特許第5965234号(P5965234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965234
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ユニフロー式2ストロークエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20160721BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20160721BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F02D13/02 K
   F02M26/05
   F02D13/02 A
   F02B25/04
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-159255(P2012-159255)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-20275(P2014-20275A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東田 正憲
(72)【発明者】
【氏名】大西 郁美
(72)【発明者】
【氏名】山本 寛一
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−336466(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/055118(WO,A1)
【文献】 特開2012−225178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00−28/00
F02B 47/08−47/10
F02M 26/00−26/74
F02D 43/00−45/00
F02B 25/00−25/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に掃気ポートが形成されたシリンダと、
前記シリンダ内を往復し前記掃気ポートを開閉するピストンと、
圧縮された新気を一旦収容して前記掃気ポートに供給する掃気管と、
前記シリンダの上部に配置された排気弁と、
前記排気弁を任意のタイミングで開閉する可変バルブ装置と、を備え、
燃焼行程後に前記排気弁が、前記掃気ポートが開きはじめるタイミングと同じタイミングで開きはじめることで、既燃ガスの一部を前記排気弁から排出しないように構成されている、ユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項2】
低負荷領域にあるときには、前記排気弁が、前記掃気ポートが開きはじめるタイミングよりも早いタイミングで開くように構成されている、請求項1に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項3】
前記掃気管内のオイルミスト濃度が所定の上限濃度を超えたとき、前記排気弁が、前記掃気ポートが開きはじめるタイミングよりも早いタイミングで開くように構成されている、請求項1に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項4】
掃気行程中に前記排気弁の開度が一回又は複数回縮小するように構成されている、請求項1乃至3のうちいずれか一の項に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項5】
掃気行程中に前記排気弁の開度が縮小するサイクルと、掃気行程中は前記排気弁の開度が一定のままであるサイクルが混在するように構成されている、請求項4に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項6】
前記シリンダ、前記ピストン、又は前記排気弁の温度が所定の上限温度を超えたとき、掃気行程中は前記排気弁の開度が縮小しない、掃気行程中に縮小する前記排気弁の最小開度が大きくなる、掃気行程中に前記排気弁の開度が縮小する回数が減る、又はこれらが組み合わせて行われるように構成されている、請求項4に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項7】
前記シリンダ、前記ピストン、又は前記排気弁の温度が所定の上限温度を超えたとき、掃気行程中に前記排気弁の開度が縮小するサイクルの頻度が減るように構成されている、請求項5に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項8】
外部NOx低減装置をさらに備え、
低負荷領域から中負荷領域に移行したとき、前記外部NOx低減装置の利用負荷を下げ、中負荷領域から低負荷領域に移行したとき、前記外部NOx低減装置の利用負荷を上げるように構成されている、請求項2に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【請求項9】
外部NOx低減装置をさらに備え、
前記シリンダ、前記ピストン、又は前記排気弁の温度が前記所定の上限温度を超えたとき、前記外部NOx低減装置の利用負荷を上げるように構成されている、請求項6又は7に記載のユニフロー式2ストロークエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOxの発生を抑える機構を備えたユニフロー式2ストロークエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
