特許第5965210号(P5965210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965210
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】強化ガラス基板及び太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20160721BHJP
   C03C 17/25 20060101ALI20160721BHJP
   H01L 31/0216 20140101ALI20160721BHJP
【FI】
   C03C21/00 101
   C03C17/25 A
   H01L31/04 240
【請求項の数】6
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2012-110030(P2012-110030)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-237573(P2013-237573A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】臼井 健敏
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 淳一
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−161945(JP,A)
【文献】 特開2002−234754(JP,A)
【文献】 特開2010−285300(JP,A)
【文献】 特開2000−090737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
C03C 17/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、当該内層の両外側に形成されている圧縮応力層と、
前記内層の両外側の圧縮圧力層のうちの少なくとも一の圧縮圧力層の表面に反射防止層と、
を有する、強化ガラス基板であって、
前記反射防止層が、金属酸化物微粒子と、結着材と、重合体エマルジョン粒子と、を、含むコーティング組成物を製膜したものであり、
前記強化ガラス基板の厚みが0.15mm以上2mm以下であり、
前記反射防止層の厚みが0.05μm以上1μm以下であり、
前記圧縮応力層の厚みに対する前記反射防止層の厚みの比(反射防止層の厚み/圧縮応力層の厚み)が、0.001以上0.1以下であり、
環境曝露試験(サンシャインウェザーメーター(スガ試験器製)を使用した曝露試験(条件:ブラックパネル温度63℃、降雨2時間毎に18分間)を4000時間実施)後のヘイズが1.2以下である強化ガラス基板。
【請求項2】
前記圧縮応力層が、ガラス表面のアルカリ金属イオンの交換を行うことにより形成したものである、請求項1に記載の強化ガラス基板。
【請求項3】
前記反射防止層の屈折率と前記圧縮応力層の屈折率との差(圧縮応力層の屈折率−反射防止層の屈折率)が0.05以上0.4以下である、請求項1又は2に記載の強化ガラス基板。
【請求項4】
前記反射防止層の屈折率が1.25以上1.45以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の強化ガラス基板。
【請求項5】
前記圧縮応力層の圧縮応力が250MPa以上であり、
前記内層の引っ張り応力が200MPa以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の強化ガラス基板。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の強化ガラス基板を具備する太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラス基板及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールの受光面側の保護部材は、高い透明性と機械的強度を併せ持つことが必要とされており、従来から強化ガラス基板が広く提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
一般にガラス基板を強化する方法としては、ガラス板を一旦高温に加熱した後、急冷する急冷強化法が挙げられる。ガラスを急冷すると、ガラス表面は急激に温度が下がり、熱収縮する前にガラス状態となり圧縮応力層が形成される。一方、ガラスのコア層では放熱が遅いために、収縮しながら温度が徐々に低下してガラス状態となり、結果、圧縮応力層とコア層との間に応力歪が形成され、強化ガラスとなる。
上記のような急冷強化法は、生産性が高く優れた方法ではあるが、ガラス基板が薄い場合には、断面方向で大きな冷却速度差が得られないために有効な応力歪を形成することが困難であり強化ガラスが得られないことが知られている(例えば、特許文献2参照。)。そのため、太陽電池モジュールで用いられる強化ガラス基板は、通常3mm以上の厚みのガラスが使用され、太陽電池モジュールの大きな質量の主原因となっている。
【0003】
太陽電池モジュールは、設置時には、主に人力で運ばれるため、あるいは、太陽電地モジュールを設置する架台のコストを削減するために、あるいは、強度の低い屋根上に太陽電池モジュールを設置するため等の理由で軽量化が求められている。
このような軽量化の要望に鑑み、例えば厚みが2mm以下の薄板強化ガラスを製造する技術として、化学強化法が挙げられ、これは、液晶パネル等のディスプレイ装置用カバーガラスの製造技術として実用化されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)。
前記ガラスの化学強化法は、ガラスの歪が発生しない温度以下で、イオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアリカリ金属イオン(典型的にはリチウムイオン、ナトリウムイオン)をイオン半径の大きいアリカリ金属イオン(典型的にはカリウムイオン)に交換することで圧縮応力層を形成する方法である。
【0004】
一方において、太陽電池モジュールに用いられる強化ガラス基板は、表面での太陽光の反射を防止し、太陽電池モジュール内により多くの光を透過させる特性を有することが求められており、かかる観点から、太陽電池モジュールに用いられる強化ガラス基板の表面には、通常、反射防止層を形成する試みが行われている。
強化ガラス基板表面での太陽光の反射を抑えるためには、空気とガラス表面との屈折率差を小さくすればよいため、強化ガラス基板表面に、より屈折率の低い層(反射防止層)を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献4、特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−103882号公報
【特許文献2】特開2011−84456号公報
【特許文献3】特開2011−190174号公報
【特許文献4】特開2002−182006号公報
【特許文献5】特開2011−111533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、薄板強化ガラス基板、特に、上述した化学強化法により強化した薄板強化ガラス基板の表面に反射防止層を形成した場合、強度の向上効果や表面での反射防止機能は得られるが、耐久性において未だ実用上満足な特性が得られておらず、改良が求められている。すなわち、長期間に亘り、厳しい環境下で曝露をした場合、上述した圧縮応力層と反射防止層との間の歪によって生じる反射防止層のマイクロクラックが原因と推定されるヘイズ値の上昇が起こり、光の透過性低下が起こり、太陽電池モジュールとしての機能低下を招来するため、改良が求められている。
【0007】
そこで本発明においては、マイクロクラックの発生による光の透過性低下を効果的に抑制し、反射防止特性に優れ、太陽電池モジュール用途に適した軽量の強化ガラス基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の厚みのガラス基板上に、特定の厚みの反射防止層を形成した強化ガラス基板であって、強化ガラスの圧縮応力層の厚みと反射防止層の厚みの比を特定範囲内にすることにより、上述した従来技術の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕
内層と、当該内層の両外側に形成されている圧縮応力層と、
前記内層の両外側の圧縮圧力層のうちの少なくとも一の圧縮圧力層の表面に反射防止層と、
を有する、強化ガラス基板であって、
前記反射防止層が、金属酸化物微粒子と、結着材と、重合体エマルジョン粒子と、を、含むコーティング組成物を製膜したものであり、
前記強化ガラス基板の厚みが0.15mm以上2mm以下であり、
前記反射防止層の厚みが0.05μm以上1μm以下であり、
前記圧縮応力層の厚みに対する前記反射防止層の厚みの比(反射防止層の厚み/圧縮応力層の厚み)が、0.001以上0.1以下であり、
環境曝露試験(サンシャインウェザーメーター(スガ試験器製)を使用した曝露試験(条件:ブラックパネル温度63℃、降雨2時間毎に18分間)を4000時間実施)後のヘイズが1.2以下である強化ガラス基板。
〔2〕
前記圧縮応力層が、ガラス表面のアルカリ金属イオンの交換を行うことにより形成したものである、前記〔1〕に記載の強化ガラス基板。
〔3〕
前記反射防止層の屈折率と前記圧縮応力層の屈折率との差(圧縮応力層の屈折率−反射防止層の屈折率)が0.05以上0.4以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の強化ガラス基板。
〔4〕
前記反射防止層の屈折率が1.25以上1.45以下である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の強化ガラス基板。
〔5〕
前記圧縮応力層の圧縮応力が250MPa以上であり、
前記内層の引っ張り応力が200MPa以下である、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の強化ガラス基板。
〔6〕
前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載の強化ガラス基板を具備する太陽電池モジュール。






