(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プランジャインナには、前記プランジャアウタの前記内フランジ部に対応する部位に、径方向外側に突出し径方向内側に弾性変形可能な爪部が形成され、この爪部に前記内フランジ部が係合可能に構成され、
前記爪部の内周面と前記出力軸の外周面との隙間は、前記爪部の高さよりも狭く設定されたことを特徴とする請求項7に記載のスタータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、ピニオンギヤとリングギヤとはヘリカル噛合しているため、エンジン始動時にピニオンギヤとリングギヤとの間に回転速度差に基づいて、ピニオンギヤにかかるスラスト荷重の向きが変化する。具体的には、リングギヤの回転速度がピニオンギヤの回転速度よりも低いときには、ピニオンギヤにはリングギヤ側に向かってスラスト荷重がかかり、リングギヤ側に変位する。また、リングギヤの回転速度がピニオンギヤの回転速度よりも高いときには、ピニオンギヤにはリングギヤ側とは反対側に向かってスラスト荷重がかかり、ピニオンギヤはリングギヤとは反対側に変位する。
この状態から、先のリングギヤの回転速度がピニオンギヤの回転速度よりも低い状態となって、モータ部(アーマチュア)の回転力でピニオンギヤを回転させる状態となった際、レバー(ギヤプランジャ)とクラッチ機構の間にガタがあると、このガタ分だけクラッチ機構が軸方向に変位することになり、僅かではあるが、その分、モータ部(アーマチュア)の回転力をピニオンギヤに伝達するのが遅れることになる。さらに、クラッチ機構がこのガタ分だけ動く間は、モータ部(アーマチュア)の回転にかかる負荷も小さくなるため、モータ部(アーマチュア)の回転は加速状態となるが、ガタが詰まると、モータ部(アーマチュア)の回転に負荷が加わって加速状態から定速状態に移ることになる。この状態の変化によって、モータ部(アーマチュア)の回転にムラが生じることがあり、この回転ムラによって減速機構の歯車同志の噛合い音が発生するおそれがある。
【0010】
特に、アイドルストップ機能を備えた車両においては、通常のエンジン始動時はユーザの意思でキーシリンダーを操作することにより行われるため、エンジン始動音(スタータ作動音)は、エンジンを始動中であることの聴覚的認知の意味もあって、特に問題視されていないものの、車両の一時停止後の再発進時等では、ユーザの意思とは関係なく停止状態のエンジンの再始動が行われるため、エンジン始動音(スタータ作動音)の静粛化のニーズが高まっている。このように、アイドルストップ機能を備えた車両においては、エンジンの停止/始動が頻繁に行われ、一般のスタータよりも使用頻度が高まるため、上記の課題に対する最良の改善策が望まれていた。
【0011】
そこで本発明は、電磁装置の作用点とクラッチ機構との空隙の発生を防止してクラッチ機構のガタつきを防止し、騒音の発生を抑制できるスタータの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の請求項1に係るスタータは、通電により回転力を発生するモータ部と、前記モータ部の回転力を受けて回転する出力軸と、前記出力軸上にスライド移動可能に設けられ、エンジンのリングギヤとヘリカル噛合可能なピニオン機構と、前記出力軸と前記ピニオン機構との間に設けられ、前記出力軸の回転力を前記ピニオン機構に伝達するクラッチ機構と、前記モータ部への通電、遮断を行うと共に、前記クラッチ機構および前記ピニオン機構に前記リングギヤ側に向かう押圧力を付勢する電磁装置と、を備えたスタータであって、
前記ピニオン機構は、前記出力軸に外挿され、前記出力軸に沿ってスライド移動可能なピニオンインナを備え、前記電磁装置に、前記電磁装置の作用点を常に前記クラッチ機構に弾性的に当接させるガタ吸収機構
と、前記クラッチ機構に押圧力を付勢するギヤプランジャと、を設け
、前記クラッチ機構は、前記ギヤプランジャ側に配置されたクラッチアウタと、前記クラッチアウタの径方向内側に、前記クラッチアウタと同心円状に設けられ、前記ピニオンインナと一体形成されたクラッチインナと、を備え、前記ギヤプランジャは、前記出力軸に外挿され、前記出力軸に沿ってスライド移動可能なプランジャインナと、前記プランジャインナの径方向外側に、前記プランジャインナと同心円状に設けられ、前記プランジャインナと連動して前記出力軸に沿ってスライド移動可能なプランジャアウタと、前記プランジャインナと前記プランジャアウタとの間に設けられた前記ガタ吸収機構と、を備え、前記ガタ吸収機構は、一方側端が前記プランジャインナに当接し、他方側端が前記プランジャアウタに当接していることを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、電磁装置の作用点とクラッチ機構とを常に弾性的に当接させるガタ吸収機構を設けたので、電磁装置の作用点とクラッチ機構との間に空隙が発生するのを防止できる。これにより、エンジン始動時に、リングギヤとピニオン機構との回転速度差によりピニオン機構が軸方向に沿って変位しても、クラッチ機構が軸方向に沿ってガタつくのを抑制できる。したがって、クラッチ機構の軸方向変位による騒音の発生を防止できる。
【0014】
また、本発明の請求項2に係るスタータは、前記ピニオン機構は
、前記ピニオンインナの径方向外側に、前記ピニオンインナと同心円状に設けられ、前記リングギヤとヘリカル噛合可能なピニオンギヤと、前記ピニオンインナと前記ピニオンギヤとの間に配置され、前記ピニオンギヤと前記リングギヤとがヘリカル噛合したときの衝撃を吸収するピニオンスプリングと、を備えたことを特徴としている。
【0015】
本発明によれば、ピニオン機構がピニオンスプリングを備えているので、ピニオンギヤとリングギヤとが当接したときの衝撃を吸収できる。したがって、請求項1の効果に加えて、ピニオンギヤおよびリングギヤの摩耗を抑制し、スタータの耐久性を向上できる。
また、衝撃の吸収をピニオンスプリングで行い、クラッチ機構のガタをガタ吸収機構で行うことで、ピニオンスプリングおよびガタ吸収機構の機能を分離しているので、ピニオンスプリングおよびガタ吸収機構のそれぞれの弾性係数を最適に設定できる。これにより、耐久性および静粛性に優れたスタータを提供できる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るスタータは、前記電磁装置は、励磁コイルと、前記出力軸と同軸に設けられるとともに、前記励磁コイルへの通電に基づいて前記出力軸に沿ってスライド移動し、前記クラッチ機構に押圧力を付勢する
前記ギヤプランジャと、を備え、前記作用点を前記ギヤプランジャの前記リングギヤ側の端部に設けたことを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、出力軸とギヤプランジャとを同軸に設けているので、スタータを小型化しつつ、電磁装置の作用点とクラッチ機構との空隙の発生を防止してクラッチ機構のガタつきを防止し、騒音の発生を抑制できる。
【0018】
また、本発明の請求項4に係るスタータは
、前記プランジャインナと前記プランジャアウタとの間に設けられたプランジャスプリン
グを備え、前記励磁コイルへの通電に基づいて前記プランジャアウタがスライド移動し、これと連動して前記プランジャインナとがスライド移動するように構成され、前記プランジャスプリングを、前記ガタ吸収機構として機能させたことを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、プランジャスプリングを用いることにより、簡単な構造で低コストにガタ吸収機構を形成できる。
【0020】
また、本発明の請求項5に係るスタータは
、前記プランジャスプリングは、前記プランジャインナを前記クラッチアウタに弾性的に当接させていることを特徴としている。
【0021】