大型船舶などに搭載されているユニフロー式2ストロークディーゼルエンジンは、自動車用のエンジンなど他のエンジンと同様に、NOxの排出規制が強化される傾向にある。NOxの生成を抑える方法として、排気(既燃ガス)の一部を燃焼室に戻し、シリンダ内の酸素濃度を低減させる排気再循環(Exhaust Gas Recirculation;以下、「EGR」と称す)がある。ユニフロー式2ストロークエンジンで行われるEGRは、外部EGRに相当し、燃焼室から排出された排気を冷却洗浄するなどして燃焼室の外部を通って再び入口側(掃気管側)へ戻すというものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、4ストロークエンジンにおいては、外部EGRだけでなく内部EGR(特許文献2参照)を行うものがある。内部EGRとしては、例えば排気弁の開放中(排気行程中)に吸気弁を開放し(いわゆるオーバーラップさせ)、吸気通路へ既燃ガスを逆流させる方法がある。このような内部EGRは、外部の機器を用いることなく既燃ガスを再度燃焼室に戻すことができる。そのため、外部EGR装置等(外部EGR以外の外部NOx低減装置を備える場合にはその装置も含む)の負担が軽減され、外部EGR装置等を縮小することができ、場合によっては外部EGR装置等自体を無くすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−133413号公報
【特許文献2】特開平7−133726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
4ストロークエンジンの場合、排気弁と吸気弁をそれぞれ任意のタイミングで開閉できる装置(いわゆる可変バルブ装置)を搭載していれば比較的容易に内部EGRを行うことができ、シリンダ内の酸素濃度を低下させることができる。これに対し、ユニフロー式2ストロークエンジンの場合は、4ストロークエンジンの吸気弁に相当する掃気ポートはピストンによって直接開閉されるため実質的に開閉制御を行うことはできない。つまり、ユニフロー式2ストロークエンジンの場合、可変バルブ装置を用いたとしても、任意のタイミングで開閉できるのは排気弁のみである。そのため、4ストロークエンジンの制御をそのままユニフロー式2ストロークエンジンに適用することはできない。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであって、排気弁の開閉タイミングを調整することでシリンダ内の酸素濃度を低下させることができるユニフロー式2ストロークエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある形態に係るユニフロー式2ストロークエンジンは、下部に掃気ポートが形成されたシリンダと、前記シリンダ内を往復し前記掃気ポートを開閉するピストンと、圧縮された新気を一旦収容して前記掃気ポートに供給する掃気管と、前記シリンダの上部に配置された排気弁と、前記排気弁を任意のタイミングで開閉する可変バルブ装置と、を備え、燃焼行程後に前記排気弁が通常よりも遅いタイミングで開きはじめることで、既燃ガスの一部を前記排気弁から排出しないように構成されている。かかる構成によれば、燃焼行程後の既燃ガスは掃気管へ逆流するか、少なくとも既燃ガスがシリンダ内に多く残留する。そのため、次回の燃焼行程において、シリンダ内に多くの既燃ガスを含めることができ、酸素濃度を低下させることができる。
【0008】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、前記通常よりも遅いタイミングは、そのタイミングで前記排気弁が開くと、前記掃気ポートが開きはじめたとき、前記シリンダ内の圧力が前記掃気管内の圧力よりも高く、前記シリンダから前記掃気管へ既燃ガスが逆流するようなタイミングであってもよい。かかる構成によれば、シリンダから掃気管へ逆流した既燃ガスが、再びシリンダに流入するため、シリンダ内の酸素濃度を低下させることができる。
【0009】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、前記通常よりも遅いタイミングは、前記掃気ポートが開きはじめるタイミングと実質的に同じタイミングであってもよい。かかる構成によれば、より確実に既燃ガスをシリンダから掃気管へ逆流させることができる。
【0010】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、低負荷領域にあるときには、前記排気弁が通常のタイミングで開くように構成されていてもよい。かかる構成によれば、低負荷領域においては既燃ガスの逆流が生じないため、低負荷領域で発生しやすい掃気管の火災を防止することができる。
【0011】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、前記掃気管内のオイルミスト濃度が所定の上限濃度を超えたとき、前記排気弁が通常のタイミングで開くように構成されていてもよい。かかる構成によれば、掃気管内のオイルミスト濃度が高く火災が発生しやすくなった場合には、逆流が生じないように制御されるため、エンジンをより安全に運用することができる。
【0012】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、掃気行程中に前記排気弁の開度が一回又は複数回縮小するように構成されていてもよい。かかる構成によれば、掃気行程中に排気弁から排出される既燃ガスの量を減らすことで、既燃ガスをシリンダ内に多く残留させることができる。これにより、シリンダ内の酸素濃度を低下させることができる。
【0013】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、掃気行程中に前記排気弁の開度が縮小するサイクルと、掃気行程中は前記排気弁の開度が一定のままであるサイクルが混在するように構成されていてもよい。かかる構成によれば、例えば排気弁が非常に大きく、応答が比較的遅い装置であっても、排出されるNOxの量を適切に制御することができる。