【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロクラックの発生による光の透過性低下を効果的に抑制し、反射防止特性に優れ、太陽電池モジュール用途に適した軽量の強化ガラス基板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
〔強化ガラス基板〕
本実施形態の強化ガラス基板は、
内層と、
当該内層の両外側に形成されている圧縮応力層と、
前記内層の両外側の圧縮圧力層のうちの少なくとも一の圧縮圧力層の表面に反射防止層と、
を有する、強化ガラス基板であって、
前記強化ガラス基板の厚みが0.15mm以上2mm以下であり、
前記反射防止層の厚みが0.05μm以上1μm以下であり、
前記圧縮応力層の厚みに対する前記反射防止層の厚みの比(反射防止層の厚み/圧縮応力層の厚み)が、0.001以上0.1以下である強化ガラス基板。
【0013】
(ガラス基板)
本実施形態の強化ガラス基板は、所定のガラス基板を強化することで、内層の外側に圧縮応力層が形成された構成を有している。
本実施形態の強化ガラス基板の材料となるガラス基板は、以下に限定されるものではないが、ソーダ石灰系ガラスよりなるガラス基板が生産性に優れ好ましい。中でも、太陽電池が高いエネルギー変換感度を有する可視光域から近赤外波長領域で、光の透過率が高いガラス基板がより好ましく、通常のソーダ石灰系ガラスよりも酸化鉄含有量を少なくした、所謂、白板ガラスがさらに好ましい。
【0014】
前記強化ガラスの材料となるガラス基板は、SiO2、Al23、Na2O、K2O、MgO、CaOを構成成分として含有することが好ましい。
SiO2はガラスの骨格を形成する主成分であり、ガラスの耐久性と生産性に大きく影響する溶融温度のバランスから、含有量は50質量%以上80質量%以下であることが好ましく、65質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。
Al23は圧縮応力層の形成に必要なイオン交換を促進させる成分であり、イオン交換性能と失透性のバランスから、含有量は1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
Na2Oは圧縮応力層の形成に必要なイオン交換の主体となる成分であると共に、ガラスの溶融粘度を低下させてガラスの成型性を向上させ、さらに耐失透性を向上させる成分であり、上記性能と熱膨張係数増大に起因する耐熱衝撃性とのバランスから、含有量は5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、8質量%以上16質量%以下であることがより好ましい。
2Oはイオン交換性を促進させる効果があり、さらにガラスの溶融粘度を低下させてガラスの成型性を向上させ、かつ耐失透性を向上させる成分であり、上記性能と熱膨張係数増大に起因する耐熱衝撃性とのバランスから、含有量は10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
MgOはガラスの耐久性を向上させるとともに、ガラスの溶融粘度を低下させて成型性を向上させる効果を有する。これらの効果発現と熱膨張係数増大に起因する耐熱衝撃性や失透性とのバランスから、その含有量は10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上7質量%以下であることがより好ましい。
CaOはガラスの耐久性を向上させるとともに、ガラスの溶融粘度を低下させて成型性を向上させる効果を有する。これらの効果発現と熱膨張係数増大に起因する耐熱衝撃性や失透性とのバランスから、その含有量は20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
前記強化ガラス基板の材料となるガラス基板には、Fe23やFeO等の、主に原料の不純物である酸化鉄が含有している場合がある。光透過率を高くするためには、全酸化鉄の含有量が、Fe23換算で0.1質量%以下であることが好ましい。0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下がさらに好ましい。またFeOの含有量は全酸化鉄に対して20モル%以下が好ましい。
ガラス基板には、Li2O、SrO、BaO、ZnO、Sn2O、ZrO2、B23、TiO2、SO3、P25等のその他の金属酸化物が、を光の透過性等の性能に悪影響しない範囲で含有されていてもよい。
本実施形態の強化ガラス基板の材料となるガラス基板は、特に限定されないが、オーバーフロートダウンドロー法、ダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法、プレス法、キャスト法等の方法により製造することができる。
【0016】
本実施形態の強化ガラス基板の材料となるガラス基板の厚みは、0.1mm以上2mm以下である。好ましくは0.2mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.5mm以上1.2mm以下である。0.1mm以上の厚みとすることでガラス基板として必要な強度が得られ、2mm以下とすることで、軽量なガラス基板となる。
なお、本実施形態の強化ガラス基板の厚みは、0.15mm以上2mm以下である。好ましくは0.2mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.5mm以上1,2mm以下である、0.15mm以上の厚みとすることで機械的強度に優れ、2.0mm以下とすることで、軽量な強化ガラス基板が得られる。
【0017】
本実施形態の強化ガラス基板の内層の引張り応力は、200MPa以下が好ましい。150MPa以下がより好ましく、100MPa以下がさらに好ましい。引張り応力を200MPa以下とすることで、衝撃等によるクラックがガラス基板内部に進展した際に爆発的な破壊を起こさず安全上好ましい。
なお、「強化ガラス基板の内層」とは、強化ガラス基板の圧縮応力層よりも内側のガラス層を意味する。
【0018】
ガラス基板の屈折率は1.48以上1.55以下が好ましく、より好ましくは1.49以上1.53以下、さらに好ましくは1.50以上1.52以下である。
屈折率を1.48以上1.55以下とすることで生産性が高く軽量の強化ガラス基板が得られる。
【0019】
(圧縮応力層)
圧縮圧力層は、内層の両外側層として形成されており、本実施形態の強化ガラス基板において機械的強度を向上させる機能を発揮するものである。
圧縮応力層を形成する方法には、物理強化法と化学強化法がある。
本実施形態の強化ガラス基板は、化学強化法で圧縮応力層を形成することが好ましい。
化学強化法は、ガラスの歪が発生しない温度以下で、イオン交換によりガラス基板の表面にイオン半径の大きいアルカリイオンを導入する方法である。
例えば、本実施形態の強化ガラス基板の材料となるガラス基板の表面のNaをKにイオン交換する方法が挙げられる。
化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、材料となるガラス基板の板厚が薄くても、良好に強化処理を施すことができ、所望の機械的強度を得ることができる。
化学強化法としてはガラス基板表層のNaと溶融塩中のKとをイオン交換できるものであれば特に限定されないが、たとえば加熱された硝酸カリウム(KNO3)溶融塩にガラス板を浸漬する方法が挙げられる。
【0020】
所望の圧縮応力を有する圧縮応力層を形成するための方法としては、ガラス基板の厚さによっても異なるが、400〜550℃のKNO3溶融塩に2〜20時間ガラス基板を浸漬させる方法が挙げられる。
圧縮応力層の圧縮応力は、250MPa以上1500MPa以下が好ましく、400MPa以上1200MPa以下がより好ましく、600MPa以上1000MPa以下がさらに好ましい。圧縮応力を250MPa以上にすることで、実用的な機械的強度が得られる。一方、圧縮応力を1500MPa以下にすることで、強化ガラス基板の内層の引張り応力を小さく抑えられ、衝撃等によるクラックがガラス基板内部に進展した際に爆発的な破壊を起こさず安全上好ましい。
圧縮応力層の圧縮応力を大きくするには、Al23、TiO2、ZrO2、MgO、ZnO、SnO2の含有量を増加する方法、SrO、BaOの含有量を低減する方法、イオン交換に要する時間を短くする方法、溶融塩の温度を下げる方法等が挙げられる。
【0021】
圧縮応力層の厚みは、5μm以上100μm以下が好ましい。10μm以上70μm以下がより好ましく、15μm以上50μm以下がさらに好ましい。
圧縮応力層の厚みを5μm以上にすることで、実用的な機械的強度が得られる。
圧縮応力層の厚みを100μm以下にすることで、強化ガラス基板の内層の引張り応力を小さく抑えられ、衝撃等によるクラックがガラス基板内部に進展した際に爆発的な破壊を起こさず安全上好ましい。
【0022】
圧縮応力層を厚くするには、本実施形態の強化ガラス基板の材料となるガラス基板のK2O、P25、TiO2、ZrO2の含有量を増加する方法、ガラス基板のSrO、BaOの含有量を低減する方法、イオン交換に要する時間を長くする方法、イオン交換を行う際に使用する溶融塩の温度を高める方法等が挙げられる。
【0023】
圧縮応力層の屈折率は、上述した本実施形態の強化ガラス基板の材料となるガラス基板の屈折率との差をほぼ0とすることで、本実施形態の強化ガラス基板において高い機械的強度を発現できる。圧縮応力層の屈折率は、1.48以上1.55以下が好ましく、より好ましくは1.49以上1.53以下、更に好ましくは1.50以上1.52以下である。
【0024】
(反射防止層)
反射防止層は、上記のように内層の両外側に形成された圧縮圧力層のうち、少なくとも一の圧縮圧力層の表面に形成されており、本実施形態の強化ガラス基板の表面における光の反射を低減化させる機能を有している。
反射防止層は強化ガラス基板の両面に形成されていても良いし、片面(受光面側)のみに形成されていてもよい。経済性を重視する場合は片面に形成すべきであり、少しでも反射防止性を高めることを重視するのであれば両面に形成することもあり得る。
反射防止層は、フッ素系等の低屈折率材料を上述した圧縮圧力層の表面に製膜することにより形成できる。
あるいは、本実施形態の強化ガラス基板の材料であるガラス基板の組成に近い材料を用い、かつ内部を多孔質にすることで反射防止層を形成することができる。
反射防止層と圧縮応力層との高い接着性を得る観点や厳しい環境下に置かれた後の汚れの付き難さの観点から、反射防止層は、ガラス基板の組成に近い材料を用い、かつ内部を多孔質としたものとすることが好ましい。