本発明によれば、プランジャスプリングにより、プランジャインナをクラッチアウタに弾性的に当接させることができるので、簡単な構造で低コストにガタ吸収機構を形成できる。また、ピニオンインナとクラッチインナとを一体形成することで、さらに低コストにスタータを形成できる。
【0022】
また、本発明の請求項6に係るスタータは、前記プランジャスプリングのばね荷重をαとし、前記電磁装置の前記励磁コイルへの通電で発生した磁界により、前記プランジャアウタに生じる吸引力をβとすると、前記ばね荷重α、および前記電磁装置の吸引力βは、α<βを満たすように設定したことを特徴としている。
【0023】
本発明によれば、ガタ吸収機構を構成するプランジャスプリングのばね荷重を電磁装置の吸引力未満に設定しているので、プランジャスプリングのばね荷重に抗して、確実にギヤプランジャを吸引しつつ、電磁装置の作用点をクラッチ機構に弾性的に当接させることができる。したがって、電磁装置の吸引性能を維持しつつ、ガタ吸収機構によりクラッチ機構が軸方向にガタつくのを抑制できる。
【0024】
また、本発明の請求項7に係るスタータは、前記プランジャインナを前記クラッチアウタに当接させ、このクラッチアウタを介して前記ピニオン機構に押圧力を付勢し、前記プランジャインナの一方側端に外フランジ部を形成するとともに、前記プランジャアウタの他方側端に内フランジ部を形成し、この内フランジ部と前記クラッチアウタとの間に形成されたスプリング収納部に前記プランジャスプリングを収納し、前記プランジャスプリングは、前記プランジャインナに対して同軸に外挿されたコイルバネであり、前記プランジャスプリングの前記クラッチ機構側に向かう巻回方向が、前記ピニオン機構の回転方向と同一になるように設定されていることを特徴としている。
【0025】
本発明によれば、プランジャスプリングのクラッチ機構側に向かう巻回方向が、ピニオン機構の回転方向と同一に設定されているので、プランジャスプリングのクラッチ機構側の端面がピニオン機構の回転方向に面するように配置される。これにより、クラッチ機構およびこれに摺接するプランジャインナがクラッチ機構とともに回転しても、プランジャスプリングの端面周縁がプランジャインナの外周面に引っ掛かるのを抑制できる。したがって、プランジャスプリングの端面周縁によりプランジャインナの外フランジ部、および、プランジャアウタの内フランジの内面側が摩耗するのを防止できるので、耐久性に優れたスタータを提供できる。
【0026】
また、本発明の請求項8に係るスタータは、前記プランジャインナには、前記プランジャアウタの前記内フランジ部に対応する部位に、径方向外側に突出し径方向内側に弾性変形可能な爪部が形成され、この爪部に前記内フランジ部が係合可能に構成され、前記爪部の内周面と前記出力軸の外周面との隙間は、前記爪部の高さよりも狭く設定されたことを特徴としている。
【0027】
本発明によれば、プランジャインナの爪部を径方向内側に弾性変形させてプランジャアウタの内フランジ部を係合することで、プランジャインナとプランジャアウタとをスナップフィットにより簡単に一体化できる。したがって、簡単にギヤプランジャを形成できるので、低コストなスタータを提供できる。
また、爪部の内周面と出力軸の外周面との隙間が爪部の高さよりも狭く設定されているので、プランジャインナとプランジャアウタとを一体化した後に出力軸に外挿することで、爪部がその高さよりも大きく径方向内側へ変位するのを出力軸の外周面で規制できる。これにより、プランジャインナとプランジャアウタとのスナップフィットによる係合が外れるのを確実に防止できるので、信頼性の高いスタータを形成できる。
【0028】
また、本発明の請求項9に係るスタータは、前記電磁装置は、前記出力軸と同軸に設けられていることを特徴としている。
【0029】
本発明によれば、電磁装置と出力軸とが同軸に設けられた、いわゆる一軸式のスタータに好適に採用できる。したがって、一軸式のスタータにおいても、電磁装置の作用点とクラッチ機構とが衝突するのを防止できるので、騒音の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、電磁装置の作用点とクラッチ機構とを常に弾性的に当接させるガタ吸収機構を設けたので、電磁装置の作用点とクラッチ機構との間に空隙が発生するのを防止できる。これにより、エンジン始動時に、リングギヤとピニオン機構との回転速度差によりピニオン機構が軸方向に沿って変位しても、クラッチ機構が軸方向に沿ってガタつくのを抑制できる。したがって、クラッチ機構の軸方向変位による騒音の発生を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
続いて、本発明の実施形態に係るスタータについて、図面を参照して説明をする。
図1は、本発明の実施形態におけるスタータ1の断面図である。なお、
図1では、中心線より上側にスタータ1の静止状態を示し、下側にスタータ1の通電状態(ピニオンギヤとリングギヤとが噛合った状態)を示している。
図1に示すように、スタータ1は、不図示のエンジンの始動に必要な回転力を発生するためのものであって、モータ部3と、モータ部3の一方側(
図1における左側)に連結されている出力軸4と、出力軸4上にスライド移動可能に設けられたクラッチ機構5およびピニオン機構70と、モータ部3に対する電源供給路を開閉するスイッチユニット7と、スイッチユニット7の可動接点板8およびピニオン機構70を軸方向に沿って移動させるための電磁装置9とを有している。
【0033】
モータ部3は、ブラシ付直流モータ51と、ブラシ付直流モータ51の回転軸52に連結され、この回転軸52の回転力を出力軸4に伝達するための遊星歯車機構2とにより構成されている。
ブラシ付直流モータ51は、略円筒状のモータヨーク53と、モータヨーク53の径方向内側に配置され、モータヨーク53に対して回転自在に設けられているアーマチュア54とを有している。モータヨーク53の内周面には、複数(本実施形態では6個)の永久磁石57が、周方向に磁極が交互となるように設けられている。
【0034】
永久磁石57の径方向内側には、マグネットカバー60が設けられている。マグネットカバー60は、略円筒状の部材であり、例えばステンレス等の非磁性材料により形成される。
マグネットカバー60の一方側(
図1における左側)には、径方向外側に張り出した外フランジ部60aが形成されており、永久磁石57の一方側の端面を覆っている。
また、マグネットカバー60の他方側(
図1における右側)には、一方側から他方側に向かって径方向外側に傾斜したカシメ部60bが形成されており、マグネットカバー60が永久磁石57の径方向内側にカシメ固定されている。マグネットカバー60を設けることによりモータヨーク53を補強し、モータヨーク53、永久磁石57およびマグネットカバー60で構成されるヨークユニットの強度を向上させている。
【0035】
モータヨーク53の他方側(
図1における右側)の端部には、モータヨーク53の開口部53aを閉塞するエンドプレート55が設けられている。エンドプレート55の径方向中央には、回転軸52の他方側端を回転自在に支持するための滑り軸受56a、および、スラスト軸受56bが設けられている。
アーマチュア54は、回転軸52と、回転軸52の永久磁石57に対応する位置に外嵌固定されているアーマチュアコア58と、回転軸52のアーマチュアコア58よりも遊星歯車機構2側(
図1における左側)に外嵌固定されているコンミテータ61とにより構成されている。
【0036】
アーマチュアコア58は、放射状に形成された複数のティース(不図示)と、周方向に隣接する各ティース間に形成された複数のスロット(不図示)とを有している。周方向に所定間隔をあけた各スロット間には、コイル59が例えば波巻により巻装されている。コイル59の端末部は、コンミテータ61に向かって引き出されている。
【0037】