【0014】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、前記シリンダ、前記ピストン、又は前記排気弁の温度が所定の上限温度を超えたとき、掃気行程中は前記排気弁の開度が縮小しない、掃気行程中に縮小する前記排気弁の最小開度が大きくなる、掃気行程中に前記排気弁の開度が縮小する回数が減る、又はこれらが組み合わせて行われるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、シリンダ等の温度が上限温度を超えた場合には、新気が多く流入することでそれらの部材が冷却され、その結果シリンダ等に生じうる不具合を防止することができる。なお、ここでいう「上限温度」は、部材ごとに異なっていてもよく、全ての部材で共通であってもよい(以下同様)。
【0015】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、前記シリンダ、前記ピストン、又は前記排気弁の温度が所定の上限温度を超えたとき、掃気行程中に前記排気弁の開度が縮小するサイクルの頻度が減るように構成されていてもよい。かかる構成においても、シリンダ等の温度が上昇しすぎた場合には、新気が多く流入するため、シリンダ等の温度の過上昇による不具合を防止することができる。
【0016】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、外部NOx低減装置をさらに備え、低負荷領域から中負荷領域に移行したとき、前記外部NOx低減装置の利用負荷を下げ、中負荷領域から低負荷領域に移行したとき、前記外部NOx低減装置の利用負荷を上げるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、中負荷領域から低負荷領域に移行した際、前述した制御によって内部に残留する既燃ガスの量が減ったとしても、外部NOx低減装置を利用して、NOxの排出量を抑えることができる。
【0017】
また、上記のユニフロー式2ストロークエンジンにおいて、外部NOx低減装置をさらに備え、前記シリンダ、前記ピストン、又は前記排気弁の温度が前記所定の上限温度を超えたとき、前記外部NOx低減装置の利用負荷を上げるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、シリンダ内の温度が上限値を超えた際、内部に残留する既燃ガスの量が減ったとしても、外部NOx低減装置を利用して、NOxの排出量を抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
上述したユニフロー式2ストロークエンジンによれば、排気弁のみの開閉タイミングを調整することでシリンダ内の酸素濃度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係るユニフロー式2ストロークエンジンのブロック図である。
図2図2は、排気弁の通常の動作を示した図である。
図3図3は、図2に示す場合のクランク角度と排気弁の開度との関係を示した図である。
図4図4は、本発明の実施形態における低負荷領域での排気弁の動作を示した図である。
図5図5は、図4に示す場合のクランク角度と排気弁の開度との関係を示した図である。
図6図6は、本発明の実施形態におけるプリクローズ制御行うか否かを判断する際のフロー図である。
図7図7は、本発明の実施形態における中負荷領域及び高負荷領域での排気弁の動作を示した図である。
図8図8は、図7に示す場合のクランク角度と排気弁の開度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0021】
<エンジンの概略>
まず、本発明の実施形態に係るユニフロー式2ストロークエンジン(以下、単に「エンジン」と称する)100の概略について説明する。図1は、本実施形態に係るエンジン100のブロック図である。本実施形態に係るエンジン100は、大型船舶用のディーゼルエンジンであって、燃焼室10と、過給機20と、補助ブロア30と、掃気管40と、排気管50と、外部EGRユニット60と、制御装置70と、を備えている。以下、これらの各構成要素について順に説明する。
【0022】
燃焼室10は、エンジン100の中心となる構成要素である。燃焼室10には、掃気管40から新気が供給される(ただし、EGRを行っている場合には、新気と既燃ガスが供給される。以下同様。)。また、燃焼室10で発生する既燃ガスは排気管50へ排出される。燃焼室10の構成は、4ストロークエンジンの燃焼室の構成とは全く異なる。燃焼室10の構成の詳細は後述する。
【0023】
過給機20は、大気(新気)を圧縮して燃焼室10に供給する装置である。過給機20は、タービン部21と、コンプレッサ部22とを有している。タービン部21には燃焼室10から排気が供給され、排気のエネルギによりタービン部21が回転する。タービン部21とコンプレッサ部22はシャフト部23により連結されており、タービン部21が回転することによりコンプレッサ部22も回転する。コンプレッサ部22が回転すると、外部から取り込んだ大気が圧縮され、圧縮された大気は掃気管40を介して燃焼室10へ供給される。
【0024】
補助ブロア30は、過給機20を補助する装置である。過給機20から掃気管40に延びる配管31にはバイパス配管32が設けられており、このバイパス配管31に補助ブロア30が取り付けられている。なお、補助ブロア30は、通常、エンジン100の低負荷領域のみで作動する。これは、過給機20が排気のエネルギを駆動源としているところ、低負荷領域では排気の流量が少なく、十分に大気を圧縮できないからである。なお、補助ブロア30は電動モータで駆動するため、その能力はエンジン100の負荷領域と関係なく一定である。
【0025】