ガラス基板の組成に近い材料を用い、かつ内部を多孔質とする方法としては、例えば、加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物を、ゾルゲル法等により、圧縮応力層を有するガラス基板上に製膜し、加水分解性金属化合物が加水分解反応を起こしアモルファス状の金属酸化物を形成すると共に、圧縮応力層を有するガラス基板と化学結合を形成し、その後、層内に残存する加水分解性基、加水分解生成物、あるいは残存溶媒等を加熱等により飛散させて層内を多孔質とする方法や、金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物を、金属酸化物微粒子間にできた空隙を残して、圧縮応力層を有するガラス基板上に製膜し、結着材が金属酸化物微粒子同士および金属酸化物微粒子と圧縮応力層を有するガラス基板とを強固に結着するようにする方法や、上記2方法を組み合わせた方法等が挙げられる。
【0025】
前記コーティング組成物に用いられる加水分解性金属化合物中の金属としては、以下に限定されるものではないが、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタルが例示され、入手の容易性や経済性の観点、低屈折率である点からケイ素が好ましい。
加水分解性金属化合物は加水分解性基を有する金属化合物であり、加水分解性基とは加水分解により水酸基が生じる官能基であって、以下に限定されるものではないが、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基等が挙げられ、入手の容易性や経済性の観点、着色し難い点からアルコキシ基が好ましく、アルコキシシラン類がより好ましく、1分子中にアルコキシ基を3個以上有するアルコキシシラン類がさらに好ましく、1分子中にアルコキシ基を4個以上有するアルコキシシラン類がさらにより好ましい。
【0026】
前記アルコキシシラン類としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、トラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルキル又はアリールトリアルコキシシラン類、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン等のアルキルジアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン類、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)プロパン等のビス(トリアルコキシシリル)アルカン類、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等のヒドロキシアルキルトリアルコキシシラン類が例示される。これらの中でも、反射防止層の機械的強度と入手の容易性の観点から、テトラアルコキシシラン類が好ましい。
【0027】
また、前記加水分解性金属化合物としては、テトラアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物も好ましく使用できる。テトラアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「Mシリケート51」多摩化学工業(株)製、商品名「MSI51」コルコート(株)製)、商品名「MS51」、「MS56」三菱化学(株)製)、テトエトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「シリケート35」、「シリケート45」多摩化学工業(株)製、商品名「ESI40」、「ESI48」コルコート(株)製)、及びテトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(商品名「FR−3」多摩化学工業(株)製、商品名「EMSi48」コルコート(株)製)等が使用可能である。
加水分解性金属化合物は、単独又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0028】
先ず、反射防止層を形成するための一の方法として、前記加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物を製膜する方法について説明する。
当該製膜方法としては、加水分解性金属化合物と水と溶媒、さらに必要に応じて触媒を混合し、加水分解性金属化合物を部分的に加水分解及びび縮合させたコーティング組成物を用い、圧縮応力層を有するガラス基板上に薄膜で製膜し、ガラス基板ごと加熱する方法 が挙げられる。
【0029】
加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物に含有する溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましい。アルコール系溶媒は単に溶媒としての働き以外に、コーティング組成物中での加水分解速度を制御し、コーティング組成物の安定性を向上させる働きがある。
アルコール系溶媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール等のモノアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、エチルカルビトール等のジグリコールモノエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。
これらの中でも、コーティング組成物の安定性向上効果が高いのでモノアルコール類が好ましい。
アルコール系以外の溶媒としては、例えば、アセトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル系溶媒等が挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いても2種以上の混合物として用いも良い。
溶媒の配合量は、コーティング方法、溶媒の種類や水の量等によって異なるが、加水分解性金属化合物1質量部に対して、0.1質量部以上がコーティング組成物の安定性が向上し好ましい。0.5質量部以上500質量部以下がより好ましい。1質量部以上100質量部以下がコーティング組成物の安定性を向上すると共にばらつきの少ない膜厚制御ができさらに好ましい。
【0030】
前記加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物に含有されている水は、単に溶媒としての働き以外に、コーティング組成物中ならびに製膜後の加水分解を促進する働きがあり、反射防止層の機械的強度を向上させる働きがある。
水の配合量は、コーティング方法や溶媒の量等によって異なるが、加水分解性金属化合物1質量部に対して、0.1質量部以上が反射防止層の機械的強度が向上し好ましい。0.5質量部以上500質量部以下がより好ましい。1質量部以上100質量部以下が更に好ましい。
【0031】
前記加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物に含有されている触媒は、加水分解性金属化合物の加水分解反応を促進する働きと共に、加水分解して生成した金属水酸化物と加水分解性金属化合物との縮合反応を促進する働きがある。
酸触媒は加水分解反応をより促進するため、コーティング組成物の安定性と製膜後の反射防止層の機械的強度のバランスが良く好ましい。塩酸や硝酸等の鉱酸又は酢酸がより好ましい。
塩基性触媒は縮合反応をより促進するため、コーティング組成物の安定性を損なう恐れがあり、塩基性触媒を用いる場合は、ガラス基板ごと加熱する環境を、例えば、アンモニア等の塩基性触媒環境下で加熱することが好ましい。
加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物中の触媒の配合量は、加水分解性金属化合物100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましい。0.05質量部以上200質量部以下がコーティング組成物の安定性と製膜後の反射防止層の機械的強度のバランスが良くより好ましい。
【0032】
前記加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物を、圧縮応力層を有するガラス基板上に製膜し、最終的には反射防止層となる層を形成する方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スピンコーター、ロールコーター、スプレーコーター、スリットコーター、カーテンフローコーター等のコーターを用いる方法、 ディプコーティング法等の方法、あるいはフレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷又は曲面印刷等の各種印刷法を例示することができる。
圧縮応力層を有するガラス基板の表面状態によっては、塗布液の馴染みが悪く、はじきが出たり膜厚が不均一になったりする場合がある。このような場合には、基材表面を洗浄または改質処理することが好ましい。洗浄や改質処理の方法としては、エタノールもしくはイソプロパノール等のアルコール類、アセトンもしくはヘキサン等の有機溶媒による脱脂洗浄、アルカリもしくは酸による洗浄、研磨剤による表面研磨、超音波洗浄、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理又はプラズマ処理等の方法が挙げられる。
【0033】
上述のようにして加水分解性金属化合物を含有するコーティング組成物が製膜された圧縮応力層を有するガラス基板を、次に、当該ガラス基板ごと加熱する。これにより加水分解性金属化合物が加水分解反応と縮合反応を起こしアモルファス状の金属酸化物を形成すると共に、圧縮応力層を有するガラス基板と化学結合を形成し、それと同時に、反射防止層内に残存する加水分解性基、加水分解生成物、あるいは残存溶媒等が層外に飛散し、反射防止層を多孔質とすることができる。
さらに高い温度で加熱すれば、反射防止層内に残存する有機成分が燃焼して、空隙が増し、屈折率を更に 低下させることができる。
加熱温度は、ガラス基板の変形を伴わずに多孔質構造とするために200℃以上700℃以下が好ましく、300℃以上600℃以下がより好ましい。圧縮応力層の応力を緩和させないために400℃以上500℃以下がさらに好ましい。
ガラス基板の加熱時間は10秒以上2時間以下が生産性と機械的強度を両立でき好ましい。
アンモニア等の塩基性触媒環境下で加熱して、加水分解性金属化合物の加水分解・縮合反応速度と反射防止層内の溶媒や加水分解性生物の飛散速度とを制御する場合は、加熱温度を低温にしても、多孔質構造を形成することができる。その場合の加熱温度は40℃以上200℃以下が好ましい。加熱時間は1分以上2時間以下が好ましい。