コンミテータ61には、複数枚(例えば、この実施形態では26枚)のセグメント62が周方向に沿って、かつ互いに電気的に絶縁されるように所定間隔を空けた状態で設けられている。
各セグメント62のアーマチュアコア58側端には、折り返すように曲折形成されたライザ63が設けられている。ライザ63には、アーマチュアコア58に巻装されているコイル59の端末部が接続されている。
【0038】
モータヨーク53のエンドプレート55とは反対側には、有底筒状のトッププレート12が設けられている。トッププレート12には、アーマチュアコア58側の内面に、遊星歯車機構2が設けられている。
遊星歯車機構2は、回転軸52と一体成型されたサンギヤ13と、サンギヤ13に噛合され、サンギヤ13を中心に公転する複数のプラネタリギヤ14と、これらプラネタリギヤ14の外周側に設けられた環状の内歯リングギヤ15とにより構成されている。
【0039】
複数のプラネタリギヤ14は、キャリアプレート16により連結されている。キャリアプレート16には、各プラネタリギヤ14に対応する位置に複数の支持シャフト16aが立設されており、ここにプラネタリギヤ14が回転自在に支持されている。また、キャリアプレート16の径方向中央には、出力軸4がセレーション係合により噛合っている。
【0040】
内歯リングギヤ15は、トッププレート12のアーマチュアコア58側の内周面に一体成形されている。トッププレート12の内周面における径方向中央には、滑り軸受12aが設けられている。滑り軸受12aは、回転軸52と同軸上に配置されている出力軸4の他方側端(
図1における右側端)を回転自在に支持している。
【0041】
また、トッププレート12には、出力軸4とクラッチ機構5とピニオン機構70と電磁装置9等が内装され、不図示のエンジンにスタータ1を固定するためのアルミニウム製のハウジング17が装着されている。ハウジング17は、一方側(
図1における左側)に底部17cを有し、他方側(
図1における右側)に開口部17aを有する有底筒状にダイカスト鋳造にて形成されている。
【0042】
ハウジング17の開口部17a側には、トッププレート12が開口部17aを閉塞するように接合されている。
ハウジング17の開口部17a側の外周面には、軸方向に沿うように雌ネジ部17bが刻設されている。また、モータヨーク53の他方側(
図1における右端側)に配置されたエンドプレート55には、雌ネジ部17bに対応する位置にボルト孔55aが形成されている。このボルト孔55aにボルト95を挿入し、雌ネジ部17bにボルト95を螺入することによって、モータ部3とハウジング17とが一体化される。
【0043】
ハウジング17の内壁には、後述するクラッチアウタ18のモータ部3側への変位を規制するリング状のストッパ94が設けられている。このストッパ94は、樹脂やゴム等により形成され、クラッチアウタ18が当接した際の衝撃を緩和できるようになっている。
【0044】
ハウジング17の底部17cには、出力軸4と同軸に、有底の軸受孔47が形成されている。軸受孔47は、内径が出力軸4の外径よりも大きく形成されている。軸受孔47には、出力軸4の一方側端(
図1における左側端)を回転自在に支持するための滑り軸受17dが圧入固定されている。この、滑り軸受17dには所望の基油からなる潤滑油が含浸されており、出力軸4を円滑に摺接させることができるようになっている。
また、軸受孔47の底部には、ハウジング17の底部17cと出力軸4の一方側端面4cとの間に、荷重受部材50が配置されている。
【0045】
荷重受部材50は、平板状の金属部材であり、例えばプレスにより形成されたリング状のワッシャが採用される。荷重受部材50は、硬度が出力軸4よりも高く耐摩耗性に優れた材料により形成されている。荷重受部材50の材料としては、例えばSK85等の炭素工具鋼が好適である。
荷重受部材50を配置することにより、一方側(
図1における左側)に向かって出力軸4にスラスト荷重が発生したときでも、ハウジング17に設けた荷重受部材50で出力軸4の移動を規制しつつ、出力軸4のスラスト荷重を受けることができる。また、出力軸4の回転時には、出力軸4の一方側端面4cと荷重受部材50とが摺接するので、出力軸4の一方側端面4cとハウジング17とが直接摺接するのを防止できる。したがって、ハウジング17の耐久性を向上できる。
なお、荷重受部材50の周囲には、出力軸4の一方側端面4cとの摺接時の摩擦を軽減するためのグリスが塗布されるが、このグリスに、滑り軸受17dに含浸される潤滑油と同種の基油を含むものが採用されているため、滑り軸受17dの潤滑油を長期間保持できるようになっている。
【0046】
出力軸4の他方側端(
図1における右側端)には、回転軸52の一方側端(
図1における左側端)を挿入可能な凹部4aが形成されている。凹部4aの内周面には、滑り軸受4bが圧入されており、出力軸4と回転軸52とが相対回転可能に連結されるようになっている。
【0047】
(クラッチ機構)
出力軸4の軸方向略中央には、ヘリカルスプライン19が形成されている。ヘリカルスプライン19には、クラッチ機構5がヘリカル噛合されている。
クラッチ機構5は、略円筒状のクラッチアウタ18と、このクラッチアウタ18と同軸に形成されたクラッチインナ22とを有している。このクラッチ機構5には、クラッチアウタ18側からの回転力はクラッチインナ22に動力を伝達するが、クラッチインナ22側からの回転力はクラッチアウタ18に伝達しない、所謂公知のワンウェイクラッチ機能が設けられており、これにより、エンジン始動時に、クラッチアウタ18よりもクラッチインナ22の方が速くなるオーバーラン状態になった際には、エンジンのリングギヤ23側からの回転力を遮断するよう構成されている。また、クラッチアウタ18とクラッチインナ22との間に生じるトルク差、および回転速度差が所定値以内の場合、互いに回転力を伝達する一方、トルク差および回転速度差が所定値を越えた場合、回転力の伝達が遮断される所謂トルクリミッタ機能も備えている。
【0048】
クラッチアウタ18の他方側(
図1における右側)には、縮径されたスリーブ18aが一体形成されており、この内周面に、出力軸4のヘリカルスプライン19に噛合するヘリカルスプライン18bが形成されている。これにより、クラッチ機構5は、出力軸4に対して軸方向にスライド移動可能に設けられる。なお、出力軸4のヘリカルスプライン19およびクラッチアウタ18のヘリカルスプライン18bの傾斜角度は、軸方向に対して例えば16°程度に設定されている。
また、クラッチアウタ18の内周面におけるスリーブ18aの一方側には、段部18cが形成されている。段部18cの内周面は、スリーブ18aの内周面よりも大径に形成されており、段部18cの内周面と出力軸4の外周面との間には空間が形成される。この空間には、後述するリターンスプリング21が配置されている。
【0049】
出力軸4のヘリカルスプライン19よりも一方側(
図1における左側)には、移動規制部20が設けられている。
移動規制部20は、出力軸4に外嵌された略リング状の部材であり、サークリップ20aによって軸方向一方側への移動が規制された状態に設けられるとともに、クラッチアウタ18に形成された段部18cと干渉可能なように、段部18cの内周面よりも大径に形成されている。後述するようにクラッチ機構5が一方側にスライド移動したときには、クラッチアウタ18の段部18cと移動規制部20とが干渉する。これにより、クラッチ機構5の一方側へのスライド移動量が規制される。
移動規制部20とクラッチアウタ18のスリーブ18aとの間であって、段部18cの内周面と出力軸4の外周面との間には、出力軸4を取り囲むように形成されたリターンスプリング21が圧縮変形した状態で設けられている。これにより、クラッチアウタ18は、常時モータ部3側へ向かって押し戻されるように付勢された状態になる。
このように形成されたクラッチ機構5には、クラッチインナ22の先端に、ピニオン機構70が一体的に設けられている。
【0050】
(ピニオン機構)