掃気管40は、圧縮された新気を一旦収容して燃焼室10に供給する装置である。従来のエンジン(ユニフロー式2ストロークエンジン)では、燃焼室10から掃気管40へ既燃ガスが逆流しないように設計されている。これは、燃焼室10から掃気管40へ既燃ガスが逆流すると、掃気管40内で火災が発生する可能性があるからである。掃気管40は燃焼室10の下方に位置しているため、潤滑油や燃料などの残渣が溜まりやすく、溜まった残渣に引火する場合がある。また、掃気管40での火災は、特にエンジン100の低負荷領域で生じやすい。これは、エンジン100の低負荷領域では残渣が発生しやすく、また、低負荷領域で作動する補助ブロア30が掃気管40内の空気をかき回すことで残渣が霧状になり、引火しやすくなるからである。さらに、掃気管40には、オイルミスト濃度測定器41が設けられている。オイルミスト濃度測定器41は、掃気管40内に浮遊する潤滑油や燃料などの濃度(オイルミスト濃度)を測定する装置である。オイルミスト濃度測定器41は、測定したオイルミスト濃度に関する信号を制御装置70に送信する。
【0026】
排気管50は、燃焼室10から排出された排気(既燃ガス)を一旦収容して過給機20へ供給する装置である。排気管50は、燃焼室10から排出される排気の脈動を抑えるだけでなく、NOxの排出量を平均化することができる。つまり、燃焼室10のサイクル毎にNOxの排出量が異なったとしても、排気管50からはNOx量の変動が小さい安定した排気が排出される。なお、排気管50の下流側には、排気温度を測定する温度センサ51が設けられている。温度センサ51は、測定した排気温度に関する信号を制御装置70に送信する。
【0027】
外部EGRユニット60は、排気管50から排出された既燃ガス(排気)の一部を掃気管40側に供給するユニットである。外部EGRユニット60では、スクラバ61によって取り込んだ既燃ガスからすす等を除去し、その既燃ガスを冷却装置62で冷却し、EGRブロア63で昇圧した後、過給機20から送られる新気と合流させる。なお、EGRブロア63は、冷却装置62の下流に配置してもよく、上流に配置してもよい。外部EGRユニット60を構成するEGRブロア63や内部配管に設けられた調整バルブ64、65は制御装置70によって制御される。これにより、制御装置70は、外部EGRユニット60内を通って掃気管40に供給される既燃ガスの流量を調整することができる。
【0028】
制御装置70は、CPU等で構成されており、エンジン100の全体を制御する装置である。制御装置70は、エンジン100の回転速度と燃料噴射量に関する信号をそれぞれ受信し、これらエンジン100の回転速度と燃料噴射量に基づいてエンジン100の負荷を算出することができる。また、制御装置70は、温度センサ51から排気温度に関する信号を受信し、その排気温度に基づいて燃焼室10を構成するシリンダ11、ピストン12、又は排気弁13の温度(以下、「部材温度」と称す。)を推定することができる。ただし、部材温度は、直接測定してもよく、他の方法によって推定してもよい。さらに、制御装置70は可変バルブ装置14に制御信号を送信し、排気弁13の開度を調整することができる。制御装置70による具体的な制御内容については後述する。
【0029】
<燃焼室の構造>
次に、燃焼室10の構造について説明する。図1に示すように、本実施形態の燃焼室10は、シリンダ11と、ピストン12と、排気弁13と、を有している。また、排気弁13は可変バルブ装置14によって開閉される。以下、これらの各構成要素について順に説明する。
【0030】
シリンダ11は、筒状の部材であり、その内部で新気と燃料の混合気が燃焼する。図1では、シリンダ11が1つのみ図示されているが、実際にはエンジン100に複数個のシリンダ11が並べて配置されている。本実施形態に係るエンジン100はユニフロー式であるため、シリンダ11の下部に掃気ポート15が形成されている。この掃気ポート15を介して、掃気管40からシリンダ11内に新気が流入する。シリンダ11の上部には、燃料噴射ノズル16が設けられている。燃料噴射ノズル16は、所定のタイミングでシリンダ11内に燃料を噴射する。
【0031】
ピストン12は、シリンダ11内を往復する部材である。ピストン12の下端部分は、プロペラ軸に連結するクランクシャフト(いずれも図示せず)に取り付けられており、ピストン12が上下に移動することでクランクシャフトが回転し、ひいては船体推進用のプロペラが回転する。本実施形態のピストン12は、シリンダ11内の空気を圧縮し、また、燃焼による膨張を仕事に変換するだけでなく、シリンダ11に形成された掃気ポート15を開閉する。つまり、ピストン12の上下位置(クランク角度)によって掃気ポート15の開度が決まり、両者の相対関係は変わることはない。
【0032】
排気弁13は、シリンダ11内の既燃ガスを排気管50へ排出する弁である。本実施形態の排気弁13はシリンダ11の上部に配置されている。排気弁13は、シリンダ11の上部に形成されたシリンダカバー17と、排気弁棒18によって主に構成されている。排気弁棒18が駆動することにより、排気弁13が開閉する。この排気弁棒18は、可変バルブ装置14によって駆動される。つまり、上述したように、排気弁13は可変バルブ装置14によって開閉される。
【0033】
可変バルブ装置14は、排気弁13を任意のタイミングで開閉する装置である。可変バルブ装置14は、公知のものを採用することができる。例えば、排気弁棒18がカムシャフトで駆動される構成の場合、クランクシャフトに対するカムシャフトの位相をずらすものや、複数のカムシャフトを切り換えて使用するものなどを採用しても良い。ただし、本実施形態の可変バルブ装置14は、電子制御された油圧アクチュエータで排気弁棒18を駆動するように構成されている。また、上述したように、可変バルブ装置14は、制御装置70によって制御される。そして、可変バルブ装置14は、排気弁13の開閉のタイミングを任意に変更できる可変タイミング制御、及び排気弁13の開度を任意に変更できる可変リフト量制御を行うことができる。