【0034】
次に、反射防止層を形成するための他の方法として、金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物を、金属酸化物微粒子間にできた空隙を残して、圧縮応力層を有するガラス基板上に製膜する方法について説明する。
前記金属酸化物微粒子としては、以下に限定されるものではないが、例えば、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化セリウム等の金属酸化物の微粒子を例示することができる。
中でも、表面水酸基の多い二酸化珪素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アンチモン、及びそれらの複合酸化物等は、金属酸化物微粒子間あるいは結着材や圧縮応力層を有すガラス基板と強固に結合することができ好ましい。金属酸化物微粒子は2種以上の金属酸化物微粒子を併用することもできる。
【0035】
前記金属酸化物微粒子を用いる際の形態としては、例えば、粉体、分散液、ゾル等が挙げられる。
ここでいう分散液、又はゾルとは、前記金属酸化物微粒子成分が水及び/又は親水性有機溶媒中に0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%の濃度で、一次粒子及び/又は二次粒子として分散された状態を意味する。
上記親水性有機溶媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エタノール、メタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン等、さらにはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
前記金属酸化物微粒子の粒子径としては、生産性と反射防止層の光の透過性とのバランスから、1nm〜400nmが好ましい。反射防止層と圧縮応力層との接着性を更に向上し反射防止層の屈折率を更に低下させるために、前記金属酸化物微粒子の粒子径としては、1nm〜100nmがより好ましい。更に好ましくは2nm〜80nm、一層好ましくは3nm〜50nmである。
ここで、前記金属酸化物微粒子の粒子径は数平均粒子径であり、粒子が一次粒子の形で存在している場合には一次粒子径を、凝集粒子の形で存在している場合は凝集粒子径(二次粒子径)を指し、金属酸化物の粒子が100個〜200個写るように調整して撮影した透過型顕微鏡(TEM)写真の中に存在している該当の粒子の粒子径(二軸平均径、すなわち、短径と長径の平均値)の平均値を求めることにより決定することができる。
【0036】
前記金属酸化物微粒子としては取扱い性の観点からコロイダルシリカが好ましい。
コロイダルシリカは、ゾル−ゲル法で調製して使用することもでき、市販品を利用することもできる。
ゾル−ゲル法で調製する場合には、WernerStober et al;J.Colloidand Interface Sci.,26, 62−69(1968)、RickeyD.Badley et al;Lang muir 6, 792−801 (1990)、色材協会誌,61 [9] 488−493(1988) などを参照できる。市販品として日産化学工業(株)製スノーテックス(商標)−O、スノーテックス−OS、スノーテックス−OL、スノーテックス−OUP、スノーテックス−UP、スノーテックス−PS−SO、旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25などの水を分散媒体とする酸性のコロイダルシリカや、日産化学工業(株)製スノーテックス−20、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテックス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L、スノーテックス−PS−Sなど、旭電化工業(株)製アデライトAT−20、アデライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトAT−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50など、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50など、デュポン社製ルドックス(商標)HS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30などの水を分散媒体とするアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミン等の添加により安定化した塩基性のコロイダルシリカを挙げることができる。
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、日産化学工業(株)製MA−ST−M(粒子径が20〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPAST(粒子径が10〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(粒子径が70〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)などを例示することができる。
これらコロイダルシリカは一種または二種類以上組み合わせてもよい。
少量成分として、アルミナ、アルミン酸ナトリウム等を含んでいてもよい。
また、コロイダルシリカは、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア等)や有機塩基(テトラメチルアンモニウム等)を含んでいてもよい。
【0037】
前記結着材としては、以下に限定されるものではないが、加水分解性基を有する金属化合物、すなわち加水分解性金属化合物が好ましく、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タンタルを金属とする加水分解性基を有する金属化合物がより好ましく、入手の容易性や経済性の観点、低屈折率である観点から、加水分解性基を有するケイ素化合物がさらに好ましい。
ここで言う加水分解性基とは、加水分解により水酸基が生じる官能基であって、例えば、ハロゲン基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基等が挙げられ、入手の容易性や経済性の観点、着色し難い観点から、アルコキシ基が好ましく、アルコキシシラン類がより好ましく、1分子中にアルコキシ基を3個以上有するアルコキシシラン類がさらに好ましく、1分子中にアルコキシ基を4個以上有するアルコキシシラン類がさらにより好ましい。
【0038】
前記アルコキシシラン類としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、トラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルキル又はアリールトリアルコキシシラン類;ジメトキシシラン、ジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類;メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン等のアルキルジアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン類;ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)プロパン等のビス(トリアルコキシシリル)アルカン類;3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等のヒドロキシアルキルトリアルコキシシラン類が挙げられる。特に、テトラアルコキシシラン類が反射防止層の機械的強度と入手の容易性の観点から好ましい。
【0039】
また、前記テトラアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物も好ましく使用できる。
当該テトラアルコキシシラン類の部分加水分解縮合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「Mシリケート51」多摩化学工業(株)製、商品名「MSI51」コルコート(株)製)、商品名「MS51」、「MS56」三菱化学(株)製)、テトエトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「シリケート35」、「シリケート45」多摩化学工業(株)製、商品名「ESI40」、「ESI48」コルコート(株)製)、及びテトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(商品名「FR−3」多摩化学工業(株)製、商品名「EMSi48」コルコート(株)製)等が挙げられる。
上述した各種結着材は、単独で使用してもよく、又は2種以上の混合物として用いることもできる。
【0040】
上述した反射防止層を形成するために用いる金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物は、重合体エマルジョン粒子を含有すると、使用環境下における温度変化等のストレスを緩和することができ、反射防止層のクラックの発生を抑制することができ好ましい。
【0041】
反射防止層を形成するための、上記に亘り説明した、金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物の各成分の配合比は、金属酸化物微粒子100質量部に対して、結着材の配合量を1質量部以上200質量部以下とすることが反射防止層の良好な機械的強度と低い屈折率を両立でき好ましい。また、5質量部以上100質量部以下とすることが反射防止層と圧縮応力層のより強い接着力を発現できより好ましい。20質量部以上80質量部以下がさらに好ましい。
【0042】
前記重合体エマルジョン粒子としては、以下に限定されるものではないが、例えば、官能基含有ビニル単量体とビニル基含有加水分解性ケイ素化合物とその他のビニル単量体とを、水と乳化剤の存在下で重合して得られる重合体エマルジョン粒子が挙げられる。