ピニオン機構70は、クラッチインナ22の先端に一体成形された筒状のピニオンインナ71を有している。ピニオンインナ71の内周面には、軸方向両側にそれぞれ出力軸4にピニオンインナ71を摺動可能に支持するための2つの滑り軸受72,72が設けられている。
【0051】
一方、ピニオンインナ71の外周面には、クラッチ機構5とは反対側である先端側に、スプライン73が形成されている。このスプライン73には、エンジン(不図示)のリングギヤ23に噛合可能なピニオンギヤ74がスプライン嵌合されている。すなわち、ピニオンインナ71の先端側に、スプライン73が形成されている一方、ピニオンギヤ74の内周面の先端側に、スプライン73に噛合うスプライン74aが形成されている。これにより、ピニオンインナ71とピニオンギヤ74とは、互いに相対回転不能かつ軸方向にスライド移動可能に設けられた状態になる。
ここで、リングギヤ23およびピニオンギヤ74は、はすば歯車(ヘリカルギヤ)で構成されており、リングギヤ23とピニオンギヤ74との歯のねじれ方向は、ピニオンギヤ74がリングギヤ23を駆動する状態でピニオンギヤ74に飛び込み方向のスラスト荷重が作用するように設定されている。
【0052】
また、ピニオンギヤ74の内周面には、スプライン74aの後端側に、段差部74cを介して拡径された拡径部75が形成されており、ピニオンインナ71とピニオンギヤ74との間に収納部76が形成されるようになっている。
収納部76のクラッチ機構5側に形成されている開口部は、クラッチインナ22の基端側に設けられた段差部71aによって閉塞された状態になっている。すなわち、ピニオンギヤ74は、ピニオンインナ71によって軸方向に摺動可能に支持された状態になっている。これにより、ピニオンギヤ74は、ピニオンインナ71に対して大きくがたつくことなく軸方向にスライド移動する。
【0053】
収納部76には、ピニオンインナ71の外周面を取り囲むように形成されたピニオンスプリング11が収納されている。ピニオンスプリング11は、収納部76に収納された状態で、ピニオンギヤ74の拡径部75の段差部74cと、ピニオンインナ71の段差部71aとにより圧縮変形されている。これによりピニオンギヤ74は、ピニオンインナ71に対してリングギヤ23側に向かって付勢された状態になる。
ピニオンスプリング11は、後述するように、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが当接したときに軸方向に弾性変形することで衝撃を吸収する、ダンパ機構として機能している。これにより、ピニオンギヤ74およびリングギヤ23の摩耗を抑制し、スタータ1の耐久性向上を図っている。
また、ピニオンインナ71の一方側(
図1における左側)の外周面には、止め輪77が設けられている。これにより、ピニオンインナ71に対して出力軸4の一方側にピニオンギヤ74が抜けるのを規制している。
【0054】
(電磁装置)
ハウジング17の内周面には、クラッチ機構5よりもモータ部3側に、電磁装置9を構成するヨーク25が内嵌固定されている。ヨーク25は磁性材からなる有底筒状に形成されており、底部25aの径方向中央の大部分が大きく開口されている。また、ヨーク25の底部25aとは反対側端には、磁性材からなる円環状のプランジャホルダ26が設けられている。
これらヨーク25、およびプランジャホルダ26によって径方向内側に形成される収納凹部25bに、略円筒状に形成された励磁コイル24が収納されている。励磁コイル24は、コネクタを介してイグニションスイッチ(いずれも不図示)に電気的に接続されている。
【0055】
励磁コイル24の内周面と出力軸4の外周面との間の空隙には、プランジャ機構37が励磁コイル24に対して軸方向にスライド移動可能に設けられている。
プランジャ機構37は、磁性材で形成された略円筒状のスイッチプランジャ27と、このスイッチプランジャ27と出力軸4の外周面との間の空隙に配置されたギヤプランジャ80とを有している。これらスイッチプランジャ27とギヤプランジャ80とは、互いに同心円上に設けられ、軸方向に相対移動可能に設けられている。また、プランジャホルダ26とスイッチプランジャ27との間には、両者を離反方向に付勢する板ばね材からなるスイッチリターンスプリング27aが配設されている。
【0056】
スイッチプランジャ27のモータ部3側端には、外フランジ部29が一体成形されている。この外フランジ部29の外周部側には、スイッチシャフト30がホルダ部材30aを介して軸方向に沿って立設されている。このスイッチシャフト30は、モータ部3のトッププレート12および後述するブラシホルダ33を貫通している。スイッチシャフト30のトッププレート12から突出した端部には、ブラシ付直流モータ51のコンミテータ61に隣接配置された、スイッチユニット7の可動接点板8が連結されている。
【0057】
可動接点板8は、スイッチシャフト30に対して軸方向に沿ってスライド移動可能に取り付けられていると共に、スイッチスプリング32によって浮動的に支持されている。そして、可動接点板8は、後述のブラシホルダ33に固定されている、スイッチユニット7の固定接点板34に対して接近離反可能になっている。
【0058】
固定接点板34は、スイッチシャフト30を挟んでコンミテータ61側である径方向内側に配置された第一固定接点板34aと、コンミテータ61とは反対側である径方向外側に配置された第二固定接点板34bとに分割構成されている。これら第一固定接点板34a、および第二固定接点板34bに、可動接点板8が跨るように当接するようになっている。可動接点板8が第一固定接点板34aおよび第二固定接点板34bに当接することにより、第一固定接点板34aおよび第二固定接点板34bが電気的に接続される。
【0059】
また、スイッチプランジャ27の内周面には、後述するギヤプランジャ80と当接および離反するリング部材28が一体的に設けられている。リング部材28は、スイッチプランジャ27がリングギヤ23側へ向かって移動する際、初期的にギヤプランジャ80をリングギヤ23側に向かって押圧するためのものである。
【0060】
ここで、クラッチ機構5のクラッチアウタ18は、リターンスプリング21によりプランジャインナ81へ向かって付勢されている。したがって、スタータ1の静止状態(
図1における中心線より上側)において、クラッチ機構5は、ギヤプランジャ80およびリング部材28を介して、スイッチプランジャ27を他方側(
図1における右側)に押圧している。これにより、可動接点板8は他方側に押圧されて、固定接点板34と離反した状態となっている。
【0061】
(ギヤプランジャ)
スイッチプランジャ27の径方向内側に配置されたギヤプランジャ80は、径方向内側に配置されたプランジャインナ81と、径方向外側に配置されたプランジャアウタ85と、プランジャインナ81とプランジャアウタ85との間に配置されるプランジャスプリング91と、を備えている。
【0062】
(プランジャインナ)
図2は、プランジャインナ81およびプランジャスプリング91の外観斜視図である。
図3は、中心軸に沿ったギヤプランジャ80の断面図である。なお、
図3では、出力軸4を二点鎖線で表しており、ギヤプランジャ80および出力軸4以外の部品の図示を省略している。
図2に示すように、プランジャインナ81は、樹脂等により略円筒形状に形成されている。
図3に示すように、プランジャインナ81の本体部81cの内径は、出力軸4に外挿可能なように、出力軸4の外周面4dの直径よりも若干大きく形成されている。これにより、プランジャインナ81は、出力軸4に対して軸方向にスライド移動可能に設けられる。
【0063】
プランジャインナ81の一方側端81a(
図3における左側端)は、径方向外側に張り出した外フランジ部82が一体的に形成されている。後述するようにプランジャインナ81が一方側にスライド移動したとき、プランジャインナ81の一方側端81aがクラッチアウタ18の他方側端(