【0034】
<通常の動作>
次に、排気弁13の動作について説明する。本実施形態における排気弁13の動作を説明する前に、まず通常の(従来の)動作について説明する。2ストロークエンジンでは、掃気、圧縮、燃焼、排気の1サイクルが2ストローク(ピストン12が1往復する間)で行われる。図2は排気弁13の通常の動作を示した図である。図2のAからHはピストン12が下死点から上死点に達し、さらに下死点に至るまでの排気弁13の位置を示している。図2に示すように、ピストン12が下死点にあるとき(A)、排気弁13は全開(開度100%)である。このとき、エンジン100は掃気行程にある。すなわち、掃気ポート15と排気弁13はいずれも開いており、掃気ポート15から流入した新気が既燃ガスを排気弁13側へ押し出す。この掃気行程は、ピストン12が上昇しはじめても一定期間続く(B、C)。
【0035】
さらにピストン12が上昇すると排気弁13は全閉(開度0%)となって圧縮行程に入る(D)。続いて、ピストン12が上死点に達した付近でシリンダ11内に燃料が噴射され燃焼行程に入る(E)。その後、ピストン12が下降する途中で排気弁13が全開となり、排気行程に入る(F)。つまり、排気弁13から既燃ガスが排出される。この排気行程は、ピストン12が下降しながらも一定期間続く(G)。さらにピストン12が下降すると掃気ポート15が開きはじめる(H)。このとき既にシリンダ11内の既燃ガスの一部が排気弁13から排出されているため、シリンダ11内の圧力は掃気管40内の圧力よりも低い状態にある。そのため、掃気ポート15からシリンダ11内へと新気が流れ込み、掃気行程がはじまる。
【0036】
なお、掃気管40内の圧力と排気管50内の圧力はエンジン100の負荷が一定であれば大きく変動しない。例えば、ある負荷において、掃気管40内の圧力は4.0気圧に維持され、排気管50内の圧力は3.7気圧に維持される。そして、通常の動作であれば(排気弁13が通常のタイミングで開けば)、掃気ポート15が開きはじめたとき(図2に示すHの状態のとき)、シリンダ11内の圧力は、掃気管40内の圧力よりも低く排気管50内の圧力よりも高い。上記の例でいえば掃気ポート15が開きはじめたときのシリンダ11内の圧力は、例えば3.8気圧となる。このような圧力関係であれば、掃気ポート15が開きはじめると同時に、掃気管40からシリンダ11内に新気が流れ込み、すみやかに掃気行程に入ることができる。
【0037】
ここで、通常の動作の場合、クランク角度(ピストン12の位置)と排気弁13の開度の関係は例えば図3のようになる。図3のうち横軸はクランク角度を表している。クランク角度が0度のときはピストン12が上死点(図2のE)にあり、180度及び−180度のときピストン12は下死点(図2のA)にある。また、図3のうち縦軸は排気弁13のリフト量(開度)を表している。リフト量が0%のときは全閉状態にあり、100%のときは全開状態にある。図3に示すように、通常の動作の場合、クランク角度が−180度付近にあるとき排気弁13は全開のままである。その後、上死点でシリンダ11内が所要の圧力となるように、ピストン12が上昇する間の最適なタイミングで排気弁13が全閉となる。また、ピストン12が下降する間のあるタイミングで排気弁13が再び全開となる。そして、そこから排気弁13は全開状態を維持する。以上が、排気弁13の通常の動作である。
【0038】
なお、排気弁13が開くタイミング(クランク角度)は、シリンダ11内の圧力と掃気管40内の圧力の関係から、エンジン100の負荷ごとに定められている。具体的には、燃焼行程後、シリンダ11内の圧力が低下しはじめて、掃気管40内の圧力と同じになるクランク角度を設計時に計算しておき、例えば、その5度前を開くタイミングと定めている。このように設定するのは、実際のエンジン運転時には、負荷が一定でも、シリンダ11内の圧力および掃気管40内の圧力は各サイクルで変動するので、必ず逆流しないように余裕を見ているからである。
【0039】
<低負荷領域での動作>
次に、本実施形態のエンジン100が低負荷領域にあるときの排気弁13の動作について説明する。なお、低負荷領域とはエンジン100の最大負荷の例えば35%以下であるときをいう。ここで、図4はエンジン100が低負荷領域にあるときの排気弁13の動作を示した図である。図2の場合と同様に、図4のAからHはピストン12が下死点から上死点に達し、さらに下死点に至るまでの排気弁13の位置を示している。なお、排気弁13の開閉は、制御装置70が可変バルブ装置14を制御することにより行われる。図4に示すように、ピストン12が下死点にあるとき(A)、排気弁13は全開(開度100%)である。また掃気ポート15も開いた状態にある。そのため、掃気ポート15からは新気(正確には既燃ガスも含まれる)がシリンダ11内に流入するとともにシリンダ11内の既燃ガスが排気弁13から外部(排気管50)へと押し出される。つまり、このときシリンダ11内は掃気行程にある。
【0040】
上述したように、掃気行程中は本来、排気弁13が全開の状態にある(図2のAからC)。ところが、本実施形態では、掃気行程中に排気弁13は開度が100%から50%へと一旦減少し(B)、その後再び100%(全開)となる(C)。このように、本実施形態では、掃気行程中において排気弁13の開度は一定ではなく、排気弁13の開度を一旦縮小するプリクローズ制御が行われる。なお、掃気行程後の圧縮行程(D)、燃焼行程(E)、排気行程(F)については、図2に示す通常の動作と同じであるため再度の説明は省略する。
【0041】