前記官能基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸基含有ビニル単量体、カルボキシル基含有ビニル単量体、アミド基含有ビニル単量体、アミノ基含有ビニル単量体、エーテル基含有ビニル単量体が挙げられる。
前記水酸基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類;前掲の各種水酸基含有ビニル単量体と、ε−カプロラクトン等のラクトン類との付加物等が挙げられる。
【0043】
前記カルボキシル基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸又はフマル酸等の不飽和カルボン酸類;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノ−n−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノ−n−ブチル等の不飽和ジカルボン酸類と飽和1価アルコール類とのモノエステル類;アジピン酸モノビニル、コハク酸モノビニル等の飽和ジカルボン酸のモノビニルエステル類;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸又無水トリメリット酸等の飽和ポリカルボン酸の無水物類と前掲の各種水酸基含有ビニル単量体との付加反応生成物;前掲の各種カルボキシル基含有単量体類とε−カプロラクトン等のラクトン類とを付加反応して得られる単量体類等が挙げられる。
【0044】
前記アミド基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミド、N−n−プロピルメタアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミド等が挙げられる。
【0045】
前記アミノ基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジ−n−プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート又はN−[2−(メタ)アクリロイルオキシ]エチルモルホリン等の3級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾールN−ビニルキノリン等の3級アミノ基含有芳香族ビニル系単量体類;N−(2−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ジ−n−プロピルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、N−(4−ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリルアミド又はN−[2−(メタ)アクリルアミド]エチルモルホリン等の3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド類;N−(2−ジメチルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N−(2−ジエチルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N−(2−ジ−n−プロピルアミノ)エチルクロトン酸アミド、N−(3−ジメチルアミノ)プロピルクロトン酸アミド又はN−(4−ジメチルアミノ)ブチルクロトン酸アミド等の3級アミノ基含有クロトン酸アミド類;2−ジメチルアミノエチルビニルエーテル、2−ジエチルアミノエチルビニルエーテル、3−ジメチルアミノプロピルビニルエーテル又は4−ジメチルアミノブチルビニルエーテル等の3級アミノ基含有ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0046】
前記エーテル基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体のような各種のポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類;アリルエーテル類又は(メタ)アクリル酸エステル類のビニル単量体類等が挙げられる。
具体例としては、ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350、PME−100、PME−200、PME−400、AE−350〔以上、日本油脂(株)製〕、MA−30、MA−50、MA−100、MA−150、RA−1120、RA−2614、RMA−564、RMA−568、RMA−1114、MPG130−MA〔以上、日本乳化剤(株)製〕等が挙げられる。
【0047】
上述した各種官能基含有ビニル単量体は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上述した各種官能基含有ビニル単量体を有することで、重合体エマルジョン粒子が金属酸化物微粒子や結着材と化学結合又は水素結合を形成し、反射防止層の強い機械的強度と低い屈折率の両立に寄与し好ましい。かかる観点から、官能基含有ビニル単量体としては、アミド基含有ビニル単量体を用いることが好ましい。
上述した各種官能基含有ビニル単量体は、重合体エマルジョン粒子100質量%に対して5質量%以上にすることで、金属酸化物微粒子や結着材と化学結合または水素結合を形成し、反射防止層の強い機械的強度と低い屈折率の両立に寄与することができ、好ましい。10質量%以上80質量%以下がより好ましく、15質量%以上60質量%以下が重合安定性の観点から更に好ましい。
【0048】
前記重合体エマルジョン粒子を重合するために用いる前記ビニル基含有加水分解性ケイ素化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル等のビニル重合性基を有するシランカップリング剤等を挙げることができる。
これらビニル基含有加水分解性ケイ素化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
前記ビニル基含有加水分解性ケイ素化合物を有することで、重合体エマルジョン粒子が金属酸化物微粒子や結着材と化学結合を形成し、反射防止層の強い機械的強度と低い屈折率の両立に寄与し好ましい。
前記ビニル基含有加水分解性ケイ素化合物は、重合体エマルジョン粒子100質量%に対して50質量%以下が重合安定性の観点から好ましい。0.1質量%以上20質量%以下にすることで、重合体エマルジョン粒子が金属酸化物微粒子や結着材と化学結合を形成し、反射防止層の強い機械的強度と低い屈折率の両立に寄与することができ、より好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
前記重合体エマルジョン粒子を重合するために用いる前記その他のビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体が挙げられる。
これらその他のビニル単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
前記その他のビニル単量体は、重合体エマルジョン粒子100質量%に対して1質量%以上80質量%以下が重合安定性の観点から好ましい。5質量%以上50質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
【0050】
前記重合体エマルジョン粒子を重合するために用いる前記乳化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤;酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン型界面活性剤が挙げられる。
これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記乳化剤としては、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性を向上させる観点、及び、反射防止層の耐汚染性を向上させる観点から、ラジカル重合性を有する反応性乳化剤を用いることが好ましい。
前記反応性乳化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体やそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレン等のノニオン基を有するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体等を挙げることができる。
【0052】
前記スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、フェニル基、ナフチル基、及びコハク酸基よりなる群から選ばれる置換基を有する化合物、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物等が挙げられる。
【0053】
前記硫酸エステル基を有するビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、フェニル基、及びナフチル基よりなる群から選ばれる置換基を有する化合物が挙げられる。
【0054】
前記ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩のような置換基により一部が置換されたコハク酸基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アリルスルホコハク酸塩が挙げられる。
より詳しくは、例えば、エレミノールJS−2(商品名)(三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名)(花王(株)製)等を挙げることができる。
また、上記前記ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の具体例としては、例えばアクアロンHS−10又はKH−1025(商品名)(第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名)(旭電化工業(株)製)等を挙げることができる。
【0055】
また、前記ノニオン基を有するビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)等を挙げることができる。
【0056】