図1参照)と当接し、クラッチ機構5およびピニオン機構70(いずれも
図1参照)を一方側にスライド移動させている。すなわち、プランジャインナ81の一方側端81aが電磁装置9(
図1参照)の作用点となっている。
【0064】
プランジャインナ81の他方側端81b(
図3における右側端)には、他方側から一方側(
図3における右側から左側)に向かって漸次外径が大きくなる爪部83が周方向に複数個所設けられている。爪部83は、径方向内側に可撓性を有しており、後述するプランジャアウタ85の内フランジ部86を他方側から一方側に向かって挿入することで、爪部83と後述するプランジャアウタ85の内フランジ部86とがスナップフィットにより係合可能となっている。
【0065】
爪部83の内周面83aの直径は、出力軸4の外周面4dの直径よりも若干大きく形成されており、本体部81cとともに出力軸4に外挿可能となっている。具体的には、爪部83の内周面83aと出力軸4の外周面4dとの隙間は、爪部83の高さよりも狭くなるように設定されている。
また、爪部83の一方側(
図1における左側)には、周方向に沿って溝部84が形成されている。溝部84内には、プランジャアウタ85の内フランジ部86が配置される。
【0066】
(プランジャアウタ)
プランジャアウタ85は、プランジャインナ81と同様に樹脂等により略円筒形状に形成されている。プランジャアウタ85の内径は、プランジャインナ81の外フランジ部82の外径よりも若干大きく形成されており、プランジャインナ81に外挿されている。
プランジャアウタ85の他方側端85a(
図3における右側端)には、径方向内側に張り出した内フランジ部86が一体的に形成されている。内フランジ部86の内径は、プランジャインナ81の爪部83の外径よりも小さく、かつプランジャインナ81の溝部84の底部の外径よりも大きくなるように形成されている。そして、プランジャインナ81の溝部84内にプランジャアウタ85の内フランジ部86を配置することで、プランジャインナ81とプランジャアウタ85とが一体化され、プランジャ機構37が構成される。
【0067】
ここで、プランジャアウタ85の内フランジ部86の厚さは、プランジャインナ81の溝部84の幅よりも薄く形成されている。これにより、プランジャアウタ85の内フランジ部86とプランジャインナ81の溝部84との間には、クリアランスCが設けられる。したがって、プランジャインナ81とプランジャアウタ85とは、プランジャアウタ85の内フランジ部86とプランジャインナ81の溝部84とのクリアランスC分だけ、軸方向に相対的にスライド移動可能となっている。したがって、このギヤプランジャ80は、プランジャインナ81の外フランジ部82の外側の端面(図中左側の端面)とプランジャアウタ85の外側の端面(図中右側)との間の作用点間の距離は、その最大伸張寸法をLとすると、最小収縮寸法はL−Cとなるよう設定されている。
【0068】
また、前述のとおり、プランジャインナ81の爪部83の内周面83aの直径は、出力軸4の外周面4dの直径よりも若干大きく形成されており、爪部83の内周面83aと出力軸4の外周面4dとの隙間が、爪部83の高さよりも狭くなるように設定されている。このため、プランジャインナ81の爪部83とプランジャアウタ85の内フランジ部86とをスナップフィットにより係合した後、プランジャインナ81を出力軸4に外挿することで、爪部83がその高さよりも大きく径方向内側へ変位するのを、出力軸4の外周面4dで規制できる。これにより、プランジャインナ81とプランジャアウタ85とのスナップフィットによる係合が外れるのを確実に防止している。
【0069】
プランジャアウタ85の他方側端85a(
図3における右側端)には、径方向外側に張り出した外フランジ部87が一体的に形成されている。外フランジ部87は、スイッチプランジャ27のリング部材28と当接する当接部として機能している。
また、外フランジ部87の一方側(
図3における左側)であって、プランジャアウタ85の外周面には、リング状の鉄心88が設けられている。鉄心88は、例えば樹脂モールドにより、プランジャアウタ85と一体成型されている。鉄心88は、後述するように励磁コイル24に電流が供給されたときに発生する磁束により吸引される。
【0070】
(プランジャスプリング)
プランジャインナ81の外フランジ部82と、プランジャアウタ85の内フランジ部86との間には、スプリング収納部90が形成されている。スプリング収納部90には、プランジャインナ81の本体部81cに外挿され、本体部81cの外周面を取り囲むように形成されたプランジャスプリング91が収納されている。
プランジャスプリング91は、スプリング収納部90に収納された状態で、プランジャインナ81の外フランジ部82と、プランジャアウタ85の内フランジ部86とにより圧縮変形させられている。そして、プランジャインナ81は一方側(
図3における左側)に向かって、プランジャアウタ85は他方側(
図3における右側)に向かって、互いに付勢された状態となっている。
【0071】
これにより、
図1に示すように、スタータ1の静止状態(
図1における中心線より上側の状態)では、ガタ吸収機構を構成するプランジャスプリング91により、プランジャインナ81は一方側(
図1における左側)に向かって、プランジャアウタ85は他方側(
図1における右側)に向かって、互いに付勢されており、プランジャインナ81の一方側端81aとクラッチアウタ18の他方側端とは接しておらず、これにより、クラッチアウタ18はリターンスプリング21のばね荷重によって、ストッパ94に押し付けられた状態となっている。これにより、スタータ1の静止状態では、プランジャスプリング91のばね荷重によって、クラッチ機構5を押出さない、つまり、ピニオン機構70を不用意に押出さないように設定されている。
また、スタータ1の通電状態(
図1における中心線より上側の状態)では、ギヤプランジャ80が一方側(
図1における左側)に最大変位したとき、プランジャインナ81の一方側端81aがクラッチ機構5のクラッチアウタ18の他方側端と常に当接した状態となっている。
すなわち、プランジャスプリング91は、クラッチ機構5とギヤプランジャ80との間における軸方向の空隙の発生を防止し、クラッチ機構5のガタつきを吸収するガタ吸収機構を構成している。
【0072】
ここで、プランジャスプリング91のばね荷重をαとし、電磁装置9の吸引力をβとすると、プランジャスプリング91のばね荷重αおよび電磁装置9の吸引力βは、
α<β・・・(1)
を満足するように設定されている。
(1)式を満たすようにプランジャスプリング91のばね荷重αおよび電磁装置9の吸引力βを設定することで、ガタ吸収機構を構成するプランジャスプリング91のばね荷重αに抗して、電磁装置9のギヤプランジャ80が吸引される。これにより、電磁装置9の作用点であるプランジャインナ81の一方側端81aは、ギヤプランジャ80のスライド移動時においても、クラッチアウタ18の他方側端に常に弾性的に当接している。
【0073】
さらに、ギヤプランジャ80が吸引されて一方側(
図1における左側)に最大変位したときにおいても、プランジャインナ81の一方側端81aは、クラッチアウタ18の他方側端に常に弾性的に当接している。そして、エンジン始動時にクラッチ機構5がヘリカルスプライン19によって軸方向に荷重を受けても、ギヤプランジャ80の吸引状態が解除されることなく、また、プランジャスプリング91のばね荷重により変位を抑制できる。したがって、プランジャスプリング91により、クラッチ機構5の軸方向の変位が抑制される。
(1)式を満足するようにプランジャスプリング91のばね荷重αおよび電磁装置9の吸引力βを設定することで、電磁装置9の吸引性能を維持しつつ、クラッチ機構5が軸方向にガタつくのを抑制できる。
【0074】
また、
図2に示すように、プランジャスプリング91をプランジャインナ81の本体部81cに同軸に外挿したとき、プランジャスプリング91のクラッチ機構5側(