ここで、図5は、エンジン100が低負荷領域にあるときのクランク角度と排気弁13の開度との関係を示した図である。図5の縦軸及び横軸は、図3のものと同じである。図5において、破線は図3で示した通常動作の場合を示しており、実線は本実施形態のエンジン100が低負荷領域にあるときの場合を示している。図5に示すように、本実施形態では通常の動作において全開であった−180度から−90度付近の間で排気弁13のリフト量(開度)が一旦50%に縮小し、その後再び100%になっている。
【0042】
以上のように、本実施形態ではエンジン100が低負荷領域にあるとき、掃気行程において一旦排気弁13の開度が縮小するよう構成されている。この構成により、掃気工程中に既燃ガスが排気弁13から排出されにくくなり、既燃ガスの一部がシリンダ11内に残留することとなる。その結果、シリンダ11内の酸素濃度が低下し、NOxの生成を抑えることができる。なお、既燃ガスを残留させる方法として、排気弁13の開度を縮小してそのまま全閉にさせる(圧縮行程に入る)こともできるが、この場合シリンダ11内の圧力が上昇しすぎるおそれがあるため、開度を縮小した後は再度全開又は全開近くにまで排気弁13の開度を拡大するのが望ましい。
【0043】
また、本実施形態では、掃気行程において排気弁13の開度を100%から50%へと縮小しているが、例えば開度を100%から0%へと縮小してもよい。つまり、掃気行程中に一旦排気弁13を完全に閉じてもよい。さらに、本実施形態では、掃気行程中に一回のみ開度を縮小しているが、複数回縮小してもよい。また、以上ではエンジン100のあるサイクルに着目して説明しているが、掃気行程中に排気弁13の開度が一旦縮小するサイクルと、これとは別に掃気行程中は排気弁13の開度が一定のままであるサイクルを混在させてもよい。
【0044】
ここで、本実施形態に係るエンジン100は大型船舶用に搭載される大型のものであり、排気弁棒18は非常に重い。また排気弁棒18の駆動には油圧を利用している。そのため、制御装置70から可変バルブ装置14へ送信した制御信号と実際の排気弁棒18の動作には時間のずれが生じやすい。このような場合には、掃気行程中において排気弁13の開度が一旦縮小するサイクルと、排気弁13の開度が一定のままであるサイクルを混在させてもよい。例えば、排気弁13の開閉動作に時間がかかることで、ピストン12の動きに追従できず、その結果排気弁13を比較的長い間閉じたままになったとしても、次のサイクルで排気弁13の開度を一定のままにしておけば、部材温度の上昇を抑えながらNOxの生成量の平均値は通常動作時より低減することができるからである。なお、前述したように、NOxの生成量の平均化は、排気管50で行うことができる。
【0045】
また、本実施形態では、プリクローズの期間、タイミング、開度、及び頻度は、エンジン100の負荷によって異なる。エンジン100の負荷に応じて残留させるべき既燃ガスの量が異なるからである。例えば、エンジン100が高負荷領域にあるときは、中負荷領域にあるときに比べて、開度の縮小期間を長く設定するなどの制御を行う。なお、プリクローズの具体的な期間、タイミング、開度、及び頻度については、予め同型のエンジンで試験を行った結果に基づいて決定する。
【0046】
<補完制御>
以上のとおり、本実施形態ではプリクローズ制御が行われるが、プリクローズ制御を行った結果、新気が入りにくくなり、部材温度(シリンダ11、ピストン12、又は排気弁13の温度)が上昇する場合がある。新気は既燃ガスに比べて温度が低く、新気がシリンダ11内に流入しなくなると新気による冷却の効果が低下するからである。そして、部材温度が上昇しすぎると、シリンダ11、ピストン12、又は排気弁13が変形したり破損したり不具合が生じるおそれがある。そのため、部材温度が一定以下になるよう制御する必要がある。具体的には、部材温度が上限温度を超えた場合には、新気の流入量を増やす制御、つまり既燃ガスの排出量を増やす制御を行う。
【0047】
本実施形態では、既燃ガスの排出量を増やすために、プリクローズ制御を一旦停止している。つまり、部材温度が上限温度を超えたとき、掃気行程中の排気弁13の開度を常に100%とする。ただし、プリクローズ制御自体を停止するのではなく、排気弁13の最小開度を大きくしてもよい。上記の例で言えば、最小開度を50%から70%に変更してもよい。また、1回の掃気行程で排気弁13の開度を複数回縮小しているのであれば、その回数を減らしてもよい。また、排気弁13の開度を縮小するサイクルと一定のままのサイクルが混在しているのであれば、縮小するサイクルの頻度を減らしてもよい。さらに、これらを組み合わせてもよい。
【0048】
また、プリクローズ制御を停止するか否か(既燃ガスの排出量を減らすか否か)は、例えば次のように決定される。図6は、プリクローズ制御を停止するか否かを判断するフロー図である。なお、プリクローズ制御を停止するか否かの判断は、制御装置70によって行われる。まず、制御装置70は、既にプリクローズ制御を行っているか否かを判定する(ステップS1)。プリクローズ制御を行っていると判定した場合(ステップS1でYES)、部材温度が予め定められた上限温度より低いか否かを判定する(ステップS2)。この上限温度は各部材に不具合が生じるおそれがある温度よりも若干低い温度に設定されている。また、上述したように部材温度は、排気温度により推定することができる。そのため、実際には、ステップS2では、排気温度が所定の温度より低いか否かを判定している。
【0049】
そして、制御装置70は、部材温度が上限温度よりも低いと判定した場合(ステップS2でYES)、そのままプリクローズ制御を続ける(ステップS3)。一方、部材温度が上限温度よりも高いと判定した場合には(ステップS2でNO)、プリクローズ制御を停止する(ステップS4)。このとき、制御装置70は、外部EGRユニット60を通って掃気管40に供給される既燃ガスの流量を増やす。このように外部EGRユニット60を通る既燃ガスの流量を増やすのは、プリクローズ制御を停止するとシリンダ11内に残留する既燃ガスの量が減ってしまうからである。これにより、プリクローズ制御を停止したとしても、シリンダ11内の既燃ガスの量を維持することができ、NOxの生成量の増加を抑えることができる。