前記重合体エマルジョン粒子を重合するために用いる乳化剤は、重合体エマルジョン粒子100質量%に対して10質量%以下が反射防止層の汚れ難さの観点から好ましい。0.001質量%以上7質量%以下が重合安定性の観点からより好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0057】
前記重合体エマルジョン粒子は、ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物の存在下に重合することができる。
ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物は重合体エマルジョンの重合反応中に、重合体エマルジョン粒子中のビニル基含有加水分解性ケイ素化合物の反応残基と縮合反応による化学結合を形成すると共に、官能基含有ビニル単量体の反応残基と水素結合を形成し、重合体エマルジョン粒子中の架橋度を高め、さらに、重合体エマルジョン粒子中の無機物量を増加することができ、機械的強度が高く、耐熱性に優れた反射防止層を形成できるため、ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物の存在下に重合体エマルジョン粒子を重合することが好ましい。
【0058】
ここで用いられるビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等を挙げることができる。
【0059】
また、前記ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物としては、フェニル基を有する珪素アルコキシド(例えばフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等)を用いることができる。フェニル基を有する珪素アルコキシドを用いた場合、水及び乳化剤の存在下における重合安定性が良好となり好適である。
さらに、前記ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物としては、チオール基を有するシランカップリング剤を用いることができる。前記チオール基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
また、前記ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物は、上述の加水分解性ケイ素化合物の加水分解・縮合反応生成物であってもよい。
前記ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物としては、単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよい。
前記ビニル基を含有しない加水分解性ケイ素化合物は、重合体エマルジョン粒子100質量部に対して80質量部以下が重合安定性の観点から好ましい。0.01質量部以上60質量部以下にすることで、重合体エマルジョン粒子と金属酸化物微粒子や結着材との化学結合の形成により、反射防止層の強い機械的強度と低い屈折率の両立に寄与し、より好ましく、0.05質量部以上40質量部以下がさらに好ましい。
【0060】
前記重合体エマルジョン粒子は、上述したように、水の存在下で重合することにより得られる。
すなわち、重合体エマルジョン粒子は水を分散媒として前述の成分を重合することで粒子状の重合体が得られる。重合時の水の量は、重合体エマルジョン粒子1質量部に対して0.5質量部以上500質量部以下が安定に重合できるため好ましい。
【0061】
前記重合体エマルジョン粒子は、加水分解反応触媒やラジカル重合触媒等の触媒の存在下に重合されることが好ましい。
前記加水分解触媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、塩酸、フッ酸等のハロゲン化水素類;酢酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸等のカルボン酸類;硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤類;酸性又は弱酸性の無機塩、フタル酸、リン酸、硝酸のような酸性化合物類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのような塩基性化合物類;ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物等を挙げることができる。
加水分解触媒としては、重合体エマルジョン粒子の水に対する分散安定性の観点から、酸性乳化剤類が好ましく、炭素数が5〜30のアルキルベンゼンスルホン酸がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸がさらに好ましい。
【0062】
前記ラジカル重合触媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等が好ましく使用される。具体的には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
なお、重合速度の促進、及び70℃以下での低温の重合を望むときには、例えば重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
触媒は単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
少なくとも1種のラジカル重合触媒を用いることが好ましい。
触媒の使用量は、重合体エマルジョン粒子100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部である。
【0063】
前記重合体エマルジョン粒子の重合は、アルキルメルカプタン等の連鎖移動剤やポリビニルアルコール等の水溶性高分子の存在下で行うことができる。
これにより、未反応のビニル単量体を低減させる効果や重合体エマルジョン粒子の水に対する分散安定性を向上させる効果が得られる。
【0064】
前記重合体エマルジョン粒子を得る方法としては、乳化剤がミセルを形成するのに十分な量の水の存在下に重合する、いわゆる乳化重合が適している。
乳化重合の方法としては、例えば、前記官能基含有ビニル単量体、前記ビニル基含有加水分解性ケイ素化合物、前記その他のビニル単量体、さらに、必要に応じて前記加水分解性ケイ素化合物等の反応原料を、そのまま、又は乳化した状態で、一括若しくは分割して又は連続的に反応容器中に滴下し、前記触媒の存在下、大気圧下で、あるいは好ましくは10MPa以下の圧力下で、30℃〜150℃の反応温度で重合させる方法が挙げられる。
さらに、前記乳化重合を行うに際しては、粒子径を適度に成長又は制御する観点から、シード重合法を用いることが好ましい。
シード重合法とは、予め水相中にエマルジョン粒子(シード粒子)を存在させて重合させる方法である。シード重合法を行なう際の重合系中のpHとしては、好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.0〜6.0である。pHは、燐酸二ナトリウムやボラックス、又は、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等のpH緩衝剤を用いて調節することが可能である。
【0065】
前記重合体エマルジョン粒子は、コア/シェル構造を有することが好ましく、当該コア/シェル構造を形成する方法としては、前記乳化重合を多段で行う、多段乳化重合が非常に有用である。
【0066】
前記多段乳化重合としては、例えば、第一段階として、乳化剤と水の存在下、官能基含有ビニル単量体、ビニル基含有加水分解性ケイ素化合物、その他のビニル単量体、その他必要に応じて加水分解性ケイ素化合物等の反応原料から選択される少なくとも1種以上を重合してシード粒子を形成し、第二段階として、当該シード粒子の存在下、官能基含有ビニル単量体、ビニル基含有加水分解性ケイ素化合物、その他のビニル単量体、加水分解性ケイ素化合物等の反応原料から選択される少なくとも1種以上を添加して重合する、2段重合法が好ましい方法として挙げられる。このような多段乳化重合法は、重合安定性の観点からも好適である。
【0067】
前記2段重合法においては、第1段階において用いられる反応原料の質量(M1)と、第2段階において添加される反応原料の質量(M2)との比としては、重合安定性の観点から、好ましくは(M1)/(M2)=9/1〜1/9、より好ましくは8/2〜2/8である。
【0068】
前記重合体エマルジョン粒子の粒子径は、生産性と反射防止層の光の透過性とのバランスから、10nm〜800nmが好ましい。反射防止層と圧縮応力層との接着性をさらに向上し反射防止層の屈折率をさらに低下させるために、重合体エマルジョン粒子の粒子径としては、10nm〜100nmがより好ましく、さらに好ましくは20nm〜80nmである。
ここで、粒子径は数平均粒子径であり、粒子が一次粒子の形で存在している場合には一次粒子径を、凝集粒子の形で存在している場合は凝集粒子径(二次粒子径)を指し、重合体エマルジョンの粒子が100個〜200個写るように調整して撮影した透過型顕微鏡(TEM)写真の中に存在している該当の粒子の粒子径(二軸平均径、すなわち、短径と長径の平均値)の平均値を求めることにより決定することができる。
【0069】
重合体エマルジョン粒子の配合量は、コーティング組成物を構成する金属酸化物微粒子100質量部に対して、100質量部以下にすることが汚れ難い反射防止層を形成でき好ましい。10質量部以上70質量部以下にすることで、圧縮応力層と反射防止層との間の歪を低減しマイクロクラックの発生が抑制された結果と思われる、ヘイズ値をより低く抑える効果がありより好ましい。25質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。
【0070】
金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物には、その用途及び使用方法等に応じて、その他の添加剤を含有することができる。
その他の添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等を配合することができる。
【0071】
上述した金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物を用いて反射防止層を形成する方法としては、前述のコーティング組成物を構成する各成分と水と溶媒、さらに必要に応じて触媒とを混合し、結着材等に含まれる加水分解性基を部分的に加水分解及び縮合させたコーティング組成物を、圧縮応力層を有するガラス基板上に薄膜で製膜した後、室温でまたはガラス基板ごと加熱することで硬化させる方法が挙げられる。