図2における左側、
図1参照)に向かう巻回方向が、ピニオン機構70の回転方向Rと同一になるように設定されている。
このようにプランジャスプリング91を配置することで、クラッチ機構5側に配置されるプランジャスプリング91の端面91aの向く方向が、クラッチ機構5(
図1参照)の回転方向Rと同方向となるように配置される。また、プランジャスプリング91の上記とは反対側の端面91bの向く方向は上記の回転方向Rとは逆向きとなる。
そして、プランジャスプリング91の端面91aの向く方向がクラッチ機構5の回転方向Rと同方向となることで、クラッチ機構5およびこれに摺接するプランジャインナ81がピニオン機構70とともに回転しても、プランジャスプリング91の端面91a周縁がプランジャインナ81の外フランジ部82に引っ掛かるのを抑制できる。したがって、プランジャスプリング91の端面91a周縁によりプランジャインナ81の外フランジ部82の内面側が摩耗するのを防止できる。
また、プランジャスプリング91の上記とは反対側の端面91bの向く方向は上記の回転方向Rとは逆向きとなることで、プランジャスプリング91がプランジャインナ81に引き摺られて共周りした場合であっても、プランジャスプリング91の端面91b周縁がプランジャアウタ85の内フランジ部86に引っ掛かるのを抑制できる。したがって、プランジャスプリング91の端面91b周縁によりプランジャアウタ85の内フランジ部86の内面側が摩耗するのを防止できる。
【0075】
図1に示すように、電磁装置9および遊星歯車機構2よりも他方側(
図1における右側)には、ブラシホルダ33が設けられている。ここで、第二固定接点板34bの外周側には、軸方向に折曲して一体形成された切起し部34cが設けられ、この切起し部34cの挿通孔を介して軸端子44aがブラシホルダ33の外壁33aを貫通してスタータ1の径方向外側に突出するよう設けられている。さらに、軸端子44aの突出側の先端には、バッテリの陽極が電気的に接続されるターミナルボルト44が取付けられている。なお、このブラシホルダ33には、固定接点板34、スイッチシャフト30周りを保護するカバー45が装着されている。ブラシホルダ33およびカバー45は、モータヨーク53およびハウジング17に挟持された状態で固定されている。ブラシホルダ33には、コンミテータ61の周囲に4個のブラシ41が、径方向に沿って進退可能に配置されている。
各ブラシ41の基端側には、ブラシスプリング42が設けられている。このブラシスプリング42によって、各ブラシ41がコンミテータ61側に向かって付勢され、各ブラシ41の先端がコンミテータ61のセグメント62に摺接するようになっている。
【0076】
4個のブラシ41は、2個の陽極側ブラシと2個の陰極側ブラシとで構成され、このうち2個の陽極側ブラシが不図示のピグテールを介して固定接点板34の第一固定接点板34aに接続されている。一方、固定接点板34の第二固定接点板34bには、ターミナルボルト44を介して不図示のバッテリの陽極が電気的に接続される。
【0077】
すなわち、固定接点板34に可動接点板8が当接した際、ターミナルボルト44、固定接点板34、ピグテール(不図示)を介して4個のブラシ41のうちの2個の陽極側ブラシに電圧が印加され、コイル59に電流が供給されるようになっている。
【0078】
また、4個のブラシ41のうち、2個の陰極側ブラシは、不図示のピグテールを介してリング状のセンタープレートに接続されている。そして、このセンタープレート、ハウジング17、および不図示の車体を介して、バッテリの陰極に4個のブラシ41のうちの2個の陰極側ブラシが電気的に接続されるようになっている。
【0079】
(スタータの動作)
続いて、図面を用いてスタータ1の動作について説明をする。
図1における中心線の上側の状態に示すように、励磁コイル24に電流を供給する前のスタータ1の静止状態にあっては、リターンスプリング21に付勢されたクラッチアウタ18が、ピニオンギヤ74と一体化されているクラッチインナ22を引っ張った状態でモータ部3側(
図1における右側)へ一杯に付勢されている。そして、クラッチ機構5のクラッチアウタ18がストッパ94に当接した位置で停止しており、ピニオンギヤ74とリングギヤ23との結合が断たれている。
【0080】
スタータ1の静止状態では、ガタ吸収機構を構成するプランジャスプリング91により、プランジャインナ81は一方側(
図1における左側)に向かって、プランジャアウタ85は他方側(
図1における右側)に向かって、互いに付勢されており、ギヤプランジャ80作用点間の距離は最大伸張寸法Lの状態となっている。このとき、プランジャインナ81の一方側端81aとクラッチアウタ18の他方側端とは僅かにクリアランスをもった状態とされ、これにより、クラッチアウタ18はリターンスプリング21のばね荷重によって、ストッパ94に押し付けられた状態となっている。これにより、スタータ1の静止状態では、プランジャスプリング91のばね荷重によって、クラッチ機構5を押圧しない、つまり、不用意にピニオン機構70をリングギヤ23側に押出さないように設定されている。
【0081】
また、スイッチプランジャ27は、スイッチリターンスプリング27aにより押し戻され、モータ部3側(
図1における右側)へ一杯に移動している。そして、スイッチプランジャ27の外フランジ部29がトッププレート12に当接した状態で停止している。さらに、外フランジ部29に立設されているスイッチシャフト30の可動接点板8は、固定接点板34に対して離間しており、電気的に切断されている。
【0082】
図4は、スイッチプランジャ27の移動直後の説明図であり、
図4(a)は、スタータ1の動作説明図であり、
図4(b)は、ピニオンギヤ74の動作説明図である。なお、
図4(b)は、ピニオンギヤ74およびリングギヤ23を径方向から見たときの模式図となっている。
この状態から車両のイグニションスイッチ(不図示)をオンすると、励磁コイル24に電流が供給されて励磁され、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80を磁束が通る磁路が形成される。これにより、
図4(a)に示すように、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80がリングギヤ23側(
図4における左側)へ向かってスライド移動する。
【0083】
図1に示すように、スタータ1の静止状態において、スイッチプランジャ27とプランジャホルダ26とのギャップ(軸方向クリアランス)は、ギヤプランジャ80の鉄心88とプランジャホルダ26とのギャップ(軸方向クリアランス)よりも小さく設定されている。このため、スイッチプランジャ27に発生する吸引力は、ギヤプランジャ80に発生する吸引力よりも大きいので、ギヤプランジャ80に先行してスイッチプランジャ27がスライド移動しようとする。
このとき、スイッチプランジャ27の内周面にリング部材28が一体的に設けられていることから、このリング部材28がギヤプランジャ80を押圧し、初期的にギヤプランジャ80をリングギヤ23側に向かって押圧することで、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80が一体となってリングギヤ23側へ向かってスライド移動する。
【0084】
また、クラッチアウタ18は、出力軸4にヘリカルスプライン嵌合されており、スリーブ18aがギヤプランジャ80のプランジャインナ81と当接している。ここで、出力軸4のヘリカルスプライン19およびクラッチアウタ18のヘリカルスプライン18bの傾斜角度は、軸方向に対して例えば16°程度に設定されている。したがって、