【0050】
また、制御装置70は、ステップS1でプリクローズ制御を行っていないと判定した場合(ステップS1でNO)、部材温度が予め定めた再開温度より高いか否かを判定する(ステップS5)。なお、再開温度は、上限温度よりも低く(厳しく)設定されている。制御装置70は、ステップS5で、部材温度が再開温度よりも高いと判定した場合(ステップ5でYES)、プリクローズ制御をそのまま停止する(ステップS4)。一方、部材温度が再開温度よりも低いと判断した場合(ステップ5でNO)、プリクローズ制御を再開する。このとき、制御装置70は、外部EGRユニット60を通って掃気管40に供給される既燃ガスの流量を減らす。
【0051】
以上のように、本実施形態では、部材温度が上限温度よりも高い場合、プリクローズ制御を停止することで、シリンダ11に生じうる不具合を回避している。そして、プリクローズ制御の停止に伴って外部EGRユニット60の利用負荷を上げ、プリクローズ制御の再開に伴って外部EGRユニット60の利用負荷を下げることで、シリンダ11内における既燃ガスの量を適切な量に維持し、NOxの生成量を的確に抑えている。
【0052】
なお、本実施形態では、外部NOx低減装置として外部EGRユニット60を備えているが、外部EGRユニット60とともに又はこれに代えて他の外部NOx低減装置を備えていてもよい。例えば、エンジン100は、外部NOx低減装置として、水添加装置、又はSCR(選択触媒脱硝)装置を備えていてもよい。たとえば、水添加装置は、燃料に水を添加することで、燃焼時に水の蒸発潜熱で局所的な燃焼温度が低下し、NOx生成が抑えられるというものである。水添加装置を利用する場合、プリクローズ制御の停止に伴って水添加率を上げ、プリクローズ制御の再開に伴って水添加率を下げる、又は水添加を止めることで、NOxの生成量を的確に抑える。また、SCR装置は、一般にタービン部21の後に設置され、排ガスに含まれるNOxを化学反応で窒素と水にするものである。SCR装置を利用する場合は、プリクローズ制御の停止に伴って還元剤の量を増やし、プリクローズ制御の再開に伴って還元剤を減らす、又は還元剤の投入を止めることで、NOx排出量を的確に抑える。
【0053】
<高負荷領域及び中負荷領域の動作>
次に、本実施形態のエンジン100が高負荷領域及び中負荷領域にあるときの排気弁13の動作について説明する。なお、高負荷領域とはエンジン100の最大負荷の例えば85%以上のときをいい、中負荷領域とはエンジン100の最大負荷の例えば35%〜85%のときをいう。ここで、図7はエンジン100が低負荷領域にあるときの排気弁13の動作を示した図である。図2及び図4の場合と同様に、図7のAからHはピストン12の下死点から上死点に達し、さらに下死点に至るまでの排気弁13の位置を示している。図7に示すように、高負荷領域及び中負荷領域における排気弁13の動作は、掃気行程中に一旦排気弁13の開度を縮小させるプリクローズ制御が行われている。このように、図7のAからCまでは、図4のAからCまでと同じである。また、圧縮行程(D)についても、通常の動作と同じである。そこで、ここでは図7のEからHに示す排気弁13の動作について説明する。
【0054】
通常の動作と同じように、エンジン100が高負荷領域及び中負荷領域にあるとき燃焼行程中は排気弁13が全閉の状態にある(E)。その後、ピストン12が下降しはじめるが、排気弁13は全閉のままであり(F)、掃気ポート15が開く寸前で排気弁13が開く(G)。つまり、高負荷領域及び中負荷領域では、排気弁13が通常よりも遅いタイミングで開きはじめる(図2のF、G)。このように、排気弁13は通常よりも遅いタイミングで開くため、シリンダ11内の圧力が高い状態が通常よりも長く維持される。
【0055】
そして、排気弁13が開きはじめた後すぐに、掃気ポート15が開く(H)。そうすると、掃気ポート15が開きはじめたとき、シリンダ11内の圧力が掃気管40内の圧力よりも高くなり、シリンダ11から掃気管40へ既燃ガスが逆流する。なお、シリンダ11内の既燃ガスは排気弁13からも排出される。また、掃気管40内の圧力と排気管50内の圧力が一定であることは上述したとおりであり、同じように例えば掃気管40内の圧力が4.0気圧に維持され、排気管50内の圧力が3.7気圧に維持されているとすると、掃気ポート15が開きはじめたとき(図7に示すHの状態のとき)のシリンダ11内の圧力は4.1気圧といった値とする。
【0056】
なお、掃気ポート15が開きはじめてからしばらくすると、今度はシリンダ11内の圧力が掃気管40内の圧力よりも低くなり、通常の掃気行程と同じように掃気管40からシリンダ11へ空気が流れ込む(A)。このシリンダ11へ流れ込む空気には、逆流した既燃ガスも当然含まれており、シリンダ11内には多くの既燃ガスが残ることとなる。その結果、シリンダ11内の酸素濃度が低下し、NOxの生成が抑えられる。なお、排気弁13の開きはじめが遅いと、シリンダ11内の圧力が高い期間が長く、シリンダ11の内部圧力によって比較的長い間ピストン12を下方に押し続けることができる。その結果、エンジン100の燃費も向上する。
【0057】
ここで、図8は、エンジン100が中負荷領域及び高負荷領域にあるときのクランク角度と排気弁13の開度との関係を示した図である。図8の縦軸及び横軸は、図3及び図5のものと同じである。図8において、破線は通常動作の場合を示しており、実線は本実施形態の高負荷領域及び中負荷領域あるときの場合を示している。図8に示すように、−180度から−90度付近の間で排気弁13のリフト量(開度)が一旦50%に縮小している点は、低負荷領域の場合と同じである。さらに、通常の動作では、クランク角度が90度付近で排気弁13が全開になっているところ、本実施形態の中負荷領域及び高負荷領域では、通常よりも遅いタイミングで排気弁13の開度が全開になっている。