【0072】
前記金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物に混合する溶媒は、アルコール系溶媒が好ましい。
アルコール系溶媒は、単に溶媒としての働き以外に、コーティング組成物中での加水分解速度を制御し、コーティング組成物の安定性を向上させる働きがある。
アルコール系溶媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール等のモノアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、エチルカルビトール等のジグリコールモノエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。これらの中でも、コーティング組成物の安定性向上効果が高いため、モノアルコール類が好ましい。
アルコール系以外の溶媒としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アセトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル系溶媒等が挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いても、2種以上の混合物として用いもよい。
溶媒の配合量は、コーティング方法、溶媒の種類や水の量等によって異なるが、金属酸化物微粒子1質量部に対して、0.1質量部以上がコーティング組成物の安定性が向上し好ましい。0.5質量部以上800質量部以下がより好ましい。1質量部以上200質量部以下とすることが、コーティング組成物の安定性を向上すると共に、ばらつきの少ない膜厚制御ができさらに好ましい。
【0073】
前記金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物に混合する水は、単に溶媒としての働き以外に、コーティング組成物中及び製膜後の加水分解を促進する働きがあり、反射防止層の機械的強度を向上させる働きがある。
水の配合量は、コーティング方法や溶媒の量等によって異なるが、金属酸化物微粒子1質量部に対して、0.1質量部以上とすることが反射防止層の機械的強度が向上する観点から好ましい。0.5質量部以上800質量部以下がより好ましく、1質量部以上200質量部以下がさらに好ましい。
【0074】
前記金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物に混合する触媒は、結着材等に含まれる加水分解性基の加水分解反応を促進する働きと共に、加水分解して生成した金属水酸化物と加水分解性基との縮合反応を促進する働きがある。
特に、酸触媒は、加水分解反応をより促進するため、コーティング組成物の安定性と製膜後の反射防止層の機械的強度のバランスを良好にする観点から、好ましい。酸触媒としては、塩酸や硝酸等の鉱酸又は酢酸がより好ましい。
塩基性触媒は、縮合反応をより促進するため、コーティング組成物の安定性を損なう恐れがある。塩基性触媒を用いる場合は、ガラス基板ごと加熱する環境を、例えば、アンモニア等の塩基性触媒環境下とすることが好ましい。
金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物中に混合する触媒の配合量は、金属酸化物微粒子100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましい。0.05質量部以上200質量部以下がコーティング組成物の安定性と製膜後の反射防止層の機械的強度のバランスが良くより好ましい。
【0075】
金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物を、圧縮応力層を有するガラス基板上に製膜する方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スピンコーター、ロールコーター、スプレーコーター、スリットコーター、カーテンフローコーター等のコーターを用いる方法、 ディプコーティング法等の方法、あるいはフレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、又は曲面印刷等の各種印刷法が挙げられる。
圧縮応力層を有するガラス基板の表面状態によっては、コーティング組成物の塗布液の馴染みが悪く、はじきが出たり膜厚が不均一になったりする場合がある。このような場合には、塗布面を予め洗浄又は改質処理することが好ましい。洗浄や改質処理の方法としては、エタノール又はイソプロパノール等のアルコール類、アセトン又はヘキサン等の有機溶媒による脱脂洗浄、アルカリ又は酸による洗浄、研磨剤による表面研磨、超音波洗浄、紫外線照射処理、紫外線オゾン処理、プラズマ処理等の方法が挙げられる。
【0076】
上述のようにして金属酸化物微粒子と結着材とを含有するコーティング組成物を含む塗布液を製膜した後、室温で静置し、必要に応じてガラス基板ごと加熱することにより溶媒等を飛散させ、コーティング組成物を硬化させる。
溶媒等が飛散すると、金属酸化物微粒子等の粒子間に空隙ができ、反射防止層は多孔質となる。一方、結着材は金属酸化物微粒子等の粒子と、あるいは結着材同士と、あるいは圧縮応力層と縮合反応を起こし、強固な架橋を形成する。尚、金属酸化物微粒子や重合体エマルジョン粒子の加水分解性基も結着材中の加水分解性基と同様に加水分解性して、粒子間や圧縮応力層と縮合反応をする場合もある。
【0077】
コーティング組成物を含む塗布液の溶剤の飛散とコーティング組成物の硬化を室温条件かで行う場合、室温条件下で10分以上10日以下の期間静置することが、生産性と反射防止層の傷つき抑制を両立でき好ましい。静置時間は、1時間以上4日以下がより好ましく、4時間以上2日以下がさらに好ましい。なお、室温とは、特に制約はないが、通常0℃以上40℃以下であるものとする。
コーティング組成物を含む塗布液の溶剤の飛散とコーティング組成物の硬化をガラス基板ごと加熱して行う場合、加熱温度は、圧縮応力層の応力の緩和を抑えるために、400℃以下が好ましい。生産性とエネルギー削減の観点から40℃以上200℃以下がより好ましく、反射防止層の高い表面性を発現できるという観点から、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。加熱時間は10秒以上2時間以下が生産性と機械的強度を両立でき好ましい。
【0078】
本実施形態の強化ガラス基板を構成する反射防止層は、厚みが、0.05μm以上1μm以下である。
反射防止層の厚みを上記範囲にすることで、厳しい使用環境下にあってもクラックの発生等の問題が生じにくく、長期に亘り優れた反射防止効果が発揮できる。反射防止層の厚みは0.07μm以上0.7μm以下が好ましく、0.08μm以上0.5μm以下がより好ましい。
【0079】
本実施形態の強化ガラス基板を構成する、前記圧縮応力層の厚みに対する反射防止層の厚みの比(反射防止層の厚み/圧縮応力層の厚み)は、0.001以上0.1以下である。
本実施形態の強化ガラス基板は薄膜であるため、強い強度を有する一方で、使用環境下において風圧等の外圧によって、厚板のガラス基板とは異なる振動数の振動が起こる。圧縮応力層の厚みに対する反射防止層の厚みの比を上記範囲とすることで、前記外圧による振動によって起こる反射防止層のマイクロクラックが原因と思われるヘイズ値の上昇が抑えられ、反射防止層としての機能を長期に亘り発現することができる。圧縮応力層の厚みに対する反射防止層の厚みの比は、好ましくは0.0012倍以上0.02倍以下であり、より好ましくは0.0015倍以上0.01倍以下である。
圧縮応力層と反射防止層の厚みの比がマイクロクラックの発生にどの様な原理で影響しているかは明確ではないが、圧縮応力層表面の残留歪が圧縮応力層の厚みと逆相関関係にあり、マイクロクラックの発生が圧縮応力層表面の残留歪と反射防止層の厚みに相関することが想定される。
【0080】
前記反射防止層の屈折率は1.25以上1.45以下であることが、反射防止層の機械的強度と実質的な反射防止機能とを両立できるという観点から好ましい。より好ましくは1.28以上1.42以下、さらに好ましくは1.3以上1.4以下である。
【0081】
前記反射防止層の屈折率と前記圧縮応力層の屈折率との差(圧縮応力層の屈折率−反射防止層の屈折率)は、0.05以上0.4以下が好ましい。
反射防止層の屈折率と圧縮応力層の屈折率との差を上記範囲内にすることで、厳しい使用環境下において温度変化のストレスを受けた時に、圧縮応力層と反射防止層との間の歪を小さく抑えることができ、反射防止層のマイクロクラックによると思われるヘイズ値の上昇を抑え、長期に亘って実質的な反射防止機能を発現することができるので好ましい。より好ましくは0.07以上0.35以下、さらに好ましくは0.05以上0.3以下である。
なお、反射防止層、圧縮応力層の屈折率は、大塚電子製FE−3000によって、測定波長を633nmとし、測定された値とする。
【0082】
前記反射防止層の表面は親水性であることが防汚性の観点より好ましい。
具体的には、水(23℃)の接触角として、60゜以下が好ましく、より好ましくは30゜以下、さらに好ましくは20゜以下である。
【0083】
〔太陽電池モジュール〕
本実施形態の強化ガラス基板は、太陽電池モジュール用の特にカバーガラスとして用いられる。
前記太陽電池としては、特に制約はなく、結晶シリコン系太陽電池、アモルファスシリコン系太陽電池、カドミウム−テルル型太陽電池やCIGS型太陽電池等の化合物半導体系の太陽電池、有機薄膜太陽電池等が適用できる。
前記太陽電池モジュールは、太陽電池(セル)を配線で繋いでマトリックス状の太陽電池とし、その上下をエチレンビニルアセテート樹脂等の透明樹脂で挟み、さらにその上下に、上述した本実施形態の強化ガラス基板でカバーする(少なくとも受光面側に反射防止層が形成されている)構成とすることが好ましい。
あるいは下側(受光面と反対側)の強化ガラス基板の代わりに、例えば、ポリエチレンテレフタレート層と無機物バリア層から形成されたバックシート等を用いることもできる。
あるいは、化合物半導体系太陽電池の様に、ガラス基板上に太陽電池(光電変換層)を蒸着法等で製膜し、その上にエチレン−酢酸ビニル共重合体等の透明樹脂、さらにその上に本実施形態の強化ガラス基板でカバーする構成とすることもできる。