図4(a)に示すように、クラッチアウタ18は、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80がリングギヤ23側へスライド移動すると、出力軸4に対して、ヘリカルスプライン18bの傾斜角度分、若干相対回転しながら押出される。さらに、ピニオン機構70も、クラッチ機構5を介してギヤプランジャ80のスライド移動に連動し、リングギヤ23側へ押出される。
【0085】
ここで、前述のとおり、プランジャスプリング91のばね荷重αおよび電磁装置9の吸引力βは、(1)式を満足するように設定されている。
したがって、ギヤプランジャ80は、プランジャスプリング91のばね荷重αに抗して吸引され、一方側(
図4(b)における左側)にスライド移動する。これにより、電磁装置9の作用点であるプランジャインナ81の一方側端81aは、ギヤプランジャ80のスライド移動時において、クラッチアウタ18の他方側端に弾性的に常に当接した状態となっている。
【0086】
このとき、ピニオンギヤ74は、
図4(b)に示すように、リングギヤ23側に所定距離移動する。そして、ピニオンギヤ74の一方側(
図4(b)における左側)端面74bとリングギヤ23の他方側(
図4(b)における右側)端面23aとが当接するか、または両者間の軸方向寸法距離がゼロの状態となっている。
【0087】
図5は、可動接点板8と固定接点板34とが当接したときの説明図であり、
図5(a)は、スタータ1の動作説明図であり、
図5(b)は、ピニオンギヤ74の動作説明図である。
さらにスイッチプランジャ27が吸引されてリングギヤ23側へ向かってスライド移動すると、
図5(a)に示すように、可動接点板8が固定接点板34に接触する。可動接点板8は、スイッチシャフト30に対して軸方向変位可能に浮動支持されているので、スイッチスプリング32の押圧力が可動接点板8および固定接点板34に加わることになる。
【0088】
このとき、ピニオンギヤ74の一方側端面74bとリングギヤ23の他方側端面23aとは、互いに当接するか、または両者間の軸方向寸法距離がゼロの状態となっている(
図4(b)参照)。このため、ピニオンギヤ74の一方側端面74bとリングギヤ23の他方側端面23aとが互いに当接していた場合には、ピニオン機構70がスイッチプランジャ27によってさらに押出されると、ピニオンスプリング11が縮む。これにより、ピニオンギヤ74の一方側端面74bは、リングギヤ23の他方側端面23aに向かって付勢される。すなわち、ピニオンスプリング11は、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが当接したときの衝撃を吸収するダンパ機構を構成している。これにより、ピニオンギヤ74の一方側端面74bとリングギヤ23の他方側端面23aとが互いに当接していた状態であっても、スイッチプランジャ27を所定の位置にまで押出すことができるとともに、ピニオンギヤ74の一方側端面74bおよびリングギヤ23の他方側端面23aの摩耗を抑制でき、スタータ1の耐久性向上を図ることができる。
【0089】
ここで、上述のように衝撃の吸収をピニオンスプリング11で行い、クラッチ機構5のガタつきの防止をプランジャスプリング91で行うことにより、ピニオンスプリング11およびプランジャスプリング91の機能が分離されている。したがって、ピニオンスプリング11およびプランジャスプリング91のそれぞれの弾性係数を最適に設定可能となっている。
【0090】
続いて、
図5(a)に示すように、固定接点板34に可動接点板8が接触すると、4個のブラシ41のうちの2個の陽極側ブラシにバッテリ(不図示)の電圧が印加され、コンミテータ61のセグメント62を介してコイル59が通電される。
すると、アーマチュアコア58に磁界が発生し、この磁界とモータヨーク53に設けられている永久磁石57との間で磁気的な吸引力や反発力が生じる。これにより、アーマチュア54が回転し始める。そして、このアーマチュア54の回転軸52の回転力が遊星歯車機構2を介して出力軸4に伝達され、出力軸4が回転し始める。
【0091】
出力軸4が回転し始めると、ピニオンギヤ74の一方側端面74bとリングギヤ23の他方側端面23aとが当接していた場合にはその当接状態(
図4(b)参照)が解除される。そして、
図5(b)に示すように、ピニオンスプリング11の付勢力により、ピニオンギヤ74がリングギヤ23側に押出され、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが噛合し始める。
【0092】
図6は、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが噛合したときの説明図であり、
図6(a)は、スタータ1の動作説明図であり、
図6(b)は、ピニオンギヤ74の動作説明図である。
出力軸4の回転速度が上昇すると、出力軸4のヘリカルスプライン19に噛合されたクラッチアウタ18に慣性力が作用する。このとき、前述のように、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とがヘリカル噛合していることから、ピニオンギヤ74にリングギヤ23方向(飛び込み方向)へのスラスト力が発生するため、このスラスト力によってピニオンギヤ74はヘリカルスプライン19に沿うように、リターンスプリング21の付勢力に抗してリングギヤ23側(
図6における左側)へ向かって移動する。また、そして、
図6(a)に示すように、クラッチアウタ18も、慣性力によってヘリカルスプライン19に沿うように、リターンスプリング21の付勢力に抗してリングギヤ23側(
図6における左側)へ向かって押し出される。
【0093】
このとき、ギヤプランジャ80には、リングギヤ23側へ向かう吸引力が作用している。したがって、ギヤプランジャ80は、クラッチアウタ18のスライド移動に連動するように、クラッチアウタ18を押圧しつつリングギヤ23側へ向かってスライド移動する。
これにより、
図6(b)に示すように、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが所定の噛み合い位置で噛合する。
【0094】
ところで、エンジン始動時におけるクランキングの際には、リングギヤ23の回転速度に変動が生じやすい。
特に、アイドルストップ機能を備えた車両においては、エンジンの停止/始動が頻繁に行われ、一般のスタータよりも使用頻度が高まるため、このリングギヤ23の回転速度の変動が頻繁に発生することになる。
ここで、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とはヘリカル噛合しているため、ピニオンギヤ74とリングギヤ23との間に回転速度差が発生したときには、ピニオンギヤ74にかかるスラスト荷重の向きが変化し、ピニオンギヤ74は軸方向に沿って変位する。具体的には、リングギヤ23の回転速度がピニオンギヤ74の回転速度よりも低いときには、ピニオンギヤ74にはリングギヤ23側に向かってスラスト荷重がかかり、ピニオンギヤ74はリングギヤ23側に変位する。ピニオンギヤ74に発生したスラスト荷重は、ピニオンギヤ74の一方側に設けられた止め輪77に伝達された後、ピニオンインナ71、クラッチインナ22、クラッチアウタ18および移動規制部20、サークリップ20aを介して、出力軸4に伝達される。このため、出力軸4には一方側(
図6における左側)に向かってスラスト荷重が発生し、一方側に向かってスライド移動する。また、リングギヤ23の回転速度がピニオンギヤ74の回転速度よりも高いときには、ピニオンギヤ74にはリングギヤ23側とは反対側に向かってスラスト荷重がかかり、ピニオンギヤ74はリングギヤ23とは反対側に変位する。