【0058】
なお、本実施形態では、掃気ポート15が開きはじめたとき、シリンダ11内の圧力が掃気管40内の圧力よりも高くなるようなタイミング、つまりシリンダ11から掃気管へ既燃ガスが逆流するようなタイミングで排気弁13が開く。これを実現するために、本実施形態では掃気ポート15が開く直前に排気弁13を開いているが、必ずしも掃気ポート15が開く前に排気弁13を開かなくてもよい。排気弁13が開きはじめるタイミングと掃気ポート15が開きはじめるタイミングが実質的に同じであってもよく、掃気ポート15が開きはじめるタイミングよりも遅くてもよい。このようなタイミングで排気弁13を開けば、より確実にシリンダ11から掃気管40への逆流を生じさせることができる。
【0059】
また、本実施形態では、燃焼行程後の排気弁13を開くタイミングは、エンジン100の負荷によって異なるように構成されている。上述したように、エンジン100の負荷に応じて残留させるべき既燃ガスの量が異なるからである。例えば、エンジン100が高負荷領域にあるときは、中負荷領域にあるときに比べて、開くタイミングを遅らせるといった制御を行う。なお、排気弁13を開くタイミングについては、予め同型のエンジンで試験を行った結果に基づいて決定する。
【0060】
上記のように、通常よりも遅いタイミングで排気弁13を開く制御(以下、「遅延開放制御」と称す。)は、中負荷領域及び高負荷領域で行われるが、低負荷領域では行われない。これは、前述したように、特に低負荷領域において既燃ガスの逆流が生じると掃気管40内で火災が生じやすいからである。ただし、補助ブロア30の吹き出し口を掃気管40から離して設けたり、掃気管40へ残渣が侵入しないように構成したりするなど他の方法で掃気管40内の火災を防ぐことができるのであれば、低負荷領域においても遅延開放制御を行ってもよい。
【0061】
また、中負荷領域及び高負荷領域のみで遅延開放制御が行われると、低負荷領域から中負荷領域へ移行する際、又は中負荷領域から低負荷領域に移行する際にはシリンダ11内に残留する既燃ガスの量が大きく変化する。そこで本実施形態では、エンジン100が低負荷領域から中負荷領域に移行したとき、制御装置70は外部EGRユニット60を通って掃気管40に供給される既燃ガスの流量を減少するように制御する。また、エンジン100が中負荷領域から低負荷領域に移行したとき、制御装置70は外部EGRユニット60を通って掃気管40に供給される既燃ガスの流量を増加するように制御する。このように構成することで、シリンダ11内における既燃ガスの量を適切な値に維持し、NOxの生成量を的確に抑えることができる。なお、エンジン100が外部EGRユニット60以外の外部NOx低減装置を備えている場合には、同様にして、当該外部NOx低減装置の利用負荷を調整してもよい。
【0062】
<補完制御2>
以上のとおり、掃気管40内で火災が生じるおそれのある低負荷領域では遅延開放制御が行われず、中負荷領域及び高負荷領域のみで遅延開放制御が行われる。ただし、本実施形態では、より安全を期して、中負荷領域及び高負荷領域であっても、掃気管40内で火災が起きないように制御を行う。具体的には、制御装置70はオイルミスト濃度測定器41から掃気管40内のオイルミスト濃度を取得し、このオイルミスト濃度が所定値(上限濃度)を超えたと判定すると、遅延開放制御を停止する。つまり、掃気管40内のオイルミスト濃度が一定の濃度を超えて火災の発生しやすい状態になった場合には、たとえエンジン100が中負荷領域又は高負荷領域にあったとしても、遅延開放制御を停止し、排気弁13が開放されるタイミングを通常の運転のタイミングに戻す。これにより、エンジン100のより安全な運用が可能となる。
【0063】
以上が本実施形態に係るエンジン100の構成である。上記のように、本実施形態によれば、ユニフロー式2ストロークエンジンでありながら、排気弁13の開閉タイミングを調整するだけでシリンダ11内の酸素濃度を低下させることができる。なお、以上では、制御装置70が、プリクローズ制御と遅延開放制御をそれぞれ独立して行っていたが、両制御を連鎖させてもよい。例えば、中負荷領域から低負荷域に移行した際、遅延開放制御が停止されるが、制御装置70はこれにあわせてプリクローズ制御における排気弁13の最小開度を小さくするよう構成してもよい。かかる構成によれば、遅延開放制御の停止によって低下するシリンダ11内の既燃ガスの少なくとも一部を、プリクローズ制御によって増加させることができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について図を参照して説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本実施形態では、シリンダ11から掃気管40へ既燃ガスが逆流する場合について説明したが、逆流しない場合であっても本発明に含まれる。通常よりも排気弁13を閉じるタイミングが遅ければ、逆流せずともシリンダ11内に既燃ガスが残留しやすく、酸素濃度を低下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るユニフロー式2ストロークエンジンは、排気弁の開閉タイミングを調整することでシリンダ内の酸素濃度を低下させることができる。よって、ユニフロー式2ストロークエンジンの技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0066】
10 燃焼室
11 シリンダ
12 ピストン
13 排気弁
14 可変バルブ装置
15 掃気ポート
40 掃気管
60 外部EGRユニット(外部NOx低減装置)
100 エンジン(ユニフロー式2ストロークエンジン)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8