線に適用する場合(実施例15〜16)でも、被覆細線の外径の変動係数が小さく、被覆細線の外径均一性が良好である。このように、本発明は、被覆層の膜厚制御性を向上できるコーティング方法であることが確認された。
【0081】
以上のように、本発明は、細線、特に、外径が100μm以下の細線の表面に被覆層を形成する際に、被覆層の膜厚を高精度に制御できるコーティング方法である。さらに、比較的厚膜の被覆層を形成する場合に、被覆層の膜厚の均一性を向上できるだけではなく、従来のディッピング方法と比べて非常に簡便なコーティング方法であり、コストと時間の大幅な削減ができる。また、本発明によるコーティング方法は、金属、樹脂、セラミックス及び炭素の各細線の被覆層形成に適用できることから適用範囲が広く、その有用性は極めて高い。