この状態から、先のリングギヤ23の回転速度がピニオンギヤ74の回転速度よりも低い状態となって、アーマチュア54の回転力でピニオンギヤ74を回転させる状態となった際、ギヤプランジャ80とクラッチ機構5の間にガタがあると、このガタ分だけクラッチ機構5が軸方向に変位することになり、僅かではあるが、その分、アーマチュア54の回転力をピニオンギヤ74に伝達するのが遅れることになる。さらに、クラッチ機構5がこのガタ分だけ動く間は、アーマチュア54の回転にかかる負荷も小さくなるため、アーマチュア54の回転は加速状態となるが、ガタが詰まると、アーマチュア54の回転に負荷が加わって加速状態から定速状態に移ることになる。この状態の変化によって、アーマチュア54の回転にムラが生じることがあり、この回転ムラによって遊星歯車機構2の歯車同志の噛合い音が発生するおそれがある。
【0095】
しかし、ギヤプランジャ80は、ガタ吸収機構を構成するプランジャスプリング91を備えている。したがって、エンジン始動時にクラッチ機構5が軸方向に変位しても、プランジャインナ81の一方側端81aがクラッチアウタ18の他方側端(
図1参照)と当接した状態でプランジャスプリング91が弾性変形するので、クラッチ機構5が軸方向にガタつくのを抑制できる。
【0096】
エンジンが始動し、ピニオンギヤ74の回転速度が出力軸4の回転速度を上回ると、クラッチ機構5のワンウェイクラッチ機能が作用してピニオンギヤ74が空転する。また、エンジンが始動に伴って励磁コイル24への通電を停止すると、クラッチアウタ18に対するリターンスプリング21の付勢力により、ピニオンギヤ74がリングギヤ23から離脱すると共に、可動接点板8が固定接点板34から離間してブラシ付直流モータ51が停止する。
【0097】
(効果)
本実施形態によれば、電磁装置9の作用点であるプランジャインナ81の一方側端81aとクラッチ機構5とを常に弾性的に当接させるガタ吸収機構を設けたので、プランジャインナ81の一方側端81aとクラッチ機構5との間に空隙が発生するのを防止できる。これにより、エンジン始動時に、リングギヤ23とピニオンギヤ74との回転速度差によりピニオンギヤ74が軸方向に沿って変位しても、クラッチ機構5が軸方向に沿ってガタつくのを抑制できる。したがって、クラッチ機構5の軸方向変位による騒音の発生を防止できる。
【0098】
また、本実施形態によれば、ピニオン機構70がピニオンスプリング11を備えているので、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが当接したときの衝撃を吸収できる。したがって、ピニオンギヤ74およびリングギヤ23の摩耗を抑制し、スタータ1の耐久性を向上できる。
また、衝撃の吸収をピニオンスプリング11で行い、ガタつきの防止をガタ吸収機構であるプランジャスプリング91で行うことで、ピニオンスプリング11およびプランジャスプリング91の機能を分離しているので、ピニオンスプリング11およびプランジャスプリング91のそれぞれの弾性係数を最適に設定できる。これにより、耐久性および静粛性に優れたスタータ1を提供できる。
【0099】
(参考実施例)
図7は、参考実施例の説明図であり、ヨークユニットの軸方向に直交する断面図である。
図7に示すように、モータヨーク53、永久磁石57およびマグネットカバー60で構成されるヨークユニットにおいて、周方向に略ピッチに配置された複数(本参考実施形態では6個)の永久磁石57の間に、制振部材65を配置してもよい。
【0100】
制振部材65は、断面略矩形状の柱状部材であり、ゴム等の弾性部材により形成されている。制振部材65の外面は、例えば蛇腹状にとなっており、隣り合う永久磁石57,57、間に軸方向に沿って挿入配置される。制振部材65は、隣り合う永久磁石57,57、モータヨーク53およびマグネットカバー60に接するように形成されている。これにより、アーマチュア54(
図1参照)が回転したとき、永久磁石57,57、モータヨーク53およびマグネットカバー60が振動しても、制振部材65の弾性変形によって振動を吸収できる。したがって、永久磁石57,57、モータヨーク53およびマグネットカバー60の振動に起因する騒音を低減できる。特に、実施形態のガタ吸収機構を備えたスタータ1に、上述の制振部材65を適用することにより、ガタ吸収機構による騒音抑制の効果をさらに顕著に発揮できる。
【0101】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0102】
実施形態では、電磁装置9を、励磁コイル24と、プランジャ機構37と、スイッチユニット7とを備えた構成とし、プランジャ機構37と出力軸4とを同軸上に配置した、いわゆる一軸式のスタータ1について説明した。
しかしながら、本発明の適用は一軸式のスタータ1に限られることはなく、ピニオン機構70を進退動作させることができる構成を含むスタータであれば、本発明を適用することが可能である。例えば、電磁装置(プランジャ機構37)と出力軸4とを異なる軸上に配置した、いわゆる二軸式のスタータや、電磁装置(プランジャ機構37)の軸と回転軸52と出力軸4とを異なる軸上に配置した、いわゆる三軸式のスタータ等、様々な形式のスタータに本発明を適用してもよい。
【0103】
実施形態では、出力軸4にヘリカルスプライン19を形成し、クラッチアウタ18にヘリカルスプライン18bを形成して、クラッチ機構5を出力軸4にヘリカルスプライン嵌合することにより、クラッチ機構5を出力軸4に対して軸方向にスライド移動可能としている場合について説明した。ここで、出力軸4のヘリカルスプライン19およびクラッチアウタ18のヘリカルスプライン18bの傾斜角度は、軸方向に対して16°程度に設定されていたが、これに限定されることはない。出力軸4のヘリカルスプライン19およびクラッチアウタ18のヘリカルスプライン18bの軸方向に対する傾斜角度は、スイッチプランジャ27およびギヤプランジャ80がリングギヤ23側へスライド移動し始めたとき、クラッチアウタ18が出力軸4に対して若干相対回転しながら押出されるように設定されていればよい。
【0104】
実施形態では、コイルバネからなるプランジャスプリング91によりガタ吸収機構を形成していた。しかし、ガタ吸収機構はコイルバネにより形成する場合に限られることはなく、例えば板バネ等を用いてガタ吸収機構を形成してもよい。
【0105】
実施形態では、ダンパ機構を有するピニオン機構70を備えたスタータ1に、ガタ吸収機構を有する電磁装置9を適用していた。しかし、ダンパ機構を有しないピニオン機構を備えたスタータ1に、ガタ吸収機構を有する電磁装置9を適用してもよい。ただし、ピニオンギヤ74とリングギヤ23とが当接したときの衝撃を吸収してピニオンギヤ74およびリングギヤ23の摩耗を抑制できる点や、ダンパ機構およびガタ吸収機構のそれぞれの弾性係数を最適に設定できる点で実施形態のスタータ1に優位性がある。
【0106】
実施形態では、クラッチ機構5側(
図1における左側)に配置されるプランジャスプリング91の端面91aを、ピニオン機構70の回転方向Rに面するように配置し、プランジャスプリング91の端面91a周縁によるプランジャインナ81の外周面の摩耗を防止していた。これに加えて、プランジャスプリング91の軸方向端を研削加工して平坦面とし、プランジャスプリング91の軸方向端とプランジャインナ81の外フランジ部82とが面接触するように形成してもよい。これにより、プランジャスプリング91の軸方向端とプランジャインナ81の外フランジ部82との接触面積が増加して面圧が低下するので、さらにプランジャインナ81の摩耗を防止できる。これにより、さらに耐久性に優れたスタータ1を提供できる。
【0107】
本実施形態では、自動車の始動用に用いられるスタータ1を例に挙げて説明をしているが、スタータ1の適用は自動車に限定されることはなく、例えば自動二輪車等に適用してもよい。
【0108】
また、本実施形態のスタータ1は、上述のように、電磁装置9にプランジャスプリング91からなるガタ吸収機構を設け、エンジン始動時におけるクラッチ機構5のガタつきを抑制する構造とした。したがって、スタータ1が適用される自動車の中でも、特にスタータ1の使用頻度の高いアイドリングストップ機能を備えた自動車に好適である。