あるいは、アモルファスシリコン系太陽電池の様に、本実施形態の強化ガラス基板の受光面と反対側に透明導電膜を化学気相成長法等で製膜し、その下に太陽電池(光電変換層)を蒸着法等で製膜し、その下にエチレン−酢酸ビニル共重合体等の透明樹脂、さらにその下に本実施形態の強化ガラス基板(又はポリエチレンテレフタレート層とアルミ層とから形成されたバックシート等)でカバーする構成とすることもできる。
このような構成を備えた太陽電池モジュールは、軽量であって、光の透過性低下が起こりにくく、反射防止特性に優れ、長期に亘り太陽電池モジュールとして高い効率を発現することができる。
【実施例】
【0084】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
下記製造例、実施例及び比較例における各種の物性、寸法の測定方法を以下に示す。
((1)圧縮応力層の圧縮応力・厚み)
表面応力計FSM−6000LE(折原製作所製)を用いて観察された干渉縞の本数とその間隔から、圧縮応力層の圧縮応力と厚みを算出した。
なお、算出にあたり、試料の屈折率は1.53、光学男性定数は28nm/cm/MPaとした。
【0086】
((2)内層の引張り応力)
前記(1)で求めた圧縮応力層の圧縮応力と厚みから下記式を用いて算出した。
内層の引張り応力=(圧縮応力層の圧縮応力×圧縮応力層の厚み)÷(ガラス基板の板厚−圧縮応力層の厚み×2)
【0087】
((3)金属酸化物微粒子又は重合体エマルジョン粒子の粒子径)
透過型顕微鏡で倍率を50,000〜100,000倍に拡大し、金属酸化物微粒子または重合体エマルジョン粒子が100個〜200個写るように調整して透過型顕微鏡写真を撮影した。
次いで、撮影された各粒子の粒子径(長径と短径の平均値)を測定し、その平均値を求め、粒子径とした。
【0088】
((4)反射率・屈折率・膜厚)
反射分光膜厚計FE−3000(大塚電子株式会社製)を用いて、波長633nmにおいて屈折率と膜厚を測定した。また、波長450〜650nmの範囲の反射率を測定し、その平均値を反射率とした。
【0089】
((5)ヘイズ)
日本電色工業株式会社製濁度計NDH2000を用いて、JIS−K7361−1に規定される方法にて測定した。
【0090】
((6)全光線透過率)
濁度計(日本電色工業製NDH2000)を用い、JIS−K7105に準じて全光線透過率を測定した。
【0091】
((7)鉛筆硬度)
JIS−S6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K5400に規定される方法に従い、1kg荷重における鉛筆硬度を評価した。
【0092】
((8)水接触角)
被試験物表面に脱イオン水の水滴(1.0μL)を乗せ、23℃で10秒間放置した後、協和界面科学製CA−X150型接触角計を用いて水接触角を測定した。
【0093】
((9)耐加重)
5cm角の強化ガラス基板を4cm角の穴の開いた台に、穴の中心と強化ガラス基板の中心を合わせて配置し、強化ガラス基板の中心を直径1cmの円柱を使って10Nで加重し、強化ガラス基板が割れるかどうかをテストした。
5枚テストし、1枚も割れなければ○、1〜2枚割れた場合は△、3枚以上割れた場合は×で評価した。
【0094】
(9)環境曝露試験
サンシャインウェザーメーター(スガ試験器製)を使用して曝露試験(条件:ブラックパネル温度63℃、降雨2時間毎に18分間)を4000時間実施した。
【0095】
下記実施例、比較例において用いるガラス基板の製造方法を下記に示す。
〔製造例1〜11〕
下記表1に示したガラス組成となるように、原料バッチを調合した。
原料は、通常のガラス製造に用いられるものを使用した。
調合した原料バッチは、白金坩堝の中で溶融および清澄した。具体的には、原料を入れた坩堝を1600℃に加熱した抵抗加熱式電気炉に投入し、4時間溶融し、脱泡、均質化した。その後、型材に流し込んだ後、700℃から徐冷しガラスブロックを得た。このガラスブロックから50mm角で下記表2に示す所定厚みとなるように切断、研磨し、鏡面加工をしてガラス基板を得た。
次いで、得られた各ガラス基板をKNO3溶融塩に下記表2に示す温度時間条件で浸漬し、純水洗浄後に乾燥し、表層に圧縮応力層を有する強化ガラス基板を得た。
得られた強化ガラス基板の特性を表2に示す。
【0096】
下記実施例、比較例において用いる重合体エマルジョン粒子の合成方法を下記に示す。
〔製造例12〕
還流冷却器、滴下槽、温度計および撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水1600g、ドデシルベンゼンスルホン酸7gを投入した後、撹拌下で温度を80℃に加温した。これに、ジメチルジメトキシシラン185g、フェニルトリメトキシシラン117gの混合液を反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下し、その後、反応容器中の温度が80℃の状態で約1時間撹拌を続行した。
次に、アクリル酸ブチル150g、テトラエトキシシラン30g、フェニルトリメトキシシラン145g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.3gの混合液とジエチルアクリルアミド165g、アクリル酸3g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)13g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液40g、イオン交換水1900gの混合液を、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で約2時間撹拌を続行した。
その後室温まで冷却し、イオン交換水で固形分を10質量%に調整し、粒子径70nmの重合体エマルジョン粒子水分散体(LTX1)を得た。
【0097】
〔実施例1〕
60質量%のエタノール水溶液83gに、35質量%の塩酸1g、加水分解性金属化合物として、テトラエトキシランのオリゴマー(平均連鎖長=5)を0.8g、金属酸化物微粒子として、水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックOS」、日産化学工業(株)製、固形分10質量%、数平均粒子径8nm)10g、重合体エマルジョン粒子として前記〔製造例12〕で製造した重合体エマルジョン粒子水分散体(LTX1、固形分10質量%)5gを混合、攪拌しコーティング組成物を得た。
〔製造例1〕で製造した強化ガラスAの上面(片面)に、上記コーティング組成物を、スピンコーターを用いて膜厚が100nmとなるように塗布した後、70℃で30分間乾燥し、反射防止層を形成し、反射防止層を有する強化ガラスを得た。
得られた反射防止層を有する強化ガラス基板を用いて評価した。
得られた評価結果を下記表3に示す。
【0098】
〔実施例2〜14〕
下記表3又は表4で示す配合と製膜条件に従い、その他の条件は、実施例例1と同様にしてコーティング組成物を得、表3又は表4に示す強化ガラス基板上に、表3又は表4に示す膜厚で、実施例1と同様にしてコーティング組成物を塗布・乾燥し、反射防止層を有する強化ガラスを得た。
得られた反射防止層を有する強化ガラスを用いて、実施例1と同様に評価した。
得られた評価結果を表3、表4に示す。
【0099】
〔実施例15〕
実施例1で製造した反射防止層を有する強化ガラスを用いて太陽電池モジュールを製造した。
具体的には、反射防止層側を下にして配置した強化ガラス基板上に、エチレン72質量%と酢酸ビニル28質量%とにより重合したエチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して1.5質量部の2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンを含有した膜厚600μmの封止材を重ね、その上に250μm厚の多結晶シリコンセル(E−TON製:バスバー配線が中央に来るように3cm×3cmにカットし、上下のバスバー配線から配線を引き出したもの)を、裏面を上にして重ね、さらに、上記封止材、次にバックシート(テドラー(40μm)/PET(250μm)/テドラー(40μm)、MAP社製)を重ね、LM50型真空ラミネート装置(NPC社製)を用いて150℃で5分間真空加熱した後、150℃、30分間、1気圧でラミネートを実施し、太陽電池モジュールを得た。
得られた太陽電池モジュールに太陽光を当てると発電していることが確認された。
【0100】
〔比較例1〕
製造例1で得た反射防止層を有さない強化ガラス基板をそのまま用いて実施例1と同様に評価した。
得られた結果を下記表4に示す。
【0101】
〔比較例2〜5〕
下記表4で示す配合と製膜条件に従い、その他の条件は実施例1と同様にしてコーティング組成物を得、下記表4に示す強化ガラス基板上に、下記表4に示す膜厚で実施例1と同様にしてコーティング組成物を塗布・乾燥し、反射防止層を有する強化ガラスを得た。得られた反射防止層を有する強化ガラスを用いて、実施例1と同様に評価した。
得られた結果を下記表4に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
表3中に示す記号は以下の通りとする。
OS:「スノーテックOS」、日産化学工業製、固形分10質量%、数平均粒子径8nm
TES5:テトラエトキシシランのオリゴマー(平均連鎖長=5)
LTX−1:製造例10で製造した重合体エマルジョン粒子、固形分10質量%、数平均粒子径70nm
【0106】
【表4】
【0107】
表4中に示す記号は以下の通りとする。
OS:「スノーテックOS」、日産化学工業製、固形分10質量%に調整、数平均粒子径8nm
OUP:「スノーテックOUP」、日産化学工業製、固形分10質量%に調整、数平均粒子径12nm
O40:「スノーテックO40」、日産化学工業製、固形分10質量%に調整、数平均粒子径25nm
TES:テトラエトキシシラン
TES5:テトラエトキシシランのオリゴマー(平均連鎖長=5)
LTX−1:製造例10で製造した重合体エマルジョン粒子、固形分10質量%、数平均粒子径70nm
【0108】
なお、表4中、「70→200」、「0.5→0.1」とは、2段加熱を行ったことを意味し、70℃で0.5時間の加熱を行った後、200℃で0.1時間の加熱を行ったことを意味する。
【0109】
実施例1〜14においては、マイクロクラックの発生による光の透過性低下を効果的に抑制でき環境曝露後のヘイズが低く、反射防止特性に優れ、太陽電池モジュール用途に適した軽量の強化ガラス基板が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の強化ガラス基板は、太陽電池モジュールの構成材料や建材として、産業上の利用可能性を有している。